黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題

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目次
0 不祥事発覚から略式命令までの経緯の骨子
1 黒川弘務東京高検検事長の引責辞任
2 森まさこ法務大臣の記者会見における説明
3 東京高検のルールブックの記載
4 黒川弘務東京高検検事長に関係する可能性がある懲戒処分の基準
5 検察の在り方検討会議,及び黒川弘務の略歴
6 賭博罪に関する刑法の条文
7 賭博罪に関する裁判例
8 公営賭博及びパチンコの合法性に関する国会答弁(令和2年5月27日追加)
9 取材源の秘匿
10 黒川弘務東京高検検事長の退職手当
11 東京地検特捜部の取材対応のあり方に関する内閣答弁書
12 三井環事件(平成14年4月22日逮捕)関する国会答弁及び政府見解
13 外務省機密費流用事件,及びこれに関する東京地裁平成14年3月29日判決

0 不祥事発覚から略式命令までの経緯の骨子
(1) 黒川弘務 東京高検検事長は,令和2年5月20日,緊急事態宣言下で賭け麻雀をしていたことが週刊文春によって報道されたため,同月21日に訓告処分を受け,同月22日の閣議で辞職を承認されました。
(2) 黒川弘務 元東京高検検事長は,令和2年7月10日,単純賭博罪について起訴猶予となったものの,同年12月8日付の東京第六検察審査会において「起訴相当」議決が出ました。
(3) 東京地検特捜部は,令和3年3月18日,黒川弘務 元東京高検検事長について東京簡易裁判所に略式請求をした結果,同月25日,罰金20万円の略式命令が出ました。


1 黒川弘務東京高検検事長の引責辞任
(1)ア 黒川弘務東京高検検事長は,令和2年1月31日付の閣議決定により,国家公務員法81条の3第1項に基づき同年8月7日まで勤務を延長することとなりましたところ,その理由は下記のとおりです。

   東京高等検察庁管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するためには,同高等検察庁検事長黒川弘務の検察官としての豊富な経験・知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠であり,同人には,当分の間,引き続き同検事長の職務を遂行させる必要がある。
イ 詳細については,「東京高検検事長の勤務延長問題」を参照してください。

(2) 黒川弘務東京高検検事長は,産経新聞の記者2人及び朝日新聞の元検察担当記者と,緊急事態宣言下の令和2年5月1日から翌日及び同月13日,産経新聞の記者の自宅マンションにおいて賭け麻雀をしていたことが同月20日の週刊文春電子版「黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”「接待賭けマージャン」」に報じられるなどした結果,同月21日に辞表を提出し,同月22日の閣議で辞職を承認されました。
(3) 令和2年5月22日発表の法務省の調査結果には以下の記載があります。
   黒川検事長が、記者A、記者B及び記者Cとともに、約3年前から、月1、2回程度、前記各事実同様のレート(山中注:いわゆる点ピン(1000点を100円換算とするもの)と呼ばれるレート)で金銭を賭けたマージャンを行っていたことや、記者が帰宅するハイヤーに同乗したことが認められるが、その具体的な日付を特定しての事実の認定には至らなかった。

2 森まさこ法務大臣の記者会見における説明
(1)ア 森まさこ法務大臣は,令和2年5月22日の記者会見において以下の説明をしています。
① 黒川検事長は,令和2年5月,自ら検察官でありながら,そして,自ら東京高検検事長として,東京高検管内の検察官を含め検察庁職員を指揮監督する立場にありながら,東京都内において,記者らとともに,金銭を賭けた麻雀を行ったものでございます。そして,その行為が行われた時期が,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために,政府による緊急事態宣言が行われ,広く国民の皆様に外出自粛が呼び掛けられた時期であり,かつ,私の下で,法務省新型コロナウイルス感染症対策基本的対処方針を定め,ゴールデンウィークに入る直前に,私から,法務・検察職員において,これらを踏まえた活動をとるように強く指示をしていた時期でございます。
 そのような中での黒川検事長の今回の行動は,甚だ不適切であり,強い遺憾の意を覚えるものでございます。一報を聞いた時は,耳を疑いました。国民の皆様に憤りや御不安を与えたこと,検察や行政に対する信頼を損ねたことに対して,法務大臣として,お詫びを申し上げるものでございます。
② これ(山中注:黒川検事長に対する訓告処分)については,法務省内,任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ましたが,最終的には任命権者である内閣において,決定がなされたということでございます。
 その際,賭け麻雀における過去の処分の例ですとか,刑法の賭博罪と人事院の規則の賭博についての定義の考え方ですとか,刑法の方は刑事処分が関連してまいりますので,人事院規則の方とは全く同じではないという説明も受けました。その中で刑法の賭博罪についても,立件される程度があるという説明もございました。様々なことを総合考慮した上で,内閣で決定したものを,私が検事総長にこういった処分が相当であるのではないかということを申し上げ,監督者である検事総長から訓告処分にするという知らせを受けたところでございます。
イ 検事長に対する訓告処分は検事総長が行うことになっています(法務省職員の訓告等に関する訓令(平成16年4月9日付の法務大臣訓令)参照)。
(2) 法務省の調査は5月21日に実施されただけと思いますが,菅義偉官房長官は,令和2年5月22日の記者会見において,黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題について再調査は不要という認識を示しました(gooニュースの「黒川氏の再調査は不要 菅官房長官、退職金「規定に基づき支給」」参照)。


3 東京高検のルールブックの記載
   品位と誇りを胸に(三訂版)(平成25年9月に東京高等検察庁非違行為等防止対策地域委員会が改訂した文書)には以下の記載があります(ただし,最新版は,品位と誇りを胸に(五訂版)(平成31年3月に東京高等検察庁非違行為等防止対策地域委員会が改訂した文書)です。)。

(1) 末尾5頁(PDF11頁)の記載(服務規律に関する記載です。)
 信用失墜行為の代表的なものは,収賄などの汚職ですが,職務との関連で整理すると次のとおりです。信用失墜行為については,刑事罰の対象となる事案が多く,そのほとんどは刑事罰に加え免職などの懲戒処分を受けることになります。
① 職務に直接関連するもの
   業務上横領,職権濫用,運転業務中の交通違反・事故,カラ出張などの不正経理等
② 職務に関連するもの
   職務遂行中の暴言,飲食物等の供応の受領,収賄,セクハラ等
③ 職務と関連しないもの
   勤務時間外の交通違反・事故,麻雀等の常習賭博,わいせつ行為等の犯罪行為等

(2) 12頁(PDF18頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
※ 以下の者については,「利害関係者に当たらない。」とされていますが,職務の公正さを疑われるような接触は厳に慎むべきであるとされています。
・ 被害者等の参考人
・ 告訴人,告発人又はその代理人
・ 人事訴訟の相手方等,検察官が公益の代表者として行動する場合の関係者及びその代理人
・ 裁判所職員
・ 警察その他の捜査機関や国税局の職員
・ マスコミ関係者

(3) 13頁(PDF19頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
エ 利害関係者から,無償で役務の提供を受けてはならない。
※ 「無償で役務の提供を受ける」とは,ハイヤーによる送迎の提供を受けることなどがこれに該当します。
(中略)
カ 利害関係者から,供応接待(酒食等のもてなし)を受けてはならない。
※ 「酒食等のもてなし」とは,酒食のほか,「ゴルフ,観劇などによるもてなし」も含まれます。
キ 利害関係者と一緒に遊技又はゴルフをしてはならない。
※ 「遊技」としては,麻雀,パチンコ,ポーカーなどが該当します。
   また,自分の費用を負担する場合でも,利害関係者と一緒にこれらの遊戯をすることはできません。

(4) 14頁(PDF120頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
 相手が利害関係者ではない場合でも,次の行為をすることは禁止されています。
◎ 供応接待を繰り返し受けるなど,社会通念上相当と認められる程度を超えるような行為
◎ つけ回し(飲食物の料金などを,その場に居合わせない者に支払わせる行為)
(中略)
 違反行為を組織的に助長したり,真相の解明を妨害する行為を防止するため,次の行為をすることは禁止されています。
(中略)
◎ 部下に,国家公務員倫理法等に違反する行為を行った疑いがある場合に,管理職の立場にある職員がこれを黙認すること。
(5) 15頁(PDF21頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
   検察庁は社会の非違をただすべき責務を担う役所であり,そこに所属する私たち職員に対する国民の目は,一般の国家公務員に対するそれよりも当然に厳しいものとなることに思いを致せば,たとえ形式的には規制に抵触しないとされる行為であっても,国民に不審を抱かせるおそれのある行為は厳に慎まなければなりません。常に「瓜田に履を納れず」「李下に冠を正さず」の心構えを持って自らの行動を律することが大切です。
(6) 25頁(PDF31頁)の記載(国家公務員倫理法,同倫理規程に関する記載です。)
   社会の正義と安全を守る役割を担う検察庁職員が上記のような非違行為事案を発生させれば,検察に対する国民の信頼と期待を大きく損なうばかりでなく,検察業務ひいては公務全体の円滑な運営に支障を来すことは言うまでもありません。
   最も大切なのは,検察庁職員は他の公務員以上に高い倫理観を持たなければならないということであり,非違行為事案が発生すれば,個人の資質を断罪されるだけにとどまらず,検察庁全体が社会から厳しく糾弾され,著しく国民の信頼を損なうことになることを常に念頭に置き,自らを厳しく律していく必要があります。
(7) 33頁及び34頁(PDF37頁及び38頁)の記載(懲戒処分に関する記載です。)
   最近,公務員の不祥事等に対する国民の目は厳しさを増してきており,懲戒処分についてもマスコミに取り上げられるケースが増えてきています。懲戒処分が組織や家族にどのような被害を与えるか考えてみましょう。
ア 組織
   懲戒処分が公表された場合,あの組織は規律が緩んでいる,他にも同じようなことをしている職員がいるのではないかなどの疑念を生じさせるなど,その組織は国民からの信頼を失います。法秩序の維持を使命とする我々検察庁職員の場合は,より厳しい批判を受けることになるでしょう。
   組織に対する信頼が一旦失われると,それを回復するには,多数の人の長年の努力を必要とします。
イ 家族
   懲戒処分は,家族にも被害を与えることになります。配偶者や子供は,職員の経済上の損失の影響を受けるだけではなく,精神的に重大な被害を受けることもあります。


4 黒川弘務東京高検検事長に関係する可能性がある懲戒処分の基準
(1) 品位と誇りを胸に(三訂版)(平成25年9月に東京高等検察庁非違行為等防止対策地域委員会が改訂した文書)末尾29頁ないし32頁(PDF35頁ないし38頁)によれば,黒川弘務東京高検検事長に関係する可能性がある懲戒処分の基準は以下のとおりです。
① 賭博は減給又は戒告であり,常習賭博は停職です。
② 利害関係者又は利害関係者の負担により,無償で役務の提供を受けることは,免職,停職,減給又は戒告です。
③ 利害関係者から供応接待(飲食物の提供に限る。)を受けることは,減給又は戒告です。
④ 利害関係者から遊技の接待を受けることは,減給又は戒告です。
⑤ 利害関係者に該当しない事業者等から社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けることは,減給又は戒告です。
(2)ア 黒川弘務東京高検検事長が受けた訓告は監督上の措置の一種です。
イ 監督上の措置とは,職員の一定の義務違反ないし非違行為について,懲戒処分を科するまでには至らないと認められる場合で,服務の厳正を保持し,又は当該職員の職務の履行に関して改善向上を図るため必要があると認められるときに,指揮監督権限を有する上級の職員が行う措置をいいます(法務省職員の訓告等に関する訓令(平成16年4月9日付の法務大臣訓令)参照)。
ウ 法務省職員の訓告等に関する訓令の運用について(平成16年4月9日付の法務省大臣官房人事課長の依命通達)を掲載しています。

(3) 衆議院議員鈴木宗男君提出外務省職員による賭博に関する質問に対する答弁書(平成18年12月19日付)には以下の記載があります。
① 刑法(明治四十年法律第四十五号)において、「賭博」とは、偶然の事実によって財物の得喪を争うことをいう。
② 一時の娯楽に供する物を賭けた場合を除き、財物を賭けて麻雀又はいわゆるルーレット・ゲームを行い、その得喪を争うときは、刑法の賭博罪が成立し得るものと考えられる。
③ 一般論として申し上げれば、一般職の国家公務員が賭博を行うことは、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第九十九条に規定される信用失墜行為に該当する可能性があるものと考えられ、同条の規定は、外務公務員法(昭和二十七年法律第四十一号)第三条及び第四条第一項の規定により、外務省の在外職員にも適用又は準用される。なお、刑法の賭博罪には国外犯処罰規定がなく、日本国外において賭博を行うことが処罰の対象となるか否かについては、行為地の法令に則して判断されるべきものである。
(4)ア 人事院HPの「通報がきっかけとなって発覚した違反事案の例」には,以下の懲戒事案が掲載されています。
① 「厚生労働省の地方機関の長等幹部職員を含む4人の職員が、許認可、補助金交付等の相手方である団体の職員と、多数回にわたり飲食を共にしながら麻雀をしたもの。」につき,減給1月(俸給の月額の10分の1)、戒告(3人)
② 「厚生労働省の地方支分部局の職員2名が、立入検査・監査又は監察の相手方として利害関係者である事業者と共に、平成17年4月から平成19年3月までの間、月に2回から3回程度、麻雀を行ったもの。」につき,戒告(2人)
イ 人事院HPに「公務員倫理 基本事例集」(国家公務員倫理審査会が作成したもの)が載っています。
ウ 「岡口基一裁判官に対する分限裁判」も参照してください。


5 検察の在り方検討会議,及び黒川弘務の略歴
(1)ア 検察の在り方検討会議が平成23年3月31日に発表した「検察の再生に向けて」には以下の記載があります。
   前記のような重大な使命・役割(山中注:被疑者・被告人の権利保障と事案の真相解明に努めることにより,えん罪を防止し,真犯人の適切な処罰を実現するという使命・役割)を担う検察官には,他人の非違を糾す者として,一般の公務員以上に高い倫理性,廉潔性が求められている。それにもかかわらず,検察官には,国家公務員としての服務規律のほかに,職務上の行為の基準を明文化した独自の基本規程は存在していない。これは,そうした明文の規律を及ぼさなくても個々の検察官が自らを厳しく律しているとの信頼があったからであるとも考えられる。しかし,今般の事態は,そのような信頼を根本から裏切るものであって,個々の検察官に自らの使命・役割を再認識させ,日々の職務の指針とすることができるようにするため,検察官が遵守するべき基本規程を明文化することが求められるに至っている。
   そこで,検察においては,検察官が職務の遂行に当たって従うべき基本規程を明文化し,これを公表することにより,改めて,検察官の使命・役割を内外に明確にするべきである。
イ 平成23年9月28日に開催された検察長官会同において検察の理念が策定され,同月30日,公表されました。
(2)ア 黒川弘務は,法務省大臣官房付(特命担当)として,検察の在り方検討会議(平成22年11月10日初会合)の事務局をしたり,平成28年9月から平成31年1月までの間,法務事務次官(法務省の倫理監督官です。)をしたりしました。
イ 倫理監督官は,その属する行政機関等の職員に対しその職務に係る倫理の保持に関し必要な指導及び助言を行うとともに,国家公務員倫理審査会の指示に従い,当該行政機関等の職員の職務に係る倫理の保持のための体制の整備を行います(国家公務員倫理法39条2項)。
ウ 特定複合観光施設区域整備推進会議(平成29年4月6日初会合)は,平成29年7月31日,「観光先進国の実現に向けて」を副題とする取りまとめを作成し,平成30年12月4日,「主な政令事項に係る基本的な考え方」を副題とする取りまとめを作成しましたところ,いずれの時期についても,黒川弘務が法務事務次官をしていました。
エ 「黒川弘務東京高検検事長の略歴(令和2年1月30日時点)」も参照してください。


6 賭博罪に関する刑法の条文
(1) 刑法185条(賭博)
   賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(2) 刑法186条(常習賭博及び賭博場開張等図利)
① 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
② 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
→ 刑法186条2項につき,前段が賭博場開帳図利罪であり,後段が博徒結合図利罪です。

7 賭博罪に関する裁判例
(1) 常習性の認定
ア 最高裁昭和24年1月11日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   賭博常習性の有無は専ら、各被告人個人の習癖の有無によつて決せられることであるから、本件賭博の共犯者中に賭博開帳罪に該當するものがなく、又同罪によつて處斷されたものがなかつたとしても、それによつて被告人兩名に對する常習賭博罪の成立が阻却される理由は少しも存しない。
イ 最高裁昭和24年2月24日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   刑法第一八六條第一項に所謂賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖のあるものをいう立法趣旨であつて、必ずしも賭博を渡世とする博徒の類のみを指すものではない。又かかる習癖のあるものである以上たといそのものが正業を有しているとしてもその一事を以て直ちにこれを賭博常習者でないとはいい得ないのである。
ウ 最高裁昭和25年3月10日判決(裁判所HP)の判示(改行を追加。なお,令和2年5月26日の参議院法務委員会における川原隆司法務省刑事局長の答弁で言及されたもの)
   賭博の常習とは犯人に反覆して賭博をする習癖があることをいうのであつて必ずしも賭博の前科のあることを要するものではない、そしてその習癖のあらわれた賭博行為であるか否やは現に行われた賭博の種類、賭金の多寡、賭博の行われた期間、度数、前科の有無等諸般の事情を斟酌して裁判所の判断すべき事項である。
   原審は原判決挙示の証拠と判示賭博行為をした事跡によつて被告人等の常習の点を認定しているのであるが右証拠によれば、本件賭博の種類、態容、賭金の額等が判るのみならず被告人等は昭和二三年五、六月の頃本件賭博を数回に亘つて反覆していることが判るのであるから原審がこれらの事実によつて被告人等の本件賭博行為を常習と判断したことは正当で右判断をもつて常識に反するものということはできない。
エ 最高裁昭和25年10月6日(判例秘書)の判決要旨

① 昭和23年3月29日頃、同年6月1日頃及び同月12日頃の3回に亘り「カブ」外一種の賭博を反覆したという事実によつて、賭博の常習性を認定しても、実験則に反しない。
② 昭和19年9月10日賭博罪により罰金刑に処せられておりながら、さらに昭和23年10月14日麻雀賭博をしたことによつて、賭博の常習性を認定しても実験則に反しない。
オ 最高裁大法廷昭和26年8月1日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   賭博の前科のみによつて賭博の常習性を認定することは必らずしも違法ではなく、また所論の右最終前科と本件賭博との間にたとい四年の歳月を経過していればとて、右前科を賭博常習認定の一資料とすることに何等経験則上の違背も認めることはできない。


(2) 処罰対象となった麻雀のレート
ア 京都地裁平成24年11月5日判決(担当裁判官は57期の宮端謙一)の認定事実
① 判示の「△△」(以下「本件麻雀店」という)は,全国に展開する「□□グループ」に属する麻雀店である。本件麻雀店では,各別に来店するいわゆるフリーの客に,「東南戦」と称する賭麻雀をさせており,1000点を100円として精算する「テンピン」と,1000点を50円として精算する「テンゴ」の2種類のレートを採用していた。
② 本件麻雀店では,上記のとおり,決して低廉とはいえない金銭のやり取りがされる賭麻雀を不特定多数の客にさせ,ゲームごとに相応の代金を徴収し,メンバーが足りない場合には従業員やアルバイト店員に参加させて客に待たせることなく賭麻雀ができるようにし,そのために従業員らに金銭を貸したり,給料支払時に勝ち負けを精算することまでしていたということになる。このような本件麻雀店で行われていた賭博開張図利行為をもって,違法性を欠くということはできない。
③ 弁護人らは,上記のとおりの賭麻雀をもって,低レートであるとか,賭金額が少ない等と主張するが,いずれも独自の主張であって採用することはできない。
   また,現在競馬等の公営賭博が盛んに行われているとして,社会が賭博に対して寛容になり,賭博罪の違法性が弱まっているとも主張する。しかしながら,関係法令の規制下にある公営賭博とそれ以外の賭博とは一線を画しているのであり,公営賭博を巡る状況が賭博罪の違法性に影響を与えているとは認められない。また,パチンコに関する主張についても,それが本件行為の違法性に影響を与えるとはいえず,理由がない。
   そのほか,弁護人らは,種々の事情を挙げて,違法性に関する主張をするが,いずれも理由がなく採用できない。


(3) 賭博罪の必要的判示事項
ア 最高裁昭和26年1月25日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   賭博罪は二人で偶然の事情により勝負を決しこれに財物を賭けることによつて成立するものであり、その相手方が特定の人物であること及びその員数の如きは必ずしも賭博罪成立の要件ではない。されば所論のように被告人等のなした各賭博行為毎にその相手方の員数及びその氏名を明確に判示しなかつたとしても違法はない。
イ 最高裁昭和37年6月26日決定(裁判所HP)の判示
   原判決が、一審判決判示第一の事実について、その認定のように、金銭を賭けて麻雀遊技をした以上、勝敗を決するに至らず、また賭金の授受がなされるに至らなかつたとしても、賭博罪の成立に欠けるところはない旨判示したのは正当である。
ウ 最高裁昭和53年12月5日決定(裁判所HP)の判示
   常習賭博罪の訴因における常習性については、常習性を示す具体的事実を起訴状に記載する必要はなく、単に「常習として」と記載すれば足りるものと解すべきであるから、これと同趣旨に出た原判断は相当である。
エ 最高裁昭和61年10月28日決定(裁判所HP)の判示事項
   多数の賭博遊技機を設置した遊技場の経営者が、不特定多数の遊技客との賭博を反覆継続した事案につき、右遊技場の営業継続期間の全般にわたつて行われた各賭博行為を一個の常習賭博罪と認定する場合には、右遊技場の所在地、営業継続期間、遊技機の種類・台数、賭博の態様を摘示したうえ、「右期間中、常習として、甲ほか不特定多数の賭客を相手とし、多数回にわたり、右遊技機を使用して賭博をした」旨判示した程度であつても、常習賭博罪の罪となるべき事実の具体的摘示として欠けるところはない。
(4) 常習賭博罪の罪数
ア 最高裁昭和26年4月10日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   常習賭博罪における数個の賭博行為は、包括して単純な一罪を構成する。
(5) 賭博させる場所
ア 東京高裁昭和44年11月5日判決(判例秘書)の判示
   賭博開張図利罪は、犯人が利益をえる目的で、自ら主宰者となり、賭博をさせる場所を開設することにより成立し、その場所はとくに賭博をさせる目的で設けられたものであることを必要とせず、その目的とする利益は賭博場開設の対価としての性格を有する限り、寺銭、入場料などその名義のいかんを問わないものであり、また、開張者自身が賭博行為に加わることも必要ではないと解すべきである
(6) 常習賭博罪は不真正身分犯であること
ア 最高裁大法廷昭和26年8月1日判決(裁判所HP)の裁判要旨
   刑法第一八六条の常習賭博罪が同第一八五条の単純賭博罪に比し、賭博常習者という身分によつて刑を加重していることは所論のとおりである。そして右加重の理由は賭博を反覆する習癖にあるのであつて、即ち常習者賭博は単純賭博に比しその反社会性が顕著で、犯情が重いとされるからである。そして、賭博常習者というのは、賭博を反覆する習癖、即ち犯罪者の属性による刑法上の身分であるが、憲法第一四条にいわゆる社会的身分と解することはできない。されば刑法第一八六条の規定をもつて憲法第一四条に違反するものであるとの趣旨は到底これを採用することはできない。



8 公営賭博及びパチンコの合法性に関する国会答弁
(1) 平成14年3月28日の参議院経済産業委員会における答弁
ア 河村博法務大臣官房審議官の答弁

① 典型的な例ではございますけれども、競馬法上の競馬でございますとか御指摘の自転車競技法の競輪などの行為につきましては、確かに形式的には刑法の賭博罪なり富くじ罪に該当し得るものではございます。
 しかしながら、例えば競馬法ということで申し上げますと、この競馬法に基づいて行われます勝馬投票券の販売行為などにつきましては、その主催者を日本中央競馬会、都道府県などと定めまして、馬の改良増殖その他畜産の振興という健全な社会的な目的を掲げた上で、所管されております農林水産大臣などの監督の下に所定の制限、罰則を設けて、公正な競馬及び勝馬投票券の販売などを行わせることとしているものでございまして、その限りにおきまして、法令による行為として違法性が阻却されるというふうに考えられております。
② まず、条例でございますが、条例は、具体的な規定を申し上げませんですが、憲法によりましても法律の範囲内で制定することができるとされておりまして、地方自治法上も法令に違反しない限りにおいて条例を制定することができるとされているところでございます。
 ところで、この賭博罪につきましては、刑法によってそれが禁止され、処罰されるということとされておりますので、その成立範囲を競馬法など特別の国の法律により限定することは可能でございますけれども、法律の範囲内でのみ制定できる条例におきましては賭博罪の成立範囲を限定する規定を設けることはできないと考えております。
③ 賭博に対します国民一般の認識につきましては、確かに時代とともに変化し得るものではございますけれども、これまでの法務省での検討と申しますか、まず昭和四十年代等に行われました全面改正での議論におきましても、賭博罪は存置することとされております。
 その後、罰金額を全面的に引き上げましたり、これは平成三年、あるいは平成七年には口語化とともに一部罰則を廃止したり、条文を廃止したりいたしておりますけれども、現段階において、賭博罪を廃止し、又はその成立範囲を一般的に限定すべき特段の必要性は認められないものと考えておりまして、実際、その賭博行為につきましては社会の風俗を害するという見地から刑法上の犯罪とされているわけでございますし、現に相当数の事件が起訴されているところでございます。
イ 黒澤正和警察庁生活安全局長の答弁
① いわゆるのみ行為でございますけれども、公営競技の主催者等正規に勝者投票券などを発売できる者以外の者が公営競技に関して勝者投票等類似行為をさせて財産上の利益を図る行為、これがのみ行為でございまして、このことは、公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに、地方財政の改善を図るという公営競技の目的を損なうものとして、自転車競技法等関係法律で禁止されております。そしてまた、暴力団が恒常的にその資金源にしているという意味におきまして悪質な行為と考えておるところでございます。
 平成十二年中の数字でございますけれども、すべての公営競技に係るのみ行為の検挙件数でございますが、二百二十二件となっております。このうち、暴力団関係者によって行われたものが二百十四件でございまして、全体の九六%を占めております。
 警察といたしましては、暴力団関係者が関与するなど悪質な事犯を中心に、競技主催者などと緊密な連携を図りながら、のみ行為に対しまして積極的な検挙活動を推進してまいりたいと考えておるところでございます。
② お尋ねの件でございますけれども、競技の、失礼しました、遊技の結果に応じて客に賞品を提供する営業であるパチンコ営業は、その営業の態様によりましては客の射幸心をそそることとなりまして、先ほど来出ておりますけれども、善良の風俗と清浄な風俗環境を阻害するおそれがあるかと思います。委員御指摘のとおりでございますが、このため、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律におきまして、パチンコ営業等、客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業を風俗営業として位置付けまして、所要の規制がなされておるわけでございます。
 具体的には、パチンコ営業を営もうとする者はあらかじめ公安委員会の許可を受けなければならず、公安委員会は、当該許可申請者が過去五年以内に賭博罪等を犯し、刑に処せられた者である場合、あるいは暴力的不法行為を行うおそれがあると認められる者など、一定の欠格事由に該当する場合は許可をしてはならないとされております。また、この法律におきましては、著しく客の射幸心をそそるおそれがある遊技機の設置を禁止しているほか、遊技料金、賞品の提供方法及び賞品の価格の最高限度を規制しておるわけでございます。
 この風適法で認められた範囲内で営まれるパチンコ営業者については、賭博罪に当たる行為を行っているとの評価を受けることはないものと考えておるところでございます。
(2) 平成30年6月14日の参議院法務委員会における辻裕教法務省刑事局長の答弁
① 私の方からは刑法上の賭博の定義について申し上げますけれども、刑法上の賭博については、一般に、偶然の勝負に関し財物の得喪を争うことをいうと解されているものと承知しております。
② パチンコにつきまして、個別の事案におきまして、犯罪の成否は個別の事案において収集された証拠に基づいて判断すべきものでありますし、パチンコと一口に申しましてもいろんな形態があるものと思いますので、必ずしも一概にお答えすることは難しい面もございますけれども、いわゆるパチンコ営業につきましては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の範囲内で適法に行われているというものにつきましては、刑法第百八十五条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときに該当し、賭博罪には当たらないというふうに理解しております。
③ あくまで刑法上の概念について申し上げますけれども、いわゆるtoto、スポーツ振興投票券を販売する行為は、刑法で申しますと賭博ないし富くじに係る行為に該当し得ると考えられますけれども、スポーツ振興投票の実施等に関する法律にのっとって行われるものである限り、刑法第三十五条の法令行為として違法性が阻却され、賭博罪等は成立しないものと承知しております。
(3) 外部HPの「パチンコの特殊景品ってどれぐらいの価値があるの?プロの買取業者に売ってみた。」(2016年5月25日付)では,パチンコの特殊景品としてもらった,金地金1グラム,0.3グラム及び0.1グラムの板材を買取業者に売った際の体験談が載っています。


9 取材源の秘匿
(1)ア 西山事件に関する最高裁昭和53年5月31日決定(裁判所HP)は以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
   報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。
   しかしながら、報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害することのできる特権を有するものでないことはいうまでもなく、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであつても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない。

イ 最高裁平成18年10月3日決定(裁判所HP)は以下の判示をしています。
   民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである。
(2)ア 愛媛玉串訴訟に関する最高裁大法廷平成9年4月2日判決(裁判所HP)に関しては,その評議内容に関する記事が平成9年2月9日の朝日新聞及び共同通信配信地方紙に掲載されました。
   そのため,最高裁は,評議の秘密が外部に漏洩したかどうかを確認するため,裁判部の担当記者を複数回呼び出し,直接本人から繰り返し取材経過等について釈明を聴取しました。
イ 「愛媛玉ぐし訴訟大法廷判決(最高裁大法廷平成9年4月2日判決)の事前漏えい疑惑に関する国会答弁」も参照してください。
(3) 令和2年5月20日の週刊文春の記事によれば,「今週の金曜日に、いつもの面子で黒川氏が賭けマージャンをする」という情報が,4月下旬,産経新聞関係者から週刊文春にもたらされたことから,黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀が実施された産経新聞記者の自宅マンションへの張り込みが実施されたみたいです。
(4) ヤフージャパンニュースの「問われるべきは検察幹部とマスコミの「ズブズブ」関係 取材のあり方にもメスを」(2020年5月25日付)には以下の記載があります。
① 確かに、幹部による情報リークはある。その背景や検察にとってのメリット・デメリット、メディアコントロールの狙いなどは、すでに拙稿「なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか (1)」、「同(2)」、「同(3)」で記したとおりだ。
 ただ、今回の騒動で、さすがに検事総長にもなろうという人物は違うなと思ったのは、黒川弘務氏が産経新聞と朝日新聞という、両極にあるメディアの記者らと賭け麻雀をするほど「ズブズブ」の関係に至っていたという点だ。
② 中には口の堅い者もいるにはいるが、本来であれば庁内で行われる公式の記者対応しかやってはならないはずなのに、「夜討ち朝駆け」に応じたり、記者と飲み食いなどをして関係を深めていく者も出てくるわけだ。

 とはいえ、さすがに黒川氏のように記者の自宅に上がり込むとか、「三密」の回避や外出自粛が呼びかけられていた緊急事態宣言下で記者と賭け麻雀を繰り返すとか、そのハイヤーで帰宅するといった幹部など聞いたことがない。

10 東京地検特捜部の取材対応のあり方に関する内閣答弁書
(1) 衆議院議員鈴木宗男君提出鳩山由紀夫内閣における東京地方検察庁特別捜査部の取材対応のあり方等に関する質問に対する答弁書(平成22年1月26日付)には以下の記載があります。
① 東京地方検察庁における報道機関に対する対応については、平成二十一年四月二十一日、衆議院決算行政監視委員会第四分科会において、大野法務省刑事局長(当時)が、「部長、副部長以外の検察官あるいは検察事務官に対しては接触をしないように報道機関に対してお願いをしている」と答弁したとおりである。
② 検察庁の職員を含む一般職の国家公務員に関しては、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百条において「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。」と規定されており、同条の規定に違反した場合には、同法第百九条の規定により、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処されることとされているところであって、御指摘のような罰則を設けることは考えていない。
③ 検察の活動内容は、基本的には、公開の法廷における主張や立証を通じて公にされるべきものであり、検察当局において、起訴した場合に記者会見を行うことがあるのは、検察当局の活動を国民に正しく理解していただくため、あるいは社会に無用の誤解を与えないようにするために、公訴事実の概要等を説明するものに過ぎず、その限りの会見を行う際に、テレビカメラを入れなかったとしても、その対応に問題があるとは考えていない。
(2) 衆議院議員鈴木宗男君提出東京地方検察庁特別捜査部による報道機関への取材拒否等に関する質問に対する答弁書(平成22年2月2日付)には以下の記載があります。
   検察当局においては、従来から、捜査上の秘密の保持について格別の配慮を払ってきたものであり、捜査情報や捜査方針を外部に漏らすことはないものと考えているところ、東京地方検察庁において、御指摘のような「取材」(山中注:ある刑事事件に関し、東京地検としていつ誰に聴取を要請する方針でいるか、また聴取に応じた人物がどの様なことを述べたか、他には、例えば逮捕された容疑者が自身にかけられた容疑についてどの様な供述をしているか、またその供述の結果、何らかの新たな容疑が見つかったか、更には別の人物が容疑者として浮上したか等、ある刑事事件の捜査がどの様に推移しているかに関する情報についての取材)に対応することはなく、お尋ねについてお答えすることは困難である。


11 黒川弘務東京高検検事長の退職手当
(1) 退職手当の計算式は以下のとおりです(内閣官房HPの「国家公務員の退職手当制度の概要」参照)。
退職手当=基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+調整額
(2)ア 黒川弘務東京高検検事長の場合,退職手当に関する事情は以下のとおりです。
① 退職時の俸給月額:130万2000円
・ 検察官の俸給等に関する法律2条及び別表が根拠であり,裁判官の報酬等に関する法律2条及び別表に基づくその他の高等裁判所長官(つまり,東京高裁長官以外の高裁長官)と同じ金額です。
② 退職理由別・勤続期間別支給率(調整率を乗じた後のもの):自己都合退職に基づく41.7663(平成30年1月1日以降)
・ 1983年4月に検事となり,2020年5月に依願退官しましたから,勤続年数は37年です。
・ 国家公務員退職手当支給率早見表(平成30年1月1日以降の退職)が根拠です。
③ 調整額:基本額の8.3%(平成30年1月1日以降)
・ 国家公務員退職手当法6条の4第4項5号イ・附則26項が根拠です。
イ 黒川弘務東京高検検事長の退職手当は以下のとおりと思います
   130万2000円✕41.7663✕1.083=5889万3239円
ウ 黒川弘務東京高検検事長が令和2年2月7日限りで定年退官していた場合,退職手当の支給率(調整率を乗じた後のもの)は47.709でしたから,この場合の退職手当は以下のとおりと思います。
   130万2000円✕47.709✕1.083=6727万2838円
(3) 仮に黒川弘務東京高検検事長が常習賭博罪で懲役刑(執行猶予付きを含む。)に処せられた場合,国家公務員退職手当法15条1項1号に基づき,退職手当審査会の諮問(国家公務員退職手当法19条1項)を経た上で,退職手当の全部又は一部の返納を命ずる処分が行われます。
裁判官・検察官の給与月額表(令和2年1月1日現在)


12 三井環事件(平成14年4月22日逮捕)関する国会答弁及び政府見解
(1)ア 森山眞弓法務大臣は,平成14年4月26日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 四月二十二日、大阪地検におきまして、大阪高検公安部長でありました三井環検事(山中注:24期です。)を、暴力団関係者らとの共謀による電磁的公正証書原本不実記録、同供用及び詐欺並びに公務員職権乱用の被疑事実によりまして、共犯者である暴力団関係者ら三名とともに逮捕したわけでございますが、簡単にその概要を御説明申し上げますと、逮捕事実の概要といたしまして、第一に、三井検事が暴力団関係者と不動産取引を行いまして、その過程で暴力団関係者らと共謀の上、不正な手段により不動産登記の登録免許税率の軽減を受け、登録免許税約四十八万円相当の納付を免れようと企て、みずから虚偽の住民登録をし、これを利用して区役所から登録免許税率の軽減を受けるために必要な証明書をだまし取ったというものであり、第二に、三井検事が、暴力団関係者との不動産取引交渉が難航するや、その交渉に利するため、みずからの職権を乱用して、交渉相手である暴力団関係者の前科調書を不正に取得したというものでございます。
 本件につきましては、三井検事が不動産取引に絡んで暴力団関係者から金銭の提供や酒食等の接待などを受けている旨の情報が大阪高検に寄せられましたことから、大阪高検において慎重に内偵を進めたものでございますが、犯罪に問うべき行為があることが明らかになりまして、大阪地検に指示いたしまして捜査を行わせることになったものでございます。
 大阪地検としては、本件が、現職の幹部検察官が暴力団関係者らと共謀し、あるいは検察官の職権を乱用したという事案でありまして、極めて重大かつ悪質である上、暴力団関係者らとの通謀による罪証隠滅のおそれがあるということから、強制捜査が必要であると判断いたしまして、裁判所から令状の発付を受けまして、三井検事及び共犯者である暴力団関係者らの逮捕に踏み切ったものでございます。
 これは、冒頭にも申し上げましたように、他人の刑事責任を追及するべき検察庁の幹部としてあるまじき、まことにとんでもない事件でございまして、本当に遺憾のきわみでございます。
 大阪地検におきまして、本件につきましては今後全容の解明がなされるというふうに考えておりますが、その解明に基づきまして厳正に対処していかなければいけないというふうに思う次第でございます。
② 調査活動費につきましても、その性格上、すべてを御報告申し上げるということができない部分もございますけれども、できる限り明らかにいたしまして、しっかりと説明し、御理解を得るべく努力をしなければいけないというふうに思っております。
イ 森山眞弓法務大臣は,平成14年5月31日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① この際、三井環前大阪高等検察庁公安部長による事件について御報告いたします。
 三井元検事による事件につきましては、大阪地方検察庁におきまして、昨日、収賄及び公務員職権乱用罪により、大阪地方裁判所に公判請求いたしました。現職幹部検事が、暴力団関係者と私的に交際した上、このような不祥事を起こしたことはまことに遺憾であり、国民の皆様に対し、改めて深くおわび申し上げます。
 昨日、私から小泉総理大臣に対しまして、本件事案の概要等について御報告し、法務大臣として責任を痛感していると申し上げました。小泉総理大臣からは、検察に対する国民の信頼が著しく損なわれたことはまことに遺憾であり、法務大臣として、再びこのような事態を招かないように、検察が厳格な綱紀の維持を図り、万全な再発防止策を講ずるよう適切に対処されたい旨厳重に注意されました。私はこれを厳粛に受けとめております。
 そこで、今回の事件を反省し、このような事態の再発を防止するために、検事総長に対しまして、検察庁職員の綱紀の保持を徹底すること、検察官の人事評価のより一層の適正化を図ること、検察組織の再点検を行うことを指示したほか、前科照会の事実を事後的に確実に把握できるよう、関係する例規を改めるなどいたしました。
② 職員の処分について申し上げます。
 三井元検事の犯罪は、収賄及び公務員職権乱用という職務に関する犯罪であり、三井元検事に対する指揮監督が十全でなかったと言わざるを得ず、その監督責任は免れないものと考えます。
 そこで、大塚清明大阪高等検察庁次席検事については、監督責任として三月間俸給の月額百分の十の減給処分とすることとしたほか、原田明夫検事総長及び東條伸一郎大阪高等検察庁検事長については、それぞれの監督責任につき、懲戒処分として、原田検事総長を戒告に、東條検事長を一月間俸給の月額百分の十の減給に処する旨が本日の閣議において決定されました。
③ 本件は、三井元検事という特異な資質の人物が引き起こした犯罪とは考えられますが、検察官は、国民の負託を受けて犯罪を捜査し訴追するという重大な責任を担っているものでありまして、私は、検察に対し、本件を教訓として、高い倫理観を持って職務に励み、国民の期待にこたえることを求めたところであります。
④ 以上、御報告申し上げます。
(2)ア 平成13年1月10日発売の「噂の真相」(平成13年2月号),当時の大阪地検検事正X氏が,高知地検検事正時代に約400万円にも上る調査活動費を指摘に流用していたというスクープ記事が載り,X氏は,①同年3月29日に最高検察庁に告発されましたし(①につき高松高検に移送されました。),②同年5月11日に神戸地検検事正としての行為について最高検察庁に告発されました(②につき大阪高検に移送されました。)から,同年4月23日に高松高検検事長に就任するという内示が,同月28日に就任した森山眞弓法務大臣によって取り消されました。
 法務省は同年10月23日までに福岡高検検事長にする旨の上申をしたものの,内閣から再考を求められました。
 大阪高検は同年11月5日,X氏について「嫌疑なし」で不起訴処分としましたし,高松高検は同月13日,同月9日の事情聴取を経た上でX氏について「嫌疑なし」で不起訴処分としました。
 そのため,同月13日,X氏の福岡高検検事長への就任が内閣で承認され,同月15日,認証式が行われました。
イ X氏に関しては,「告発!検察「裏ガネ作り」」67頁ないし90頁に詳しい事情が書いてあります。
(3)ア 高松検察審査会は,福岡高検検事長に就任したX氏について,平成14年4月12日,不起訴相当の議決をしました(司法の病巣179頁)。
イ 三井環の逮捕は,平成14年4月20日(土),大阪地検,大阪高検及び最高検の幹部で実施された検察首脳会議で決定されました(司法の病巣176頁及び177頁)。
ウ 政府見解によれば,平成14年4月22日の三井環大阪高検公安部長(24期)の逮捕は,検察当局において法と証拠に基づき行われたものであって,検察庁における調査活動費の裏金流用を実名で告発することを決意したこととは関係がないことになっています(衆議院議員鈴木宗男君提出検察組織における調査活動費の裏金流用に関する質問(平成20年4月4日付)参照
(4)ア 衆議院議員鈴木宗男君提出検察組織における調査活動費の裏金流用に関する再質問に対する答弁書(平成20年4月15日付)には以下の記載があります。
① 調査活動費を含む検察庁の予算の執行については、領収書等の証拠書類を整備し、会計検査院による検査を受けている。
② 御指摘の「決意」(山中注:三井氏が二〇〇二年四月二十二日に逮捕される以前、検察庁における調査活動費の裏金流用を実名で告発することを決意していたこと)については、検察当局において、把握していなかったものと承知している。
③ 御指摘の「問題点」、「指摘」等の意味が必ずしも明らかではないが、見直しの当時においても、調査活動費は、適正に執行されているものと考えていた。
イ 衆議院議員鈴木宗男君提出検察庁における調査活動費の裏金流用疑惑に対する鳩山由紀夫内閣の見解に関する質問に対する答弁書(平成22年1月29日付)には以下の記載があります。
① 検察庁の調査活動費は、適正に執行されていることから、御指摘のような調査をする必要はないものと考えている。
② 御指摘の者については、検察当局において、法と証拠に基づき逮捕したものであり、御指摘のような「関係」(山中注:三井氏が逮捕されたことと、検察庁における調査活動費の裏金流用を実名で告発することを決意したこととの関係)はないものと承知している。
③ 平成二十一年度の検察庁における調査活動費の予算額は七千五百十一万八千円であり、平成二十二年度予算において検察庁の調査活動費として七千五百十一万八千円が計上されている。
④ 検察庁における調査活動費が減少したのは、公安情勢が大きく変化したことなどにより、調査活動の方法等の見直しを行い、情報収集の多様化・効率化を進めたことなどによるものである。
ウ 自民党政権であると,民主党政権であるとを問わず,検察庁の調査活動費は適正に執行されていたという説明は一貫しています。

13 外務省機密費流用事件,及びこれに関する東京地裁平成14年3月29日判決
(1)ア 外務省機密費流用事件というのは,平成5年10月10日から平成11年8月16日までの間,松尾克俊 外務省要人外国訪問支援室長が9億8800万円に上る官房機密費を受領し,約7億円(Wikipediaの記載です。)を詐取したという事件であり,松尾克俊は,平成13年3月10日,警視庁捜査二課に逮捕されました。
イ 「連続ドラマ  石つぶて ~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~」は,実際の捜査を担当した警視庁捜査二課の立場から,外務省機密費流用事件をドラマ化したものです。
(2)ア 東京地裁は,平成14年3月29日,外務省機密費流用事件に関して松尾克俊を懲役7年6月の実刑としました(裁判長は29期の井上弘通裁判官でした。)。
 そのため,その翌月,検察庁の調査活動費に関する告発をしようとした三井環大阪高検公安部長が逮捕されたことになります。
イ 東京地裁平成14年3月29日判決(判例秘書)には以下の記載があります。
 本件各犯行による被害結果をみるに,財産的損害の合計が5億600万円余りという莫大な額に及ぶのみならず,現職の外務省幹部職員であった被告人によって,その地位を悪用して敢行された本件は,国民に多大な失望や不信感をもたらし,公務員なかんずく外務省及びその職員に対する信頼を失墜させ,さらには,出張先の外国における関係者らにさえ我が国の公務員の職務遂行に関して疑念を抱かせるなどしており,その影響は重大かつ深刻である。本件の被欺罔者たる内閣官房関係者のみならず,本件の影響で国民の非難の対象となった外務省職員らにおいても,被告人に対する厳しい処罰感情を示しているのは当然のことである。
(3) ダイヤモンド・オンラインの「官房機密費の闇を暴いたある警視庁捜査二課刑事の執念 『石つぶて――警視庁二課刑事の残したもの』」に以下の記載があります。
 裁判はとうに終わり、関係者も刑期を終えたいま、私たちはある程度の事件の概略を知っている。事件は結局、詐欺事件として立件された。デタラメな見積書を上げ、差額を着服するという荒っぽい手口で、松尾が内閣官房から引き出した内閣官房報償費は、11億円5700万円にのぼった。このうちの約9億8700万円を懐に入れていたとみられるが、立件できたのは約5億円分である。着服した金は十数頭もの競走馬の購入や女たちとの遊興などに費やされていた。松尾は3度結婚し、その間に少なくとも8人の女性と関係を持っていたとされる。参考人として聴取するなどした中央省庁の役人は735人にも達した。
(4) 外務省HPに「松尾前要人外国訪問支援室長による公金横領疑惑に関する調査報告書」(平成13年1月25日付)が載っています。
(5) 衆議院議員鈴木宗男君提出外務省の報償費に対する鳩山由紀夫内閣の見解に関する質問に対する答弁書(平成22年2月5日付)には以下の記載があります。
① お尋ねの「報償費を首相官邸に上納するという慣行」の意味するところが明らかではないが、これまでの経緯等を改めて確認したところ、かつて外務省の報償費が総理大臣官邸の外交用務に使われていたことがあったことが外務省において判明した。なお、現在は外務省の報償費が総理大臣官邸の外交用務に使われていることはなく、また、今後においても使われることはない。
② 外務省大臣官房会計課審査室は報償費関連文書を外務省文書管理規則(平成十八年外務省訓令第十六号)に基づき保管している。

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