外国政府等との関係を明らかにさせる制度と,秘密の不正取得等を処罰する制度は,目的も要件も同じではない。日本で検討されている外国代理人登録制度についても,外国と関係があるという理由だけで,直ちに登録義務や刑事責任が生じると読むことはできない。
本記事は令和8年10月27日を基準に,内閣官房の「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議」の資料を中心として,国内の検討内容と,企業・研究者・弁護士が確認しておきたい点を整理する。
第1 外国代理人登録制度は何を目指すのか
令和8年10月26日の第2回有識者会議に提出された警察庁資料「外国による不当な干渉を防止するための法制度について」は,外国からの働き掛けについて,政治・行政への影響と秘密情報の収集・取得等を分けている。
同資料のPDF6頁に示された対応の方向性は,外国との関係を背景に行われる一定の活動について,登録によって透明性を確保する仕組みと,悪質な行為への罰則等を検討するというものである。登録して関係を開示する仕組みと,行為そのものを犯罪として処罰する仕組みを区別する必要がある。
「外国代理人」は,ここでは外国との関係を背景に活動する者に関する制度上の議論であり,民法上の代理人や訴訟代理人と同じ意味とは限らない。誰を対象とし,どの活動について,いつ,何を登録させるかは,日本の具体的な制度設計を確認しなければ判断できない。
第2 日本ではどこまで決まっているのか
1 会議資料は成立した法律ではない
警察庁資料のPDF7・8頁は,規制の必要性・合理性,対象行為・対象者,義務の内容,権利への配慮,民主的統制等を検討課題として掲げている。資料に外国の制度や対応案が載っていることと,日本で同じ義務が成立したことは別である。
本記事が確認した会議資料から,日本の企業・研究者・弁護士について,外国代理人登録の具体的な対象,期限,例外及び違反時の効果が確定したとはいえない。外国の登録期限や専門職の例外を,日本で既に適用される規則として使うこともできない。
2 政党の提言と政府の検討を分ける
自由民主党インテリジェンス戦略本部の令和8年8月5日付提言は,登録制度等の制度設計を提案している。提言の表題は「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて―開かれた社会を、隠れた工作から守る―」である。担当組織についても,国家公安委員会が担当することが考えられるという提案である。担当機関が政府の制度として確定したとの説明に強めない方が正確である。
第1回有識者会議の議事要旨に記載された各委員の意見も,それだけで会議全体の結論や政府の決定になるわけではない。会議資料,議事要旨,政党の提言を,それぞれの作成主体と位置付けに即して読む必要がある。
第3 外国との関係だけで判断できない理由
警察庁資料のPDF3頁は,通常の外国代理人による影響力活動は,民主主義社会における多角的な議論の促進に資するものと説明している。外国の団体から依頼を受けたこと,海外から資金が入ったこと,外国人と共同研究をしていることだけを,直ちに不当な干渉と同一視すべきではない。後半は,本記事の整理である。
同資料のPDF4頁は,外国との関係を隠した働き掛けとして,公職者への接触,情報の発信,利益の提供等の経路を示す。実務上の確認では,国籍だけでなく,誰が依頼し,誰が資金を出し,誰が活動内容を指示し,その関係を誰に明らかにするかを分けて考えることが有用である。後半は,資料の構造を踏まえた本記事の整理である。
第4 企業・研究者・弁護士の確認事項
1 企業・広報会社・動画制作者
本記事の提案として,依頼者,契約当事者,実際の支払者,編集・発信内容の指示者が一致するかを確認し,相違があれば理由を記録しておくことが考えられる。広告や動画の制作では,資金提供の開示,最終的な承認者,内容変更の指示方法も確認対象になる。
これらは契約上の問題を具体化するための確認事項であり,日本の外国代理人登録制度によって既に一律に義務付けられた手続という説明ではない。
2 研究者・大学
共同研究,寄附,研究成果の発表については,研究上の協力関係と,第三者への政治的な働き掛けや発信内容への指示を分けて把握することが考えられる。外国との研究協力が全て登録対象になると,今回の資料だけから判断することはできない。
営業秘密の持出しや情報管理については,登録制度の議論とは別に,既存の法令・契約に即して検討する必要がある。具体的な情報管理の問題は,社員による私用LINE・私物USB・個人メールの利用に関する記事を参照されたい。
3 弁護士
法律相談,訴訟代理,政策の変更を求める働き掛けは,業務の内容を分けて考える必要がある。外国法上の専門職の例外を参考にする場合も,どの活動を,どの条件で除外しているかを確認すべきであり,「弁護士なら全業務が対象外」と一括りにしない方がよい。
ただし,日本の具体的な対象と例外は今後の制度設計の問題である。本記事は,各国法の例外を網羅して紹介するものではない。日本の弁護士業務について,新たな登録義務の発生を断定することもしていない。
第5 表現・取材・政治活動との調整
第1回議事要旨には,表現活動等を萎縮させることへの懸念や,規制の必要性・相当性,監督の在り方に関する意見が記載されている。第2回警察庁資料も,権利への配慮と民主的統制を検討事項に挙げている。
制度を説明する際には,「誰との関係を,どの活動について開示させるのか」と「どの行為を処罰するのか」を切り分ける必要がある。取材・研究・法律相談等の活動への影響も,具体的な要件,例外及び手続によって異なる。
最高裁大法廷昭和53年10月4日判決(昭和50年(行ツ)第120号,マクリーン事件)は,在留期間の更新許可に関する事案である。この判決だけで,将来の登録制度や処罰規定の合憲性が決まるわけではない。今回の会議に記載された意見と,裁判所が具体的な事件で示した判断を混同しないことが大切である。
第6 よくある質問
1 海外から報酬を受けたら,日本で直ちに登録が必要か
今回確認した国内会議資料だけから,そのような一般的な登録義務が成立したとはいえない。相手方,活動内容,指示関係等を整理した上で,成立・施行した法令とその適用範囲を確認する必要がある。
2 登録すれば,他の法令に違反する活動も適法になるか
登録による関係の開示と,情報の不正取得等の行為に対する規律は別の問題である。登録制度の説明を,個別の行為の適法性を保証するものとして使うべきではない。
3 国家情報局ができたことと,同じ制度なのか
組織の設置と,新たな登録義務の制度設計は分けて読む必要がある。組織の違いは,国家情報会議・国家情報局・対外情報庁構想の記事で整理する。
第7 出典
本記事で中心的に用いた一次資料は,内閣官房の有識者会議掲載ページ,第1回議事要旨,第2回警察庁提出資料,自民党の提言である。提言は提案内容の一次資料として用い,成立法と同一視していない。