日韓請求権協定

Pocket

目次
第1 請求権問題と経済協力との関係等

1 請求権問題と経済協力との関係
2 経済協力の規模
第2 日韓請求権協定2条,及び日本の韓国に対する請求権の放棄
1 日韓請求権協定2条の条文及び合意議事録
2 日韓請求権協定2条に基づく補償の義務は発生しないと考えられたこと
3 戦前の日本人が朝鮮半島に残した財産の取扱い
4 日本は李承晩ラインに基づく拿捕損害の賠償請求権を放棄したこと
第3 大韓民国等の財産権に対する措置法,及びこれに基づく個人の請求権の消滅
1 大韓民国等の財産権に対する措置法の条文
2 大韓民国等の財産権に対する措置法に基づく権利等の消滅
3 大韓民国等の財産権に対する措置法に基づく個人の請求権の消滅
第4 在日韓国人及び台湾住民の軍人軍属に対する補償問題
1 総論
2 朝鮮人及び台湾人の国籍問題
3 在日韓国人の軍人軍属に対する補償問題
4 台湾住民の軍人軍属に対する補償問題
第5 日韓請求権協定,及び大韓民国等の財産権に対する措置法に関する答弁書
1 平成15年 1月28日付の答弁書
2 平成30年11月20日付の答弁書
第6 2018年10月30日の韓国大法院判決等
1 2018年10月30日の韓国大法院判決及びその個別意見の骨子
2 2018年10月30日の韓国大法院判決が支払を命じた金額等
3 日韓請求権協定は徴用工に対する補償を含むものであったこと
4 韓国大法院判決に対する被告企業のコメント
第7 日韓請求権協定3条に基づく仲裁手続が実施できなかったこと
1 日韓請求権協定3条の条文
2 日韓請求権協定3条に基づく仲裁手続
3 韓国政府が日韓請求権協定3条に基づく仲裁手続を履行しなかったこと
第8 日韓基本条約等が掲載されているHP
第9 関連記事及び参考になるHP

第1 請求権問題と経済協力との関係等
 請求権問題と経済協力との関係
(1) 日韓条約と国内法の解説(昭和41年3月3日発行の時の法令別冊)42頁,43頁,62頁及び63頁には以下の記載があります。
(経済協力の解説)
① この経済協力を行う趣旨は、戦争の結果、韓国がわが国から分離独立したことを念頭におき、今後日韓両国間の友好関係を確立するという大局的見地に立って、この際わが国にとっても望ましい韓国経済の発展と安定に寄与するため、同国に対し無償有償の供与を行うこととし、これと併行して請求権問題を最終的に解決することとしたものであり、経済協力は請求権の対価ではなく、両者間に法的相関関係はないが、交渉の経緯上同一の協定で扱うこととなったものである。
(日韓請求権協定の解説)
② 経済協力の増進と請求権問題の解決は、同一の協定の内容となっているが、これは両者がともに経済に関係するものであり、かつ、前述した交渉の経緯からいって関連づけられたものにすぎず、両者の間にはなんら法律的な相互関係は存在しないものである。
③ 明文化された協定の内容からいえぽ、第一条に規定する五億ドルの資金供与は、韓国側のいうような韓国の対日請求に対する債務支払の性格をもつものでないところで、協定の前文第二段および第一条1の末段の規定によっても明らかなとおり、あくまで経済協力として行われるものにほかならない。このような供与と並行して、財産および請求権に対する問題については、完全かつ最終的に解決されたものとして、両国間になんらの問題も存在しなくなることを確認したのが第二条の趣旨なのである。
(2) 日韓請求権協定の前文は以下のとおりです。
 日本国及び大韓民国は、
 両国及びその国民の財産並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題を解決することを希望し、
 両国間の経済協力を増進することを希望して、
 次のとおり協定した。
(3) 日韓請求権協定1条1の末段の規定は「前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。」です。
2 経済協力の規模
(1) 日本は,韓国に対し,日韓請求権協定1条に基づき,財産・請求権問題が解決されたことを確認するとともに5億ドルの経済協力(無償3億ドル,有償2億ドル)を実施しました。
(2) 当時の日本の外貨準備高は18億ドルであり,当時の韓国の外貨準備高は1億3000万ドル,国家予算は3億5000万ドルだったみたいです(国家基本問題研究所HP「【第560回・特別版】韓国は先人の日韓友好努力を無にするな」参照)。
(3) Wikipediaの「漢江の奇跡」には以下の記載があります。
 朝鮮戦争により壊滅的打撃を受け、1人当たりの国民所得は世界最貧国グループであった韓国経済は、その後、ベトナム戦争参戦によって得られたドル資金と、1965年の日韓基本条約を契機とした日本からの1960年代半ばから1990年までの約25年に渡る円借款およびその後も続いた技術援助により、社会インフラを構築して経済発展を遂げた。これが漢江の奇跡と呼ばれる。

第2 日韓請求権協定2条,及び日本の韓国に対する請求権の放棄
1 日韓請求権協定2条の条文及び合意議事録
(1) 
日韓請求権協定2条の条文は以下のとおりです(1,2,3を①,②,③に変えています。)。
① 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
② この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの
③ 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。
(2) 合意議事録(1)2項には,日韓請求権協定2条に関して以下の記載があります。
(a)「財産、権利及び利益」とは、法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。
(b)「特別の措置」とは、日本国については、第二次世界大戦の戦闘状態の終結の結果として生じた事態に対処して、千九百四十五年八月十五日以後日本国において執られた戦後処理のためのすべての措置(千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)の規定に基づく特別取極を考慮して執られた措置を含む。)をいうことが了解された。
(c)「居住した」とは、同条2(a)に掲げる期間内のいずれかの時までその国に引き続き一年以上在住したことをいうことが了解された。
(d)「通常の接触」には、第二次世界大戦の戦闘状態の終結の結果として一方の国の国民で他方の国から引き揚げたもの(支店閉鎖を行なつた法人を含む。)の引揚げの時までの間の他方の国の国民との取引等、終戦後に生じた特殊な状態の下における接触を含まないことが了解された。
(e)同条3により執られる措置は、同条1にいう両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題の解決のために執られるべきそれぞれの国の国内措置ということに意見の一致をみた。
(f)韓国側代表は、第二次世界大戦の戦闘状態の終結後千九百四十七年八月十五日前に帰国した韓国国民が日本国において所有する不動産について慎重な考慮が払われるよう希望を表明し、日本側代表は、これに対して、慎重に検討する旨を答えた。
(g)同条1にいう完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、日韓会談において韓国側から提出された「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがつて、同対日請求要綱に関しては、いかなる主張もなしえないこととなることが確認された。
(h)同条1にいう完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、この協定の署名の日までに大韓民国による日本漁船のだ捕から生じたすべての請求権が含まれており、したがつて、それらのすべての請求権は、大韓民国政府に対して主張しえないこととなることが確認された。
2 日韓請求権協定2条に基づく補償の義務は発生しないと考えられたこと
(1) 日韓条約と国内法の解説(昭和41年3月3日発行の「時の法令」別冊)64頁及び65頁には以下の記載があります。
 協定第二条3の規定の意味は、日本国民の在韓財産に対して、韓国の執る措置または日本国民の対韓請求権(クレーム)については、国が国際法上有する外交保護権を行使しないことを約束することであるが、一般に外交保護権は、国際法上、国際法の主体たる国に認められた固有の権利であり、きわめて高度の政治的判断によりその行使、不行使が決せられるものであり、国がその判断の結果について、自国民に対し補償の義務を負うべき限りではない。憲法との関連については、前記第二条3により、韓国が執る措置の対象となる日本国民の私有財産権がその措置の結果消滅することとされたときは、その財産権の消滅はこの協定によって直ちになされるのではなく、相手国政府の行為としてなされることとなり(規定の直接の効果は、前記のとおり日本政府をして外交保護権を行使しえない地位に立たせることとなる)、このことは換言すれば、その財産権の処理は、日本国の法律によらずして、日本国の主権が及ばない外国の法律の適用を受けるものであるから、憲法第二九条三項の問題とはならないと考えられる(この立場は、サン・フランシスコ平和条約第一四条に関して従来政府が表明して来た見解と同じである。)。
 附言すれば、わが国民の在韓財産であって、実体的権利としてこの協定署名の日に韓国にあるものは、実際問題として存在しないと思われる(一九四五年の在韓米軍政府の軍令第三三号による没収措置とその効果を承認した平和条約第四条の規定による)ので、憲法二九条三項との関係で補償問題が生ずる可能性はもともと発生しないと考えられる。ただ、だ捕漁船にかかる請求権については、わが国としていかなる主張もなしえないことになるものであって、わが国としては、外交上の保護をしないことを約したにとどまり、憲法二九条三項の問題とはならない。これにより損害を受けた国民に対する政策上の配慮として、救済措置をいかにするかは別の問題である。
 次に,韓国民の在日財産権については、わが国が措置を執ることとなるが、その財産権はそもそも外国人の権利であって、しかも、これを処理することが、日韓両国の国交回復上の障害を除くために不可欠であるが故に行われるのであり、韓国としてもその措置を承認しているので、わが憲法上の補償の問題が起こることはないと考えるのが至当であろう。
(2) 日韓請求権協定2条3項は,大韓民国政府の外交的保護権の放棄を含む条文です(最高裁平成13年4月5日判決)。
 戦前の日本人が朝鮮半島に残した財産の取扱い
(1) 北緯38度線以南の財産の取扱い
ア 在韓米軍政府は,1945年12月6日付の軍令第33号第2号で,北緯38度線以南のすべての日本財産を同年9月25日付をもって取得する旨を定めました。
 在韓米軍政府は,このようにして取得した財産を,アメリカ合衆国政府と大韓民国政府との間の財政及び財産に関する最初の取極(1948年9月11日付)5条によって韓国政府に引き渡しました。
 ハーグ陸戦法規46条は「私有財産はこれを没収することを得ず。」と定めているものの,日本政府は,サンフランシスコ平和条約4条(b)に基づき,在韓米軍政府の処分の効力を認めました。
イ 1957年にアメリカ政府は以下の解釈を示し,同年12月31日の合意議事録で,日韓両国は,この解釈に同意することを明らかにしました。
 合衆国は、日本国との平和条約第四条ならびに在韓米軍政府の関連指令および措置により、大韓民国の管轄内の財産についての日本国および日本国民のすべての権利,権原および利益が取り去られていたという見解である。したがって、合衆国の見解によれば、日本国は、これらの資産またはこれらの資産に関する利益に関する有効な請求権を主張することはできない。もっとも、日本国が平和条約第四条(b)において効力を承認したこれらの資産の処理は、合衆国の見解によれば、平和条約第四条(a)に定められている取極を考慮するに当たって関連があるものである。
ウ 日本政府としては,韓国政府に対して経済協力を供与し,これと並行して請求権問題を最終的に解決する方式を決意するに際しては,アメリカ政府の解釈も十分に念頭に置いていたとされています。
(2) 北緯38度線以北の財産の取扱い
ア 北緯38度線以北にあった日本財産については,1946年3月以降,北朝鮮当局による一連の没収措置の対象となり,1948年9月9日に北朝鮮政府が成立するとともに,その憲法の規定により,最終的かつ包括的に国有化されました。
 その結果,不動産以外のすべての財産は持ち去られ,不動産については没収により名義変更が行われました。
イ 1953年7月27日に朝鮮戦争休戦協定が成立して韓国政府の管轄下に入った地域の北朝鮮政府の財産については,反逆者の財産として処理されました。
(3) 参照文献等
ア 戦前の日本人が朝鮮半島に残した財産の取扱いについては,日韓条約と国内法の解説(昭和41年3月3日発行の「時の法令」別冊)65頁及び67頁を参照しています。
イ 「在外財産補償問題」も参照してください。
4 日本は李承晩ラインに基づく拿捕損害の賠償請求権を放棄したこと
(1) 昭和20年9月27日,「日本の漁業及び捕鯨業に認可された区域に関する覚書」と題する連合国最高司令官指令(いわゆる,マッカーサー・ライン)により,日本漁船の活動可能領域が指定され,その後,段階的に日本漁船の活動可能領域が拡大していきました。
(2)ア マッカーサー・ラインは,昭和27年4月28日のサンフランシスコ平和条約の発効に伴って失効することになっていたため,韓国は,昭和27年1月18日,「大韓民国隣接海洋の主権に対する大統領の宣言」(いわゆる,李承晩ライン)の公表により,一方的に排他的経済水域に類する水域を設定しました。
イ 日弁連人権委員会秋季総会は,昭和28年10月31日,以下の内容を有する,李ライン問題に関する日本漁民拉致に対し韓国の反省を求める件(宣言)を発表しました。
 凡そ、1国の領海は、3海里を限度とすることは国際法上の慣行であり、公海内に於ける魚族其他一切の資源は人類共同の福祉の為めに全世界に解放せらるべきである。
 然るに、韓国大統領は、これを封鎖して、平和的漁船を拿捕し、漁民を拉致し且つ刑事犯人として処罰するが如きは国際正義に悖る行為である。
 よって、本委員会は、正義と平和の名において、茲に韓国の反省と漁船、漁民の即時解放を求め、以って、相倚り相助け東亜の再建に貢献することを期待する。
(3)ア 昭和40年3月27日の椎名悦三郎外務大臣と李東元 韓国外務部長官の会談の結果,請求権問題の一環をなす韓国側の在籍船舶補償要求(昭和20年8月9日時点で朝鮮に登録されていた船舶等の補償要求(「船舶問題の経緯」参照))と,日本側の拿捕漁船及び乗組員に対する補償要求とは,日本漁船の安全操業が確保される限り,それぞれの要求を白紙に返すということで合意するに至りました(日韓漁業対策運動史419頁)。
 ただし,椎名悦三郎外務大臣は,昭和40年3月30日の参議院予算委員会において,李承晩ラインが撤廃される見込みであるなど,諸般の政治的な考慮の結果,拿捕漁船に対する賠償請求権の追及を断念したと答弁しています。
イ 赤城宗徳農林大臣は,昭和40年3月30日の参議院予算委員会において,李承晩ラインに基づく拿捕損害として韓国に対して請求すべき金額は約72億円であると答弁しています。
ウ 日韓漁業対策運動史418頁には以下の記載があります。
 三十八年(山中注:昭和38年)一月に協議会は大水(山中注:大日本水産会)と連名で、損害額の韓国への賠償請求を関係方面に陳情した。このとき調査した損害額は、掌捕漁船二九八隻のうち調査できた二八○隻分だけでも、船体・装備の評価額が一四億三千余万円、積載物の評価額が五億九千余万円、事件に伴う義務的出費が五億五千余万円、稼動想定による推定収益額が四六億六千余万円で、合計七二億四千余万円であった。
(4)ア 日韓請求権協定2条3項に基づき,日本は,韓国に対し,李承晩ラインに基づく拿捕損害の賠償請求権を放棄しました。
イ 韓国拿捕損害補償要求貫徹漁業者大会が昭和40年9月14日に採択した決議には以下の記載があります(日韓漁業対策運動史425頁及び426頁)。
 終戦後茲に二十年、韓国の国際法を無視した不法拿捕は、実に漁船三二八隻、抑留船員三九二九人、死傷者四四人にして、この損害額は総計九○億三千一百万円に達するのである。これに対する賠償措置は当然韓国に対してその請求がなされるべきであり、われわれはこれを強く信じ強く政府に要請してきた。
 しかるに政府は日韓交渉の妥結に当り、われわれの要請を無視して、韓国に対する損害賠償の請求権を放棄されたことは誠に遺憾の極みである。茲においてわれわれは、この補償措置こそ政府の責任において、しかも批准に先立って解決すべき重大問題であることを国民と共に確信するものである。
ウ 日韓漁業対策運動史423頁には,昭和35年度評価基準によれば拿捕損害総額は76億円であったものの,日韓漁業協議会が水産庁に同調して昭和39年度評価基準に基づいて改めて算出したところ,拿捕損害総額は約90億円に達したという趣旨のことが書いてあります。
(5) 日韓交渉において日本側が韓国側に要求した金額は72億円であったため,結局、掌捕保険などによって既に処置ずみのものを差し引いて約50億円を損害総額と推定した上で,拿捕漁船等に対する補償としては,特別交付金40億円の支給,及び10億円の低利長期融資(農林漁業金融公庫によるもの)が実施されました(日韓漁業対策運動史428頁及び429頁等参照)。
(6) 島根県HPの「李承晩ライン宣言と韓国政府」,及びiRONNA HP「「李承晩ライン」で韓国が繰り広げたこと」が参考になります。

第3 大韓民国等の財産権に対する措置法,及びこれに基づく個人の請求権の消滅
 大韓民国等の財産権に対する措置法の条文
 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和40年12月17日法律第144号)(略称は「大韓民国等の財産権に対する措置法」です。)の条文は以下のとおりです(1,2,3を①,②,③に変えています。)。
① 次に掲げる大韓民国又はその国民(法人を含む。以下同じ。)の財産権であつて、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(以下「協定」という。)第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規定の適用があるものを除き、昭和四十年六月二十二日において消滅したものとする。ただし、同日において第三者の権利(同条3の財産、権利及び利益に該当するものを除く。)の目的となつていたものは、その権利の行使に必要な限りにおいて消滅しないものとする。
 一 日本国又はその国民に対する債権
 二 担保権であつて、日本国又はその国民の有する物(証券に化体される権利を含む。次項において同じ。)又は債権を目的とするもの
② 日本国又はその国民が昭和四十年六月二十二日において保管する大韓民国又はその国民の物であつて、協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、同日においてその保管者に帰属したものとする。この場合において、株券の発行されていない株式については、その発行会社がその株券を保管するものとみなす。
③ 大韓民国又はその国民の有する証券に化体される権利であつて、協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものについては、前二項の規定の適用があるものを除き、大韓民国又は同条3の規定に該当するその国民は、昭和四十年六月二十二日以後その権利に基づく主張をすることができないこととなつたものとする。
2 大韓民国等の財産権に対する措置法に基づく権利等の消滅
(1) 大韓民国等の財産権に対する措置法1項に基づき,
日韓請求権並びに経済協力協定2条3項の「財産,権利及び利益」に該当するものは,昭和40年6月22日に消滅しました。
(2) 「権利,利益及び利益」という表現は,ベルサイユ条約297条,イタリアとの平和条約78条,サンフランシスコ平和条約14条,日印平和条約4条等に出てくる表現です。
(3) 日韓条約と国内法の解説(昭和41年3月3日発行の「時の法令」別冊)116頁には以下の記載があります。
 まず一般債権債務については、日本人が六月二二日以後この法律施行の日すなわち一二月一八日前に弁済を行った場合には、この法律により、当該債権債務は六月二二日に消滅したことになっているのであるから、当該日本人は存在しない債務を支払ったことになり、したがってその返還を求めることができる。また、もし日本人が一二月一八日後に債務の不存在を知りながら支払ったときは、非債弁済となり、民法の規定により返還請求を行うことはできない。したがって、たとえば、民間の銀行や会社が、信用とか宣伝の見地から韓国人の顧客や株主に対して法律上は消滅した債務を支払っても差つかえないことはもちろんで、このようなケースは実際にもかなり多いのではないかと思われる。
 他方、国の財務については、国は常に良好な状態でこれを管理すべきであって、特別の法律によらない限り、国が債務の不存在を知りながら債務の弁済として給付をなすことは許されないのであるから、このような事態が起こることはあり得ないものと考えられる。
(4) 第二次世界大戦の敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は,本来憲法の予定しないところであり,そのための処理に関して損害が生じたとしても,その損害に対する補償は,戦争損害と同様に憲法の予想しないものですから,大韓民国等の財産権に対する措置法は憲法17条,29条2項及び3項に違反しません(最高裁平成16年11月29日判決)。
 大韓民国等の財産権に対する措置法に基づく個人の請求権の消滅
(1)ア 大韓民国等の財産権に対する措置法の内容は極めて複雑多岐にわたり,かつ,その権利関係は,我が国の経済的・社会的な実生活の中に入り込んでいるため,法律案の作成に際しては,総理府,法務省,外務省,大蔵省,文部省,厚生省,通産省,農林省,運輸省,郵政省,労働省の関係部局が参画しました(日韓条約と国内法の解説(昭和41年3月3日発行の「時の法令」別冊)108頁及び109頁参照)。
イ 日韓請求権協定2条の直接の効果として個人の請求権を消滅させなかったのは,具体的に消滅させる大韓民国及びその国民の実体的権利を慎重に定めるためであったと思います。
(2) 
サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける請求権放棄の趣旨が,請求権の問題を事後的個別的な民事裁判上の権利行使による解決にゆだねるのを避けるという点にあるため,請求権の放棄とは,請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせることを意味しますから,その内容を具体化するための国内法上の措置は必要としない(最高裁平成19年4月27日判決)ものの,日韓請求権協定の場合,「大韓民国等の財産権に対する措置法」という国内法上の措置まで採られています。
 そのため,中国人等の戦争賠償請求権以上に,個人の請求権が消滅していることは明らかであると思います。

第4 在日韓国人及び台湾住民の軍人軍属に対する補償問題
1 総論

(1) 軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡につき,軍人軍属等であった者及びこれらの者の遺族に対しては,戦傷病者戦没者遺族等援護法(昭和27年4月30日法律第127号)(略称は「援護法」です。)に基づき障害年金等が支給されているものの,日本国籍を失った人,及び戸籍法の適用を受けない人は支給対象外となっています(援護法11条2号及び3号,並びに附則2項)。
(2) 援護法附則2項の趣旨は,援護法制定当時,それまで日本の国内法上で朝鮮人及び台湾人としての法的地位を有していた人の国籍の帰属が分明でなかったことなどから,これらの人々に援護法の適用がないことを明らかにすることにありました(最高裁平成13年4月5日判決)。
2 朝鮮人及び台湾人の国籍問題
(1)ア 戦前の取扱いとして,元来の日本人は戸籍法の適用を受け,内地戸籍に登載されていました。
 これに対して元来の朝鮮人は朝鮮戸籍令の適用を受け,朝鮮戸籍に登載されていましたし,元来の台湾人は台湾の戸籍(正式名称は「本島人戸籍」です。)に登載されていました。
イ 朝鮮人又は台湾人との婚姻又は養子縁組によって朝鮮人又は台湾人の家に入った日本人は,共通法(大正7年4月16日法律第39号)3条1項の「一ノ地域ノ法令ニ依リ其ノ地域ノ家ニ入ル者ハ、他ノ地域ノ家ヲ去ル」という規定に従って,朝鮮戸籍又は台湾の戸籍に登載され,他方で内地戸籍から除籍されました(朝鮮人につき最高裁大法廷昭和36年4月5日判決,台湾人につき最高裁大法廷昭和37年12月5日判決)。
ウ 戦前は,内地(北緯50度以南の樺太を含む。),朝鮮,台湾及び関東州とで適用される法令が異なりました(共通法1条参照)。
(2) 日本国憲法施行の前日に公布され,明治憲法下の最後の勅令となった外国人登録令(昭和22年5月2日勅令第207号)11条では,「台湾人のうち内務大臣の定める者及び朝鮮人は、この勅令の適用については、当分の間、これを外国人とみなす」とされました。
(3)ア ①明治8年5月7日調印の樺太千島交換条約第5款,②明治28年4月7日調印の日清講和条約第5条及び③明治38年9月5日調印の日露講話条約第10条では,領土変更の対象となる地域の住民に国籍選択権が定められていました。
 しかし,サンフランシスコ平和条約の場合,①日本が権利,権原及び請求権を放棄する台湾,澎湖諸島,南樺太及び千島列島の帰属先が未定でした(特に台湾及び澎湖諸島が中華民国又は中華人民共和国のいずれに帰属するか)し,②「中国」代表としてどちらの政府が参加するかに関する合意が成立しませんでしたから,国籍に関する条文が定められませんでした。
イ 最高裁昭和40年6月4日判決は以下の判示をしているものの,「放棄された領土と住民の国籍」で説明されている国籍の選択に関する先例とはかなり異なる気がします。
 領土の割譲、併合、復帰等国際法上のいわゆる領土変更に伴なう国籍の変動にあたつては、当該領土に属すべきものは、旧国籍を離脱するにとどまらず、その変動が主権の移転によるものであるから、当事国ないし相手国の国内法の規定の如何を問わず、旧国籍の離脱と同時に新国籍を取得するものといわなければならない。
3 在日韓国人の軍人軍属に対する補償問題
(1)ア 日本の国内法上朝鮮人としての法的地位を持った人は,戸籍法の適用を受けておらず,昭和27年4月28日のサンフランシスコ平和条約の発効により日本国籍を失いました(最高裁大法廷昭和36年4月5日判決及び最高裁昭和40年6月4日判決)。
イ 朝鮮人の国籍喪失に関する最高裁判決の判示内容は,平和条約の発効に伴う朝鮮人、台湾人等に関する国籍及び戸籍事務の処理(昭和27年4月19日付の法務府民事局長通達)を追認したものであったのに対し,台湾人の国籍喪失に関する最高裁判決は,台湾人の国籍喪失は,昭和27年8月5日の日華平和条約の発効によるとするものでした。
ウ 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成3年5月10日法律第71号)2条1項柱書は,「日本国との平和条約の規定に基づき同条約の最初の効力発生の日(以下「平和条約発効日」という。)において日本の国籍を離脱した者」と定めています。
(2) それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた軍人軍属が援護法の適用から除外されたのは,これらの人々の請求権の処理は平和条約により日本国政府と朝鮮の施政当局との特別取極の主題とされたことから,上記軍人軍属に対する補償問題もまた両政府間の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものです(最高裁平成13年4月5日判決)。
(3) 日韓請求権協定の締結後,日本国政府は,同協定2条2項(a)に該当する在日韓国人の軍人軍属の補償請求については,これらの人々が援護法の適用から除外されている以上,法律上の根拠を有する実体的権利ではないから,同項にいう「財産,権利及び利益」には当たらず,同条3項により大韓民国政府の外交保護権は放棄されており,同協定により解決済みであるとの立場をとり,他方で,大韓民国政府は,在日韓国人戦傷者の補償請求権は日韓請求権協定の解決対象には含まれておらず,同協定2条2項(a)にいう「財産,権利及び利益」に該当するものと解釈しており,同項(a)に該当する在日韓国人の軍人軍属については,大韓民国の国内法による補償の対象から除外しました。
 そのため,これらの在日韓国人の軍人軍属は,その公務上の負傷又は疾病等につき日本国からも大韓民国からも何らの補償もされないまま推移しました。
 その結果として,日本人の軍人軍属と在日韓国人の軍人軍属との間に公務上の負傷又は疾病等に対する補償につき差別状態が生じていたことは否めないものの,このような差別状態は憲法14条1項に違反しません(最高裁平成13年4月5日判決)。
(4) 平和条約国籍離脱者等である戦没者遺族等に対する弔慰金等の支給に関する法律(平成12年6月7日法律第114号)に基づき,我が国は,人道的精神に基づき,在日韓国人ら平和条約国籍離脱者等である戦没者等遺族及び重度戦傷病者遺族に対し,死亡した者1人につき弔慰金260万円を支給し,また,平和条約国籍離脱者等である重度戦傷病者に対し,1人につき見舞金200万円及び重度戦傷病者老後生活設計支援特別給付金200万円を支給しました。
4 台湾住民の軍人軍属に対する補償問題
(1)ア 日本の国内法上台湾人としての法的地位を持った人は,戸籍法の適用を受けておらず,昭和27年8月5日の日華平和条約の発効により日本国籍を失ったのであって,日中共同声明によってもこの解釈に変更が生じることはありません(最高裁大法廷昭和37年12月5日判決最高裁昭和38年4月5日判決及び最高裁昭和58年11月25日判決)。
イ 日華平和条約10条は,「この条約の適用上、中華民国の国民には、台湾及び澎湖諸島のすべての住民及び以前にそこの住民であつた者並びにそれらの子孫で、台湾及び澎湖諸島において中華民国が現に施行し、又は今後施行する法令によつて中国の国籍を有するものを含むものとみなす。」と定めています。
(2)ア 台湾住民である軍人軍属が援護法及び恩給法の適用から除外されたのは、台湾住民の請求権の処理は日本国との平和条約及び日華平和条約により日本国政府と中華民国政府との特別取極の主題とされたことから、台湾住民である軍人軍属に対する補償問題もまた両国政府の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づきます(最高裁平成4年4月28日判決)。
イ 日華平和条約3条の条文は以下のとおりです。
 日本国及びその国民の財産で台湾及び澎湖諸島にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で台湾及び澎湖諸島における中華民国の当局及びその住民に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国政府と中華民国政府との間の特別取極の主題とする。国民及び住民という語は、この条約で用いるときはいつでも、法人を含む。
(3)ア 日華平和条約に基づく特別取極については,その成立をみることなく右条約締結後20年近くを推移するうち,昭和47年9月29日,日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(略称は「日中共同声明」です。)が発せられ,日本国政府は中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認した結果,右特別取極についての協議が行われることは事実上不可能な状態になりました。
 しかし,我が国が台湾住民である軍人軍属に対していかなる措置を講ずべきかは,立法政策に属する問題です(最高裁平成4年4月28日判決)。
イ 日中共同声明により,中国国家の国名は「中華民国」から「中華人民共和国」に変更されました(光華寮訴訟に関する最高裁平成19年3月27日判決)。
(4) 台湾住民である戦没者の遺族等に対する弔慰金等に関する法律(昭和62年9月29日法律第105号)及び特定弔慰金等の支給の実施に関する法律(昭和63年5月6日法律第31号)に基づき,我が国は,人道的精神に基づき,台湾住民である戦没者の遺族等に対し,戦没者等又は戦傷病者一人につき200万円の弔慰金又は見舞金を支給しました。

第5 日韓請求権協定,及び大韓民国等の財産権に対する措置法に関する答弁書
1 平成15年1月28日付の答弁書
 参議院議員櫻井充君提出日本の戦後処理問題に関する質問に対する答弁書(平成15年1月28日付)には以下の記載があります。
 御指摘の平成十四年十一月十九日に言い渡された大阪高等裁判所平成十三年(ネ)第一八五九号損害賠償等請求控訴事件の判決(以下「御指摘の大阪高裁判決」という。)は、原告である控訴人らの請求に係る債権は、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号。以下「日韓請求権協定」という。)第二条3に定める財産、権利又は利益に該当し、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和四十年法律第百四十四号。以下「措置法」という。)の適用によって昭和四十年六月二十二日をもって消滅したものと解するのが相当である旨判示したものである。日韓請求権協定第二条3に定める財産、権利及び利益に該当する債権が措置法によって消滅したことについては、政府が従来から明らかにしているところであり、平成四年二月二十六日の衆議院外務委員会においても、柳井俊二外務省条約局長(当時)は、我が国が措置法において大韓民国(以下「韓国」という。)の国民の財産権を消滅させる措置をとったことにより、「韓国の国民は我が国に対して、私権としても国内法上の権利としても請求はできない」旨述べている。
 これに対し、お尋ねの平成三年八月二十七日の参議院予算委員会における同条約局長の答弁は、措置法について説明したものではなく、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保護権の観点から説明したものであり、日韓請求権協定に関するこのような政府の解釈は一貫したものである。
2 平成30年11月20日付の答弁書
 衆議院議員初鹿明博君提出日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問に対する答弁書(平成30年11月20日付)には以下の記載があります。
 大韓民国(以下「韓国」という。)との間においては、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号。以下「日韓請求権協定」という。)第二条1において、両締約国及びその国民(法人を含む。)の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認し、また、同条3において、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権であって日韓請求権協定の署名の日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとしている。
 御指摘の平成三年八月二十七日及び同年十二月十三日の参議院予算委員会における柳井俊二外務省条約局長(当時)の答弁は、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保護権の観点から説明したものであり、また、韓国との間の個人の請求権の問題については、先に述べた日韓請求権協定の規定がそれぞれの締約国内で適用されることにより、一方の締約国の国民の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果救済が拒否されることから、法的に解決済みとなっている。このような政府の見解は、一貫したものである。

第6 2018年10月30日の韓国大法院判決等
1 2018年10月30日の韓国大法院判決及びその個別意見の骨子
(1) 
修の呟きブログ「新日鉄住金事件大法院判決全文 仮訳」12頁ないし16頁によれば,2018年10月30日の韓国大法院判決は,日本政府は請求権協定の交渉過程において,植民支配の不法性及びそれに対する賠償責任の存在を否認していたことから,被害者側である大韓民国政府が自ら強制動員慰謝料請求権までも含む請求権協定を締結したとは考えられない等の理由により,強制動員慰謝料請求権は請求権協定の対象外であり,消滅していないと判示したみたいです。
(2) 大法官金昭英(キムソヨン),李東遠(イドンウォン)及び盧貞姫(ノジョンヒ)の3人の個別意見(「新日鉄住金事件大法院判決全文 仮訳」20頁ないし32頁)は,強制動員慰謝料請求権は請求権協定の対象であるものの,外交的保護権が放棄されたに過ぎないから,大韓民国において訴訟によって権利行使できると判断しました。
(3) 大法官権純一(クォンスニル)及び趙載淵(チョジュエン)の2人の反対意見(「新日鉄住金事件大法院判決全文 仮訳」32頁ないし42頁)は,請求権協定は外交的保護権の放棄にとどまるものではないから,強制動員慰謝料請求権が請求権協定によって直ちに消滅したり放棄されたわけではないが,訴訟によってこれを行使することは制限されることになったと判断しました。
(4)ア 2018年10月30日の韓国大法院判決につき,3人の個別意見は外交的保護権のみ放棄説であり,2人の反対意見は権利行使阻害説であり,多数意見はそのいずれでもありません。
イ 外交的保護権のみ放棄説及び権利行使阻害説の中身については,「平和条約における請求権放棄条項に関する三つの説及び最高裁判例」を参照してください。
2 2018年10月30日の韓国大法院判決が支払を命じた金額等
(1) 2018年10月30日の韓国大法院判決は1人あたり1億ウォン(約1000万円)の支払を命じました(livedoor NEWSの「徴用工の損害賠償問題 日本企業全体で2兆円超になる可能性も?」(平成30年11月13日付)参照)。
(2) ヤフーニュースに載ってある「[寄稿]徴用工問題の解決に向けて」(寄稿者は宇都宮健児 元日弁連会長)には以下の記載がありますところ,これによれば,166万人以上の強制労働被害者の場合,1人あたりの賠償金は43万3735円以下であったことになります。
 ナチス・ドイツによる強制労働被害に関しては、2000年8月、ドイツ政府と約6400社のドイツ企業が「記憶・責任・未来」基金を創設し、これまでに約100カ国の166万人以上に対し約44億ユーロ(約7200億円)の賠償金を支払ってきている。このようなドイツ政府とドイツ企業の取り組みこそ、日本政府や日本企業は見習うべきである。
(3) ドイツの戦後補償では,狭義の戦後賠償は行われないまま事実上放置されていますし,強制労働従事者に対する補償は人道的な見地から行われるものであって,法的責任に基づくものではないと説明されています「ドイツの戦後補償」参照)。
3 日韓請求権協定は徴用工に対する補償を含むものであったこと

(1)ア 日韓請求権協定2条に基づき,韓国が日本に対していかなる主張もなしえなくなった「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目)の要綱5には,被徴用韓人の未収金,補償金及びその他の請求権が含まれています。
イ 国家総動員法(昭和13年4月1日法律第55号)4条及び6条に基づく勅令としての国民徴用令(昭和14年7月8日勅令第451号)の朝鮮半島への適用は,昭和19年8月8日付の閣議決定に基づくものであって,それ以前は昭和17年1月開始の官斡旋(朝鮮総督府朝鮮労務協会が実施したもの)でした。
 また,日本本土への徴用工の派遣は,下関・釜山間の連絡船の運航が困難になった関係で,昭和20年3月に終わりました。
ウ 昭和19年8月に閣議決定された昭和19年度国民動員実施計画をもって,朝鮮人労働者29万人の内地移入のほか,中国人労働者3万人の本格移入を実施する旨の方針を定められました(最高裁平成19年4月27日判決)。
エ NHK政治マガジン「政府「徴用工」は「旧朝鮮半島出身労働者」に」(平成30年11月11日付)」
には,「韓国の最高裁判所が、太平洋戦争中の徴用をめぐる裁判で新日鉄住金に賠償を命じた判決を受けて、政府は、すべての人が徴用されたわけではないことを明確にする必要があるとして、「旧民間人徴用工」などとしてきた呼称を「旧朝鮮半島出身労働者」に改めました。」と書いてあります。
オ Wikipediaの「日本統治時代の朝鮮人徴用」が非常に詳しいです。
(2) 1965年に韓国政府が発行した「大韓民国と日本国間の条約および協定解説」には,「被徴用者の未収金と補償金、恩給等に関する請求、韓国人の対日本政府と日本国民に対する各種請求等はすべて完全かつ最終的に消滅する事になる。」などと書いてあるみたいです(FNN PRIME HP「韓国政府の「解説書」入手!やっぱりおかしい大法院判決」(平成31年2月4日付)参照)。
(3) 「元サムスン技術通訳が教える韓国語」には1976年に韓国・経済企画院から発刊された「請求権資金白書」の日本語訳が載っていますところ,「第3章第3節 ウォン貨資金の造成と活用」には,「a.補償の対象」として以下の記載があります(アゴラHP「徴用工判決:日本人弁護士の「国際裁判でも韓国が勝つ」を読んで」(平成31年2月22日付)参照)。
民間補償の対象は対日民間請求権申告管理委員会において証拠及び資料の適否を審査し、当該請求権申告の受理が決定されたものを対象とする。
(中略)
i.「日本国により軍人、軍属または労務者として召集また徴用され1945.8.15以前に死亡した者」である上、これに対する補償請求権者の遺族としては、被徴用者の死亡当時、その者と親族関係にあった者で申告日現在次の1に該当する者を言う。

子女
父母
成年男子である系直卑属がなくなった祖父母
4 韓国大法院判決に対する被告企業のコメント
(1) 新日鐵住金HPに「徴用工訴訟に関する韓国大法院判決について」(平成30年10月30日付)が載っています。
(2) 三菱重工業HPに「本日の韓国大法院の判決(2件)について 」(平成30年11月29日付)が載っています。

第7 日韓請求権協定3条に基づく仲裁手続が実施できなかったこと
1 日韓請求権協定3条の条文
 日韓請求権協定3条の条文は以下のとおりです(1,2,3,4を①,②,③,④に変えています。)。
① この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。
② 1の規定により解決することができなかつた紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から三十日の期間内に各締約国政府が任命する各一人の仲裁委員と、こうして選定された二人の仲裁委員が当該期間の後の三十日の期間内に合意する第三の仲裁委員又は当該期間内にその二人の仲裁委員が合意する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のため付託するものとする。ただし、第三の仲裁委員は、両締約国のうちいずれかの国民であつてはならない。
③ いずれか一方の締約国の政府が当該期間内に仲裁委員を任命しなかつたとき、又は第三の仲裁委員若しくは第三国について当該期間内に合意されなかつたときは、仲裁委員会は、両締約国政府のそれぞれが三十日の期間内に選定する国の政府が指名する各一人の仲裁委員とそれらの政府が協議により決定する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員をもつて構成されるものとする。
④ 両締約国政府は、この条の規定に基づく仲裁委員会の決定に服するものとする。
2 日韓請求権協定3条に基づく仲裁手続
(1) 第2項は,第1項に基づく外交協議で解決できなかった場合について,「いずれか一方」が「他方」から「紛争の仲介を要請する公文」を受け取ってから30日の期間内に,まずは両国が1人ずつ委員を選任しなさい,と定めています。
 例えば,日本政府が日本人の委員を1人,韓国政府が韓国人の委員を1人選び,このようにして選ばれた日韓両国の委員が,さらに日韓以外の第三国からもう1人の委員を選び,合計3人で仲裁委員会を組織し,紛争について協議することが予定されています。
(2) 第3項は,第2項に基づく仲裁手続を開始できなかった場合について,第三国による仲裁という手続を定めています。
 例えば,日本が米国を、韓国が中国を第三国として選び,それらの第三国の政府が1人ずつ仲裁委員を指名し、その上で2つの第三国政府がさらに第三国(例えば,スイス)から1人の仲裁委員を選ぶことが予定されています。
3 韓国政府が日韓請求権協定3条に基づく仲裁手続を履行しなかったこと
(1) 旧朝鮮半島出身労働者問題(いわゆる「徴用工問題」です。)に関して,日本政府は,韓国政府に対し,平成31年1月9日,日韓請求権協定に基づく韓国政府との協議を要請したものの,韓国政府は協議の要請に応じませんでした。
 日本政府は,韓国政府に対し,令和元年5月20日,日韓請求権協定3条2項に基づく仲裁付託を通告したものの,韓国政府は,仲裁委員を任命する義務に加えて,締約国に代わって仲裁委員を指名する第三国を選定する義務についても,同協定に規定された期間内に履行しませんでした。
(2) 外務省HPに「大韓民国による日韓請求権協定に基づく仲裁に応じる義務の不履行について(外務大臣談話)」(令和元年7月19日付)が載っています。

第8 日韓基本条約等が掲載されているHP
1 データベース「世界と日本」「日本と朝鮮半島関係資料集」に以下の文書が載っています。
① 日韓基本条約
② 日韓請求権協定第一議定書第二議定書合意議事録(1)及び合意議事録(2)
2 データベース「世界と日本」「日中関係資料集」には以下の文書が載っています。
① 日本国と中華民国との間の平和条約
② 日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明
③ 日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約

第9 関連記事及び参考になるHP
1 以下の記事も参照してください。
① 日本の戦後賠償の金額等
② 日本の戦後処理に関する記事の一覧
③ 日本の領海
2(1) 国立国会図書館HPの
「調査と情報」に,「朝鮮半島をめぐる動向:解説と年表―第二次世界大戦終結後―」(2019年2月26日発行)が載っています。
(2) 「財務省(旧大蔵省)の日韓会談関係公文書」と題するHPには,財務省に対する情報公開請求で取得したという日韓会談関係の166の公文書がPDFファイルで掲載されています。
(3) Wikipediaに「日本の戦争賠償と戦後補償」が載っています。
3(1) 日弁連HPの「戦後補償のための日韓共同資料室」に以下の頁があります。
① 日本の法令・裁判例・その他資料
② 韓国の法令・裁判例・その他資料
(2) リンク先には,「日弁連と大韓弁協は韓国併合100周年にあたる2010年に共同宣言を発表し、植民地支配や強制動員の被害者の被害回復のために持続的な調査研究・交流を通じて協働することを宣言しました。」と書いてあります。なお,平成22年当時の日弁連会長は宇都宮健児弁護士でした。
4 事実を整えるブログ「韓国徴用工:日韓請求権協定の個人の請求権に関する河野太郎外務大臣の解説の解説」(平成30年11月23日付)が載っています。

スポンサーリンク