第1 KSK2の位置付け
1 KSK2とは何か
KSK2は,国税総合管理システムの次世代版であり,全国の国税局と税務署を結び,申告・納税の事績,各種資料,国税債権等を地域や税目を越えて管理し,税務調査や滞納整理を含む国税事務に利用する基幹システムです。
国税庁は令和8年9月24日に国税システムを更改したと公表しており,本記事では同月27日を調査基準日として,国税庁の公表資料をAIで整理した上で原資料と照合しました。
KSK2は,納税者向けの一つの新サービスの名称ではありません。
内部の賦課・徴収事務,書面の収受・入力,e-Tax,マイナポータル,eLTAX等との連携を支えるシステム群として理解するのが適切です。
2 更改の三つの開発コンセプト
国税庁が開発段階で示したコンセプトは,紙を前提とした処理からデータ中心の事務処理へ移ること,税目別のデータベース及びアプリケーションを統合すること,独自OSのメインフレームから汎用的なOSを使うオープンシステムへ刷新することの三つです。
旧KSKも地域や税目を越えた情報の一元管理を目的とするシステムでしたが,KSK2では,その内部に残っていた税目別のデータベース及びアプリケーションを統合することが開発課題とされました。
3 分かることと公表資料の限界
公表資料からは,KSK2の目的,主な機能,取り扱う情報の類型,外部システムとの連携,AI-OCR及びデータ分析の概略を確認できます。
一方,個別の納税者について用いる抽出条件,モデルの重み,職員画面の具体的な表示内容その他の詳細な内部運用は,確認した公表資料だけでは分かりません。
第2 KSK2が扱う事務と情報
1 申告から債権管理までの主な機能
国税庁の全項目評価書は,主な機能として,納税者ごとの部内番号の確認・付番,申告書等の入力,納税者の基本情報及び関係者情報の管理,各税目の申告・申請・届出情報の管理,法定調書等の資料情報の管理,国税の債権債務の管理,納税証明書の作成並びに税務調査対象者の選定等を挙げています。
したがって,KSK2は単なる電子申告の受付システムではなく,収受後の処理,課税,徴収,証明及び調査選定を横断する基盤です。
2 外部システムとの連携
全項目評価書には,e-Tax,eLTAX,住民基本台帳ネットワークシステム,マイナポータル,口座情報登録システム,日本銀行のシステム等との情報連携が記載されています。
例えば,地方公共団体との間ではeLTAXを経由して課税・滞納情報を照会・提供し,マイナポータルとの関係ではお知らせの通知や自己情報の連携にKSK2が関与します。
外部連携があることは,すべての情報を無条件に共有することを意味しません。
どの情報をどの目的で取り扱うかは,税法,番号法その他の根拠と個別の連携仕様によって区別して読む必要があります。
3 ガバメントクラウドと外部ネットワーク非接続端末
全項目評価書は,KSK2に加え,ガバメントソリューションサービス,ガバメントクラウド及び外部ネットワークに接続しない高性能パソコンを併用してデータ分析を行う構成を示しています。
ガバメントクラウドでは各種納税者情報を含むデータを加工・分析し,高性能パソコンではKSK2内の各税目データや調査で取得したデータを分析するとされています。
この記載から分かるのは,国税事務の全情報が一つの公開クラウドへ単純に移されたということではなく,目的に応じて複数の環境を組み合わせる構成であることです。
外部ネットワーク非接続端末からデータを移動する場合の媒体限定,暗号化及び不要データ削除も,同評価書に記載されています。
第3 AI-OCR,予測AI及びデータ分析
1 AI-OCRによる書面のデータ化
令和8年9月24日の更改後は,一部の書面申告書,申請書等について,AI-OCRがフリーピッチ枠の文字を認識し,データ化及びイメージ化を行います。
全項目評価書では,書面をAI-OCRでデータ化し,イメージを格納するとともに,テキストをデータベースへ連絡して一元管理及び分析に利用する流れが示されています。
AI-OCRの導入は,紙の受付を直ちに廃止することを意味しません。
国税庁は更改後も書面提出を受け付けていますが,最新様式の利用とe-Tax申告を案内しています。
2 調査選定と滞納整理を支援するデータ分析
国税庁は,蓄積した決算事績や資料情報等を多角的に分析し,税務調査対象の選定や滞納整理対象者の抽出を支援する機能を説明しています。
全項目評価書にも,申告漏れの可能性が高い納税者等の判定や,滞納者の状況に応じた対応の判別にデータ分析を利用するとの記載があります。
もっとも,確認した公表資料には,AIだけで税額,申告の誤り又は調査着手を自動的に確定するとの記載はありません。
公表されているのは分析・選定支援の概略であり,個別案件の判断過程を外部から再現できるだけの仕様ではありません。
3 予測AIと生成AIは別の用途であること
国税庁は,AI活用を,過去のデータ等から未知の事象を予測することに強みを持つ「予測AI」と,文章・画像等を生成する「生成AI」に分けて説明しています。
KSK2に関する調査選定や滞納対応の分析を,対話型生成AIが納税者を評価する仕組みと同一視することはできません。
国税庁は,AI活用に際してセキュリティリスク及びハルシネーションリスクにも注意するとしています。
ただし,この一般的な方針だけから,KSK2の各モデルの精度や誤判定率を評価することはできません。
第4 納税者及び事業者に見える変更
1 申告書等の様式と控用
一部の書面申告書,申請・届出書及び法定調書は新しい様式となり,申告書の控用はなくなり,配色は原則として白黒になりました。
国税庁は受付開始後の最新様式の利用を求めていますが,ベンダーソフトから最新様式が出力されない場合等には従前様式でも提出できると説明しています。
紙で提出した事実を後から確認する方法は,控用への収受日付印を前提としない形へ移っています。
提出方法に応じ,受信通知,申告書等情報取得サービス,保有個人情報の開示請求又は申告書等閲覧サービスなど,目的に合う確認方法を使い分ける必要があります。
2 13桁の「お問い合わせ番号」
税務署から送付される通知等には,その通知を特定する13桁の「お問い合わせ番号」が印字されます。
また,納付書及び所得税徴収高計算書では,8桁の「整理番号」欄が13桁の「お問い合わせ番号」欄へ変更されました。
通知について税務署へ問い合わせるときは,通知書の名称,日付及びお問い合わせ番号を手元に置くと対象を特定しやすくなります。
お問い合わせ番号は通知等を特定する番号であり,マイナンバーそのものではありません。
3 e-Taxの接続先と文字の取扱い
e-TaxのIPアドレスは,固定IPアドレスから動的IPアドレスへ変更されました。
接続先をIPアドレスで指定している事業者は,国税庁の案内に従いURLによる接続へ変更する必要があります。
税務署が送付する文書や納税証明書等で使用する漢字・記号は,JIS第1水準から第4水準までとなりました。
一部の文字は字形が置き換わる場合又は手書きで表示される場合がありますが,申告書等を提出する際には引き続き旧字体等を使用できます。
4 提出年月日の表示と電子交付の一括同意
申告書等閲覧サービスや開示請求等により開示される申告書等では,提出年月日がヘッダーに表示されます。
これは開示資料から提出時点を確認しやすくする変更ですが,個々の手続について提出期限内であったかどうかは,対象税目,法定期限及び提出年月日を照合して判断する必要があります。
処分通知等の電子交付は対象が拡大し,同意方法は原則として申請等の都度の同意から事前の一括同意へ変更されました。
電子交付を希望する場合,従前から利用していた人を含め,e-Tax上で改めて一括同意の手続が必要です。
第5 更改前後に公表された不具合等
1 e-Taxの不具合と解消公表
更改日の令和8年9月24日には,インターネットバンキングによる納付の完了表示の不具合と,e-Taxからマイナポータルを経由してログインできない事象が公表されました。
いずれも翌25日午前8時30分時点で解消したとされています。
また,9月25日にはe-Taxの一部機能を利用できない状況が発生し,国税庁は9月27日更新のお知らせで解消済みと公表しました。
障害の発生と解消は同じ時刻ではないため,記事や業務記録では,掲載日,更新日及び解消時点を分けて扱う必要があります。
2 税務署窓口での手続遅延
国税庁は9月24日付けで,現金領収,納税証明書の交付等の税務署窓口手続に相当の時間を要し,e-Taxで請求した納税証明書も即座に交付できない状況を公表しました。
同資料は,システム更改自体は完了したものの,窓口業務に必要なシステムの稼働に問題が生じたと説明しています。
この公表は,すべての税務署,すべての手続又は現在の全時間帯で同じ遅延が続くことを示すものではありません。
急ぎの証明書交付等がある場合は,本記事の実務上の提案として,来署前に最新のお知らせと所轄税務署の状況を確認しておくことが考えられます。
3 更改前に判明した仕様書の掲載誤り
国税庁は9月10日,8月28日に掲載したKSK2対応版のe-Tax仕様書等の一部に,過去分の仕様書を誤って掲載していたと公表しました。
正しい仕様書へ差し替えた上で,8月28日以降に対象仕様書をダウンロードした利用者に再ダウンロードを求めています。
会計・税務ソフト,金融機関向け連携その他の外部接続を開発・運用する事業者は,保存済みの仕様書の日付だけでなく,現在の掲載版と更新履歴を照合する必要があります。
KSK2の影響は画面の変更に限られず,外部システムの接続・送信仕様にも及びます。
第6 税務実務で区別しておきたいこと
1 システム更改と税法上の義務は別であること
KSK2は国税事務を処理する基盤の更改であり,それ自体が申告義務,納付義務,税務調査の法的根拠又は処分の要件を新設するものではありません。
個別の申告,調査,徴収及び不服申立てについては,引き続き各税法及び国税通則法等の根拠を確認する必要があります。
他方,様式,受付,電子交付又は接続仕様の変更は,提出作業や証拠の残し方に現実の影響を与えます。
法的義務の内容と,その義務を履行するためのシステム上の手順を分けて確認することが重要です。
2 データの整合性が重要になること
税目別データベースの統合,外部情報との連携及びAI-OCRによる書面のデータ化が進むほど,申告書,法定調書,届出書,納付記録及び会計データの間の不一致を説明できる資料が重要になります。
ただし,不一致があることだけで申告漏れや不正が確定するわけではなく,対象期間,取引の法的性質,計上時期及び資料の作成目的を踏まえた確認が必要です。
事業者側の通常の対応は,KSK2の内部ロジックを推測することではなく,申告の根拠となる帳簿書類を保存し,提出データと最終版を一致させ,修正や差替えの経緯を追える状態にすることです。
税務調査への対応については,税務調査に関するメモ書き-事前通知,帳簿データ,質問応答記録書及びAI活用(AI作成)も参照してください。
3 障害時に残しておく記録
期限のある申告・納付時に不具合が生じた場合は,利用者側の記録として,発生日時,利用した機能,表示されたメッセージ,送信又は納付の操作履歴,受信通知,金融機関側の取引記録及び国税庁のお知らせを保存しておくと,後の照合に役立ちます。
これは国税庁が一律に義務付けた手順ではなく,事実経過を再現するための記事作成者による実務上の提案です。
システム障害が公表されたことだけから,個別の申告・納付期限が当然に延長されたと判断することはできません。
期限に影響する場合は,国税庁の個別のお知らせ,期限延長の根拠及び自分の送信・納付状況を別に確認する必要があります。
4 セキュリティ資料の読み方
国税庁の公表資料には,職務上必要な情報だけを利用できる仕組み,セキュリティ監査,ISMS認証,外部ネットワーク非接続端末,媒体の限定及び暗号化等が記載されています。
これらは国税庁が採用している管理策を示す資料であり,事故が起きないことを外部機関が個別に保証した資料ではありません。
全項目評価書は,特定個人情報を取り扱う事務,情報の流れ,リスク対策等を確認する上で重要です。
もっとも,公開された評価書から個々の職員のアクセス状況や各時点の運用実態まで確認できるわけではないため,制度設計と実際の運用実績を区別して読む必要があります。
第7 関連する記事
1 提出の証明と申告書の閲覧
収受日付印廃止後に,申告書を提出した事実や提出内容をどのように確認するかについては,収受日付印廃止後の申告書提出証明と申告書等閲覧サービス-弁護士代理・相続人・e-Tax(AI作成)で整理しています。
2 国税庁資料の法的な位置付け
法令解釈通達,事務運営指針,文書回答事例及び質疑応答事例の違いについては,国税庁の法令解釈通達・事務運営指針・文書回答事例・質疑応答事例(AIリライト)を参照してください。
KSK2のシステム説明も,税法そのものや法令解釈通達と同じ法的性質を持つものではありません。
第8 出典
1 国税庁による制度及び更改の説明
国税庁「国税総合管理(KSK)システム/システムの高度化(新たなシステムの構築)」(旧KSKの位置付け及びKSK2の三つの開発コンセプト)
国税庁「国税システムの更改について」(令和8年9月24日の更改,様式,お問い合わせ番号,e-Tax,文字及び電子交付の変更)
e-Tax「ソフトウェア開発業者の方へ」(令和8年9月24日の更改及びAI-OCRによるデータ化・イメージ化)
国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」(予測AIと生成AIの区別及びAI利用上のリスク)
2 個人情報,システム機能及び情報連携
国税庁「特定個人情報保護評価書(全項目評価書)国税関係事務」(令和8年6月10日公表。事務の内容,KSK2の機能及び外部連携は3頁~6頁(PDF3頁~6頁),書面のAI-OCR処理は9頁(PDF9頁))
3 更改前後のお知らせ
e-Tax「国税システムの更改に伴うe-Tax仕様書等の掲載誤りについて」(令和8年9月10日掲載)
e-Tax「【解消】インターネットバンキングによる納付の完了表示の不具合について」及びe-Tax「【解消】マイナポータルを経由したログインができない事象について」(令和8年9月24日掲載,同月25日更新)
e-Tax「【解消】e-Taxの利用ができない状況について」(令和8年9月25日掲載,同月27日更新)
国税庁「税務署窓口における各種手続の遅延について」(令和8年9月24日,1頁(PDF1頁))