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従業員の窃盗・横領で被害を受けた会社の税務―盗難損失,損害賠償請求権,修正申告及び加算税(AI作成)

第1 被害会社でも申告の修正が必要になることがある

会社の原材料,商品又は金銭を従業員が盗んだ場合,会社は被害者である。
しかし,被害者であることだけで,法人税の修正申告や加算税の問題がなくなるわけではない。
盗難による損失,加害者に対する損害賠償請求権,実際の回収及び回収不能を,それぞれの事業年度に分けて検討する必要がある。

本記事は,令和8年10月7日に確認した法令,国税庁の公表資料及び国税不服審判所の公表裁決を基に,会社の経理担当者,税理士及び弁護士が共通の資料を作るための確認順序を示すものである。
個別会社の被害額や犯人の資力を仮定した解説ではない。

分ける問題確認する内容
盗難損失失われた資産の帳簿価額,既に原価・費用へ算入した額,発生年度
損害賠償請求権相手方,権利の存在・内容を客観的に把握できた時期,損害額
回収・貸倒れ現物返還,入金,保険金,残高,全額回収不能が明らかになった年度
税務調査本税の修正理由,税目・年度,加算税の種類,納付と争う手続

第2 転売代金を会社の売上げと決め付けない

従業員が会社のために販売し,会社の売上代金を着服した場合と,会社の商品を盗み,自分の取引として転売した場合では,検討の出発点が異なる。
販売権限,販売名義,買主の認識,請求書・領収書,入金先及び代金の最終使途を確認する。
会社所有の商品だったことや,在庫管理に不備があったことだけで,転売の主体が会社だったと決まるものではない。

国税不服審判所令和元年5月16日裁決は,元従業員が会社から盗んだ商品を個人の取引として販売した事案で,落札代金の会社への帰属を否定した。
一方,会社の損害賠償請求権については別に益金算入を検討している。
「会社の売上げではない」という結論と,「会社に課税される収益が一切ない」という結論を結び付けてはならない。

転売口座の総入金額には,従業員が自分で購入した品物の代金,返金,口座間振替等が含まれ得る。
会社の被害品との対応を付けて除外・重複を整理し,転売代金,民事上の損害額及び帳簿価額を別の列で管理する。

第3 損失と賠償請求権をどの年度に計上するか

1 損失と収益を別々に確認する

法人税法22条は,各事業年度の収益と損失の計算を定めている。
盗難損失を検討するときは,盗まれた資産が貸借対照表に残っていたか,仕入れや払出しの際に既に原価・費用となっていたかを先に確認する。
既に損金へ算入した取得価額を,発覚時に「盗難損失」としてもう一度損金にしてはならない。

不法行為に基づく損害賠償請求権は,通常,損失の発生時に発生・確定するため,損失と請求権を同じ年度の損金・益金に計上することが問題となる。
ただし,加害者や権利内容を把握することが客観的に困難で,直ちに権利行使を期待できない場合まで,機械的に損害発生年度の益金とするものではない。
上記裁決の「4(3)」は,通常人を基準に権利の存在・内容を把握できたかを判断している。

2 発覚日,示談日及び入金日だけで決めない

代表者が実際に知らなかったことと,通常の在庫照合等をしても権利を把握できなかったことは別である。
棚卸記録,異常値の報告,仕入れと売上げの不一致,調査開始,行為者の特定及び被害数量の判明を時系列にする。
発覚日にまとめて計上する案と過年度へ帰属させる案について,根拠となる資料を対応させる。

法人税基本通達2-1-43は,「他の者」から受ける損害賠償金について,実際の受領年度に益金算入している場合の取扱いも定めている。
しかし,上記裁決は法人内部の従業員をこの「他の者」に含めず,その取扱いによる受領年度への繰延べを認めなかった。
従業員の窃盗・横領に,外部の相手方から受ける一般の賠償金と同じ現金受領基準を当然に用いることはできない。

3 請求権の額と回収可能性を混同しない

賠償請求権の存在・金額と,その債権を回収できるかは別の問題である。
訴訟で請求した総額をそのまま税務上の確定額とするのでも,回収が難しいから請求権を計上しないとするのでもない。
被害品の価値,追加費用,返還・弁償済み部分及び請求項目の根拠を整理した上で,回収不能は貸倒れの要件に沿って検討する。

損害賠償請求権を計上した年度と,その債権が貸倒れとなる年度は,一致するとは限らない。
法人税基本通達9-6-2(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_06_01.htm)による事実上の貸倒れには,資産状況・支払能力等から債権全額の回収不能が明らかになったことと,その年度の損金経理が必要となる。
非免責性は法律上の責任が残るかという問題であり,それだけで貸倒れの可否を決めず,現実の給与収入,差押可能額及び回収の経過を確認する。

令和元年5月16日裁決の「4(4)」が貸倒れを否定したのは,平成25年1月期から平成29年1月期までの各年度に会社から給与を受けていたこと等を踏まえた判断である。
懲戒解雇は平成29年9月15日であり,解雇後又は破産後の将来給与を判断した裁決ではない。
給与の存在と回収の実効性をどう評価するかは,損害賠償請求権の貸倒処理と非免責債権の第5で,別の裁判例と区別して説明している。

第4 税務調査はどのように進むか

1 対象年度と資料の対応を確かめる

実地調査では,原則として対象税目・期間等の事前通知を受け,帳簿,申告書,棚卸資料及び取引資料の確認へ進む。
法令上の条件を満たす無予告調査もあり,調査中に必要な確認の範囲が広がることもある。
まず会社と税理士で,連絡が税務調査か行政指導か,対象税目・期間,調査担当者及び求められた資料を記録する。

盗難事件では,原材料の購入,在庫,正規の工程使用,持出し,転売,会社の認識及び回収を結ぶ資料が重要である。
説明用の集計表を作る場合も,元の帳簿データを上書きせず,抽出条件,訂正前後の値及び各行の原資料を残す。
供述だけで確定できない数量は,確定部分,合理的な推計及び未解明部分に分ける。

2 調査結果の説明を受けて判断する

国税通則法74条の11及び国税庁の調査手続FAQによれば,更正等を要する場合は,税務署が額と理由を説明する。
その説明を受けたら,年度別・税目別に,修正項目,認定事実,根拠,計算及び会社の見解を照合する。
修正申告の勧奨は強制ではなく,納得できない部分は説明と根拠資料を求め,争う手続を税理士・弁護士と検討する。

修正申告をすると,その申告自体について通常の不服申立てはできないが,要件を満たす更正の請求は可能である。
これに対し,税務署の更正処分や加算税の賦課決定は,それぞれ不服申立ての対象となり得る。
本税の修正に応じるかと,加算税を争うかを一つの判断にしない。

第5 修正申告で直す内容

まず各年度について,盗難損失の未計上・二重計上,損害賠償請求権の計上漏れ,回収金の重複計上及び貸倒損失の年度・要件を確認する。
その結果として申告税額が過少だった年度は修正申告を検討し,過大だった年度は更正の請求の期限・要件を検討する。
複数年度の増減を合算し,発覚年度だけの雑収入又は損失で処理することは避ける。

法人税・地方法人税だけでなく,法人住民税・法人事業税への影響,欠損金の繰越額及び後続年度の申告との整合も確認する。
消費税は後記第7のとおり,取引の性質を別に判定する。
税務署が示す修正案の全項目が当然に正しいとも,被害に関連するため全項目が修正不要とも扱わない。

修正申告による追加の本税は,原則として修正申告書の提出日が納期限となる。
更正による追加税額や賦課決定による加算税の納期限とは異なるため,提出日を決める前に納税資金を準備する。
延滞税は,本税・加算税と別に,納付日,対象期間,法定の計算除外期間及び適用率を確認する。

第6 過少申告加算税と重加算税を分ける

1 過少申告加算税の基本

期限内申告をしていた会社について,国税通則法65条の通常の取扱いは,次のように整理できる。
ここでいう「調査通知」と「更正があるべきことの予知」は,別の要件である。
実地調査の訪問日だけで区切らず,通知内容と具体的な指摘の経過を記録する。

修正申告等の状況通常の取扱い
調査通知前で,更正を予知していない修正申告過少申告加算税は原則として課されない
調査通知後で,更正を予知していない修正申告原則5%。法定の基準超過部分は10%
更正を予知した修正申告,又は更正原則10%。法定の基準超過部分は15%

基準超過部分は,原則として,追加納付税額等が期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分である。
累積増差税額,還付申告及び帳簿の不提示・記載不備に関する加重措置等は,個別に確認する必要がある。
会社が犯罪被害者だったことだけで,「正当な理由」により当然に免除されるわけではない。

2 従業員が犯罪を隠したことと会社の隠蔽を分ける

国税通則法68条は,納税者の隠蔽又は仮装に基づく過少申告について,通常の過少申告加算税に代えて原則35%の重加算税を定める。
反復等による加重の適用もあるため,35%をあらゆる事案の上限としてはならない。

従業員が盗難を会社から隠していたことだけで,会社が税金を少なくするために隠蔽したと決まるものではない。
従業員の実際の職務・権限,経理・申告への関与,代表者や経理担当者の認識,発覚後の帳簿訂正及び資料提出の経過を確認する。
上記令和元年裁決も,盗難の隠匿と会社の隠蔽を区別して重加算税を否定しているが,すべての従業員不正に同じ結論を保証したものではない。

重加算税が成立しなくても,本税の追加納付や通常の過少申告加算税まで当然に消えるわけではない。
各修正項目について,本税,正当な理由,隠蔽・仮装及び加算税の基礎税額を分けた検討表を作ることが有用である。

第7 消費税は損害賠償金の実質を確認する

盗まれた資産の損害を補う純粋な損害賠償金は,通常,対価を得て行う資産の譲渡等に当たらず,消費税の課税対象外である。
「非課税売上げ」に分類するという意味ではない。
消費税基本通達5-2-5のとおり,使用できる商品を引き渡す代金等を「賠償金」と呼ぶ場合は,実質による別の判断が必要である。

原材料の購入が実在し,事業の課税仕入れに当たるなら,後に盗難があったことだけで当初の仕入税額控除を取り消すと決めるものではない。
購入の実在,会社への帰属,帳簿・請求書の保存,仕入税額控除の方式及び対象年度の制度を確認する。
また,盗難損失そのものについて,新たな仕入税額控除が生じるわけではない。

国税庁タックスアンサーNo.6367は,貸倒れによる消費税額の控除を,課税対象の取引から生じた売掛金等に限定する。
純粋な盗難賠償債権を法人税上貸倒処理しても,そのことだけで消費税の貸倒税額控除を受けることはできない。

第8 経理処理と申告調整の組合せ

次の例は,当期に発生し,当期に計上する要件を満たす場合の基本形である。
帳簿価額と賠償額が同じとは限らず,会社の会計方針,既存の仕訳,貸倒引当金及び税務上の残高に応じて調整する。

場面仕訳の基本形と注意点
帳簿に残る原材料の盗難借方:盗難損失/貸方:原材料。既に原価・費用となった部分を二重計上しない
賠償請求権の計上借方:未収入金等/貸方:損害賠償収益等。根拠のある額と帰属年度を確認する
既に計上した債権の入金借方:預金/貸方:未収入金等。同じ賠償額をもう一度収益にしない
税務上も要件を満たす貸倒れ借方:貸倒損失等/貸方:未収入金等。引当金がある場合はその取崩しとの関係を確認する

過年度の誤りを発覚年度の決算で訂正する場合,会計上の訂正方法と税務上の年度帰属を分ける。
過年度の益金・損金を修正申告等で既に反映したなら,当期の損益に同じ金額が現れた際の別表四・別表五(一)の調整を確認し,二重課税・二重控除を防ぐ。
一律に「前期損益修正益」で当期課税を完結させる処理ではない。

国税の加算税・延滞税を会社の帳簿で費用計上しても,法人税法55条4項により法人税の損金とはならない。
追加の本税についても,法人税,住民税,事業税等の税目ごとに損金算入の可否・時期を判定する。

第9 税理士と弁護士が共有する資料

税理士は,年度別の申告・会計処理と税額を確認し,弁護士は,被害の立証,請求権の範囲,保全・回収及び和解・破産の効果を確認する。
会社は,原資料を保全し,購入・在庫・工程使用・持出し・返還の数量と金額を対応させる。
各専門家が別の被害総額を使わないよう,共通台帳に証拠番号と更新日を付ける。

共通台帳は,①被害の発生年度と数量,②帳簿価額と既損金算入額,③民事上の請求額,④税務上の債権計上額,⑤現物返還・入金・保険補填,⑥未回収残高,⑦資力調査と貸倒れの判断を分けて作る。
示談による減額,請求放棄又は免責の通知が届いたら,弁護士から税理士へ原文と効力発生日を共有する。
資産保全を急ぐ必要がある場合は,修正申告や税務調査の終了を待たず,民事保全の要件を別に判断する。

税務調査を端緒として判明した場合の情報受領・証拠保全,会社・税理士・弁護士の分担及び毒物・劇物の法定届出は,税務調査で従業員の盗難・横領が判明したときを参照されたい。
本記事の税務上の年度帰属の検討と,初動・安全確保の判断を並行して行うことが重要である。

第10 関連記事と主な根拠資料

損害賠償請求権の貸倒処理と非免責債権

法人の貸倒損失の計上基準
過少申告加算税の「正当な理由」
税務調査に関するメモ書き
工場の原材料が長期間盗まれていたときの被害立証
会社備品を盗んで転売した社員への対応

主な根拠は,法人税法,国税通則法,令和元年5月16日裁決,本文中の法人税・消費税基本通達及び国税庁の税務調査手続FAQである。
課税仕入れの基本はタックスアンサーNo.6451,貸倒れの消費税は同No.6367を参照する。
台帳の列構成と担当分担は,これらの制度を混同しないための実務上の提案であり,特定の書式を法令が義務付けるという意味ではない。