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相続した株式を遺言執行者が売却した場合の税金―法定相続分による申告と確定申告の方法(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 この記事の対象

本記事は,被相続人が所有していた株式を遺言執行者が売却し,その代金を相続人又は受遺者に分配する場面を対象とする。
遺言執行者が売却名義人であるため遺言執行者が一括して申告するのか,各相続人が法定相続分で申告するのか,遺言で定めた分配割合によるのかが問題となる。

2 結論

国税庁の質疑応答事例には,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を換価した事案について,譲渡所得は法定相続分に応じて各相続人が申告するとしたものがある。
したがって,当該事例と同様に,売却時まで株式が共同相続人に帰属し,遺言執行者の処分の効果が相続人に直接生ずると整理できる事案では,各相続人が法定相続分に応じて確定申告するのが基本となる。遺言執行者が遺言執行者名義で一括申告するものではない。
もっとも,この結論は遺言執行者が売却したという一点だけから常に導かれるものではない。遺言が特定の者に換価代金のみを遺贈する趣旨か,包括遺贈か,相続分又は遺産分割方法を指定したものかによって,売却時の権利帰属と所得の帰属が異なり得る。

3 最初に確認する順序

①遺言の全文と遺言執行者の権限,②売却時に株式が誰に帰属していたか,③譲渡所得の申告者と割合,④各人に配分する売却代金・取得費・売却費用,⑤各人固有の取得費加算・損益通算等の順に確認する。
分配割合をそのまま申告割合と考えたり,相続税評価額を取得費と考えたりすると誤りやすい。

第2 誰が譲渡所得を申告するか

1 国税庁が法定相続分による申告とした事例

国税庁「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」は,遺言執行者が遺産である不動産及び有価証券を売却した事例について,遺産の換価処分は遺言執行者の職務として行われ,その権限内の行為は相続人に直接効力を生ずることを理由に,「法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があります」と回答している。
この事例に従う場合,各相続人は自分の法定相続分だけを自分の確定申告書に計上する。遺言執行者は,各人が同じ基礎資料に基づいて申告できるように,共通の計算書と証拠資料を交付する。

2 法定相続分が常に結論となるわけではないこと

前記の国税庁ページは,照会された事実関係を前提とする一般的な回答であり,具体的な取引では異なる課税関係が生ずることがあると明記している。
小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」(税務大学校論叢85号)は,換価遺言を一律に捉えず,不特定物である金銭の遺贈,包括遺贈又は相続分・遺産分割方法の指定のいずれと解するかを検討する必要があるとする。そして,金銭の遺贈と解される類型では,受遺者を譲渡所得の納税義務者とする見解を示している。
これは税務大学校の研究論文であり,前記の質疑応答事例と同じ位置付けの公式回答ではない。しかし,遺言の型によって納税義務者の検討が変わることを示す重要な資料である。

3 遺言執行者本人の所得にはならないこと

遺言執行者は,遺言の内容を実現するために株式を管理・処分する者であり,売却代金を自分のために取得する者ではない。
したがって,遺言執行者が注文を出し,売却代金を遺言執行者名義の管理口座で受領したという外形だけで,遺言執行者個人の譲渡所得になるものではない。遺言執行者自身が相続人又は受遺者でもある場合は,その者として帰属する部分を個人の申告に含める。

4 売却後に疑問が生じた場合

既に売却済みでも,まず遺言書,遺言執行者の就職・権限を示す書類,証券会社の相続手続書類,売却報告書,換価代金の分配計算書及び相続関係を揃える。
申告期限前に税理士又は所轄税務署へ事実関係を具体的に示して確認し,誰がどの割合で申告するかを相続人間で統一して記録する。同じ売却について重複申告又は申告漏れが生じないようにする。

第3 各相続人の譲渡所得の計算

1 基本式と按分

国税庁タックスアンサーNo.1463によれば,株式等の譲渡所得等は,譲渡価額から取得費と委託手数料等を差し引いて計算する。
法定相続分で申告する事案では,各人の譲渡価額,取得費及び売却に直接要した費用を同じ法定相続分で按分するのが出発点となる。すなわち,「各人の譲渡所得等=売却代金×申告割合-被相続人の取得費×申告割合-売却手数料等×申告割合」である。
遺言執行者報酬,戸籍取得費,財産管理費その他の遺言執行費用が,すべて株式譲渡の必要経費になるわけではない。譲渡との直接の対応関係を区別する必要がある。

2 取得費は相続税評価額ではないこと

国税庁タックスアンサーNo.1464によれば,相続又は遺贈により取得した通常の株式等の取得費は,原則として被相続人又は遺贈者の取得費を引き継ぐ。
死亡日の時価又は相続税評価額と,譲渡所得計算上の取得費は別の金額である。被相続人の取引報告書,顧客勘定元帳,特定口座年間取引報告書,取得時の契約書等を調査する。
実際の取得費が分からない場合に売却代金の5%相当額を概算取得費とする取扱いがあるが,実際の取得費の方が高い可能性があるため,安易に5%を用いない。

3 相続税の取得費加算は各人ごとに計算すること

国税庁タックスアンサーNo.3267によれば,相続又は遺贈で取得した財産を,相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡するなどの要件を満たす場合,相続税額のうち一定額を取得費に加算できる。
適用できるのは,相続又は遺贈により財産を取得し,その者に相続税が課税されている場合である。加算額は各人の相続税額と各人が取得した財産の内容に基づいて計算するため,遺産全体について求めた一つの金額を法定相続分で機械的に分けるものではない。
適用を受ける各人は,「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」等を用いて申告する。

4 上場株式等と一般株式等を分けること

上場株式等と非上場株式などの一般株式等は別々の申告分離課税であり,原則として一方の譲渡損失を他方の譲渡益から控除できない。
各相続人の計算書では,銘柄ごとに上場株式等か一般株式等かを区分し,その区分ごとに売却代金,取得費及び費用を集計する。

5 税率

令和8年中の株式等の譲渡益については,原則として所得税15%,復興特別所得税0.315%及び住民税5%の合計20.315%となる。
令和9年分以後は復興特別所得税の税率変更と防衛特別所得税の導入があるため,売却した年分の国税庁資料で税率の内訳を確認する。

第4 遺言執行者が作成・交付する資料

1 共通計算書

遺言執行者は,少なくとも,①売却日,②銘柄,③数量,④売却先の証券会社等,⑤総売却代金,⑥売却手数料等,⑦被相続人の取得費とその根拠,⑧申告者,⑨申告割合,⑩各人に配分した売却代金・取得費・費用を記載した共通計算書を作成することが望ましい。
端数処理によって各人の合計が総額と一致しないことを避けるため,最後の者で1円単位を調整し,調整方法も記録する。

2 各人に渡す資料

各相続人には,共通計算書のほか,遺言書の関係部分,法定相続分を確認できる相続関係資料,証券会社の売却報告書・取引残高報告書,取得費資料,売却手数料等の資料,換価代金の分配計算書を交付する。
取得費加算を検討する者には,その者の相続税申告書の関係表と相続税の納付状況を税理士が確認できるようにする。個人番号その他の不要な個人情報を相続人間で共有しないよう,各人用資料を分ける。

3 売却代金の分配と所得税

譲渡所得税は各相続人又は受遺者の所得税であり,換価代金の分配額を決める民事上の計算と同じではない。
遺言に租税公課の控除条項がある場合でも,どの税を誰の負担として精算できるかは遺言の解釈を要する。遺言執行者が各人の税額を概算して一律に売却代金から控除する前に,権限と精算方法を確認する。

第5 各相続人による確定申告の具体的方法

1 申告前の準備

各相続人は,遺言執行者から受け取った資料により,自分の申告割合,自分に配分された売却代金・取得費・売却手数料等,上場株式等と一般株式等の区分を確認する。
次に,自分が別に保有する特定口座・一般口座の取引,配当所得,過年度からの繰越損失及び取得費加算の有無を確認する。共通部分の按分後は,各人固有の事情を加えて各人別に税額を計算する。

2 確定申告書等作成コーナー又はe-Taxを利用する場合

各相続人が自分の利用者識別番号等で申告し,自分の給与所得その他の所得及び所得控除と合わせて作成する。他の相続人の分を一人の申告書にまとめない。
株式等の譲渡所得等の入力画面で,証券会社の年間取引報告書による取引か,それ以外の取引かを実際の売却経路に従って選び,上場株式等と一般株式等を区別する。遺言執行者から受領した各人別の譲渡価額,取得費,委託手数料等及び源泉徴収税額がある場合はその額を入力する。
取得費加算を受ける場合は,各人の相続税申告に基づいて加算額を計算し,該当年分の作成コーナーの案内に従って「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を作成する。画面名や入力順は年分ごとに変更されることがあるため,国税庁「株式等の譲渡所得等の申告のしかた」のうち売却年分の資料を用いる。
入力後は,「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」,申告書第三表及び第一表に金額が反映されているかを確認して送信する。送信後は受信通知,申告書控え,各明細書及び計算根拠資料を保存する。

3 書面で提出する場合

国税庁タックスアンサーNo.3102は,株式等の譲渡所得がある人について,「所得税及び復興特別所得税の確定申告書」,申告書第三表(分離課税用)及び「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」などを作成し,他の所得と合わせて申告すると説明している。
計算明細書は,先に2面へ取引内容を書き,その合計を1面の上場株式等又は一般株式等の欄へ転記する。取得費加算を受ける場合は「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を加え,上場株式等の譲渡損失の損益通算又は繰越控除を受ける場合は専用の確定申告書付表を加える。
遺言書や遺言執行者の共通計算書が法定の添付書類に当たるかは申告内容によるが,税務署から説明を求められたときに直ちに示せるよう,申告書控えとともに保存する。

4 申告期限と納付

原則として,売却日の属する年の翌年2月16日から3月15日までに申告する。期限の日が休日に当たる年や災害等による期限延長がある年は,その年分の国税庁の案内を確認する。
譲渡した相続人が申告前に死亡した場合は準確定申告の問題となり,相続開始を知った日の翌日から4か月以内という別の期限が適用される。

第6 計算例

1 法定相続分で申告する例

遺言執行者が上場株式を1200万円で売却し,被相続人から引き継ぐ取得費が700万円,売却手数料等が20万円,相続人A・B・Cの法定相続分が2分の1・4分の1・4分の1であるとする。
取得費加算その他の特例を用いる前の譲渡所得等の総額は,1200万円-700万円-20万円=480万円である。Aは売却代金600万円,取得費350万円,費用10万円を申告し,譲渡所得等は240万円となる。BとCはそれぞれ売却代金300万円,取得費175万円,費用5万円を申告し,譲渡所得等は各120万円となる。
令和8年分の20.315%だけを機械的に掛けた概算は,Aが48万7560円,BとCが各24万3780円である。ただし,実際の税額は,各人の取得費加算,源泉徴収,他の上場株式等の損益,配当所得との損益通算及び繰越損失等によって異なる。

2 分配割合と申告割合が異なる可能性

遺言が換価代金をAに2分の1,BとCに各4分の1ずつ分配すると定めていても,その割合が当然に譲渡所得の申告割合になるとは限らない。
前記国税庁質疑応答事例のように法定相続分で申告する整理もあれば,遺言の型によって受遺者への所得帰属を検討すべき場合もある。分配計算を先に税務計算へ流用せず,納税義務者の判断を先に行う。

第7 特に注意を要する場合

1 特定口座と源泉徴収

国税庁タックスアンサーNo.1476によれば,源泉徴収を選択した特定口座内の上場株式等については,その口座内の譲渡所得を申告不要とすることができる。
しかし,遺言執行者による換価が各相続人の源泉徴収口座内の取引として処理されているとは限らない。売却に使用した口座,年間取引報告書の名義,源泉徴収の有無及び各人への帰属を証券会社の資料で確認する。

2 NISA口座の株式

NISA又はジュニアNISAに受け入れられていた上場株式等が相続又は遺贈によって払い出された場合,原則として,相続人又は受遺者は相続開始日の終値に相当する金額で取得したものとみなされる。
通常の課税口座にある株式等について被相続人の取得費を引き継ぐ取扱いとは異なるため,死亡時の口座区分を確認する。

3 譲渡損失

国税庁タックスアンサーNo.1474によれば,一定の上場株式等の譲渡損失は,確定申告により申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等と損益通算でき,控除しきれない損失を翌年以後3年間繰り越せることがある。
繰越控除には,損失が生じた年分から継続して所定の付表を付けた申告をする必要がある。一般株式等の損失との通算や相対取引には制限がある。

4 相続した非上場株式を発行会社へ売る場合

国税庁タックスアンサーNo.1477は,相続又は遺贈により取得した非上場株式を一定期間内に発行会社へ譲渡する場合,みなし配当課税を行わず,譲渡対価の全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額とする特例を説明している。
この特例を用いるには,譲渡日までに所定の届出書を発行会社へ提出する必要がある。売却後では間に合わないため,自己株式取得を予定するときは契約前に検討する。

5 限定承認,国外居住者及び外国証券

限定承認では,相続開始時に被相続人から相続人へ時価で譲渡したものとみなす課税関係が問題となり,通常の単純承認と同じ取得費引継ぎの説明をそのまま用いることはできない。
申告者に非居住者がいる場合,外国証券又は外貨建取引がある場合,国外で源泉徴収された税がある場合は,納税管理人,国内源泉所得,為替換算及び外国税額控除等を別に検討する。

第8 関連する記事

1 遺言執行者による換価実務

遺言の対象・売却権限,証券会社の相続手続,売却方針,換価代金の管理及び相続人への報告は,「遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点」で説明している。

2 換金指定のある遺言と現物取得

換金して分けるとされた株式・投資信託を相続人又は受遺者が現物で取得できる条件は,「遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるか」で説明している。

第9 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「民法」
②e-Gov法令検索「所得税法」
③e-Gov法令検索「租税特別措置法」

2 国税庁の質疑応答・解説・手引き

①国税庁「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」(令和7年8月1日現在の法令・通達等)
②国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(令和8年4月1日現在法令等)
③国税庁タックスアンサーNo.1464「譲渡した株式等の取得費」(令和8年4月1日現在法令等)
④国税庁タックスアンサーNo.3102「譲渡所得の申告期限」(令和8年4月1日現在法令等)
⑤国税庁タックスアンサーNo.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(令和8年4月1日現在法令等)
⑥国税庁タックスアンサーNo.1474「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」(令和8年4月1日現在法令等)
⑦国税庁タックスアンサーNo.1476「特定口座制度」(令和8年4月1日現在法令等)
⑧国税庁タックスアンサーNo.1477「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」(令和8年4月1日現在法令等)
⑨国税庁「令和7年分株式等の譲渡所得等の申告のしかた」

3 研究資料

①小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」税務大学校論叢85号(2016年)