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遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるか―遺言の型,全員の合意,遺言執行者の権限及び税金(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 この記事の対象

(1) 問題となる場面

遺言書に,「有価証券を売却し,その代金を長男と長女に2分の1ずつ相続させる」,「遺言執行者において一切の財産を換価し,債務と費用を控除した残額を甲・乙・丙に遺贈する」等と書かれていることがある。
相続人の側では,相場が下がっているので今は売りたくない,長期保有の株式をそのまま持ち続けたい,売却による税金を避けたい等の理由から,換金せずに株式や投資信託のまま受け取りたいと考えることがある。
本記事は,このような場合に現物で受け取ることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者の権限がどうなるか,税金がどう変わるかを整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・所得税法・租税特別措置法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,国税庁の質疑応答事例,立案担当者の解説書及び実務書に基づいて整理したものである。
遺言と異なる遺産分割一般の要件と裁判例は,遺言と異なる遺産分割協議はできるかで詳しく説明している。

2 結論の要約

換金を指示した遺言があっても,相続人全員と受遺者全員が合意すれば,株式や投資信託を現物で受け取る内容の遺産分割をすることは可能と考えられる。
遺言執行者が就職している場合には,相続人及び受遺者全員の合意だけで換金の指示を変更するのではなく,遺言執行者を協議に加え,その明示の同意を得る必要があると考えるべきである。
証券会社がその方法による移管を受け付けるか,及び課税関係がどうなるかも,実行前に確認しなければならない。
遺言執行者がいない清算型遺贈では,遺贈を履行する義務を負う相続人全員の協力が要る。
税金の面では,遺言執行者が換金すれば,その譲渡所得を誰が申告するかが問題となり,現物で受け取って後で売れば,受け取った人が被相続人の取得費を引き継いで譲渡所得を申告することになる。

第2 換金を指示する遺言の型

1 遺産分割の方法として換金を指定する遺言

民法908条1項は,「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。」と定める。
相続人に対して「株式を換金してその代金を2分の1ずつ相続させる」とする遺言は,遺産分割の方法として換価分割を指定したものと読める場合がある。

2 清算型遺贈

「遺言執行者において,不動産・有価証券・預貯金その他一切の財産を換価売却し,債務・費用を控除した残額を遺贈する」という遺言は,一般に清算型遺贈と呼ばれる。
実務書は,このような遺言は遺言執行者の権限が一切の財産に及ぶので包括遺贈の一種であると考えられるとした上で,実質的には遺言の効力発生時点において割合的包括遺贈の効力が発生しており,遺贈義務のみが法定相続人あるいは相続財産法人に帰属すると解釈し,換価売却して現金化してから遺贈義務を果たすのが清算型遺贈の本質であると考えるべきであるとしている(遺言・相続実務問題研究会編,野口大・藤井伸介編集代表『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,229頁~230頁)。
同書は,預貯金・有価証券・動産類については,遺言執行者の権限により預貯金を解約し,有価証券についても解約あるいは売却することにより換価作業を行えるとしている(同書231頁)。

3 型を見分ける手掛かり

次の点を遺言全文から確かめる。
①「相続させる」「遺贈する」「取得させる」のどの文言か
②換金の対象が特定の銘柄・口座か,一切の財産か
③換金の主体として遺言執行者が指定されているか
④代金の受取人が相続人だけか,相続人でない者を含むか
⑤債務・費用・税金を控除してから分けるのか

受取人に相続人でない者が含まれる場合や,一切の財産を換金して分ける場合は,清算型遺贈として扱われる可能性が高い。

第3 証券と換金の実務上の前提

1 株式・投資信託は当然には分割されない

最高裁判所第三小法廷平成26年2月25日判決(平成23年(受)第2250号,民集68巻2号173頁)は,共同相続された委託者指図型投資信託の受益権及び個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと判示した。
同判決は,株式についても,株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,「共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである」と述べている。
そのため,遺言がなければ,株式や投資信託は遺産分割によって取得者を決める必要がある。

2 被相続人名義の口座では売却しない

証券会社の相続手続では,被相続人名義の口座の株式等を相続人名義の口座へ移管した後に売却するのが一般的な扱いである。
遺言執行者が換金する場合の口座や手続は証券会社ごとに異なるので,遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点を参照されたい。

3 遺言執行者の換金権限

(1) 預貯金についての明文規定

民法1014条3項は,特定財産承継遺言の目的財産が預貯金債権である場合に,遺言執行者が「その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる」と定める。
ただし,解約の申入れは,その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られる(同項ただし書)。

(2) 株式・投資信託は解釈に委ねられている

立案担当者の解説は,預貯金以外の金融商品については様々なものが考えられ,一律に遺言執行者に同様の権限を付与するのは相当でないことから,権限の内容を具体化する規定を設けることとはしていないと説明している(堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』商事法務,2019年,118頁)。
同書は,委託者指図型投資信託の受益権のように価額が大きく上下する可能性があるものについては,解約権の行使時期によって受益者に不利益が生ずることも想定されるとし,遺言執行者に解約権限があるかは解釈に委ねられるが,遺言者が明示又は黙示に意思表示をして遺言執行者に解約権限等を付与することは当然に可能であるとしている(同書118頁~119頁)。
換金を指示する遺言は,この意味で遺言執行者に売却・解約の権限を与えたものと読めることが多い。

(3) 平成30年改正前の遺言

民法1014条2項から4項までの規定は,平成30年法律第72号附則8条2項により,同法の施行日(令和元年7月1日)前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者による執行には適用されない。
古い遺言では,遺言の作成日も確かめる。

第4 現物で受け取るための要件

1 相続人全員と受遺者全員の合意

換金を指示した遺言と異なり,株式や投資信託を現物のまま特定の相続人が取得するのは,遺言と異なる内容の遺産分割である。
相続人全員(遺言で何も受け取らない相続人を含む。)と受遺者全員の合意が必要である。
包括受遺者は,民法990条により「相続人と同一の権利義務を有する」ので,協議に加わる。
清算型遺贈の受遺者が金銭の代わりに株式を受け取る場合や,受遺者が受け取る金額が減る場合は,その受遺者の合意が特に欠かせない。

2 遺言執行者がいる場合

民法1013条1項は,「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と定め,同条2項本文は,これに違反した行為を無効とする。
換金を任された遺言執行者がいる場合に,相続人らが遺言執行者の関与なしに株式を移管してしまうことは,この規定に触れるおそれがある。
遺言執行者の同意を得た合意を有効とした裁判例や,同意のない協議の扱いが分かれていることは,遺言と異なる遺産分割協議はできるかの第4で説明している。
実務上は,協議書に遺言執行者が同意する旨を記載し,遺言執行者の署名押印を得てから証券会社の手続をする。

特に,清算型遺贈と解される遺言で遺言執行者が就職している場合には,遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる(民法1012条2項)。
そのため,相続人及び受遺者全員が合意していても,遺言執行者を除外して換金の指示を変更し,株式等を移管する方法はとるべきではなく,遺言執行者を協議に加えてその明示の同意を得る必要がある。
遺言執行者に指定された者がまだ就職を承諾していない場合についても,最高裁判所第一小法廷昭和62年4月23日判決(昭和61年(オ)第264号,民集41巻3号474頁)は,民法1013条にいう「遺言執行者がある場合」に当たるとしているから,指定された者が就職するか辞退するかを確認してから協議を進める。

3 遺言執行者がいない清算型遺贈

遺言執行者がいなければ,換金して遺贈を履行する義務は相続人が負う(前掲『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』230頁)。
遺言どおりに換金するにも,現物で分けるにも,相続人全員の協力が要る。
協力しない相続人がいるときは,民法1010条により,家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができる。
清算型遺言で遺言執行者がいない場合の手続は,清算型遺言(財産を換金して分ける遺言)の実現方法で説明している。

4 価額の基準を合意する

換金を前提とした遺言では,各人の取得分は売却代金の割合で決まる。
現物で分ける場合は,どの時点の価格で各人の取得分を計算するかを決めておかないと,協議の後に株価が動いたときに不公平が生じる。
基準日(例えば協議成立日の前日の終値),銘柄ごとの数量,単元未満株や端数の扱い,配当金・分配金の帰属を協議書に書く。

5 遺言の存在を知った上で合意したことを明らかにする

最高裁判所第一小法廷平成5年12月16日判決(平成2年(オ)第1828号,集民170号757頁)は,遺言の存在を知らずにされた遺言と異なる遺産分割協議の意思表示に要素の錯誤がないとはいえないとした。
換金を指示する遺言があることを全員が知った上で,あえて現物で分けることに合意した旨を協議書に記載しておく。

6 清算金の一部を信託へ拠出する遺言の場合

換金した代金の一部を信託契約へ拠出し,残額を取得者に分配するよう定めた遺言では,株式等を現物で分けると,信託へ拠出する資金が不足するおそれがある。
このような遺言について現物での取得を協議するときは,次の点も確認する。
①信託への拠出額を,現物で分ける前に確保する必要があるか
②現物で取得する人が,拠出資金の不足分を代わりに負担するか
③現物の評価の基準日をいつにするか
④売却した財産から分配を受ける人と現物で取得する人との間で,税負担をどう調整するか
⑤遺言執行者及び受託者となる予定の者の双方が,変更を受け入れるか

第5 税金の違い

1 相続税と贈与税

国税庁の質疑応答事例「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」は,全遺産を相続人の一人に包括遺贈する遺言があったが,相続人全員の協議で遺言と異なる遺産分割をした事例について,包括受遺者が包括遺贈を事実上放棄し,共同相続人間で遺産分割が行われたとみて差し支えないとし,原則として贈与税の課税は生じないと回答している。
この回答は相続人である受遺者の事例についてのものであり,相続人でない受遺者が関わる場合は,贈与税や譲渡所得の課税を個別に検討する必要がある。

2 遺言執行者が換金した場合の譲渡所得

国税庁の質疑応答事例「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」は,遺言執行者が遺言に基づいて不動産及び有価証券を売却した事例について,「遺産の換価処分に係る譲渡所得については、法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があります。」と回答している。
その理由として,換価処分は遺言執行者の職務(民法1012条)として行われ,遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は相続人に対して直接にその効力を生ずる(民法1015条)ことが挙げられている。
他方,税務大学校の研究論文は,金銭の遺贈と解される換価遺言について,譲渡所得は受遺者に帰属し受遺者が納税義務者になると考えられるとの見解を示している(小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」税務大学校論叢85号,2016年,要約)。
同論文は,その内容が個人的見解であり,税務大学校,国税庁等の公式見解を示すものではないと明記している。
換金する場合は,誰がどの割合で譲渡所得を申告するかを,売却前に税理士と確かめる。

3 現物で受け取って後で売る場合

所得税法60条1項1号は,相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した資産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算について,「その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」と定める。
したがって,現物で受け取った相続人が後で売却したときは,被相続人の取得費を引き継いで譲渡所得を計算し,その相続人が申告する。
租税特別措置法39条1項は,相続税額がある者が,相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に,相続税の課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合には,相続税額のうち譲渡した資産に対応する部分を取得費に加算することを定めている(同条2項により,確定申告書等への記載と明細書等の添付が必要である。)。
現物で受け取る場合は,この期限を過ぎてから売却すると取得費の加算を受けられないことに注意する。

4 NISA口座の資産

被相続人のNISA口座の資産は,相続人のNISA口座へ移すことはできず,相続人の課税口座へ移すことになる。
詳しくは相続発生時のNISA口座の取扱いを参照されたい。

第6 手続の進め方

1 協議前の確認

①遺言全文を読み,換金の指示が遺産分割方法の指定か清算型遺贈かを確かめる。
②遺言の作成日と相続開始日を確かめる(民法1014条2項から4項までの適用と,令和元年7月1日前に開始した相続の扱い)。
③相続人全員と受遺者全員を確定する。
④遺言執行者がいれば,現物で分ける案への意向を早めに聞く。
⑤証券会社に,遺言と異なる内容で移管する場合の必要書類(遺産分割協議書,相続人全員の印鑑登録証明書,遺言執行者の同意書等)を照会する。
⑥相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月)までに協議をまとめる。

2 協議書に書く事項

①遺言の存在と内容を全員が知った上で,換金せずに現物で分けることに合意したこと
②銘柄・数量・口座ごとの取得者
③価額の基準日と,取得分の差額を調整する代償金の有無
④配当金・分配金・償還金の帰属
⑤遺言執行者の同意(遺言執行者がいる場合)

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第7 出典

1 法令

① e-Gov法令検索・民法(908条,990条,1010条,1012条,1013条,1014条,1015条,平成30年法律第72号附則8条)
② e-Gov法令検索・所得税法(60条)
③ e-Gov法令検索・租税特別措置法(39条)

2 裁判例

① 最高裁判所第三小法廷平成26年2月25日判決(平成23年(受)第2250号,民集68巻2号173頁)
② 最高裁判所第一小法廷平成5年12月16日判決(平成2年(オ)第1828号,集民170号757頁)
③ 最高裁判所第一小法廷昭和62年4月23日判決(昭和61年(オ)第264号,民集41巻3号474頁)

3 所管行政機関の解説・質疑応答及び研究資料

① 国税庁「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく質疑応答事例)
② 国税庁「遺言に基づき遺産の換価代金で特定公益信託を設定した場合の相続税及び譲渡所得の課税関係」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく質疑応答事例)
③ 小柳誠「換価遺言が行われた場合の課税関係について」税務大学校論叢85号(2016年)

4 文献

① 堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法―平成30年民法等(相続法)改正,遺言書保管法の解説』商事法務,2019年,118頁~119頁
② 遺言・相続実務問題研究会編,野口大・藤井伸介編集代表『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,229頁~231頁