第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面
遺言書があるのに,相続人全員が,遺言とは違う分け方を望むことがある。
例えば,「全財産を長男に相続させる」という遺言があるが,長男も含めて母に自宅を残したい場合や,「株式を換金して分けよ」という遺言があるが,相続人が株式をそのまま受け取りたい場合である。
このような場合に,相続人全員の話合いで遺言と異なる遺産分割をすることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者がいるときはどうなるか,贈与税がかかるかが問題になる。
(2) 本記事の資料と基準日
本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,判例秘書に収録された下級審判決の全文,国税庁の質疑応答事例及び実務書に基づいて整理したものである。
下級審判決はいずれも裁判所ウェブサイトの裁判年月日検索では見当たらなかったため,判例秘書の判例番号で特定する。
2 結論の要約
(1) 五つの確認事項
遺言と異なる遺産分割を検討するときは,次の順序で確認する。
①遺言が,特定遺贈,包括遺贈,「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)のいずれに当たるか
②合意に加わる必要がある人は誰か(相続人全員のほか,受遺者を含むか)
③遺言執行者がいるか,いる場合にその同意を得られるか
④遺言で遺産の分割が禁じられていないか
⑤相続税・贈与税,登記及び金融機関の手続をどうするか
(2) 短い結論
相続人全員と受遺者全員が合意すれば,遺言と異なる内容で遺産を分けることは,実務上広く行われている。
遺言執行者がいない場合は,この合意だけで足りると整理されている。
遺言執行者がいる場合は,遺言執行者の同意を得て協議するのが安全である。
遺言執行者の同意がない協議の効力については,下級審の判断が分かれている。
税務上は,相続人全員で遺言と異なる遺産分割をしたときは,原則として贈与税は課されないというのが国税庁の回答であるが,その回答は,全財産を相続人の一人に包括遺贈する遺言の事例についてのものである。
第2 遺言の型によって法律構成が変わる
1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る
(1) 条文
民法986条1項は,「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と定め,同条2項は,「遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定める。
民法995条は,遺贈が放棄によってその効力を失ったときは,受遺者が受けるべきであったものは,遺言者が別段の意思を表示した場合を除き,相続人に帰属すると定める。
(2) 遺産分割協議を遺贈の放棄とみた裁判例
東京地裁平成6年11月10日判決(判例秘書の判例番号 L04930363)は,特定の遺産の遺贈を受けた相続人が,遺言の内容を知りながら他の共同相続人との間でこれと異なる遺産分割の協議をした場合には,遺贈の全部又は一部を放棄したものと認め,これによって遺産分割の協議は有効になると解するのが相当であるとした。
したがって,特定遺贈の場合は,受遺者を含めた全員の協議によって,遺贈の目的物を遺産に戻した上で分け直すという構成をとることができる。
(3) 協議の対象にしなかった財産には及ばない
最高裁第一小法廷平成12年9月7日判決(判例秘書の判例番号 L05510088)は,定期預金債権を含む財産が相続人の一人に特定遺贈された事案で,その定期預金債権を除く財産について遺言の趣旨と異なる遺産分割協議が成立したが,定期預金債権については遺贈の放棄がされなかったなどの事実関係の下で,遺産分割協議の成立により遺言はその役割を終えたとして定期預金債権の遺贈の効力が失われたとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるとした。
遺言と異なる協議をするときは,協議の対象とする財産と,遺言どおりに受遺者が取得する財産とを,協議書の上で明確に分けておく必要がある。
2 包括遺贈――受遺者は遺産分割の当事者になる
民法990条は,「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と定める。
包括受遺者は遺産分割協議の当事者となり,包括受遺者を除外した遺産分割協議は無効となるので注意を要すると説明されている(星野雅紀『すぐに役立つ調停等の条項例集―家事編―』司法協会,2022年,98頁)。
遺言が一定の割合を包括遺贈するものであれば,遺言と異なる分け方をする協議にも包括受遺者を必ず加える。
3 「相続させる」遺言――相続開始時に承継が済んでいる
(1) 最高裁平成3年判決
最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,遺贈と解すべき特段の事情のない限り,遺産分割の方法を指定したものであり,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されると判示した。
現在の民法1014条2項は,このような遺言を「特定財産承継遺言」と呼んでいる。
(2) 遺言と異なる協議の意味
特定財産承継遺言の目的財産は,相続開始の時に受益相続人に承継されているから,厳密には,相続人全員で協議しても,その財産は未分割の遺産ではない。
後記第4の3の東京地裁平成13年6月28日判決は,このような協議を,受益相続人が遺言によって取得した財産を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意と解した。
他方で,国税庁は,後記第7の1のとおり,全財産を相続人の一人に包括遺贈する遺言について,相続人全員で遺言と異なる遺産分割をしたときは,共同相続人間で遺産分割が行われたとみて差し支えないとしている。
民事上の構成と税務上の扱いが一致するとは限らないので,登記や税務申告をする前に,それぞれの扱いを確かめる。
第3 合意に加わる人
1 相続人全員
民法907条1項は,「共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」と定める。
遺産分割協議は共同相続人全員でしなければならず,遺言によって何も取得しない相続人も加わる必要がある。
他方,相続の放棄をした者は,民法939条により「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」とされるので,協議に加える必要はない。
2 受遺者
包括受遺者は,前記第2の2のとおり相続人と同一の権利義務を有するから,協議の当事者となる。
特定受遺者は,前記第2の1のとおり遺贈を放棄すれば遺産に戻るので,遺言と異なる協議をするときは,放棄の意思を協議書等で明らかにするか,協議に加わってもらう。
遺言執行者がいない場合でも,相続人全員(遺贈があるときは受遺者も含む。)の同意があれば,遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることも可能と考えられていると説明されている(遺言・相続実務問題研究会編『Q&A遺産分割後のトラブル対応―法務・登記・税務―』新日本法規出版,2015年(第二版),264頁)。
3 相続人でない受遺者に財産を取得させる場合
遺言書に相続人以外の者に対する特定遺贈が含まれ,その受遺者と相続人全員で,遺言と異なる遺産をその受遺者に取得させる協議をした場合には,受遺者の遺産取得の原因を遺産分割とみることは困難であり,いったん遺贈を受けた後に交換又は贈与が行われたものとして,譲渡所得税や贈与税の課税可能性を検討することになると指摘されている(前掲『Q&A遺産分割後のトラブル対応』269頁)。
内縁の配偶者等,相続人でない者が関わる場合は,税理士と事前に協議する。
第4 遺言執行者がいる場合
1 条文
民法1012条1項は,「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と定め,同条2項は,「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。」と定める。
民法1013条1項は,「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と定め,同条2項は,「前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。」と定める。
最高裁判所第一小法廷昭和62年4月23日判決(昭和61年(オ)第264号,民集41巻3号474頁)は,遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前であっても,民法1013条にいう「遺言執行者がある場合」に当たるとした。
同条2項ただし書の善意の第三者の保護は,平成30年法律第72号による改正で設けられたものである。
同法附則2条は,同法の施行日前に開始した相続については,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例によると定めており,令和元年7月1日より前に開始した相続では,改正前の規定と判例による。
2 遺言執行者の同意を得た合意を有効とした裁判例
東京地裁昭和63年5月31日判決(判例秘書の判例番号 L04330142)は,遺言の解釈及び執行上の問題点を調整するため遺言執行者が働きかけてされた,相続人と受遺者との間の合意について,民法1013条は相続人の処分行為による相続財産の減少を防止して遺言執行者に遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであるとした上で,相続人間の合意の内容が遺言の趣旨を基本的に没却するものでなく,かつ,遺言執行者があらかじめこれに同意した上,処分行為に利害関係を有する受遺者との間で合意し,その合意に基づく履行として処分行為がされた場合には,同条の目的に反するものとはいえず,その効力を否定する必要はないとした。
この判決から,遺言執行者の事前の同意,利害関係人全員の合意及び遺言の趣旨を基本的に没却しない内容という三つの事情が,協議を有効とする方向に働くことが分かる。
3 遺言執行者の同意がない協議の扱い
(1) 遺言執行者に対しては主張できないとした裁判例
大阪地裁平成6年11月7日判決(判例秘書の判例番号 L04950572)は,遺言執行者が遺言の内容を実現するために提起した訴訟で,相続人らが遺言と異なる遺産分割協議の成立を主張した事案について,遺言執行者は被相続人の意思に従って権利関係の実現に努めるべきであり,相続人間でこれに反する合意をして遺言内容の実現を妨げるときはこれを排除するのが任務であるとした。
その上で,相続人間の遺産分割が,贈与契約ないし交換契約等として,遺言内容の事後的な変更処分の意味でその効力を保持すべき場合が存するとしても,その合意の存在をもって遺言執行者の責務を免除する性質及び効力を有するものと解することはできないとして,遺産分割協議の成立の主張を遺言執行者に対する主張として失当とした。
(2) 贈与・交換の合意として有効とした裁判例
東京地裁平成13年6月28日判決(判例秘書の判例番号 L05630180)は,相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定をし,遺言執行者を指定した遺言について,遺言執行者の同意なしに相続人らが遺言と異なる遺産分割協議をして相続登記をした事案である。
同判決は,民法1013条に違反するような遺産分割行為は無効と解すべきであるとしながら,その協議は,受益相続人が遺言によって取得した持分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当であり,私的自治の原則に照らして有効な合意と認めることができるとした。
そして,現状の登記は現在の実体的権利関係に合致しており,遺言執行者に現在の登記の抹消を求める法律上の利益があるとは言い難いとして,遺言執行者の登記請求を棄却した。
(3) 二つの裁判例の関係
二つの判決は,いずれも,遺言執行者がいる場合に遺言と異なる遺産分割協議をそのまま遺産分割として有効とはせず,相続人間の贈与・交換等として効力を持つ余地を認める点で共通する。
結論が分かれたのは,大阪地裁の事案では遺言執行者が遺言どおりの登記を求めたのに対し相続人らが協議の成立を抗弁として主張したものであり,同じ判決の中で,遺産分割協議は一応の方針の合意にとどまり成立したとは認められないと判断されていたこと,東京地裁の事案では受益相続人も含む相続人全員の合意に従った登記が既にされていたことによると考えられる。
実務書も,現状では,遺言執行者の同意又は追認がある場合は実務上は有効とみて差し支えなく,同意又は追認がない場合には遺産分割協議としては無効であり,遺言内容の事後的な変更処分の意味を持つ交換又は贈与として有効となる余地があると整理している(前掲『Q&A遺産分割後のトラブル対応』268頁)。
4 実務書の説明
家事調停の条項例集は,遺言執行者の参加を求め,その同意の下に遺産分割の成立を図るのが相当であり,調停では遺言執行者が定められている場合には調停手続に遺言執行者の参加を求め,その同意を求めるのが一般的であると説明している(前掲『すぐに役立つ調停等の条項例集―家事編―』88頁)。
同書は,相続人全員の合意による遺産分割であっても,遺言執行者が異を唱えた場合にはその内容を実現することは困難であることを理由に挙げている。
平成30年改正前の文献であるが,第一東京弁護士会司法研究委員会編『新版 遺言執行の法律と実務』(ぎょうせい,2004年)219頁~220頁は,共同相続人全員(受遺者を含む。)の合意があれば遺言と異なる遺産分割協議又は遺産分割調停は許されると解されているとした上で,遺言執行者の同意の要否は難しい問題であるとし,相続人及び受遺者全員の合意がある場合に遺言執行者の同意がないことを理由に協議を無効とすることは妥当でないとの考えを示している。
同書は,相続分の指定や遺産分割方法の指定のように遺言執行を要しない遺言事項については,遺言執行者の同意を要することなく遺言と異なる遺産分割協議ができるとも述べている。
5 遺言執行者の立場と判断
遺言執行者は遺言者の意思を実現する立場にあるから,相続人全員が合意しているというだけで当然に同意するわけではない。
遺言執行者が同意又は追認する場合には,その合意の内容が遺言の趣旨を没却するか否かを被相続人の合理的意思から判断する必要があり,例えば,配偶者に全財産を相続させることを望み,同居の相続人による独り占めを危惧していた事情の下では,安易に同意すべきでないと指摘されている(前掲『Q&A遺産分割後のトラブル対応』266頁)。
遺言執行者が同意しない場合でも,遺言どおりに執行された後に取得者が他の相続人へ財産を贈与又は交換することは妨げられないが,贈与税等の負担が別に生じ得る(同書267頁)。
第5 遺言による分割の禁止
民法908条1項は,「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。」と定める。
遺言で分割が禁じられている期間中は,前記第3の1の民法907条1項のとおり,共同相続人は協議による分割をすることができない。
遺言に「遺言と異なる遺産分割をしてはならない」と書かれている場合に,それが同項の分割の禁止に当たるか,当たるとしてどの範囲・期間に及ぶかは,遺言の文言と全体の構造から解釈することになる。
前記第4の3(2)の東京地裁平成13年6月28日判決は,特定の財産を挙げて遺産の分配を具体的に指示する遺産分割方法の指定をし,遺言執行者を指定した遺言について,遺言者は,遺言者が定めた遺産分割の方法に反する遺産分割協議をすることを許さない趣旨であったと解している。
第6 遺言の存在を知らずに協議した場合
最高裁判所第一小法廷平成5年12月16日判決(平成2年(オ)第1828号,集民170号757頁)は,特定の土地を分割してそれぞれを相続人らに相続させる趣旨の分割方法を定めた遺言が存在したのに,相続人全員がその遺言の存在を知らずに,相続人の一人が土地全部を相続する遺産分割協議をした事案で,協議の意思表示に要素の錯誤がないとはいえないとした。
遺言を知った上で全員が意図的に異なる合意をした場合と,遺言を知らないまま協議した場合とは区別しなければならない。
遺言が後から見つかったときは,協議の効力と遺言の効力の双方を確かめ直す必要がある。
第7 税務・登記・金融機関の手続
1 相続税と贈与税
国税庁の質疑応答事例「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」は,全遺産を三男に包括遺贈する公正証書遺言があったが,相続人全員の協議で妻と三男が2分の1ずつ取得した事例について,「包括受遺者である丙が包括遺贈を事実上放棄し(この場合、丙は相続人としての権利・義務は有しています。)、共同相続人間で遺産分割が行われたとみて差し支えありません。」とし,原則として贈与税の課税は生じないと回答している。
国税庁のタックスアンサー「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」も,特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合について同旨を述べ,各人の相続税の課税価格は相続人全員で行われた分割協議の内容によるとしている。
これらは相続人である受遺者の事例であり,前記第3の3のとおり,相続人でない受遺者が関わる場合や,遺言どおりに取得した後に改めて財産を移す場合は,贈与税や譲渡所得の課税を個別に検討する。
また,遺言に基づいて相続税の申告・納税をした後に遺言と異なる遺産分割協議をしても,その協議による更正の請求は認められないと思われるとの指摘があり,遺言と異なる協議は相続税の申告期限までにまとめるのが望ましい(遺言・相続実務問題研究会編,野口大・藤井伸介編集代表『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,18頁)。
2 登記
家事調停の条項例集は,遺贈の目的となった土地について遺言と異なる遺産分割をした条項例に関し,遺贈による物権変動は遺言者の死亡によって生じるから,遺言と異なる遺産分割が行われたときは,遺言に従った登記をした上で,「贈与」又は「交換」を原因とする所有権移転登記を行うことになると説明している(前掲『すぐに役立つ調停等の条項例集―家事編―』87頁~88頁)。
不動産がある場合の登記原因と申請の順序は,遺言の型と協議の内容によって異なるので,司法書士と事前に確認する。
3 金融機関
銀行や証券会社は,遺言と異なる分け方をするときは,遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書等を求め,遺言執行者がいる場合には遺言執行者の関与を確認するのが通例と考えられるが,具体的な書類は各社の相続手続の案内で確かめる。
例えば,三井住友銀行は,遺言執行者が指定されていない場合に受遺者が手続する類型について,「遺言執行者による請求以外は、原則、相続される方全員の印鑑登録証明書が必要」と案内している。
証券口座の手続は株式・証券口座の相続手続を弁護士が代理する方法で,換金を指定された株式・投資信託を現物で受け取る場合は遺言で換金して分けるとされた株式・投資信託を現物で受け取れるかで説明している。
第8 手続の進め方
1 協議前の確認
①遺言書の全文を読み,遺贈・特定財産承継遺言・相続分の指定・分割方法の指定・分割の禁止のどれが含まれるかを条項ごとに確かめる。
②相続人を戸籍で確定し,受遺者(相続人でない者を含む。)を一覧にする。
③遺言執行者の指定・選任の有無と就職の状況を確かめ,遺言と異なる分け方への意向を早めに聞く。
④相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月)を確かめる。
⑤不動産・預貯金・証券ごとに,登記や名義変更の手続と必要書類を確かめる。
2 協議書の書き方
協議書には,遺言の存在と内容を相続人全員が知った上で合意したこと,協議の対象とする財産と遺言どおり取得する財産の区別,特定受遺者が遺贈を放棄する範囲を記載する。
遺言執行者がいる場合は,家事調停の条項例集の条項例にならい,「共同相続人全員の合意により、遺言執行者の同意を得た上で」遺産を分割する旨を記載し(前掲『すぐに役立つ調停等の条項例集―家事編―』88頁),遺言執行者の署名押印又は別紙の同意書を付ける。
3 関連記事
遺言と異なる分け方を調停で実現する場合の手続選択は,遺言と異なる遺産分割をしたい場合の調停手続-受遺者がいる場合の選び方で説明している。
遺言執行者がいる場合の相続人の立場は遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点で,「相続させる」遺言の効力は相続させる遺言と特定財産承継遺言で整理している。
第9 出典
1 法令
① e-Gov法令検索・民法(907条,908条,939条,986条,990条,995条,1012条,1013条,1014条,平成30年法律第72号附則2条)
2 裁判例
① 最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)
② 最高裁判所第一小法廷昭和62年4月23日判決(昭和61年(オ)第264号,民集41巻3号474頁)
③ 最高裁判所第一小法廷平成5年12月16日判決(平成2年(オ)第1828号,集民170号757頁)
④ 最高裁第一小法廷平成12年9月7日判決(判例秘書の判例番号 L05510088)
⑤ 東京地裁昭和63年5月31日判決(判例秘書の判例番号 L04330142)
⑥ 大阪地裁平成6年11月7日判決(判例秘書の判例番号 L04950572)
⑦ 東京地裁平成6年11月10日判決(判例秘書の判例番号 L04930363)
⑧ 東京地裁平成13年6月28日判決(判例秘書の判例番号 L05630180)
3 所管行政機関の解説・質疑応答
① 国税庁「遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく質疑応答事例)
② 国税庁「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」
③ 三井住友銀行「受遺者さまがお手続される場合(遺言執行者さまが指定されていない場合)」
4 文献
① 星野雅紀『すぐに役立つ調停等の条項例集―家事編―』司法協会,2022年,87頁~88頁,98頁
② 第一東京弁護士会司法研究委員会編『新版 遺言執行の法律と実務』ぎょうせい,2004年,219頁~222頁
③ 遺言・相続実務問題研究会編『Q&A遺産分割後のトラブル対応―法務・登記・税務―』新日本法規出版,2015年(第二版),263頁~270頁
④ 遺言・相続実務問題研究会編,野口大・藤井伸介編集代表『事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務』日本加除出版,2023年,16頁~25頁,84頁~88頁