第1 食品事業者が準備すべきこと
本記事は,食料品消費税1%法案について,食品事業者が税率マスター,契約価格,定期便・通販の経過取扱い,店頭表示,請求書及び返品処理を準備するための実務記事である。
本記事は,令和8年10月9日に閣議決定され,第222回国会に提出された政府法案と国税庁の公表資料を前提にした準備の解説である。法案提出,成立,公布及び施行は別の段階であり,以下の特例を現在利用できる制度として扱ってはならない。実施に当たっては成立した法律とその後の国税庁資料を確認する必要がある。
政府案は,令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間,対象となる飲食料品の消費税率を地方消費税と合わせて1%とする内容である。現在の標準税率10%,軽減税率8%と区別する。対象品目や法案全体は,食料品消費税1%法案の開始時期・対象品目・5つの特例を参照されたい。
消費者側の値段,外食・テイクアウト,コンビニ弁当及び家計への影響は,食料品消費税1%で値段,外食・テイクアウト及び家計がどう変わるかで説明している。
第2 税率の変更と契約価格の変更を分ける
1 契約書・見積書で確認する項目
税率が1%になる場合の税額計算と,売買代金をいくらとするかは,それぞれ確認すべき事項である。取引先への説明では,税込の総額,本体価格,適用税率,適用を切り替える取引及び変更の合意内容を明確にしておく必要がある。
例えば,本体価格1000円を維持する前提なら,税込価格は8%で1080円,1%で1010円となる。税込1080円の合意をそのまま維持する案は,本体価格を維持する案とは異なる。税率は7ポイント下がるが,税込価格1080円に対する70円の下落率は約6.5%であり,税込価格が自動的に7%下がるという意味ではない。税率変更だけを理由に契約価格の扱いまで一律に決めつけず,価格条項と変更手続を読んで取引先と確認するのが実務上の準備となる。
| 確認する資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 基本契約・個別契約 | 税込総額か,税抜価格に税額を加える約束か。税率変更時の調整条項があるか。 |
| 見積書・注文書 | 適用する価格の期間,納品日,送料等の区分及び注文の承諾内容。 |
| 価格改定の合意書 | 新価格,適用開始日,対象商品,既受注分への適用及び相手方の承諾記録。 |
| 定期便・通販の条件 | 旧税率の経過取扱いの対象か。1%を前提とする条件を定めたか。 |
2 価格条項だけでなく,取引時期も確認する
国税庁Q&Aの問1-3は,原則として飲食料品を譲渡した時期で適用税率を判定することを説明している。注文日や請求書の発行日だけで税率を決めてはならない。
同Q&Aの問1-4では,売手が出荷日,買手が検収日を継続して用いている取引について,買手は売手の適用した税率によるインボイスを基に仕入税額控除の計算を行うとされている。税率が不明な場合には相手方へ確認する。境界日の取引について,出荷記録,納品記録,検収記録及びインボイスを結び付けて保存しておくことが望ましい。
第3 定期便・通販では,令和9年1月1日前の条件を確認する
1 定期供給契約による予約販売
政府案と国税庁Q&Aの問1-6には,一定の取引に引下げ前の8%を適用する経過取扱いが示されている。対象なら任意に1%を選択する取扱いではない。
定期供給契約による予約販売については,令和9年1月1日前に締結した,不特定多数の者に対する定期的な継続供給契約に基づき,令和9年4月1日前に受領した対価に係る飲食料品を同日以後に譲渡する場合が対象とされる。ただし,1%への引下げを前提とした契約は除かれる。
単に「契約が古い」という理由だけでは足りない。契約締結日,対価の受領日,供給時期及び税率変更に関する契約内容を確認する必要がある。
2 通信販売
通信販売については,令和9年1月1日前に販売条件を提示し,又は提示する準備を完了した場合に,令和9年4月1日前に申込みを受け,同日以後に飲食料品を譲渡する取引が対象とされる。1%への引下げを前提とした販売条件は除かれる。
国税庁Q&Aは,ウェブサイト,電子メール及び電話等による申込みも扱い,訪問等による対面での販売条件の提示や申込みはこの通信販売から除くと説明している。カタログの印刷完了も,提示する準備が完了した場合の例とされている。
| 残しておく記録 | 確認する理由 |
|---|---|
| 条件の旧版・新版と改訂日 | 令和9年1月1日前の条件と,1%を前提とした変更の有無を確認するため。 |
| カタログの印刷記録・ウェブ掲載記録 | 条件の提示又はその準備が完了した日を確認するため。 |
| 申込受付・決済・出荷の記録 | 申込日,対価受領日,譲渡日を混同しないため。 |
| 変更通知・相手方の承諾記録 | 税率変更を反映した契約内容と価格の扱いを確認するため。 |
定期便の契約や通販条件に1%を前提とする内容を設ける場合は,国税庁Q&Aの具体例と照合する必要がある。既存条件のまま経過取扱いに該当する取引と,条件変更後の取引を一括して処理しない。
第4 総額表示の特例は,値札と実際の精算を分けて考える
1 特例の期間と条件
総額表示は,課税事業者が消費者に対し,あらかじめ価格を表示する場合の税込価格の表示義務である。国税庁Q&Aの問3-9は,税率の切替え時に直ちに表示を変更することが困難な事情があり,誤認防止措置を講じる場合に限り,次の表示を認める特例を説明している。
| 表示する期間 | 特例で認める税込表示 |
|---|---|
| 令和9年2月1日~3月31日 | 引下げ後の1%に基づく税込価格。 |
| 令和9年4月1日~5月31日 | 引下げ前の8%に基づく税込価格。 |
| 令和11年2月1日~3月31日 | 引下げ終了後の8%に基づく税込価格。 |
| 令和11年4月1日~5月31日 | 引下げ期間中の1%に基づく税込価格。 |
これは表示に関する特例である。表示されている旧税率を理由に,実際の取引にも旧税率を適用する制度ではない。また,税抜価格だけ,又は税抜価格に「+税」と付記するだけの表示を認める特例でもない。
2 表示とレジ処理の食い違いを防ぐ
国税庁Q&Aは,夜間の値札の貼替えだけでは対応できない場合や,カタログ・商品パッケージに価格が印刷されている場合を,困難な事情の例としている。値札を貼り替えたのに,具体的な事情もなく旧税率の表示を続ける例は区別されている。
誤認防止措置は,消費者が商品を選ぶ際に目に付く場所で,明確に示す必要がある。同Q&Aは,棚の近くで表示価格の基となる税率とレジでの精算方法を説明する例や,異なる税率の値札が混在する場合に,値札の色や印で区別し,その意味を説明する例を示している。
準備では,商品棚,商品パッケージ,チラシ,通販ページ及びレジの変更時期を一覧にする。例外を使う商品については,変更が困難な事情,掲示内容,掲示位置及び掲示期間も記録しておくことが望ましい。
例えば,本体価格1000円を維持する対象食品について,4月以後も8%に基づく「税込1080円」の値札を一時的に残す場合,レジでの実際の税込精算額は1%の1010円となる。
法案上の表示特例を使うには,直ちに表示を変更することが困難な事情と誤認防止措置が必要であり,「この棚は8%に基づく税込表示です。対象食品はレジで1%の税込価格に換算して精算します」など,値札の意味と精算方法が選択時に分かる掲示を検討する。
この文例を掲示するだけで一律に特例を利用できるわけではない。
混在する値札,対象商品,設置位置及び表示期間を国税庁Q&A問3-9の条件と照合する。
3 飲食店の価格設定とメニュー表示
飲食店では,店内飲食と持ち帰りの税率が異なることと,二つの税込販売価格をいくらに設定するかを分けて検討する。
国税庁が公表する軽減税率の価格表示資料には,両方の税込価格を表示する例と,税抜価格を調整して同じ税込価格を表示する例が示されている(価格表示資料の2~3頁,https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/03-09.pdf)。
同資料に含まれる過去の期間限定の特例と,現在の総額表示の原則又は今回の法案上の特例を混同してはならない。
政府案どおり店内飲食10%・対象となる持ち帰り1%となり,両方の税抜価格を1000円に保つと仮定すれば,税込価格はそれぞれ1100円と1010円になる。
これに対し,両方の税込価格を1100円とする仮例では,店内飲食の税抜価格は1000円,持ち帰りの税抜価格は約1089円となる。
税込価格を統一しても適用税率まで同じになるわけではなく,税率別の売上げと税額を分けて処理する。
持ち帰りの税込価格を従来の1080円のままにする場合は,税率1%を含む税抜価格が約1069円となり,税抜1000円を維持する場合とは異なる。
これらは国・地方合計の税率を使い,税抜額を概算した価格比較であり,容器代等の個別費用,実際のインボイスの税額計算及び端数処理を省略している。
価格方針を決める際は,仕入費用,容器・包装の費用,店舗のサービス及び顧客への説明も併せて検討する。
表示を見直す際は,店内飲食と持ち帰りの税込価格を併記するか,同じ税込価格にするかを先に決める。
一方の価格だけを表示する場合は,他方で支払う金額と取り違えさせない掲示を検討し,注文画面,メニュー,店頭掲示及びレジの精算額を一致させる。
総額表示の現在の原則は,国税庁の説明で確認できる(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6902.htm)。
今回の法案上の総額表示特例は,価格表示に関するものであり,店内飲食10%を1%にする制度ではない。
値札の変更が困難な事情と誤認防止措置が必要であるから,単にメニューを印刷し直したくないという理由だけで特例を使えると考えず,国税庁Q&A問3-9と照合する。
納税額と利益の比較については,飲食店への影響を扱う記事を参照されたい。
第5 請求書・帳簿・返品を切替え前後で点検する
1 月締めの請求書
国税庁Q&Aの問2-1によれば,対象となる飲食料品の適用税率と消費税額等は1%に対応したものとなるが,それ以外のインボイスの記載事項は変わらない。軽減税率対象品目である旨の記載があれば,別途「1%対象品目である旨」を追加する必要はないとされている。
月締めの請求書に引下げ前の8%と引下げ後の1%の取引が混在する場合,同Q&Aの問2-2は,3月分と4月分の請求書を分ける方法,又は同一の請求書内で区分する方法を示している。10%の取引もあるときには,それも税率別に区分する必要がある。
請求書の発行日だけで全明細を1%にせず,取引日と経過取扱いを含めて各明細の税率を確認する。会計システムでは,8%・1%・10%を区分する処理と,仕入先から受け取るインボイスの処理を試しておく。
例えば,令和9年3月分の対象飲食料品が税抜1万円・税額800円,同年4月分が税抜1万円・税額100円であり,経過取扱いに該当しないと仮定する。
同じ月締め請求書でも,税率別の対象額と税額を次のように分ける。
| 区分 | 税抜対象額 | 税額 | 税込額 |
|---|---|---|---|
| 3月分・8% | 1万円 | 800円 | 1万0800円 |
| 4月分・1% | 1万円 | 100円 | 1万0100円 |
| 請求合計(税率別内訳を保持) | 2万円 | 900円 | 2万0900円 |
これは金額区分の例であり,インボイスの全記載事項を省略してよいという意味ではない。
登録番号,取引年月日,軽減税率対象である旨等の記載を含む帳票全体を確認する。
消費税額等の端数処理は,一のインボイスにつき税率ごとに1回行う(国税庁「端数計算」)。
2 切替え前の売上げの返品
国税庁Q&Aの問1-5は,令和9年3月31日までに8%で販売した商品が同年4月1日以後に返品された場合,元の売上げに適用した8%を用いて,売上げに係る対価の返還等の処理を行うと説明している。
返品日現在の税率だけで処理すると,元の売上げとの対応が崩れる。返品伝票から元の売上伝票・請求書をたどれるようにし,切替え前の売上げの返品や値引きを新規売上げと区別する必要がある。
例えば,3月に税抜1万円・8%の税額800円・税込1万0800円で販売した商品を,4月に全額返品する場合は,元の8%に対応する1万0800円の返金と税額800円の調整を結び付ける。
返品日が4月だから税額100円に変更するのではない。
返品伝票には元の請求番号,販売日,税率,数量及び返還額を残す。
これは値引き・一部返品の条件を省略した全額返品の例である。
第6 担当者と期限を決めて準備する
| 担当する業務 | 準備する内容 |
|---|---|
| 営業・法務 | 契約価格,変更条項,定期便・通販の条件と記録を確認する。 |
| 店舗・販売管理 | 値札,パッケージ及び通販画面の変更計画と誤認防止の掲示を用意し,店内飲食10%と持ち帰り1%の判定・店頭説明を整える。 |
| 経理・システム | 複数税率,月締め請求,返品,仕入先のインボイスを確認する。 |
| 経営・税務 | 免税,本則課税及び簡易課税の状況を確認し,届出・還付・中間申告の影響を検討する。 |
令和9年1月1日は,定期供給契約と通販条件の経過取扱いを検討する上での重要な基準日である。4月1日の直前だけでなく,それ以前に条件の版と取引記録を確認しておく必要がある。
届出や還付は事業者の課税方式によって異なる。1%への引下げによってすべての食品事業者に還付が生じると考えず,食料品消費税1%法案の5つの事業者特例と,消費税とは―税率・免税事業者・簡易課税・インボイスの基本を併せて確認されたい。
飲食店では,店内飲食の納付税額だけでなく,食材への支払額と納税時期も併せて試算する。
食料品消費税1%で飲食店はどうなる?―外食・仕入税額控除・利益への影響(AI作成)では,課税方式と仕入価格の条件を分けた計算例を示している。
食品メーカーでは,契約・請求書の切替えと併せて,還付までの資金と製品価格の条件を確認する。
食料品消費税1%と食品メーカー-還付・利益・資金繰りへの影響(AI作成)では,原料・資材の税率,課税方式及び還付待ちの資金を計算例とともに説明している。
第7 よくある質問
1 請求書の発行日が4月なら,全部1%になるのか
全部1%になるわけではない。
各取引の時期,品目及び経過取扱いを確認し,3月の8%と4月の1%が混在する請求は税率別に区分する。
詳しくは月締め請求の例を参照されたい。
2 4月以後も旧8%の値札を使えるのか
政府案の総額表示特例では,令和9年4月1日から5月31日まで,直ちに変更することが困難な事情があり,誤認防止措置を講じる場合に認められる。
実際の取引税率まで旧8%にする制度ではない。
総額表示の期間・条件を確認する必要がある。
3 食品定期便は4月から必ず1%になるのか
必ず1%になるとは限らない。
令和9年1月1日前の一定の契約,4月1日前の対価受領,同日以後の供給等が経過取扱いの条件に当たる場合は旧8%となり,1%を前提とする契約等は区別する。
契約日だけでなく,定期供給契約の条件を順に確認する。
4 店内飲食と持ち帰りを同じ税込価格にできるのか
現行の価格表示資料には,税抜価格を調整して同じ税込価格を表示する例がある。
同じ税込価格でも適用税率は別であり,税額まで同一として処理することはできない。
政府案の税率を用いた価格比較と表示上の注意は,第4の3を参照されたい。
5 食料品の税率が1%なら必ず7%値下げするのか
税率が8%から1%になることは,税込価格を一律7%引きにすることを意味しない。
税抜価格1000円を維持する場合の税込価格は1080円から1010円となり,値下がり率は約6.5%である。
実際の販売価格は価格設定や契約条件等も含めて確認する必要がある。
第8 参照資料
本記事の税率・期間・特例は,次の政府法案及び国税庁資料に基づく。契約資料の点検項目,担当者の分担及び記録の残し方は,それらを踏まえた実務上の準備の提案である。
1 内閣官房「飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金」(令和8年10月9日の閣議決定・国会提出。リンク先に概要,要綱及び法律案・理由がある。)
2 国税庁「飲食料品の消費税率引下げへの対応」(法案成立等を前提とする準備資料。)
3 国税庁「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げに関するQ&A」(問1-3~1-6:本文3~6頁,問2-1・2-2:本文7~9頁,問3-9:本文22~24頁。PDFの通し頁とは異なる。)
5 国税庁公表の軽減税率制度に関する価格表示資料(印刷82~83頁,抜粋PDFの2~3頁)。
同一の税込価格の例と,価格が異なる場合の注意喚起を参照した(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/03-09.pdf)。
過去の税抜表示特例を現在の制度として用いる趣旨ではない。