第1 食料品消費税1%で飲食店に生じる影響
食料品消費税1%が飲食店に及ぼす影響は,店内飲食と持ち帰りの価格競争,仕入れと納税,価格表示・レジの運用という三つの面に分けて考える必要がある。
政府案どおり実施される場合,通常の店内飲食は10%のまま,対象となる持ち帰りの飲食料品や食材の仕入れは原則1%となる。
飲食店の消費税納付額が増える場合はあるが,それだけで同額の利益減少が生じるとはいえない。
本則課税では,食材の仕入税額控除が減る一方,税抜仕入価格が変わらなければ税込の仕入支払額も減るためである。
税込仕入価格の据置き,課税方式,売上構成及び入出金の時期によって結果が変わる。
令和8年10月13日現在,食料品消費税1%は,第222回国会に提出された政府法案の内容である。
以下は,法案どおり令和9年4月1日から令和11年3月31日まで実施される場合の説明であり,現在の飲食料品の軽減税率8%が既に1%になったという意味ではない。
衆議院の議案審議経過情報と,政府法案の資料では,提出,成立,公布及び施行を分けて確認する必要がある。
本記事は,飲食店の税額と収支の関係を,条件を限定した計算例で説明する。
実際の需要減少,値上げ,利益率又は廃業件数を予測するものではない。
第2 店内飲食10%と食材・持ち帰り1%を分ける
政府案では,現在の軽減税率対象の飲食料品の譲渡を原則1%とし,外食と酒類は対象外としている。
そのため,通常の店内飲食は10%のまま,対象食材の仕入れや酒類を除く料理の持ち帰り販売は原則1%となる。
同じ店でも,食材の購入,店内飲食,持ち帰り及び酒類の販売を別々に判定する。
| 取引 | 現在 | 政府案の引下げ期間 |
|---|---|---|
| 対象食材の仕入れ | 8% | 原則1% |
| 店内飲食 | 10% | 10% |
| 酒類を除く料理の持ち帰り販売 | 8% | 原則1% |
| 酒類の販売 | 10% | 10% |
電気,店舗の賃料,設備等まで食料品1%になるわけではない。
仕入先が免税事業者か,インボイスを保存しているか,控除の特例を利用できるかも別に確認する必要がある。
一定の定期供給契約や通信販売には旧税率8%の経過取扱いがあるため,すべての食材仕入れを4月1日から機械的に1%へ変更してはならない。
対象範囲と経過取扱いは,国税庁の飲食料品の税率引下げQ&A問1-2・1-6で確認できる。
1 税率差9ポイントと販売価格の差は同じではない
現在の店内飲食10%と持ち帰り8%の税率差は2ポイントであり,政府案の引下げ期間中は9ポイントになる予定である。
同じ料理の税抜価格を1000円に保つ仮例では,店内飲食は税込1100円,対象となる持ち帰りは税込1010円となり,差は90円である。
9ポイントは税率の差であり,持ち帰りが店内飲食より一律9%安くなるという意味ではない。
実際の税込価格は,店ごとの税抜価格,容器等の費用,価格改定及び端数処理によって変わる。
店内と持ち帰りの価格をどう表示するかは,事業者対応記事の飲食店の価格設定・メニュー表示で説明する。
2 外食離れの懸念と実際の売上減少を区別する
スーパーの惣菜や持ち帰りの税込価格が下がり,店内飲食との価格差が広がれば,価格を重視する顧客の選択に影響する可能性がある。
他方,税率の違いだけから,外食客が何%減るか,又は飲食店が必ず赤字になるかを算定することはできない。
シンクロ・フードが令和8年9月25日から27日までに実施したインターネット調査では,飲食店ドットコム会員の飲食店経営者・運営者257件の回答のうち,44.7%が店内飲食の客足・売上へのマイナス影響を予想し,52.9%がシステム・運用面の負担を懸念した。
これは回答者の予想・懸念を示す調査であり,実際の客足・売上の減少率ではない。
回答店舗の50.6%が東京都にあり,全国の飲食店すべての状況を示す数値ともいえない。
調査対象,実施期間及び設問は,公表元の資料で確認できる(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000745.000001049.html)。
自店の試算では,税率変更だけの影響を確認した後に,客数,客単価,店内飲食と持ち帰りの構成を変えた場合を比較する。
納税額,利益及び資金繰りの試算を,業界アンケートの割合で機械的に増減させないことが必要である。
第3 本則課税では納付税額と仕入支払額を一緒に見る
1 税抜の食材価格が変わらない場合
本則課税は,売上税額から,控除要件を満たす実際の仕入税額を差し引くことを基本とする。
計算の仕組みと控除要件は,国税庁の納付税額の計算及び仕入税額控除で説明されている。
ここでは,同じ期間に税抜100万円の店内飲食売上げと税抜50万円の対象食材仕入れだけがあり,いずれも全額入金・支払済みであると仮定する。
仕入税額は全額控除でき,売上数量,販売価格,食材の税抜価格及び購入量は変わらないものとする。
家賃,人件費,設備投資,その他の経費,経過取扱い及び特別な税額計算は含めず,国・地方合計で端数処理を省略した比較である。
| 項目 | 食材8% | 食材1% |
|---|---|---|
| 店内飲食の入金額 | 110万円 | 110万円 |
| 食材の支払額 | 54万円 | 50万5000円 |
| 売上税額 | 10万円 | 10万円 |
| 控除する仕入税額 | 4万円 | 5000円 |
| 消費税等の差引納付額 | 6万円 | 9万5000円 |
| 入金-食材支払-税納付 | 50万円 | 50万円 |
この例では,納付額は3万5000円増えるが,食材への支払額は3万5000円減り,税納付後の残額は同じ50万円である。
税抜売上100万円から税抜食材費50万円を引いた差額も変わらない。
納付額の増加だけを取り出して「3万5000円の利益が失われる」と説明することはできない。
表の最終行は,これら二つの取引と税納付だけをまとめた残額であり,店舗の最終利益ではない。
売掛金,買掛金,在庫及び他の費用がある店舗では,会計上の利益と実際の預金残高も分けて確認する必要がある。
2 税込の食材価格が据え置かれる場合
次に,店内飲食の売上げは同じであるが,食材への税込支払額が54万円のままである場合を考える。
1%を含む54万円は,税抜額が約53万4653円,税額が約5347円となる。
税抜仕入価格が50万円だった前の例とは,価格条件そのものが異なる。
| 項目 | 食材8%・税込54万円 | 食材1%・税込54万円 |
|---|---|---|
| 食材の税抜価格 | 50万円 | 約53万4653円 |
| 控除する仕入税額 | 4万円 | 約5347円 |
| 消費税等の差引納付額 | 6万円 | 約9万4653円 |
| 入金-食材支払-税納付 | 50万円 | 約46万5347円 |
この例では,納付額の増加に対応する仕入支払額の減少がなく,残額は約3万4653円減る。
同じ税込仕入額の中で税抜仕入価格が上がることが,結果の違いを生んでいる。
概算は54万円×1/101で税額を求めたものであり,実際のインボイス,申告上の端数処理等により金額は異なり得る。
仕入先との価格の扱いは,税率だけで自動的に決まるものではない。
税込総額の合意か,税抜価格に税額を加える合意か,税率変更条項と価格改定の合意があるかを確認する。
契約・表示・請求書の準備は,食料品消費税1%法案への事業者対応で詳しく説明している。
第4 簡易課税と免税事業者では計算が変わる
1 簡易課税の店内飲食
簡易課税は,実際の仕入税額に代えて,売上税額と事業区分ごとのみなし仕入率を使う制度である。
通常の飲食店業は第四種事業で,みなし仕入率は60%である。
サービス業だから第五種50%と扱うのではなく,国税庁の簡易課税制度の事業区分を確認する。
店内飲食のみで税抜売上100万円,売上税額10万円とし,通常の簡易課税の計算だけを行うと,国・地方合計の差引納付額は10万円×(1-60%)=4万円となる。
食材の実際の税額が8%から1%へ変わることだけでは,この計算上の納付額は増えない。
ただし,税込の食材支払額が減るかどうかは別問題であり,仕入価格を含む収支まで同じとは限らない。
この例は,2割・3割特例その他の特別な計算を適用しない場合のものである。
2 持ち帰り販売を併営する場合の法案上の特例
国税庁Q&A問3-6は,簡易課税で申告する場合,1%対象の飲食料品の譲渡について,その売上税額と同額を仕入税額として計上する予定の特例を説明している。
店内飲食の売上げまで,この特例で全額控除するものではない。
持ち帰り販売などの対象売上げと,店内飲食その他の売上げを分けて計算する必要がある。
同Q&A問3-7では,この特例を適用する場合の75%ルールの判定・計算から,1%対象の飲食料品の譲渡を除くとしている。
したがって,店舗全体の売上比率だけを見て,持ち帰り販売の区分のみなし仕入率を店内飲食まで一括適用する説明は避けるべきである。
2割・3割特例にも関連する取扱いがあるが,利用できる人・課税期間が異なるため,適用資格を先に確認する。
3 免税事業者
免税事業者のままであれば,納付税額から食材の仕入税額を控除する計算は行わず,食材税率の引下げだけで消費税の還付を受けるわけではない。
仕入支払額が下がれば収支に影響するが,どの程度下がるかは価格条件による。
インボイス登録の状況と,その課税期間に本当に納税義務が免除されるかを確認する必要がある。
法案には,飲食料品を販売する事業者の課税選択や簡易課税から本則課税へ移る届出の特例がある。
課税方式を変えれば有利になると一律に考えず,対象売上げ,控除できる仕入れ,設備投資,届出の効力が生じる課税期間及び継続適用を含めて比較する。
詳細は,食料品消費税1%法案の5つの特例と,消費税の基本を参照されたい。
第5 資金繰りでは納税資金と支払時期を管理する
第3の1の例で期間全体の残額が同じでも,食材代の支払いと税の納付が同じ日に行われるとは限らない。
本則課税で食材の仕入税額控除が減る場合には,売上代金から後日の納税に残しておく金額が増えることがある。
食材代が減った分を,税額の再計算前に自由に使える利益とみなすと,納付日に資金不足となり得る。
試算では,売上代金の入金日,食材の支払日,確定申告・納付日及び中間納付の予定を並べる。
切替え前の在庫を販売する時期,8%の食材仕入れと1%の仕入れが混在する期間,返品や値引きも区分する。
法案の中間申告特例を使えば必ず資金負担が軽くなるともいえないため,従前税額による方法と利用できる特例の条件を確認する。
第6 飲食店が試算前にそろえる資料
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 消費税申告書,届出書控え,インボイス登録情報 | 本則・簡易・免税の別,特例の適用資格,課税期間 |
| 売上明細・レジ集計 | 店内飲食,持ち帰り,酒類等の税率別売上げ |
| 食材の契約書・見積書・インボイス | 税込・税抜の価格条件,変更合意,適用税率,控除要件 |
| その他の経費・設備投資予定 | 食材以外の課税仕入れ,控除制限,投資時期 |
| 入出金予定表・納税予定表 | 売上入金,食材支払,確定納付,中間納付の時期 |
最初に現状の課税方式で,税抜仕入価格が変わらない場合と税込仕入価格が変わらない場合を分けて試算する。
その後,販売価格や売上数量を変えた場合を別の試算として追加する。
税率変更の効果と,需要や価格改定の効果を一つの数字に混ぜないことが,経営判断と取引先への説明に役立つ。
準備は,課税方式と提供形態別の売上げの確認,仕入価格の確認と試算,販売価格・表示・レジの整合確認という順に進める。
食材の取引先には,税抜価格を維持するのか税込価格を据え置くのかを確認し,契約書・見積書と請求内容を対応させる。
販売側では,店内飲食,持ち帰り,宅配及び酒類を区分し,メニュー,店頭掲示,注文画面及びレシートが選んだ価格方針と一致するかを確認する。
レジ・会計システムの事業者には,税率別の売上集計,切替え前の取引の返品,1%と10%が混在する精算に対応できるかを確認する。
具体的な試算と課税方式の選択は税理士に確認し,仕入契約や価格改定の合意内容は契約資料に基づいて検討する。
法案の成立内容と公表資料を確かめる前に,現在の取引へ1%を適用しないことも必要である。
第7 よくある質問
1 食料品消費税1%で飲食店は実質増税になるのか
本則課税で店内飲食10%の売上げが変わらず,食材の仕入税額控除が減れば,納付税額が増える場合がある。
しかし,税抜仕入価格が同じなら税込支払額も減るため,納付額の増加と同額の利益減少が生じるとは限らない。
税込仕入価格の据置きと課税方式を分けて確認する必要がある。
2 仕入税額控除が減ると必ず飲食店が損をするのか
必ず損をするとはいえない。
第3の計算例のように,仕入支払額も減れば税納付後の残額が変わらない場合があり,税込仕入価格が据え置かれれば残額が減る場合がある。
簡易課税では実額の仕入税額を使わないため,同じ式で比較してはならない。
3 テイクアウトの売上げがあれば店全体の納付税額はゼロになるのか
店全体がゼロになるわけではない。
法案上の簡易課税の特例は,1%対象の飲食料品の譲渡に係る売上税額についてのものであり,店内飲食10%等の売上げを別に計算する。
4 食料品消費税ゼロ・1%で飲食店が潰れるといわれるのはなぜか
店内飲食と持ち帰りの税率差が広がることによる客離れと,本則課税で仕入税額控除が減ることによる納付税額の増加が懸念されるためである。
しかし,税抜仕入価格が同じなら仕入支払額も減るため,納付額の増加だけから利益減少又は廃業を断定することはできない。
仕入価格,販売価格,課税方式,売上構成,人件費,家賃,借入返済及び需要の変化を併せて確認する必要がある。
「消費税ゼロ」という別の政策案の説明を,そのまま本記事の1%法案の説明へ置き換えることもできない。
税率や対象取引,仕入税額控除の扱いを確認し,どの制度を前提とする議論かを区別する必要がある。
5 消費税1%になったら飲食店はどうなるのか
政府案どおり実施される場合,通常の店内飲食10%と対象となる持ち帰り1%の税率差が広がり,価格設定と顧客への説明を見直す必要がある。
納税額・利益への影響は,本則課税,簡易課税又は免税の別と,仕入価格・売上構成によって異なる。
レジや帳簿の税率区分も確認する。
6 消費税1%の外食産業への影響は何か
外食と中食の価格競争,食材の仕入支払額と納付税額,価格表示やシステム変更の負担が主な確認事項である。
影響の大きさは業態や価格条件によって異なり,経営者の懸念を示す調査を,業界全体の実際の減収率として扱うことはできない。
7 食料品消費税1%で外食の税率も下がるのか
政府案では,通常の店内飲食は10%のままであり,酒類を除く対象となる持ち帰りの飲食料品は原則1%となる。
同じ店の同じ料理でも提供形態によって区分し,酒類やケータリング等を持ち帰りの食品と一括して1%にしない。
現在の取引に適用する税率と,将来の政府案の税率を分けて確認する必要がある。
第8 参照資料
①内閣官房の制度・法案資料(令和8年10月9日の閣議決定・国会提出資料)。
②衆議院「第222回国会 閣法第1号 議案審議経過情報」(令和8年10月13日確認)。
③国税庁飲食料品に係る2年間の消費税率引下げに関するQ&A(令和8年9月,法案成立等を前提とする資料。対象:問1-2,経過取扱い:問1-6,届出・還付:問3-1・3-2・3-5,簡易課税:問3-6・3-7,中間申告:問3-8)。
④国税庁消費税率引下げ特設サイト。
⑤国税庁No.6351 納付税額の計算のしかた,No.6401 仕入控除税額の計算方法,No.6505 簡易課税制度。
⑥シンクロ・フード「食料品消費税1%導入」に関する飲食店経営者・運営者アンケート(令和8年10月7日公表)。
調査概要,回答者属性及び客足・売上の影響予想を参照した(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000745.000001049.html)。
本記事の金額は,上記の制度を踏まえた仮定付きの計算例であり,実在する店舗の申告税額又は業績ではない。
消費者が支払う税込価格や家計負担については,食料品消費税1%で値段はどうなるかで説明している。