第1 どのようなときに使うか
文書送付嘱託とは,民事訴訟で使う既存の文書について,当事者の申立てを受けた裁判所が,文書の所持者に裁判所への送付を依頼する手続である(民事訴訟法226条)。
申立てでは,文書の名前だけでなく,何を証明するためにその文書が必要なのかを示す。
裁判所が嘱託しても,所持者から必ず資料が届くわけではない。
本記事は,2026年11月8日時点の民事訴訟法及び民事訴訟規則に基づいて説明する。
まず,証明したい事実と,それを記録している既存の資料を対応させる。
例えば,商品が所定の日に納品されたかを争うときは,運送会社に残る特定の荷物の受領記録が候補となる。
単に経緯を調べて回答してほしい場合は調査嘱託(同法186条),提出義務のある文書について裁判所の命令を求める場合は文書提出命令(同法220条以下)を検討する。
同法226条ただし書により,当事者が法令に基づいて対象文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合は,文書送付嘱託を利用できない。
法令上の交付請求権がある場合と,所持者が任意に写しを渡してくれる場合とは区別する。
後者でも自分で取得できるなら,先にその方法を検討する。
第2 申立書の書き方と記載例
係属中の事件を担当する裁判所に申し立てる。
証拠の申出は証明すべき事実を特定してしなければならず(民事訴訟法180条1項),裁判所は必要でないと認める証拠を取り調べないことができる(同法181条1項)。
事件番号,当事者,嘱託先の名称・送付先,対象文書の表示,証明すべき事実と文書との関係を記載する。
民事訴訟規則99条1項は,証明すべき事実及びこれと証拠との関係を具体的に明示するよう求めている。
証拠の申出を記載した書面の相手方への直送は同条2項及び83条に従い,紙と電子の別を含め,事件に適用される方式を確認する。
以下は,売買代金請求事件を想定した架空の記載例である。
① 申立ての趣旨 下記所持者に対し,下記文書を裁判所に送付するよう嘱託されたい。
② 文書の所持者 架空運送会社の配送記録管理部署(実際には法人名と送付先を記載する。)。
③ 文書の表示 令和8年9月10日配達分のうち,送り状番号[架空の番号:XXXX]の貨物に係る既に作成された紙の受領票1枚。対象は配達日,受領場所及び受領の記載がある部分。
④ 証明すべき事実と文書との関係 売買の対象である貨物が,同日に被告の指定した納品先に引き渡されたこと。受領記録の配達日・受領場所・受領の記載を,送り状の貨物の表示と照合して証明する。
⑤ 嘱託を求める事情 申立人の手元には発送時の控えしかなく,受領記録は所持者が保管している。所持者に直接確認しても取得できなかった事情があれば,確認先と回答を具体的に記載する。
「取引関係の資料一式」と書くと,所持者は何を送るべきか判断しにくく,争点と無関係な情報も含まれやすい。
識別番号,記録名,期間,必要な欄で絞る。
不要な第三者情報が混在する場合は,必要箇所とその理由を示し,部分送付やマスキングの可否を裁判所と確認する。
大津地方裁判所民事部の文書送付嘱託申立書は書式の一例であり(嘱託先,証すべき事実,送付を求める文書の欄がある。),提出方法は係属先の案内に従う。
第3 紙の文書と電子データの区別
紙の文書の送付は,民事訴訟規則143条1項により,原本,正本又は認証のある謄本でする。
裁判所は原本を送付させることができる(同条2項)。
同条3項の適用がある事件では,当事者に異議がないときに,最高裁判所の細則で定める方法により,紙の文書の画像情報を送付できる。
単なる写しで足りるか,誰がどの方法で送るかは,担当の裁判所と調整する。
電子データそのものを対象とする場合は,民事訴訟法231条の3第1項が226条を読み替えて準用する。
嘱託先は,その電磁的記録を利用する権限を有する者である。
法令に基づき,当事者が情報の内容の全部を証明した書面の交付又は同内容を証明した電磁的記録の提供を求めることができる場合は,読み替え後のただし書により利用できない。
電磁的記録の送付は,同法231条の3第2項により,記録媒体を送付する方法又は最高裁判所規則で定める電子情報処理組織を使用する方法による。
施行日である令和8年5月21日より前に提起された事件等にも,民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)附則16条により電磁的記録の証拠調べに関する規定が適用されるが,この送付は記録媒体による方法に限られる。
申立書自体の提出方法と,嘱託先から裁判所への送付方法は別に確認する。
第4 拒否・一部送付・未着への対応
文書送付嘱託は所持者に協力を求める手続であり,226条には不送付に対する過料等の制裁の規定はない。
資料が届かないときは,まず担当書記官に嘱託書の発送,嘱託先への到達及び回答の状況を確認し,不存在,保存期間の経過,対象が特定できないこと,秘密を含むことなど,判明した事情に応じて対応する。
部分送付で必要な事実を証明できるなら,その範囲で足りることもある。
拒否された場合でも,文書提出命令が当然に認められるわけではない。
当該文書について同法220条の提出義務があるか,除外事由はないか,必要性と対象を示せるかを確認する。
文書提出命令の要件と申立書の書き方は,文書提出命令とは?認められる要件,申立ての書き方と不提出の効果(AI作成)で説明している。
他の文書や当事者の説明で争点を立証できる場合は,代替資料も検討する。
第5 裁判所に届いた後にすること
送付された資料は,次の順序で確認する。
① 到着と範囲を確認する。嘱託した資料の名称,日付,対象者,ページや別添がそろっているかを照合する。
② 使う箇所を決める。どの記載からどの事実が分かるかを整理し,欠落やマスキングが立証に影響するかを確認する。
③ 取調べの手続を確認する。裁判所への到着だけで取調べや立証が完了するわけではないため,担当部に資料の確認方法を尋ね,必要な範囲,書証番号,写し又は電子ファイル,証拠説明書などの提出方法を確認する。
相手方が内容を確認し意見を述べる手続にも留意する。
納品記録の例では,指定の送り状番号と一致する記録でも,受領場所が表示されていなければ,その記録だけで納品場所まで証明できるとは限らない。
記載の意味や成立が争われる場合には,送り状控えや他の記録との照合も検討する。
原本の留置や返還の取扱いは担当部に確認する(同法227条1項参照)。
第6 よくある質問
1 いつ申し立てればよいか
係属中の民事訴訟で利用する。
必要な資料が判明したら,保管期間や証拠申出の期限を確認し,裁判所と早めに相談する。
提訴前には,226条の申立てとは別に,同法132条の4第1項第1号の証拠収集処分があり,予告通知その他の要件を満たす必要がある。
2 費用や日数は決まっているか
送付・返送や写しの取得のための費用,提出・送付方法は事件を担当する裁判所に確認する。
資料が届くまでの期間は,所持者による検索や確認,送付方法,回答の有無によって異なる。
予定の期日までに届かない場合は,代替証拠の要否も検討する。
3 個人が持つ文書も対象になるか
同法226条は嘱託先を官公署や団体に限っていないため,個人が所持する既存文書も対象となり得る。
相手方や第三者のいずれが持つ場合でも,必要性や対象の特定,任意の協力が得られる見込みを確認する。
第7 出典・関連記事
① 民事訴訟法(e-Gov法令検索)(132条の4,180条・181条,186条,219条~228条,231条の2・231条の3)
② 民事訴訟規則(裁判所公表の令和8年5月21日施行版)(83条,99条,143条)
③ 民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号。衆議院・制定法律)(附則5条・16条)
④ 改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要(裁判所)
⑤ 大津地方裁判所民事部「文書送付嘱託申立書」
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