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団体交渉の申入れを受けた会社の対応―初回の回答書,開催条件及び誠実交渉義務(AI作成)

第1 申入書を受け取った会社が最初にすること

1 初回の回答と要求の受入れは別の判断である

労働組合から団体交渉の申入書が届いた会社は,まず受領を記録し,議題と連絡窓口を確認した上で,交渉に向けた回答をすることになる。
組合が指定した日時・場所等の条件をすべて受け入れる義務はないが,会社が示した条件に組合が応じるまで交渉の席に着かないという対応は,団体交渉の拒否と評価されるおそれがある。
交渉に応じることと,交渉の結果として要求を受け入れるかどうかは,別の判断である。

本記事は,2026年11月8日時点の労働組合法の条文,労働省の通知,裁判例及び労働委員会命令を基に,申入書の受領から交渉の記録化までの初動を整理する。
個別の事案では,労使間の労働協約,従前の交渉の経緯及び議題の内容によって結論が変わり得る。

2 団体交渉に応じる義務の根拠

団体交渉権は憲法28条が保障している。
労働組合法7条2号は,使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを,不当労働行為として禁止している。
同法6条は,労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者が,労働組合又は組合員のために,使用者と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有すると定めている。

組合が自社の雇用する労働者の一部しか代表していないことは,それだけでは団体交渉を拒む理由にならない。
後記第3の1の昭和36年の労働省の通知が妥当とした回答も,一部少数の労働者を代表する組合であっても,使用者は団体交渉を行う義務を免れないとしている。
交渉担当者が弁護士でないことや,組合費・拠出金の受領を理由とする団交拒否の問題は,労働組合の団体交渉と弁護士法72条――個別労働紛争・拠出金・退職代行の境界(AI作成)で整理している。

第2 申入書の受領と記録

1 受領した事実と経過を残す

申入書が持参,郵送又はファクス等のどの方法で届いたかに応じて,申入書,封筒,送受信の記録及び受領時のやり取りを保存する。
後に団交拒否の成否が争われたときは,いつ申入れがあり,会社がいつ何と回答したかという経過全体が判断の材料になるからである。

組合員が申入書を持参した場合も,受け取ることと,その場で実質的な交渉を始めることは分けて考えてよい。
議題を調べる時間が必要であれば,会社の窓口と回答の時期を伝えておく。
回答をしないまま放置する状態が続けば,正当な理由のない団交拒否と評価されるおそれがある。

2 申入れ後の処遇の変更に注意する

労働組合法7条1号は,労働者が組合員であること,組合に加入したこと又は組合の正当な行為をしたことの故をもって不利益な取扱いをすることを禁止している。
同条3号は,組合の結成・運営への支配介入を禁止している。
申入れの後に組合員の配置や処遇を変える必要がある場合は,その業務上の理由と従前の経緯を確認し,組合加入とは関係なく説明できるよう記録しておくべきである。

第3 組合員の氏名・名簿を求めるときの注意

1 昭和36年5月15日の労働省の通知

議題が誰のどの雇用問題に関するものか分からないときは,交渉の代表関係と議題を確認するのに必要な範囲で,組合の窓口に問い合わせることになる。
他方,代表関係が明らかであるのに全組合員の名簿の提出を求め,提出を交渉開始の条件にすることは避けるべきである。

労働省労政局労働法規課長が山形県商工労働部長に宛てた昭和36年5月15日の通知は,団体交渉の任に当たる者が自己の雇用する労働者の代表者であることが明らかな場合に,組合員中の自己の雇用する者の氏名を知らないことのみを理由として拒否することは,一般に団体交渉拒否の正当な理由があるとはいえないであろうとしている。
同通知が妥当とした山形県の回答は,使用者が団体交渉の開始に当たって明確な資料の提出を求め得るのは,交渉の任に当たる者が雇用する労働者の代表者であるかどうかや,団体交渉事項が何であるかといった事項であり,相手方の構成員の具体的な氏名をすべて承知しなければならないとする法律的根拠はないとしている。

2 氏名の確認が必要になる場面は別に考える

同通知は,ユニオン・ショップ協定の締結に関する団体交渉で,組合が工場事業場の労働者の過半数を代表しているかをにわかに認定できない場合に,過半数を代表していることの立証を求めることは正当な理由になると解されるとしている。
また,同通知が妥当とした回答は,労働基準法36条の協定を結ぶ場合の過半数代表の確認や,チェック・オフ協定を履行するための組合員の氏名の確認は,協定の締結や履行の段階で必要になるものであって,団体交渉の開始の要件ではないとしている。
氏名の確認が必要かどうかは,議題と交渉の段階によって分けて判断することになる。

3 従業員への加入状況の調査

同通知が妥当とした回答は,会社が個々の従業員に組合員であるかどうかを調査することについて,調査の目的又は方法によっては不当労働行為になる場合もあり得るとしている。
長野県労働委員会平成21年1月28日命令(白百合会事件)も,組合に対し組合員の氏名を合理的な理由もなく開示するよう求めることを,支配介入として禁止する救済を命じている。

第4 初回の回答書に書くこと

1 回答書に盛り込む事項

初回の回答書には,申入書を受領した日,会社の窓口及び団体交渉の開催に向けた意向を書く。
組合が指定した日時に応じられないときは,その理由を示し,近接した代わりの日を複数提示する。
回答が固まっていない議題については,何を確認しているのか,いつ回答できる見込みかを伝える。
資料がまだそろわないことと,開催日を決められないことは,同じに扱う必要はない。

2 回答書の文例

次の文例は一例であり,労使間に別の取決めがある場合や,直ちに扱う必要のある議題がある場合には調整を要する。
「○月○日付けの申入書を受領しました。ご提案の日時は担当者が出席できないため,○月○日又は○月○日の開催をご提案します。会場は双方が利用しやすい場所を協議したく,参加予定人数とともにご希望をお知らせください。ご提示の議題のうち,未払賃金については勤怠記録を確認しています。窓口は○○です。」

第5 日時・場所・人数の決め方

1 協議の進め方

日時・場所・人数は,会社の提案の理由を組合に伝え,相手方が参加できる条件を一緒に探すという形で協議する。
既に労働協約や労使の取決めがあるときは,その文言,対象及び従来の運用を確認する。
条件の希望を示すことと,その条件でなければ交渉しないと固執することは区別しなければならない。

2 日時と所要時間

日時は,交代勤務の有無,出席者の予定及び議題の緊急性を踏まえて提案する。
労働組合法に所要時間の上限の定めはないため,終了予定の時刻は議題に応じて提案し,残った議題の検討方法や次回の日程を決めておく。
就業時間中に開催するかどうかと,その時間の賃金をどう扱うかは別の問題である。
同法7条3号ただし書は,労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し又は交渉することを使用者が許すことは,経費援助の禁止に当たらないとしている。
労働協約,従来の慣行及び他の組合との取扱いの均衡も確認しておく。

3 開催場所

社内か社外かを問わず,移動の負担,費用,収容人数及び業務や利用者への影響を比べて候補を挙げる。
社外の会場を使うときは,その必要性,候補地及び費用負担を協議する。

長野県労働委員会平成21年1月28日命令(白百合会事件)は,団体交渉の開催日及び場所を決めるに当たって考慮すべき事項の一つとして,交渉の参加者にとっての参加の容易性を挙げた。
その上で,組合員が勤務する施設の近くの公共施設で平日に開催するという組合の要求には合理性,相当性があるとし,法人が主張した夕方以降の業務の多忙については,業務の委託や進捗管理によって調整する余地が十分にあると判断した。
同命令は,団体交渉が開催されなかったのは,法人が長野市で又は土曜日・日曜日・祝日に松本市で開催するという条件に固執したことが原因であるとし,開催条件を一方的に制限して団体交渉を拒否することを禁止するとともに,開催日時及び場所に関する交渉ルールを組合と協議して制定するよう命じた。

4 人数と出席者

出席人数は,会場の定員や議題を基に,双方の人数と役割を調整する。
組合の代表者や組合から委任を受けた者を肩書だけで排除することはできない。
会社側も,自社の回答の根拠を説明し,実質的に協議できる担当者を出席させるべきである。
白百合会事件の命令は,誰を交渉担当者とするかは使用者の裁量に基づいて決せられる事項であるとしつつ,合意権限を持つ理事長らが出席できる以上,従たる交渉担当者が出席できないことは団体交渉に応じられない重要な理由とはいえないとしている。

威迫や暴力等により安全な交渉が現に困難なときは,安全を確保した上で,具体的な言動と経緯を記録する。
当日の交渉を中断することと,今後の申入れを全面的に拒否することは別であり,再開に向けて危険を抑えられる会場や参加の方法を検討すべきである。
交渉方法に問題がある場合の考え方は,労働組合の団体交渉と弁護士法72条の第7の3でも触れている。

第6 交渉の場で説明し,記録すること

1 誠実に交渉する義務

東京地裁平成元年9月22日判決(カール・ツァイス事件)は,使用者が誠意をもって団体交渉に当たったとは認められない場合も,労働組合法7条2号の団体交渉の拒否として不当労働行為になるとした。
同判決は,使用者は自己の主張を相手方が理解し納得することを目指して,回答や主張の根拠を具体的に説明したり,必要な資料を提示したりし,要求に譲歩できないとしてもその論拠を示して反論する等の努力をすべきであるとした。
同時に,使用者の団交応諾義務は,組合の要求に応じたり譲歩したりする義務まで含むものではないとしている。
同事件では,会社が配置転換の具体的な必要性を説明せず,組合から給与明細書を示されても現に支給されている手当が何であるかを説明しようとしなかったこと等が,誠実さを欠く態度とされた。

2 説明と資料の示し方

例えば,残業代の要求に対して会社の計算が異なるときは,対象期間,使用した勤怠記録,除外した時間及びその理由を区別して説明する。
資料の開示の範囲は,議題との関係,必要性及び秘密性を踏まえて検討し,必要に応じて該当部分だけを示したり,第三者の情報を伏せて説明したりする方法をとる。
資料を出せないときもその理由を具体的に示し,後日回答する事項はその期限を記録しておく。

3 記録に残す事項

交渉の記録には,日時,出席者,提示した資料,双方の提案とその理由,合意した事項,保留した事項及び次回の予定を残す。
交渉の回数や時間だけで交渉を打ち切ることができるわけではない。
打切りを考えるときは,要求に対する説明を尽くしたか,回答の約束や未検討の代案が残っていないかを確認すべきである。

第7 議事録と合意書の区別

1 署名を求められたとき

組合から書面への署名を求められたときは,その書面が受領の確認なのか,発言の記録なのか,合意なのかを先に読み分ける。
記録の内容が不正確であれば,具体的に修正を提案する。
他方,合意済みの事項を文書にすることまで理由なく拒み続けると,誠実な対応かどうかの判断に影響し得る。
白百合会事件の命令も,団体交渉で組合と合意した事項に関して協定書を締結するよう命じている。

2 労働協約が成立する場合

労働組合法14条は,労働組合と使用者との間の労働条件その他に関する労働協約は,書面に作成し,両当事者が署名し又は記名押印することによってその効力を生ずると定めている。
同条は書面の表題を要件としていないため,「議事録」「覚書」という表題であっても,労使の合意を記載し,この方式を満たす書面は労働協約に当たり得る。
署名の前には,当事者,署名者の権限,対象となる労働者,適用時期,合意した事項と保留した事項を確認する。
組合の交渉権限と,既に発生した組合員個人の賃金債権を処分する権限も分けて確認する必要がある(労働組合の団体交渉と弁護士法72条の第6の1)。
労働協約の効力については,労働協約(AIリライト)で整理している。

第8 交渉が進まないときの手続

交渉の条件や議題について労使の主張が平行線になったときは,労働関係調整法12条による労働委員会のあっせんを利用することも考えられる。
不当労働行為の救済の申立ては,これとは別の手続である。
労働組合法27条2項により,労働委員会は,行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件に係る申立てを受けることができない。
交渉が続いているというだけで,すべての行為について起算日が後にずれるとは限らないため,申入れと回答の記録を整理し,早めに管轄の労働委員会に確認すべきである。
労働委員会が同法27条の12により発する救済命令(団体交渉に応じることや文書の交付等を命じるもの)と,裁判所に損害賠償を求めることは,別の問題である。
労働委員会の審査の流れは,中央労働委員会の「不当労働行為事件の審査等」で案内されている。

第9 関連記事・出典

1 関連記事

①労働組合の団体交渉と弁護士法72条――個別労働紛争・拠出金・退職代行の境界(AI作成)
②労働協約(AIリライト)
③チェック・オフと団体交渉-少数組合,賃金全額払の労使協定及び不当労働行為(AI作成)

2 法令

①日本国憲法28条(e-Gov法令検索)
②労働組合法(昭和24年法律第174号)6条,7条,14条,27条,27条の12(e-Gov法令検索)
③労働関係調整法(昭和21年法律第25号)12条(e-Gov法令検索)

3 通知・裁判例・労働委員会命令

①組合員名簿の提出要求と団体交渉拒否の正当理由(昭和36年5月15日,山形県商工労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知,厚生労働省法令等データベース)
②東京地裁平成元年9月22日判決(昭和62年(行ウ)第130号,カール・ツァイス事件,中央労働委員会命令・裁判例データベース)19頁~21頁
③長野県労働委員会平成21年1月28日命令(平成19年(不)第1号,白百合会事件,中央労働委員会命令・裁判例データベース)72頁~75頁,命令の概要
④中央労働委員会「不当労働行為事件の審査等」