労働協約,労使協定及びユニオン・ショップ協定


目次
第1 労働協約
第2 労使協定と労働協約の違い
第3 ユニオン・ショップ協定
第4 関連記事その他

第1 労働協約
1(1) 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は,書面に作成し,両当事者が署名し,又は記名押印することによってその効力を生じます(労働組合法14条)。
(2) 労使間の合意文書の表題が「覚書」,「了解事項」等の名称であっても,労働組合法14条に該当すれば,労働協約となります。
また,団体交渉議事録であっても,労使双方が署名したものであれば,その内容によっては労働協約と解されることがあります。
2 労働協約には,3年を超える有効期間の定めをすることができませんし(労働組合法15条1項),3年を超える有効期間の定めをした労働契約は,3年の有効期間を定めた労働協約とみなされます(労働組合法15条2項)。
3 有効期間の定めがない労働協約は,90日前に予告することで解約できます(労働組合法15条3項及び4項)。
4 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となります。この場合において無効となった部分は,基準の定めるところによります。労働契約に定めがない部分についても同様です(労働組合法16条)。
5 一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至った場合,当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても,当該労働協約が適用されます(労働組合法17条)。
ただし,労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容,労働協約が締結されるに至った経緯,右労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし,労働協約を右労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,その効力を右労働者に及ぼすことはできません(最高裁平成8年3月26日判決)。
6 労働協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合,労働協約の規範的効力が否定されることがあります(朝日火災海上保険事件に関する最高裁平成9年3月27日判決参照)。

第2 労使協定と労働協約の違い
1(1) 労使協定は,労働協約と同様,労働者代表と使用者間の交渉によって締結される合意文書ですし,その内容は労働条件や労働者の待遇についてのものです。
(2) 労使協定は,労働協約の形式で締結できます(労働基準法施行規則16条2項,24条の2第2項参照)から,労働組合法14条の要件を満たして締結された場合,労働協約としての効力を有することとなります。
2 労使協定は以下の点で労働協約と異なります(外部HPの「労働協約と労使協定」参照)。
① 趣旨・目的
・   労働協約は,組合員を代表する労働組合が,労働者と使用者間に存在する交渉力格差を集団的交渉によって解消し,よりよい労働条件を獲得しようとするものであり,組合員の労働契約の規律を本来の目的としています。
労働組合が労働協約によって労働条件を独自に設定する自由(協約自治)は憲法28条により保障され,労働協約には労働組合法16条によって規範的効力が付与されています。
・ 労使協定は,国家が定める最低労働条件を全面的・一律に適用することが実務上不都合と考えられる事項について,事業場の全従業員のために最低労働条件規制の例外を認めるための手段として,法政策上導入されたものです。
例えば,労働時間は,1日8時間・週40時間が上限である(労働基準法32条)が,いついかなる場合もこの法定労働時間を超えてはならないとすると,業務上の必要性に対応できず,また労働者の意向にも反することがあるため,現場の労使の判断を尊重する趣旨で,労働者代表との合意(労使協定)による労働時間延長が許容されています(労働基準法36条1項)。
② 締結主体
・ 労働協約は労働組合(労働組合法2条)が締結主体であり,多数組合(過半数組合)か少数組合かに関わらず,すべての労働組合が締結権限を持ちます。
・ 労使協定は,当該事業場で過半数を組織する労働組合が存在する場合にはその労働組合,そうした労働組合が存在しない場合には,過半数を代表する者(過半数代表者)が締結主体となり,「過半数」の代表であることが要件です。
ただし,労使協定は,労働組合が組織されていない事業場でも,過半数代表者を1名選出すれば,その者が締結できるという点では,締結主体の選択肢が広いです。
③ 効力要件
・ 労働協約の効力要件は書面で作成されていること及び両当事者の署名又は記名押印です(労働組合法14条)。
・ 労使協定の効力要件は書面で作成されていることのほか,法所定の事項が記載されていることです。
また,36協定のように,一部の労使協定については,労働基準監督署への届出が効力要件とされています。
④ 効力範囲
・ 労働協約は労働組合を単位として適用されるものであり,原則として当該協約を締結した組合の組合員にのみ適用されます。
・ 労使協定は事業場を単位として適用されるものであり,当該事業場の全労働者に適用することが予定されています。
⑤ 規範的効力の有無
・ 労働協約は労働契約を規律する規範的効力を有します(労働組合法16条)。
・ 労働基準法上の労使協定の効力は,その協定に定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果をもつものであり,労働者の民事上の義務は,当該協定から直接生じるものではなく,労働協約,就業規則等の根拠が必要です(昭和63年1月1日基発第1号の「労使協定の効力」参照)

第3 ユニオン・ショップ協定
1 ユニオン・ショップ協定は,労働協約の一種でありますところ,労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に,使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものです。
2 ユニオン・ショップ協定のうち,締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は,民法90条により無効です(日本シェーリング事件に関する最高裁平成元年12月14日判決)。

第4 関連記事その他
1 就業規則が法令又は労働協約に反する場合,法令又は労働協約が優先します(労働契約法13条)。
2 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き


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