第1 「解析未了」で何が残っているか
押収したスマートフォンの「解析未了」には,端末のロックが解除できず,事件に関係するデータをまだ取得していない場合と,既に保全した複製から関係する記録を探している場合がある。
勾留延長の当否を検討するには,残っている作業,起訴・不起訴の判断との関係,釈放した場合の具体的な支障をそれぞれ確認する必要がある。
警察庁は,デジタル・フォレンジックを活用し,電子機器等から電磁的記録を抽出した上で,文字や画像等の人が認識できる形に変換する電磁的記録の解析を行っていると説明している。
実務上は,端末を確保する段階,対象データを抽出して保全する段階,取得済みの記録を検索・照合して報告する段階を分けると,何が終わっていないかを確認しやすい。
例えば,対象期間のメッセージと添付ファイルの複製を確保・保全した上で,送信者や日時をほかの証拠と照合している場合がある。
一方,メッセージの一部が端末に保存されていなかったり,初回の抽出が特定のアプリを対象にしていなかったりする場合には,追加の取得が必要になることがある。
米国のデジタル証拠に関する科学作業部会(SWGDE)のモバイル端末に関するベストプラクティスは,一つのツールで端末内の全データを抽出・表示できるとは限らないとし,別のツールや手法で結果を裏付け,又は取得範囲を補うことを勧めている。
第2 勾留延長を認める要件
起訴前の勾留では,刑事訴訟法207条1項を通じて適用される同法60条1項の勾留の理由と,勾留の必要性を検討する。
検察官が期間の延長を請求する場合には,これに加えて,同法208条2項の「やむを得ない事由」が必要である。
当初の勾留期間は勾留の請求をした日から10日であり(同条1項),同条2項による延長は通じて10日を超えることができない。
刑法第2編第2章から第4章まで又は第8章の罪(内乱,外患,国交に関する罪及び騒乱の罪)に当たる事件では,同法208条の2により,更に通じて5日を超えない範囲の延長が認められている。
最高裁昭和37年7月3日判決(昭和32年(オ)第682号,民集16巻7号1408頁)は,勾留期間の延長に関する国家賠償請求事件で,「やむを得ない事由があると認めるとき」とは,事件の複雑困難,あるいは証拠収集の遅延若しくは困難等により,勾留期間を延長して更に取調べをするのでなければ起訴若しくは不起訴の決定をすることが困難な場合をいうとした。
同判決は,証拠収集の遅延又は困難の例として,重要と思料される参考人の病気,旅行,所在不明や,鑑定等に多くの日時を要することを挙げている。
司法研修所刑事裁判教官室の教材は,やむを得ない事由について,①捜査を継続しなければ検察官が事件を処分できないこと,②10日間の勾留期間内に捜査を尽くせなかったと認められること,③勾留を延長すれば捜査の障害が取り除かれる見込みがあることがそろっていることを要するとしている。
したがって,解析が終わっていないという説明を受けたときは,対象となる証拠,処分の判断に必要な作業,いつまでに何が判明する見込みかを確かめる。
それとは別に,罪証隠滅や逃亡を防ぐために,延長期間も本人の身体を拘束する必要があるかを検討する。
第3 データの抽出が終わった場合の考え方
捜査機関が事件に必要なデータを検証できる形で保全しており,残る作業がその複製の検索や照合であるなら,釈放された本人がその作業をどう妨げ得るかが争点になる。
例えば,捜査機関が管理する複製に被疑者がアクセスできず,他の未収集証拠への具体的な働き掛けも示されていない場合は,解析を続けるために身体拘束を継続する必要性を争う余地がある。
端末を確保していても,クラウド上のデータ,別端末の記録,共犯者や関係者の供述等が未収集の場合がある。
クラウド上の証拠については,どのサービスやアカウントに何が残り,釈放後に本人が実際にアクセスできるか,既に保全措置が取られているかを確かめる。
同じ事件の他の証拠への働き掛けや逃亡のおそれがある場合は,その事情も別に評価する。
最高裁令和7年11月27日決定(令和7年(し)第1043号)は,勾留請求を却下した裁判を取り消して勾留を認めた準抗告審の決定を取り消した事案で,勾留の必要性の判断を大きく左右する要素は罪証隠滅の現実的可能性の程度であるとした。
同決定は,客観的証拠の収集及びそれを踏まえた関係者からの事情聴取が相当に進んでいることなどを具体的に検討した原々裁判の判断に,一定の合理性があるとしている。
これは当初の勾留に関する判断であり,勾留期間の延長やスマートフォンの解析を直接扱ったものではない。
それでも,解析を理由とする延長の当否を考える際には,どの証拠が未収集で,どのような働き掛けがあり得るのかを具体化することが重要である。
第4 延長前の意見書と延長後の準抗告
延長請求の審査に当たっては,弁護人から裁判官に意見を示すことが考えられる。
延長の裁判がされた後は,刑事訴訟法429条1項2号に基づき,その取消し又は変更を求める準抗告を申し立てることができる。
刑事訴訟規則154条及び154条の2は,期間の延長の裁判の記載のある勾留状の謄本について,被疑者への交付と弁護人への交付の請求を定めている。
延長後の事情の変化により勾留の理由又は必要がなくなった場合には,勾留の取消し(刑事訴訟法207条1項・87条1項)も別に検討する。
弁護人が照会や裁判官への意見書で具体化する事項として,次のものがある。
① 押収日,解析を依頼した日,抽出が終了した日又は終了の見込み
② 取得済みのアプリ,対象期間とデータの種類,未取得の部分
③ 当初の勾留期間内に終えられなかった理由と,延長期間内にどこまで進む見込みか
④ 残る作業の結果が起訴・不起訴の判断に与える影響
⑤ 釈放後に本人が働き掛け得る証拠と手段,既に講じられた保全措置
⑥ 結果を受けて本人を再び取り調べるという場合に,具体的に確認する事項と,そのために身体拘束を続ける必要性
これらは事情を明らかにするための確認項目である。
勾留状の謄本の交付と,抽出の記録や捜査資料そのものの開示とは,根拠や手続が異なる。
第5 押収したスマホが返ってくるか
釈放の判断と,押収したスマートフォンを留置し続ける必要性の判断は別である。
複製の解析を続けながら本人を釈放し,追加の抽出や原物の検証に備えて端末を留置し続けることもあり得る。
押収物の還付・仮還付は,刑事訴訟法123条1項・2項と,これを捜査機関の押収に準用する同法222条1項を踏まえ,原物を留置する必要性等に即して検討する。
同法123条1項は,留置の必要がない押収物は被告事件の終結を待たないで還付しなければならないとし,同条2項は,所有者,所持者,保管者又は差出人の請求により仮に還付することができるとしている。
会社の帳簿や会計データが押収された場面での還付・複写の求め方は,会社の帳簿・会計データが押収されたら―還付・複写の申入れと申告・税務調査への対応(AI作成)で説明している。
第6 出典と関連記事
1 法令・規則
① 刑事訴訟法60条,87条,123条,207条,208条,208条の2,222条及び429条(e-Gov法令検索,令和8年11月8日確認)
② 刑事訴訟規則152条から154条の2まで(裁判所ウェブサイト,令和8年11月8日確認)
2 裁判例
① 最高裁昭和37年7月3日判決(昭和32年(オ)第682号,民集16巻7号1408頁)
② 最高裁令和7年11月27日決定(令和7年(し)第1043号)
3 公表資料・技術資料
① 司法研修所刑事裁判教官室「プロシーディングス 刑事裁判」(平成30年9月)第5の1(4)(105頁)
② 警察庁「デジタル・フォレンジック」
③ SWGDE「Best Practices for Mobile Device Evidence Collection & Preservation Handling and Acquisition」(18-F-003-2.0,2025年8月21日)
4 関連記事
① 被疑者及び被告人の勾留(AIリライト)
② 警察及び検察の取調べ-録音録画・苦情申入れ・検面調書・黙秘権(AIリライト)
③ スマートフォンのロック解除と捜索・差押え-暗証番号・生体認証・黙秘権(AI作成)
④ 77期新任判事補研修における「令状実務の留意点」に対するAI裁判官の回答,AI弁護人の準抗告申立書及びAI裁判所の決定(AIリライト)
⑤ 会社の帳簿・会計データが押収されたら―還付・複写の申入れと申告・税務調査への対応(AI作成)