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※以下はAIが生成した要約です。内容の正確性は保証されません。本文をあわせてご確認ください。
本記事は、77期新任判事補研修の「令状実務の留意点」設問を素材に、AIが裁判官・弁護人・裁判所それぞれの立場から回答・申立書・決定を作成したものである。参照文書として、平成24年最高裁判所刑事局の執務資料(電磁的記録の証拠収集方法の整備に伴うもの)、平成30年名古屋地裁の令状事務処理の手引(四訂版)、令状に関する理論と実務Ⅰ・Ⅱが用いられている。
設問1(捜索差押許可状の記載の適否)について、AI裁判官は「その他思料される場所」「その他本件に関連すると思料される一切の物」といった包括的記載は一般令状禁止の原則に反し許されないと結論した。捜索場所はホテルの客室番号まで特定し、差し押さえるべき物は犯罪の立証に必要な種別を限定して記載したうえ、クラウドデータを取得する場合は刑事訴訟法218条2項に基づく「複写すべきものの範囲」の特定が必須であるとした。
設問2(勾留の可否・被害者情報の取扱い)について、AI裁判官は勾留を相当と判断した。破損したスマートフォンの解析(モバイルデバイスフォレンジック)には基板修復・移植等の高度な技術と期間を要し、その間に被疑者がクラウド上の証拠をリモートワイプするリスクが具体的に存在するためである。被害者(17歳女性)については、被害者特定事項秘匿制度の積極的活用と勾留状等への仮名記載を求めた。
AI弁護人はこれに対し準抗告を申し立て、クラウドデータ・通信ログによる代替証明の充足、記録命令付差押えによるリモートワイプリスクの排除、比例原則違反等を主張した。AI裁判所はこれを棄却し、「スマートフォンを地面に叩きつけた」という客観的事実が罪証隠滅の意思・実行力を示す最大の根拠であること、海外クラウドプロバイダへの保全措置には実務上のタイムラグが存在すること、端末内のオリジナルデータはクラウドのコピーと証拠価値が異なることを、新任判事補向けの補足メモとして詳説した。
第1 この記事で扱う設問と参照資料
本記事は,「令状実務の留意点」設問(令和7年5月12日使用,77期新任判事補研修の資料)を素材に,AIが裁判官・弁護人・裁判所それぞれの立場から回答,準抗告申立書及び決定を作成したものである。「令状実務の留意点」は,少なくとも70期以降の新任判事補研修で継続的に取り上げられているテーマであり(新任判事補研修に関する当ブログの解説記事を参照),今回の設問は,覚醒剤譲渡事件の捜索差押許可状の記載の適否,及び性的姿態等撮影未遂事件の勾留の可否・被害者情報の取扱いという2問構成である。
参照文書として,新たな令状事務の取扱いに関する執務資料(電磁的記録の証拠収集方法の整備に伴うもの)(平成24年4月の最高裁判所刑事局の文書),令状事務処理の手引(四訂版,平成30年9月補訂の名古屋地裁刑事書記官室及び名古屋簡裁刑事書記官室の文書),令状事務の手引(九訂版,令和2年7月一部改訂の大阪地裁刑事部の文書),令状事務処理の手引(勾留関係事件を除く一般令状等について,日本裁判所書記官協議会福岡地区支部・福岡高裁支部刑事実務研究班による会報書記官第62号からの抜粋),並びに判例タイムズ社刊「令状に関する理論と実務Ⅰ」及び「令状に関する理論と実務Ⅱ」を用いている。留置施設における取扱いについては,(AI作成)大阪府警察の留置管理業務(留置管理業務の手引き,令和6年2月の大阪府警察本部総務部留置管理課作成の執務資料に基づく解説記事)を参照されたい。
なお,本記事は令和8年8月時点の現行法に基づき全面的に見直したものであり,特に「記録命令付差押え」(刑訴法旧99条の2)が令和8年5月21日施行の改正により「電磁的記録提供命令」に統合・改称された点を反映している(詳細は第3の1(4)を参照)。
第2 設問1(捜索差押許可状の記載の適否)に対するAI裁判官の回答
1 結論
設問にあるような記載を認めることはできない。裁判官としては,捜査機関に対し,場所及び対象物を具体的に特定するよう補正を求めるか,あるいは当該請求を却下すべきである。
2 「捜索すべき場所」の記載について
憲法35条及び刑事訴訟法219条1項が,令状に「捜索すべき場所」を明示するよう求めているのは,捜査機関の広範な裁量を許す「一般令状」を禁止し,プライバシー等の基本的人権に対する侵害を必要最小限度の範囲に限定するためである。したがって,捜索場所の記載は,捜索差押えの現場において,令状を執行する捜査官がその対象を客観的に認識・識別できる程度に具体的かつ明確でなければならない。
設問における「○○ホテル内のA室,B室その他差し押さえるべき物件が存在すると思料される場所」との記載は,極めて不適切である。『令状に関する理論と実務Ⅰ』32頁は,「その他本件に関係ある場所」といった記載について,「令状裁判官の審査を経ないで捜査機関に捜索すべき場所の選択権を委ねる結果となり,一般令状禁止の原則に反し,許されない」と明記しており,「その他……思料される場所」という文言は,捜索場所の範囲の決定を,専ら現場に臨場する捜査官の主観的判断(思料)に委ねるに等しい。令状事務処理の手引(四訂版)27頁も,捜索すべき場所については行政区画上の地番等で特定し,かつ「場所に対する管理権が単一であること」を要求しており,アパートや下宿のように各室によって居住権者が異なる場合には「各室ごとに別個の場所となるので,これを明確に特定する必要がある」と明記する。管理権が明確に区分されているホテル内において,対象となる客室を特定せず漫然と「ホテル内」や「思料される場所」とすることは,管理権の異なる第三者の客室への無令状捜索を誘発するおそれがあり,令状の効力範囲を不当に拡張するものである。
これでは,被疑者がホテルのロビーやレストラン,あるいは全く無関係な第三者の客室に立ち入った場合であっても,捜査官が「関連がある」と考えさえすれば,そこが捜索場所となり得ることになり,令状による事前審査機能が没却される。したがって,裁判官としては,特定された「A室,B室」に限定させるか,あるいは被疑者の身体や所持品を対象とするならば,「被疑者が使用する身体,着衣,携行品」といったように,客観的に特定可能な記載に改めさせる必要がある。なお,身体捜索を併せて行う場合は,令状事務処理の手引(四訂版)28頁の記載例に基づき,「捜索すべき身体」欄と「捜索すべき物」欄を区分し,被疑者の身体,着衣及び携行品をそれぞれ明記するのが望ましい。
デジタル・ネットワーク環境下では,捜索場所の特定にさらに注意を要する点がある。現代の捜索現場には,Wi-Fiルーターやネットワーク機器が存在することが常であり,場所の記載が曖昧であると,物理的な「場所」の特定が,その場所に設置された機器を経由した「世界中のサーバー」への無限定なアクセス権限として誤読される危険性がある。これは,捜査機関による「意図せざるクラウド接続」を誘発し,令状裁判官の審査を経ていない別個の管理権限(プロバイダ等)の領域をなし崩し的に侵害する結果を招きかねない。もっとも,最高裁判所第二小法廷令和3年2月1日決定は,電磁的記録を保管した記録媒体がサイバー犯罪に関する条約の締約国に所在し,同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合には,国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び複写を行うことが許される旨を判示しており,リモートアクセス先の記録媒体の物理的所在地を個別に特定することまでは常に必要とされていない。だからこそ,物理的な場所の特定を緩和する代償として,後述する「複写すべきものの範囲」において,IDやフォルダ名等による論理的なアクセス権限の特定が厳格に求められるのである。したがって,場所的特定は,物理的な空間の限定にとどまらず,捜査権限が及ぶデジタル空間の範囲を画するためにも厳格に解されるべきであり,複写範囲の厳格な特定という視点と一体で検討する必要がある。
3 「差し押さえるべき物」の記載について
「差し押さえるべき物」の記載についても,一般令状禁止の原則から,対象物を個別具体的に特定するか,少なくともその種別や性質によって範囲を限定することが求められる。『令状に関する理論と実務Ⅰ』43頁は,「その他本件に関係ある一切の証拠物」といった記載について,「差押対象物の範囲が不明確であり,執行官の裁量の余地が大きすぎるため,原則として許されない」とする。
設問における「覚醒剤,注射器その他本件に関連すると思料される一切の物」との記載は,許容されない。「本件に関連する一切の物」という包括的な記載は,差押えの対象を選別する権限を捜査官に白紙委任するに等しく,事件と無関係な私信,日記,業務書類など,被疑者のプライバシーが及ぶあらゆる物品を無差別に差し押さえる権限を与えることになりかねない。実務上は,「その他本件に関連するメモ,手帳,航空券,預金通帳」などのように例示列挙を加えるか,あるいは「その他本件犯罪の立証に資する電磁的記録媒体」等,ある程度の種別的限定を付すことが必須である。
本件は覚醒剤譲渡事件であり,犯罪の立証には,薬物そのものの発見に加え,誰と,いつ,どこで,いくらで取引したかという通信履歴が決定的な証拠となる。スマートフォンやパソコン等のデジタル機器は,単なる「物」ではなく,個人の全人格的な情報が詰まった「情報の塊」である点に留意を要する。『令状に関する理論と実務Ⅰ』148頁が指摘するとおり,現場での情報選別の困難性から媒体そのものの差押えが行われる実情があり,これは一定程度許容されているが,だからこそ,「一切の物」という安易な記載でスマートフォンを差し押さえることは,別件の犯罪事実や純粋な私生活上の秘密までをも網羅的に捜査機関の掌中に収めることになり,比例原則の観点から問題がある。近年の薬物取引にはTelegramやSignal等の秘匿通信アプリが多用される傾向にあるため,裁判官は,対象となる媒体が「本件犯罪に関連する情報が記録されている蓋然性が高いもの」であることを疎明させる必要がある。
さらに,本件執務資料17頁が指摘するとおり,スマートフォン等の端末内データにとどまらず,それに接続されたクラウド(本件執務資料の表現では「リモートストレージサービス」等)上のデータを収集・複写する場合には,刑事訴訟法218条2項がその実体的な根拠となり,同法219条2項に基づき,通常の差押許可状の記載に加え,「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって,その電磁的記録を複写すべきものの範囲」を令状に記載することが必須となる(令状事務処理の手引(四訂版)58頁も,これを「リモートアクセスによる複写の処分」として明確に独立した項目として扱っている)。令状請求書及び令状において当該欄への記載がなければ,単に「スマートフォン」と記載されているだけでは,ネットワーク越しのデータ取得は許されない。そのため,裁判官は,捜査機関に対し,「本件取引にかかる通信履歴……が記録されたスマートフォン」という記載にとどまらず,クラウド上のデータを狙うのであれば,「リモートストレージサービスのサーバの記録領域であって,差し押さえるべきパーソナルコンピュータにインストールされているアプリケーションソフトに記録されているIDによりアクセス可能な記録領域」(本件執務資料28頁参照)といった,アクセス権限やデータの属性に着目した限定的記載を求めるべきである。これは,将来的なデジタル証拠収集手続の適正担保という観点からも不可欠であり,差押えの現場での混乱を防ぎ,かつ,将来の公判において弁護側から「違法な包括的差押えである」との主張を招くリスクを低減できる。
なお,最高裁判所第二小法廷令和3年2月1日決定は,差押えの現場における電磁的記録の内容確認の困難性や,確認作業中に情報の毀損が生じるおそれ等を踏まえ,同許可状の執行に当たり,個々の電磁的記録について個別に内容を確認することなく複写の処分を行うことは許されると判示している。この判示は,包括的記載を安易に許容するものではないが,デジタル証拠の特質に応じた合理的な差押えの範囲を画する上で重要な指針となる。
第3 設問2(勾留の可否及び被害者情報の取扱い)に対するAI裁判官の回答
1 勾留の可否
勾留状を発付すべきである。被疑者は定職(公務員)及び定住(妻子と同居)を有しており,一見すると逃亡のおそれは低いようにも思われる。しかしながら,本件事案の特性及び被疑者の行動(証拠隠滅行為)に鑑みれば,罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があり,かつ,そのおそれは具体的かつ高度である。
『令状に関する理論と実務Ⅱ』62頁は,「罪証隠滅のおそれ」の判断基準として,隠滅の対象となる証拠の重要性や,隠滅行為の実行可能性などを考慮要素として挙げる。本件の被疑事実は,令和5年7月13日施行の性的姿態撮影等処罰法(正式名称は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」)により新設された重大な性犯罪である点も見逃せない。被疑者は,被害者から声を上げられた直後,所持していたスマートフォンを地面にたたきつけて壊している。これは,パニックによる偶発的な行為ではなく,盗撮画像という犯罪の成否に関わる直接証拠を物理的に消滅させようとする,極めて悪質かつ明確な隠滅の意思に基づく実行行為である。同書66頁は,単に否認していることのみをもって直ちに隠滅のおそれがあるとは言えないとしつつも,供述の変遷や共犯者・関係者への働きかけの可能性等の具体的状況を検討すべきとするが,本件において,被疑者は「やましいことは一切していない」と犯行を否認しており,被害者を「盗撮犯人と間違えた」と主張している。このように犯行を否認し,かつ「直ちに証拠媒体を破壊する」という極めて積極的かつ具体的な隠滅行動に出ている点は,同書が求める罪証隠滅の客観的な蓋然性を基礎づける決定的事実である。一度証拠の物理的破壊に及んだ被疑者が,釈放された場合に,残存する他の証拠(自宅のパソコンやクラウドデータ等)を隠滅しないという保証はどこにもない。
破壊されたスマートフォンの解析(モバイルデバイスフォレンジック)に要する技術的な時間と,その間の身柄保全の必要性も勾留を相当とする理由の一つである。被疑者が端末を地面にたたきつけた結果,ディスプレイの破損にとどまらず,内部の基盤(ロジックボード)やデータを記憶するメモリチップ(NANDフラッシュ)に物理的な損傷が生じている可能性がある。このような状態の端末からデータを抽出するには,通常のUSB接続による解析では不可能であり,「チップオフ(Chip-off)」や「JTAG」,あるいは基板修復・移植(Board Repair/Swap)といった高度な技術を要する手法が必要となる場合がある(チップオフ及びJTAGの技術的概要については,高橋郁夫ほか編著『第2版 デジタル証拠の法律実務Q&A』(日本加除出版,2023年)195頁を参照)。かつては,基盤からメモリチップを熱風等で剥がし取り,専用のリーダーでバイナリデータを直接読み出すチップオフの手法が有効であったが,近年の端末(特にiPhoneやハイエンドAndroid端末)では,チップ自体に強力なハードウェア暗号化が施されている上,コントローラチップとのペアリングが必須となっており,チップ単体を剥がしてデータを読み出すことは技術的に困難となっている。したがって,現在の主流の解析手法は,破損した基板そのものを修復する基板修復や,正常なドナー基板へ主要チップ群を丸ごと移植する基板移植であり,マイクロソルダリング等の高度な技術を用いて端末を起動可能な状態まで復元させることが必要となる。破壊が進行中であるなど現場での緊急性が高い場合,捜査機関には,令状の効力として現場で裁量的に選択し得る記録媒体の差押えにおける電磁的記録の複写,印刷,移転の処分(刑事訴訟法110条の2,本件執務資料1頁参照)が認められており,勾留判断にあたっては,現場においてこれらの保全措置が間に合ったのか,あるいは破壊により不能となり事後的な解析に委ねざるを得ない状況なのかを見極めることも重要である。もし,この解析期間中に被疑者を釈放してしまえば,被疑者が「端末を探す」機能等を悪用してクラウド経由で対象端末への遠隔ロックやデータ消去(リモートワイプ)コマンドを送信したり,修理業者を装って端末の返還を求めたり,同じ機種の別の端末を用意してすり替えたりする等の妨害工作を行うおそれも否定できず,解析が完了しデータが保全されるまでの間,被疑者の身柄を拘束しておくことには合理性がある。
さらに懸念されるのが,クラウドデータに対するリモートワイプのリスクである。現代のスマートフォンは,撮影された写真や動画を自動的にクラウド(iCloudやGoogleフォト等)に同期する設定になっていることが多く,たとえ端末本体が破壊されていても,クラウド上に証拠となる画像が残存している可能性は高い。被疑者が釈放され帰宅した場合,自宅のパソコン等からクラウドサービスにログインし,Appleの「探す(Find My)」機能やGoogleの「デバイスを探す」機能を通じて,全てのデバイスからデータを消去するコマンドを実行したり,クラウド上の特定の写真データを削除したりすることが物理的に可能である。捜査機関がクラウドサービスプロバイダに対して差押え令状を執行し,アカウントの凍結やデータの保全を完了するまでには一定の時間を要し,特に,Apple(iCloud)やGoogle(Google Drive)等の主要なプラットフォーマーは米国法人であるため,日本国内の令状執行に対しては,国際捜査共助(MLA)や各社のコンプライアンス部門との調整といった障壁が生じ得る。国内プロバイダであれば数日で済む手続が,海外プロバイダ相手では数週間単位の遅れが生じることも稀ではなく,この司法制度上のタイムラグの間に被疑者を帰宅させることは,証拠隠滅の機会を与えるに等しい。
もっとも,このリスクへの法的対抗手段は身柄拘束のみではない。本件執務資料4頁及び本件手引54頁に示されている記録命令付差押え相当の制度を活用すれば,プロバイダ等の電磁的記録の保管者に対して,被疑者のアカウントに係るデータの保全と提出を命じ,これを差し押さえることが可能である。ここで留意すべきは,令和8年5月21日施行の情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律により,従来の記録命令付差押え(刑事訴訟法旧99条の2,旧218条1項)は「電磁的記録提供命令」(現行刑事訴訟法218条1項,219条1項等)に統合・改称された点である。白取祐司『刑事訴訟法〔第11版〕』(日本評論社,2026年)170頁は「電磁的記録提供命令(「記録命令付差押え」は廃止)」と明記しており,電磁的記録の保管者に対し,記録媒体への記録による提供だけでなく,電気通信回線を通じたオンラインでの提供を命じることも可能になっている。本件手引が定型化していた「記録させ又は印刷させるべき電磁的記録」及び「電磁的記録を記録させ又は印刷させるべき者」を特定して令状を請求する運用は,現行制度の下でも実質的に引き継がれており,被疑者が帰宅して遠隔消去を試みる前に,管理権者であるプロバイダ側でデータを固定化できる点で有効な手段であることに変わりはない。したがって,裁判官としては,勾留による物理的なアクセスの遮断を基本としつつ,捜査機関に対して電磁的記録提供命令の請求を検討させるなど,重層的な証拠保全を意識する必要がある。
被害者の供述によれば,一週間くらい連続で同じ中年男性が後ろに立っていたとのことであり,被疑者には盗撮の常習性が疑われる。常習的な盗撮犯は,撮影した動画を自宅のパソコンや外付けハードディスクに取り込み,コレクションとして保存・整理している事例が多く,これらは本件の犯意や常習性を裏付ける重要な間接証拠(あるいは余罪の直接証拠)となり得る。被疑者が帰宅すれば,これらの記録媒体を物理的に破壊したり隠匿したりすることは容易であり,家宅捜索によってこれらの媒体を確保するまでの間,被疑者の身柄拘束を継続する必要性は高い。また,被疑者が盗撮画像をSNSや掲示板等に投稿・共有していなかったかの確認も必要であり,被疑者が釈放されれば自身のアカウントにアクセスして投稿履歴やダイレクトメッセージを削除するおそれもある。
2 被害者情報の取扱い
被害者特定事項秘匿制度(刑事訴訟法201条の2,207条の2以下,271条の2以下)の適用を積極的に検討し,被疑者に交付される令状の写し等において,被害者の氏名等の特定事項が明らかにならないよう措置を講じる必要がある。
本件被害者は17歳の女性であり,事案は性的姿態等撮影未遂罪という性犯罪である。令和6年2月15日施行の改正刑事訴訟法201条の2第1項イ及びロ並びに207条の2以下等により,性犯罪被害者の保護施策は強化された。性犯罪被害者,とりわけ未成年者の氏名や住居等の情報が被疑者に知られることは,被害者のプライバシーを侵害するのみならず,報復,威迫,あるいは再度のつきまとい等の「お礼参り」を誘発する危険性が高い。したがって,裁判官は,勾留状や捜索差押許可状の発付にあたり被害者の氏名を仮名で記載するか被害者特定事項記載部分を別紙として被疑者への開示を除外する措置をとること,勾留質問時に被害者の氏名を読み上げず抽象的な呼称を用いること,弁護人に対して被害者情報を開示する場合であっても被疑者には知らせないという条件を付すよう指導・調整を行うことに留意すべきである。
本件のような事案では,被疑者が被害者の氏名を知り得た場合,SNS等を通じて被害者を特定し,インターネット掲示板等に被害者の個人情報を晒したり誹謗中傷を書き込んだりする,いわゆる「デジタルタトゥー」による加害行為に及ぶリスクがある。被疑者は公務員であり,一定の社会的地位やITリテラシーを有している可能性があることから,釈放後の報復手段としてデジタル技術が悪用される危険性を考慮し,被害者情報の秘匿には細心の注意を払わなければならない。
第4 令状記載例及び勾留質問例
1 デジタル証拠の押収における令状記載例
「包括的記載(一般令状的な記載)」を回避しつつ,クラウド上のデータまで適法かつ確実に保全するための記載例を示す。物理的な場所の特定に加え,ネットワーク越しのアクセス権限の範囲を意識した記載が求められる。
「捜索すべき場所」欄は,不適切な例である「○○市××町1丁目2番3号 △△ホテル内 及びその他本件に関係ある場所」に代えて,「○○市××町1丁目2番3号 △△ホテル 客室A号室」と特定する(本件手引27頁参照。ホテル客室の場合は管理権の独立性を考慮し,客室番号まで特定することが必須である)。身体捜索を併せて行う場合は,「捜索すべき身体 被疑者の身体」,「捜索すべき物 被疑者の着衣及び携行品」のように明確に区分して記載するのが望ましい(本件手引28頁参照)。
「差し押さえるべき物」欄は,「一切の物」を排し,デジタル証拠とクラウドデータへのアクセス権限を明記する。まず,「スマートフォン,携帯電話機,タブレット端末,パーソナルコンピュータ」を記載するが,端末本体を押収する場合,電磁的記録自体を差し押さえるべき物として重ねて記載する必要はないとする運用が一般的である(端末を押収すれば,その中身も当然に押収の効力が及ぶため)。ただし,データをプリントアウト等して押収する場合に備え,「本件被疑事実に関する電磁的記録を記録・出力した記録媒体及び書面」と付記することは有益である。
次に,刑事訴訟法218条2項及び219条2項に基づき,「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって,その電磁的記録を複写すべきものの範囲」(本件手引58頁参照)として,「差し押さえるべき上記スマートフォン等にインストールされているアプリケーションソフトウェア(SNSアプリ,クラウドストレージアプリ等)に保存されているID及びパスワード(自動ログイン設定を含む。)を用いてアクセス可能な,当該アプリケーションソフトウェアに係るサービス提供者のサーバ上の記録領域のうち,本件被疑事実に関する画像,動画,メッセージ履歴及び位置情報履歴等を記録している部分」のように記載する(参考として,本件執務資料27頁は「Webメールサービスのサーバの記録領域であって,被疑者のアカウントによりアクセス可能な記録領域」という記載例を挙げている)。
この「複写すべきものの範囲」の特定(刑事訴訟法219条2項)がなければ,スマホ本体は押収できても,法的にはクラウド(GoogleフォトやiCloud等)の中身を見る権限はない(本件手引58頁参照)。意図せざるクラウド侵害(違法捜査)を防ぐためにも,アクセス権限(ID・パスワードでログインできる範囲)を令状で明示させ,かつ対象を「本件被疑事実に関する」ものに限定する記載が不可欠である。なお,この複写の処分は,あくまで差押対象物である電子計算機(スマホ等)の差押えが認められることが前提となる(本件資料19頁)から,スマホ自体の差押えの必要性・関連性もしっかりと疎明する必要がある。
2 勾留質問において確認すべき技術的事項
勾留質問は,短時間で罪証隠滅の具体的危険性を見極める場である。懸念されるリモートワイプやバックアップからの復元のリスクを評価するために,被疑者に対して専門用語を使わず理解できる言葉で質問を投げかけ,その反応(動揺,沈黙,矛盾)を調書化することが有用である。
第一に,デバイスの管理状況に関する質問として,「スマホのロック解除番号(パスコード)は警察に教えましたか。教えるつもりはありますか。」(拒否する場合は解析に時間を要するため勾留による身柄確保の必要性が高まる),「顔認証(Face ID)や指紋認証は設定していますか。」,「逮捕された時,スマホはどうなりましたか。なぜ地面に叩きつけたのですか。」(意図的な物理破壊行為は最強の隠滅の徴表となる)が考えられる。ここで留意すべきは,顔認証や指紋認証の設定状況を確認するだけでは足りず,仮に被疑者がこれらの生体認証の解除に任意で応じない場合,捜査機関がこれを強制する法的根拠を検討する必要がある点である。松田克之・宮崎桃子「令状2・情報通信機器の発達を背景とした令状」判例タイムズ1488号45頁(2021年)は,捜査機関が使用者の手指や顔の状態を五官の作用により認識するものとみて,指紋認証及び顔認証によるロック解除には身体検査令状(刑事訴訟法218条1項後段)によることが考えられるとし,大阪地方裁判所令状部において,「検査すべき身体」を被疑者の両手指又は顔面,「身体の検査に関する条件」を「スマートフォンのロック(指紋認証又は顔認証)を解除するため,被疑者の手指をスマートフォン本体に接触させる(又はスマートフォンの画面に被疑者の顔を正対させる)方法により行う」とした身体検査令状を発付した例を紹介している。もっとも,同論文は,このような身体検査令状が発付されたとしても,条件に記載された接触・正対行為自体を直接強制できるかについては別途問題になり得るとも指摘しており,勾留質問においてはパスコードによる解除だけでなく,生体認証による解除への協力の有無及びその法的評価も視野に入れて聴取することが望ましい。
第二に,クラウド・ネットワーク環境に関する質問として,「撮った写真は,自動的にネット上(iCloudやGoogleフォト)に保存される設定ですか。」,「パソコンを持っていますか。スマホとつないだことはありますか。」,「Apple ID(またはGoogleアカウント)とパスワードは覚えていますか。」,「そのIDでログインできるパソコンやタブレットが,自宅にありますか。」(自宅にログイン可能な別端末がある場合,釈放直後の遠隔消去リスクが具体的に肯定される),「『iPhoneを探す』や『デバイスを探す』機能はオンになっていますか。」が考えられる。
第三に,隠滅の動機と具体的計画に関する質問として,「撮った動画は,誰かに送ったり,SNSに上げたりしましたか。」,「『テレグラム』や『シグナル』等のアプリを使っていますか。」,「もし今日家に帰れたら,まずパソコンで自分のSNSやクラウドを確認したいですか。」,「警察に見られる前に,ネット上のデータを整理(削除)したいと思いませんか。」が考えられる。「はい」や「確認したい」という回答は,罪証隠滅(データの変更・削除)の予備的行動と評価し得る。
第5 デジタル証拠時代における令状審査の心得
以上のとおり,本設問は,形式的な令状審査の枠を超え,デジタルデータの脆弱性と技術的な証拠保全の難易度を理解していなければ適正な結論を導き出すことが困難な事例である。被疑者がスマホを壊したという事実は,単なる器物損壊ではなく,電磁的記録という証拠を消滅させようとする試みであり,これに対抗し得る手段は,迅速な身柄拘束による物理的アクセスの遮断と,高度なフォレンジック技術による復元である。
法は技術の後追いになりがちであるが,運用を司る裁判官が技術的知見を持って法の解釈・適用を行うことで,その隙間を埋めることは可能である。実質的にみれば,捜査機関が電磁的記録を複写等して差し押さえてその内容を自由に検討できる状態におくことは,「押収に関する処分」として準抗告(刑事訴訟法430条)の対象となり得る(本件執務資料30頁参照)。加えて,令和6年に制定された重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(いわゆるセキュリティ・クリアランス法)等の影響により,公務員である被疑者がデジタル機器を通じてアクセスし得る情報の重要性は増しており,保釈判断等においても考慮すべき新たな要素となり得る。デジタル証拠収集手続は,その過程が可視化されにくい分,事後的な司法審査の重要性が増していることも忘れてはならない。
一般的な令状審査の観点からは,本件手引12頁にあるとおり,被疑者の人定事項や裁判官の記名押印等の形式的要件の点検が厳格に求められている。デジタル証拠のような新しい分野であっても,こうした基本的な令状過誤の防止(本件手引1頁)の精神は変わらない。技術的な正当性判断と同時に,差押え対象物件の記載(本件手引28頁参照)において「その他一切の物」といった包括的記載を見逃さず,手引の趣旨に則った厳格な特定を求める姿勢こそが,若手裁判官に求められる司法による抑制機能である。
第6 勾留決定に対するAI弁護人の準抗告申立書
(申立ての趣旨) 原裁判官が令和7年12月27日付けでした被疑者に対する勾留決定を取り消す,との決定を求める。
(申立ての理由) 原決定は,被疑者が逮捕直後にスマートフォンを損壊した事実を重視し,その解析(モバイルデバイスフォレンジック)及びクラウド上のデータ解析(クラウドフォレンジック)の必要性を理由に勾留を認めた。しかし,デジタル証拠の特性及び現代の捜査技術に照らせば,被疑者の身体拘束を継続せずとも証拠保全は十分に可能であり,原決定は,捜査機関がとり得る代替的な証拠保全措置の存在を看過し,漫然と被疑者の身体拘束の必要性を肯定した点において重大な事実誤認があり,速やかに取り消されるべきである。
原決定は,損壊された端末の解析に数週間を要する可能性があることをもって,その間の身柄拘束を正当化する。しかし,本件の立証に必要な証拠は,被疑者と被害者の接触状況や通信履歴であり,これらは物理的に破壊された端末内部のみならず,クラウドサーバー及び通信事業者のログ(CDR等)に多重的に記録されている。端末の損壊は,逮捕時の動揺による偶発的なものであり,計画的な証拠隠滅の意図を推認させるものではない。むしろ,捜査機関は,現場において刑事訴訟法110条の2に基づく差し押さえるべき記録媒体に代わる複写・移転の処分が可能であったにもかかわらず,これを怠ったか,あるいは既にクラウド上のデータの保全に着手可能な状態にある。仮に端末解析に時間を要するとしても,より重要な客観証拠であるクラウド上のデータ等は,端末の物理的修復を待たずとも直ちに捜査機関がリモートで取得可能であり,解析に時間を要するのは捜査機関の技術的都合あるいは緩慢な捜査に起因するものであって,代替的な証拠保全手段が存在する以上,その期間中,漫然と身体拘束を継続することは勾留の必要性を欠くといわざるを得ない。原決定が懸念する修理業者を装った奪還や代替機を用いたクラウド操作等のリスクについては,具体的事実に基づかない抽象的な危惧の域を出ず,被疑者の釈放後のインターネット接続機器の利用禁止及び身元引受人による監督誓約によって,より制限的でない手段で対処可能であるから,あえて身体拘束を継続する必要性(補充性)を欠く。
原決定は,被疑者が帰宅後に自宅PC等からクラウド上のデータを遠隔消去するリスクを強調するが,このリスクは捜査機関の適切な措置により排除可能であり,身柄拘束を正当化する理由とはならない。最高裁判所第二小法廷令和3年2月1日決定が,条約締約国に所在するサーバーに保管された電磁的記録につき,開示権限者の適法かつ任意の同意がある場合には国際捜査共助を経ずにリモートアクセス及び複写を行うことを許容したことに鑑みれば,捜査機関は,電磁的記録提供命令(刑事訴訟法218条1項,219条1項等。令和8年5月21日施行の改正前は記録命令付差押えと呼ばれていた制度である)等の保全措置を迅速に講じることが可能であり,このリスクは身体拘束によらずとも排除可能である。本件手引54頁においても,記録命令付差押許可状(現行制度では電磁的記録提供命令に相当する令状)は独立した令状として定型化されており,「記録させ又は印刷させるべき電磁的記録」として「○○から○○までの間のユーザーID(○○)に関する接続ログ」等を特定すれば足りるとされている。このように,捜査機関が必要な範囲のデータを特定して法的保全措置を講じれば足りるものであり,全人格的なデータを人質に取った身体拘束は,補充性を欠き,比例原則に違反する。万一,被疑者が何らかの方法でアクセスを試みた場合でも,その操作履歴(IPアドレス等)は全てログとして記録されるのであり,公務員である被疑者が,自ら罪証隠滅の動かぬ証拠を残してまで職を失うリスクを冒す行為に及ぶとは考え難く,主観面においても罪証隠滅のおそれは乏しい。
原決定は,被疑者の自宅PC等に盗撮画像のコレクションとして余罪の証拠が存在する可能性を指摘し,その隠滅防止を勾留理由とする。しかし,もし被疑者が常習的に画像を収集・管理しているのであれば,既に押収されたスマートフォンのサムネイルキャッシュ,同期履歴,あるいは接続ログにその痕跡(メタデータ)が残存しているはずであり,それら被疑事実との具体的結びつきを示す資料が何ら疎明されていない現段階において,被害者の供述のみを根拠として自宅パソコン等の網羅的探索を企図することは,実質的な別件探索のための身柄拘束にほかならず,憲法35条が要請する令状主義の潜脱である。仮に余罪の証拠が存在する可能性があるとしても,本件は未遂事案であり,既に主要な証拠であるスマートフォンは押収されている。不確実な余罪証拠の保全のみを目的として,公務員である被疑者の身体拘束を長期間継続し,その社会生活を破壊することは,勾留の必要性の判断において求められる法益権衡を欠き,比例原則に違反するというべきである。
被害者情報の漏洩やインターネット上での加害リスク(いわゆるデジタルタトゥー)についても,以下の代替措置により十分に回避可能である。第一に,本件では刑事訴訟法207条の2以下に基づく被害者特定事項秘匿決定がなされるべき事案であり,これにより被疑者に交付される書面等から被害者情報は秘匿される。弁護人もまた,被疑者に対して一切の被害者情報を開示しないことを誓約する。被疑者が情報を物理的・データ的に知り得ない以上,インターネット上での晒し行為は技術的に不可能である。第二に,インターネット上の書き込みは,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求等により,IPアドレスやタイムスタンプ等のログから発信者の特定が容易である。公務員である被疑者が,自ら証拠を残して職を失うリスクを冒してまで加害行為に及ぶ具体的危険性は存しない。第三に,被疑者の妻が身元引受人として監督を誓約しており,被疑者のインターネット利用状況についても適切な監督が期待できる。
以上のとおり,原決定が依拠するデジタル証拠隠滅の高度な蓋然性は,捜査機関による適切なID管理や保全措置(パスワード変更,電磁的記録提供命令等)によって無力化できるリスクに過ぎない。技術的措置及び法的手続によって防止可能なリスクを理由に,被疑者の身体的自由を奪うことは必要最小限度の原則に反し,違法である。よって,原決定は速やかに取り消されるべきである。
第7 準抗告に対するAI裁判所の決定及び補足メモ
(主文) 本件準抗告を棄却する。
(理由) 本件は,被疑者が女子高校生の背後からスマートフォンを差し向けてスカート内を撮影しようとしたという,性的姿態等撮影未遂被疑事件である。被疑者は,犯行発覚直後,所持していたスマートフォンを地面に強く叩きつけ,物理的に損壊させた上で逮捕された。原裁判官は,罪証隠滅のおそれ等を理由に勾留決定を行い,これに対し,弁護人から準抗告の申立てがなされたものである。
弁護人は,端末の解析に時間を要することは捜査機関の都合であり,クラウド上のデータや通信ログで代替証明が可能であるから,解析期間中の身柄拘束は不要である旨主張するが,この主張は採用できない。まず,被疑者が逮捕直前にスマートフォンを地面に叩きつけて損壊させたという客観的事実は,極めて強固な罪証隠滅の意思と実行力の表れであり,このような挙に出た被疑者が釈放された場合,直ちに他の証拠隠滅に及ぶ蓋然性は経験則上高い。また,弁護人はクラウドデータでの代替を主張するが,性的姿態等撮影罪の立証において,端末内に残存する撮影データ(静止画・動画)の原本は,撮影のアングル,画質,撮影日時等の詳細を特定し,被疑者の故意や性的意図を推認させるための不可欠な直接証拠である。通信ログはあくまで通信の事実を示す間接事実にすぎず,これをもって犯罪の成否を断定できる証拠価値の代替性があるとは言えない。損壊された端末からのデータ抽出に高度な技術と期間を要するとしても,その期間中,被疑者が外部から何らかの手段を用いて解析を妨害したり,共犯者と通謀したりするリスクを遮断するため,身柄拘束を継続する合理的な必要性が認められる。
弁護人は,刑事訴訟法218条1項等に定める電磁的記録提供命令を用いれば,被疑者を拘束せずともクラウドデータの保全は可能であり,リモートワイプのリスクは排除できると主張するが,この主張は捜査実務の時間的制約(タイムラグ)を看過している。電磁的記録提供命令は,捜査機関が令状の請求・発付を受け,これをプロバイダ等に送達し,プロバイダ側で技術的な保全措置が完了して初めて効果を生ずるものである。加えて,Apple(iCloud)やGoogle(Google Drive)等の主要なサービスプロバイダの多くは米国法人であり,日本国内で発付された令状が即座に執行されるとは限らない。最高裁判所第二小法廷令和3年2月1日決定により,条約締結国に所在し,かつ開示権限者の適法かつ任意の同意があるサーバーへのリモートアクセスは一定の条件下で許容されたものの,実務上,暗号化等によりアクセスが困難な場合における海外プロバイダへの協力要請については,依然として各社のコンプライアンス審査や司法共助等によるタイムラグや実効性の不確実性が存在する。被疑者が釈放されれば,帰宅直後に自宅のパソコンやタブレット,あるいはインターネットカフェ等の端末からクラウドサービスにログインし,全デバイスからのログアウトやデータの遠隔消去コマンドを実行することは,数分もあれば完了する。捜査機関による保全措置が完了するまでの空白の時間に被疑者を解放することは,みすみす証拠隠滅の機会を与えるに等しく,ID管理やログの追跡可能性があったとしても,一度消去されたデータの復元が困難である以上,現時点での物理的な身柄拘束によるアクセス遮断は必要な措置というべきである。
弁護人は,自宅PC等の捜索や余罪の検討を別件探索であり違法であると主張するが,本件のような盗撮事案においては,常習性や画像のコレクションといった傾向が認められることが多く,押収されたスマートフォンと自宅パソコンが同期されている可能性も高い。被疑者がスマートフォンを即座に破壊したという特異な行動に鑑みれば,自宅等にバックアップデータや犯行の常習性を裏付ける同種画像データが存在すると疑うに足りる相当な理由があり,これらを保全するための捜査は本件被疑事実に関連する正当な捜査活動の範囲内であって,これを目的とした身柄拘束が別件探索に当たるとはいえない。
弁護人は,被害者特定事項秘匿制度や身元引受人の存在により被害者への加害リスクは回避可能であるとするが,被疑者は犯行現場において被害者と近接して対峙しており,被害者の容姿や特徴を直接認識している。たとえ令状上の氏名が秘匿されたとしても,被疑者が記憶に基づきSNS等で被害者を探索したり,現場周辺で待ち伏せしたりする危険性は否定できない。特に,被疑者が公務員であり,本件により社会的地位を失うおそれに直面している状況下では,被害者に対する報復感情が生じることも懸念され,被害者の安全確保のためには,初期捜査が尽くされるまでの間,被疑者の身柄を保全することが相当である。
以上のとおり,本件においては,デジタル証拠の特殊性(隠滅の容易性)と被疑者の具体的行動(物理的破壊)に照らし,罪証隠滅のおそれは客観的かつ現実的に存在する。弁護人が主張する代替手段は,現段階の捜査状況においては実効性に欠け,勾留の必要性を否定する事情とはなり得ない。よって,原決定に誤りはなく,本件準抗告は理由がないから,これを棄却する。
* この決定書を作成するにあたり重視した点は,次の3点である。
第一に,「破壊行為」の評価である。弁護人は「偶発的な損壊」と主張したが,「スマホを地面に叩きつけた」という事実は重く見るべきである。
普通の人は,慌ててスマホを落とすことはあっても叩きつけることはなく,これは「中を見られたら終わりだ」という強い隠滅動機の現れであり,この事実認定が勾留維持の最大の柱となる。
第二に,「理論上の可能」と「実務上のタイムラグ」の区別である。電磁的記録提供命令やログ保存は理論上は正しい手段であるが,実務では,令状を持ってプロバイダに行っても担当者が不在ですぐ対応できないといった事情に加え,対象サーバーが米国にあり日本の令状の効力が直接及ばず,任意の協力や国際捜査共助に依存せざるを得ないという国境の壁が存在する。釈放したらその帰り道にネットカフェから消去されるかもしれないという空白の数時間を埋めるのが勾留の役割である。
第三に,「デジタル証拠」の「原本性」である。クラウドにあるからよいという主張に対し,端末内のオリジナルデータこそが重要と言い切れるかどうかがポイントとなる。クラウド上のデータは,同期の過程で非可逆圧縮され画質が劣化していたり,Exif情報等のメタデータの一部が欠落していたりすることが多々ある。また,端末内部には,クラウドには同期されないシステムログ(アプリの起動履歴,画面オンオフの記録等)が残存しており,これこそが被疑者の故意や常習性を立証する決定的な証拠となる。劣化のない原本とシステムログの確保には,端末本体の解析が不可欠であるという技術的視点を持つ必要がある。
第8 依頼者を「デジタル死」から守るための実務的助言
本件のような性犯罪事案や公務員の事件では,不起訴や執行猶予を獲得できたとしても,実名報道やネット上の書き込みによって社会的信用が失墜する「デジタル死」のリスクがある。弁護人としては,刑事弁護の出口戦略として,次のような技術的アドバイスを行うことが重要である。
初動の段階では,情報の拡散防止の観点から,依頼者の氏名等を登録して書き込みを即時検知するGoogle検索アラートの設定,削除ではなく非アクティブ化やID検索拒否設定によるSNSアカウントの一時凍結,顔写真流出の有無を定期的にチェックするリバース画像検索の監視が有用である。
法的手続による削除請求としては,最高裁判所第三小法廷平成29年1月31日決定が示した,個人のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等を検索結果として提供する行為の違法性について,当該事実の性質及び内容,これが伝達される範囲と被害の具体的程度等を比較衡量して判断し,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には検索結果からの削除を求めることができる旨の枠組みを参照し,検索結果からの削除を求めることが考えられる。また,被害者特定事項秘匿決定がなされている場合,これに関連する書き込みは,プロバイダ責任制限法に基づく削除請求において削除対象として認められやすい傾向にある。
削除が困難な場合,逆SEO対策(無害な記事の上位表示)により,ネガティブな情報を検索結果の下位へ追いやる手法も検討すべきである。刑事手続終了後,依頼者が真の意味で社会復帰を果たすためには,単なるデータの削除にとどまらず,捜査機関に記録されたIMSI(SIMカード識別番号)やMACアドレス等を踏まえた対策が有効な場合もある。具体的には,電話番号の変更のみならずSIMカード自体を再発行して加入者識別ID(IMSI)及びICCIDを変更すること,スマートフォン等を買い替えて製造番号(IMEI)及びMACアドレスを一新すること,ISPへの申請やルーター交換により自宅のグローバルIPアドレスを変更することが,将来的な不当な追跡や別件捜査での予断による紐付けを防止する防衛的措置として考えられる。
出典・参考資料
1 法令
①刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)110条の2,218条1項・2項,219条1項・2項,201条の2,207条の2以下,271条の2以下,430条(e-Gov法令検索)
②性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和5年法律第67号)(e-Gov法令検索。令和5年7月13日施行)
③重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(令和6年法律第27号)1条(e-Gov法令検索)
④情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律,令和7年5月23日公布,令和8年5月21日一部施行)=旧「記録命令付差押え」(刑事訴訟法旧99条の2)を「電磁的記録提供命令」へ統合・改称した改正法
2 裁判例
①最高裁判所第二小法廷令和3年2月1日決定(平成30年(あ)第1381号,刑集75巻2号123頁,裁判所ウェブサイト。原審は大阪高等裁判所平成30年9月11日判決)
②最高裁判所第三小法廷平成29年1月31日決定(平成28年(許)第45号,民集71巻1号63頁,裁判所ウェブサイト)
3 公文書・執務資料
①新たな令状事務の取扱いに関する執務資料(電磁的記録の証拠収集方法の整備に伴うもの)(平成24年4月,最高裁判所刑事局)
②令状事務処理の手引(四訂版)(平成30年9月補訂,名古屋地方裁判所刑事書記官室・名古屋簡易裁判所刑事書記官室)
③令状事務の手引(九訂版)(令和2年7月一部改訂,大阪地方裁判所刑事部)
④令状事務処理の手引(勾留関係事件を除く一般令状等について)(会報書記官62号からの抜粋,日本裁判所書記官協議会福岡地区支部・福岡高裁支部刑事実務研究班)
⑤留置管理業務の手引き(令和6年2月,大阪府警察本部総務部留置管理課)
⑥「令状事務の留意点」設問(令和7年5月12日使用,77期新任判事補研修の資料)
⑦日本弁護士連合会「電磁的記録提供命令の創設を含む刑事訴訟法等の改正に当たり,プライバシーの権利等を保護するための修正を求める意見書」(2024年3月14日)
⑧日本弁護士連合会「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律の一部施行に当たっての会長声明」(2026年5月21日)
4 文献
①令状に関する理論と実務Ⅰ(判例タイムズ社)32頁,43頁,148頁
②令状に関する理論と実務Ⅱ(判例タイムズ社)62頁,66頁
③松田克之・宮崎桃子「令状2・情報通信機器の発達を背景とした令状」判例タイムズ1488号45頁(2021年)(大阪刑事実務研究会「捜索に対する司法審査の在り方等に関する研究」の一稿)
④白取祐司『刑事訴訟法〔第11版〕』(日本評論社,2026年)170頁~171頁,180頁(弁護士ドットコムライブラリーにより確認)
⑤高橋郁夫ほか編著『第2版 デジタル証拠の法律実務Q&A』(日本加除出版,2023年)195頁,444頁~445頁,492頁(弁護士ドットコムライブラリーにより確認)
⑥北條孝佳「クラウド上のデータの差押え(リモートアクセスによる複写の処分)」BUSINESS LAWYERS(西村あさひ法律事務所,2020年9月。高橋郁夫ほか編『デジタル法務の実務Q&A』日本加除出版2018年より転載)