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名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)-令状の点検項目,記載例及び現行法への読み替え(AI作成)

第1 手引の概要と本記事の範囲

1 作成主体と版の沿革

(1) 手引の構成

「令状事務処理の手引」は,名古屋地方裁判所刑事書記官室及び名古屋簡易裁判所刑事書記官室が,当直員を含む令状事務の担当職員のために作成した執務資料である。
名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版,令和6年2月補訂)はPDFで全125頁であり,総論,令状の種類ごとの各論,当直用チェック票,記載例及び資料(公訴時効,令状の有効期間一覧表,少年触法事件の参考書式)から成る。

(2) 各版の改訂内容

各版のはしがきによれば,改訂の経過は次のとおりである。
① 平成20年3月に,名古屋簡裁刑事書記官室が改訂版を作成した。
② 平成27年3月の三訂版で,平成23年の刑事訴訟法改正による新たな令状(平成24年6月22日施行)を盛り込んだ。
③ 平成28年9月の四訂版で,名古屋の高裁・地裁・家裁の当直令状事務の見直しを反映し,平成30年4月及び同年9月に補訂した。
④ 令和3年12月の五訂版で,特別法違反の令状等に罪名に係る条文を記載しない取扱い(同年3月1日から)等を反映した。
⑤ 令和5年7月の六訂版で,通常逮捕状,緊急逮捕状及び引致状を除く令状について,請求時に請求書謄本の添付を求めない取扱い(同月3日から)を反映した。
⑥ 令和6年2月の七訂版で,同月15日施行の刑事訴訟法改正に伴い,被害者等の個人特定事項を秘匿するための「逮捕状に代わるもの」の手続を追加した。

(3) 資料としての位置付け

手引は裁判所の内部の執務資料であり,法令の解釈を公式に示す資料ではない。
三訂版のはしがきも,踏み込んだ法解釈や理論的な部分については,裁判所職員総合研修所の研修教材である『令状事務(再訂補訂版)』等の専門書を参照するよう求めている。
記載されている取扱いは,令和6年2月時点の名古屋地裁・名古屋簡裁のものであり,他の裁判所の取扱いが同じであるとは限らない。

2 本記事の基準日と頁の示し方

本記事は,令和8年9月14日現在の法令に基づき,手引の内容を紹介した上で,その後の法改正により読み替えが必要な箇所を示すものである。
手引の頁は本文下部に印字された頁で示し,PDFの頁を併記する。
本文の印字頁は,PDFの頁から9を引いた数に当たる。

掲載されているPDFには,黒塗り又は空白となっている箇所がある。
主な箇所は,第5で整理する。

第2 令状事務の流れと書記官による点検

1 受付から交付までの流れ

(1) 事前準備と立件

警察署等から令状請求の事前連絡を受けたときは,請求官署名,令状の種類,通数,緊急性の有無及び到着予定時刻を聞き,緊急逮捕の場合は被疑罪名,逮捕時刻及び引致時刻も聞いた上で,定型用紙を準備しておくとよいとされている(手引4頁,PDF13頁)。
令状請求書には受付日付印を押し,受付時刻を24時間表示で記入して立件する(手引6頁~7頁,PDF15頁~16頁)。
当直で立件する一般令状事件の符号は,地裁の裁判官が担当する場合は「令む」,簡裁の裁判官が担当する場合は「令る」とされている(手引7頁,PDF16頁)。

(2) 謄本と契印の取扱い

令状請求書の謄本の提出が規則上義務付けられているのは,逮捕状請求書(刑事訴訟規則139条2項)と引致状請求書だけである(手引6頁,PDF15頁)。
名古屋管内では全ての令状請求書に謄本を添付させる実務慣行があったが,令和5年7月3日以降,謄本の提出は逮捕状請求書と引致状請求書に限ることとされた(同頁)。
また,名古屋管内では,令状請求書の原本には契印をせず,謄本にだけ謄本認証者印で契印するのが実務慣行とされている(同頁)。

(3) 起案,審査及び交付

令状原案の起案は主に事務官が担当し,令状請求書の審査は主に書記官が担当することが想定されている(手引7頁~9頁,PDF16頁~18頁)。
審査の過程で疑問点が生じたときは出頭した請求者等に確認し,明白な誤記は裁判官に引き継ぐ前に訂正させ,それ以外の問題点は付箋を貼った上で裁判官に口頭で伝えるとされている(手引9頁,PDF18頁)。

令状が発付された後は,交付前に最終確認を行い,この確認は,できれば受付及び審査に関与していない者が行うことが望ましいとされている(手引12頁,PDF21頁)。
交付の際には,令状を請求者等に示しながら声に出すなどして,押印及び契印の存在を請求者等にも確認させることが相当とされている(手引2頁,PDF11頁)。

2 書記官による点検の範囲

(1) 重点的に確認する事項

手引は,令状請求の相当性等を判断して令状を発付するのは裁判官であり,書記官の役割は補助的なものであるとしている(手引1頁,PDF10頁)。
その上で,令状過誤を防ぐために特に次の事項に細心の注意を払い,点検及び確認は必ず当直用チェック票を用いて行うとしている(手引2頁,PDF11頁)。
① 人定事項(氏名,住居,生年月日(年齢)等)
② 裁判官の記名,押印及び契印
③ 記載内容の誤記及び遺漏
④ 公訴時効の成立
⑤ 有効期間

人定事項は,戸籍謄本,住民票,運転免許証写し,在留カード等の公的な身分関係資料のうち少なくとも1つと照合し,外字の有無に特に注意するとされている(手引2頁,PDF11頁)。
外国人の生年月日は西暦で記載し,氏名の表記は請求書の表記と請求者の意向を確認して柔軟に扱うとされている(手引7頁・10頁)。

(2) 書記官が確認しない事項

通常逮捕状請求書の「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の欄について,手引は,記載は必須であるとしつつ,「記載された疎明資料の有無を捜査記録で確認する必要はない。」としている(手引15頁,PDF24頁)。
被疑事実の要旨についても,捜査記録冒頭の統括捜査報告書を一読した限度で点検するものとされている(手引15頁ほか各令状の概説)。
嫌疑の相当性の実質的な判断は裁判官が行うものであり,書記官の点検は形式面の確認を中心とするものと考えられる。

(3) 令状の形式を確認するときの目安

逮捕状,捜索差押許可状等の記載を確認できる場面では,上記の点検項目が,令状の形式的な瑕疵を確認する目安になる。
例えば,人定事項の誤り,契印の欠落,引用した別紙の付け違い又は表題の誤り,有効期間の計算の誤り,公訴時効を超える有効期間及び請求先の庁(地方裁判所か簡易裁判所か)の取違えは,いずれも手引の当直用チェック票に点検項目として挙げられている。

3 撤回,却下及び令状の更新

(1) 撤回と却下

請求を撤回するときは,請求書の上部余白に請求者が「撤回」と記載する(手引11頁,PDF20頁)。
却下するときは,裁判官が請求書原本の上部余白に却下する旨を記載して記名押印し,これを請求者に返還する(刑事訴訟規則140条,手引12頁,PDF21頁)。
手引は,「実務上は、却下ではなく撤回を促すことがほとんどである。」と記載している(手引12頁,PDF21頁)。
他方,緊急逮捕状は,緊急逮捕をした以上は必ず請求しなければならないため,その性質上撤回はあり得ず,発付しないときは却下の裁判をするとされている(手引11頁・33頁)。

(2) 令状の有効期間と更新

令状の有効期間は,令状発付の日から7日が原則である(刑事訴訟規則300条)。
令状の更新とは,被疑者の所在不明等により有効期間内に令状を執行できない場合に,令状を返還した上で同一内容の令状を請求することをいう(手引13頁,PDF22頁)。
名古屋簡裁の原則的な取扱いとして,逮捕状の更新は1か月,3か月の順とし,海外逃亡の場合は例外的に6か月としている(同頁)。
捜索差押許可状の更新には決まった取扱いはなく,1か月で請求され,1回だけの更新を認める例が多いとされている(同頁)。
有効期間を過ぎてから請求された場合,名古屋簡裁は更新ではなく新たな請求(有効期間は原則として7日)として発付する取扱いである(手引14頁,PDF23頁)。

(3) 公訴時効との関係

手引は,令状更新で最も注意すべき点は公訴時効であるとし,公訴時効期間を超える日を有効期間とする令状を発付しないよう求めている(手引13頁,PDF22頁)。
併合罪の関係にある複数の被疑事実の一部について公訴時効期間を超える場合には,時効が完成する被疑事実に関する令状請求書を分け,有効期間を公訴時効期間の満了日までとして請求させるとされている(手引14頁,PDF23頁)。
包括一罪の公訴時効について,手引は最高裁昭和31年8月3日第二小法廷判決を参照しており,同判決の裁判要旨は「包括一罪の公訴時効は、その最終の犯罪行為が終つた日から進行する。」である。

第3 令状の種類ごとの主な記載と取扱い

1 通常逮捕状と逮捕状に代わるもの

(1) 前の請求・発付の記載

刑事訴訟規則142条1項8号は,同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実について,その被疑者に対し前に逮捕状の請求又は発付があったときは,その旨及びその犯罪事実を逮捕状請求書に記載するよう定めている。
手引は,この記載は逮捕の蒸し返しや逮捕権の濫用を防ぐ趣旨であり,誤りがある逮捕状は効力に疑義が生じるとした上で,過去に請求して却下された場合だけでなく,撤回に至った場合も記載を要するとしている(手引15頁~16頁,PDF24頁~25頁)。
別件の先行する逮捕が現行犯逮捕である場合や,別件の犯罪事実で既に起訴されている場合は,規則の文言上は記載を要しないが,記載しておくことが望ましいとの見解もあると紹介されている(手引16頁,PDF25頁)。

(2) 請求書の訂正と疎明資料の記載

逮捕状は請求書の原本を引用して作成するため,引用する請求書の記載に訂正があるときは,裁判官印ではなく請求者印で訂正させる取扱いである(手引17頁,PDF26頁)。
手引は,その理由として,逮捕状で利用される請求書を裁判官印で訂正することは文書の独立性等の観点から不相当な処理であり,過誤に該当し得るとする最高裁判所刑事局の回答を紹介している(同頁)。

愛知県警察本部からの申入れにより,平成25年10月1日以降,請求書の疎明資料の欄には,捜査報告書,被害届,参考人供述調書等の資料の名称だけを記載し,作成者の個人名や通数は記載しない取扱いとされている(手引15頁,PDF24頁)。

(3) 逮捕状に代わるもの

刑事訴訟法201条の2は,検察官又は司法警察員が,一定の事件の被害者等の個人特定事項について,逮捕状の請求と同時に,被疑者に示すものとして「当該個人特定事項の記載がない逮捕状の抄本その他の逮捕状に代わるもの」の交付を請求できるとしている。
七訂版は,この手続を「通常逮捕状【個人特定事項の秘匿】」として追加し,逮捕状の原本との区別がつくよう,表題を「逮捕状に代わるもの(通常逮捕)」とする書式で交付することを前提に事務の流れを示している(手引22頁~27頁,PDF31頁~36頁)。

手引によれば,交付請求は,①逮捕状の請求が却下される場合,②被疑事実の要旨が他の犯罪事実と識別できず請求者が補正に応じない場合,③請求に係る者が秘匿の対象者に該当しないことが明らかな場合に却下され,却下に対して不服申立てはできないとされている(手引25頁~26頁,PDF34頁~35頁)。
また,緊急逮捕状は,この秘匿措置の対象外とされている(手引33頁,PDF42頁)。
逮捕状の有効期間が経過したときは,逮捕状に代わるものも返還しなければならない(刑事訴訟規則144条の2第1項7号,手引26頁)。

(4) 軽微事件と少年の逮捕

刑事訴訟法199条1項ただし書により,30万円(刑法,暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については,当分の間,2万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる罪については,被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合に限り,逮捕状により逮捕することができる。
手引は,法定刑が拘留又は科料である軽犯罪法違反の罪について,これらの事由がない限り逮捕状を発付することはできないという例を挙げている(手引16頁,PDF25頁)。

14歳に満たない者の行為は罰しないとされているため(刑法41条),14歳未満の少年は逮捕の対象とならない。
手引は,14歳以上の少年についても,少年法の趣旨に鑑みて逮捕の必要性を慎重に判断すべきであるとしている(手引17頁,PDF26頁)。
触法少年に係る事件の調査でも,警察官は押収,捜索,検証又は鑑定の嘱託をすることができ(少年法6条の5第1項),手引は触法事件用の各種令状の参考書式を資料として収録している(手引109頁以下,PDF118頁以下)。

2 緊急逮捕状

(1) 要件の判断時点と要件を欠く罪

緊急逮捕は,死刑又は無期若しくは長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合等に認められる(刑事訴訟法210条1項)。
手引は,緊急逮捕の要件は緊急逮捕の時点で存在しなければならず,逮捕後に生じた事由は疎明資料とならないとしている(手引33頁,PDF42頁)。
また,過失運転致死傷と救護義務違反・報告義務違反の事実で緊急逮捕した場合のように,緊急逮捕の要件を満たさない罪が請求書に含まれているときは,不適法な部分を除く処理を裁判官と協議するとしている(同頁)。

(2) 逮捕後に事実関係が変わった場合

手引は,緊急逮捕状には逮捕後の身柄拘束を根拠付ける性質のほかに,令状なしに行われた逮捕行為を追認する性質があるから,逮捕後に事実関係が変動した場合でも逮捕時の罪名及び被疑事実を記載するとしている(手引34頁,PDF43頁)。
例えば,傷害罪で緊急逮捕した後に被害者が死亡していても,罪名を傷害致死罪とすべきではないとされている(同頁)。
他方,同じ事実についての法律判断が異なるにすぎない場合には,裁判官が認めた罪名で発付して差し支えないとされ,強盗罪で緊急逮捕された事件を恐喝罪と認めて発付する例が挙げられている(同頁)。

3 捜索差押許可状,捜索許可状,差押許可状及び検証許可状

(1) 捜索すべき場所の特定と管理権

捜索すべき場所は,合理的に解釈してその場所を特定できる程度に記載し,管理権が単一であることが要求され,同一の場所でも管理権者が複数存在する場合は個別の令状を発付すべきとするのが通説であるとされている(手引38頁,PDF47頁)。
住居とその同一敷地内にある付属建物には包括して1個の管理権が及び,アパートや下宿のように各室によって居住権者が異なる場合は,各室ごとに別個の場所となる(手引38頁・43頁)。
同居の家族のプライバシーに配慮して,捜索すべき場所を「被疑者○○○○の使用部分及び共用部分」に限定する記載例もある(手引38頁,PDF47頁)。

(2) 自動車と身体の捜索

自動車の内部には独立した管理権があるとされ,公道上に駐車又は走行している場合は自動車そのものを特定すれば足り,自動車の所有者と駐車場所の管理者が同一であれば捜索差押許可状1通で執行できるとされている(手引43頁,PDF52頁)。
自動車の所有者と駐車場の管理者が異なり,管理者から立ち入る承諾が得られない場合には,駐車場に対する捜索許可状と自動車に対する捜索差押許可状の2通で執行するのが相当とされている(手引44頁,PDF53頁)。

捜索すべき身体には,被服のポケット内を調べること,被服の一部を脱がせて調べること,頭髪や口腔等を外部から調べることなどが含まれる(手引38頁,PDF47頁)。
他方,全裸又はそれに近い状態にして体表や体腔の内部を調べるには,身体検査令状を併用するのが相当と解されているとされる(同頁)。

(3) 夜間執行と差し押さえるべき物の特定

日出前又は日没後に令状を執行して人の住居等に入るには,夜間でも執行することができる旨の記載が必要である(刑事訴訟法222条3項・116条1項)。
手引は,自動車や人の着衣に対する捜索は私生活の平穏を害するおそれがないので夜間執行の許可は不要とし,キャンピングカーのように居住用を兼ねる自動車は許可が必要となることも考えられるとしている(手引39頁~40頁,PDF48頁~49頁)。
身体検査令状についても,夜間執行の許可は不要とするのが実務であるとしつつ,裁判官に確認するとされている(手引59頁,PDF68頁)。

差し押さえるべき物は,可能な限り具体的に特定されることが望ましいが,捜査の進捗状況や犯罪類型によってはある程度抽象的な記載も許容されるとされ,被疑者が複数いる事案では特定の被疑者に限定した記載をすべき場合もあるとされている(手引39頁,PDF48頁)。
差押許可状の主な対象として,携帯電話の通話履歴及び位置情報,電子メール等の送受信履歴,法人が保管する顧客等の契約者情報等が挙げられ,発信に用いた携帯電話基地局に関する位置情報リストの記載例も示されている(手引48頁~49頁,PDF57頁~58頁)。

4 身体検査令状,鑑定処分許可状及び身体からの採取

(1) 身体検査令状の条件

身体の検査は身体検査令状によらなければならず(刑事訴訟法218条1項後段),裁判官は身体の検査に関し適当と認める条件を付することができる(同条9項)。
女子の身体を検査する場合には,医師又は成年の女子を立ち会わせなければならない(同法222条1項・131条2項)。
手引は,被疑者を全裸にして身体検査を行う場合も条件を付す必要があるものと考えられるとしている(手引57頁,PDF66頁)。

(2) 強制採尿,強制採血,毛髪の採取及び嚥下物の押収

手引は,身体からの採取について,令状の組合せと条件の記載例を示している(手引77頁~94頁,PDF86頁~103頁)。
① 強制採尿は,医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる旨の条件と,採尿に適する最寄りの場所まで連行することができる旨の条件を付した捜索差押許可状による。
② 強制採血は,身体検査令状と鑑定処分許可状を併用する。
③ 毛髪の強制採取も身体検査令状と鑑定処分許可状を併用し,採取する本数は約50本として発付する例がほとんどであるとされる。
④ 嚥下された異物の押収は,捜索差押許可状と鑑定処分許可状を併用するのが相当と解されている。

令状の組合せの理由,条件の文言及び最高裁判例については,強制採尿・強制採血・毛髪採取の令状で整理している。

5 電磁的記録に関する令状

(1) 記録命令付差押許可状

手引は,平成23年の刑事訴訟法改正(平成24年6月22日施行)で導入された記録命令付差押えについて,令状請求事件簿の令状種別を「記差」と記載すること等の事務を記載している(手引65頁,PDF74頁)。
しかし,刑事訴訟法の記録命令付差押えは,情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)により,令和8年5月21日から電磁的記録提供命令に改められている。
この部分は現行の刑事手続の説明としては使えず,現行制度は電磁的記録提供命令とはで整理している。

(2) リモートアクセスによる複写の処分

差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体から電磁的記録を複写して差し押さえる処分(刑事訴訟法218条2項)について,令状には「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲」を記載しなければならない(同法219条2項)。
手引は,メールサーバの記録領域のうち,①端末のメールソフトに記録されているアカウントによりアクセス可能な記録領域,②端末のブラウザに記録されているサーバのURL又はそのサーバへのアクセス履歴に係る記録領域,③端末の使用者のID及びパスワードによりアクセス可能な記録領域のいずれかに該当するものとする記載例を示している(手引69頁,PDF78頁)。
詳細な記載例について,手引は,最高裁判所事務総局刑事局が平成24年4月に作成した新たな令状事務の取扱いに関する執務資料(電磁的記録の証拠収集方法の整備に伴うもの)を参照するよう求めている。

6 行政手続の令状,引致状及び保護許可状

(1) 臨検捜索差押許可状等

国税局の職員(国税通則法132条),県税事務所の職員(地方税法),税関職員(関税法),入国警備官(出入国管理及び難民認定法31条)及び児童相談所長等(児童虐待の防止等に関する法律9条の3)も,行政手続に基づいて裁判官に許可状を請求する(手引5頁,PDF14頁)。
出入国管理及び難民認定法と児童虐待の防止等に関する法律に基づく許可状の請求は行政雑事件として立件され,夜間執行の根拠も刑事訴訟法ではなく各法律の規定であるとされている(手引7頁・40頁)。
これらの犯則調査・違反調査の手続では,刑事訴訟法とは異なり,現在も記録命令付差押えの規定が残っている(国税通則法132条1項,出入国管理及び難民認定法31条1項等)。

(2) 引致状と保護許可状

保護観察所の長等が請求する引致状(更生保護法63条)について,手引は,名古屋簡裁ではおおむね逮捕状の更新と同様に初回7日,1か月,3か月の順で扱い,東京簡裁では保護観察所の要請により初回3か月,再請求6か月で請求することを許容する運用があると紹介している(手引102頁,PDF111頁)。
警察官職務執行法3条による保護を24時間を超えて続けるための保護許可状は,簡易裁判所の裁判官が扱い,延長に係る期間は通じて5日を超えてはならない(同条3項・4項,手引106頁,PDF115頁)。

第4 現行法への読み替え

1 読み替えが必要な主な箇所

手引は令和6年2月時点のものであり,その後の法改正により,次の箇所は読み替えが必要である(令和8年9月14日現在)。
① 懲役及び禁錮の記載(緊急逮捕の対象となる罪,公訴時効の一覧表等)は,令和7年6月1日施行の刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)により,拘禁刑と読み替える。
② 記録命令付差押え(旧刑事訴訟法99条の2)は,令和8年5月21日から電磁的記録提供命令(刑事訴訟法102条の2・218条1項)となった。
③ 手引が令状の請求権者の根拠として挙げる「218Ⅳ」(刑事訴訟法218条4項)は,現在は同条5項となっている。
④ 無令状で指紋等を採取できる規定は同条4項,身体検査令状の請求で示す事項は同条8項,身体の検査に関する条件は同条9項となっている。
⑤ 令状の記載事項(刑事訴訟法219条1項)は,「記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者」に代えて,提供させるべき電磁的記録,提供させるべき者及び提供の方法を定めるものとなった。
⑥ 刑事訴訟規則155条(差押え等の令状請求書の記載要件)も,電磁的記録提供命令に対応して改正されている。

他方,令和8年9月14日現在,刑事訴訟法199条(通常逮捕),201条の2(逮捕状に代わるもの),218条2項(リモートアクセス)及び219条2項並びに刑事訴訟規則139条~146条の2及び300条(有効期間)は,条番号も内容も変わっていない。

2 公訴時効の一覧表の注意点

手引の資料「公訴時効について」の一覧表は,平成16年改正と平成22年改正による区分を示しているが,性犯罪の公訴時効期間を延長した刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第66号)による改正(刑事訴訟法250条3項・4項)は反映されていない(手引107頁,PDF116頁)。
現行の刑事訴訟法250条3項は,不同意性交等罪(刑法177条)等の時効期間を15年,不同意わいせつ罪(同法176条)等の時効期間を12年とするなどしており,同条4項は,被害者が犯罪行為が終わった時に18歳未満である場合に,被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算するとしている。
性犯罪の事件で令状の有効期間と公訴時効との関係を確認するときは,手引の一覧表ではなく現行条文を確認する必要がある。

3 今後の改正予定

e-Gov法令検索には,令和9年3月31日施行予定として,逮捕状その他の令状を書面によるほか電磁的記録によることができるものとする改正(刑事訴訟法199条,218条等)が登録されている。
同じ改正により,刑事訴訟法201条の2の「逮捕状に代わるもの」の「交付」も「提供」に改められる予定であり,手引が前提とする紙の令状の受付・交付の事務は,この改正の施行後に変わる可能性がある。

第5 黒塗り箇所と旧版との比較

1 黒塗り又は空白となっている主な箇所

掲載されているPDFでは,次の箇所が黒塗り又は空白となっている。
① 当直の人員体制に関する記載(手引1頁,PDF10頁)
② 事務担当者の役割分担に関する記載の一部(同頁)
③ 報道関係者から令状発付の有無等について取材を受けた場合の対応の一部(手引3頁,PDF12頁)
④ 通常逮捕状の「任意同行後の逮捕状請求」の項の本文(手引17頁,PDF26頁)
⑤ 逮捕状に代わるものの交付請求書の審査に関する留意点の一部(手引23頁~24頁,PDF32頁~33頁)

令状事務処理の手引(四訂版,平成30年9月補訂)と比べると,上記①から④までの箇所は,四訂版でも同じく黒塗り又は空白となっている。

2 四訂版からの主な変更点

四訂版と七訂版の主な違いは次のとおりである。
① 資料から「事実記載例一覧表」がなくなり,七訂版の資料は公訴時効,令状の有効期間一覧表及び少年触法事件の参考書式の3つとなった。
② 令状請求書謄本の添付を逮捕状請求書と引致状請求書に限る取扱いが反映された。
③ 特別法違反の罪名に罰条を記載しない取扱いが反映された。
④ 逮捕状に代わるものの手続と当直用チェック票が追加された。

第6 関連資料と関連記事

1 同じ手引の旧版と抜粋

① 令状事務処理の手引(四訂版,平成30年9月補訂)
② 公訴時効について(四訂版からの抜粋)
③ 事実記載例一覧表(四訂版からの抜粋)
④ 令状の有効期間一覧表(四訂版からの抜粋)

2 他の裁判所の令状事務資料

① 当直令状事務マニュアル(平成29年3月の名古屋地裁岡崎支部刑事訟廷事務室の文書)
② 千葉地裁の当直用令状事務処理マニュアル(令和3年7月)
③ 当直令状事務処理における留意点について(土浦簡易裁判所)
④ 当直における令状事務処理要領(平成30年11月1日一部修正のさいたま地裁の文書)
⑤ 令状事務処理の手引(勾留関係事件を除く一般令状等について)(会報書記官62号からの抜粋)
⑥ 令状事務の留意点(進行予定)(令和7年度新任判事補研修の資料)

3 関連記事

身体からの採取に関する令状は強制採尿・強制採血・毛髪採取の令状で,記録命令付差押えに代わる制度は電磁的記録提供命令とはで整理している。
スマートフォンの捜索についてはスマートフォンのロック解除と捜索・差押え-暗証番号・生体認証・黙秘権を,逮捕状の有効期間と再発付については逮捕状を持った警察に居留守を使うとどうなるか-自宅への立入り,ドアの開扉及び不在の場合を参照されたい。
逮捕の手続全体は被疑者の逮捕で,新任判事補研修の令状関係資料は新任判事補研修の資料で紹介している。

第7 出典

法令は次のとおりである。
① e-Gov法令検索「刑事訴訟法」116条,131条,199条,201条の2,210条,218条,219条,222条及び250条(令和8年9月14日確認)。
② 最高裁判所「刑事訴訟規則」139条,140条,142条,144条の2,155条及び300条(令和8年5月21日版)。
③ e-Gov法令検索「刑法」41条。
④ e-Gov法令検索「少年法」6条の5。
⑤ e-Gov法令検索「警察官職務執行法」3条。
⑥ e-Gov法令検索「更生保護法」63条。
⑦ e-Gov法令検索「国税通則法」132条。
⑧ e-Gov法令検索「出入国管理及び難民認定法」31条。

裁判例は次のとおりである。
① 最高裁昭和31年8月3日第二小法廷判決(昭和29年(あ)第180号,刑集10巻8号1202頁)。

資料は次のとおりである。
① 名古屋地方裁判所刑事書記官室・名古屋簡易裁判所刑事書記官室「令状事務処理の手引(七訂版)」(令和6年2月)。
② 名古屋地方裁判所刑事書記官室・名古屋簡易裁判所刑事書記官室「令状事務処理の手引(四訂版)」(平成28年9月,平成30年9月補訂)。
③ 最高裁判所事務総局刑事局「新たな令状事務の取扱いに関する執務資料(電磁的記録の証拠収集方法の整備に伴うもの)」(平成24年4月)。