第1 本記事の範囲
本記事は,逮捕状,捜索差押許可状等の令状の有効期間と,令状の請求や更新の際に確認される公訴時効について,令和8年9月15日現在の刑事訴訟法及び刑事訴訟規則の条文と最高裁判所の判例を基に整理するものである。
令状事務の実際の取扱いは,名古屋地方裁判所・名古屋簡易裁判所の刑事書記官室が作成した「令状事務処理の手引(七訂版)」(令和6年2月補訂)の記載によって紹介する。
手引は裁判所の内部の執務資料であり,法令の解釈を公式に示すものではない。
手引の資料「公訴時効について」の一覧表は,懲役・禁錮が拘禁刑に改められる前のものであり,令和5年の性犯罪の公訴時効期間の延長も反映していないため,本記事では現行条文から一覧を作り直している。
手引の頁は本文下部に印字された頁で示し,PDFの頁を併記する。
第2 令状の有効期間
1 原則は7日
(1) 刑事訴訟規則300条
刑事訴訟規則300条は,「令状の有効期間は、令状発付の日から七日とする。但し、裁判所又は裁判官は、相当と認めるときは、七日を超える期間を定めることができる。」と定めている。
逮捕状,差押え・捜索・電磁的記録提供命令・検証の令状及び鑑定処分許可状の請求書には,7日を超える有効期間を必要とするときは,その旨及び事由を記載する(同規則142条1項6号・155条1項5号・159条1項6号)。
(2) 令状への記載と返還
逮捕状には,有効期間と,その期間経過後は逮捕をすることができず令状を返還しなければならない旨が記載される(刑事訴訟法200条1項)。
差押え等の令状にも,有効期間と,その期間経過後は差押え,捜索若しくは検証に着手し,又は電磁的記録提供命令をすることができず令状を返還しなければならない旨が記載される(同法219条1項)。
さらに,逮捕状と同法218条1項の令状には,有効期間内であっても,その必要がなくなったときは直ちに返還しなければならない旨も記載される(刑事訴訟規則157条の2第1項)。
2 有効期間の計算
(1) 初日不算入と暦による計算
刑事訴訟法55条1項は,期間の計算について,「日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。」とし,同条2項は,「月及び年は、暦に従つてこれを計算する。」としている。
同条3項は,期間の末日が日曜日,土曜日,祝日等に当たるときはこれを期間に算入しないと定めている(時効期間を除く。)。
これに対し,手引の当直用チェック票は,令状の有効期間について,原則として発付日から7日とし,初日は算入せず,末日が祝休日でも算入するとしている(手引21頁,PDF30頁ほか)。
具体的な事件では,令状に記載された有効期間を確認することになる。
(2) 月末に発付された場合
期間を月で定めた場合について,手引は,民法143条2項(最後の月においてその起算日に応当する日の前日に満了し,応当する日がないときはその月の末日に満了する旨の規定)も根拠に挙げて,月末に発付された令状の満了日を一覧表にしている(手引108頁,PDF117頁)。
例えば,1月31日に発付された令状は,起算日が2月1日となり,有効期間が7日であれば2月7日,1か月であれば2月28日(うるう年は2月29日),2か月であれば3月31日,3か月であれば4月30日に満了するとされている(同頁)。
3 令状の更新
(1) 更新の意味と名古屋簡裁の運用
手引は,令状の更新を,被疑者の所在不明等により有効期間内に令状を執行できない場合に,令状を返還した上で同一内容の令状を請求することと説明している(手引13頁,PDF22頁)。
名古屋簡裁の原則的な取扱いとして,逮捕状の更新は1か月,3か月の順とし,海外逃亡の場合は例外的に6か月としている(同頁)。
捜索差押許可状の更新には決まった取扱いはなく,1か月で請求され,1回だけの更新を認める例が多いとされている(同頁)。
有効期間を過ぎてから請求された場合,名古屋簡裁は更新ではなく新たな請求(有効期間は原則として7日)として発付する取扱いである(手引14頁,PDF23頁)。
(2) 再請求であることの記載と通知
逮捕状請求書には,同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実について前に逮捕状の請求又は発付があったときは,その旨及びその犯罪事実を記載しなければならない(刑事訴訟規則142条1項8号)。
刑事訴訟法199条3項も,検察官又は司法警察員は,同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があったときは,その旨を裁判所に通知しなければならないとしている。
第3 現行の公訴時効期間
1 人を死亡させた罪
刑事訴訟法250条1項は,「時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑に当たるものについては、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。」とし,期間を次のとおり定めている。
① 無期拘禁刑に当たる罪 30年
② 長期20年の拘禁刑に当たる罪 20年
③ ①・②以外の罪 10年
人を死亡させた罪であって死刑に当たるもの(殺人罪,強盗殺人罪等)は,同項にも同条2項にも当たらないため,公訴時効がない。
最高裁平成27年12月3日第一小法廷判決(平成26年(あ)第749号,刑集69巻8号815頁)も,平成22年の改正について,人を死亡させた罪であって「死刑に当たるものについて公訴時効を廃止し」たものと説明している。
2 その他の罪
同条2項は,人を死亡させた罪であって拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪について,時効期間を次のとおり定めている。
① 死刑に当たる罪 25年
② 無期拘禁刑に当たる罪 15年
③ 長期15年以上の拘禁刑に当たる罪 10年
④ 長期15年未満の拘禁刑に当たる罪 7年
⑤ 長期10年未満の拘禁刑に当たる罪 5年
⑥ 長期5年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪 3年
⑦ 拘留又は科料に当たる罪 1年
3 性犯罪の特例
(1) 期間
同条3項は,同条2項にかかわらず,次の罪の時効期間を定めている。
① 刑法181条の罪(不同意わいせつ等致死傷。人を負傷させたときに限る。)若しくは同法241条1項の罪(強盗・不同意性交等)又は盗犯等の防止及び処分に関する法律4条の罪(同項の罪に係る部分に限る。) 20年
② 刑法177条(不同意性交等)若しくは179条2項(監護者性交等)の罪又はこれらの罪の未遂罪 15年
③ 刑法176条(不同意わいせつ)若しくは179条1項(監護者わいせつ)の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法60条1項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。) 12年
(2) 被害者が18歳未満の場合の加算
同条4項は,「前二項の規定にかかわらず、前項各号に掲げる罪について、その被害者が犯罪行為が終わつた時に十八歳未満である場合における時効は、当該各号に定める期間に当該犯罪行為が終わつた時から当該被害者が十八歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間を経過することによつて完成する。」と定めている。
例えば,不同意性交等罪の被害者が犯罪行為の終わった時に12歳であった場合,計算上は,15年に,18歳に達する日までの6年を加算した期間となる。
4 期間の基準となる刑
(1) 併科・選択刑と加重減軽
刑事訴訟法251条は,「二以上の主刑を併科し、又は二以上の主刑中その一を科すべき罪については、その重い刑に従つて、前条の規定を適用する。」と定めている。
同法252条は,「刑法により刑を加重し、又は減軽すべき場合には、加重し、又は減軽しない刑に従つて、第二百五十条の規定を適用する。」と定めている。
したがって,拘禁刑と罰金が選択刑になっている罪は拘禁刑を基準とし,累犯加重や未遂減軽がある場合も,加重又は減軽をしない法定刑によって時効期間が決まる。
(2) 犯罪後に法定刑が変わった場合
最高裁昭和42年5月19日第三小法廷決定(昭和42年(し)第2号,刑集21巻4号494頁)は,「犯罪後の法律により刑の変更があつた場合における公訴時効の期間は、当該犯罪事実に適用すべき罰条の法定刑によつて定まる。」とした。
刑法6条は,「犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。」と定めているので,時効期間は,変更後の法定刑によって当然に決まるのではなく,刑法6条や改正法の経過規定によって当該犯罪事実に適用される罰条の法定刑によって決まることになる。
(3) 拘禁刑への一本化
令和7年6月1日に懲役及び禁錮が拘禁刑に一本化されたが,刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)458条2項は,施行前の行為に係る罪について刑事訴訟法250条を適用する場合,無期の懲役又は禁錮に当たる罪は無期拘禁刑に当たる罪と,有期の懲役又は禁錮に当たる罪は長期及び短期を同じくする有期拘禁刑に当たる罪とみなすとしている(一部の号を除く。)。
そのため,拘禁刑への一本化によって時効期間の長さが変わるものではない。
第4 時効の起算点と停止
1 起算点
(1) 犯罪行為が終わった時
刑事訴訟法253条1項は,「時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。」と定め,同条2項は,「共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。」と定めている。
最高裁昭和63年2月29日第三小法廷決定(昭和57年(あ)第1555号,刑集42巻2号314頁)は,同条1項の犯罪行為には刑法各本条所定の結果も含まれるとし,業務上過失致死罪の公訴時効は,被害者の受傷から死亡までの間に業務上過失傷害罪の公訴時効期間が経過したか否かにかかわらず,その死亡の時点から進行するとした。
(2) 包括一罪
最高裁昭和31年8月3日第二小法廷判決(昭和29年(あ)第180号,刑集10巻8号1202頁)は,「包括一罪の公訴時効は、その最終の犯罪行為が終つた日から進行する。」とした。
2 科刑上一罪と併合罪
(1) 観念的競合と牽連犯
最高裁昭和41年4月21日第一小法廷判決(昭和40年(あ)第1318号,刑集20巻4号275頁)は,「一個の行為が数個の罪名に触れる場合における公訴の時効期間算定については、各別に論ずることなく、これを一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効期間によるのを相当とする。」とした。
前記昭和63年決定も,結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合には,その全部を一体として観察すべきであるとしている。
牽連犯については,民事の再審事件の中で判断を示した最高裁昭和47年5月30日第三小法廷判決(昭和44年(オ)第210号,民集26巻4号826頁)が,目的行為がその手段行為に対する時効期間の満了前に実行されたときは,両者の公訴時効は,不可分的に,最も重い刑を標準に最終行為の時から起算すべきであるとしている。
(2) 手引の例
手引は,実行行為から3年と1日が経過した場合を例に,併合罪の場合は犯罪事実ごとに決するとし,文化包丁の所持(銃砲刀剣類所持等取締法違反,時効3年)と窃盗(時効7年)の場合には,銃砲刀剣類所持等取締法違反の被疑事実で令状を発付することはできず,罪名は窃盗のみとなるとしている(手引107頁,PDF116頁)。
科刑上一罪の場合は最も重い罪で決するとし,信号無視と過失運転致傷の観念的競合,住居侵入と窃盗の牽連犯の例を挙げている(同頁)。
3 時効の停止
(1) 公訴の提起と共犯
刑事訴訟法254条1項は,時効は当該事件についてした公訴の提起によってその進行を停止し,管轄違い又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始めるとしている。
同条2項は,「共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。」とし,停止した時効は当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始めるとしている。
最高裁平成28年7月12日第三小法廷決定(平成26年(あ)第747号,刑集70巻6号411頁)は,同項の共犯に当たるというためには業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する必要があるとして,共同正犯が成立しない者に対する公訴提起によっては,被告人に対する公訴時効は停止しないとした。
(2) 国外にいる場合と逃げ隠れている場合
同法255条1項は,犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかった場合には,時効は,その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止するとしている。
最高裁昭和37年9月18日第三小法廷判決(昭和35年(あ)第735号,刑集16巻9号1386頁)は,同項前段は,犯人が国外にいる場合は,そのことだけで時効の進行が停止することを規定したものであるとした。
最高裁平成21年10月20日第一小法廷決定(平成20年(あ)第1657号,刑集63巻8号1052頁)は,「犯人が国外にいる間は,それが一時的な海外渡航による場合であっても,公訴時効はその進行を停止する。」とした。
なお,令和7年法律第39号による改正で,同項の「起訴状の謄本の送達」は「第二百七十一条第一項の規定による送達」に改められる予定である(施行日は政令で定める日とされている。)。
第5 改正の経過措置
1 平成16年の改正
刑法等の一部を改正する法律(平成16年法律第156号,平成17年1月1日施行)は,公訴時効期間を延長したが,その附則3条2項は,同法の施行前に犯した罪の公訴時効の期間については,なお従前の例によるとしている。
手引の一覧表が,平成16年12月31日以前の実行行為について別の区分を設けているのは,この経過措置によるものである(手引107頁,PDF116頁)。
2 平成22年の改正
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号)は,同年4月27日に施行され,人を死亡させた罪であって死刑に当たるものの公訴時効を廃止し,拘禁刑(当時は懲役又は禁錮)に当たるものの時効期間を延長した。
同法附則3条2項は,平成16年改正法附則3条2項にかかわらず,平成22年改正法の施行の際に公訴時効が完成していない人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるものについては,平成17年1月1日より前に犯したものであっても,改正後の250条1項を適用するとしている。
最高裁平成27年12月3日判決は,この附則3条2項は,憲法39条,31条に違反せず,それらの趣旨にも反しないとした。
3 令和5年の改正
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第66号)による250条3項・4項の改正は,令和5年6月23日に施行された(同法附則1条1号)。
同法附則5条2項は,改正後の250条3項・4項を,施行の際に公訴時効が完成していない罪についても適用するとし,同条1項は,施行の際既に公訴時効が完成している罪には適用しないとしている。
また,同法附則4条は,改正前の刑法176条から178条までの罪等を250条3項各号の罪とみなしている。
第6 令状の有効期間と公訴時効の関係
手引は,令状の更新で最も注意すべき点は公訴時効であるとし,公訴時効期間を超える日を有効期間とする令状を発付しないよう求めている(手引13頁,PDF22頁)。
併合罪の関係にある複数の被疑事実の一部について公訴時効期間を超える場合には,時効が完成する被疑事実に関する令状請求書を分け,有効期間を公訴時効期間の満了日までとして請求させるとされている(手引14頁,PDF23頁)。
共犯者の起訴や被疑者の海外逃亡などにより時効が停止している場合があるので,一件記録や捜査員から確認するとされている(手引107頁,PDF116頁)。
令状の写しを確認できる場面では,令状に記載された有効期間の満了日が,第3及び第4によって計算した公訴時効の完成日を超えていないかが確認の目安となる。
性犯罪の事件では,手引の一覧表ではなく,令和5年改正後の250条3項・4項と附則の経過措置によって計算する必要がある。
第7 関連記事
令状事務全体の流れと現行法への読み替えは,名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)-令状の点検項目,記載例及び現行法への読み替えで整理している。
逮捕状の有効期間が過ぎた後の再発付と,逮捕状を持った警察への対応については,逮捕状を持った警察に居留守を使うとどうなるか-自宅への立入り,ドアの開扉及び不在の場合を参照されたい。
身体からの採取に関する令状は強制採尿・強制採血・毛髪採取の令状-令状の組合せ,条件の記載及び最高裁の判断で,電磁的記録に関する令状は電磁的記録提供命令とは-記録命令付差押えとの違い,令状の記載事項,秘密保持命令及び罰則で整理している。
第8 出典
法令は次のとおりである。
① e-Gov法令検索「刑事訴訟法」55条,199条,200条,219条,250条から255条まで,附則(平成22年法律第26号)3条及び附則(令和5年法律第66号)1条,4条及び5条(令和8年9月15日確認)。
② 最高裁判所「刑事訴訟規則」142条,155条,157条の2,159条及び300条(令和8年5月21日版)。
③ e-Gov法令検索「刑法」6条,「民法」143条及び「刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律」(令和4年法律第68号)458条。
裁判例は次のとおりである。
① 最高裁昭和31年8月3日第二小法廷判決(昭和29年(あ)第180号,刑集10巻8号1202頁)。
② 最高裁昭和37年9月18日第三小法廷判決(昭和35年(あ)第735号,刑集16巻9号1386頁)。
③ 最高裁昭和41年4月21日第一小法廷判決(昭和40年(あ)第1318号,刑集20巻4号275頁)。
④ 最高裁昭和42年5月19日第三小法廷決定(昭和42年(し)第2号,刑集21巻4号494頁)。
⑤ 最高裁昭和47年5月30日第三小法廷判決(昭和44年(オ)第210号,民集26巻4号826頁)。
⑥ 最高裁昭和63年2月29日第三小法廷決定(昭和57年(あ)第1555号,刑集42巻2号314頁)。
⑦ 最高裁平成21年10月20日第一小法廷決定(平成20年(あ)第1657号,刑集63巻8号1052頁)。
⑧ 最高裁平成27年12月3日第一小法廷判決(平成26年(あ)第749号,刑集69巻8号815頁)。
⑨ 最高裁平成28年7月12日第三小法廷決定(平成26年(あ)第747号,刑集70巻6号411頁)。
資料は次のとおりである。
① 名古屋地方裁判所刑事書記官室・名古屋簡易裁判所刑事書記官室「令状事務処理の手引(七訂版)」(令和6年2月補訂)13頁~14頁,21頁,107頁及び108頁。