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強制採尿・強制採血・毛髪採取の令状-令状の組合せ,条件の記載及び最高裁の判断(AI作成)

第1 本記事の範囲

本記事は,捜査機関が被疑者の身体から尿,血液,毛髪又は飲み込んだ物を強制的に採取する場合に,どの令状が必要となり,令状にどのような条件が記載されるかを整理するものである。
令和8年9月14日現在の刑事訴訟法の条文,最高裁判所の判例及び名古屋地方裁判所・名古屋簡易裁判所の刑事書記官室が作成した「令状事務処理の手引(七訂版)」(令和6年2月補訂)の記載例を基にしている。

手引は裁判所の内部の執務資料であり,法令の解釈を公式に示すものではない。
本記事で手引の記載例を紹介するのは,令状に実際にどのような文言が記載されるかを示すためであり,他の裁判所の運用が同じであるとは限らない。
手引の頁は本文下部に印字された頁で示し,PDFの頁を併記する。

第2 身体に関する令状の基本

1 身体検査令状

(1) 身体検査令状が必要な場合

捜査機関は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,裁判官の発する令状により,差押え,捜索,電磁的記録提供命令又は検証をすることができる(刑事訴訟法218条1項前段)。
同項後段は,「この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」と定めている。
身体検査は,人の身体を対象とする検証であり,入れ墨,ほくろ,注射痕,傷等の身体の特徴や状態を調べる場合に用いられる(手引57頁,PDF66頁)。

(2) 条件と立会い

裁判官は,身体の検査に関し,適当と認める条件を付することができる(刑事訴訟法218条9項)。
身体の検査については,これを受ける者の性別,健康状態その他の事情を考慮し,特にその方法に注意し,その者の名誉を害しないように注意しなければならない(同法222条1項・131条1項)。
女子の身体を検査する場合には,医師又は成年の女子を立ち会わせなければならない(同法131条2項)。

(3) 拒否に対する制裁と直接強制

正当な理由がなく身体の検査を拒んだときは,10万円以下の過料に処せられ(刑事訴訟法137条1項),又は10万円以下の罰金若しくは拘留に処せられることがある(同法138条1項)。
これらの規定は,捜査機関がする検証としての身体検査にも準用され(同法222条1項),過料の処分は裁判所に請求して行う(同条7項)。
また,同法222条1項は,身体の検査を拒む者を過料に処し,又は刑を科しても,その効果がないと認めるときは,そのまま身体の検査を行うことができるとする同法139条も,捜査機関の検証に準用している。

2 鑑定処分許可状

(1) 鑑定受託者の処分

捜査機関から鑑定の嘱託を受けた者は,裁判官の許可を受けて,身体を検査し,死体を解剖し,墳墓を発掘し,又は物を破壊すること等ができる(刑事訴訟法225条1項・168条1項)。
許可状の請求は検察官,検察事務官又は司法警察員が行い(同法225条2項),裁判官は身体の検査に関し適当と認める条件を付することができる(同条4項・168条3項)。

(2) 鑑定処分としての身体検査の限界

鑑定処分としての身体検査には,身体検査の拒否に対する過料・罰金の規定(刑事訴訟法137条・138条)等は準用されているが(同法168条6項),そのまま身体の検査を行うことを定めた同法139条は準用されていない。
手引は,鑑定処分としての身体検査で直接強制が許されるかについて,身体検査令状と鑑定処分許可状の併用で可とするのが多数説であるとしている(手引64頁,PDF73頁)。
強制採血や毛髪の強制採取で2つの令状を併用するのは,このためである。

3 捜索差押許可状と身体の捜索

捜索差押許可状によって捜索できる身体の範囲について,手引は,被服のポケット内を調べること,被服の一部を脱がせて調べること,頭髪や口腔等を外部から調べることなどを挙げている(手引38頁,PDF47頁)。
他方,全裸又はそれに近い状態にして体表や体腔の内部を調べるには,身体検査令状を併用するのが相当と解されているとされる(同頁)。

第3 強制採尿

1 強制採尿が許される要件

最高裁昭和55年10月23日第一小法廷決定(昭和54年(あ)第429号,刑集34巻5号300頁)は,導尿管(カテーテル)を用いて尿を強制的に採取することについて,捜査手続上の強制処分として絶対に許されないものではないとした。
同決定は,「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべき」であるとし,その実施に当たっては被疑者の身体の安全と人格の保護のため十分な配慮が施されるべきであるとしている。

2 令状の種類と条件

(1) 捜索差押許可状による理由

同決定は,体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押えの性質を有するとして,捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とした。
その上で,この行為は人権の侵害にわたるおそれがある点で検証の方法としての身体検査と共通の性質を有するとして,身体検査令状に関する規定を準用し,令状の記載要件として条件の記載が不可欠であるとしている。
同決定の裁判要旨は,「捜査機関が強制採尿をするには捜索差押令状によるべきであり、右令状には、医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠である。」である。
同決定が準用するとした「刑訴法二一八条五項」は決定当時の項番号であり,身体の検査に関する条件の規定は,現在は刑事訴訟法218条9項に置かれている。

(2) 手引の記載例

手引は,強制採尿を【要急処理事案】とし,令状の記載例として,差し押さえるべき物を「被疑者の尿」,捜索すべき身体を「被疑者の身体」とする捜索差押許可状を示している(手引79頁,PDF88頁)。
捜索差押えに関する条件等の欄には,「強制採尿は、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせること」と記載し,続けて,強制採尿のため必要があるときは被疑者を特定の病院又は採尿に適する最寄りの場所まで連行することができる旨を記載する(同頁)。
採尿場所が特定していない場合には,連行に関する条件の「又は」を抹消するとされている(同頁)。
強制採尿の捜索差押許可状は通常の様式ではなく別様式で作成される(手引42頁~43頁,PDF51頁~52頁)。

3 採尿場所への連行

最高裁平成6年9月16日第三小法廷決定(平成6年(あ)第187号,刑集48巻6号420頁)は,「身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。」とした。
同決定は,令状に被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより,特定の採尿場所を指定して連行を許可する旨を記載することもできるとしている。
手引が連行に関する条件を記載するのは,この決定を踏まえたものである(手引77頁,PDF86頁)。

同決定の事案では,被疑者を約6時間半以上にわたって職務質問の現場に留め置いた警察官の措置が違法とされた。
それでも,強制採尿令状の発付は,留め置きが違法とされるほど長期化する前に収集された疎明資料に基づくものとされ,一連の手続の違法の程度はいまだ重大ではないとして,尿の鑑定書の証拠能力は否定されなかった。

4 令状の発付が違法とされた例

(1) 発付を違法とした理由

最高裁令和4年4月28日第一小法廷判決(令和3年(あ)第711号,刑集76巻4号380頁)は,強制採尿令状の発付自体を違法とした事例である。
同判決は,令状請求の前に警察官が被告人に接触して任意採尿を説得するなどしておらず,適当な代替手段が存在しなかったとはいえないこと等から,同令状は,被告人に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのに発付されたものであり,その発付は違法であり,これに基づく強制採尿も違法であるとした。

(2) 鑑定書の証拠能力を肯定した理由

他方,同判決は,警察官らがありのままを記載した疎明資料を提出して令状を請求し,裁判官の審査を経て発付された適式の令状に基づいて強制採尿を実施したこと,疎明資料において合理的根拠が欠如していることが客観的に明らかであったとはいえないこと,直ちに強制採尿を実施せず尿の任意提出を繰り返し促したこと等を挙げた。
その上で,「本件強制採尿手続の違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえず、」尿の鑑定書等の証拠能力を肯定できるとして,無罪とした原判決を破棄した。
強制採尿の要件は,令状の発付の段階でも審査の対象となり,その審査を経て発付された令状であっても違法となり得ることを示す判決である。

第4 強制採血

1 令状の組合せと目的

強制採血について,手引は,最も重要な点は身体検査令状と鑑定処分許可状を併用することであり,強制採血を行うには双方の令状を必要とするとしている(手引80頁,PDF89頁)。
強制採血は,主として,DNA型の検査,血液型の検査,血中アルコール濃度の測定等を必要とする場合に行われるとされている(同頁)。
手引は,酒気帯び運転の事件で,被疑者が呼気検査を拒否するため血液を採取する場合の記載例を示している(手引81頁~84頁,PDF90頁~93頁)。

2 条件と鑑定人の記載

(1) 身体検査令状の記載

身体検査令状の検査すべき身体は「採血に必要な被疑者の身体」などと記載し,身体の検査に関する条件は「採血は、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせること」などと記載するとされている(手引80頁,PDF89頁)。

(2) 鑑定処分許可状の記載

鑑定処分許可状の鑑定人の欄には,採血者(医師)と鑑定者(県警本部刑事部科学捜査研究所の警察職員等)を併記する(手引80頁,PDF89頁)。
身体の検査に関する条件は「採血は、医学的に相当と認められる方法によること」などと記載し,身体検査令状と異なり「医師をして」は入らないことに注意するとされている(同頁)。
採取する血液の量について,手引は,愛知県警察からの情報提供として,鑑定事項が一つの場合は4ミリリットル,二つの場合は8ミリリットルを超えない範囲とする例を紹介している(同頁)。

第5 毛髪の強制採取

1 令状の組合せと目的

毛髪の強制採取についても,手引は,身体検査令状と鑑定処分許可状を併用することが最も重要であり,双方の令状を必要とするとしている(手引85頁,PDF94頁)。
毛髪の強制採取は,主として,覚醒剤等の違法薬物の使用歴を過去に遡って調査する場合に行われるとされている(同頁)。
検査すべき身体は,身体検査令状,鑑定処分許可状とも「被疑者の身体(毛髪)」などと記載するとされている(同頁)。

2 条件の記載と採取する本数

身体の検査に関する条件は,身体検査令状,鑑定処分許可状とも「毛髪の採取に当たっては、被疑者の頭部外貌に醜状を生じさせない方法で根本から切って約50本を採取すること」などと記載するとされている(手引85頁,PDF94頁)。
採取する本数について,手引は,実務では約50本として発付する例がほとんどであるが,特殊な事情等が存在する場合は例外的にこれよりも多い本数を認めることも考えられるとしている(同頁)。

第6 飲み込んだ物の押収

1 令状の組合せの理由

嚥下された異物の採取について,手引は,諸説あるものの,捜索差押許可状と鑑定処分許可状を併用するのが相当であると解されているとしている(手引90頁,PDF99頁)。
その理由として,嚥下された異物は身体の一部ではないから押収するには捜索差押許可状によるのが相当であるが,捜索が身体の内部に及び,差押えが体腔内からの取出しであり,下剤の投与等により身体に損傷を与える危険性もあって専門的技術を要するため,相応の条件を付す必要があり,身体に対する鑑定処分としての性質も有することを挙げている(同頁)。

2 条件の記載と連行

捜索差押許可状の差し押さえるべき物は「被疑者の体腔内の異物」,捜索すべき身体は「被疑者の体腔内」などと記載し,書式は強制採尿と同じものを使うのが効率的であるとされている(手引90頁,PDF99頁)。
捜索差押えに関する条件等には,「レントゲン検査機器又は下剤(吐剤)の使用による体腔内の検査及び異物の採取については、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせること」などと記載するとされている(同頁)。
被疑者が任意で検査場所へ行くことを拒否した場合について,手引は,捜索差押許可状の効力として当然に連行できるとする説もあるとしつつ,強制採尿の場合と同様の連行の条件も併せて記載するのが相当であるとしている(同頁)。

鑑定処分許可状の身体の検査に関する条件は,「レントゲン検査機器又は下剤(吐剤)の使用については、医学的に相当と認められる方法によること」などと記載するとされている(手引90頁,PDF99頁)。

第7 令状の記載を確認するときの着眼点

令状の写しや記載内容を確認できる場面では,次の点が確認の目安になる。
① 強制採尿の令状が,捜索差押許可状であり,医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる旨の条件を記載しているか。
② 採尿場所へ連行した場合,連行に関する条件の記載があるか,任意同行が事実上不可能な場合であったか及び行使された有形力が必要最小限度にとどまるか。
③ 強制採血,毛髪の採取について,身体検査令状と鑑定処分許可状の双方が発付されているか。
④ 採取した血液の量や毛髪の本数,採取の方法が,令状の条件の範囲にとどまるか。
⑤ 飲み込んだ物の取出しについて,医師による方法の条件と連行の条件が記載されているか。
⑥ 令状の発付に先立って任意の提出を求めるなど,強制採尿が「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合であったか。

もっとも,令状の発付や執行に違法があっても,最高裁令和4年4月28日判決や最高裁平成6年9月16日決定のように,違法の程度が重大でないとして証拠能力が肯定されることがある。
証拠能力を争うには,違法の内容と程度,令状主義を潜脱する意図の有無等を具体的に検討する必要がある。

第8 関連記事

令状事務全体の流れと現行法への読み替えは,名古屋地裁の令状事務処理の手引(七訂版)-令状の点検項目,記載例及び現行法への読み替えで整理している。
身体検査令状による指紋・顔認証の解除については,スマートフォンのロック解除と捜索・差押え-暗証番号・生体認証・黙秘権を参照されたい。
最高裁令和4年4月28日判決を含む刑事判決の一覧は,検察官側の上告があり,最高裁が検察官に有利に原判決を破棄した刑事判決41件(平成元年以降)に掲載している。

第9 出典

法令は次のとおりである。
① e-Gov法令検索「刑事訴訟法」131条,137条,138条,139条,168条,218条,222条及び225条(令和8年9月14日確認)。

裁判例は次のとおりである。
① 最高裁昭和55年10月23日第一小法廷決定(昭和54年(あ)第429号,刑集34巻5号300頁)。
② 最高裁平成6年9月16日第三小法廷決定(平成6年(あ)第187号,刑集48巻6号420頁)。
③ 最高裁令和4年4月28日第一小法廷判決(令和3年(あ)第711号,刑集76巻4号380頁)。

資料は次のとおりである。
① 名古屋地方裁判所刑事書記官室・名古屋簡易裁判所刑事書記官室「令状事務処理の手引(七訂版)」(令和6年2月補訂)38頁,42頁~43頁,57頁,64頁,77頁~94頁。