第1 この記事の対象と結論(法務省とは関係のない独自の予想)
本記事の評価項目,重み付け,解説及び模範解答は,山中弁護士ブログが問題文と判例から独自に作成した予想であり,法務省とは関係がない。法務省が公表した資料や,今後公表される出題の趣旨,採点実感,採点基準及び配点を示すものでもない。
本記事は,令和8年司法試験の論文式試験のうち,刑事系科目第2問(刑事訴訟法)を対象として,答案に求められると本記事が独自に予想した評価項目を問題文と判例から抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
令和8年の「出題の趣旨」及び「採点実感」は,本記事の作成時点(令和8年9月28日)では公表されておらず,本記事はこれらを読まずに作成している。評価項目と重みは,いずれも本記事の予想であり,法務省の資料に基づくものではない。
本問は,覚醒剤の密売事件の捜査を素材として,設問1で,被疑者甲に対する強制採尿の令状の種類,その令状の発付要件及び病院での強制採尿の実施(警察官8名が甲の手足を押さえた点を含む。)の適否と,マイクロSDカードを飲み込んだとみられる被疑者乙に対するCT検査の令状の種類を問い,設問2で,乙の公判において,乙の交際相手W(死亡)が撮影した誕生日動画中のWの発言(乙から聞いた話を含む。)と,動画の静止画に警察官の説明文を付けた捜査報告書の証拠能力を問うものである。
本記事が独自に予想した評価項目は53項目であり,重み5(設問が明示に検討を求め,かつ答案の骨格を成す事項)に当たるのは,強制採尿の令状の種類と条件の記載,強制採尿が許される要件と代替手段の不存在の当てはめ,手足を押さえた有形力の限界,Wの発言の再伝聞の構造と特信情況,乙の供述の不利益事実の承認,及び捜査報告書の説明文の伝聞性の9項目である。
第5の模範解答は,下線部①の令状は条件を付した捜索差押許可状であり発付要件を満たし,下線部②の行為は適法である,下線部③は鑑定処分許可状と身体検査令状の併用による,④部分は証拠能力を有する,【資料2】は説明文の部分を除いて証拠能力を有する,との結論を採り,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示した。その後に,本記事独自の予想に基づく解説を付けている。
第2 本記事独自の評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,設問の指示,検察官の立証趣旨,問題文に置かれた具体的な事実,及び参照すべきと考えられる判例から抜き出し,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形にした。
各項目には,手掛かりとなる問題文の箇所を問題冊子の頁(刑事系科目の問題冊子の第2問部分の頁番号)で示し,関係する判例・条文を示した。判例名は,昭和55年決定(最決昭和55年10月23日),平成6年決定(最決平成6年9月16日),令和4年判決(最判令和4年4月28日),平成21年決定(最決平成21年9月28日),昭和32年判決(最判昭和32年1月22日),昭和35年判決(最判昭和35年9月8日),昭和59年決定(最決昭和59年12月21日),平成17年決定(最決平成17年9月27日),平成20年決定(最決平成20年8月27日)及び広島高裁岡山支部平成30年判決(広島高岡山支判平成30年1月12日)の略称である。
2 5段階の重み付けの基準
重みは,問題文と判例から本記事が予想したものであり,法務省の配点ではない。出題の趣旨及び採点実感が公表された後には,これらと照合して見直す必要がある。
①重み5:設問が明示に検討を求め,かつ答案の骨格を成す事項
②重み4:設問の中核の要件,又は最も近い判例の中核の命題に当たる事項
③重み3:問題文の具体的な事実から導かれる中核の理由付け
④重み2:補強の事項,又は典型的な誤りになると予想される事項
⑤重み1:設問の範囲の遵守など,控えめな事項
第3 本問の概要
H県警察の司法警察員Pは,覚醒剤所持で逮捕したXから,令和8年1月20日夕方に甲から覚醒剤0.3グラムを3万円で購入したとの供述を得て,甲を覚醒剤の譲渡しの被疑事実で逮捕した(本件譲渡し)。甲には覚醒剤所持の前科1犯(執行猶予中)があった。逮捕時,甲の左肘内側に真新しい注射痕様のものがあり,頬がこけ,目を見開き,手足が小刻みに震えるなど覚醒剤常用者特有の様子が見られた。
Pは,午前8時頃から午後2時頃までに計7回,尿の任意提出を求め,水を飲むよう勧めたが,甲は「出ない」と答えて応じず,昼食時にも水を飲まなかった。Pは午後4時頃に強制採尿のための令状(下線部①)の発付を受け,病院で約30分間任意の提出を促した後,泌尿器科専門医のY医師によりカテーテルで甲の尿を採取した。甲は抵抗しなかったが,痛みで暴れて尿道が傷つくおそれがあるとの医師の指示で,警察官8名が甲の両手両足を押さえた(下線部②)。
甲は,本件譲渡しは乙と一緒に行ったと供述し,乙が顧客リストをマイクロSDカードに保存しているはずだと述べた。乙方の捜索の際,乙はノートパソコンの側面から何かをつまんで飲み込むような動作をし,マイクロSDカードは発見されなかった。Pは,消化器病専門医のT医師の意見を踏まえ,CT検査のための令状(下線部③)の発付を受けて乙の体内を撮影し,数日内に自然排出されるとの意見を得た。排出されたマイクロSDカードのファイルはパスワードで開けなかった。
乙のスマートフォンには,交際相手W(令和8年2月に死亡)が毎年乙の誕生日に撮影した動画があり,令和8年1月22日の動画には,Wが,前日に乙から「20日の昼頃は大事な仕事があって,J公園に行って甲と会ってた」と聞いたと述べる場面(下線部④)と,床上の未開封の注射器12本が約1秒映る場面があった。Pは,動画を複製した本件DVDと,注射器の場面の静止画に「覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である。」との説明文を付けた捜査報告書(【資料2】)を作成した。乙の公判で,検察官はこれらを証拠請求し,弁護人は不同意とした。
第4 本記事が独自に予想した評価項目と重み(法務省の資料ではない)
1 共通の前提
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 設問1の1で,令状の種類,下線部①の令状の発付要件及び下線部②の行為の適否を,段階を分けて論じる | 4 | 5頁(設問1の1) | ― |
| 2 | 身体検査の条件の規定を試験時点の条文(刑訴法218条9項)で示す(昭和55年決定のいう「二一八条五項」は決定当時の項番号である) | 2 | ― | 刑訴法218条9項,昭和55年決定 |
| 3 | 設問2で,検察官の立証趣旨から要証事実を特定し,伝聞証拠に当たるかを要証事実との関係で判断する | 4 | 5頁(立証趣旨,不同意の証拠意見) | 刑訴法320条1項 |
2 設問1の1(令状の種類)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 4 | 強制採尿が強制処分であり,令状を要することを示す | 2 | 2頁(下線部①) | 刑訴法197条1項ただし書,憲法35条 |
| 5 | 体内の尿を証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押えの性質を有し,捜索差押許可状によることを示す | 5 | 2頁(下線部①) | 昭和55年決定,刑訴法218条1項 |
| 6 | 身体検査令状に関する条件の規定を準用し,「医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない」旨の条件の記載が不可欠であることを示す | 5 | 2頁・3頁(Y医師による採尿) | 昭和55年決定,刑訴法218条9項 |
| 7 | 身体検査令状と鑑定処分許可状の併用による構成に触れ,採らない理由(物の取得に適合しないこと,鑑定処分としての身体検査には直接強制の規定が準用されていないこと)を示す | 3 | ― | 刑訴法168条6項,139条,225条4項 |
3 設問1の1(下線部①の令状の発付要件)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 8 | 捜索差押許可状の一般的な発付要件(嫌疑,差し押さえるべき物の存在の蓋然性,必要性)を示す | 2 | ― | 刑訴法218条1項 |
| 9 | 強制採尿が許される要件(被疑事件の重大性,嫌疑の存在,証拠の重要性と取得の必要性,適当な代替手段の不存在等に照らし,犯罪の捜査上真にやむを得ない場合の最終的手段)を規範として示す | 5 | ― | 昭和55年決定,令和4年判決 |
| 10 | 被疑事件の重大性を,覚醒剤使用罪の法定刑(10年以下の拘禁刑)から示す | 2 | 6頁(参照条文) | 覚醒剤取締法41条の3第1項1号 |
| 11 | 嫌疑について,左肘内側の真新しい注射痕様のもの及び覚醒剤常用者特有の様子をPが直接観察した事実を評価する | 4 | 2頁(逮捕時の甲の様子) | ― |
| 12 | 嫌疑の補強として覚醒剤所持の前科(執行猶予中)と本件譲渡しの嫌疑を用い,前科が「所持」であり使用の直接の根拠ではないことも踏まえる | 3 | 2頁(前科照会,Xの供述) | ― |
| 13 | 証拠の重要性と取得の必要性(使用罪の立証に尿が重要であり,時間の経過で成分が排出されること)を示す | 3 | ― | ― |
| 14 | 適当な代替手段の不存在について,約6時間で計7回の任意提出の要求,飲水の勧めへの不応(昼食時を含む)及び「しつこいな」との発言を評価する | 5 | 2頁(午前8時~午後2時の経過) | ― |
| 15 | 甲が「出ない」と述べるにとどまり明示に拒否していないこと,身柄拘束中で自然の排尿を待てたことという反対方向の事情に触れて評価する | 3 | 2頁(甲の応答) | ― |
| 16 | 令状請求前に任意採尿の説得がなかったため発付を違法とした令和4年判決の事案と,本件との違いを示す | 4 | 2頁 | 令和4年判決 |
| 17 | 本件譲渡しによる身柄拘束中に使用の嫌疑について強制採尿を行うことが妨げられないことに簡潔に触れる | 1 | 2頁・3頁(逮捕の被疑事実) | ― |
4 設問1の1(下線部②の行為の適否)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 18 | 令状の呈示を確認する | 1 | 2頁(午後4時30分の呈示) | 刑訴法222条1項・110条 |
| 19 | 病院への同行について,甲が応じたこと(及び強制採尿令状の効力による連行の可否)に触れる | 2 | 2頁(「分かった」) | 平成6年決定 |
| 20 | 令状の執行時にも最終的手段性が維持されている必要があるかを検討し,「出さないとは一度も言っていない。待ってくれよ。」との発言を評価する | 4 | 2頁(病院での約30分の経過) | 昭和55年決定 |
| 21 | Y医師の経験,カテーテルによる合理的かつ安全な方法から,令状の条件が守られていることを示す | 3 | 3頁(Y医師の経歴,採取の方法) | ― |
| 22 | 抵抗しない甲の両手両足を警察官8名で押さえた有形力について,根拠(必要な処分)と限界(採尿を安全に実施するための必要最小限度)を示す | 5 | 3頁(手足を押さえた経緯) | 刑訴法222条1項・111条1項,昭和55年決定 |
| 23 | 有形力の必要性・相当性を,医師の指示(痛みで暴れ尿道が傷つくおそれ)と,抵抗がないこと及び8名という人数とを対比して評価する | 4 | 3頁 | ― |
| 24 | 被告人が激しく抵抗した昭和55年決定の事案との違いを踏まえる | 2 | 3頁(「抵抗することはなかった」) | 昭和55年決定 |
5 設問1の2(CT検査の令状の種類)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 25 | CT検査が乙の意思にかかわらず行う強制処分であることを示す | 2 | 4頁(下線部③) | ― |
| 26 | CT検査は物の占有の取得を目的としないことから,強制採尿の構成(捜索差押許可状)をそのまま持ち込まない | 4 | 4頁(体内にあるか及び自然排出されるかの確認) | 昭和55年決定 |
| 27 | X線により身体内部の状態を認識する処分が検証(身体検査)の性質を有し,身体検査令状を要することを示す | 4 | 4頁 | 刑訴法218条1項後段,平成21年決定 |
| 28 | X線の照射と画像の読影・自然排出の判断に医学的専門知識を要することから,鑑定の嘱託と鑑定処分許可状を示す | 4 | 4頁(T医師の意見) | 刑訴法223条1項,225条1項,168条1項,診療放射線技師法24条 |
| 29 | 鑑定処分としての身体検査は直接強制ができないため,拒否が予想される乙について身体検査令状を併用する必要を示す | 4 | 3頁・4頁(嚥下の動作,黙秘) | 刑訴法225条4項,168条6項,222条1項,139条 |
| 30 | 令状に付すべき条件(医師による医学的に相当な方法等)に触れる | 2 | ― | 刑訴法218条9項,168条3項 |
| 31 | 設問は令状の種類を問うものであり,発付要件や執行の適否を長く論じない | 1 | 5頁(設問1の2) | ― |
6 設問2の1(本件DVDの④部分)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 32 | 伝聞法則の趣旨(知覚・記憶・叙述の過程の誤りと反対尋問による吟味)と伝聞証拠の意義を示す | 3 | ― | 刑訴法320条1項 |
| 33 | 要証事実を立証趣旨どおり(乙が1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったこと)に特定し,④がWの供述の中に乙の供述を含む再伝聞であることを示す | 5 | 5頁(立証趣旨),7頁(下線部④) | ― |
| 34 | 撮影日から「一昨日の20日」を1月20日,「昨日」を1月21日と特定する | 2 | 7頁(【資料1】) | ― |
| 35 | 動画の記録の過程は機械的であり,署名押印を要しないことを示す(同一性は設問の前提として扱う) | 2 | 5頁(設問2の1のただし書) | 平成17年決定(写真の署名押印不要)参照 |
| 36 | 外側のWの供述について,刑訴法321条1項3号の要件(供述不能,不可欠性,絶対的特信情況)を示す | 4 | ― | 刑訴法321条1項3号 |
| 37 | 供述不能として,Wが令和8年2月に交通事故で死亡したことを示す | 2 | 5頁 | ― |
| 38 | 不可欠性を,乙の黙秘,共謀の証拠が甲の供述だけであること,顧客リストのファイルを開けないこと及び共犯者供述の危険から評価する | 3 | 3頁・4頁・5頁 | ― |
| 39 | 絶対的特信情況を,恒例の誕生日動画,「誰に見せるものでもない」私的な会話,前日に聞いた話であること,Wと甲に面識がないこと等から評価する | 5 | 5頁(Wの特定),7頁(【資料1】) | ― |
| 40 | Wが連絡不通を「根に持って」いたという反対方向の事情に触れて評価する | 2 | 7頁 | ― |
| 41 | 再伝聞を許容する根拠(外側の供述が伝聞例外を満たせば公判供述に代わるものとして刑訴法324条による)を示す | 4 | ― | 昭和32年判決,刑訴法324条 |
| 42 | 内側の乙の供述について,刑訴法324条1項により322条1項が準用され,不利益な事実の承認と任意性を満たすことを示す | 5 | 7頁(乙の発言内容) | 刑訴法322条1項,324条1項,319条1項 |
7 設問2の2(捜査報告書【資料2】)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 43 | 【資料2】は公判外の書面で不同意とされているから原則として証拠とできないことを示し,部分ごとに検討する | 3 | 5頁(証拠意見) | 刑訴法320条1項,326条1項 |
| 44 | Pが押収したスマートフォンを見分した結果を記載した部分に刑訴法321条3項が適用され,Pの真正作成の供述を要することを示す | 4 | 8頁(【資料2】) | 刑訴法321条3項,昭和35年判決 |
| 45 | 添付写真が非供述証拠であり,事件との関連性があれば証拠能力を有することを示す | 4 | 4頁・5頁(静止画の作成) | 昭和59年決定 |
| 46 | 関連性を,契約名義が乙で日常的に使用されるスマートフォン,乙方居室での撮影から示し,写真が1月22日の状況であることの限界にも触れる | 3 | 4頁(スマートフォンの解析) | ― |
| 47 | 説明文がPの捜査経験に基づく意見であり,立証趣旨との関係で内容の真実性が問題となる伝聞であることを示す | 5 | 5頁(立証趣旨),8頁(説明文) | ― |
| 48 | 説明文に刑訴法321条3項が及ばない理由(検証の結果に限られること)を示す | 4 | 8頁 | 刑訴法321条3項 |
| 49 | 説明文が刑訴法321条4項の鑑定書にも当たらないことを示す | 3 | ― | 刑訴法321条4項,平成20年決定,広島高裁岡山支部平成30年判決 |
| 50 | 結論として,説明文の部分を除き,Pの真正作成の供述を条件に証拠能力が認められる(説明文の部分は証拠とできない)ことを示す | 4 | ― | ― |
8 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 問題文の手掛かり | 判例・条文 |
|---|---|---|---|---|
| 51 | 規範を判例の命題と問題文の事実に即して当てはめ,事実を写すだけで直ちに結論付けない | 3 | ― | ― |
| 52 | 参照する判例を,どの判例か特定できる形で示す | 2 | ― | ― |
| 53 | 設問が問わない事項(尿の鑑定書の証拠能力,マイクロSDカードの差押えの適否,甲の公判等)を長く論じない | 1 | ― | ― |
9 重みの分布
53項目の内訳は,重み5が9項目,重み4が16項目,重み3が11項目,重み2が13項目,重み1が4項目であり,重みの合計は172点である。
重み5の9項目(番号5・6・9・14・22・33・39・42・47)は,設問1については強制採尿に関する昭和55年決定の二つの命題(令状の種類と条件,許容要件)と,本問で特に具体的に置かれた事実(任意提出の要求の経過,抵抗しない甲を8名で押さえたこと)であり,設問2については再伝聞の構造,Wの供述の特信情況,乙の供述の扱い及び説明文の伝聞性である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,試験の実施時(令和8年7月)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提にしている。刑事訴訟法の条文は,試験の実施時に施行されていた版(令和8年6月24日施行のもの)によった。この版では,身体の検査に関する条件の規定は218条9項に置かれている。
答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる(①)。」)及び結論(「よって」「したがって」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。
もっとも,本問は設問が「具体的事実を摘示しつつ」論じることを求めているため,規範の論証は争いの中心に絞り,問題文の事実を評価する当てはめに多くの字数を割いた。段落は1段落1~3文を目安に自然な切れ目で改行した。字数の配分は,おおむね問題提起が1割未満,規範が2割程度,当てはめが5割程度である。
答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「判例に結論同旨」は結論は判例と同じであるが理由付けが本記事独自のもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたものを示す。
字数は見出しを含めて約4,500字である。
令和8年司法試験の論文式試験の答案は,「司法試験の方式・内容等について」(令和7年11月26日司法試験考査委員会議申合せ事項)により,必須科目1問につき8頁,1頁は23行,1行当たり最大30文字とされている(1問の上限は184行)。
この答案は,段落ごとに改行し,1行30字で折り返した場合に184行となり,この上限にちょうど収まるように字数を調整した。
2 答案
1 設問1の1について
(1) 下線部①の令状の種類
下線部①の強制採尿は,甲の意思に反して尿道にカテーテルを挿入し尿を採取する強制処分(197条1項ただし書)であり,令状を要する(憲法35条)。では,いかなる令状によるべきか。
確かに,身体への侵襲を伴う点で,身体検査令状(218条1項後段)と鑑定処分許可状(225条1項・168条1項)を併用すべきとも思える。
しかし,身体検査は身体の状態を認識する検証であり,物の取得に適合しない。また,鑑定処分としての身体検査は直接強制ができない(225条4項・168条6項は139条を準用しない)。
思うに,強制採尿の目的は体内の尿という証拠物の占有取得にあるから,その性質は捜索・差押えである。もっとも,人権侵害のおそれがある点で身体検査と共通する。
よって,捜索差押許可状(218条1項前段)によるべきであり,218条9項を準用し,医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる旨の条件の記載が不可欠と解する(判例同旨・最決昭和55年10月23日)。
この条件は,被疑者の身体の安全と人格の保護を令状により担保するものである。
(2) 下線部①の令状の発付要件
捜索差押許可状の発付には,嫌疑,差し押さえるべき物の存在の蓋然性及び必要性を要する(218条1項)。
加えて,強制採尿は屈辱感を伴う身体への侵入行為であるから,①被疑事件の重大性,②嫌疑の存在,③証拠の重要性と取得の必要性,④適当な代替手段の不存在等に照らし,犯罪の捜査上真にやむを得ない場合の最終的手段としてのみ許されると解する(判例同旨・前掲最決昭和55年10月23日,最判令和4年4月28日)。
本問では,覚醒剤使用罪の法定刑は10年以下の拘禁刑であり(覚醒剤取締法41条の3第1項1号),重大な犯罪である(①)。
次に,Pは逮捕時,甲の左肘内側の「真新しい注射痕様のもの」と,頬がこけ手足が震えるなどの常用者特有の様子を直接観察している。
確かに,甲は否認し,前科は所持にとどまる。しかし,これらの観察に,執行猶予中の覚醒剤前科と本件譲渡しの嫌疑が加わり,最近の使用の具体的嫌疑と,尿中の覚醒剤の存在の蓋然性がある(②)。参考人の供述と犯歴だけで請求した前掲令和4年判決の事案とは異なる。
また,尿は密行性の高い使用罪のほぼ唯一の客観的証拠であり,時間の経過で成分が排出されるから,早期に確保する必要がある(③)。
さらに,Pは午前8時頃から午後2時頃までに計7回尿の任意提出を求め,飲水も勧めたが,甲は昼食時にも水を飲まず「しつこいな。」と答えた。
確かに,甲は「出ない」と述べるにとどまり,排尿を待つこともできたとも思える。しかし,飲水すら拒む態度は任意提出の回避とみるほかなく,待てば成分が失われるから,適当な代替手段はない(④)。説得せずに請求した前掲令和4年判決の事案とも異なる。
したがって,真にやむを得ない最終的手段といえ,発付要件は満たされていた。
なお,使用の嫌疑は適法な逮捕の際の観察から生じたものであり,その身柄拘束中に独立の令状で採尿することは妨げられない。
(3) 下線部②の行為の適否
まず,令状は甲に示され(222条1項・110条),甲は病院への同行に「分かった」と応じているから,連行にも問題はない(最決平成6年9月16日参照)。
次に,令状は処分を許可するにとどまるから,執行時にも最終的手段性が維持されている必要があると解する。
本問では確かに,甲は実施直前に「出さないとは一度も言っていない。待ってくれよ。」と述べた。しかし,病院でも約30分促されて「出したくても出ない」と答えるのみで,午前8時から約9時間半,排尿の見込みを示していない以上,更に待つべき事情はない。
また,泌尿器科専門医として10年の勤務経験と毎年5件程度の強制採尿の経験を有するY医師が,カテーテルによる合理的かつ安全な方法で行っており,令状の条件に従っている。
もっとも,抵抗しない甲の両手両足を警察官8名が押さえた点は許されるか。
強制採尿に伴う有形力は,採尿を安全に実施するにつき必要最小限度のものに限り,必要な処分(222条1項・111条1項)として許されると解する(判例同旨・前掲最決昭和55年10月23日)。
本問では,激しい抵抗があった同決定の事案と異なり,甲は抵抗していない。しかし,Y医師は痛みで甲が暴れれば尿道が傷つくおそれがあるとして押さえるよう指示しており,反射的な動きは意思と無関係に生じ得るから,押さえる必要があった。
確かに,8名は多い。しかし,手足を押さえるにとどまり,打撃等はなく一時的な措置であるから,必要最小限度を超えない。
したがって,下線部②の行為は適法である。
2 設問1の2について
下線部③のCT検査は,乙の意思にかかわらずX線を照射して体内を撮影する強制処分である。
身柄拘束中の被疑者でも,令状を要しない処分(218条4項)は指紋・足型の採取や写真撮影等に限られ,体内の撮影はこれに当たらない。
CT検査は物の占有取得を目的としないから,捜索差押許可状によることはできない。X線で身体内部の状態を認識する処分は検証の性質を有し(最決平成21年9月28日参照),身体検査令状(218条1項後段)を要する。
では,身体検査令状だけで足りるか。確かに,医師を補助者とすれば足りるとも思える。
しかし,X線の人体への照射は医師等に限られ(診療放射線技師法2条2項,24条),異物の特定と自然排出の判断には医学的専門知識を要し,本問でもT医師が画像から判断している。よって,医師に鑑定を嘱託し(223条1項),鑑定処分許可状(225条1項・168条1項)によるべきである。
ただし,鑑定処分としての身体検査は直接強制ができない(225条4項・168条6項)。証拠を飲み込んだとみられる乙は検査を拒むことが予想されるから,直接強制(222条1項・139条)のため身体検査令状も要する。
よって,下線部③の令状は,鑑定処分許可状と身体検査令状の併用であり,医師が医学的に相当な方法で行う旨等の条件(218条9項,225条4項・168条3項)を付すべきである。
3 設問2の1について
(1) ④部分は公判外のWの発言であり,不同意とされているから,伝聞法則(320条1項)が問題となる。
思うに,伝聞法則の趣旨は,供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程に誤りが入りやすいのに,反対尋問による吟味ができない点にある。よって,伝聞証拠とは,公判廷外の供述を内容とし,その真実性の証明に用いられる証拠をいい,要証事実との関係で相対的に決まると解する。
本問の要証事実は,立証趣旨どおり,乙が1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったことである。撮影日から「一昨日の20日」は1月20日,「昨日」は1月21日である。
④は,Wが21日に乙から「20日の昼頃は…J公園に行って甲と会ってた」と聞いたと述べるものである。要証事実の証明には,乙がそう述べたこと(Wの供述の真実性)と乙の供述内容の真実性の双方を要するから,④は再伝聞に当たる。
なお,動画は機械的に記録されたものであり,署名押印は要しない。
(2) 外側のWの供述について
Wの供述は,321条1項3号の①供述不能,②不可欠性,③絶対的特信情況を満たす必要がある。
本問では,Wは令和8年2月に交通事故で死亡している(①)。
次に,乙は黙秘し,共謀の証拠は甲の供述しかなく,顧客リストも開けない。共犯者甲の供述には他人を引き込む危険があるから,甲乙の接触を独立に示す④は欠くことができない(②)。
さらに,④は,交際相手Wが毎年撮る「恒例のお祝い動画」の中で,「誰に見せるものでもない」私的な会話として自然に述べたもので,前日に聞いた話であり記憶も新しい。
また,Wは甲と話したこともなく,口裏を合わせる余地も,乙を陥れる動機もない。しかも,乙はその場で④を否定していない。
確かに,Wは連絡不通を「根に持って」いた。しかし,それは乙の行き先を偽る理由にはならない。よって,特に信用すべき情況がある(③)。
(3) 内側の乙の供述について
再伝聞を許容する明文はない。思うに,外側の供述が伝聞例外の要件を満たせば,公判供述に代わるものといえる。よって,内側の供述は324条を類推して判断すると解する(判例に結論同旨・最判昭和32年1月22日)。
内側の原供述者は被告人乙であるから,324条1項により322条1項が準用される。
J公園で甲と会ったとの事実は,甲の述べる受渡しの日時・場所と一致し共謀を推認させるから,不利益な事実の承認に当たる。そして,交際相手との私的な会話で自発的に述べており,任意性に疑いはない(322条1項ただし書・319条1項)。
(4) したがって,④部分は証拠能力を有する。
4 設問2の2について
(1) 【資料2】はPが作成した公判外の書面であり,不同意とされているから,原則として証拠とできない(320条1項)。そこで,部分ごとに検討する。
(2) 見分結果と写真の部分について
Pが押収したスマートフォンを見分し,動画の一場面を静止画として出力したとする部分は,五官の作用で物の状態を認識した結果の記載である。
思うに,321条3項の趣旨は,検証は捜査官により客観的に行われ,結果は書面の方が正確に伝わる点にあり,任意処分としての見分にも妥当する。よって,見分の結果を記載した書面にも同項が適用されると解する(判例同旨・最判昭和35年9月8日)。
したがって,司法警察員Pが公判期日で真正に作成したことを供述すれば,この部分は証拠とできる。
また,添付写真は動画の一場面を機械的に写した非供述証拠であり,事件との関連性があれば証拠能力を有する(最決昭和59年12月21日参照)。
本問の写真は,乙名義で乙が日常的に使用するスマートフォン内の,乙方居室で撮影された動画から取られたから,関連性がある。譲渡しの2日後の状況であることは,証明力の問題にとどまる。
写真から未開封の注射器12本が乙方の床上にあったことを認定でき,乙の一人暮らしと併せて乙の所持が推認される。
(3) 説明文の部分について
もっとも,「覚醒剤の密売人が客に交付することが多い」との説明文は,写真から認識できる物の状態ではなく,Pの捜査経験に基づく意見である。
立証趣旨は注射器の密売用の性質を含むから,説明文は内容の真実性の証明に用いられる伝聞証拠である。
そして,321条3項は検証の結果に限られ,捜査官の通常の判断は鑑定ともいえないから同条4項にも当たらない。私人の燃焼実験報告書を同項の書面に準ずるとした判例(最決平成20年8月27日)も,作成者の特別の学識経験を理由とする。
結局,Pの供述書として321条1項3号によるほかないが,Pは供述不能ではない。よって,説明文の部分は証拠とできない。
(4) 以上より,【資料2】は,説明文の部分を除き,Pの真正作成の供述を条件に証拠能力が認められる。
以上
3 本記事独自の予想に基づく解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の1(1)は第4の番号4~7,1(2)は番号8~17,1(3)は番号18~24,2は番号25~31,3は番号32~42,4は番号43~50に対応し,番号1~3(共通の前提)と番号51~53(答案全体)は各項目の規範と当てはめの書き方で満たすようにした。
(2) 設問1の1(強制採尿)
令状の種類と発付要件は,いずれも昭和55年決定がそのまま規範になる。同決定は,体内の尿を証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押えの性質を有するとして捜索差押令状を必要とし,身体検査令状に関する条件の規定を準用して,医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる旨の条件の記載が不可欠であるとした。同決定が準用するとした「二一八条五項」は決定当時の項番号であり,試験の実施時の条文では218条9項である。
発付要件の当てはめでは,令和4年判決との対比が差を生むと予想される。同判決は,参考人の供述と犯歴だけを疎明資料とし,令状請求の前に警察官が被告人に接触して任意採尿を説得するなどしていなかった事案で,嫌疑が認められないとした原判断を不合理ではないとし,適当な代替手段が存在しなかったともいえないとして,令状の発付を違法とした。本問は,逮捕時に注射痕様のものと常用者特有の様子を直接観察し,約6時間で7回の任意提出の要求と飲水の勧めをした後の請求であるから,同判決の事案とは嫌疑と代替手段の両面で異なる。問題文がこれらの経過を時刻付きで細かく置いていることから,この違いの指摘が中心的な評価項目になると予想される。
下線部②では,警察官8名が抵抗しない甲の両手両足を押さえた点が,最も結論の分かれ得る箇所である。昭和55年決定は,医師による採尿に被告人が激しく抵抗したため数人の警察官が身体を押さえつけた有形力を,採尿を安全に実施するにつき必要最小限度のものであったとしている。本問は抵抗がない点で同決定の事案と異なるから,医師の指示の理由(痛みによる反射的な動きで尿道が傷つくおそれ)を必要性に結び付け,人数と態様を相当性で評価することが求められると予想される。また,甲が実施直前に「出さないとは一度も言っていない。待ってくれよ。」と述べた事実は,令状の発付後も執行の時点で最終的手段性を検討すべきかを考えさせるために置かれたと考えられる(この点は本記事の推測である)。
(3) 設問1の2(CT検査)
CT検査の令状の種類を直接判示した最高裁判例は,本記事の作成時点で確認できていない。答案は,CT検査が物の占有の取得を目的としない点で強制採尿と異なること,X線で内部の状態を認識する処分が検証の性質を有すること(宅配便荷物のエックス線検査を「検証としての性質を有する強制処分」とした平成21年決定の考え方),X線の人体への照射が医師等に限られ(診療放射線技師法24条),読影と自然排出の判断に専門知識を要すること,及び鑑定処分としての身体検査には直接強制の規定(刑訴法139条)が準用されていないことから,鑑定処分許可状と身体検査令状の併用とした。
他方,山中弁護士ブログの既存記事が紹介する名古屋地方裁判所刑事書記官室等の「令状事務処理の手引(七訂版)」は,飲み込んだ異物の採取について,捜索差押許可状と鑑定処分許可状を併用するのが相当と解されているとし,条件の記載例にレントゲン検査機器の使用による体腔内の検査を含めているとされる(本記事では手引の原本を確認していない)。本問のCT検査は所在の確認と自然排出の見込みの判断を目的とし,取出しを予定していないため,答案ではこの構成を採らなかったが,体内の証拠物を探す「捜索」と捉えて捜索差押許可状と鑑定処分許可状の併用とする答案も,理由が示されていれば評価されると予想される。
(4) 設問2の1(Wの発言)
④は,Wが乙から聞いた話を述べるものであり,検察官の立証趣旨(乙が1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったこと)を証明するには,乙がそう述べたこと(Wの供述の真実性)と,乙の述べた内容の真実性の双方が必要になる。したがって,外側のWの供述と内側の乙の供述を分け,それぞれの伝聞例外を検討する構造を示すことが出発点になると予想される。
再伝聞について,昭和32年判決は,検察官面前調書中の被告人の供述を内容とする部分について,原審が「刑訴三二一条一項二号及び同三二四条により」証拠能力を認めたことを正当とし,原供述者が被告人自身である場合には反対尋問権の侵害はないとした。同判決の本文に「類推」の語はないため,答案では「判例に結論同旨」と示した。
問題文は,撮影が恒例の誕生日動画であること,「誰に見せるものでもない」との発言,Wと甲が知人関係にないこと,Wが交通事故で死亡したことを具体的に置いており,これらを刑訴法321条1項3号の各要件に振り分けて評価することが求められると予想される。乙がその場で④を否定していないことを,黙示の承認として乙自身の供述と扱う構成も考えられるが,④の直後の乙の発言は「うまいな,これ。」であり,承認とまでは評価しにくいため,答案では採らなかった。
(5) 設問2の2(捜査報告書)
【資料2】は,Pがスマートフォンを見分した結果の部分,添付写真,及び説明文の三つに分けて検討することが求められると予想される。見分の結果を記載した書面には,実況見分調書を刑訴法321条3項の書面に含むとした昭和35年判決の考え方により同項が適用され,写真は,現場写真を非供述証拠とした昭和59年決定の考え方により,関連性があれば証拠能力を有する。
説明文は,写真から認識できる物の状態ではなく,Pの捜査経験に基づく意見であり,立証趣旨が「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い」注射器であることを含むため,内容の真実性が問題となる。刑訴法321条3項は検証の結果の記載に限られ,また,広島高裁岡山支部平成30年判決は,査察官が収集した資料を分析して一定の判断を形成することは通常の捜査活動と変わらない作業であり鑑定と評価することはできないとして,査察官報告書の同条4項該当性を否定している。私人作成の燃焼実験報告書を同条4項の書面に準ずるものとした平成20年決定も,作成者が火災原因の調査,判定に関して特別の学識経験を有することを理由としており,捜査官の一般的な捜査経験に基づく説明文とは異なる。
(6) 結論の許容幅と答案の弱点
設問1の1の下線部②について,抵抗しない甲を8名で押さえたことは必要最小限度を超えるとして違法とする答案もあり得る。その場合も,医師の指示の理由を必要性の検討に取り込んだ上で結論を導く必要があると考えられる。設問1の2については,前記のとおり,捜索差押許可状と鑑定処分許可状の併用とする構成,身体検査令状だけで足りるとする構成もあり得る。
答案の弱点は次の3点である。
第一に,強制採尿の最終的手段性を令状の執行時にも要するとした点は,昭和55年決定の「実施にあたつては,被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべき」との判示から導いた本記事の解釈であり,最高裁判所が執行時の要件として明示したものではない。
第二に,CT検査の令状の種類は,直接の判例がなく,条文の構造からの推論である。
第三に,覚醒剤が時間の経過とともに体外へ排出されることは一般的な知見として述べたものであり,尿中から検出できる期間の具体的な日数は,本記事では一次資料で確認していない。
(7) 扱わなかった事項
設問で問われていない,強制採尿により得た尿の鑑定書の証拠能力(違法収集証拠の排除),排出されたマイクロSDカードの押収の適否,乙方の捜索の際の乙の現行犯逮捕の適否,スマートフォン内のデータの見分の適否,及び甲の公判における証拠能力は,答案では扱っていない。
第6 関連記事
1 前年度の同じ科目の模範解答
①令和7年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した51項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和7年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①強制採尿・強制採血・毛髪採取の令状-令状の組合せ,条件の記載及び最高裁の判断(AI作成)
②体内異物を確認するCT検査の令状―身体検査令状・鑑定処分許可状・捜索差押許可状(AI作成)
③飲み込んだ証拠物を体内から取り出す捜査の限界―大腸内視鏡による採取を違法とした東京高裁令和3年10月29日判決(AI作成)
④宅配便荷物のX線検査と令状主義―最高裁平成21年9月28日決定(AI作成)
⑤刑事裁判の書証の証拠能力-伝聞法則・供述調書・同意書面の判断順序(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省「令和8年司法試験の実施について」
②法務省「令和8年司法試験問題」
③司法試験考査委員会議申合せ事項「司法試験の方式・内容等について」(令和7年11月26日)
④令和8年司法試験論文式試験問題(刑事系科目)
2 法令
①日本国憲法(e-Gov法令検索)
②刑事訴訟法(e-Gov法令検索)
③覚醒剤取締法(e-Gov法令検索)
④診療放射線技師法(e-Gov法令検索)
3 裁判例
①最高裁判所第一小法廷昭和55年10月23日決定(昭和54年(あ)第429号,刑集34巻5号300頁)
②最高裁判所第三小法廷平成6年9月16日決定(平成6年(あ)第187号,刑集48巻6号420頁)
③最高裁判所第一小法廷令和4年4月28日判決(令和3年(あ)第711号,刑集76巻4号380頁)
④最高裁判所第三小法廷平成21年9月28日決定(平成19年(あ)第798号,刑集63巻7号868頁)
⑤最高裁判所第三小法廷昭和32年1月22日判決(昭和30年(あ)第1941号,刑集11巻1号103頁)
⑥最高裁判所第一小法廷昭和35年9月8日判決(昭和35年(あ)第887号,刑集14巻11号1437頁)
⑦最高裁判所第二小法廷昭和59年12月21日決定(昭和57年(あ)第1504号,刑集38巻12号3071頁)
⑧最高裁判所第二小法廷平成17年9月27日決定(平成17年(あ)第684号,刑集59巻7号753頁)
⑨最高裁判所第二小法廷平成20年8月27日決定(平成19年(あ)第2207号,刑集62巻7号2702頁)
⑩広島高等裁判所岡山支部平成30年1月12日判決(平成29年(う)第24号)
4 確認状態
問題文は,法務省掲載の刑事系科目の問題冊子(PDF)を取得し,第2問の全頁(【資料1】及び【資料2】を含む。)を読んだ。
令和8年の出題の趣旨及び採点実感は,本記事の作成時点で公表されておらず,読んでいない。第4の評価項目と重み及び第5の3の解説は,いずれも本記事の予想であり,公表後に照合して見直す必要がある。
裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,答案と解説で用いた判示を確認した。
昭和59年決定の該当部分は,「なお,」に続けて述べられた判示である。
昭和32年判決は,原審が刑訴法321条1項2号及び324条により証拠能力を認めたことを正当としたものであり,原審の理由の部分は判決全文に含まれておらず確認していない。
判例秘書等の有料データベースは用いていない。
刑事訴訟法の条文は,e-Gov法令検索のAPIで,試験の実施時に施行されていた版(令和8年6月24日施行のもの)を取得して確認した。診療放射線技師法2条2項及び24条は,本記事の作成時点の条文で確認した。
「令状事務処理の手引(七訂版)」の記載(第5の3(3))は,山中弁護士ブログの既存記事による紹介であり,本記事では原本を確認していない。