第1 この記事の対象と結論
本問は,環境基準と排水規制の関係を踏まえ,県が採れる水質改善策と,国が規制していない物質に対する市条例の可否を問う問題である。
環境基準の設定方法を比較した上で,上乗せ・裾出し・総量規制,生活排水と農地の対策を組み合わせ,物質Pについては水質汚濁防止法29条1号から横出し条例を検討する。
評価項目は公式資料から独自に抽出した27項目であり,重み5の項目は7件,重みの合計は101である。
法務省の採点基準・配点を示すものではなく,模範解答も法務省の公式解答ではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和元年司法試験・環境法第1問(設問1~3) |
| 公式問題文 | https://www.moj.go.jp/content/001293669.pdf・PDF28~31頁 |
| 答案の基準時 | 令和元年の試験時。当時の法令版及び問題添付資料を用いる。 |
| 資料の状態 | 問題文・出題の趣旨・採点実感はいずれも対象範囲を実読済み。後二者を照合した類型A。 |
| 主要事項 | 環境基準の設定差,県の水質対策,亜鉛の暫定基準,市のP横出し条例 |
| N・n5・W | N=27,n5=7,W=101。公開表の値。 |
| 主要判例 | 本答案は特定の判例を根拠にしていない。 |
| 答案分量 | 見出し・句読点を含め,改行を除いて2356字。表示用の改行も含めて2468字。上限2500字。 |
| 試験後の改正 | 試験後の法令・指定項目の追加を答案の根拠へ取り込んでいない。現行法全体の網羅的な改正監査はしていない。 |
| 年度別の案内 | 過去問・参考答案一覧 https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/11/shihoushiken-kakomon-touan-index/ |
| 確認日 | 令和8年10月19日(日本時間) |
亜鉛の暫定基準への上乗せは,地域の現状と暫定措置の趣旨を踏まえて可能とする立場を採った。
公式資料は,可否の結論だけで配点を分けず,論理的な検討を重視している。
G市のP規制は,研究上の有害性と政令指定された有害物質を区別すれば,横出し条例として設定できる。
第3で問題の射程,第4で評価項目,第5で答案とその対応を確認できる。
特に重み5の番号2・3・8・9・13・24・26が答案の骨格となる。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目につき一つの判定対象を基本とし,答案の何を確認するかが分かる形で記載する。
出題の趣旨と採点実感は別々に根拠を示し,頁はPDFの1頁目から数えた実頁である。
「記載なし」は本問の許可範囲を読んだ上での判定であり,資料全体に記載がないという意味ではない。
必須,高評価,負例の回避,許容分岐という区分と,重みは別の指標である。
同じ内容の肯定形と否定形は公開表で一つにまとめており,独自の総量規制や非特定事業場規制といった任意の補足を全答案へ累積要求しない。
公開表27項目と,検証用に負例を分けた内部30単位とは,件数・合計が異なる。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | 採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた(高く評価した・多数の答案の不足を指摘した)事項 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け |
| 2 | 一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項 |
| 1 | 一方が控えめに触れるだけの事項 |
重みの段階ごとに件数を割り当てたものではない。
本問の出題構造と公式資料の記述から判断した学習用の整理である。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
問題文は法務省の選択科目問題PDF28~31頁を参照されたい。
A県のB川は,上流に農地,中流に多数の旅館・ホテル,下流に人口密集地,河口に電気めっき業の工場があり,C湾へ流入する。
健康項目の環境基準は達成されている一方,COD,全窒素,全燐,全亜鉛の生活環境項目が問題となる。
COD等の基準未達成は20年以上続いている。
全亜鉛の一律排水基準は5mg/lから2mg/lへ強化されたが,電気めっき業には暫定5mg/lが適用されている。
また,G市では,国の規制対象外である物質Pに関し,発がん性・催奇形性の研究報告を踏まえた独自の排水基準の設定が検討される。
C湾を実在する特定の湾と同一視せず,設問にない政令指定済みという事実も補わない。
環境水の基準値を排水口の許容限度と読み替えないことが出発点となる。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 健康項目と生活環境項目 | 資料1を用いる。設定方法だけでなく理由を説明。 | 一律と類型指定,達成期間,保護目的の違いを比較。 |
| 2 | A県の追加的な水質対策 | 既存の一律排水規制以外の措置。資料2を踏まえる。 | 発生源ごとに対策と手続を示し,暫定亜鉛基準への上乗せを検討。 |
| 3 | G市が設けるPの排水基準 | 国が規制していないP。県条例と市条例を区別。 | 29条1号の適用と市による設定の可否,独自の遵守確保。 |
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 【必須】環境基本法16条を根拠に,環境基準を行政施策の目標として位置付ける。環境基準と排水基準を混同しない。 | 3 | PDF35頁「環境基本法第16条に基づいて」 | PDF37頁「環境基準の設定根拠」/PDF36頁「環境基準と排水基準を混同」 |
| 2 | 【必須】健康項目は全公共用水域に一律の基準値を設定することを説明する。 | 5 | PDF35頁「健康項目は全公共水域一律の基準」 | PDF36頁「健康項目は全国一律」 |
| 3 | 【必須】生活環境項目は河川(湖沼以外・湖沼)と海域について,利用目的に応じた類型別基準と水域指定を説明する。 | 5 | PDF35頁「河川(湖沼以外と湖沼)と海域」 | PDF36頁「利用目的に応じた類型ごとの基準」 |
| 4 | 【必須】健康項目の即時達成と生活環境項目の段階的達成の違いを示す。 | 4 | PDF35頁「生活環境項目に関しては段階的達成も認められている」 | PDF36頁「基準の達成期間に関する違い」 |
| 5 | 【必須】健康は水域や利用目的を問わず優先的に保護すべきことから一律設定の理由を示す。 | 4 | PDF35頁「人の健康は何ものにも優先して尊重」 | PDF36頁「設定方法が異なる理由」 |
| 6 | 【必須】利水目的の多様性から生活環境項目を一律に設定しない理由を示し,科学的知見不足という説明で済ませない。 | 4 | PDF35頁「保護されるべき利水目的が公共水域ごとに多種多様」 | PDF36頁「科学的知見が不十分で予防原則」 |
| 7 | 【必須】生活環境には水産業の生産物等も含まれることを環境基本法2条3項に結び付ける。 | 3 | PDF35頁「水産業の生産物」 | 対象範囲に記載なし |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 8 | 【必須】工場・事業場と生活排水・農地等の発生源を分け,対策を総合的に組み立てる。 | 5 | PDF35頁「汚染源の種類・性質に応じた対策」 | PDF36頁「それぞれの対策について論じる」 |
| 9 | 【必須】水濁法3条3項により,一律排水基準より厳しい県条例の上乗せを本件長期未達成に適用する。 | 5 | PDF35頁「水濁法第3条第3項により」 | PDF36頁「排水基準の上乗せ」 |
| 10 | 【高評価】日平均50立方メートル未満の小規模旅館等について3条3項による裾出しを検討する。 | 4 | PDF35頁「50立方メートル未満」 | PDF37頁「この点に触れた答案は少なかった」 |
| 11 | 【高評価】亜鉛暫定基準の経過措置・技術的困難・直罰の趣旨を踏まえ,県の現状と調整して上乗せ可否を論じる。 | 4 | PDF35頁「排水基準違反には直罰規定」 | PDF36頁「暫定基準の趣旨」 |
| 12 | 【許容分岐】亜鉛暫定基準について,採用した可否の立場を理由付け,反対結論を一律に誤答扱いしない。 適用:暫定基準の可否を論じる全答案。肯定・否定の両論併記は要求しない。 | 3 | PDF35頁「可否いずれの結論であっても差し支えない」 | PDF36頁「可否いずれの結論であっても配点には差」 |
| 13 | 【必須】上乗せ濃度規制に加えて汚濁負荷量の総量規制を検討する。 | 5 | PDF35頁「両方の措置について言及する必要」 | PDF36頁「上乗せと総量規制の両方」 |
| 14 | 【必須】法の総量規制は政令指定と環境大臣の基本方針を要し,県単独では完結しないと説明する。 | 4 | PDF36頁「環境大臣による基本方針の作成と政令による指定地域の設定」 | PDF37頁「基本方針の作成と政令による指定地域の設定が前提」 |
| 15 | 【必須】国の前提が整った後,知事の総量削減計画(4条の3)と総量規制基準(4条の5)を示す。 | 4 | PDF36頁「総量削減計画を策定し」 | PDF37頁「対策の内容と手続をバランス良」 |
| 16 | 【許容分岐】政令指定がない場合に県の独自総量規制が可能かを,法との関係から検討する。 適用:独自総量規制を採用・検討する場合だけ。法定総量規制の答案に累積要求しない。 | 2 | PDF36頁「都道府県独自に総量規制を設けることの可否」 | 対象範囲に記載なし |
| 17 | 【必須】生活排水について14条の8による知事の重点地域指定を検討する。 | 4 | PDF36頁「生活排水対策重点地域の指定が可能」 | PDF37頁「知事による生活排水対策重点地域の指定可能性」 |
| 18 | 【必須】重点地域での計画策定・実施は市町村,助言・勧告は知事という14条の9の役割分担を示す。 | 3 | PDF36頁「施策を実施するのは市町村」 | 対象範囲に記載なし |
| 19 | 【必須】生活排水対策の非規制的性質を踏まえ,家庭での設備整備等の努力と地域の下水道等の整備を示す。 | 3 | PDF36頁「非規制的手法が基本」 | 対象範囲に記載なし |
| 20 | 【必須】農地には水濁法上直接対象とした具体的措置が定められていないことを指摘する。 | 3 | PDF36頁「農地については,水濁法では具体的措置が定められていない」 | 対象範囲に記載なし |
| 21 | 【必須】農地等のノンポイントソースからの負荷削減の重要性を説明する。 | 3 | PDF36頁「ノンポイントソース対策の重要性」 | 対象範囲に記載なし |
| 22 | 【負例】改善命令・報告検査など既存規制の監督強化だけで追加対策への回答を済ませない。 | 2 | 対象範囲に記載なし | PDF36頁「既存の規制の監督強化についてしか記載していない」 |
| 23 | 【許容分岐】非特定事業場が別に存在する場合には29条3号による独自規制も検討できるとする。 適用:非特定事業場を追加措置に含める場合だけ。本問の必答ではない。 | 1 | PDF35頁「この点に言及しなくとも差支えない」 | 対象範囲に記載なし |
3 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 24 | 【必須】Pの独自排水基準を29条1号の横出しとして,上乗せ3条3項と根拠を区別する。 | 5 | PDF36頁「上乗せ規制とは根拠条文が異なる」 | PDF37頁「横出し規制と上乗せ規制とでは根拠条文が異なる」 |
| 25 | 【高評価】29条の地方公共団体には市も含まれ,G市が条例を設けられることを説明する。 | 4 | PDF36頁「G市も条例による規制が可能」 | PDF37頁「G市も条例による規制が可能」 |
| 26 | 【必須】29条1号の有害物質を2条2項1号の政令指定物質と解釈し,規制対象外のPが除外されないと説明する。 | 5 | PDF36頁「政令が定める物質であるから」 | PDF37頁「政令が定める物質であるから」/PDF37頁「有害物質を横出し規制の対象から」 |
| 27 | 【高評価】横出し基準の遵守を確保する仕組みを条例で独自に定める必要を示す。 | 4 | PDF36頁「全て独自に定める」 | PDF37頁「すべて条例で独自に定める必要」 |
4 重みの分布
重み1は1件,重み2は2件,重み3は7件,重み4は10件,重み5は7件で,総項目数Nは27,合計Wは101となる。
W=1×1+2×2+3×7+4×10+5×7で計算している。
重み5は,健康項目の一律設定(番号2),生活環境項目の類型指定(3),発生源を分けた総合対策(8),上乗せ規制(9),総量規制(13),Pの横出し根拠(24),法定有害物質の定義(26)である。
この7件を優先しつつ,暫定基準の趣旨や国と県の役割を理由・手続まで結び付ける必要がある。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
令和元年の試験当時の法令及び問題添付の告示・省令を前提とする。
以下の答案本文は,見出し・句読点を含み,改行を除いて2356字,表示用改行を含めて2468字で,2500字以内に収まる。
設問1の比較,設問2の対策,設問3の市条例の順に論じ,答案中では特定の判例を引用しない。
亜鉛については上乗せ可能説を採るが,不可能説を採ったこと自体を誤りと扱わない。
指定されていないC湾について,法定総量規制を県だけで直ちに開始できるとしない。
2 答案
第1 設問1
1 環境基準は,環境基本法16条1項に基づき設定される。
人の健康を保護し,生活環境を保全する上で維持されることが望ましい環境上の条件であり,行政施策の目標である。
排水口における排出を直接規制する排水基準とは異なる。
2 健康保護の環境基準は,全公共用水域について物質ごとに一律の基準値を設定し,設定後直ちに達成・維持するよう努める。
生命・健康は水域の用途を問わず保護すべきであり,地域の利用目的によって保護水準を変えるべきでないからである。
3 生活環境保全の環境基準は,環境基本法16条2項を踏まえ,河川(湖沼以外と湖沼)及び海域ごとに,利用目的等に応じた類型別の基準を設け,水域に類型を当てはめる。
CODのA類型,窒素・燐のⅠ類型,全亜鉛の生物特A類型はこれに属する。
生活環境には人の生活に密接な財産,動植物及びその生育環境も含まれ(同法2条3項),水産業の生産物等も保護される。
水浴,自然環境保全,産卵場の保全等,保護すべき利水目的が多様で,一律の水準が適さないからである。
汚濁状況,発生源の立地,現在及び将来の利用目的を考慮し,現状悪化を許容せず,施策との関連で達成期間を設定して可及的速やかな達成維持を図る。
第2 設問2
1 上乗せ規制
水質汚濁防止法(以下「法」という。
)3条3項により,A県は,自然的・社会的条件から一律排水基準では生活環境保全に不十分な区域について,一律基準より厳しい許容限度を条例で設定できる。
C湾ではCOD,全窒素,全燐の基準未達成が20年以上継続しており,上乗せの必要性がある。
施行令4条に従い,各環境基準の維持に必要かつ十分な程度とし,適用区域を明示し,知事はあらかじめ環境大臣及び関係知事に通知する(法3条4・5項)。
環境基準値自体をそのまま排水基準値にするものではない。
2 小規模事業場等の対策
生活環境項目の一律排水基準は日平均排水量50立方メートル以上の工場・事業場に適用される。
旅館等に厨房・洗濯・入浴の特定施設があっても,小規模ならこの基準から外れる。
多数の旅館等の負荷を減らすため,A県は法3条3項に基づき,量的な適用範囲を広げる裾出し規制を条例で設けることができる。
3 総量削減
濃度規制だけでは排水量の増加を捉えられず,閉鎖性の内湾であるC湾では汚濁が蓄積する。
COD,全窒素,全燐について,法4条の2の指定水域・指定地域として政令指定を受け,環境大臣の総量削減基本方針に基づく総量規制を導入することが考えられる。
県単独の指定ではないから,A県は指定及び方針策定について国に意見を述べる。
指定後は,知事が発生源別の削減目標量等を含む総量削減計画を定め(4条の3),指定地域内事業場の汚濁負荷量につき総量規制基準を定める(4条の5)。
計画策定に際して関係市町村長の意見を聴き,環境大臣に協議する(4条の3第3項)。
事業者はこれを遵守し(12条の2),違反のおそれには改善等の命令ができる(13条3項)。
指定地域内事業場以外の小規模事業場や生活排水等について,知事は計画達成のため指導・助言・勧告を行う(13条の4)。
農地は面源であり,水濁法には農地を直接対象とする具体的措置が定められていない。
上流農地や下流の生活排水はB川を経てC湾へ流入するので,事業場の排水口だけを規制しても負荷は残る。
総量削減の中で施肥の適正化等を促すノンポイントソース対策が重要となる。
また,生活排水対策の実施が特に必要なら,知事は関係市町村長の意見を聴き,生活排水対策重点地域を指定する(14条の8)。
生活排水対策は非規制的手法が基本で,家庭の設備整備等の努力(14条の7)と地域の下水道等の整備を組み合わせる。
計画を定め施策を行うのは市町村であり,知事は助言・勧告を行い(14条の9),県は広域施策と総合調整を進める。
4 亜鉛の暫定基準
電気めっき業の暫定5mg/lも法3条1項に基づく排水基準であり,同条3項の上乗せの対象となる。
確かに排水基準違反には直罰があり,技術的困難に配慮する経過措置の趣旨を無視できない。
しかし,F海域は産卵場等として特に保全が必要であり,健康項目の達成だけでは水生生物の保全は図れない。
暫定措置は全国一律の猶予で,上乗せを禁ずる明文もないから,県の追加規制権限を当然には排除しない。
全亜鉛についてもF海域の環境基準維持に必要十分な上乗せ規制を設定できる。
比例原則上過大な負担とならないよう,技術的困難を考慮して実施を配慮し,処理技術への支援等も組み合わせるべきである。
第3 設問3
法3条3項による上乗せ条例の主体は都道府県であり,G市は同項を直接根拠にできない。
しかし法29条1号は,排出水について,法2条2項2号の項目以外の汚染状態(法定有害物質によるものを除く。
)に関し,地方公共団体の条例規制を妨げない。
ここには市町村も含まれる。
同号の有害物質は,法2条2項1号により政令指定された物質をいう。
発がん性等の研究報告があることだけで法定有害物質となるものではなく,国の規制対象外のPはこの除外に当たらない。
したがってG市は条例でPの排水基準を設定できる。
環境基準の設定は排水規制の必須の先行条件ではなく,国の未設定が市の予防的な規制を一律に禁止するとはいえない。
多数の特定事業場がPを排出するG市では,曝露の拡大を防ぐ必要がある。
発がん性・催奇形性の研究を踏まえ,健康保護の必要性に対応した合理的な基準を定めるべきである。
ただし,これは一律排水基準に代わる上乗せ基準ではないから,法の排水規制の仕組みがそのまま適用されるわけではない。
基準の遵守義務,届出・報告,改善命令,違反への制裁等,遵守を確保する仕組みを条例で独自に定める必要がある。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
| 番号 | 答案・解説の所在 | 充足・分岐の扱い |
|---|---|---|
| 1 | 第1 「環境基本法16条1項に基づき設定される。」 | 完成答案で回収。 |
| 2 | 第1 「全公共用水域について物質ごとに一律の基準値を設定し」 | 完成答案で回収。 |
| 3 | 第1 「河川(湖沼以外と湖沼)及び海域ごとに」 | 完成答案で回収。 |
| 4 | 第1 「達成期間を設定して可及的速やかな達成維持を図る。」 | 完成答案で回収。 |
| 5 | 第1 「生命・健康は水域の用途を問わず保護すべき」 | 完成答案で回収。 |
| 6 | 第1 「保護すべき利水目的が多様で,一律の水準が適さない」 | 完成答案で回収。 |
| 7 | 第1 「水産業の生産物等も保護される。」 | 完成答案で回収。 |
| 8 | 第2 「農地は面源であり」 | 完成答案で回収。 |
| 9 | 第2 「上乗せの必要性がある。」 | 完成答案で回収。 |
| 10 | 第2 「A県は法3条3項に基づき」 | 完成答案で回収。 |
| 11 | 第2 「排水基準違反には直罰があり」 | 完成答案で回収。 |
| 12 | 第2 「比例原則上過大な負担とならないよう」 | 採用結論の範囲で回収。亜鉛は理由付きの反対結論も許容。 |
| 13 | 第2 「濃度規制だけでは排水量の増加を捉えられず」 | 完成答案で回収。 |
| 14 | 第2 「県単独の指定ではない」 | 完成答案で回収。 |
| 15 | 第2 「知事が発生源別の削減目標量等を含む総量削減計画」 | 完成答案で回収。 |
| 16 | 第2 答案外の下記(6) | 任意の補足。主位答案に不採用。 |
| 17 | 第2 「生活排水対策重点地域を指定する」 | 完成答案で回収。 |
| 18 | 第2 「計画を定め施策を行うのは市町村」 | 完成答案で回収。 |
| 19 | 第2 「生活排水対策は非規制的手法が基本」 | 完成答案で回収。 |
| 20 | 第2 「水濁法には農地を直接対象とする具体的措置が定められていない。」 | 完成答案で回収。 |
| 21 | 第2 「ノンポイントソース対策が重要となる。」 | 完成答案で回収。 |
| 22 | 第2 「一律基準より厳しい許容限度を条例で設定できる。」 | 完成答案で回収。 |
| 23 | 第2 答案外の下記(6) | 任意の補足。主位答案に不採用。 |
| 24 | 第3 「法29条1号」 | 完成答案で回収。 |
| 25 | 第3 「ここには市町村も含まれる。」 | 完成答案で回収。 |
| 26 | 第3 「同号の有害物質は,法2条2項1号により政令指定された物質をいう。」 | 完成答案で回収。 |
| 27 | 第3 「遵守を確保する仕組みを条例で独自に定める必要がある。」 | 完成答案で回収。 |
内部30単位のうち,誤り回避の3単位は番号1・6・26へ統合した。
番号16と23は任意の補足であり,模範答案に記載しなかったことを欠落として加算しない。
(2) 環境基準の比較
重み5の番号2・3は,一律設定と類型指定の双方を比較する部分である。
達成期間だけの比較では足りず,健康保護の優先性と,多様な利水目的に応じた生活環境の保全という理由まで説明する。
水生生物に関する基準であっても,問題の全亜鉛は生活環境項目であり,研究上の危険性だけで健康項目へ分類し直さない。
生活環境には,人に密接な財産や動植物等も含まれる。
生活環境項目の設定差を科学的知見の不足や予防原則だけで説明するのは,本問で求められる理由に応答していない。
(3) 上乗せ・裾出しと総量規制
番号8・9・13が設問2の骨格となる。
濃度を厳しくする上乗せだけでなく,日平均50立方メートル未満の特定事業場を捉える裾出し,汚濁負荷量の総量を減らす措置を区別する。
多数の旅館等という事実を,規制対象の量的な裾の問題へ結び付けることが大切である。
総量規制は,政令による指定水域・指定地域と環境大臣の基本方針を前提とする。
その後に知事の総量削減計画と総量規制基準が続く。
環境大臣・知事・市町村の手続を一人の権限にまとめず,COD・窒素・燐の指定項目を対象にする。
全亜鉛をこの法定総量規制の指定項目へ追加したものとして扱わない。
生活排水は家庭の努力と処理施設の整備を含む非規制的な対策が基本で,重点地域の指定者は知事,計画・施策の主体は市町村となる。
農地については直接の具体的措置が水濁法にないという限界を示してから,面源の負荷を減らす対策の重要性へ進む。
単に既存基準の違反監督を強めるだけでは,追加的対策を問う設問に十分応答しない。
(4) 亜鉛の暫定基準
暫定基準も法3条1項の基準であることは出発点にすぎない。
直罰のある排水規制に技術的に対応できない事業者へ猶予を与える趣旨と,A県における環境保全の必要を比較する。
答案は禁ずる明文がないことと地域のF海域の産卵場保全を重視して上乗せを肯定し,過大な負担への配慮を付した。
否定する場合も,暫定措置を設けた国の趣旨が当該上乗せにどこまで及ぶかを説明すれば,結論だけで不利に評価すべきではない。
肯定説・否定説を両方採用することは要求されていない。
(5) 市のP横出し条例
番号24・26では,法3条3項の都道府県による上乗せと,法29条1号の横出しを区別する。
「有害物質」は法2条2項1号の政令指定という法的な定義であり,研究報告に発がん性があるだけでは同号の除外に当たらない。
地方公共団体には市も含まれるので,G市による条例設定が可能となる。
許容されるという入口の結論と,その規制を実効化する仕組みは別である。
法の上乗せと異なり,国の規制体系が当然にPへ拡張されるものではないので,義務,届出・報告,命令,制裁等を条例で整える必要がある。
具体的な許容濃度の数値を作るための資料は与えられていない。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
2500字の範囲で各対策を整理したため,総量削減計画の市町村長の意見聴取・環境大臣への協議まで示したが,条例の具体的な条文設計までは詳述していない。
農地の施肥の適正化や技術支援は,具体策を例示した記事独自の分析であり,問題文に既に実施された事実があるとするものではない。
番号16の県独自の総量規制は,政令指定がない場合の別の検討として,条例と法の関係を踏まえて論じる余地がある。
本答案は法定総量規制の条件と手続を主に据え,その別構成を累積的な必須要件にはしない。
番号23の非特定事業場規制は法29条3号の補足となり得るが,本問で触れなかったこと自体をマイナスとしない。
住民の差止請求,国の規制権限不行使の国家賠償,C湾を特定の実在湾と仮定した特別法の適用は答案へ加えていない。
試験後の改正法令や後発判例を当時の答案の根拠として遡及使用せず,公開答案・再現答案の内容比較もしていない。
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第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省「令和元年司法試験論文式試験問題・選択科目」 https://www.moj.go.jp/content/001293669.pdf(環境法第1問,PDF28~31頁)。
②法務省「令和元年司法試験論文式試験問題出題趣旨」 https://www.moj.go.jp/content/001305186.pdf(PDF34頁の環境法第1問見出しから,36頁の第2問見出し直前まで)。
③法務省「令和元年司法試験の採点実感・選択科目」 https://www.moj.go.jp/content/001308864.pdf(PDF36~37頁の第1問,40頁の共通末尾)。
2 法令
①環境基本法の平成30年12月1日施行版(2条3項・16条) https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000091/20181201_430AC0000000050?occasion_date=20181201
②水質汚濁防止法の平成29年6月2日施行版(3条,4条の2以下,12条以下,14条の5以下,29条等) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000138/20170602_429AC0000000045?occasion_date=20170602
③水質汚濁防止法施行令の試験当時版(3条,4条,4条の2) https://laws.e-gov.go.jp/law/346CO0000000188?occasion_date=20190515
環境基準告示,特定施設の種類,日平均排水量の適用範囲及び亜鉛の暫定基準は,問題資料1・2の提示内容も確認した。
亜鉛暫定基準の期間を後年の改正状態へ置き換えず,設問の前提に従った。
3 裁判例
本問の答案は条文と問題資料の解釈を中心に構成した。
裁判所データベースの網羅検索や特定判決の原文確認はしておらず,未読の判旨を確認済みの根拠として掲げていない。
4 確認状態
問題文と両公式資料は,本問に関係する上記範囲を実読し,相互に照合した。
採点実感の科目総論及び共通末尾は,本問へ適用できる一般的な評価方針の限度で用いた。
他問の答案・公式解説は本問の実体的な根拠にしていない。
評価項目の重み,模範答案の採用説,具体策の例示は記事独自の分析である。
暫定亜鉛基準への上乗せの肯否など,公式資料が許容する分岐は一つの結論へ固定しない。
試験後の法改正・判例を全分野について調べたものではないため,現在の実務へそのまま用いる際は現行法の確認を要する。