第1 結論
警察官が犯罪捜査のため,宅配便業者から荷物を借り受け,荷送人又は荷受人の承諾を得ずにX線検査を行うことは,荷物の内容を外部から明らかにする強制処分に当たり,原則として検証許可状が必要である。
最高裁判所第三小法廷平成21年9月28日決定(平成19年(あ)第798号)は,このような無令状のX線検査を違法とした。
ただし,同決定は,その後に発見・押収された覚醒剤等の証拠能力までは否定していない。
第2 最高裁平成21年9月28日決定の事案
警察官は,宅配便業者の承諾を得て,同社の営業所から被告人ら宛ての荷物5個を借り受け,病院でX線検査を行った。
荷送人又は荷受人の承諾はなく,検証許可状も取得していなかった。
X線検査によって荷物内部の状況が確認され,その後の捜査及び令状による捜索・差押えを経て,覚醒剤等が証拠として提出された。
第3 X線検査が強制処分とされた理由
刑事訴訟法197条1項ただし書は,強制処分は法律に特別の定めがある場合でなければ行えないと定める。
同法218条1項は,検察官,検察事務官又は司法警察職員が,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,裁判官の発する令状により,差押え,捜索,電磁的記録提供命令又は検証をすることができると定める(令和8年5月21日施行の改正前は「差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証」であった。)。
最高裁決定は,X線検査により,荷物を開披しなくても内部の物品の形状や材質を知ることができ,内容物によってはその品名まで相当程度具体的に判別できると指摘した。
この方法は,荷送人又は荷受人の内容物に対するプライバシーを大きく侵害するため,検証としての性質を持つ強制処分に当たる。
第4 令状を欠く検査の違法性
宅配便業者が荷物の占有者として警察への貸出しに応じたとしても,荷物の内容についてプライバシー上の利益を持つ荷送人又は荷受人が承諾したことにはならない。
したがって,荷送人又は荷受人の承諾がなく,検証許可状もないまま行われた本件X線検査は,令状主義に反する違法な捜査であるとされた。
第5 証拠能力が否定されなかった理由
最高裁決定は,X線検査の違法性と,後に押収された証拠を刑事裁判で用いることができるかを別に検討した。
決定は,捜査上の必要性があったこと,宅配便業者の承諾を得て対象を絞って実施したこと,令状主義を潜脱する意図までは認められないこと,その後に裁判官が発した令状に基づく捜索・差押えが行われたことなどを考慮した。
その上で,証拠収集過程の違法が重大であり,将来の違法捜査抑制の見地から証拠排除が相当であるとまではいえないとして,証拠能力を肯定した。
第6 裁判所入口のX線手荷物検査との違い
裁判所庁舎の入口で行われるX線手荷物検査は,庁舎内への危険物の持込みを防止し,裁判所の安全を確保するために行われる。
これに対し,本件最高裁決定が扱ったのは,警察官が特定の犯罪捜査のため,宅配便荷物の内容を明らかにした場面である。
同じX線装置を用いる検査であっても,目的,実施主体,対象者との関係,拒否した場合の扱い及び得られた情報の利用目的が異なる。
そのため,本件決定の結論を裁判所の入庁検査にそのまま当てはめることはできない。
第7 人体のCT検査との違い
宅配便荷物のX線検査は,荷物の内容を明らかにする検証としての性質が問題となる。これに対し,被疑者の身体内部をCTで撮影する処分は,身体への直接的な情報取得であり,身体検査令状,医師に専門的判断を求める鑑定処分許可状,異物を取り出して押収する捜索差押許可状等を,目的ごとに検討する必要がある。
同じX線技術を用いても,対象となる利益と処分の機能が異なる。詳しくは,体内異物を確認するCT検査の令状―身体検査令状・鑑定処分許可状・捜索差押許可状(AI作成)で整理している。
第8 実務上の確認事項
- X線検査の目的が犯罪捜査か,施設の安全管理か。
- 誰が荷物を占有し,誰が内容物についてプライバシー上の利益を持つか。
- 承諾した者,承諾の対象及び範囲はどこまでか。
- 検査により,内容物の形状,材質又は品名をどこまで判別できるか。
- 検証許可状その他の令状が取得されているか。
- 違法がある場合,後続の令状及び証拠収集とのつながりはどうなっているか。
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