第1 問題の所在
警察官が職務質問の際にバッグ,衣服のポケット又は携行品を確認する行為は,一律に適法又は違法となるものではない。
確認すべき中心は,本人の承諾があるか,承諾がない場合に検査の必要性・緊急性がどの程度あるか,検査方法が強制にわたらず相当な範囲にとどまるかである。
また,所持品検査そのものが違法であっても,発見された物の証拠能力が直ちに否定されるとは限らない。
検査の適法性と,刑事裁判で証拠を排除するかどうかは,分けて検討する必要がある。
第2 職務質問と所持品検査の法的な位置付け
1 警察官職務執行法2条
警察官職務執行法2条1項は,異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して,犯罪を犯したか,犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由がある者等を停止させて質問できると定める。
同条3項は,刑事訴訟に関する法律によらない限り,身柄を拘束され,又は意思に反して連行され,若しくは答弁を強要されることはないと定める。
所持品検査を明文で定めた条項ではないため,その限界は職務質問の目的と任意手段の性質から判断される。
2 承諾がある場合
最高裁判所は,所持品検査は職務質問に付随して行われる場合があり,所持人の承諾を得て行うのが原則であるとした。
もっとも,外形上バッグを差し出した事実だけで,開披,手入れ又は内容物の取出しのすべてに承諾したとは限らない。承諾の対象と範囲を区別する必要がある。
第3 承諾のない所持品検査が許される限界
最高裁判所は,承諾がない所持品検査を常に禁止したわけではない。
強制にわたらない限り,所持品検査の必要性・緊急性と,これによって害される個人の法益との権衡を考慮し,具体的状況の下で相当と認められる限度では許容される場合があるとした。
この基準は,最高裁判所第三小法廷昭和53年6月20日判決(昭和52年(あ)第1435号)が示したものであり,同判決は,施錠されていないバッグのチャックを開けて内部を一べつした行為を,相当と認め得る行為として適法とした。
後記の最高裁昭和53年9月7日判決も,同判決を参照して同じ基準を述べている。
したがって,次の事情を総合して判断することになる。
- 職務質問をする合理的な理由の強さ
- 凶器,盗品その他の物があると疑う具体的事情
- 危険が迫っている程度及び確認を急ぐ必要性
- 本人が明示又は黙示に承諾した範囲
- 外側から触れる,開披を求める,中を見る,手を差し入れる,物を取り出すという侵害の段階
- 検査の場所,時間,態様及び警察官の人数
とりわけ,衣服の内ポケットに手を差し入れて物を取り出す行為は,外側から触れて確認する行為よりも私生活上の利益を大きく侵害する。
第4 最高裁昭和53年9月7日判決
1 裁判例
最高裁判所第一小法廷昭和53年9月7日判決(昭和51年(あ)第865号)は,職務質問に伴う所持品検査の限界を示した代表的な裁判例である。
2 適法性に関する判断
同判決は,警察官が被告人の上衣内ポケットに手を差し入れ,物を取り出した行為について,プライバシー侵害の程度が高く,捜索に類するものであるとして,職務質問に付随する所持品検査として許容される限度を超えた違法な行為と判断した。
この判断から,検査対象の物が小さく,直ちに危険物と分からない場合であっても,警察官が自ら衣服の内部に手を入れて取り出すことが当然に許されるわけではないことが分かる。
第5 違法な検査と証拠能力は別に判断される
同判決は,所持品検査を違法としながら,取り出された物に由来する証拠の証拠能力までは否定しなかった。
判決は,違法の程度が必ずしも重大ではなく,令状主義の潜脱を意図したものでもないなどの事情を考慮している。
このため,所持品検査が許容限度を超えたかという第1段階と,その違法が証拠排除を必要とするほど重大かという第2段階を混同してはならない。
第6 裁判所の入庁検査・宅配便のX線検査との違い
1 裁判所の入庁検査
裁判所庁舎の入口で行われる金属探知機又は手荷物検査は,裁判所内への危険物の持込みを防ぎ,庁舎及び法廷の安全を確保するための措置である。
犯罪捜査のための職務質問に付随する所持品検査とは,目的,主体及び検査が行われる場面が異なる。
2 宅配便荷物のX線検査
警察官が犯罪捜査のため,宅配便業者から荷物を借り受けてX線検査をする場面では,荷物の内容を外部から明らかにする捜査として令状の要否が問題となる。
詳しくは「宅配便荷物のX線検査と令状主義―最高裁平成21年9月28日決定(AI作成)」を参照されたい。
第7 確認の順序
- 職務質問を開始する合理的な理由があったか。
- 本人は,どの検査方法まで承諾したか。
- 承諾がない部分について,具体的な必要性及び緊急性があったか。
- 検査は,外側からの確認にとどまるか,開披,手入れ又は内容物の取出しに及んだか。
- 個人の法益との均衡上,相当な範囲であったか。
- 違法である場合,その違法は証拠排除を要するほど重大か。
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