第1 この記事の対象と結論
違法な所持品検査や違法な逮捕の後に,採尿,任意同行,捜索差押許可状の請求・執行といった別の手続を経て,覚醒剤やその鑑定書などの証拠が得られることがある。
本記事では,このように違法な手続の後に別の手続を経て得られた証拠を「派生証拠」という。
派生証拠の証拠能力は,最初の手続が違法であることから直ちに決まるものではない。
最初の手続の違法の程度と,その手続と後の手続又は証拠との結び付きの強さを合わせて,違法収集証拠排除法則によって判断される。
最高裁判例は,この結び付きを,「同一目的」「直接利用」(最高裁昭和61年4月25日判決,最高裁平成7年5月30日決定),「密接な関連」(最高裁平成15年2月14日判決)及び「関連性」(同判決,最高裁平成21年9月28日決定)という言葉で判断してきた。
他方,「違法性の承継」「毒樹の果実」は判例の用語ではなく,学説上の整理の名称である。
法務省が公表した令和6年司法試験の論文式試験の出題の趣旨も,違法性の承継論,毒樹の果実論,派生証拠にも端的に違法収集証拠排除法則を適用する考え方などを挙げた上で,どの立場に立つにせよ,自説とその論拠,自説と論理的に整合する当てはめを求めている。
本記事は,裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した最高裁判例を軸に,判断の枠組みと,当てはめで見る事情を整理する。
第2 出発点となる違法収集証拠排除法則
1 最高裁昭和53年9月7日判決の基準
最高裁昭和53年9月7日判決(刑集32巻6号1672頁)は,証拠物の押収等の手続に,憲法35条及びこれを受けた刑事訴訟法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には,その証拠能力は否定されるとした。
同判決は,その理由として,次の二つを挙げている。
①証拠物は押収手続が違法であっても物それ自体の性質・形状に変わりはないから,直ちに証拠能力を否定することは事案の真相の究明に資するものではないこと
②他方で,事案の真相の究明も,個人の基本的人権の保障を全うしつつ,適正な手続のもとでされなければならないこと
2 同判決の当てはめ
同判決は,警察官が承諾なく被告人の上衣の内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出した行為を,捜索に類するものとして,職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱した違法なものとした。
しかし,職務質問の要件があり,所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況で,必ずしも諾否の態度が明白ではなかった被告人に対し,許容される限度をわずかに超えたにすぎず,令状主義に関する諸規定を潜脱しようとの意図もなかったなどとして,取り出された覚醒剤の証拠能力を肯定した。
3 派生証拠では検討の段階が増える
派生証拠では,違法な手続と証拠との間に,別の手続が挟まる。
そのため,①最初の手続の違法の有無と程度,②後の手続又は証拠との結び付き,③後の手続で得た証拠を排除すべきか,を分けて検討する必要がある。
最初の手続が違法であることを確認しただけで「派生証拠も排除される」と結論付けることも,後に令状が発付されたことだけで「違法は治癒された」と結論付けることも,判例の判断の仕方とは異なる。
第3 四つの節点に分けて考える
派生証拠の問題は,次の四つの節点を図にすると整理しやすい。
先行手続 → 第一次証拠・情報 → 後行手続 → 第二次証拠
| 節点 | 例 | 確認すること |
|---|---|---|
| 先行手続 | 承諾のない所持品検査,逮捕状を呈示しない逮捕,無令状のX線検査 | 違法の有無と程度,捜査官の意図,違法を隠したか |
| 第一次証拠・情報 | 所持品検査で見つけた物,違法な逮捕の当日に採取した尿,X線検査の写真 | 先行手続から直接得たものか,それ自体が排除されるか |
| 後行手続 | 任意同行,採尿,捜索差押許可状の請求・発付・執行 | 先行手続の結果を利用したか,目的は同じか,裁判官の審査が介在したか |
| 第二次証拠 | 令状で差し押さえた覚醒剤,その鑑定書 | 先行手続又は第一次証拠との結び付きの強さ |
学説上の整理は,この図のどの矢印を見るかで異なる。
違法性の承継論は,先行手続の違法が後行手続に及ぶかという,手続と手続の関係を見る。
毒樹の果実論は,違法に得た第一次証拠と,それを手掛かりに得た第二次証拠との,証拠と証拠の関係を見る。
派生証拠にも端的に排除法則を適用する考え方は,違法な手続と派生証拠との関係を直接見るものと整理できる。
法務省の令和6年司法試験の採点実感(刑事系科目第2問)は,違法性の承継論を採りながら違法が証拠に承継されると説明する答案や,毒樹の果実論を採りながら違法な手続と証拠の関連性を基準とする答案を,論理が示されていない例として挙げている。
どの考え方を採るにしても,比べる対象(手続と手続か,証拠と証拠か,手続と証拠か)を最初に固定し,その対象のまま当てはめることが大切である。
第4 最高裁判例の使い分け
1 最高裁昭和61年4月25日判決―同一目的・直接利用
最高裁昭和61年4月25日判決(刑集40巻3号215頁)の事案では,警察官が,明確な承諾がないまま被告人宅の寝室まで立ち入り,明確な承諾を得ないまま警察署へ同行し,被告人の退去の申出に応じずに留め置いた後,被告人が尿を提出した。
最高裁は,これらの一連の手続と採尿手続が,被告人に対する覚醒剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものである上,採尿手続は一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してされていることから,採尿手続の適法違法は,先行する一連の手続における違法の有無,程度をも十分考慮して判断するのが相当であるとした。
その上で,採尿手続も違法性を帯びると評価した。
もっとも,警察官は当初から無断で入る意図はなく玄関先で声をかけて承諾を求めていたこと,任意同行の際に有形力を行使していないこと,留まることを強要するような言動はしていないこと,採尿は被告人の自由な意思での応諾に基づくことなどから,違法の程度はいまだ重大ではないとして,尿の鑑定書の証拠能力を肯定した。
同判決には,住居への立入り等の違法を重大とする反対意見が付されている。
2 最高裁平成7年5月30日決定―直接利用し,これに引き続いて
最高裁平成7年5月30日決定(刑集49巻5号703頁)の事案では,停止の求めを無視して自動車で逃走した被告人について,警察官が承諾のないまま自動車内を調べて覚醒剤を発見し,被告人を現行犯逮捕し,その後に採尿した。
最高裁は,自動車内を調べた行為は所持品検査として許容される限度を超えた違法なものであり,それに基づく現行犯逮捕も違法であるとした上で,採尿手続も,一連の違法な手続によりもたらされた状態を直接利用し,これに引き続いて行われたものであるから,違法性を帯びるとした。
しかし,覚醒剤の所持又は使用の嫌疑があり,所持品を検査する必要性・緊急性が認められる状況であったこと,被告人が明示的に異議を唱えていないこと,警察署への同行には任意に応じ,採尿も自由な意思による応諾に基づくことなどから,違法はいまだ重大とはいえないとして,尿の鑑定書の証拠能力を肯定した。
3 最高裁平成15年2月14日判決―密接な関連
最高裁平成15年2月14日判決(刑集57巻2号121頁)の事案では,逮捕状を呈示せず,緊急執行の手続もとらないで被告人を逮捕した上,警察官が,その手続的な違法を糊塗するため,逮捕状に虚偽事項を記入し,内容虚偽の捜査報告書を作成し,公判で事実と反する証言をした。
最高裁は,こうした経緯全体に表れた警察官の態度を総合的に考慮すれば,逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであるとした。
そして,逮捕の当日に採取された尿は,重大な違法がある逮捕と密接な関連を有する証拠であるとして,その鑑定書の証拠能力を否定した。
他方,被告人方で差し押さえられた覚醒剤は,証拠能力を否定された尿の鑑定書を疎明資料として発付された捜索差押許可状により押収されたものであり,証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠であるとしつつ,司法審査を経て発付された捜索差押許可状によるものであること,逮捕前に適法に発付されていた窃盗事件の捜索差押許可状の執行と併せて行われたことなどから,関連性は密接なものではないとした。
その上で,証拠の重要性等諸般の事情を総合し,覚醒剤とその鑑定書の証拠能力は否定できないとした。
同じ判決の中で,尿の鑑定書は排除され,覚醒剤は排除されなかった。
違法の重大性が同じでも,証拠ごとに結び付きの強さを判断していることが分かる。
4 最高裁平成21年9月28日決定―関連性があっても排除しない場合
最高裁平成21年9月28日決定(刑集63巻7号868頁)の事案では,警察官が,宅配便業者の承諾を得て荷物を借り受け,荷送人や荷受人の承諾を得ずにX線検査を行った。
最高裁は,この検査を検証としての性質を有する強制処分に当たるとし,検証許可状によらずに行ったことを違法とした。
その後に発付された捜索差押許可状は,X線検査の射影の写真等を一資料として発付されたものとうかがわれ,最高裁は,発見された覚醒剤等を違法なX線検査と関連性を有する証拠であるとした。
しかし,嫌疑が高まり実質的な必要性があったこと,宅配便業者の承諾を得て検査の対象を限定する配慮もしており,令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとはいえないこと,覚醒剤等は司法審査を経て発付された令状に基づく捜索で発見され,その発付に当たってはX線検査の結果以外の証拠も資料として提供されたとうかがわれることなどから,証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえないとして,証拠能力を肯定した。
5 4件の比較
| 判例 | 先行手続の違法 | 問題となった証拠 | 結び付きの判断 | 証拠能力 |
|---|---|---|---|---|
| 最高裁昭和61年4月25日判決 | 住居への無承諾の立入り,任意同行,留め置き | 尿の鑑定書 | 同一目的・直接利用により採尿手続も違法性を帯びる | 肯定(違法は重大でない) |
| 最高裁平成7年5月30日決定 | 承諾のない自動車内の検査,現行犯逮捕 | 尿の鑑定書 | 直接利用し,引き続いて行われた採尿手続も違法性を帯びる | 肯定(違法は重大でない) |
| 最高裁平成15年2月14日判決 | 逮捕状を呈示しない逮捕と,違法を糊塗する虚偽記入等 | 尿の鑑定書 | 重大な違法がある逮捕と密接な関連 | 否定 |
| 同上 | 同上 | 尿の鑑定書を疎明資料とした令状で押収した覚醒剤とその鑑定書 | 関連性はあるが密接ではない(司法審査,別件の適法な令状の執行) | 肯定 |
| 最高裁平成21年9月28日決定 | 無令状のX線検査 | X線検査の写真等を一資料とした令状で発見した覚醒剤等 | 関連性はある | 肯定(潜脱の意図なし,結果以外の証拠も資料) |
第5 当てはめで見る事情
1 違法の重大性を高める事情
①本人が拒絶の意思を明らかにしているのに,説得もせずに捜索に類する行為に及んだこと(最高裁昭和53年9月7日判決は,必ずしも諾否の態度が明白ではなかったことを,重大でないとする事情に挙げている)
②違法を隠すために,令状請求の資料や公判の証言で事実と異なる説明をしたこと(最高裁平成15年2月14日判決)
③令状主義に関する規定を潜脱する意図がうかがわれること(最高裁昭和53年9月7日判決,最高裁平成21年9月28日決定は,その意図がないことを証拠能力を肯定する事情に挙げている)
④住居への立入りなど,侵害された利益が大きいこと
2 結び付きを弱める事情
①裁判官の審査を経て発付された令状によって証拠が得られたこと(最高裁平成15年2月14日判決,最高裁平成21年9月28日決定)
②令状の発付に当たり,違法な手続の結果以外の資料も提供されていたこと(最高裁平成21年9月28日決定)
③別件で適法に発付されていた令状の執行と併せて差押えがされたこと(最高裁平成15年2月14日判決)
④後の手続が本人の自由な意思による応諾に基づくこと(最高裁昭和61年4月25日判決,最高裁平成7年5月30日決定)
3 司法審査を経た令状という事情の重み
裁判官の審査を経た令状によることは,判例上,結び付きを弱める事情として扱われている。
もっとも,令状請求の疎明資料に先行手続の違法な経過が書かれていなかった場合には,裁判官はその違法を前提に審査することができない。
そのため,本記事では,司法審査の介在をどの程度重く見るかは,裁判官に示された資料が先行手続の実態を正確に伝えていたかどうかによって変わると考える(判例が直接このように述べたものではない)。
令状請求の資料に虚偽記載や重要事実の省略がある場合の検討の手順は,捜査報告書や令状請求資料に虚偽記載・重要事実の省略がある場合―違法収集証拠と後続令状で整理している。
第6 司法試験での出題例
令和6年司法試験の論文式試験の刑事系科目第2問〔設問1〕は,所持品検査で注射器を見つけた後,捜索差押許可状によって差し押さえた覚醒剤の鑑定書の証拠能力を問うものであった。
法務省の出題の趣旨は,所持品検査の限界と違法収集証拠排除法則の理解を問うものとし,令状の疎明資料とされた二つの捜査報告書のうち,一方には覚醒剤所持の可能性をうかがわせる事情が記載され,他方には注射器を発見した経過の一部が記載されていない点の意味を丁寧に検討することを求めている。
問題の概要,出題の趣旨・採点実感から抽出した評価項目及び模範解答は,令和6年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付けに掲載している。
第7 関連記事
①令和6年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
②捜査報告書や令状請求資料に虚偽記載・重要事実の省略がある場合―違法収集証拠と後続令状
③職務質問に伴う所持品検査はどこまで許されるか―承諾・必要性・相当性(AI作成)
④宅配便荷物のX線検査と令状主義―最高裁平成21年9月28日決定(AI作成)
⑤職務質問の後「令状が出るまで待て」と留め置かれたら―任意捜査の限界と強制採尿令状の請求準備段階(AI作成)
⑥刑事裁判の書証の証拠能力-伝聞法則・供述調書・同意書面の判断順序(AI作成)
第8 出典
1 裁判例
①最高裁昭和53年9月7日判決(昭和51年(あ)第865号,刑集32巻6号1672頁)
②最高裁昭和61年4月25日判決(昭和60年(あ)第427号,刑集40巻3号215頁)
③最高裁平成7年5月30日決定(平成6年(あ)第894号,刑集49巻5号703頁)
④最高裁平成15年2月14日判決(平成13年(あ)第1678号,刑集57巻2号121頁)
⑤最高裁平成21年9月28日決定(平成19年(あ)第798号,刑集63巻7号868頁)
いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,本記事で用いた判示を確認した。
2 法令
①日本国憲法31条,35条
②刑事訴訟法218条
いずれもe-Gov法令検索で確認した。
3 公的資料
①法務省「令和6年司法試験論文式試験出題の趣旨」(刑事系科目〔第2問〕)
②法務省「令和6年司法試験の採点実感(刑事系科目第2問)」