刑事裁判で書面を証拠として用いるためには,その書面が事件に関係するというだけでは足りず,刑事訴訟法上の証拠能力を備えていなければならない。
とりわけ,人の供述内容を記載した書面には伝聞法則が適用されるため,立証趣旨を確定した上で,刑事訴訟法320条から328条までのどの規定によって証拠とすることができるかを検討する必要がある。
本記事は,令和8年9月7日現在の法令を基準として,供述調書,実況見分調書,鑑定書,同意書面その他の書証について,証拠能力を判断する順序を整理するものである。
個別事件では,書面の作成経過,供述者の出廷可能性,立証趣旨,証拠調べ請求の方法及び相手方の意見によって結論が異なる。
第1 書証の証拠能力を判断する順序
1 最初に立証趣旨を確定する
書面が伝聞証拠に当たるかどうかは,書面の名称だけでなく,その書面によって何を証明しようとするかによって決まる。
例えば,供述調書に記載された供述内容が真実であることを証明するために用いる場合は,原則として伝聞証拠となる。
これに対し,脅迫文言が記載された文書を脅迫行為そのものの存在を示すために用いる場合や,ある発言を聞いた者の認識又はその後の行動を説明するために用いる場合は,その発言内容の真実性を立証するものではないため,伝聞証拠に当たらないことがある。
録音,録画又は写真であっても,機械的に記録された客観的な状況を立証するのか,人の供述内容の真実性を立証するのかを区別しなければならない。
現場再現を撮影した写真又は録画は,撮影方法に関する記録であると同時に,再現者の供述を動作として記録したものでもあり得るため,複数の伝聞問題が生じることがある。
2 証拠能力と証明力等を区別する
証拠能力は,その証拠を事実認定の資料として用いることが法律上許されるかという問題である。
証明力は,証拠能力がある証拠をどの程度信用し,どの程度の重みを与えるかという別の問題である。
書面の作成者,原本性,同一性又は改変の有無に関する真正の問題も,伝聞例外の要件とは区別して検討する必要がある。
さらに,違法収集証拠に当たるか,証拠調べ請求が適切にされているかという問題も,伝聞法則とは別の検討項目である。
違法収集証拠では,書面が伝聞例外に該当するかとは別に,原捜査の違法性,違法の重大性,後続令状及び派生証拠との関連性を検討する。捜査報告書の虚偽記載・重要事実の省略を含む検討手順は,「捜査報告書や令状請求資料に虚偽記載・重要事実の省略がある場合―違法収集証拠と後続令状」を参照されたい。
実務上は,①立証趣旨,②伝聞証拠該当性,③伝聞例外又は同意の根拠条文,④作成者及び同一性,⑤証拠調べの方法,⑥証明力の順に整理すると,論点の混同を避けやすい。
第2 伝聞法則と伝聞例外の全体像
1 刑事訴訟法320条の原則
刑事訴訟法320条1項は,刑事訴訟法321条から328条までに定める場合を除き,公判期日における供述に代えて書面を証拠とし,又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることができないと定めている。
これは,原供述者を公判廷で尋問し,供述時の知覚,記憶,表現及び真摯性を吟味する機会がない供述証拠を原則として排除するものである。
もっとも,刑事訴訟法320条は,刑事訴訟法321条から328条までに定める伝聞例外,同意書面,合意書面及び証明力を争うための証拠を認めている。
したがって,伝聞証拠に当たると判断した後は,直ちに証拠能力がないと結論付けるのではなく,該当する例外規定を検討することになる。
2 供述書と供述録取書
刑事訴訟法321条1項が対象とするのは,①被告人以外の者が自ら作成した供述書と,②その者の供述を別の者が録取した書面で,供述者の署名又は押印のあるものである。条文の「供述者の署名又は押印のあるもの」という文言は,後者の供述録取書に係る。
供述者自身が内容を記載した日記,始末書又はメモ等が供述書であり,捜査官等が供述を聴き取って記載した供述調書等が供述録取書である。供述書についても,作成者の特定,真正作成,同一性及び改変の有無は別途立証を要するが,それを供述録取書に関する署名・押印の要件と混同してはならない。
供述録取書では,録取者が原供述を正しく記載したかという問題と,原供述者の供述内容が信用できるかという問題が重なる。録取者の公判供述だけで,原供述者の供述内容まで当然に証拠となるわけではない。
| 確認事項 | 供述書 | 供述録取書 |
|---|---|---|
| 内容を供述した者 | 書面の作成者本人 | 原供述者 |
| 文字を記載した者 | 通常は供述者本人 | 捜査官その他の録取者 |
| 321条1項の署名・押印 | 条文上,供述録取書と同じ形では要求されていない | 原供述者の署名又は押印が必要 |
| 別に確認する事項 | 作成者,真正作成,同一性,改変,立証趣旨 | 録取の正確性,原供述者,署名・押印,同一性,立証趣旨 |
| 内容の真実性に用いる場合 | 原則として伝聞証拠であり,書面・供述者・作成経過に応じた伝聞例外又は同意を検討する | |
実務では,同じ文書でも,要証事実によって伝聞性の結論が変わり得る。例えば,脅迫文言が記載された手紙は,その文言を相手に伝えた行為自体の立証には非伝聞となり得る一方,手紙に記載された過去の事実が真実であることの立証には伝聞となり得る。
簡便な確認方法として,問題となる供述内容を文書から除いた場合に,要証事実に対する証拠価値が失われるかを考えることができる。内容を除けば証拠価値が失われ,その価値が供述内容の正確性に依存しているなら,伝聞法則の危険が残る可能性が高い。ただし,これは立証趣旨を点検するための実務上の手掛かりであり,法律上の独立した判定基準ではない。
3 伝聞例外の分類
刑事訴訟法321条1項は,被告人以外の者の供述書及び供述録取書を,裁判官面前調書,検察官面前調書及びそれ以外の書面に分けている。
同条2項から4項までは,公判調書,裁判官の検証調書,捜査官の検証調書及び鑑定書等について,別個の要件を定めている。
さらに,刑事訴訟法321条の2は他の手続でされたビデオリンク方式による証人尋問の記録を,同法321条の3は一定の被害者等の供述を記録した録音録画記録媒体を,同法322条は被告人の供述書等を,同法323条は特に信用すべき書面をそれぞれ対象としている。
書証を「1号書面,2号書面,3号書面」だけで分類すると,同法321条2項から4項まで又は同法323条の書面と混同しやすいため,根拠条文と項号を併記することが望ましい。
第3 被告人以外の者の供述書等-刑事訴訟法321条1項
1 裁判官面前調書
刑事訴訟法321条1項1号は,裁判官の面前における供述を録取した書面について,供述者が死亡,心身の故障,所在不明又は国外所在のため公判で供述できないとき,又は公判で前の供述と異なる供述をしたときに証拠能力を認めている。
裁判官の面前で作成されたことが制度上の信用性を支えるが,常に反対尋問が実施済みであることを意味するものではない。
2 検察官面前調書
刑事訴訟法321条1項2号前段は,供述者が死亡,心身の故障,所在不明又は国外所在のため公判で供述できない場合を定めている。
この場合,条文上は,公判供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況を別途の要件として掲げていない。
もっとも,国側が供述者の国外退去を利用して被告人の反対尋問の機会を失わせるなど,手続的正義の観点から公正さを欠く事情があれば,形式的に国外所在となっただけで証拠能力が当然に認められるわけではない。
最高裁平成7年6月20日第三小法廷判決・平成2年(あ)第72号は,国外退去となった供述者の検察官面前調書について,国家機関がその国外退去を利用して反対尋問の機会を失わせた場合には,手続的正義の観点から同号前段の適用を否定すべきことがあるとした上で,同事件ではそのような事情はないと判断した。
刑事訴訟法321条1項2号後段は,供述者が公判で前の供述と相反し,又は実質的に異なる供述をした場合を定めている。
この場合は,検察官に対する前の供述を公判供述よりも信用すべき特別の情況が存在するときに限り,検察官面前調書を証拠とすることができる。
この特別の情況は,単に前の供述内容が詳しい,一貫している又は捜査官が信用したというだけでなく,供述当時の取調べ状況,供述に至る経緯,利害関係,時間的近接性その他の外部的事情を中心に判断される。
個々の事情は総合評価の資料であり,特定の事情が一つあれば直ちに要件を満たすというものではない。
3 それ以外の供述書等
刑事訴訟法321条1項3号は,同項1号及び2号に掲げる書面以外の供述書又は供述録取書を対象とする。
この書面は,供述者が死亡,心身の故障,所在不明又は国外所在のため公判で供述できず,その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができず,かつ,その供述が特に信用すべき情況の下でされたときに限って証拠とすることができる。
同号の対象は,警察官面前調書に限られず,被告人以外の者が作成した供述書や,他の者が録取して供述者の署名又は押印を得た書面のうち,1号及び2号に該当しないものを含む。
同号の「欠くことができない」必要性と「特に信用すべき情況」は,いずれも独立して検討する必要がある。
4 私的な日記・メモを提出された場合
日記,手帳又は私的なメモも,名称だけで伝聞証拠になるかが決まるわけではない。最初に,その文書を何のために使うのかを一文で固定する必要がある。
| 立証趣旨 | 伝聞性の整理 | 残る確認事項 |
|---|---|---|
| 文書の存在,作成時期,所持場所又は筆跡の一致 | 記載内容の真実性を用いない限度では非伝聞となり得る | 作成者,同一性,改変の有無及び事案との関連性 |
| 記載内容の真実性 | 原則として伝聞証拠 | 作成者が被告人以外なら刑事訴訟法321条1項,被告人なら同法322条等 |
| 記載内容を知っていたこと又は指示を受けたこと | 推認の過程で内容の真実性を必要とするかを個別に確認 | 迂回的に内容の真実性を用いていないか |
「本人が作成した文書である」ことと,「記載された事実が真実である」ことは別の命題である。筆跡,保管場所,端末情報その他から作成者が特定できても,そのことだけで記載内容の真実性又は信用性が認められるわけではない。
(1) 犯行前メモと客観的事実の不自然な一致
犯罪事実を映像,物証又は別の供述等で独立に立証した上で,犯行前に存在したと認められるメモが,通常は偶然に知り得ない犯行の時刻,場所,方法等と不自然に一致するときは,その一致自体から,作成者が計画を知り,又は関与していたことを推認する余地がある。この推論は,メモに書かれた各命題が真実であるからではなく,犯行前からその記載が存在したことと,独立に立証された客観的事実との符合を用いる。
(2) 作成時の心理状態
メモの記載から,作成時の計画,意図又は認識それ自体を立証する場合も,過去の外部事実を正しく知覚・記憶したかという伝聞法則の典型的な危険が問題にならないことがある。ただし,虚偽の計画を書いた可能性や他人に見せるため演出した可能性は残るため,秘密の保管状況,作成時期,前後の行動及び改変の有無から,記載の真摯性と推認力を検討する。
(3) 非伝聞の推論で完結するなら伝聞例外へ進まない
立証趣旨が前記二つの非伝聞ルートで完結するなら,「念のため」に刑事訴訟法321条又は322条を重ねて適用する必要はない。別の立証趣旨として記載内容の真実性を用いるときに限り,その部分について伝聞例外を検討する。実質的には内容の真実性を使いながら,形式上だけ「存在」又は「心理状態」と言い換えることはできない。
被告人以外の者が作成した私的メモを内容の真実性の立証に用いる場合,裁判官面前調書又は検察官面前調書でなければ,通常は刑事訴訟法321条1項3号の供述書として,供述不能,犯罪事実の証明に欠くことができないこと及び特に信用すべき情況をそれぞれ検討する。作成者が被告人である場合は,同法322条1項の不利益事実の承認又は特に信用すべき情況と,任意性を分けて検討する。
証言拒絶について,最高裁昭和27年4月9日大法廷判決は,刑事訴訟法321条1項2号前段の列挙事由を限定列挙とはせず,証人が証言を拒絶する場合も供述不能に含み得るとした。広島高裁岡山支部平成27年3月18日判決は同判例を引用しつつ,単に証言拒絶があっただけでは足りず,供述態度や拒絶理由等から尋問が不可能又は困難であることを要し,一時的な拒絶では足りないと説明している。
令和3年司法試験の公式「出題の趣旨」は,同項3号の「供述することができない」についても,この判例群を踏まえて証言拒絶を検討対象としている。もっとも,拒絶があれば自動的に3号該当となるわけではない。拒絶の法的根拠,範囲,理由,継続性,遮へい・ビデオリンク等の措置後の態度,尋問再開の見込み及び他の証拠による代替可能性を具体的に確認する必要がある。
第4 検証調書,鑑定書及び特に信用すべき書面
1 公判調書等及び裁判官の検証調書
刑事訴訟法321条2項は,被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面,又は裁判所若しくは裁判官の検証結果を記載した書面について,伝聞法則の例外を定めている。
ただし,同項の書面であっても,その書面が何を証明するために提出されるか,対象となる記載が同項の範囲内か,原本性又は同一性が認められるかという問題は残る。
2 捜査官の検証調書等
刑事訴訟法321条3項は,検察官,検察事務官又は司法警察職員の検証結果を記載した書面について,作成者が公判で証人として尋問を受け,その真正に作成されたことを供述した場合に証拠能力を認めている。
実況見分調書も,任意処分として行われた実況見分の結果を捜査官が記載した書面として,同項の要件により証拠能力が判断されるのが一般的である。
もっとも,実況見分調書に立会人又は被疑者の説明若しくは再現行為が記録されている場合,作成者の真正作成供述だけで,その説明又は再現内容の真実性まで当然に証拠となるものではない。
最高裁平成17年9月27日第二小法廷決定・平成17年(あ)第684号は,犯行再現状況を撮影した写真を含む実況見分調書について,捜査官による実況見分の経過及び結果の記録としての要件に加え,再現者の供述を記録した部分には供述証拠としての伝聞例外の要件が必要であるとした。
再現調書を四つの層に分ける
犯行再現を含む実況見分調書は,書面全体を一括して判断せず,少なくとも次の四つに分けて立証趣旨と証拠能力を検討する必要がある。
| 層 | 内容 | 主な検討 |
|---|---|---|
| 捜査官の観察 | 現場の形状,距離,明るさ,作業手順など | 刑事訴訟法321条3項の真正作成供述 |
| 機械的な記録 | 写真や動画が撮影した外形 | 撮影対象・方法・同一性に加え,何を立証するために用いるか |
| 再現者の動作 | 指さし,移動,手順の再現など | 過去の事実を動作で供述したものか,現在の技能・状態をその場で示したものか |
| 再現者の発言 | 犯行経過,被害状況,位置関係の説明 | 再現者が被告人以外なら321条1項2号又は3号,被告人なら322条1項等 |
例えば,模型の錠前をその場で開けられること自体を示す実験は,現在の技能を直接観察した記録として評価できる余地がある。これに対し,「過去の犯行時にもこの手順で開けた」という再現は,過去の経験を動作で表現した供述として伝聞性を検討する必要がある。写真であるという形式だけで非伝聞になるわけではない。
現在の技能の実演と過去の犯行再現
| 要証事実 | 動作・写真 | その場の説明 |
|---|---|---|
| 再現時に模型の錠前を開けられる能力があったこと | 現在の能力をその場で直接観察した記録として,非伝聞となり得る | 作業を理解するための同時説明で,内容の真実性を独立に立証するものでなければ,非伝聞となり得る |
| 過去の犯行時に実際にその手順で錠前を開けたこと | 過去の経験を動作で表現した供述として,伝聞性を検討する | 過去の犯行経過を述べる供述として,供述者ごとの伝聞例外を検討する |
非伝聞と評価した行為・写真・説明について,刑事訴訟法321条1項又は322条の伝聞例外を重ねて適用する必要はない。反対に,過去の事実を立証する供述部分は,写真又は動作という形式だけで非伝聞になるわけではない。どの情報層を,どの要証事実のために用いるのかを先に固定することが重要である。
再現者である被害者が死亡している場合でも,被害者の検察官面前調書が刑事訴訟法321条1項2号によって証拠となり得ることから,別に作成された再現実況見分調書の再現部分まで当然に証拠となるわけではない。各書面,各供述者及び各記録部分について,それぞれ伝聞例外の要件を満たすかを確認する必要がある。
弁護人の証拠意見も,書面全体の「同意・不同意」だけでなく,①再現者の動作・発言を含む部分は不同意,②捜査官が直接観察した現場状況だけ同意,③撮影日時・場所又は現場の形状を示す限度に立証趣旨を限定,④被告人の再現について任意性を争う,という形で部分ごとに検討できる。
交通事故の実況見分調書については,交通事故の実況見分の留意点も参照されたい。
3 鑑定書等
刑事訴訟法321条4項は,鑑定の経過及び結果を記載した書面で,鑑定人が作成し,公判でその真正に作成されたことを供述したものについて,同条3項と同様の伝聞例外を認めている。
専門家の作成した書面というだけで証拠能力が生じるのではなく,作成主体,内容及び真正作成供述の要件を確認する必要がある。
4 刑事訴訟法323条の書面
刑事訴訟法323条は,①戸籍謄本,公正証書謄本その他公務員が職務上証明することができる事実について作成した書面,②商業帳簿,航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面,③前二号のほか特に信用すべき情況の下に作成された書面を証拠とすることができると定めている。
これらは,定型的な作成目的及び作成過程等による信用性を基礎とするため,供述者の死亡等を要件としない。
公務員が作成した書面であっても,職務上証明することができる事実を記載した書面に当たるかを個別に検討する必要がある。
また,裁判書は,裁判又は裁判書が存在することの証明と,その裁判書中の事実認定が真実であることの証明とで立証趣旨が異なるため,刑事訴訟法323条によって後者まで当然に証明できるとは限らない。
前科調書については,前科調書等に関する記事も参照されたい。
第5 ビデオリンク記録と録音録画記録媒体
1 他の手続におけるビデオリンク証人尋問の記録
刑事訴訟法321条の2第1項は,被告事件の公判準備若しくは公判期日における手続以外の刑事手続又は他の事件の刑事手続において,刑事訴訟法157条の6第1項又は第2項に規定する方法によってされた証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体がその一部とされた調書について,証拠能力を認めている。
ただし,その調書を取り調べた後,訴訟関係人にその供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。
刑事訴訟法157条の6及び305条5項は,令和7年法律第39号による改正後の条文であり,令和8年5月21日に施行された。
そのため,改正前の刑事訴訟法157条の4又は305条3項を前提とする解説は,現在の条文番号に読み替える必要がある。
2 一定の被害者等の供述を記録した記録媒体
刑事訴訟法321条の3は,令和5年法律第66号により新設され,令和5年12月15日に施行された。
同条は,刑事訴訟法321条1項の規定にかかわらず,一定の被害者等の供述を録音録画した記録媒体について,所定の要件の下で証拠能力を認めるものである。
被疑者取調べの録音・録画とは別制度
刑事訴訟法301条の2は,一定の事件における逮捕・勾留中の被疑者の取調べ等について,録音・録画の義務と記録媒体の取調べに関する仕組みを定める。これに対し,同法321条の3は,同条1項1号に掲げる一定の被害者等の供述を記録した媒体を,所定の要件の下で証拠とすることができる伝聞例外である。録音・録画という共通点だけで両制度を同一視することはできず,刑事訴訟法301条の2による記録があるという一事だけで,被疑者供述の証拠能力又は信用性が当然に認められるものではない。
主な要件は,供述の開始から終了までを同時に録音録画すること,供述者の不安又は緊張を緩和し,誘導をできる限り避けるなどの特別の配慮の下で供述がされたこと,聴取に至る事情及び聴取方法等を考慮して相当と認められること,記録媒体を取り調べた後に訴訟関係人が供述者を証人として尋問する機会を与えられることである。
録音録画されているという一事だけで証拠能力が認められる制度ではない。
刑事訴訟法321条の3による証拠能力の判断と,記録された供述の信用性の評価は区別される。
弁護側では,初回供述の内容,聴取者及び同席者,質問形式,聴取回数及び間隔,聴取前に与えられた情報,供述の変遷並びに供述者の発達特性及び心理状態を,録音録画と関係資料から検討する必要がある。
法務省の令和7年版犯罪白書によれば,児童が被害者又は参考人である事件では,検察,警察及び児童相談所が協議し,代表者が司法面接的手法を用いて児童から聴取する取組が行われている。
代表者聴取であるという外形だけで信用性を評価せず,事前の情報共有,聴取の設計,実際の質問及び聴取後の情報伝達を個別に確認する必要がある。
司法面接及び代表者聴取と刑事訴訟法321条の3の関係については,司法面接・代表者聴取とは-刑訴法321条の3の証拠能力と供述の信用性(AI作成)も参照されたい。
第6 被告人の供述と任意性
1 刑事訴訟法322条
刑事訴訟法322条1項は,被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で,被告人の署名若しくは押印があるものについて,不利益な事実の承認を内容とするとき,又は特に信用すべき情況の下でされた供述を内容とするときに限り,証拠とすることができると定めている。
被告人の供述書等に認められる伝聞例外は,単純に「本人は自分に不利な虚偽を述べない」という経験則だけで説明できるものではなく,刑事訴訟法319条の自白法則と併せて理解する必要がある。
刑事訴訟法319条1項は,強制,拷問若しくは脅迫による自白,不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白又は任意にされたものでない疑いのある自白を証拠とすることができないと定めている。
同条2項は,被告人の自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には有罪とすることができないという補強法則を定めている。
取調べ一般については,警察官及び検察官による取調べも参照されたい。
2 刑事訴訟法325条による任意性の調査
刑事訴訟法325条は,刑事訴訟法321条から324条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であっても,あらかじめその供述が任意にされたものかを調査した後でなければ,これを証拠とすることができないと定めている。
最高裁昭和54年10月16日第三小法廷決定・昭和53年(あ)第1861号は,同条の調査を証拠調べより前に必ず終えなければならないわけではなく,証拠調べ後であっても証拠として評価する前に行えば足りるとした。
3 自白法則と違法収集証拠排除法則の関係
自白の証拠能力を検討するときは,刑事訴訟法319条1項の自白法則と,判例上形成された違法収集証拠排除法則を漫然と並べるだけでは足りない。両法則が自白にどう適用されるかについて,おおむね次の理論類型が議論されている。
| 理論類型 | 基本的な考え方 | 答案・実務メモで示す事項 |
|---|---|---|
| 任意性一元説 | 自白の証拠能力は任意性の観点から判断し,自白に違法収集証拠排除法則を別途適用しない。 | 任意性判断が手続違法をどこまで取り込むか。 |
| 違法排除一元説 | 違法収集証拠排除法則を一般法則,自白法則をその特則と捉える。 | 自白法則の根拠と一般的排除法則との関係。 |
| 二元説 | 任意性の観点とは別に,自白にも違法収集証拠排除法則を適用し得る。 | 二つのゲートの順序,各法則の独自の根拠及び重複評価の回避。 |
どの立場を採る場合でも,①自白法則の根拠と判断基準,②違法収集証拠排除法則の根拠と判断基準,③両法則の適用関係,④取調べの適法性判断との整合性を順に示す。証拠物について最高裁昭和53年9月7日判決が示した排除基準を自白へ用いるなら,取調べは通常,令状主義違反そのものではないことを踏まえ,適正手続,黙秘権,人権保障及び将来の違法捜査抑止との関係から移植理由を説明する必要がある。
具体的事実は,長時間,徹夜,睡眠・食事,疲労の外形,退去・中断可能性,偽計の内容・程度,心理的圧迫,黙秘権行使への影響及び自白までの時間的連鎖として評価する。事情を一つずつ孤立させず,前問又は前段で適法・違法と評価した理由を後段でも一貫して用いる。
また,「自白」とそれを録取した「自白調書」を,当然に第一次証拠と派生証拠の関係として扱わない。供述内容と録取媒体の関係,後続して得られた物証・供述との因果的関連,独立入手源又は希薄化の有無を分ける。
令和2年度司法試験刑事系の公式出題趣旨は,任意性一元説,違法排除一元説及び二元説のいずれも検討可能とした上で,自説の根拠と基準を示すことを求めた。これは出題・採点意図の一次資料であり,個別事件でいずれの見解を採用すべきか又は裁判所がどう判断するかは,判決原文及び事件記録で別に確認する。
第7 同意書面,合意書面及び証明力を争うための証拠
1 刑事訴訟法326条の同意書面
刑事訴訟法326条1項は,検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述について,裁判所が作成時の情況を考慮して相当と認めるときに限り,刑事訴訟法321条から325条までの規定にかかわらず証拠とすることができると定めている。
弁護人が選任されている事件では弁護人が証拠意見を述べるのが通常であるが,条文上の同意主体は検察官及び被告人である。
同条2項は,被告人が出頭しなければならないのに出頭せず,代理人又は弁護人も出頭しない場合に,その不出頭が許されないものであれば,被告人が同意したものとみなす旨を定めている。
同意がある場合でも,裁判所による相当性判断が不要になるわけではない。
同意の法的効果については,同意によって証拠能力が付与されるとする説明のほか,同意によって伝聞証拠としての性質が除かれるにとどまるとする説明がある。
いずれの説明によっても,同意があれば任意性を欠く自白その他の理由で証拠能力が否定される証拠まで許容されることになるわけではない。
また,供述調書を証拠とすることへの同意と,原供述者を証人として尋問する機会を求めることとは別の問題であり,同意したことから直ちに原供述者に対する反対尋問の機会を放棄したことになるとは限らない。
2 刑事訴訟法327条の合意書面
刑事訴訟法327条は,検察官と被告人又は弁護人が合意の上,文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述すると予想される内容を記載した書面を提出したとき,その書面を証拠とすることができると定めている。
合意書面の対象となった事実についても,証明力を争うことはできる。
合意書面の法的性質については,合意を実質的な証拠とみる説明と,証拠能力を与える訴訟行為とみる説明がある。
いずれの説明によっても,合意書面が提出されたというだけで記載事実の証明力が確定するわけではない。
3 刑事訴訟法328条の弾劾証拠
刑事訴訟法328条は,刑事訴訟法321条から324条までの規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述の証明力を争うためには,これを証拠とすることができると定めている。
同条は,伝聞証拠を犯罪事実の証明に転用するための一般的な例外ではない。
最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決・平成17年(あ)第378号は,刑事訴訟法328条により許容される証拠は,「信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られる」とした。
同判決の事案では,証人から聴き取った内容を記載した書面に証人の署名押印がなかったため,供述を録取した書面に当たらないとされた。
したがって,第三者自身の供述は同条の対象とならず,本人の供述を記載した書面でも,署名押印を欠く録取書は,これと同視し得る事情がない限り同条によっても用いることができない。
第8 証拠調べと証拠開示
1 書証の朗読又は要旨の告知
刑事訴訟法305条1項は,請求による証拠書類の取調べについて朗読を原則とし,取調べを請求した者に朗読させること,ただし裁判長が自ら朗読し,又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記官に朗読させることができる旨を定めている。
朗読に代えて要旨を告げることができる直接の根拠は同項そのものではなく,刑事訴訟規則203条の2第1項である。同項は,裁判長が訴訟関係人の意見を聴き,相当と認めるときに,取調べを請求した者等に要旨を告げさせ,又は自ら要旨を告げることができるとしている。
刑事訴訟法302条は,刑事訴訟法321条から323条まで又は326条により証拠とすることができ,かつ,捜査記録の一部である書面について,その取調べに先立って供述者又は作成者を証人として尋問する場合を定めている。
同条は,伝聞例外となる全ての書面について必ず作成者等を先に尋問するという一般原則ではなく,対象条文,捜査記録該当性及び尋問対象を確認して適用する必要がある。
書証の取調べ方法については,証拠書類の朗読及び要旨の告知も参照されたい。
2 証拠開示は別の手続問題である
証拠開示は,書面に証拠能力があるかという問題ではなく,当事者が相手方保有の証拠を公判準備のために知り,利用できるようにする手続の問題である。
現行法では,刑事訴訟法299条の事前の証拠閲覧機会に加え,公判前整理手続等における刑事訴訟法316条の14の請求証拠開示,同法316条の15の類型証拠開示,同法316条の20の主張関連証拠開示及び同法316条の26の開示命令が定められている。
旧来の最高裁決定は現行制度の形成過程を理解する資料となるが,現在の証拠開示の説明は,まず現行条文を基準とすべきである。
刑事事件記録の種類及び取扱いについては,刑事事件記録に関する記事一覧も参照されたい。
第9 出典・参考資料
1 法令及び改正法資料
① e-Gov法令検索・刑事訴訟法
② 法務省・性犯罪に対処するための刑法等の一部を改正する法律案
③ 法務省・刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(令和7年法律第39号)
④ 裁判所・刑事訴訟規則(令和8年5月21日現在)
⑤ 法務省・令和7年版犯罪白書「司法面接的手法を用いた代表者聴取」
2 裁判例
① 最高裁平成7年6月20日第三小法廷判決・平成2年(あ)第72号・刑集49巻6号741頁
② 最高裁平成17年9月27日第二小法廷決定・平成17年(あ)第684号・刑集59巻7号753頁
③ 最高裁昭和54年10月16日第三小法廷決定・昭和53年(あ)第1861号・刑集33巻6号633頁
④ 最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決・平成17年(あ)第378号・刑集60巻9号561頁
⑤ 証言拒絶と刑事訴訟法321条1項1号・2号の供述不能事由を扱った高裁判決。
⑥ 広島高裁岡山支部平成27年3月18日判決(最高裁昭和27年4月9日大法廷判決を引用し,証言拒絶の継続性等を検討)。
⑦ 法務省「令和3年司法試験論文式試験出題の趣旨」(刑事系部分)。
⑧ 法務省「令和3年司法試験の採点実感(刑事系科目)」。
⑨ 法務省「令和2年司法試験の出題の趣旨」(刑事系科目部分)
⑩ 法務省「令和2年司法試験の採点実感(刑事系科目)」
3 文献
① 伊丹俊彦・合田悦三編集代表『逐条実務刑事訴訟法』立花書房,平成30年,874頁~888頁及び900頁~920頁
② 吉開多一・緑大輔・設楽あづさ・國井恒志『基本刑事訴訟法Ⅱ[第2版]論点理解編』日本評論社,令和7年,316頁
令和2年度刑事系に関する追記は,対象年度の未読復元を固定した後に公式資料と照合して作成した。判例秘書は本追記では未検索であり,個別事件の裁判例網羅性は確認していない。