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平成30年司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した44項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,平成30年司法試験の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)を対象に,法務省の出題の趣旨と採点実感から評価事項を抽出し,答案に即して具体化した44項目を示すものである。
5段階の重みは記事独自の分析であり,法務省の採点基準や配点ではない。

項目内容
対象平成30年司法試験・刑事系科目第2問(刑事訴訟法)
公式問題文刑事系問題冊子の実頁5~9(資料1・2を含む。)
答案の基準時本問で設定された平成30年当時。関連条文は平成29年7月13日版の刑事訴訟法で確認
出題の趣旨本問部分(実頁17の〔第2問〕冒頭~実頁19の【選択科目】の直前)を参照
採点実感本問部分(刑事系科目PDFの実頁6~12,第2問)を参照
主な事項秘密の動画撮影,私的領域,伝聞法則,自己作成供述書,領収書の二つの使用方法
項目と重み全44項目。重み5は17項目。重みの単純合計は185
答案分量見出し・空白を含め,改行を除いて4854字(5000字以内)
主要判例最高裁大法廷昭和44年12月24日判決ほか(書誌は第7の3)
試験後の改正本記事は過去問の検討。現行実務に用いる際の改正法との全面対照は行っていない
確認日令和8年10月25日

答案では,①の公道上の撮影は適法,②の遮蔽された事務所内の望遠撮影は強制処分に当たり無令状のため違法とする。
メモは321条1項3号により,領収書は伝聞使用なら322条1項により証拠能力を認め,非伝聞使用の推論も別に示す。
評価項目は第4に,答案と解説は第5に掲げる。

重み5の中心は,強制処分の法的規律・区別基準と比例原則,事務所内部の撮影による利益侵害,伝聞法則と立証趣旨の保持,メモの伝聞性・例外規定,領収書の両用法と非伝聞の推論である。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

公式資料の要求を,一つの判定対象ごとに整理した。
番号は記事全体で連続し,通常の項目,誤りを避ける注意,採用した立場によって必要となる許容分岐を区別する。
根拠欄には,各PDFの実頁と短い原文を示す。
「間接」は,一般的な要求を本問の事情に即して具体化したものである。
「記載なし」は,その資料の本問部分に対応する記載がないことを示す。

番号24は番号23の裏返しの注意であり,番号44は全体の親項目である。
いずれも項目として掲げるが,独立の得点のように重ねて加算するものではない。
番号17と番号18・19は,採用する構成に応じて使い分ける。

2 5段階の重み付けの基準

重み本記事の基準
5答案の中核又は評価の分かれ目
4主要な理由付け・具体的当てはめ
3通常の論述事項
2補強・誤解防止の注意
1補足事項

注意事項も,内容の重要性に応じて重み1~5で判断する。
注意だからといって一律に重み2とはしない。
重みの件数や合計から,合格可能性,難易度又は公式得点を推定することはできない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

問題全文と資料は,法務省の刑事系問題PDFにある。
A工務店の者と名乗る男に屋根裏工事代金100万円を支払ったVが,犯人から受け取った領収書と,同日夜に自筆で記した欺罔文言のメモを提出した事件である。
Pらは,事務所から出た男の姿を公道上の車両内から約20秒撮影し,後に,向かいのマンションの2階通路から小窓越しに事務所内の工具箱を望遠で約5秒撮影した。
Vはその後,脳梗塞により供述できない状態となり,甲の公判では,メモと領収書の証拠能力が争われる。

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・仮定・除外到達点
1捜査①・②撮影時点までの事情から各行為を別々に評価適法性
2の1V作成のメモ甲が記載文言をVに述べたという立証趣旨を維持。弁護人不同意伝聞性・例外・証拠能力
2の2甲作成の領収書甲の作成及びVへの交付は認定可能。現金受領という同じ立証趣旨で複数の用法を検討両用法それぞれの証拠能力

設問1が問うのは各捜査の適法性であり,映像自体の証拠排除までは問われていない。
メモの内側の欺罔文言と外側のVの報告,領収書の内容を真実の報告として用いる経路と作成・交付行為を用いる経路を,それぞれ区別することが重要である。

第4 評価項目と重み

1 設問1・撮影による捜査

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1197条1項ただし書と強制処分法定主義の意味を示す5直接・実頁17「根拠となる特別の規定がある場合に限って許される」直接・実頁7「強制処分法定主義の意義」
2意思に反する重要な権利利益の実質的制約を区別基準とする5直接・実頁17「強制処分と任意処分とを区別する基準を提示」直接・実頁7「重要な権利・利益を実質的に制約する処分」
3重要な権利利益に限る理由と基準の文言の趣旨を説明する4間接(一般的要求の具体化)・実頁17「強制処分に対する規律の趣旨・根拠」間接(一般的要求の具体化)・実頁8「なぜ「重要な」権利・利益の制約を伴う場合に限られるのか」
4【注意】秘密撮影で現実の反対意思がないことだけから強制性を否定しない4記載なし直接・実頁8「現実に甲の反対意思が制圧された事実がないことのみ」
5みだりに容ぼう姿態を撮影されない自由を具体的利益として示す4直接・実頁18「いかなる権利・利益が制約され得るかを具体的に指摘」直接・実頁8「みだりにその容ぼう等を撮影されない自由」
6【注意】公道上の観察可能性を撮影されない自由の放棄と同一視しない3記載なし直接・実頁8「「観察」されることと「撮影」されることの違い」
7秘密撮影・公道・施錠後の動き・20秒を強制性の基準で評価する4直接・実頁18「約20秒間にわたり撮影したこと等の具体的事実」直接・実頁7「事例中から抽出した具体的事実を分析・検討」
8比例原則により具体的手段の必要性と侵害の程度を比較衡量する5直接・実頁17「必要性とを比較衡量する」直接・実頁8「法益侵害の内容・程度」
9100万円の詐欺という犯罪の性質重大性を必要性に結び付ける3間接(一般的要求の具体化)・実頁18「被害額100万円の詐欺事案」間接(一般的要求の具体化)・実頁8「本件の捜査一般の必要性」
10領収書の店名住所・男の出入りから被写体選択の嫌疑を評価する4直接・実頁18「被撮影者はA工務店事務所に出入りする人物」直接・実頁8「その嫌疑の内容及び程度」
11Vの顔の記憶が弱い点と動画の保存再現という方法選択を結ぶ4間接(一般的要求の具体化)・実頁18「Vは犯人の顔をよく覚えていない旨供述」間接(一般的要求の具体化)・実頁8「ビデオカメラによる撮影という方法を採る必要性」
12公道上の車内・時間対象の限定を必要性と衡量して結論を示す4直接・実頁18「公道上に駐車した車両内」直接・実頁8「相互関係を十分に検討」
13人物が映らなくても営業拠点内部を撮影されない利益を識別する5直接・実頁18「私的領域たる性格が認められる場所」直接・実頁8「みだりに個人の営業拠点である事務所内を撮影されない自由」
14不特定多数の出入りを予定しない事務所・遮蔽・公道から不可視を評価する4直接・実頁18「不特定多数の客が出入りすることが想定されていない」直接・実頁9「外部から室内を見られないことを合理的に期待」
15望遠による小窓越し撮影を私的領域への無形的侵入として検討する5直接・実頁18「通常,事務所内に侵入しなければ確認できない」直接・実頁9「私的な性質を帯びる領域への無形的な方法による侵入」
16管理人の承諾と甲の利益を区別し5秒・工具箱限定の反対事情を衡量する4間接(一般的要求の具体化)・実頁18「約5秒間にわたり撮影」間接(一般的要求の具体化)・実頁9「撮影対象の所在する場所の性質」
17【許容分岐】強制処分とする場合は既存類型・実体手続要件と無令状の適否まで接続する(②を強制処分とする場合)5直接・実頁17「法定された既存の強制処分の類型」直接・実頁8「強制処分に該当すると結論付ける答案が大半」
18【許容分岐】任意処分とする場合も①との利益と方法の相違を十分評価する(②を任意処分とする場合)5直接・実頁18「任意処分の適否の判断方法に従い」直接・実頁9「結論の説得性に疑問」
19【許容分岐】任意処分枝では嫌疑深化と工具箱の小さい表示・特定目的を具体的に衡量する(②を任意処分とする場合)4間接(一般的要求の具体化)・実頁18「具体的事実を指摘しながら」間接(一般的要求の具体化)・実頁8「特定の具体的な捜査手段を用いる必要性」

2 設問2・伝聞法則とメモ

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
20伝聞法則の趣旨を知覚記憶表現の誤りと反対尋問等の吟味の必要から示す5間接(一般的要求の具体化)・実頁18「伝聞法則の趣旨を踏まえ」間接(一般的要求の具体化)・実頁9「伝聞法則の趣旨を踏まえて十分に論述」
21公判外供述の内容真実性を用法と立証趣旨に即して判定する5直接・実頁19「原供述の内容の真実性を証明するために用いるか否か」直接・実頁6「伝聞と非伝聞を区別する基準」
22指定された各立証趣旨を維持して用法と結論を論じる5直接・実頁19「立証趣旨に則した事実」直接・実頁9「本事例で明示された立証趣旨」
23Vが甲の発言を聞いたというV供述の真実性を要するため伝聞とする5直接・実頁19「Vが作成した「供述書」」直接・実頁9「Vの供述の内容の真実性が問題となる」
24【注意】欺罔文言の内容が虚偽でもメモ全体を非伝聞としない4記載なし直接・実頁9「本件メモの全体を非伝聞証拠とした答案」
25【注意】屋根の不具合の真実性は立証対象でなく再伝聞として例外を累積しない4記載なし直接・実頁9「再伝聞証拠とする答案」
26V自身の供述書を321条1項3号に位置付ける5直接・実頁19「刑事訴訟法第321条第1項第3号」直接・実頁9「被告人以外の者が作成した供述書」
27【注意】自己作成供述書に署名押印を必須とする誤りを避ける3記載なし直接・実頁10「「署名〔又〕は押印」」
28脳梗塞と記憶障害を身体の故障による供述不能へ当てはめる4記載なし間接(一般的要求の具体化)・実頁9「Vの心身の状態が同号に規定された事由」
29【注意】列挙事由への該当を先に調べ不要な例示列挙論へ逸れない2記載なし直接・実頁9「まずはVの心身の状態」
30犯罪事実の証明に不可欠という基準を具体的欺罔文言の証拠状況で評価する4記載なし間接(一般的要求の具体化)・実頁9「その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」
31特信情況は供述内容の信用性を担保する外部的付随事情から判断する4記載なし間接(一般的要求の具体化)・実頁10「供述内容の信用性を担保する外部的付随事情」
32当日夜の記憶・Wの勧め面前自筆・作成経緯を具体的に特信へ結ぶ4記載なし間接(一般的要求の具体化)・実頁10「Vによる本件メモの作成状況や作成に至る経緯」
33各要件の判断を証拠能力の肯否へ接続する3直接・実頁19「伝聞例外の要件を満たすか否か」直接・実頁7「証拠能力に関する結論を導き出している」

3 設問2・領収書の二つの用法

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
34同じ現金受領事実について伝聞使用と非伝聞使用の双方を検討する5直接・実頁19「その双方について検討することが求められる」直接・実頁10「意識的に両者の用法を記述」
35記載内容から現金受領を直接認定する使用は伝聞とする4直接・実頁19「伝聞証拠として用いる場合」直接・実頁10「甲の供述の内容の真実性が問題となる」
36甲作成の供述書として322条1項を適用する5直接・実頁19「刑事訴訟法第322条第1項」直接・実頁10「甲が自ら作成した書面」
37受領事実は否認する甲に不利益な事実の承認であると評価する4記載なし間接(一般的要求の具体化)・実頁10「不利益な事実の承認」
38【注意】不利益事実承認に特信性を追加要求しない3記載なし直接・実頁10「後者についてのみいわゆる「特信性」を要求」
39任意性を作成交付の経緯に即して検討する4記載なし間接(一般的要求の具体化)・実頁10「「任意性」の要件を見落としている」
40【注意】供述書に署名押印を条文上必須とする誤りを避ける3記載なし直接・実頁10「「署名〔又〕は押印」の要件が条文上要求」
41作成及び交付の両事実を情況証拠として用いる5直接・実頁19「作成,交付の事実を併せ考慮」直接・実頁10「甲による本件領収書の作成及びVへの交付」
42領収書の社会的意義に基づく経験則を明示し同一の受領事実を推認する5直接・実頁19「相応の根拠とともに論じる」直接・実頁7「一般に領収書が持つ社会的意義を前提とした経験則」
43【注意】記載内容が真実だから受領があったという迂回を避け伝聞法則を潜脱しない5直接・実頁19「記載内容の真実性とは独立に」直接・実頁7「実質的に伝聞法則の潜脱」

4 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
44法原則の定義暗記や事実羅列にとどまらず意味付けから筋道立てて結論へ進む4間接(一般的要求の具体化)・実頁17「結論に至る思考過程」間接(一般的要求の具体化)・実頁8「それらの事実に関する意味付け」

5 重みの分布

重み5は17項目,4は20項目,3は6項目,2は1項目,1は0項目で,全44項目・重み合計185である。
これは各項目の重みを単純に合計した表示であり,別枝や親子関係を累積した得点表ではない。

重み5は番号1・2・8・13・15・17・18・20・21・22・23・26・34・36・41・42・43である。
番号17と番号18は,②の性質決定に応じた別の分岐である。
番号44は,全体に共通する要求をまとめた項目として,設問別の表から独立させた。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

本問の平成30年当時の法令・判例を前提とし,出題の趣旨・採点実感を踏まえた答案である。
撮影②は,強制処分とする構成を採用する。
任意処分とする構成も公式資料上は排斥されていないが,私的領域の性質を十分に評価した理由付けが必要である。
本文は,見出し・空白を含め,改行を除いて4854字である。
答案内の読点は「、」で表記する。

2 答案

第1 設問1
1 判断の枠組み
 捜査は原則として任意に行うが、強制処分は刑事訴訟法(以下「法」という。)に特別の根拠がなければ許されない(197条1項ただし書)。
強制処分とは、合理的に推認される本人の意思に反し、重要な権利利益を実質的に制約して捜査目的を実現する処分をいう。
重大な権利侵害には法律の特別の授権とこれに伴う手続的統制を要する一方、軽微な制約まで全て特別の規定を要すると必要な捜査を妨げるため、重要な利益の実質的制約を基準とする。
有形力や現実の抵抗の有無だけで決めない。
相手に知られない方法でも、処分を知れば通常拒否すると考えられる場合には意思に反する。
この意思と、制約される利益の重要性・侵害の程度とは、それぞれ検討を要する。
秘密の捜査であることだけで強制処分と決めることもできない。
 任意捜査も無制限ではない。
具体的手段がもたらす利益侵害の内容・程度と、その対象・方法を選ぶ必要性を比較衡量し、犯罪の性質・重大性、嫌疑の程度、必要性・緊急性等に照らし相当な限度で許される(同項本文)。
2 下線部①
 憲法13条は、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を保障する。
他人に観察され得る公道にいることは、姿を記録されない自由まで放棄したことを意味しない。
甲に気付かれない撮影は、通常、撮影を拒む意思に反すると推認できる。
 しかし①は、公道上の車内から、公道に出て玄関ドアを施錠し、振り返って歩き出す男の姿を約20秒撮影したものである。
一般に外部から見られる姿を、移動を妨げず短時間記録するにとどまり、重要な利益を実質的に制約する強制処分には当たらない。
撮影は肉眼の観察と異なり、情報を固定して反復利用できる点で制約を加えるが、本件では公道上の一場面を短時間捉えるにとどまり、継続的に私生活全般を把握するものではない。
 本件は高齢のVから工事代金名目で100万円を取得した詐欺であり、被害は軽微でない。
犯人が交付した領収書にはA工務店代表甲と住所が記され、その住所に実在する事務所へ鍵を開けて入る中肉の男は、甲又は店の従業員として犯人と関係する可能性がある。
そこで、この男を被写体に選び、Vに犯人との同一性を確認させる必要があった。
単に重大な詐欺の捜査が必要というだけでは、任意の人を撮影してよいことにならない。
領収書の店舗との具体的な結び付きが、この男を選択する根拠となる。
ただし、撮影当時はまだ男の氏名や代表者性は判明しておらず、嫌疑を確定的と扱えない。
 Vは犯人の顔をよく覚えていないから、捜査官の言葉による説明だけでなく、姿を保存し、繰り返し見せて確認する必要がある。
施錠後に振り返って歩き出す間の顔や姿を捉えるため動画を用いる合理性もある。
目的・時間・場所・被写体を限定した方法による侵害は、この識別の必要に比して過大でない。
よって①は任意捜査として適法である。
3 下線部②
 ②では甲自身は映っていない。
しかし、みだりに個人の営業拠点である事務所の内部を撮影されない利益が問題となる。
 同事務所は工務店の営業拠点である。
住居ほどの保護が当然に及ぶとはいえないとしても、公道から内部を見られない構造や甲以外の出入りがなかった状況に照らせば、不特定多数の客が自由に出入りする公開空間とは評価し難い。
窓にはブラインドが下ろされ、隣接建物もあり、公道から内部を見られない。
甲には、内部の状態を外部から把握・記録されない合理的な期待がある。
保護対象は、人物の容ぼうや住居内の生活だけではない。
営業上の活動や物の配置を含む内部情報についても、外部への開示を管理する利益があり、工具箱だけだから直ちに保護が失われるわけではない。
これを秘密裏に撮影することは、推認される甲の意思に反する。
 Pらは向かいのマンションの2階通路から採光用小窓越しに、望遠レンズを使って内部の机上の工具箱を撮影した。
通常は事務所へ立ち入らなければ確認できない内部情報を取得するものであり、私的領域への無形的な侵入と評価できる。
通路から工具箱そのものは肉眼で見え、撮影も約5秒で工具箱だけに絞られた点は侵害を弱める。
しかし、公道から見えない営業拠点の内部に狙いを定め、望遠により小さな表示まで記録したという侵害の質は、①の公道上の姿の撮影と異なる。
マンション管理人の承諾も、その通路の利用を許すにとどまり、甲の利益への侵害を正当化しない。
限定された撮影であっても、重要な利益の実質的制約に当たり、②は強制処分と解する。
肉眼でも箱が見えたという事情は、通常の公道からその表示まで観察できたことを意味しない。
場所を変え、望遠で詳細を得たという取得方法を含めて評価すべきであり、記録時間の短さだけでこの侵害の質を解消できない。
 場所・物の形状や状態を視覚によって認識・記録するこの処分は、法定の検証として、原則として裁判官の令状を要する(218条1項)。
ここでは、既に所在を把握した工具箱の外形・表示を視覚によって認識し保全する性質に着目して、検証と位置付ける。
捜査の必要性を実体面で検討するだけでなく、令状という事前の司法審査を経たかを別に審査しなければならない。
甲しか出入りしないという監視結果や、携行中には小さな表示を確認できなかった事情は、工具箱の同一性確認の必要を強める。
しかし、必要性だけで令状の要件を代替できない。
甲の嫌疑と工具箱の関連性は、令状を求める際の理由となり得ても、捜査機関自身による無令状の実施を当然に許すものではない。
逮捕に伴う処分等の無令状で許される事情もない。
よって無令状で行った②は違法である。
第2 設問2の1
1 伝聞性と文書類型
 公判外供述を、その内容が真実であることの証明に用いる場合、知覚・記憶・表現等の誤りを公判での反対尋問等により吟味できないため、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。
供述者を公判で尋問すれば、知覚の機会、記憶の変化、表現の曖昧さ等を確かめられるが、書面の記載だけではその吟味を十分に行えない。
単に法廷外で作られた文書という形式だけでなく、どの供述過程の正確性に依存して証明するかが重要である。
伝聞か否かは、立証趣旨と具体的な使用方法に即して判断する。
 メモの立証趣旨は、甲が記載の文言をVに申し向けたことである。
耐震金具に本当に不具合があったかは問題とならず、甲の発言自体の内容の真実性は要しない。
しかし、メモを用いて甲がそのように発言したと証明するには、Vがそれを聞いたというVの記載が真実でなければならない。
したがってVの供述を内容とする伝聞証拠である。
甲の文言が虚偽であることと、甲がその文言を述べたというVの報告が正しいこととは別の問題である。
全体を非伝聞としたり、内側の甲の発言についてまで再伝聞として例外を要求したりするのは誤りである。
 弁護人は不同意であり、326条の同意による採用はできない。
メモは被告人以外の者であるV自身の供述書なので、321条1項3号による。
供述録取書と異なり、供述者による録取内容の確認を担保する署名又は押印は必須でない。
全記載がVの自筆であり、Wが作成を目前で見たことからも、作成の真正を認められる。
2 同号の要件
 Vは脳梗塞により意識回復が見込めず、仮に回復しても記憶障害により取調べ不能との医師の意見がある。
身体の故障による公判での供述不能が認められる。
意識の回復可能性だけでなく、回復後も記憶障害のため供述できないとの判断まで示されている。
死亡等への類推を論ずる前に、明文の身体の故障に該当すると評価すれば足りる。
 不可欠性は、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないかで判断する。
立証に役立つというだけでは足りず、証明すべき犯罪事実との関係及び他の証拠による代替可能性を検討する必要がある。
具体的な欺罔文言を直接聞いたのはVである。
甲は犯行を否認し、領収書や指紋等は金銭の受領や関与の資料にはなっても、申し向けた文言を直接示さない。
Wも犯行を直接見聞きしていない。
欺罔行為を証明するため、Vの供述には不可欠性がある。
 特信情況は、供述内容の信用性を担保する外部的付随事情から判断する。
単に記載がもっともらしいことを挙げるのでは足りず、反対尋問による吟味に代わる高度の信用の保障が、供述をした際の状況に認められるかを検討する。
本件では、事件当日の午後7時頃、記憶が新鮮な間に、Wの勧めを受け、その面前でVが自筆の記録を作成した。
Wへの説明と記載内容の一致や、作成経緯をWの証言で確認できることは、記憶を再現する過程の信用性を支える。
被害に気付いた後の記録で誇張の危険はあるが、直後の自然な記憶保存という経緯を重視すれば、特に信用すべき情況を認められる。
もっとも、Wへの説明とメモとの一致は、同じVの供述が二つあるというだけで真実性を独立に裏付けるものではない。
Wの証言は、自筆作成の時期と過程を確認する資料として位置付ける。
Vが顔をよく覚えていないことも、言われた具体的文言の記憶が直ちに不正確であることを意味しない。
Wを犯行時の発言の直接証人として扱うものではない。
 自ら記憶を保存した経緯から供述の任意性も認められる(325条)。
よって、メモには321条1項3号により証拠能力がある。
第3 設問2の2
1 記載内容を真実として用いる方法
 甲がVから屋根裏工事代金100万円を受領した旨の記載を、正確な事実の報告として用いる場合、内容の真実性に依存するので伝聞証拠となる。
 作成者は甲であるとの設問の仮定から、甲の供述書として322条1項を適用する。
甲はV方へ行ったこと自体を否認しており、同日Vから同名目で100万円を受け取ったという記載は、詐欺の訴因との関係で甲に不利益な事実の承認に当たる。
犯罪全部を自白する必要はない。
この場合、特信性は追加の要件ではないが、任意性は必要である。
同項の不利益な事実の承認と、それ以外の供述に特信情況を要求する場合とは選択的な関係にあり、両方を累積して要求しない。
他方、不利益な事実の承認だから任意性の審査まで省略してよいわけではない。
甲が取引の際に自ら作成してVに交付した経緯から任意性も認められる。
 自己作成の供述書なので、録取書についての署名又は押印の要件を課さない。
プリンター印字であることだけで排除することもできない。
不同意でも同項の例外により証拠能力を認められる。
2 作成・交付行為を情況証拠として用いる方法
 甲が、同日付で、Vを宛先とし、屋根裏工事代金100万円と記載した領収書を作成し、Vに交付した事実自体を用いることもできる。
作成者と交付の事実は証拠上認められるとの仮定を維持する。
 領収書は、金銭を支払った相手に受領を示すため作成・交付するという社会的な役割を持つ。
通常、代金を受け取っていなければ、その額・名目を示す領収書を支払者に作成・交付しない。
この経験則を介し、この書面を甲が作成してVに交付した行為から、同日Vから同名目の100万円を受け取ったという、指定された事実を推認する。
額・名目・日付の記載を参照すること自体と、その記載を真実の報告として信じることとは区別される。
前者は、どのような書面を誰に交付した行為かを特定し、その行為の意味を評価するために用いている。
 記載が正確な報告だから受領があった、と推認する経路とは異なり、一定の記載のある書面を作成・交付した行為の社会的意味を根拠とする。
単に甲がVと接触したことや犯人性という別の要証事実へ置き換えるものでもない。
このように内容の真実性とは独立の推論を用いる限り、320条1項の制限は及ばず、伝聞例外を重ねて検討する必要はない。
先に領収書だけを交付する可能性等は、この経験則による推認の証明力の問題として吟味すべきである。
よって、この非伝聞の使用方法でも証拠能力を認められる。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

主な番号答案の箇所対応する論証
1~8第1の1・2法定主義の理由,重要利益の基準,秘密撮影の意思,比例原則
9~12第1の2当時の嫌疑と動画方法の必要性,侵害との比較
13~17第1の3営業拠点の内部情報,無形的侵入,反対事情,検証・令状
20~33第2伝聞法則の趣旨,外側のV供述,供述不能・不可欠性・特信情況
34~43第3伝聞使用の322条と,作成・交付行為からの非伝聞の推論

(2) 撮影の適法性

①については,公道にいるから権利がないという説明では足りない。
容ぼう等を撮影されない自由を認めた上で,侵害の程度と具体的な撮影の必要性を比較する。
特に,被写体を選ぶ嫌疑と,その被写体を動画で記録する方法の必要性とは,別に検討する。
②では,人物が映っていない点だけに目を向けず,遮蔽された営業拠点の内部に合理的な非公開の期待があることを評価する。
管理人の承諾,肉眼で箱が見えたこと及び5秒間という限定も検討するが,それらと私的領域からの情報取得という性質とを区別している。

(3) メモの伝聞性と例外

甲の言った屋根の不具合が真実かどうかと,甲がその発言をしたというVの記憶が正しいかどうかとは,別の問題である。
後者をメモから証明する以上,Vの供述の真実性に依存する。
3号の不可欠性は単なる有用性と同視せず,文言を直接示す他の証拠の有無を検討する。
特信情況は,メモの内容のもっともらしさだけでなく,当日の記録と作成経緯という外部事情から評価する。
Wは,犯行時の発言を直接聞いた者ではない。

(4) 領収書の伝聞使用と非伝聞使用

記載を正確な報告として信頼し,記載どおり受領があったと認定する用法は伝聞である。
これとは別に,一定の金額・名目を示す領収書を作成し支払者に交付する行為の社会的意味から,現金授受を推認する経路を論ずる。
これは文面を一切見ないという意味ではなく,文面を持つ書面の作成・交付行為を評価するものであって,記載を真実の報告として信用する経路とは異なる。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

②を任意処分とする番号18・19の構成は,本答案では採用していない。
特信情況の評価や領収書の経験則による推認には反対評価の余地があり,結論の丸暗記ではなく,個々の事情と推論の役割を理解することが重要である。
撮影映像の証拠排除や詐欺罪の実体的成否全体は,設問の直接の対象でないため展開していない。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の記事

① 平成30年司法試験民事系科目第1問(民法)の記事
② 平成30年司法試験公法系第1問の記事

2 同じ科目の別の年度の記事

① 令和6年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目
② 令和元年司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目

3 本問の論点に関連する記事

① 捜査機関による写真・動画撮影はどこまで許されるか
② 法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

① 平成30年司法試験の刑事系問題(実頁5~9)
② 平成30年司法試験論文式試験出題の趣旨(実頁17の〔第2問〕冒頭~実頁19の【選択科目】の直前)
③ 平成30年司法試験の採点実感(刑事系科目第2問)(実頁6~12)

2 法令

e-Gov・刑事訴訟法の平成29年7月13日版の197条,218条,320条~322条,325条及び326条を参照した。
この版は,平成30年司法試験の試験期日(同年5月16日~20日)に施行されていた版であり,答案はこの版の条文を前提とする。

3 裁判例

① 最高裁大法廷昭和44年12月24日判決(昭和40年(あ)第1187号,刑集23巻12号1625頁)
② 最高裁第二小法廷平成20年4月15日決定(平成19年(あ)第839号,刑集62巻5号1398頁)
③ 最高裁第三小法廷昭和51年3月16日決定(昭和50年(あ)第146号,刑集30巻2号187頁)
④ 最高裁大法廷平成29年3月15日判決(平成28年(あ)第442号,刑集71巻3号13頁)

①は,判決全文の実頁2~4で,みだりに容ぼう等を撮影されない自由と,警察官による写真撮影が許容される限度に関する判示を参照した。
②~④は,出題の趣旨・採点実感が挙げる判例であり,裁判所ウェブサイトの裁判例結果詳細で書誌,判示事項及び裁判要旨を参照した。
本記事の答案は,①~④の判示を直接引用していない。

4 確認状態

問題文と資料,出題の趣旨及び採点実感は,上記の各範囲を参照した。
評価項目の整理と重み,具体的事情からの当てはめは,本記事の分析である。
②を任意処分とする構成など,公式資料が許容する別の構成を一律に誤答とはしていない。
読者は,確認範囲の限界と,採用した構成の理由とを区別して読むことができる。