令和元年司法試験の刑事系第2問を対象に,別件逮捕・勾留と公判前整理手続後の訴因変更を検討する。法務省の問題文,出題の趣旨及び採点実感から,69件の評価項目を独自に抽出した。法務省の公式採点基準・配点を示すものではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は令和元年司法試験論文式試験の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)である。試験実施日である令和元年5月18日当時の法状態を基準とする。設問1では身体拘束そのものの適法性と,理論・結論が異なる反対構成,その不採用理由を扱う。設問2では,訴因変更の可否と公判前整理後の許否を分けて扱う。
枠内答案は,別件の拘束要件と独自の捜査を重視して3月20日までの拘束を適法とし,反対説から違法となる理由も示す。訴因変更は基本的事実関係の同一性を認め,変更の契機及び審理計画への影響を検討して許可すべきとする。拘束について適法・違法の一方だけが公式の正解として指定されているわけではない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの番号は,一つの判定対象に対応する。「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」は項目の性質を示し,重みとは独立する。負例は誤りを避けているかを判定する。許容分岐は当該構成を採る場合にだけ適用するため,全項目を一つの答案への累積要求として扱わない。番号は全表を通じて連続させる。
出典欄の頁はPDFの頁番号である。表中の説明は引用ではなく要約であり,資料が求める一般枠組みを問題文の具体的事実へ対応させたものも含む。「記載なし」は本問の関連範囲を全部読んだ結果,「間接」は一般枠組みからの対応推論を意味する。両者は未閲覧・原文未取得を意味しない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。
重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。
重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け。
重み2:一方が軽い表現で触れる補強又は典型的な誤り。
重み1:一方が控えめに触れるだけの事項。
本問では重み4を,両資料が扱う検討対象という意味で用いる。両資料がそろって「高く評価した」と明言したという意味ではない。個別の事実評価が一方にのみ明示され,他方には一般枠組みしかない場合は重み3とした。件数の割当てや旧3段階からの機械換算は行っていない。
第3 本問の概要
強盗致死事件で甲を逮捕する証拠が足りないと考えた警察官は,会社の集金3万円を着服した別件を捜査し,これによる逮捕・勾留中に強盗致死を取り調べた。別件についても,パチンコ店,パソコン,返済先Yの調査が続き,勾留は3月20日まで延長された。付表では横領が7日・20時間,強盗致死が12日・40時間である。
両事件の併合審理について公判前整理手続が行われ,量刑のみが争点とされた。公判で初めて,甲に集金権限がなかったことが社長の証言により明らかになり,検察官が業務上横領から詐欺へ訴因変更を請求した。甲は権限欠如を認め,当事者双方から追加の証拠調べ請求はない。設問2の中心は,既に請求された変更を許可できるかである。
第4 評価項目と重み
1 設問1―別件逮捕・勾留
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 横領を別件,強盗致死を本件とする別件逮捕・勾留の問題を捉える 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:拘束の問題を取調べの問題から分ける入口。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 18頁(設問1・共通)。検討対象・理由付けの根拠。 | 6頁(設問1・共通)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 2 | 身体拘束の適法性の自説の判断基準を明示する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:自説の規範が当てはめを統御する骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 18頁(設問1-1)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1-1)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 3 | 採用基準を事件単位の令状審査等の制度的根拠から導く 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:規範を制度から導く論証の骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 18頁(設問1-1)。検討対象・理由付けの根拠。 | 8頁(設問1-1)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 4 | 採用理論から違法になる場合の条件を具体化する 区分:必須。由来:両者由来。 適用:全答案・選んだ基準に対応。 重みの理由:拘束違法へ移る条件を説明する骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 18頁(設問1-1)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1-1)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 5 | 横領の逮捕について199条1項・2項の根拠を示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 18頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1・法定要件)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 6 | 社長とAの供述及び入金帳簿不存在から横領の相当な嫌疑を検討する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 18頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・法定要件)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 7 | 被害額・生活及び証拠状況から逮捕の必要性を具体的に検討する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 18頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・法定要件)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 8 | 規則143条の3の逮捕必要性に関する考慮枠組みに言及する 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 適用:逮捕必要性の条文展開をする場合。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 18頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 記載なし(関連範囲実読済み) |
| 9 | 207条1項による60条1項の準用を明示する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 18頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1・法定要件)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 10 | 横領の嫌疑と罪証隠滅又は逃亡の理由及び勾留必要性を個別に検討する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 18頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・法定要件)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 11 | 208条2項を摘示して延長のやむを得ない事由を説明する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 18頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・法定要件)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 12 | Yの出張等による聴取待ちが横領捜査の必要と期間内完了困難に結び付くと説明する 区分:必須。由来:出題の趣旨由来。 適用:延長の判断。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・法定要件)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 13 | I店のカメラ修理による裏付け待ちを延長の必要へ結び付ける 区分:必須。由来:出題の趣旨由来。 適用:延長の判断。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・法定要件)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・法定要件)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 14 | 本件を捨象しても横領が独自に立件・起訴すべき事件か評価する 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 適用:別件の実体・重要性を重視する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1-1)。検討対象・理由付けの根拠。 | 記載なし(関連範囲実読済み) |
| 15 | 本件逮捕には証拠不足であった請求時の捜査状況を評価する 区分:必須。由来:出題の趣旨由来。 適用:目的又は実質拘束を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 6頁(設問1・事実評価)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 16 | 少額の被害と渋る社長への届出説得を捜査目的の推認へ用いる 区分:必須。由来:出題の趣旨由来。 適用:目的又は実質拘束を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 6頁(設問1・事実評価)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 17 | Pの他犯罪探索の意図を取り上げる 区分:必須。由来:出題の趣旨由来。 適用:目的又は実質拘束を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 6頁(設問1・事実評価)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 18 | Rも本件逮捕を視野に並行捜査した意図を独立に評価する 区分:必須。由来:出題の趣旨由来。 適用:目的又は実質拘束を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 6頁(設問1・事実評価)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 19 | 死亡を伴う本件と3万円の別件との重大性の差を評価する 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 適用:目的又は実質拘束を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 記載なし(関連範囲実読済み) |
| 20 | 路上ひったくりと集金横領の間に事件として関連性がないことを評価する 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 適用:目的又は実質拘束を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 記載なし(関連範囲実読済み) |
| 21 | 横領7日・20時間と強盗12日・40時間の状況を正確に対照する 区分:高評価。由来:両者由来。 適用:両事件の捜査比重を評価する構成。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・事実評価)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 22 | 本件自白が自発的でなく追及を契機としたことを拘束利用の評価へ結び付ける 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 適用:本件拘束としての実質を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 記載なし(関連範囲実読済み) |
| 23 | 横領の弁解・アリバイ・集金自認・金額自認の段階を区別する 区分:高評価。由来:両者由来。 適用:別件捜査の進展を評価する構成。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・事実評価)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 24 | パチンコ店,PC,Yの裏付け捜査の継続を具体的に分析する 区分:高評価。由来:両者由来。 適用:別件捜査の進展を評価する構成。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・事実評価)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 25 | 第三者事情等を踏まえ,別件捜査の遅延が捜査官の懈怠によらないことを評価する 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 適用:別件捜査完了・延長を評価する構成。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 19頁(設問1・事実評価)。検討対象・理由付けの根拠。 | 記載なし(関連範囲実読済み) |
| 26 | 各事実が自説の基準に対して持つ具体的な意味を述べ結論へ接続する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:事実の列挙から法律評価への分岐。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 19頁(設問1-1)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1-1)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 27 | 自説と理論構成及び結論の双方が異なる反対説を示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:設問が比較を要求する二つの出力の骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 19頁(設問1-2)。検討対象・理由付けの根拠。 | 10頁(設問1-2)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 28 | 反対説の違法判断基準を明示する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:反対説の評価尺度の骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 19頁(設問1-2)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1-2)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 29 | 反対説の基準を本件令状審査の保障等の理論的根拠から導く 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:反対説の根拠を示す比較論証の骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 19頁(設問1-2)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1-2)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 30 | 反対説に対応する具体的事実を選び異なる結論まで論証する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:反対説を実際の異なる結論まで閉じる骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 19頁(設問1-2)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1-2)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 31 | 反対説を採用しない理由を自説の根拠と連動させる 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:自説と反対説の理由を連動させる分岐。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 19頁(設問1-2)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問1-2)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 32 | 事後事情から目的を推認する反対説に,請求時の目的認定困難だけの批判をしない 区分:負例。由来:採点実感由来。 適用:事後事情を用いて目的を認定する反対説。 重みの理由:採点実感が指摘する典型的な誤りの防止。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 10頁(設問1-2)。誤りの指摘。 |
| 33 | 余罪取調べの適否と身体拘束自体の適否を取り違えない 区分:負例。由来:両者由来。 重みの理由:評価対象となる処分の取り違えを防ぐ骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 18頁(設問1・理論監査)。検討対象・理由付けの根拠。 | 8頁(設問1・理論監査)。誤りの指摘。 |
| 34 | 本件令状審査欠如を当然違法としつつ別件要件だけで当然適法とする無説明な矛盾を避ける 区分:負例。由来:採点実感由来。 適用:両命題を同一の自説で用いる場合。 重みの理由:採点実感が指摘する典型的な誤りの防止。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 8頁(設問1・理論監査)。誤りの指摘。 |
| 35 | 本件基準説を本件の逮捕・勾留要件充足だけの審査と理解しない 区分:負例。由来:両者由来。 適用:本件基準説を採用又は比較。 重みの理由:本件基準説の基本的意味を保持する骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 18頁(設問1・理論監査)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・理論監査)。誤りの指摘。 |
| 36 | 実体喪失を用いる場合は喪失条件と拘束違法への根拠を説明する 区分:許容分岐。由来:両者由来。 適用:実体喪失を用いる答案。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 18頁(設問1・理論監査)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・理論監査)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 37 | 適法・違法双方を許容し,単一の公式結論を断定しない 区分:許容分岐。由来:採点実感由来。 適用:全答案・結論自体の採点項目ではない。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 9頁(設問1・結論幅)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 38 | 途中から違法とする場合にはその時点と法的理由を十分に説明する 区分:許容分岐。由来:採点実感由来。 適用:途中違法の結論を採る場合。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 9頁(設問1・結論幅)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 39 | 逮捕,当初勾留,延長後勾留の法律上の単位で全期間の要件を検討する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:法的処分単位で拘束全期間を評価する骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 18頁(設問1・処分単位)。検討対象・理由付けの根拠。 | 9頁(設問1・処分単位)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 40 | 本件取調べ日だけ違法,別件取調べ日だけ適法という細切れ評価を無理由に行わない 区分:負例。由来:採点実感由来。 適用:日別の適否を論じる場合を含む全答案。 重みの理由:採点実感が指摘する典型的な誤りの防止。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 9頁(設問1・処分単位)。誤りの指摘。 |
2 設問2―訴因変更の可否及び許否
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 41 | 既に請求された訴因変更の可否と公判前整理後の許否を分ける 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:変更の可否と許否を別層にする入口。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 19頁(設問2・入口)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問2・入口)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 42 | 訴因変更の要否を主題にして可否・許否を薄くしない 区分:負例。由来:採点実感由来。 重みの理由:採点実感が指摘する典型的な誤りの防止。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 10頁(設問2・入口)。誤りの指摘。 |
| 43 | 312条1項の同一性による変更限界を示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 44 | 本件が単一性ではなく狭義の同一性の問題であると明示する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 8頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 45 | 訴因変更制度の意義から同一性を要求する実質的理由を説明する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:同一性という限界の制度的理由の骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 46 | 一回的処理に着目する場合は別訴を許すこととの関係まで説明する 区分:許容分岐。由来:採点実感由来。 適用:一回的処理・二重処罰回避を根拠とする場合。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 10頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 47 | 基本的事実関係の同一性を具体的な判断基準として示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 7頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 48 | 非両立性に着目する場合は何が相容れないか説明する 区分:許容分岐。由来:両者由来。 適用:非両立性を補助基準にする場合。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 7頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 49 | 犯行日,同一甲,同一Aとの3万円集金場面の共通性を説明する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 50 | A方付近とA方という場所の差を消さず近接する取引場面として評価する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 10頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 51 | 保管中領得と騙取で財物の法律的説明が異なっても同一3万円の取得であると説明する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 52 | X社とAという被害者の差を消さず同一受領事実を基礎に評価する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・可否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 53 | 日時・場所・被害金・被害者が全て同じだという誤記や字面だけの比較を避ける 区分:負例。由来:採点実感由来。 重みの理由:採点実感が指摘する典型的な誤りの防止。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 10頁(設問2・可否)。誤りの指摘。 |
| 54 | 抽象的な社会通念上同一というラベルだけで当てはめを終えない 区分:負例。由来:両者由来。 重みの理由:同一性のラベルと具体的理解を分ける分岐。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・可否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 10頁(設問2・可否)。誤りの指摘。 |
| 55 | 訴因変更請求の手続段階を直接制限する明文がないことを示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 56 | 316条の32第1項は終了後の証拠調べ請求の制限であると正確に示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 57 | 公判前整理の目的を充実・継続・計画・迅速な審理と争点証拠整理で説明する 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:終了後変更の制限を導く制度的骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 58 | 変更により争点証拠整理・審理計画が無意味化する危険を制度的根拠として示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:整理手続の無意味化を制限根拠へつなぐ骨格。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 59 | 新事実が公判で明らかになることは制度上予定されるため一律禁止しない 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 記載なし(関連範囲実読済み) |
| 60 | 制度趣旨を没却するかという許否基準を示す 区分:必須。由来:両者由来。 重みの理由:公判前整理後の許否判断の規範。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 61 | 整理手続中に検察官が変更必要性を意識する契機があったかを検討する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:変更契機の有無という経緯審査の分岐。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 62 | 社長が捜査時には権限欠如を話さず公判で初めて証言した経緯を評価する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:出題の趣旨が要求又は考慮対象として示し,採点実感も基準・事実評価又は具体的な誤りとして取り上げる。両資料で高評価と明言したとの意味ではない。 | 4 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 63 | 弁護人の整理段階での権限主張の不存在を事前把握可能性へ結び付ける 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問2・許否)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 64 | 変更により審理計画がどれほど修正されるかを独立の観点から検討する 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:審理計画の修正幅という影響審査の分岐。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 12頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 65 | 甲自身が集金権限欠如を認めたことを審理への影響へ結び付ける 区分:高評価。由来:出題の趣旨由来。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・許否)。間接:一般枠組みからの対応推論。 |
| 66 | 双方に追加証拠請求がないことを審理計画への影響へ結び付ける 区分:高評価。由来:両者由来。 重みの理由:追加立証の有無を審理計画へつなぐ重要事実評価の分岐。対応する公式箇所の取り上げ方を根拠とする。 | 5 | 20頁(設問2・許否)。検討対象・理由付けの根拠。 | 11頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
| 67 | 被告人個人の防御だけで制度的な計画審理の利益を代用しない 区分:負例。由来:採点実感由来。 重みの理由:採点実感が指摘する典型的な誤りの防止。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 11頁(設問2・許否)。誤りの指摘。 |
| 68 | 訴因変更を通じて防御機会が与えられることを無視して不意打ちと断定しない 区分:負例。由来:採点実感由来。 重みの理由:採点実感が指摘する典型的な誤りの防止。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 11頁(設問2・許否)。誤りの指摘。 |
| 69 | 316条の32を趣旨参照・類推する場合は訴因変更へ及ぶ理由を説明する 区分:許容分岐。由来:採点実感由来。 適用:316条の32を訴因変更制限の根拠として用いる場合。 重みの理由:一方の公式資料が明示する中核の理由付け又は条件付きの検討。 | 3 | 記載なし(関連範囲実読済み) | 11頁(設問2・許否)。答案の理解・論証・事実評価に関する記載。 |
3 答案全体への一般的な指摘
規範・根拠・重要事実・法的効果をつなぎ,問題文の人物と時点を保持する。これらは一般的な答案作法であり,重みを付した69項目の集計には含めない。取調べの適否,拘束の適否,自白の証拠能力を混同せず,訴因変更の要否を可否・許否の代わりに長く論じない。
4 重みの分布
実際の評価表では,重み5が22件,重み4が21件,重み3が19件,重み2が7件,重み1が0件である。総項目数N=69,重み合計W=265となる。これは独自分析の重みであり,公式の得点ではない。
重み5の全項目は次のとおりである。条件付きの規範や反対説の要求は,該当する立場で判定する。
- 番号1:横領を別件,強盗致死を本件とする別件逮捕・勾留の問題を捉える(適用:全答案)。
- 番号2:身体拘束の適法性の自説の判断基準を明示する(適用:全答案)。
- 番号3:採用基準を事件単位の令状審査等の制度的根拠から導く(適用:全答案)。
- 番号4:採用理論から違法になる場合の条件を具体化する(適用:全答案・選んだ基準に対応)。
- 番号26:各事実が自説の基準に対して持つ具体的な意味を述べ結論へ接続する(適用:全答案)。
- 番号27:自説と理論構成及び結論の双方が異なる反対説を示す(適用:全答案)。
- 番号28:反対説の違法判断基準を明示する(適用:全答案)。
- 番号29:反対説の基準を本件令状審査の保障等の理論的根拠から導く(適用:全答案)。
- 番号30:反対説に対応する具体的事実を選び異なる結論まで論証する(適用:全答案)。
- 番号31:反対説を採用しない理由を自説の根拠と連動させる(適用:全答案)。
- 番号33:余罪取調べの適否と身体拘束自体の適否を取り違えない(適用:全答案)。
- 番号35:本件基準説を本件の逮捕・勾留要件充足だけの審査と理解しない(適用:本件基準説を採用又は比較)。
- 番号39:逮捕,当初勾留,延長後勾留の法律上の単位で全期間の要件を検討する(適用:全答案)。
- 番号41:既に請求された訴因変更の可否と公判前整理後の許否を分ける(適用:全答案)。
- 番号45:訴因変更制度の意義から同一性を要求する実質的理由を説明する(適用:全答案)。
- 番号54:抽象的な社会通念上同一というラベルだけで当てはめを終えない(適用:全答案)。
- 番号57:公判前整理の目的を充実・継続・計画・迅速な審理と争点証拠整理で説明する(適用:全答案)。
- 番号58:変更により争点証拠整理・審理計画が無意味化する危険を制度的根拠として示す(適用:全答案)。
- 番号60:制度趣旨を没却するかという許否基準を示す(適用:全答案)。
- 番号61:整理手続中に検察官が変更必要性を意識する契機があったかを検討する(適用:全答案)。
- 番号64:変更により審理計画がどれほど修正されるかを独立の観点から検討する(適用:全答案)。
- 番号66:双方に追加証拠請求がないことを審理計画への影響へ結び付ける(適用:全答案)。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
令和元年5月18日当時の刑事訴訟法を用いる。法律の条文は刑事訴訟法,規則は刑事訴訟規則とする。答案は1→(1)→アの階層で示す。枠内は空白・改行を除き5,131字(見出しと「以上」を含む)である。
2 答案
1 設問1
(1)判断の基準
本件強盗致死事件の証拠が不十分であったため,Pは別の犯罪の嫌疑を探し,業務上横領事件を理由に甲を逮捕し,その拘束中に強盗致死事件を取り調べている。別件の身体拘束を利用して本件の捜査をする,いわゆる別件逮捕・勾留の適法性が問題となる。
逮捕・勾留は,犯罪の嫌疑,罪証隠滅・逃亡の危険及び身体拘束の必要性について裁判官の審査を受ける制度であり,事件を単位として行われる。そこで,令状に表示された別件について法定要件が満たされるかを基準とすべきである。捜査機関が他事件の捜査をも意図していたことだけで,別件について現に存在する拘束の理由と必要を否定することはできない。ただし,別件の起訴・不起訴の判断に必要な捜査が完了し,別件について拘束の理由・必要性が失われたのに,本件の取調べのためだけに拘束を続けることは許されない。拘束理由等の消滅時には勾留を取り消すべきであり(87条1項,207条1項),別件の独自の必要性を失った拘束を本件捜査のため維持すれば,事件単位の令状審査と期間制限を潜脱するからである。
この基準によれば,本件に捜査の関心が向けられていた事実と,別件に独自の拘束理由・捜査の実体がある事実とを対照し,各処分及び拘束の継続を評価しなければならない。取調べ時間の多寡のみから決めるべきではない。
(2)通常逮捕及び当初勾留
ア 通常逮捕には,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由及び逮捕の必要が要求される(刑事訴訟法199条1項・2項ただし書,刑事訴訟規則143条の3。以下,法律の条文は同法による。)。X社社長は甲が売掛金の集金・経理を担当し,Aから集金した3万円を着服したと述べ,Aも11月20日に甲に3万円を交付したと述べている。これに対応するX社への入金を裏付ける帳簿類も見当たらない。社長の被害届をPが繰り返し求めたことは捜査目的の評価に関わるが,被害届が自発的でないから犯罪の嫌疑がなくなるわけではない。以上を合わせれば,業務上横領の嫌疑は相当程度認められる。
甲にはアパートという定まった住居があるため,住居不定を拘束理由とすることはできない。他方,退職後無職で単身生活をしていることは生活基盤の弱さを示すが,それだけで逃亡のおそれを断定できない。また,入金を裏付ける帳簿類が得られず,社長やAの供述が重要である。供述への依存度と,甲が元の職場及び顧客に接触し得る関係にあることから,働き掛けによって供述を変えさせる危険があると評価できる。帳簿がないという一事から,甲が隠滅したと推認するものではない。被害額3万円と少額で,在宅捜査が考えられることは拘束に反対する事情であるが,これだけで明らかに逮捕の必要がないとまではいえない。2月28日の逮捕は適法である。
イ 被疑者勾留には,207条1項を介して60条1項の相当な嫌疑及び各号の理由,さらに勾留の必要性が要求される。甲は弁解録取や勾留質問でも集金したか覚えていないと述べており,集金と着服という中核事実の解明は終わっていない。前記の供述証拠への依存と関係者への接触可能性から罪証隠滅のおそれ(60条1項2号)がなおあると評価する。少額であることを考慮しても,証拠確保と手続出頭を担保するための拘束の必要性が認められる。2月28日から3月1日に勾留請求している経過にも期間制限への違反は現れておらず,3月1日の勾留は適法である。
(3)延長後の勾留
208条2項の延長には,やむを得ない事由が必要である。これは単に捜査機関が更なる捜査を希望することでは足りず,事件の性質,捜査の進捗等から当初の期間内に必要な捜査を終えることが困難であることを要する。
3月10日時点では,横領被害金の行方を確かめるためのYの取調べが,出張等の都合で16日までできない。甲の7日のアリバイ供述を受け,H店とI店で裏付け捜査をしているが,I店の防犯カメラは修理中で14日まで確認できない。Yの聴取は被害金の使途・金額を,カメラ確認は犯行当日のアリバイを確かめるために必要であり,強盗の自白を得るために形式だけ整えた捜査とはいえない。甲の曖昧な供述を受けて調査すべき事項が生じ,客観的な確認にも第三者側の事情による障害があるから,期間内に処分を決定できないやむを得ない事由がある。延長の上限10日を超えない20日までの延長は適法である。
延長後も,11・12日にパソコンから領収書データを探し,13日にこれを示して甲を追及し,14日にI店の画像を確認し,15日に甲から集金の事実を認める供述を得ている。16日のYの供述は日時・金額に曖昧さがあり,19日に手帳を確認して横領被害金と返済との対応を確かめ,同日に甲も着服を認めた。別件について連続した捜査の進展があり,遅延は捜査官の懈怠によるものではない。被害が少額でも,元従業員による集金の着服は,会社の取引上の信頼を損なう財産犯罪であり,本件を捨象しても立件・処分を要する事件である。20日にその事実を公判請求した経過とも整合する。
強盗致死事件の取調べは合計12日・40時間で,横領の20時間を上回り,強盗に関する生活費や入金の追及,大家の取調べ,原付の売却捜査もされている。しかし横領の取調べは期間を通じて合計7日・20時間行われ,取調べ以外の裏付け捜査も継続した。後半に横領捜査が停止して本件だけのための拘束へ転化したとは認めにくい。甲の自白が18日に得られたのは強盗の事実であり,これを横領捜査の終了時とすることもできない。19日の横領自白によってそれ以前の証拠保全の必要が直ちに全て消滅したともいえず,翌日の処分決定までの短期間の拘束は必要な範囲にとどまる。したがって,3月20日までの拘束も適法である。余罪取調べの適法性や自白の証拠能力は,身体拘束の適法性とは区別される。
(4)異なる結論を導く理論構成と不採用理由
ア これに対し,別件の逮捕・勾留要件を満たしていても,請求時の目的及び拘束期間の利用状況から,実質的に本件についての身体拘束と評価できる場合は違法とする本件基準説がある。事件を単位とする令状主義は,特定の被疑事実について司法審査を経た拘束のみを許す趣旨である。別件を手段として実質上本件の拘束を実現すれば,本件についての司法審査を経ないままその取調べのための拘束を確保し,令状主義を潜脱する。この見解は,本件について嫌疑や必要性があるかだけを問うものではない。
Pは強盗致死事件で逮捕するには証拠が不十分であると考え,別の犯罪を探し,3万円という少額の被害について,届出を渋る社長を繰り返し説得した。Rも,本件の捜査を視野に入れた別件の拘束であると認識して勾留を請求した。路上のひったくりと会社の集金着服とは,時期・被害者・犯行態様が異なり,事件として関連性もない。したがって,別件の捜査から自然に本件の取調べが派生したという関係ではなく,重大な強盗致死事件の捜査のため少額の別件を利用したことがうかがわれる。
さらに,本件の取調べは12日・40時間で,別件の7日・20時間を大きく上回る。本件の自白は甲が自発的に申し出たものではなく,生活費や入金の追及を契機に得られ,その後本件について改めて逮捕・勾留された。この拘束利用の実態は,請求時から主たる目的が本件の取調べにあったことを裏付ける。この説からは,当初の通常逮捕及び勾留,その目的を承継した延長後の勾留のいずれも,実質上本件の身体拘束を別件の令状で実現したものとして違法と評価する。別件の裏付け捜査が並行していたとしても,拘束全体の実質についての評価は変わらない。
イ しかし,捜査機関の目的は複数事件にまたがり,進展により変化するから,本件目的が優越していたことと別件の独自の拘束必要性が両立する場合に,前者から令状の対象を本件へ置き換えると,別件に客観的にある拘束理由と必要を適切に評価できない。本件では,横領の捜査が実際に進められ,取調べ以外にも複数の裏付けが必要であり,独自の処分に至っている。本件捜査の比重が大きいことだけでその全てを仮装とするのは相当でない。令状主義の潜脱は,別件の要件を厳格に審査し,別件の拘束理由・必要性が失われた後の継続を禁止することで抑止できる。よって,本件基準の考え方は採用しない。
2 設問2
(1)訴因変更の可否
ア 312条1項は,公訴事実の同一性を害しない範囲で訴因変更を許す。訴因は審判対象を特定するが,同じ事件について証拠に即した訴因への修正を認め,適正な実体判断を可能にする必要がある。旧訴因と一回的に処罰・処理すべき関係にある事実を,訴因変更できないとして別訴で取り扱えば,同じ事件について重ねて処罰される危険がある。他方,別事件まで既存の公訴へ取り込むことはできない。この一回的処理の範囲が公訴事実の同一性による限界である。
本件は,事件の個数についての単一性ではなく,新旧訴因が同じ事件かという狭義の同一性が問題となる。基本的な事実関係が同一かを中心に判断し,両訴因の非両立性も補助的に考慮する。
イ 公訴事実1は,甲がX社の集金業務に従事してAから受け取った現金3万円を業務上保管中,A方付近で着服したという事実である。公訴事実2は,集金権限がないのにこれを装ってAを欺き,A方でその3万円の交付を受けたという事実である。被害者がX社からAへ,場所がA方付近からA方へ,行為が受領後の着服から受領時の欺罔へ変わるものの,日時,甲がAから受領した同一の3万円及びその受領に至る取引場面は共通する。正当な業務上の保管を前提とする領得と,権限を偽った詐取という相容れない二つの評価を一つの金銭取得に与えるもので,別の被害を追加するものではない。基本的事実関係は同一であり,変更は同一性の範囲内である。
(2)公判前整理手続終了後の許否
もっとも,公判前整理手続は,争点及び証拠を整理して充実した審理を継続的,計画的かつ迅速に行うための制度である(316条の2,316条の5,316条の24)。本件は事実に争いがなく量刑のみが争点として整理されていた。終了後に構成要件事実を入れ替えれば,主張・証拠の準備及び裁判員を含めた審理計画が崩れ得る。同一性があれば時期を問わず無条件に許されるわけではない。
316条の32は,やむを得ない事由により整理手続で請求できなかったものを除き,終了後の証拠調べ請求を制限する規定である。訴因変更請求自体を直接制限する規定ではなく,本件では追加の証拠調べ請求もない。しかし,追加証拠がないことだけで,整理手続の趣旨を損なう訴因変更まで許されるわけではない。そこで,変更の必要が生じた経緯,整理段階で変更できたか,新訴因の内容,審理計画への影響,防御上の負担を具体的に検討し,特段の理由なく制度趣旨を損なう変更であれば許可すべきでない。
(3)本件への適用
社長は公判で初めて,甲の異動と集金権限の喪失を証言し,それまで警察官や検察官にも話していなかったと述べた。弁護人も整理手続で権限について主張しておらず,甲はそれまで集金や金額の記憶がない等と供述した後,集金して着服したと自白していた。検察官が整理段階で権限欠如を把握し,詐欺の訴因を準備できたとはいえない。集金業務の担当者という供述はあったが,これだけから異動と権限喪失が明らかだったとはいえず,変更の必要が公判で顕在化した事情には理由がある。
さらに,Aは,甲が権限を有する集金担当者だと思って3万円を渡したと証言し,甲も権限がないと知っていたが金が欲しかったと述べている。これらは,既に決定された社長・Aの尋問と被告人質問から得られた事実である。追加の証拠請求は双方からなく,同じ金銭受領についての権限,表示,認識を評価するため,審理対象と証拠を大幅に広げる必要は認められない。甲自身も権限欠如とその認識を認め,客観的な取引経過も共通するため,変更により防御が実質的に困難になるとは認めにくい。
もっとも,量刑のみを争う予定だったところ,新たに欺罔,錯誤,交付及び故意という詐欺の要件について防御する必要がある。追加証拠請求がないことを,防御権の放棄と同視してはならない。裁判所は新訴因を甲に通知し(312条3項),甲側の主張・反論の機会を確保すべきである。実質的な不利益のおそれがあるときは,甲又は弁護人の請求により,必要な期間公判手続を停止して防御の準備をさせる(同条4項)。その措置を踏まえれば,本件変更は整理手続の趣旨を損なわず,裁判所は許可すべきである。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1)答案と評価項目の対応
答案1(1)が番号1〜4・36,1(2)が5〜10,1(3)が11〜14・21・23〜26・39・40,1(4)が15〜22・27〜35に対応する。番号37は結論幅,38は途中違法を採る場合の条件であり,枠外の解説で示す。答案2(1)は41〜54,2(2)は55〜61,2(3)は62〜68に対応する。番号69の類推構成は採用しない。
(2)設問1―自説と反対説の基準を分ける
別件基準説は令状に示された事件の法定要件を基礎にする。本件基準説は,別件の要件があっても,実質的な本件拘束と評価できる場合の違法を問題にする。本件の嫌疑の有無だけで説明する構成とは異なる。取調べ時間だけでなく,請求時のP・Rの認識,両事件の関係,別件の裏付け捜査,自白の契機を,自説と反対説のそれぞれに即して評価する。
拘束の法律上の単位は通常逮捕,当初勾留,延長後勾留である。特定の取調べ日だけを切り出して適法・違法を交互に並べない。途中から違法とする構成も許容されるが,別件の必要な捜査がいつ完了し,拘束の理由・必要性がなぜ消滅したのかを説明する必要がある。番号38はその構成を採る場合の条件付き項目である。
(3)設問2―可否の理由と許否の二つの観点
同一性の基準名だけでは足りず,同じ事件の一回的な処理と別事件の取り込み禁止を説明する。A方付近とA方,被害者X社とA,保管中の領得と受領時の騙取という差は消さない。同じ甲が,同じ日,同じ相手から同じ3万円を取得した取引場面に対する相容れない評価であることを示す。
整理後の許否では,検察官が整理段階で変更の必要性を意識する契機があったかと,変更で審理計画がどれだけ修正されるかを分ける。社長の公判での初めての証言,弁護人の主張の不存在,甲の認識の承認,双方の追加証拠請求の不存在が各観点で意味を持つ。316条の32第1項は証拠調べ請求の制限であり,訴因変更に直接適用しない。類推・趣旨参照による別構成を採るなら,変更へ及ぶ理由の説明が必要である(番号69)。
(4)補足と答案の限界
補足(公式に記載なし):87条による勾留取消し,312条3項の通知,同条4項の請求による防御準備のための停審は,当時の条文を独立確認して加えた。未確認の現行条項番号へ置き換えない。罪証隠滅のおそれは,供述証拠への依存と関係者への接触可能性からの評価であり,問題文が供述工作の実行や甲による帳簿隠滅を記載したという意味ではない。無職・単身だけから逃亡の危険を当然に推認しない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
令和元年司法試験公法系第1問の模範解答・評価項目―67項目と5段階の重み付け
令和元年司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―70項目と5段階の重み付け
令和元年司法試験民事系科目第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した68項目と5段階の重み付け
令和元年司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した74項目と5段階の重み付け
令和元年司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した65項目と5段階の重み付け
令和元年司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した73項目と5段階の重み付け
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
別件逮捕・勾留はいつ違法になるか―事件単位の原則,余罪取調べ及び弁護人の救済
被疑者の逮捕
被疑者及び被告人の勾留
関連記事は実務や現在の制度を確認するための入口であり,本答案の試験実施日当時の法状態を証明する資料として使用していない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
令和元年司法試験・刑事系科目の問題(PDF4〜9頁の第2問表紙・本文・資料)
令和元年司法試験論文式試験問題出題趣旨(PDF18頁〔第2問〕〜20頁の当該部分)
令和元年司法試験の採点実感(刑事系科目)(PDF6〜13頁,第2問総論・各設問・答案水準・教育上の示唆)
平成31年司法試験受験案内(PDF1頁の試験日程)
2 法令
e-Gov法令API・刑事訴訟法の平成30年6月1日施行版。試験実施日前の履歴として,60条,87条,199条,207条,208条,312条,316条の2・5・24・32等の本文を確認した。
e-Gov法令API・日本国憲法(31条,33条,34条,39条)。
裁判所・刑事訴訟規則(令和8年5月21日版PDF80頁)。143条の3の昭和28年追加注記と,令和元年公式趣旨の同条引用との対応だけを確認した。当時の規則全体の版は未取得であり,後発の143条改正を答案へ持ち込んでいない。
3 裁判例
大阪地裁平成31年2月13日判決・裁判所原文(PDF11頁の整理手続後の訴因変更の判断,13頁の裁判所・日付)。計画的・迅速な審理を害する変更の制限を独立に確認した。
出題の趣旨が例示する東京高判平成20年11月18日・高刑集61巻4号6頁は,公式資料上の紹介として確認した。判決原文は今回取得できておらず,原文を独立確認したとは扱わない。
4 確認状態
問題文・公式資料の上記関連範囲,当時版の刑事訴訟法の関連条文及び大阪地裁判決の上記部分を確認した。公式資料に書かれている内容と,法律・判決原文から独立確認した内容は分けている。69項目への分割,重み,採用した結論及び具体的事実の法的評価は本記事の分析である。採点実感の人物表記に問題文と合わない箇所があるため,答案では問題文の甲・A・X社の関係を維持した。未取得の原文を推測で補わず,引用判例の書誌を独立確認済みの判旨に格上げしていない。