令和元年司法試験の民事系科目第3問について,模範解答と,法務省の出題の趣旨・採点実感から独自に抽出した65項目を示す。
重みは1~5の5段階で,法務省の公式採点基準や項目別配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和元年度 民事系第3問 |
| 問題・基準時 | 問題文と設問の指定及び第7の出典・確認範囲による。問題の与件と指定された法令の時点を前提とする。 |
| 資料 | 出題の趣旨・採点実感に基づく分析。版・対象範囲・留保は第7の確認状態を参照。 |
| 評価項目 | 65項目(重み5:9項目) |
| 重みの合計 | 232(本記事独自の整理であり,公式の配点ではない。) |
| 答案の字数 | 5046字(答案部分の見出しを含み,空白・改行を除く可視文字数) |
| 判例・法改正の留保 | 第7の法令・裁判例と資料の範囲を参照。既存の確認日・参照頁・未確認部分の留保を引き継ぐ。 |
| 年度別の案内 | 令和元年司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目(AI作成) |
対象は民事訴訟法である。
管轄合意と移送,請求追加に伴う裁判上の自白の扱い,死亡した作成者の日記の自己利用文書該当性が中心になる。問題文(法務省・民事系科目第3問)を先に確認されたい。
答案は,設問1では付加的管轄合意の解釈と17条類推によるA地方裁判所への留置を立論する。
設問2では主要事実限定説及び証明責任説に立ち,原告の一方的な請求追加により従前の認否へ新たな拘束が当然に生ずることを否定する。
設問3では要件と考慮事項を示し,提出義務の最終結論は示さない。
評価項目は65項目,重み5は9項目である。
重み5の説明は第4の「重みの分布」で,公開表の番号と対応させて示す。
重み5でも,条件付きの構成を全答案の必須事項にするものではない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目を一つの判定対象へ分け,必須・高評価・負例・許容分岐を区別した。
出典欄は公式資料の該当物理頁と短い手掛かりを示す。
「記載なし」は本問の関連範囲を読んだ結果を意味する。
負例は誤りの回避,許容分岐はその構成を選んだ場合の確認である。
全項目を全答案へ累積要求するものではない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | 評価の分かれ目又は答案の骨格そのもの |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた(高く評価した・多数の答案の不足を指摘した)事項 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け |
| 2 | 一方の補強事項又は典型的な誤り |
| 1 | 一方が控えめに触れる事項 |
本記事の重み4は,両資料が検討対象として取り上げたことを基準とする。
「高く評価した」と「具体的な評価・誤りの指摘を通じて取り上げた」とは区別する。
件数の割当てをせず,今回は重み1の項目はない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
A市の会社員Xは,YのA支店でキャンピングカーを400万円で購入した。
上段ベッドの耐荷重は180kg,成人5人が就寝可能という仕様であったが,納入日に小学生3人が上段に乗ると落下した。
契約書はYが用意し,B地裁の管轄を定めている。
XがA地裁で代金返還を請求すると,Yは本案前にB地裁への移送を申し立てた。
その後,Yは事故の発生を認めたが,Xが腕時計の修理費100万円の請求を追加した後,事故の認否を撤回した。
さらに,設計に携わった元従業員Tの日記には設計上の無理と上司への進言が記されており,Tの死後,唯一の相続人で妻のZが保管している。
Zはプライバシーを理由に提供を拒んでいる。
設問1はX側の立論,設問2は自白の成立による撤回制限の検討,設問3は提出義務の判断に必要な観点・事項の整理である。
設問2では具体的な撤回事由の成否を,設問3では技術・職業の秘密と最終的な提出義務の結論を検討しない。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 答えるべき到達点 |
|---|---|---|---|
| 設問1・課題⑴ | X側からの管轄合意の解釈 | Yの専属的合意という解釈に対し,別の解釈を立論する。 | 付加的合意の効用と合理的意思を示し,A地裁の管轄へつなぐ。 |
| 設問1・課題⑵ | A地裁で審理するためのX側の立論 | 専属的合意との仮定を維持する。B地裁への移送済みとはしない。 | 留置の法的構成と,遅滞回避・当事者間の衡平を具体的に示す。 |
| 設問2 | 事故を認めたYの陳述の撤回制限 | 旧請求の訴訟資料が追加請求の資料になる。具体的撤回事由は検討外。 | 旧・新請求での事実の役割と,自白の拘束が新生・拡張するかを論ずる。 |
| 設問3 | 死亡したTの日記を所持するZの提出義務 | 判断に必要な観点・事項を整理する。技術・職業の秘密と最終結論は検討外。 | 作成目的・死亡・相続・将来の萎縮等を,自己利用文書の判断要素へ配賦する。 |
第4 評価項目と重み
1 設問1・課題⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 専属的合意と付加的合意の効果の違いを示す。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。専属的管轄合意 | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。付加的管轄合意 |
| 2 | Yが複数の法定管轄をB地裁へ絞ったと解する合理的意思の根拠を示す。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。適切な論拠 | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。当事者の合理的意思 |
| 3 | Yの専属解釈への反論を経て,付加的合意を採る立論を閉じる。 | 5 | 物理12頁・民事系第3問。結論付ける | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。根拠がかみ合う |
| 4 | 契約書を作成したYが「のみ」等で専属性を明記しなかったことを論拠にする。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。明記し得た | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。Yが用意 |
| 5 | Yからの債務不存在確認訴訟にもB地裁の管轄を生じさせる効用を示す。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。債務不存在確認 | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。債務不存在 |
| 6 | 【許容分岐】消費者と全国展開事業者の差を消費者契約法10条の趣旨による解釈へ接続する。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。消費者契約法第10条 |
| 7 | 代金返還請求を「本件契約に関する一切の紛争」から除外しない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。無理がある |
| 8 | 法令の解釈だけで契約上の管轄合意の解釈を済ませない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。合意の解釈と法令の解釈 |
| 9 | 公序良俗違反・11条2項違反による合意無効を「別の解釈」の代わりにしない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。評価されない |
2 設問1・課題⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 10 | 専属的合意という指定仮定を維持してA地裁審理を立論する。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。前提としても | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。前提とし |
| 11 | 専属的合意の場合の管轄違いによる移送と16条1項を出発点にする。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。管轄違いによる移送 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。管轄違い |
| 12 | A地裁が合意を除けば法定管轄を有することを示す。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。法定管轄に属する | 物理19頁・民事系第3問・3採点実感等。管轄に属する |
| 13 | 法定管轄の根拠を5条1号の返還債務履行地又は5条5号のA支店業務へ対応させる。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。法定管轄に属する | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。法第5条第1号又は第5号 |
| 14 | 20条1項の括弧書きが合意による専属管轄を移送制限から除くことを示す。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。法第20条第1項 |
| 15 | 17条の類推適用によってA地裁に留置する法的構成を示す。 | 5 | 物理12頁・民事系第3問。類推適用 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。類推適用 |
| 16 | AからBへ移送した後に17条でAへ戻す迂遠さを,類推の理由として示す。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。う遠な処理 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。う遠な処理 |
| 17 | 16条2項の自庁処理制度を留置の補強資料として用い,直接適用と区別する。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。場面は異なるが | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。場面は異なるが |
| 18 | 17条の著しい遅滞回避又は当事者間の衡平という必要性を具体的に評価する。 | 5 | 物理12頁・民事系第3問。要件が満たされる | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。意味付け |
| 19 | X・Lの所在地と600km・4時間の距離を訴訟追行負担へ接続する。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。本件事案に即して | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。事実の整理や評価 |
| 20 | A支店従業員及び車両の所在地を尋問・検証の便宜へ接続する。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。本件事案に即して | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。条文に応じて |
| 21 | Yの全国展開・A支店の存在を,Aでの応訴負担と衡平の評価に使う。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。本件事案に即して | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。事案を当てはめる |
| 22 | A地裁への17条の直接適用を主張しない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。前者は明ら |
| 23 | 現実にBへ移送済みとの別事実を作って,再移送を解答しない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。問題文と異なる事実 |
| 24 | A支店を主たる営業所と仮定して4条4項の普通裁判籍を認めない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。主たる営業所 |
| 25 | 国内土地管轄に国際裁判管轄の3条の3を使わない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。国際裁判管轄 |
| 26 | 5条1号を使う場合は,車両引渡義務と代金返還義務の履行地を取り違えない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。本件車両の引 |
| 27 | 【許容分岐】19条1項等の別の類推構成も,説得的な説明があれば許容されると扱う。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。相応の評価 |
| 28 | 個別条文を検討せず信義則・抽象的な衡平だけで留置を論じない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理20頁・民事系第3問・3採点実感等。一般条項 |
3 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 29 | 自白の成立要件を,弁論としての陳述・一致・事実・自己への不利益の4つとして示す。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。成立要件 | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。不足なく正確 |
| 30 | Yの認める陳述が口頭弁論でされた点を当てはめる。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。口頭弁論 | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。要件が満たされた |
| 31 | ④についてXの主張とYの陳述が一致していた点を当てはめる。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。相手方の主張と一致 | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。要件が満たされた |
| 32 | 自白の対象事実の範囲について,採用説と根拠を示す。 | 5 | 物理13頁・民事系第3問。論拠を示して | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。根拠をもって自説 |
| 33 | 主要事実限定説では,間接事実の拘束を否定する理由を自由心証への間接的拘束から説明する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。主要事実に限定 | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。自由心証主義との関係 |
| 34 | 元の返還請求では④が不履行を推認する間接事実であると説明する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。元の請求 | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。間接事実となり |
| 35 | 元請求の履行事実を被告の抗弁とし,④をその積極否認の理由として整理する。 | 4 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。抗弁事実の積極否認 |
| 36 | 追加請求では④が債務不履行と腕時計損害の因果関係を構成する主要事実だと示す。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。追加された請求 | 物理21頁・民事系第3問・3採点実感等。債務不履行と損害の発生の因果関係 |
| 37 | 不利益性について採用説の根拠を示し,対象事実論と整合させる。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。整合性に留意 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。証明責任説 |
| 38 | 間接事実について根拠なく証明責任を観念しない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。間接事実の証明責任 |
| 39 | 不利益性の意味で「証明責任」と「主張責任」を取り違えない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。主張責任 |
| 40 | 旧請求の訴訟資料が追加請求の資料となるという指定前提を維持する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。このような事実経過 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 |
| 41 | 認める陳述→請求追加→撤回という順序から,拘束の新生・拡張を問題にする。 | 5 | 物理13頁・民事系第3問。それを撤回する前 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。偶然の事情 |
| 42 | 撤回を認める構成では,原告の一方的変更を被告が拒めない点を手続保障へ接続する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。自由にできた陳述 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。被告がこれを拒み得ない |
| 43 | 撤回を認める構成では,原告の当初の信頼の範囲と被告の不測の不利益を比較する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。制限されてよいか | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。信頼の範囲を超え |
| 44 | 撤回を否定する構成では,同一の請求基礎と一度認めた事実を原告の信頼保護へ接続する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。そのまま維持してよいか | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。請求の基礎に変更がない |
| 45 | 撤回可否を,自白の意義・訴え変更における被告の保障・双方利益から論理的に結論付ける。 | 5 | 物理13頁・民事系第3問。疑問が喚起される | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。的確な問題意識 |
| 46 | 「争点が変わった」「追加請求だから」だけで撤回可否を決めない。 | 4 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。争点が変わった |
| 47 | 真実に反し錯誤等の具体的撤回事由の有無を検討しない。 | 4 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。一定の事由 |
| 48 | 指定された2つの訴訟物を他の請求へすり替えない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。異なる訴訟物 |
| 49 | 訴え変更の一般要件の詳細な論述で本問の自白問題を圧迫しない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理22頁・民事系第3問・3採点実感等。詳細に論ずる |
4 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 50 | 220条4号ニの自己利用文書該当性を中心に据える。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。自己利用文書 | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。典型例 |
| 51 | 判例の要件に基づく構成では,自己利用文書の要件を内部文書性・看過し難い不利益・特段事情の有無に分ける。 | 5 | 物理13頁・民事系第3問。内部文書性 | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。内部文書性 |
| 52 | 内部文書性について,Tの自己利用目的と外部非開示を本件日記に当てはめる。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。専らTが自ら | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。Tが自らの利用 |
| 53 | 妻で唯一相続人のZの取得経緯・非開示意思を内部文書性へ接続する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。Zも外部の者 | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。相続人として日記 |
| 54 | Tのプライバシーに属する記載があることを不利益の評価の前提とする。 | 4 | 物理14頁・民事系第3問。Tのプライバシー | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。Tのプライバシー |
| 55 | プライバシー主体Tと現在の所持者Zが異なる点を不利益性の問題にする。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。同一ではなく | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。異なっている |
| 56 | Tの死亡による本人の保護必要性の低下を検討する。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。要保護性を欠く | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。Tが死亡 |
| 57 | 死亡・所持者交代だけで不利益が消滅すると即断しない。 | 4 | 物理14頁・民事系第3問。即断することも早計 | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。直ちにいえない |
| 58 | 死後の開示可能性が将来の日記作成一般を萎縮させる利益を論ずる。 | 5 | 物理14頁・民事系第3問。萎縮効果 | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。一般的な萎縮効果 |
| 59 | 破綻信用組合の貸出稟議書に関する最決平成13年12月7日を比較資料に位置付ける。 | 3 | 物理14頁・民事系第3問。平成13年12月7日 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 |
| 60 | 死亡・相続・萎縮という各事実を提示した自己利用文書の要件へ体系的に配賦する。 | 5 | 物理14頁・民事系第3問。指摘して論ずる | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。体系的に整理 |
| 61 | 【許容分岐】不利益性で論ずる事項を特段事情で整理する構成も許容されると扱う。 | 4 | 物理14頁・民事系第3問。いずれの要件の問題 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 |
| 62 | 【許容分岐】適切な独自の自己利用文書要件による構成も排除しない。 | 4 | 物理13頁・民事系第3問。独自に適切な要件 | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。他の要件 |
| 63 | 観点・考慮事項を示し,提出義務の最終結論や技術・職業の秘密の検討へ進まない。 | 4 | 物理12頁・民事系第3問。どのような観点 | 物理23頁・民事系第3問・3採点実感等。考慮すべき観点や事項 |
| 64 | 自己利用文書以外の提出義務根拠の長い検討で中核を圧迫しない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理24頁・民事系第3問・3採点実感等。自己利用文書以外 |
| 65 | 文書提出命令の審理手続の説明を答案へ追加しない。 | 2 | 関連範囲を実読した結果,記載なし。 | 物理24頁・民事系第3問・3採点実感等。申立ての審理手続 |
5 答案全体
一般的な答案作法として,会話で示された課題へ正面から答えること,条文を正しく引用すること,抽象論を具体的事実の評価へ接続することが求められる。
これらの一般的な指摘は,65項目及び重み集計に加えていない。
6 重みの分布
重み1=0件,重み2=18件,重み3=1件,重み4=37件,重み5=9件。
総項目数N=65,重み合計W=232である。
この合計は単純合計であり,公式得点・難易度・合格可能性や全答案に要求する達成率へ換算しない。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号1(重み4):専属的合意と付加的合意の効果の違いを示す。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号2(重み4):Yが複数の法定管轄をB地裁へ絞ったと解する合理的意思の根拠を示す。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号3(重み5):Yの専属解釈への反論を経て,付加的合意を採る立論を閉じる。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号10(重み4):専属的合意という指定仮定を維持してA地裁審理を立論する。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号13(重み4):法定管轄の根拠を5条1号の返還債務履行地又は5条5号のA支店業務へ対応させる。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号15(重み5):17条の類推適用によってA地裁に留置する法的構成を示す。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号18(重み5):17条の著しい遅滞回避又は当事者間の衡平という必要性を具体的に評価する。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号29(重み4):自白の成立要件を,弁論としての陳述・一致・事実・自己への不利益の4つとして示す。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号32(重み5):自白の対象事実の範囲について,採用説と根拠を示す。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号37(重み4):不利益性について採用説の根拠を示し,対象事実論と整合させる。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号41(重み5):認める陳述→請求追加→撤回という順序から,拘束の新生・拡張を問題にする。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号45(重み5):撤回可否を,自白の意義・訴え変更における被告の保障・双方利益から論理的に結論付ける。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号50(重み4):220条4号ニの自己利用文書該当性を中心に据える。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号51(重み5):判例の要件に基づく構成では,自己利用文書の要件を内部文書性・看過し難い不利益・特段事情の有無に分ける。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号58(重み5):死後の開示可能性が将来の日記作成一般を萎縮させる利益を論ずる。
重要度は重み1~5で示す。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,別の重要度や独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,採用しない別構成を全答案へ累積要求せず,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号60(重み5):死亡・相続・萎縮という各事実を提示した自己利用文書の要件へ体系的に配賦する。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
基準時は試験実施日の令和元年5月16日である。
現行の改正民事訴訟法を遡及して用いていない。
答案本文は改行・空白込み5121文字,空白類を除き5046文字である。
設問2の撤回可否は,公式資料も整合的な理由付けがあれば両結論を認めている。
本答案の結論を唯一の正解とするものではない。
2 答案
1 設問1
(1) 課題⑴
本件定めは,本件契約から生じる紛争について第一審の裁判所を書面で定めており,民事訴訟法11条1項・2項の要件を満たす。問題は,他の法定管轄を排除する専属的合意か,法定管轄を残したままB地方裁判所を管轄裁判所として確認する付加的合意かである。
Yの本店はB市にあるため,B地方裁判所にはもともとYの普通裁判籍に基づく管轄がある(4条1項・4項)。そうすると,わざわざB地方裁判所を指定した意味を持たせるには,他の裁判所の管轄を排除したと解すべきだとのYの解釈には理由がある。「一切の紛争」という文言も,紛争の処理を一か所に集中させる意思の表れと説明できる。
しかし,法定管轄を排除することは,相手方の訴え提起の選択肢を失わせる重要な効果を持つから,当事者の合理的意思に即して解釈しなければならない。「一切」は対象となる紛争の範囲を示す文言であり,裁判所の排他性を当然に示すものではない。本件定めは「専属」「のみ」とは記載しておらず,B地方裁判所の法定管轄を当事者に明示して確認する意味もある。既存管轄の確認だから無意味とはいえない。さらに,本件定めはXからの代金返還請求に限らず,Yからの債務不存在確認請求等にも及ぶ。その場合,Xの住所地が通常の管轄地となり,B地方裁判所に法定管轄が生じないこともあるから,本件定めを付加的合意と解しても,B地方裁判所に管轄を付け加える独自の意味がある。
また,Xは個人としてキャンピングカーを購入した会社員であり,契約書を用意したのは,全国に支店を持つ事業者Yである。契約交渉及び締結はA支店で行われたのに,B市までは約600km,公共交通機関で約4時間を要する。夫及び小学生3人と生活するXが,このような場所でしか訴訟をできないことまで受け入れたとするには,文言以上の根拠を要する。これに対して,YはA市にも営業拠点を有しており,A市での訴訟を予測できる。
以上から,本件定めは付加的合意と解するべきだと立論する。本件契約に関する代金返還請求はA支店の業務に関する訴えであり,同支店所在地を管轄するA地方裁判所には5条5号に基づく管轄がある。したがって,管轄違いを前提とする16条1項の移送申立ては理由がない。
(2) 課題⑵
本件定めを専属的合意とするYの解釈を前提にすれば,原則としてA地方裁判所の法定管轄は排除され,16条1項によるB地方裁判所への移送が問題となる。Yは本案について弁論する前に移送を申し立てているから,12条の応訴管轄を理由にA地方裁判所の管轄を認めることはできない。
もっとも,17条は,管轄のある第一審裁判所からも,著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図る必要があるときは,他の管轄裁判所へ移送することを認める。そして20条1項は,法令上の専属管轄の場合の移送制限から,11条による合意で定めた専属管轄を除いている。合意は尊重すべきだが,具体的事件における迅速・公平な審理の必要性に常に優先するわけではない。
B地方裁判所に提起された訴訟を17条によりA地方裁判所に移送できる場合に,逆にA地方裁判所に提起された訴訟を必ずB地方裁判所へ移送し,再びAへ移送しなければならないとするのは迂遠である。そこで,専属的合意がなければ法定管轄を有するA地方裁判所は,17条を類推し,20条1項の趣旨に照らして,17条の必要性がある場合には,自ら審理を続けることができると解する。16条2項は,受訴地方裁判所の管内の簡易裁判所に管轄がある場合の規定であり,本件に直接適用するものではない。ただし,同項が管轄違いでも自庁処理を許容していることは,管轄違いが常に移送を必要とするわけではないという点で,前記の類推を補強する。
本件では,車両が本件仕様を備えていたか,上段ベッドが落下した経緯が問題となる。Xと,契約内容の説明や引取り要求への対応をしたA支店の従業員はA市におり,検証の対象となり得る本件車両もXの自宅車庫にある。A市で審理すれば,関係者の尋問や車両の調査を円滑に行いやすい。他方,B市はYの本店所在地ではあるが,そのことだけで本件の具体的な証拠調べに便利であるとはいえない。
また,B市での訴訟は,A市の会社員であるXに長距離移動,時間及び費用の負担を課す。Lの事務所もA市にある。Yは全国各地に支店を持ち,A支店で取引を行っているので,A市における応訴の負担は,XがB市で訴訟を追行する負担に比べ対応しやすい。専属的合意の存在も考慮した上で,著しい遅滞の回避及び当事者間の衡平を図るため,A地方裁判所で審理する必要があると立論できる。したがって,Xは,17条の類推適用に基づく留置を求め,移送申立ての却下を主張する。
2 設問2
(1) 裁判上の自白と事実の位置付け
裁判上の自白とは,口頭弁論等において,当事者が,相手方の主張する自己に不利益な主要事実を認める陳述をいう。自白された事実は証明を要せず(179条),裁判所はこれに反する認定をすることができず,当事者も原則として自由に撤回できない。不利益性は,相手方が証明責任を負う事実を認めたかによって判断する。自白が相手方の証明の負担を解消する制度であることと対応し,陳述者の主観的な有利・不利によって拘束が変動することを避けられるからである。
これに対し,間接事実は,主要事実の存否を推認する資料となる事実である。間接事実の自白に拘束力を認めると,推認の過程を通じて主要事実の判断まで拘束され,自由心証による事実認定を妨げる。このため,間接事実についての一致陳述は,裁判所を拘束せず,当事者も自由に撤回できる。
元の請求は,履行遅滞を理由とする解除に基づく400万円の原状回復請求である。この請求に対し,Yが契約に基づく債務を履行したとの抗弁を提出する場合,履行の事実はYが主張立証する。⑤の車両が本件仕様を有していなかったとの主張は,この履行の抗弁を争う積極否認として位置付けられる。④のベッド落下事故は,車両が仕様を備えていなかったことを推認させるが,事故が生じたこと自体が解除に基づく代金返還の要件ではない。したがって,元の請求との関係では④は間接事実にとどまる。Yは第1回口頭弁論においてXの④の主張を認めているので,弁論としての陳述及び相手方主張との一致という要件は満たす。しかし,④が間接事実にとどまる以上,その時点で拘束力ある裁判上の自白は成立しない。
追加された請求は,本件契約の債務不履行に基づく,腕時計の修理費100万円の損害賠償請求である。この請求では,仕様を欠く車両の上段ベッドが落下し,そのため腕時計が損壊したという経過が,債務不履行と損害の因果関係を構成する。④はこの具体的な因果経過の一部として,Xが証明責任を負う主要事実となる。⑤が主要事実であることと,④も主要事実となることは両立する。
(2) 訴え変更後の撤回
元の請求についての訴訟資料は,特に援用がなくても追加請求の訴訟資料になるとの設問の前提に従う。そのため,追加請求についても,④についてのXの主張と,これを認めたYの従前の陳述とが訴訟資料として存在する。
ここから,訴えの追加によって④が主要事実となった以上,Yの一致陳述は追加請求との関係で裁判上の自白の要件を満たし,拘束力を生ずるとの考え方が成り立つ。訴訟資料を一体として扱い,Xが既存の一致陳述を前提に追加請求について立証不要と信頼することを保護するからである。この立場では,撤回が請求追加の後でされた点が重要であり,Yは追加請求との関係で④を自由に撤回できない。元の請求についてだけ間接事実だからといって,追加請求について成立した自白まで否定することはできない。
しかし,自白による不利益な拘束を,当該陳述をした時点の訴訟物と事実の役割に即して判断する考え方も成り立つ。Yが④を認めたとき,審判の対象は400万円の返還請求だけであり,④は撤回可能な間接事実だった。Xが後に一方的に請求を追加したため,過去の陳述が新たな100万円の請求について拘束を生むとすれば,Yがその請求を争う機会を予期せず失うことになる。訴訟資料として利用できることと,自白による法的拘束を引き継ぐことは区別すべきである。
本件では,Xは腕時計が無償修理されると考え,損壊の事実をLにも告げていなかった。Yが④を認めた時点で追加の高額請求まで予測していたとの事情はない。Yは請求追加を受けて事故経緯を争うに至っている。したがって,陳述時の不利益性を重視し,従前の一致陳述は当然には拘束力ある自白へ転化しないと解するのが相当である。Yの陳述は追加請求でも訴訟資料となるが,Yは④を自由に撤回できると考える。具体的な例外的撤回事由の存否は検討しない。
3 設問3
(1) 提出義務の根拠と対象
本件では,文書提出義務の一般的根拠となる220条4号に照らし,ニの自己利用文書該当性が中心となる。対象は日記全体でなく,甲シリーズの設計上の無理及び上司への進言が記された本件日記の箇所であり,現在の所持者はZである。
(2) 自己利用文書の判断要素
4号による一般的提出義務を検討する上では,ニの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるかが中心となる。単に日記という形式から当然に除外するのではなく,作成目的,記載内容,現在の所持者が所持するに至った経緯等を検討する。
具体的には,専ら内部の利用のために作成され,外部開示が予定されていないか,開示によりプライバシーや自由な意思形成が侵害されるなど所持者側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるか,なお提出義務を認める特段の事情があるかを区別する。日記は一般に本人の内心や経験を私的に記録するためのものだが,本件箇所は業務上の設計及び進言についての記載である。Tが自らの利用のために作成した日記であり,その妻で唯一の相続人であるZが承継して保管し,外部に見せることも証拠として提供することも拒んでいる。作成目的,妻への相続という取得経緯及び現在の非開示意思から,内部文書性は認められると考えられる。
(3) 死亡及び相続の意味
作成者はT,所持者は唯一の相続人Zであり,両者は同一人ではない。文言上,Tの自己利用のために作成された文書を,Zの自己利用のための文書といえるかが問題になる。相続したというだけでZが日記を自身の意思形成に利用しているとの事実を補ってはならない。他方,所持者が変われば直ちに私的記録の保護が失われるとすると,死後の公開を恐れて生前の率直な記録を差し控えるおそれもあるから,作成者と相続人の関係,取得経緯及び制度の保護目的から検討する。
Tの死亡は,本人の将来の意思形成が阻害されるという不利益を弱め得るが,死亡と同時に日記の秘密性が失われるとは限らない。本件日記に記されたTの内面的な認識や経験はTのプライバシーに属する。死者のプライバシーをどのように保護するか,遺族であるZの私生活上の利益と区別しつつ,Zの側に看過し難い不利益が生じるおそれを評価する必要がある。Zがプライバシーを理由に拒絶したことは検討の契機となるが,その主張だけで不利益を確定せず,逆に本件日記にZ自身の秘密があるとも仮定しない。
破綻した信用組合の貸出稟議書について,作成者が将来の貸付業務を行わず,現在の所持者にも意思形成阻害が生じない等の事情から,自己利用文書の特段の事情を認めた最高裁平成13年12月7日決定が比較の参考となる。同決定は営業中の金融機関への萎縮のおそれも検討した上で,結論を左右する程度でないと評価した。したがって,本件でも,Tの死亡及びZへの承継による現在の不利益の変化と,将来の日記作成一般への影響を分ける必要がある。ただし,金融機関の営業譲渡と個人の日記の相続とは保護利益が異なるから,同決定の提出義務肯定という結論をそのまま移さない。これらは不利益性の問題としても,特段の事情の問題としても整理できる。
また,記載がYに不利な設計上の事実であることと,日記所持者側の保護利益とは区別する。本件箇所の証明上の意味,Tが死亡している事情を踏まえ,特段の事情の有無を検討するが,他の証拠が全くない等の事情は加えない。以上の観点を検討事項として示し,文書提出義務の最終結論及び技術又は職業の秘密への該当性には立ち入らない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
評価項目と答案の対応表
評価項目の番号と答案の参照箇所を示す。
各番号の重み・具体的な適用条件は評価表に従い,採用しない別構成を一律に要求しない。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | 専属的合意と付加的合意の効果の違いを示す。 | 答案1(1) |
| 2 | 4 | Yが複数の法定管轄をB地裁へ絞ったと解する合理的意思の根拠を示す。 | 答案1(1) |
| 3 | 5 | Yの専属解釈への反論を経て,付加的合意を採る立論を閉じる。 | 答案1(1) |
| 4 | 4 | 契約書を作成したYが「のみ」等で専属性を明記しなかったことを論拠にする。 | 答案1(1) |
| 5 | 4 | Yからの債務不存在確認訴訟にもB地裁の管轄を生じさせる効用を示す。 | 答案1(1) |
| 6 | 2 | 【許容分岐】消費者と全国展開事業者の差を消費者契約法10条の趣旨による解釈へ接続する。 | 答案1(1)。消費者契約法の趣旨を援用する補強構成。本答案は採用せず,契約文言と合理的意思から立論する。 |
| 10 | 4 | 専属的合意という指定仮定を維持してA地裁審理を立論する。 | 答案1(2) |
| 11 | 4 | 専属的合意の場合の管轄違いによる移送と16条1項を出発点にする。 | 答案1(2) |
| 12 | 4 | A地裁が合意を除けば法定管轄を有することを示す。 | 答案1(2) |
| 13 | 4 | 法定管轄の根拠を5条1号の返還債務履行地又は5条5号のA支店業務へ対応させる。 | 答案1(2) |
| 15 | 5 | 17条の類推適用によってA地裁に留置する法的構成を示す。 | 答案1(2) |
| 16 | 4 | AからBへ移送した後に17条でAへ戻す迂遠さを,類推の理由として示す。 | 答案1(2) |
| 17 | 4 | 16条2項の自庁処理制度を留置の補強資料として用い,直接適用と区別する。 | 答案1(2)。16条2項を補強として用いる場合。本答案1(2)も直接適用とは区別する。 |
| 18 | 5 | 17条の著しい遅滞回避又は当事者間の衡平という必要性を具体的に評価する。 | 答案1(2) |
| 19 | 4 | X・Lの所在地と600km・4時間の距離を訴訟追行負担へ接続する。 | 答案1(2) |
| 20 | 4 | A支店従業員及び車両の所在地を尋問・検証の便宜へ接続する。 | 答案1(2) |
| 21 | 4 | Yの全国展開・A支店の存在を,Aでの応訴負担と衡平の評価に使う。 | 答案1(2) |
| 27 | 2 | 【許容分岐】19条1項等の別の類推構成も,説得的な説明があれば許容されると扱う。 | 答案1(2)。19条等の別の類推構成。本答案は採用せず,第5の3で位置付ける。 |
| 29 | 4 | 自白の成立要件を,弁論としての陳述・一致・事実・自己への不利益の4つとして示す。 | 答案2(1) |
| 32 | 5 | 自白の対象事実の範囲について,採用説と根拠を示す。 | 答案2(1) |
| 33 | 4 | 主要事実限定説では,間接事実の拘束を否定する理由を自由心証への間接的拘束から説明する。 | 答案2(1) |
| 34 | 4 | 元の返還請求では④が不履行を推認する間接事実であると説明する。 | 答案2(1) |
| 36 | 4 | 追加請求では④が債務不履行と腕時計損害の因果関係を構成する主要事実だと示す。 | 答案2(1) |
| 37 | 4 | 不利益性について採用説の根拠を示し,対象事実論と整合させる。 | 答案2(1) |
| 41 | 5 | 認める陳述→請求追加→撤回という順序から,拘束の新生・拡張を問題にする。 | 答案2(2) |
| 42 | 4 | 撤回を認める構成では,原告の一方的変更を被告が拒めない点を手続保障へ接続する。 | 答案2(2)。撤回を認める構成。本答案2(2)は採用する。 |
| 43 | 4 | 撤回を認める構成では,原告の当初の信頼の範囲と被告の不測の不利益を比較する。 | 答案2(2)。撤回を認める構成で双方の利益を比較する項目。 |
| 44 | 4 | 撤回を否定する構成では,同一の請求基礎と一度認めた事実を原告の信頼保護へ接続する。 | 第5の3(別構成の扱い)。答案2(2)。撤回を否定する反対構成。答案2(2)で比較し,本答案は採用しない。 |
| 45 | 5 | 撤回可否を,自白の意義・訴え変更における被告の保障・双方利益から論理的に結論付ける。 | 答案2(2) |
| 50 | 4 | 220条4号ニの自己利用文書該当性を中心に据える。 | 答案3(1) |
| 51 | 5 | 判例の要件に基づく構成では,自己利用文書の要件を内部文書性・看過し難い不利益・特段事情の有無に分ける。 | 答案3(2) |
| 52 | 4 | 内部文書性について,Tの自己利用目的と外部非開示を本件日記に当てはめる。 | 答案3(2) |
| 53 | 4 | 妻で唯一相続人のZの取得経緯・非開示意思を内部文書性へ接続する。 | 答案3(2) |
| 54 | 4 | Tのプライバシーに属する記載があることを不利益の評価の前提とする。 | 答案3(2) |
| 55 | 4 | プライバシー主体Tと現在の所持者Zが異なる点を不利益性の問題にする。 | 答案3(3) |
| 56 | 4 | Tの死亡による本人の保護必要性の低下を検討する。 | 答案3(3) |
| 57 | 4 | 死亡・所持者交代だけで不利益が消滅すると即断しない。 | 答案3(3) |
| 58 | 5 | 死後の開示可能性が将来の日記作成一般を萎縮させる利益を論ずる。 | 答案3(3) |
| 60 | 5 | 死亡・相続・萎縮という各事実を提示した自己利用文書の要件へ体系的に配賦する。 | 答案3(3) |
| 61 | 4 | 【許容分岐】不利益性で論ずる事項を特段事情で整理する構成も許容されると扱う。 | 答案3(3)。不利益性と特段事情の整理の違い。答案3(3)で代替可能性を示す。 |
| 62 | 4 | 【許容分岐】適切な独自の自己利用文書要件による構成も排除しない。 | 答案3(3)。独自の自己利用文書要件による別構成。本答案は採用せず,第5の3の許容範囲として読む。 |
| 63 | 4 | 観点・考慮事項を示し,提出義務の最終結論や技術・職業の秘密の検討へ進まない。 | 第5の3(採用しない構成の解説) |
(1) 答案と評価項目の対応
答案1(1)が番号1~9,1(2)が番号10~28,答案2が番号29~49,答案3が番号50~65に対応する。
負例を避け,採用する構成の項目を回収する関係であり,別構成をすべて答案へ併記する意味ではない。
(2) 管轄合意と留置
番号2・3・5が重要である。
B地裁がYの本店所在地により管轄を持つという事情だけでは,付加的合意の効用を説明し切れない。
Yが原告になる債務不存在確認請求の向きを考えると,B地裁に管轄を付け加える効用が分かる。
番号15の17条類推は,専属的合意という仮定を維持した構成である。
17条の直接適用や,既にBへ移送されたという別事実による再移送へ置き換えない。
(3) 請求追加と裁判上の自白
番号35は,実務上よく用いられる主張立証責任の整理である。
元請求では履行が被告の抗弁で,仕様を欠くとの主張はその積極否認,事故はそれを支える間接事実である。
追加請求では事故が損害の因果経過を構成する主要事実になる。
番号41・45の中心は,この役割変化により過去の陳述の拘束を新生・拡張してよいかという問題である。
撤回否定説を採る場合は,番号44に即し,同じ請求基礎と一度認めた事実によるXの信頼を具体的に論じる。
(4) 死亡した作成者の日記
番号52・53では内部文書性を先に当てはめ,番号55~58では現在の所持者,プライバシー主体,死亡及び将来一般の萎縮を別々に考える。
番号59の最高裁決定は比較資料であり,金融機関の貸出稟議書についての提出義務肯定という結論を日記へそのまま移さない。
不利益性と特段事情のいずれで整理するかによって直ちに評価が変わるものではない。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
答案は主要事実限定説と証明責任説を採っている。
別の対象事実論・不利益論を採る場合は,その定義に応じて旧・新請求の事実の役割と拘束を再検討されたい。
消費者契約法の趣旨による解釈や別条文の類推は,許容される補強・代替構成として評価表に残した。
自白の具体的撤回事由,訴え変更の一般要件の詳細,文書提出命令の審理手続は本答案では扱わない。
第6 関連記事
1 民事訴訟法の模範解答と評価項目
①令和2年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した59項目と5段階の重み付け(年度間の設問構造を比較するための関連記事)
2 同じ科目の別の年度の記事
- ①令和7年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した75項目と5段階の重み付け(AI作成)
- ②令和6年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した55項目と5段階の重み付け(AI作成)
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- ④令和4年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した53項目と5段階の重み付け(AI作成)
- ⑤令和2年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した59項目と5段階の重み付け(AI作成)
3 公式資料の所在と文書提出命令
①法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧
②文書提出命令に関する最高裁判例
3 令和元年司法試験の模範解答とハブ記事
①令和元年司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目
②令和元年司法試験公法系第1問の模範解答・評価項目―67項目と5段階の重み付け
③令和元年司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―70項目と5段階の重み付け
④令和元年司法試験民事系科目第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した68項目と5段階の重み付け
⑤令和元年司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した74項目と5段階の重み付け
⑥令和元年司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した73項目と5段階の重み付け
⑦令和元年司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した69項目と5段階の重み付け
4 管轄合意・移送・留置の実務
専属的合意管轄があっても移送・留置はできるか―訴訟の場所を争う確認手順(AI作成)では,現行法の下で管轄合意の範囲,移送と留置の区別,証人・検証物の所在と必要性の示し方を整理している。試験日当時の法状態に沿った本記事の答案とは,適用時点を分けて参照されたい。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和元年司法試験・民事系問題:物理9~13頁の第3問。
②令和元年司法試験論文式試験問題出題の趣旨:物理12~14頁の民事系第3問。
③令和元年司法試験の採点実感・民事系科目:物理18~24頁の第3問総論・設問別実感・末尾。
④平成31年司法試験の実施日程等について:物理1頁。
2 法令
民事訴訟法・当時施行版。
e-Govの履歴及び法令APIの基準日指定で確認した。
本文の管轄,自白,自由心証,自己利用文書の規定を実読している。
評価表の消費者契約法10条の趣旨と19条の別構成は公式資料の記述として紹介するものである。
3 裁判例
①最高裁昭和41年9月22日判決:間接事実の自白が裁判所・当事者を拘束しないこと。
原文2頁実読。
②最高裁平成11年11月12日決定:自己利用文書の要件。
原文3頁実読。
③最高裁平成13年12月7日決定:破綻信用組合の文書の承継と特段事情。
原文4頁実読。
④名古屋高裁平成28年8月2日決定:17条類推による留置。
原文4頁実読。
最高裁判例として扱っていない。
4 確認状態
| 資料 | 状態 | 確認範囲・留保 |
|---|---|---|
| 問題 | 実読済み | 原記事の資料記録に基づく。今回,新たな公式資料の閲覧はしていない。 |
| 出題の趣旨 | 実読済み | 原記事の確認記録に基づく。対象の版・頁・関連範囲は原記事から保持した記録による。 |
| 採点実感 | 実読済み | 原記事の確認記録に基づく。関連範囲,資料間の相違と未確認部分の留保は原記事から保持した記録による。 |
Confirmed:上記一次資料の実読範囲と,試験日当時の民事訴訟法本文。
Source statement:法務省が述べる評価の観点・許容構成。
Inference:65項目への分解,重み,本問事実への当てはめ及び採用説。
Unknown:本問と完全に一致する請求追加後の自白・死亡した個人の日記についての直接判例の確認。
判例未確認を不存在とはしていない。
法務省は自白の結論を一つに限定しておらず,設問3も義務の最終結論を求めていない。