令和元年司法試験の民事系科目第1問について,約5000字の模範解答と,公式の出題の趣旨・採点実感から独自に抽出した68の評価項目を示す。重み5は9項目である。試験実施日である令和元年5月16日当時の法状態を基準とし,錯誤は改正前民法95条の無効として扱う。
第1 この記事の対象と結論
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和元年度 民事系第1問 |
| 問題・基準時 | 問題文と設問の指定及び第7の出典・確認範囲による。問題の与件と指定された法令の時点を前提とする。 |
| 資料 | 出題の趣旨・採点実感に基づく分析。版・対象範囲・留保は第7の確認状態を参照。 |
| 評価項目 | 68項目(重み5:9項目) |
| 重みの合計 | 259(本記事独自の整理であり,公式の配点ではない。) |
| 答案の字数 | 4798字(答案部分の見出しを含み,空白・改行を除く可視文字数) |
| 判例・法改正の留保 | 第7の法令・裁判例と資料の範囲を参照。既存の確認日・参照頁・未確認部分の留保を引き継ぐ。 |
| 年度別の案内 | 令和元年司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目(AI作成) |
令和元年司法試験論文式民事系科目の問題の第1問(民法,問題PDFの1~3頁)を対象とする。設問1は建築請負の所有権帰属と土地工作物責任,設問2は先行する将来賃料債権譲渡と賃貸人の交代,設問3は免責的債務引受けに関する動機の錯誤を問う。
以下の答案は,甲建物が完成時にAへ帰属し,AがCに工作物所有者責任を負う構成を採る。設問2ではFを優先し,設問3では賃料取得の動機からHの錯誤無効を認める。これらの結論が唯一の正解という意味ではなく,公式資料は理由付けと当てはめが整合する別構成も許容する。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,答案の一つの判断を一行として抽出したもので,法務省の公式採点基準ではない。「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」と重みを区別する。許容分岐は,記載した適用条件を満たす構成を採る場合だけの要求であり,全項目を一つの答案へ累積して書く趣旨ではない。負例は,避けるべき誤り又は低優先の記述を示す。
両資料の関連範囲を実読した上で,本文に対応する最小限の引用を記した。頁はPDFの先頭から数える物理頁である。「記載なし」は関連範囲に直接の対応記述がないことを示す。間接的な読み取り,未確認の原文,独自の理由付けは公式の断定と区別する。公開表の番号は1~68の連続番号である。
2 5段階の重み付けの基準
5はその設問の判断を大きく分ける核心,4は結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ,3は通常押さえる法的処理・事情の評価,2は論証を補強する説明・個別事情・補助的注意,1は補充的な引用・記述範囲の確認を示す。
重みは本記事の独自分析であり,法務省の公式配点・予測得点ではない。
重み4は,両資料が取り上げたことを基準とし,すべてを「高く評価した事項」と読み替えない。重み5も,適用条件を超えて全答案の必須事項にはしない。件数の割当てを先に決めてはいない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
Aは代金3億6000万円でBに建築を請け負わせ,完成前に80%を支払った。完成後・引渡し前の震度5弱の地震で部材が落下し,Cが負傷した。使用資材の欠陥と製造業者の検査漏れは事故後に判明した。所有権帰属を論じた後,設問1後半はA所有の仮定に従って責任を検討する。
DはE県に賃貸した乙建物の12年分の将来賃料をFへ譲渡し,内容証明郵便で通知した。その後,Hは先行譲渡を知りながら建物を買い,登記を得れば賃料を取得できると考えた。HはDへ代金を払う代わりに,GのDに対する6000万円債権を免責的に引き受けた。設問2ではHとFの主張を強く構成して当否を述べ,設問3ではF正当という仮定の下で,Gとの引受契約の無効を検討する。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 答えるべき到達点 |
|---|---|---|---|
| 設問1・前半 | 完成後・引渡前の甲建物の所有権 | 請負人が全材料を調達し,代金80%は支払済み。 | 帰属の原則と例外の根拠・基準を示し,具体的支払と合理的意思へ当てはめる。 |
| 設問1・後半 | Aの工作物所有者責任 | 前半の結論にかかわらずA所有と仮定する。 | 工作物の客観的瑕疵と占有者Bの必要注意を分け,所有者責任へ進む。 |
| 設問2 | HとFの将来賃料に関する主張と当否 | 先行譲渡の通知後にHが建物を取得・登記した。 | 双方の理論・実質論を強く構成し,賃貸人交代後の債権への譲渡効を論ずる。 |
| 設問3 | H・G間の免責的債務引受契約の無効 | Fの主張が正当との仮定。試験当時の旧民法95条による。 | 動機を特定し,表示・内容化・重要性と重大な過失を区別して引受契約の効果を示す。 |
第4 評価項目と重み
1 設問1・所有権
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 完成建物が敷地と別個独立の所有権客体であることを示す。 全答案 | 4 | 物理p4・民事系第1問・設問1 「建物は,その敷地とは別個独立に所有権の客体となること」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「建物の独立性」 |
| 2 | 帰属合意を契約自由の原則によって優先する。 全答案 | 4 | 物理p4・民事系第1問・設問1 「契約自 由の原則」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「その理由付けがないものが多く」 |
| 3 | 合意がなければ材料提供者への帰属を原則とする。 請負人帰属を原則とする構成を採る場合 | 5 | 物理p4・民事系第1問・設問1 「材料の全部又は主要部分の提供者が誰か」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「材料の全部又は主要部分の提供者が誰か」 |
| 4 | 材料所有権が積み上がり建物となる物権法の根拠を示す。 請負人帰属を原則とする構成を採る場合 | 4 | 物理p4・民事系第1問・設問1 「材料の所有権が積み上げられて完成した建物となること」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「物権法の論理を正確に指摘」 |
| 5 | 報酬担保だけを請負人帰属の根拠にしない。 請負人帰属の根拠を述べる場合 | 2 | 記載なし | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「唯一の根拠」 |
| 6 | 他人の動産の加工を扱う246条を説明なく直接適用しない。 加工による帰属を論ずる場合(禁止される直接適用の監査) | 2 | 記載なし | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「加工の対象となる動産の所有者と加工者とが異なると」 |
| 7 | 分割支払内容から帰属合意を直接認定する構成も許容する。 分割支払から直接に黙示合意を認定する構成を採る場合 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「代金分割支払の合意内容等を詳細に分析・評価し」 | 記載なし |
| 8 | 事故は完成後・引渡前であり代金80%が支払済みと評価する。 全答案 | 4 | 物理p4・民事系第1問・設問1 「代金は8割が支払済み」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「代金の8割を注文者が支払っている」 |
| 9 | 例外の支払基準を全額か大半か明示する。 支払による帰属の例外を論ずる場合 | 5 | 物理p4・民事系第1問・設問1 「全額の支払を必要とする考え方」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「例外則の内容とその根拠」 |
| 10 | 支払による例外の根拠と判断基準を一貫させる。 支払による帰属の例外を論ずる場合 | 4 | 物理p4・民事系第1問・設問1 「それと 整合的な理由の提示」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「根拠に立ち返って論ずる必要」 |
| 11 | 実質的材料提供説では注文者が材料原資を出したことを根拠とする。 別枝:実質的材料提供説を採用する場合 | 3 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「注文者が材料の原 資を出している」 | 記載なし |
| 12 | 実質的材料提供説では支払額を材料費回収へ接続する。 別枝:実質的材料提供説を採用する場合 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「支払われた代金が材料の全部又は主要部分の費 用に相当」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「請負人が材料費を回収できる程度」 |
| 13 | 黙示合意説では双方の合理的意思を説明する。 黙示合意を根拠とする場合 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「両当事者の意思(黙示の合 意)」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「自己の採用する立場に基づき」 |
| 14 | 大半支払から合意を認めるとき請負人の報酬確保への懸念を具体的に評価する。 大半支払から黙示合意を認める場合 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「報酬確保として懸念のない状態」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「報酬請求 権を担保するためであれば」 |
| 15 | 8割という数字だけで帰属を決めず根拠に沿って当てはめる。 支払割合による帰属の当てはめを行う場合 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「この観点から,本問の事実の評価」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「簡単に片付けるもの」 |
| 16 | 注文者帰属説を採る場合は請負人帰属説の批判と自己の理由を示す。 別枝:注文者帰属説を採用する場合 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「請負人帰属 説の内容を示してこれを批判」 | 物理p1末尾〜p2冒頭・第1問・3⑴設問1(注文者帰属説に立つ場合の理由と判例批判) |
2 設問1・工作物責任
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 17 | 後半はA所有の仮定を維持し717条1項ただし書を検討する。 全答案 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「注文者Aが甲建物の所有者であると仮定」 | 物理p1・第1問・3⑴設問1(請負人が建物を占有している中での所有者(注文者)の土地工作物責任) |
| 18 | 建物が土地工作物であることを示す。 全答案 | 3 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「建物が土地工作物に該当する」 | 記載なし |
| 19 | 通常備えるべき安全性の欠如を基準とする説では,その基準により設置・保存の瑕疵を判断する。 適用条件:通常備えるべき安全性の欠如を基準とする構成を採用又は比較する場合 | 5 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「通常備えるべき安全性を欠くこと」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「設置又は 保存の瑕疵の有無」 |
| 20 | 震度5弱で損傷した強度不足を工作物の安全性欠如へ評価する。 全答案 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「震度5弱の地震に対す る強度を備えておらず」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「設置又は保存の瑕疵と材料の瑕疵」 |
| 21 | 資材の欠陥と工作物自体の瑕疵を混同しない。 全答案 | 2 | 記載なし | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「設置又は保存の瑕疵と材料の瑕疵」 |
| 22 | 負傷による治療費支出という損害を特定する。 全答案 | 3 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「治療費の支出を余儀なくさせている」 | 間接:物理p5・第1問・3(4) 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項 「瑕疵や因果関係の有無等の他の要件」 |
| 23 | 瑕疵から落下・負傷・治療費への因果関係を示す。 全答案 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「因果関係が認められること」 | 物理p5・第1問・3(4) 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項 「因果関係の有無等」 |
| 24 | 引渡前で管理・支配するBを占有者と認定する。 全答案 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「請負人Bの管理・支配下にある」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「占有者B」 |
| 25 | 結論を左右しない占有者概念を長く詳述しない。 全答案 | 2 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「占有者概念を詳述する必要はない」 | 記載なし |
| 26 | 占有者免責後に所有者が二次的責任を負う構造を示す。 全答案 | 5 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「占有者であるBが」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「二次 的なものである」 |
| 27 | 必要注意をその種の占有者が通常尽くすべき注意とする。 必要注意を通常水準と捉える場合 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「その種の占有 者として通常尽くすべき注意」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「必要な注意をしたか否か」 |
| 28 | 定評があり多くの建物で使用された資材であることを注意義務へ評価する。 全答案 | 4 | 物理p5・民事系第1問・設問1 「この資材は定評があり」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「本問の事実関係では」 |
| 29 | 製造業者の検査漏れと偶然の欠陥品使用を注意義務へ評価する。 全答案 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問1 「製造業者において検査漏れがあり」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「本問の事実関係では」 |
| 30 | 欠陥が事故後の調査で初めて判明したことを注意水準へ接続する。 全答案 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問1 「初めて明らかになっている」 | 物理p2・第1問・3(1) 設問1 「本問の事実関係では」 |
| 31 | 必要注意は資材強度の逐一个別検査まで要求しないと説明する。 通常注意説からB免責を導く場合 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問1 「逐一建築資材の 強度を個別に検査することまでは要求されず」 | 物理p5・第1問・3⑷全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項(占有者Bが必要な注意を怠ったと認定) |
| 32 | Bの注意義務を高度に捉えて責任を認める別説では根拠を示す。 別枝:高度注意義務説を採る場合 | 3 | 物理p6・民事系第1問・設問1 「占有者の注意義務を高度なもの」 | 間接:物理p2・第1問・3(1) 設問1 「何らの説明もせず卒然と」 |
| 33 | 義務違反型の瑕疵概念を採る別説は独自の根拠を示す。 別枝:義務違反型瑕疵概念を採る場合 | 3 | 物理p6・民事系第1問・設問1 「安全性を確保すべき義 務に違反」 | 記載なし |
| 34 | Aが所有者責任を負う場合は,717条3項による製造業者等への求償でAの救済を示す。 適用条件:Aが所有者責任を負う構成を採用又は比較する場合 | 4 | 記載なし | 物理p5・第1問・3(4) 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項 「建築資材の製造業者に対して求償」 |
| 35 | 709条・716条の長い論述へ設問をすり替えない。 全答案 | 2 | 記載なし | 物理p3・第1問・3(1) 設問1 「民法第709条や第 716条の責任を長々」 |
3 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 36 | Hの主張・Fの主張・当否を順に分けて論ずる。 全答案 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「下線部㋐は」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「順を追って論ずることができていた」 |
| 37 | 当然承継を採る場合は,前提となるEの引渡しと借地借家法31条の対抗力を示す。 適用条件:賃貸人の地位の当然承継を採る構成を採用又は比較する場合 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「賃貸人の地 位の当然承継」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「借地借家法第31条の定める対抗要件」 |
| 38 | 所有権の移転に伴う賃貸人地位の承継と理由を示す。 当然承継を採る場合 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「所有権の移転により賃貸人の地位が当然に 移転する理由」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「状態債務」 |
| 39 | 合意承継を採るとき当事者の合意と賃借人同意不要の理由を示す。 別枝:合意承継を採用する場合 | 3 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「賃借人の同意を要し ない理由」 | 記載なし |
| 40 | 将来債権が他の債権から識別できる程度に特定されていれば原則有効とする。 全答案 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「譲渡の目的とされる債権が特定されている場合」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「将来債権譲 渡の有効性」 |
| 41 | 長期包括譲渡の営業活動制限等による公序良俗上の限界を示す。 全答案 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「公序良俗違反などのため全部又は」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「判例法理を踏まえて論ずることができた答案は少数」 |
| 42 | 本件の債務者・発生原因・12年間の期間から対象特定を示す。 全答案 | 4 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「譲渡期間は 12年」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「将来債権譲 渡の有効性」 |
| 43 | 12年という長さだけで公序良俗違反にならないと評価する。 全答案 | 2 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「この一事をもって公序良俗に反するとまではいえない」 | 記載なし |
| 44 | 債務者対抗要件467条1項と第三者対抗要件同2項を分ける。 全答案 | 4 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「民法第467条第2項」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「債務者対抗要件」 |
| 45 | 内容証明郵便が確定日付ある証書であることを本件通知に当てはめる。 全答案 | 4 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「内容証明郵便による通知」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「民法施行法第5条第1項第6号」 |
| 46 | HからDは自己取得する債権しか処分できずHに発生する債権に効力が及ばないと主張する。 全答案 | 5 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「他人が取得す べき債権を処分することはできない」 | 物理p2・第1問・3(2) 設問2 「その根拠」 |
| 47 | H側の実質論として将来債権の不確実性と譲渡当事者間の損失処理を示す。 全答案 | 4 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「当然想定される事態の一つ」 | 間接:物理p3・第1問・3(2) 設問2 「実質的な妥当性の面」 |
| 48 | Fから同じ賃貸借から生ずる債権に先行譲渡の効力が及ぶと主張する。 全答案 | 5 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「Hの下で生ずる賃料債権も本件賃貸借契 約から生ずる」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「自説 の理論的根拠」 |
| 49 | F側で買主の調査可能性又は実際の認識を不測の不利益の評価へ接続する。 全答案 | 4 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「Hは本件譲渡契約がされたことを知りつつ」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「実質的妥当性」 |
| 50 | 建物譲渡で容易に効力を失わせると将来債権譲渡の有用性が損なわれると論ずる。 全答案 | 4 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「将来賃料債権譲渡の有用性が著しく損なわれて」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「反対説からの反論にも適切に」 |
| 51 | 単なる対抗要件の先後でなく譲渡効の射程自体を比較する。 全答案 | 4 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「将来賃料債権譲渡と目的不動産の譲渡のい ずれの効力」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「対抗 要件の具備の先後で決する」 |
| 52 | 採用説を理論面と実質的妥当性の両方から根拠付け反対論に応答する。 全答案 | 4 | 物理p7・民事系第1問・設問2 「理論的な理由と結論の妥当性の観点」 | 物理p3・第1問・3(2) 設問2 「複数の論拠を挙げ,反対説からの反論にも適切に」 |
| 53 | 差押えの判例を任意譲渡にそのまま適用せず相違を明示する。 差押え判例を引用する場合 | 3 | 物理p6・民事系第1問・設問2 「本問のように, 私人間の契約」 | 間接:物理p6・第1問・4法科大学院における今後の学習において望まれる事項(判例を正確に指摘して批判) |
4 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 54 | 問題となる動機を賃料取得の誤認か売買代金債務負担の誤認か明確に特定する。 全答案 | 5 | 物理p7・民事系第1問・設問3 「2通りの捉え方が可能」 | 物理p4・第1問・3(3) 設問3 「いずれの構成を採るかを明示せず」 |
| 55 | 売買代金債務を動機にする構成では売買の錯誤無効から代金債務不存在を経て引受けへ接続する。 別枝:売買代金債務負担の動機を採る場合 | 4 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「代金債務の 代物弁済」 | 物理p4・第1問・3(3) 設問3 「代金債務の負担が本件債務引受契約の締結の動機」 |
| 56 | 一方の動機から無効を認めるなら他方を累積要求しないが両方否定なら双方検討する。 一方の動機から無効を認める場合。両動機から否定するときは双方を検討 | 3 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「他方について論ずる必 要はない」 | 記載なし |
| 57 | 動機錯誤に95条を当然適用せず採用する無効要件と理由を示す。 全答案 | 4 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「民法第95条は当然には適用されない」 | 物理p4・第1問・3(3) 設問3 「自説がどのような立場であるか を明確にせず」 |
| 58 | 問題となる動機の表示の相手方をGと特定する。 全答案 | 4 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「動機がGに 表示されていた」 | 記載なし |
| 59 | 賃料取得の誤認を動機とする場合は,三者協議という外形だけでなくGの収益性発言・価格・引受けの経緯から黙示表示を認定する。 適用条件:賃料取得の誤認を動機とする構成を採用又は比較する場合 | 4 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「そのことがGに明示されているとまではいえない」 | 物理p4・第1問・3(3) 設問3 「外形的な事実 のみを指摘」 |
| 60 | 動機の表示と法律行為の内容化を別個に要する説では,両者を別の判断として行う。 適用条件:動機の表示と内容化を別個に要する構成を採用又は比較する場合 | 5 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「次に,その動機が法律行為の内容」 | 物理p5・第1問・3(3) 設問3 「別の判断基準」 |
| 61 | 動機の内容化を要する説では,その意味について了解説か効力前提受入説か等の基準と理由を示す。 適用条件:動機の内容化を要する構成を採用又は比較する場合 | 4 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「採るべき立場の内容と理由を明確」 | 物理p4・第1問・3(3) 設問3 「動機が法律行為の内容 になったこと」 |
| 62 | Gの認識と一体取引の見返りを内容化の基準へ当てはめる。 全答案 | 4 | 物理p9・民事系第1問・設問3 「何らの見返りもなく単なる友人の多額の債務」 | 物理p5・第1問・3(3) 設問3 「的確に事案を 分析して当てはめ」 |
| 63 | 採用する内容化説と整合して錯誤の重要性を判断する。 全答案 | 4 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「錯誤の重要性が認められなければな らない」 | 物理p5・第1問・3(3) 設問3 「要件を明確にし」 |
| 64 | 賃料という見返り利益の大きな喪失を具体的な重要性評価へ接続する。 全答案 | 3 | 物理p9・民事系第1問・設問3 「その額は4500万円近くになる」 | 記載なし |
| 65 | 95条ただし書の重過失を事実に即して判断する。 全答案 | 5 | 物理p9・民事系第1問・設問3 「Hに重大な過失があると認められるか」 | 物理p5・第1問・3(3) 設問3 「重過失があるとまではいえない」 |
| 66 | 法解釈の誤りを当然の重過失とせず解釈の未確立性を検討する。 全答案 | 4 | 物理p9・民事系第1問・設問3 「判例も一般的といえる解 釈も存在せず」 | 物理p5・第1問・3(3) 設問3 「一般人から見て下線部㋑が明らかに正しいとはいえない」 |
| 67 | 重過失を認める場合にもGとの共通錯誤による信頼保護の限界を検討する。 別枝:Hの重過失を認める場合 | 3 | 物理p9・民事系第1問・設問3 「GはHと同一の錯誤に陥 っていた」 | 記載なし |
| 68 | 判例の位置付けを示し自説の表示・内容化の理解を一貫させる。 判例による動機錯誤の内容化を参照する場合 | 4 | 物理p8・民事系第1問・設問3 「判例の理解 を踏まえて採るべき立場」 | 物理p5・第1問・3(3) 設問3 「判例の位置付けを踏まえつつ」 |
5 答案全体(一般的な指摘)
以下は重みを付けない一般的な指摘であり,68項目の集計へ混ぜない。問いが指定した相手方・仮定・検討順序を保ち,採用する構成の規範・事実評価・効果を閉じる。別説は適用条件を明示し,主位構成へ無理由に混ぜない。
6 重みの分布と重み5の事項
重み1=0件,重み2=6件,重み3=10件,重み4=43件,重み5=9件。
総項目数N=68,重み合計W=259である。
この合計は単純合計であり,公式得点・難易度・合格可能性や全答案に要求する達成率へ換算しない。
重み5の全項目は次のとおりである。番号から上の評価表を参照できる。
- 番号3:合意がなければ材料提供者への帰属を原則とする。 請負人帰属を原則とする構成を採る場合
- 番号9:例外の支払基準を全額か大半か明示する。 支払による帰属の例外を論ずる場合
- 番号19:設置・保存の瑕疵を通常備えるべき安全性の欠如とする。 全答案
- 番号26:占有者免責後に所有者が二次的責任を負う構造を示す。 全答案
- 番号46:HからDは自己取得する債権しか処分できずHに発生する債権に効力が及ばないと主張する。 全答案
- 番号48:Fから同じ賃貸借から生ずる債権に先行譲渡の効力が及ぶと主張する。 全答案
- 番号54:問題となる動機を賃料取得の誤認か売買代金債務負担の誤認か明確に特定する。 全答案
- 番号60:動機の表示と法律行為の内容化を別の判断として行う。 全答案
- 番号65:95条ただし書の重過失を事実に即して判断する。 全答案
その他の論点
- 番号1:完成建物が敷地と別個独立の所有権客体であることを示す。(全答案)
- 番号2:帰属合意を契約自由の原則によって優先する。(全答案)
- 番号10:支払による例外の根拠と判断基準を一貫させる。(支払による帰属の例外を論ずる場合)
- 番号15:8割という数字だけで帰属を決めず根拠に沿って当てはめる。(支払割合による帰属の当てはめを行う場合)
- 番号27:必要注意をその種の占有者が通常尽くすべき注意とする。(必要注意を通常水準と捉える場合)
- 番号36:Hの主張・Fの主張・当否を順に分けて論ずる。(全答案)
- 番号37:当然承継の前提となるEの引渡しと借地借家法31条の対抗力を示す。(全答案)
- 番号44:債務者対抗要件467条1項と第三者対抗要件同2項を分ける。(全答案)
- 番号51:単なる対抗要件の先後でなく譲渡効の射程自体を比較する。(全答案)
- 番号52:採用説を理論面と実質的妥当性の両方から根拠付け反対論に応答する。(全答案)
- 番号57:動機錯誤に95条を当然適用せず採用する無効要件と理由を示す。(全答案)
- 番号61:内容化の意味について了解説か効力前提受入説か等の基準と理由を示す。(全答案)
- 番号62:Gの認識と一体取引の見返りを内容化の基準へ当てはめる。(全答案)
- 番号63:採用する内容化説と整合して錯誤の重要性を判断する。(全答案)
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
答案は令和元年5月16日当時の民法等による。令和2年施行の改正後95条の取消しや,改正後の将来債権譲渡・賃貸人地位移転の明文を直接適用しない。甲建物の帰属は黙示合意,賃貸人の交代は対抗力ある賃貸借に基づく当然承継,錯誤の内容化は契約の基礎としての了解と重要性を区別する構成を採った。
2 答案
第1 設問1
1 甲建物の所有権
(1)甲建物は完成した鉄骨鉄筋コンクリート造9階建ての建物であり,敷地と別個独立の不動産である。Aが土地所有者であることだけから,付合による建物所有権の取得を導くことはできない。建物の帰属について合意があれば,契約自由の原則からこれに従う。
合意がない場合,請負人が材料全部を供給したときは,完成建物の所有権は請負人に帰属し,引渡しによって注文者に移ると解する。請負人の所有する材料が積み重なり,独立の建物となるため,材料についての所有権が建物の所有権へつながるからである。請負人自身の材料による建築を,他人の動産への加工を扱う民法246条の直接適用で説明することはできない。報酬確保もこの帰属を支えるが,担保の必要だけを所有権の根拠とするものではない。
もっとも,代金の全額又は大半が支払われ,双方の合理的意思から完成時に注文者へ帰属させる黙示の合意を認定できる場合は,その合意に従う。ここで大半支払を例外とする根拠は,注文者が材料の所有者になるということではなく,帰属合意の推認である。したがって,支払割合だけでなく,工事の進行と支払の対応,残代金の規模,引渡しとの関係から,請負人に所有権を留保して報酬を確保する実質的な懸念が残るかを基準に判断する。
(2)本件では,Bが全材料を調達したため,原則によればBに帰属する。事故日は平成30年6月7日で,完成日である同月1日より後,予定引渡日である同月11日より前であり,引渡しによる所有権移転は認められない。
しかし,Aは契約時3600万円,着工時1億800万円,棟上げ時1億4400万円を約定どおり支払っている。合計2億8800万円は代金3億6000万円の80%に達する。出来上がった建物を取得するAとしては,工事の進行に応じて大半を支払った以上,完成時の帰属を期待するのが合理的である。Bも,支払の履行状況から報酬回収への懸念は小さく,残る20%は引渡しと対応させて確保できる。建物全体の所有権を引渡しまで留保する実質的な必要は弱い。
この支払の仕組みと履行状況から,双方は完成建物をAに帰属させることを黙示に合意していたと認められる。80%という数字だけで所有権を移転させるのではない。したがって,甲建物は完成時にAに帰属し,事故時の所有者もAである。
2 Aの工作物所有者責任
(1)以下では前半の結論と切り離し,Aが所有者であるという設問の仮定に従い,民法717条1項によるCの請求を検討する。甲建物は土地の工作物である。「設置又は保存に瑕疵」とは,その工作物が通常備えるべき安全性を欠くことをいう。これは客観的な安全性の判断であり,占有者が必要な注意を尽くしたかとは区別する。
本件の9階建ての建物は震度5弱の地震で一部が損傷して道路へ落下した。通常の建物にはこの程度の地震で歩行者へ部材を落下させない強度が求められるところ,必要強度を欠く資材の使用によって,建物自体がその安全性を欠いていた。資材に定評があったことは,瑕疵の発見可能性に関係しても,現実の建物の安全性欠如を否定しない。
この瑕疵により部材が落下し,Cが負傷して治療費を支出したので,損害と因果関係も認められる。
(2)同項はまず占有者に責任を負わせ,占有者が損害発生を防止するのに必要な注意をしたとき,所有者に二次的な責任を負わせる。引渡し前に建物を施工・管理するBが占有者である。
必要な注意とは,その種の工作物の占有者が通常尽くすべき注意をいう。本件では,Bは契約仕様どおり工事を行い,広く使用され定評もある資材を調達した。製造業者の検査漏れによって必要強度を欠く品が出荷され,それが偶然用いられたことは,事故後の調査で初めて判明した。通常信頼される資材の一つ一つについてBが改めて強度試験をすることまで要求すると,施工者に通常期待される注意を超える。ほかに欠陥を疑わせる事情も示されていない。Bは必要な注意を尽くしたと評価できる。
そこでAが所有者として責任を負う。この責任は被害者保護のための無過失責任であり,A自身が欠陥を発見できなかったことや,原因が製造業者の検査漏れにあることは免責理由にならない。CはAに対し,瑕疵と相当因果関係のある治療費の賠償を請求できる。Aは原因について責任を負う製造業者等に同条3項により求償し得るが,その救済はCの請求を妨げない。
第2 設問2
1 Hの主張
(1)Eは平成24年10月1日に乙建物の引渡しを受け,借地借家法31条1項による賃貸借の対抗力を有する。対抗力のある賃貸借の目的建物が譲渡される場合,特段の事情がなければ,賃貸人の地位は所有権に伴って譲受人へ移る。所有者が使用収益させる義務を負い,その対価として賃料を得る関係を維持する必要があるからである。賃借人に不利益を与えるものではなく,その新たな承諾は要しない。
Hは平成30年2月14日に買い受け,同月20日に登記を得たため,賃貸人の地位の取得をEに対抗でき,3月分以降の賃料は自己に発生すると主張する。
(2)Dは自己に発生する債権を処分できるだけで,賃貸人でなくなった後にHへ発生する債権まで処分できない。将来債権譲渡は有効でも,Dが将来取得することを前提とする以上,Hに発生する賃料へ先行譲渡の効力は及ばないというのである。
実質的にも,将来債権には賃貸借終了などによる不発生の危険がある。Fもそれを引き受けており,Dに発生しなくなったことによる損失はD・F間で処理すべきである。Fは所有権や賃貸人の地位を取得していないのに,Hに使用収益させる負担だけを負わせ,賃料を与えないのは不合理であると主張できる。
2 Fの主張
(1)将来債権も,他の債権と識別できる程度に特定されていれば,原則として譲渡できる。未発生という理由だけで譲渡を禁ずると,将来収入による資金調達を妨げる。ただし,過度に長期間の債権を包括的に取り込み,譲渡人の活動を著しく制限するなどの事情があれば,公序良俗違反となり得る。
本件では債務者E,乙建物の賃貸借という発生原因,平成28年9月分から平成40年8月分という期間によって特定されている。20年の賃貸借のうち12年間の賃料を譲渡することは,その長さだけで公序良俗に反しない。既存貸金3600万円の回収を目的とし,月額25万円の144か月分という回収規模にも対応する。Dの主要収入を対象とする点には注意を要するが,Dを不当に拘束するなどの具体的事情は示されず,譲渡は有効である。
(2)Dの通知は平成28年8月4日にEへ到達しており,Fは民法467条1項の債務者対抗要件を備える。また,内容証明郵便は確定日付ある証書であるため,同条2項の第三者対抗要件も備え,第三者であるHにも譲渡を対抗できる。
Fは,既に成立した同一の賃貸借から生ずる将来賃料を取得したので,賃貸人がDからHへ交代しても,その譲渡の効力は失われないと主張する。Dが処分済みの賃料まで建物譲渡によって取り戻し,Hへ移すことはできないというのである。
建物の買主は賃借人に問い合わせて先行譲渡を調査でき,本件Hは実際に譲渡を知っている。建物譲渡だけで先行譲渡を消滅させると,将来債権譲渡の担保的価値も著しく損なわれる。将来賃料差押え後の建物譲渡に関する判例も建物処分と賃料帰属を分けるが,差押えの処分禁止効と任意の債権譲渡とは異なり,その判旨をそのまま適用するものではない。
3 当否
両者の対抗要件の先後だけで決めるのではなく,先行する将来債権譲渡が賃貸人交代後の賃料に及ぶかが問題である。Hのいう将来債権の不確実性は,賃貸借の終了など発生基礎が失われた場合には妥当する。しかし,本件ではEが同じ建物を同じ契約で利用し続け,賃貸借は消滅していない。
賃貸人の地位は,既にされた賃料処分の制約を伴ってHへ移ると解すべきである。Hの使用収益させる負担との不均衡は,先行譲渡を調査し,売買価格等へ反映することで調整できる。実際に知っていたHよりも,先に第三者対抗要件を備えたFを保護するのが妥当である。よって譲渡対象期間の賃料についてFの主張が正当である。
第3 設問3
1 動機の錯誤と採用する規範
設問2と切り離し,Fの主張が正当であるという仮定に従う。Hは譲渡の存在を知りながら,建物を取得し登記を得れば賃料を取得できると誤信した。この賃料取得という動機の錯誤を,Gとの免責的債務引受契約について検討する。Dとの売買だけが無効となっても,引受契約の無効が当然に導かれるわけではない。
民法95条本文による要素の錯誤は,法律行為の内容に関する錯誤で,それがなければ表意者は意思表示をせず,通常人も同様と認められる重要性を有するものをいう。動機の錯誤は当然には対象とならず,動機が相手方へ表示され,法律行為の内容となったことを要する。
表示は,相手方が動機を知り得る状態にすることで,黙示でもよい。これと別に,内容化は,相手方がその動機を法律行為の前提として了解することを要すると解する。ただし,単に動機を知っただけでは足りず,取引の目的と給付の対応から,その前提を契約の基礎としたことが必要である。その上で重要性を判断すれば,相手方の取引安全と表意者保護を調整できる。
判例は表示されただけでは内容化を認めず,特定の保証取引において,ある属性を欠いた場合に契約を無効とすることまで当事者が受け入れたかを重視している。もっとも,内容化は契約の性質と危険配分に即して判断すべきであり,本件のように経済的見返りを基礎とする三者の取引について,上記基準により検討する。
2 表示・内容化・重要性
(1)表示の相手方は債権者Gである。三者の協議でDが先行譲渡を説明した上,G自身が,買主は長期の安定した賃料収入を見込めるから相当な価格で売却できると提案した。Hは収益性に基づく6000万円で買い受け,代金支払に代えてGへの債務を引き受けた。Hが動機を明言した事実はないが,この提案に応じた取引経緯から,賃料取得が引受けの動機であることはGへ黙示に表示されたと認められる。
(2)内容化については,Gが賃料収入を見返りとして提案し,価格,代金債務の消滅,Dの免責,Hの分割弁済を一体として協議したことが重要である。Gは単にHの希望を聞いただけでなく,収益を得る建物の取得を前提に,Hに6000万円の負担を引き受けさせる取引を了解した。Hが賃料取得の危険を一方的に負担する合意も示されていない。Gの既存債権の回収利益を考慮しても,この前提を単なるH・D間の事情として切り離すことはできず,内容化が認められる。
(3)Hは賃料を取得できないと知れば同じ引受けをしなかった。平成30年3月分から平成40年8月分までは126か月で,月額25万円なら3150万円の収入を見込めなくなる。3600万円の即時払と10年間毎月20万円の支払に対応する見返りを大幅に失うので,収益性に基づく価格で取得する通常人も同じ条件では引き受けない。重要性も認められる。
3 重大な過失と結論
Gは,Hが先行譲渡を知りながら法的効果を調査しなかったことを,95条ただし書の重大な過失と主張し得る。しかし,先行譲渡が賃貸人交代後の賃料に及ぶかは解釈が分かれ,当然に明白な結論を無視した場合とは異なる。所有権と登記を得れば賃料を取得できると考えたことが,通常要求される注意を著しく欠くとはいえない。法律の誤解であることだけから重過失を認めるべきではない。
したがって,HはGとの債務引受契約について,民法95条本文による錯誤無効を主張できる。ここでは賃料取得の動機から引受契約自体の無効を認めるため,売買代金債務を負担するという別の動機から重ねて無効を導く必要はない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
評価項目と答案の対応表
評価項目の番号と答案の参照箇所を示す。
各番号の重み・具体的な適用条件は評価表に従い,採用しない別構成を一律に要求しない。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | 完成建物が敷地と別個独立の所有権客体であることを示す。 全答案 | 答案第1の1(1) |
| 2 | 4 | 帰属合意を契約自由の原則によって優先する。 全答案 | 答案第1の1(1) |
| 3 | 5 | 合意がなければ材料提供者への帰属を原則とする。 請負人帰属を原則とする構成を採る場合 | 答案第1の1(1) |
| 4 | 4 | 材料所有権が積み上がり建物となる物権法の根拠を示す。 請負人帰属を原則とする構成を採る場合 | 答案第1の1(1) |
| 7 | 4 | 分割支払内容から帰属合意を直接認定する構成も許容する。 分割支払から直接に黙示合意を認定する構成を採る場合 | 答案第1の1(1)。分割支払から直接合意を認定する別構成。本答案は原則と例外の根拠を区別する。 |
| 8 | 4 | 事故は完成後・引渡前であり代金80%が支払済みと評価する。 全答案 | 答案第1の1(2) |
| 9 | 5 | 例外の支払基準を全額か大半か明示する。 支払による帰属の例外を論ずる場合 | 答案第1の1(2) |
| 10 | 4 | 支払による例外の根拠と判断基準を一貫させる。 支払による帰属の例外を論ずる場合 | 答案第1の1(2) |
| 11 | 3 | 実質的材料提供説では注文者が材料原資を出したことを根拠とする。 別枝:実質的材料提供説を採用する場合 | 第5の3(採用しない構成の解説)。実質的材料提供説の別構成。本答案は黙示合意説を採る。 |
| 12 | 4 | 実質的材料提供説では支払額を材料費回収へ接続する。 別枝:実質的材料提供説を採用する場合 | 第5の3(採用しない構成の解説)。実質的材料提供説の別構成。本答案へ累積しない。 |
| 13 | 4 | 黙示合意説では双方の合理的意思を説明する。 黙示合意を根拠とする場合 | 答案第1の1(1)~(2) |
| 14 | 4 | 大半支払から合意を認めるとき請負人の報酬確保への懸念を具体的に評価する。 大半支払から黙示合意を認める場合 | 答案第1の1(1)~(2) |
| 15 | 4 | 8割という数字だけで帰属を決めず根拠に沿って当てはめる。 支払割合による帰属の当てはめを行う場合 | 答案第1の1(1)~(2) |
| 16 | 4 | 注文者帰属説を採る場合は請負人帰属説の批判と自己の理由を示す。 別枝:注文者帰属説を採用する場合 | 第5の3(採用しない構成の解説)。注文者帰属説の別構成。本答案は請負人帰属を原則とする。 |
| 17 | 4 | 後半はA所有の仮定を維持し717条1項ただし書を検討する。 全答案 | 答案第1の2(1) |
| 19 | 5 | 通常備えるべき安全性の欠如を基準とする説では,その基準により設置・保存の瑕疵を判断する。 | 答案第1の2(1) |
| 20 | 4 | 震度5弱で損傷した強度不足を工作物の安全性欠如へ評価する。 全答案 | 答案第1の2(1) |
| 23 | 4 | 瑕疵から落下・負傷・治療費への因果関係を示す。 全答案 | 答案第1の2(1) |
| 24 | 4 | 引渡前で管理・支配するBを占有者と認定する。 全答案 | 答案第1の2(2) |
| 26 | 5 | 占有者免責後に所有者が二次的責任を負う構造を示す。 全答案 | 答案第1の2(2) |
| 27 | 4 | 必要注意をその種の占有者が通常尽くすべき注意とする。 必要注意を通常水準と捉える場合 | 答案第1の2(2) |
| 28 | 4 | 定評があり多くの建物で使用された資材であることを注意義務へ評価する。 全答案 | 答案第1の2(2) |
| 29 | 4 | 製造業者の検査漏れと偶然の欠陥品使用を注意義務へ評価する。 全答案 | 答案第1の2(2) |
| 30 | 4 | 欠陥が事故後の調査で初めて判明したことを注意水準へ接続する。 全答案 | 答案第1の2(2) |
| 31 | 4 | 必要注意は資材強度の逐一个別検査まで要求しないと説明する。 通常注意説からB免責を導く場合 | 答案第1の2(2) |
| 32 | 3 | Bの注意義務を高度に捉えて責任を認める別説では根拠を示す。 別枝:高度注意義務説を採る場合 | 答案第1の2(2)。高度注意義務の別構成。本答案は通常尽くすべき注意を基準にする。 |
| 33 | 3 | 義務違反型の瑕疵概念を採る別説は独自の根拠を示す。 別枝:義務違反型瑕疵概念を採る場合 | 答案第1の2(2)。義務違反型の瑕疵概念という別構成。本答案は客観的な安全性欠如を採る。 |
| 36 | 4 | Hの主張・Fの主張・当否を順に分けて論ずる。 全答案 | 答案第2の1~3 |
| 37 | 4 | 当然承継を採る場合は,前提となるEの引渡しと借地借家法31条の対抗力を示す。 | 答案第2の1 |
| 38 | 4 | 所有権の移転に伴う賃貸人地位の承継と理由を示す。 当然承継を採る場合 | 答案第2の1 |
| 39 | 3 | 合意承継を採るとき当事者の合意と賃借人同意不要の理由を示す。 別枝:合意承継を採用する場合 | 答案第2の1。合意承継の別構成。本答案は所有権に伴う当然承継を採る。 |
| 40 | 4 | 将来債権が他の債権から識別できる程度に特定されていれば原則有効とする。 全答案 | 答案第2の2 |
| 41 | 4 | 長期包括譲渡の営業活動制限等による公序良俗上の限界を示す。 全答案 | 答案第2の2 |
| 42 | 4 | 本件の債務者・発生原因・12年間の期間から対象特定を示す。 全答案 | 答案第2の2 |
| 44 | 4 | 債務者対抗要件467条1項と第三者対抗要件同2項を分ける。 全答案 | 答案第2の2 |
| 45 | 4 | 内容証明郵便が確定日付ある証書であることを本件通知に当てはめる。 全答案 | 答案第2の2 |
| 46 | 5 | HからDは自己取得する債権しか処分できずHに発生する債権に効力が及ばないと主張する。 全答案 | 答案第2の1 |
| 48 | 5 | Fから同じ賃貸借から生ずる債権に先行譲渡の効力が及ぶと主張する。 全答案 | 答案第2の2 |
| 49 | 4 | F側で買主の調査可能性又は実際の認識を不測の不利益の評価へ接続する。 全答案 | 答案第2の2 |
| 50 | 4 | 建物譲渡で容易に効力を失わせると将来債権譲渡の有用性が損なわれると論ずる。 全答案 | 答案第2の2 |
| 51 | 4 | 単なる対抗要件の先後でなく譲渡効の射程自体を比較する。 全答案 | 答案第2の3 |
| 52 | 4 | 採用説を理論面と実質的妥当性の両方から根拠付け反対論に応答する。 全答案 | 答案第2の3 |
| 54 | 5 | 問題となる動機を賃料取得の誤認か売買代金債務負担の誤認か明確に特定する。 全答案 | 答案第3の1 |
| 55 | 4 | 売買代金債務を動機にする構成では売買の錯誤無効から代金債務不存在を経て引受けへ接続する。 別枝:売買代金債務負担の動機を採る場合 | 第5の3(採用しない構成の解説)。売買代金債務の動機からの別構成。第5の3を参照し,引受契約への接続を要する。 |
| 56 | 3 | 一方の動機から無効を認めるなら他方を累積要求しないが両方否定なら双方検討する。 一方の動機から無効を認める場合。両動機から否定するときは双方を検討 | 答案第3の1。一方の動機から無効を認める場合。本答案は賃料取得の動機から結論を導く。 |
| 57 | 4 | 動機錯誤に95条を当然適用せず採用する無効要件と理由を示す。 全答案 | 答案第3の1 |
| 59 | 4 | 賃料取得の誤認を動機とする場合は,三者協議という外形だけでなくGの収益性発言・価格・引受けの経緯から黙示表示を認定する。 | 答案第3の2(1) |
| 60 | 5 | 動機の表示と法律行為の内容化を別個に要する説では,両者を別の判断として行う。 | 答案第3の2(1) |
| 61 | 4 | 動機の内容化を要する説では,その意味について了解説か効力前提受入説か等の基準と理由を示す。 | 答案第3の1 |
| 62 | 4 | Gの認識と一体取引の見返りを内容化の基準へ当てはめる。 全答案 | 答案第3の2(2) |
| 63 | 4 | 採用する内容化説と整合して錯誤の重要性を判断する。 全答案 | 答案第3の2(3) |
| 65 | 5 | 95条ただし書の重過失を事実に即して判断する。 全答案 | 答案第3の3 |
| 66 | 4 | 法解釈の誤りを当然の重過失とせず解釈の未確立性を検討する。 全答案 | 答案第3の3 |
| 67 | 3 | 重過失を認める場合にもGとの共通錯誤による信頼保護の限界を検討する。 別枝:Hの重過失を認める場合 | 答案第3の3。Hの重過失を認める場合の別構成。本答案は重過失を否定する。 |
| 68 | 4 | 判例の位置付けを示し自説の表示・内容化の理解を一貫させる。 判例による動機錯誤の内容化を参照する場合 | 答案第3の1 |
(1) 答案と評価項目の対応・設問1
所有権帰属では,合意を優先する根拠,材料提供者帰属の原則,支払による例外の根拠と基準を分ける。番号9・10・14・15は,大半支払と判断する基準を採用説に接続するための項目である。材料費回収を根拠とする別構成の番号11・12と,黙示合意説を同時に要求しない。工作物責任では,客観的な瑕疵とBの必要注意を別々に判断する。
(2) 設問2の対立構成と射程
設問2では,Hの登記とFの通知の日付比較だけでは足りない。番号46・48・51・52の中心は,誰に発生するどの債権へ先行譲渡が及ぶかである。F説を採る場合も,H側の権利・負担の対応や将来債権の不確実性に応答する。将来債権の特定だけでなく,長期譲渡の公序良俗上の限界も検討する。
(3) 設問3の表示と内容化
設問3では,Gに動機が示されたかと,Gがそれを契約の基礎として了解したかを別に判断する。番号60~63は,表示,内容化の意味,具体的な了解,重要性を区別する項目である。平成28年1月12日判決は保証取引における表示と内容化を区別している。本答案はその契約類型を示し,本件の取引目的と危険配分に基づいて自説を論じる。単なる共通の誤信だけで無効を導かない。重過失を認める構成では番号67の共通錯誤も検討する。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
黙示合意や内容化の認定には反対評価の余地があり,採用説の結論を事実から自動的に導くものではない。設問1の別帰属説,設問2のH説,設問3の代金債務を動機とする構成は,理由を一貫させれば選択可能である。本答案は採用したルートで結論を閉じ,設問外の返還請求や原債務の帰趨は展開していない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和元年司法試験公法系第1問の模範解答・評価項目―67項目と5段階の重み付け
②令和元年司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―70項目と5段階の重み付け
③令和元年司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した65項目と5段階の重み付け
④令和元年司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した74項目と5段階の重み付け
⑤令和元年司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した73項目と5段階の重み付け
⑥令和元年司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した69項目と5段階の重み付け
⑦令和元年司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目
2 同じ科目の別の年度の記事
- ①令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した96項目と5段階の重み付け(AI作成)
- ②令和6年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した60項目と5段階の重み付け(AI作成)
- ③令和5年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した80項目と5段階の重み付け(AIリライト)
- ④令和4年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した70項目と5段階の重み付け(AI作成)
- ⑤令和2年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した68項目と5段階の重み付け(AI作成)
3 本問と関連する山中弁護士ブログの記事
賃貸不動産が譲渡された場合,既に譲渡された将来賃料債権は誰に帰属するか―民法605条の2・債権譲渡・対抗要件。現行法を扱う記事であるため,本問当時の法令を置き換える根拠にはしない。
契約の前提事情が違っていたとき―錯誤取消しの確認順序と契約書・交渉記録。現行民法95条の取消しと契約・交渉記録の確認手順を扱う。本問当時の改正前民法95条とは区別して参照する。
建築請負で完成・未完成建物の所有権は誰に帰属するか―材料提供・出来高払い・引渡し・中途解除。建築請負における所有権帰属の実務上の確認事項を扱う。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
法務省公表の問題PDF1~3頁,出題の趣旨PDFの物理4頁の第1問開始から9頁の第2問直前まで,採点実感PDF(民事系科目)1~6頁を対象範囲として確認した。別問題の内容を本問の答案要求に流用していない。
2 法令
e-Gov法令APIの民法(平成31年1月13日施行版)と借地借家法(試験日基準)及び民法施行法5条1項6号(試験日基準)を確認した。錯誤,債権譲渡,所有権移転・対抗,請負及び工作物責任の関連条文を参照している。
3 裁判例
- 最高裁平成10年3月24日判決:将来賃料の差押え後の建物譲渡。差押えの処分禁止効に関する判断を任意譲渡の確定判例と同一視しない。
- 最高裁平成12年4月21日判決:将来債権譲渡予約の特定。予約と確定的譲渡の相違を保つ。
- 最高裁平成28年1月12日判決:信用保証取引の動機の錯誤,表示と内容化の区別。
4 確認状態
| 資料 | 状態 | 確認範囲・留保 |
|---|---|---|
| 問題 | 実読済み | 原記事の資料記録に基づく。今回,新たな公式資料の閲覧はしていない。 |
| 出題の趣旨 | 実読済み | 原記事の確認記録に基づく。対象の版・頁・関連範囲は原記事から保持した記録による。 |
| 採点実感 | 実読済み | 原記事の確認記録に基づく。関連範囲,資料間の相違と未確認部分の留保は原記事から保持した記録による。 |
Confirmed:問題文,試験日当時の関連法令,上記3判決の原文及び期間の算術を確認した。Source statement:公式資料が述べる答案要求と許容構成である。評価単位,重み,構成の選択と本件の当てはめは本記事のInferenceであり,公式の採点表ではない。
Unknown:公式資料が参照する昭和44年9月12日,平成11年1月29日,平成13年11月22日の判決原文は独立確認していない。原文を確認した裁判例と区別し,引用だけから確認済みの範囲を広げない。出題の趣旨の「4500万円近く」という見返り利益の対象範囲も確定できないため,本答案は問題文上の譲渡対象残存期間(平成30年3月~平成40年8月)の126か月,3150万円に限定して算定した。重要性の判断をこの金額だけに依存させず,取引目的と負担全体から理由付けている。