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令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した96項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,民事系科目第1問(民法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
本問は,業務中の従業員の威嚇行為が原因の交通事故をめぐる使用者責任,被害者側の過失,混同と求償及び弁護士法72条違反の和解の効力(設問1),並びに未成年者の交換契約の取消しから始まる動産の転売と即時取得及び不当利得の返還額(設問2)を問うものである。

公式資料から抽出できた評価項目は96項目である。
重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,暴行の事件類型の判例の基準,被害者側の過失による過失相殺の合理性の説明,共同不法行為者Cの債務の併存の指摘,連帯債務の規定の適用の検討,委任契約と和解契約の効力の区別,和解を無効とした場合の当事者の利益の考慮,825条による共同名義の取消しの効力,Fの即時取得の否定,返還額(35万円か30万円か)の検討及び対価の控除の可否の10項目である。
第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(民事系科目第1問の部分)又は採点実感(同)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
「〜しない」の形の項目は,採点実感が誤り又は不十分な答案として挙げた記述から作ったものである。
結論が複数あり得る論点(被害者側の過失の基準時,連帯債務の規定の適用の可否,返還額及び対価の控除)は,結論ではなく検討の有無を項目にした。

各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを示した。
出題の趣旨は,法務省のPDFの頁と見出し番号(例えば「5頁1⑵イ」は,5頁の「1 設問1について」の⑵イを指す。)で示した。
採点実感は,民事系科目の採点実感のうち第1問の部分の見出し番号(例えば「3⑴ア(ア)①」は,「3 採点実感」の⑴(設問1)のア(設問1⑴)の(ア)(全体的な採点実感)で挙げられた論ずべき事項①を指し,「(イ)優秀」は(イ)(答案の例)の「優秀」の記述を指す。)で示した。
一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
①重み5:採点実感が「ごく少数」「少数」「半数近い」等と述べて評価の分かれ目とした事項のうち,出題の趣旨も検討を求めるもの,又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項,又は採点実感が多数の答案の誤りとして指摘した事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項,又は許容される別構成

第3 本問の概要

設問1の事実は,次のとおりである。
設備工事業者Bの従業員Aが,Bの業務としてBのトラックを運転中,Cの乗用車に割り込まれてクラクションで抗議し,信号待ちの際に口論となった。
Aは,Cから執拗に挑発されて,荷台から取り出した工具を振り回しながらCに向かって行った。
逃げようとして急発進したCが縁石に乗り上げて車を横転させ,同乗していたCの妻Dが重傷を負った(過失割合はA2割,C8割)。
事故の後,CとDは別居して離婚に合意し,DはBに損害賠償を請求した。
設問1⑴は,Bの使用者責任とCの過失による減額の主張を,設問1⑵は,Cが死亡しDが唯一の相続人として単純承認した場合の混同の主張と,BD間の求償による最終的な負担を問う。
設問1⑶は,弁護士でないEがDを代理してBと200万円の和解をした(弁護士法72条違反)場合に,Bが同条違反を理由に支払を拒めるかを問う。

設問2の事実は,次のとおりである。
17歳のCが父母A・Bに無断で自分の絵画甲とDの絵画乙を交換し,Aは,Bに無断でA・Bの名義で交換契約を取り消した(Dは,Bの許諾があると考えていた)。
Cは18歳になった後,乙を以後Dのために占有すると合意し,その後,乙をEに売って以後Eのために占有すると合意した。
Eは乙をFに売り,Cに以後Fのために占有するよう命じた。
Fは乙をGに売り,CがGの指示する場所へ乙を運び込んだ。
E・F・Gは,いずれも売主が所有者であると過失なく信じていた。
設問2アは乙の所有権の帰属の過程を,設問2イは,DがFに35万円(Gとの売買代金)を請求した場合に,全部又は一部が認められるかを問う(乙の適正価額は30万円,FがEに支払った代金は30万円である。)。
解答は,令和7年1月1日現在で施行されている法令による。

第4 評価項目と重み

1 設問1⑴ア(使用者責任)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1使用者責任の要件(715条1項)を順に検討する35頁1⑵(要件を順次検討することを求める)3⑴ア(ア)①(大多数の答案は順に検討していた)
2被用者Aの不法行為の要件は,設問上の前提として処理する15頁1⑵ア記載なし
3AがBの従業員であることから使用関係を認める15頁1⑵ア記載なし
4事業執行性が中心の問題であり,本件威嚇行為が職務の執行行為そのものではないことを示す35頁1⑵イ記載なし
5暴行の事件類型の判例の基準(事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為)を示す55頁1⑵イ(最判昭和44年・最判昭和46年を挙げる)3⑴ア(ア)①(この基準で具体化した答案は多くなかった),(イ)優秀
6職務権限の逸脱・濫用の事件類型の外形基準(最判昭和36年)と区別し,本件で外形基準によることが適切でない理由を示す45頁1⑵イ3⑴ア(イ)優秀(外形基準によることは適切でない旨を論じる)
7本件威嚇行為を暴行に準ずるものとして,暴行の事件類型に位置付ける35頁1⑵イ記載なし
8業務として運転中に口論となり,挑発されて威嚇行為に出たという事実を基準に当てはめる35頁1⑵イ3⑴ア(イ)一応の水準(自説に基づく当てはめ)
9事業執行性を外形基準に沿って具体化し,充足するとしない4記載なし3⑴ア(ア)①(半数近い答案がこの誤り)
10暴行事例の判例に応接しないまま,支配領域基準を持ち出さない2記載なし3⑴ア(ア)①
11AがBの従業員で業務として運転中であったことだけで事業執行性を肯定しない2記載なし3⑴ア(イ)不良

2 設問1⑴イ(被害者側の過失)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
12㋑を,Cの過失による過失相殺(722条2項)の主張と捉える25頁1⑶記載なし
13Cは被害者D本人ではないから,第三者の過失によって過失相殺できるかを問題にする45頁1⑶ア3⑴ア(イ)不良(論点に気付かず結論のみ)
14被害者側の過失の範囲の基準(被害者と身分上ないし生活関係上一体をなす関係にある者,最判昭和42年)を示す45頁1⑶ア3⑴ア(ア)②(多数の答案が述べた)
15配偶者の運転する車に同乗して負傷した類型(最判昭和51年)に当たることを示す35頁1⑶ア3⑴ア(ア)③
16この類型で過失相殺を認める合理性(求償関係の一挙解決・紛争の一回的処理)を説明する55頁1⑶ア3⑴ア(ア)③(説明した答案は少数),(イ)優秀
17一挙解決の中身を正確に示す(「DからCに対する求償」としない)2記載なし3⑴ア(ア)③
18単なる経済的一体性を基準にしない2記載なし3⑴ア(ア)②
19婚姻関係が既に破綻にひんしている等の特段の事情という例外に当たるかを検討する45頁〜6頁1⑶イ3⑴ア(イ)優秀(例外について適切に論ずる)
20特段の事情の基準時(不法行為時か損害賠償請求時か)を問題として立て,どちらかを選ぶ(結論はどちらでもよい)46頁1⑶イ3⑴ア(ア)④(多くの答案が問題の所在を捉えた)
21不法行為時説の根拠(被害者側の過失が結果の発生に競合する時点)を示す26頁1⑶イ記載なし
22請求時説の根拠(求償関係の一挙解決の要請が現実化する時点)を示す26頁1⑶イ記載なし
23婚姻関係が事故時は円満で請求時までに破綻したという事実を,基準時の選択と結び付ける36頁1⑶イ3⑴ア(イ)一応の水準(具体的事実を踏まえる)
24被害者側の過失の論点に気付かずに結論だけを述べない2記載なし3⑴ア(イ)不良

3 設問1⑵ア(混同)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
25CもDに対して不法行為による損害賠償債務を負い,Bの債務と併存することを指摘する56頁1⑷ア3⑴イ(ア)②③(気付かずに問題の所在を見誤った答案が多数)
26BとCが「連帯して」(719条1項前段)債務を負うことを指摘する46頁1⑷ア(719条1項・436条の文言)3⑴イ(ア)①(指摘は半数余り),(イ)優秀
27BとCの債務に民法の連帯債務の規定が適用されるかを検討する56頁1⑷ア3⑴イ(ア)①(検討はごく少数),(イ)優秀
28平成29年改正前の判例が,不真正連帯債務として連帯債務の規定の一部の適用を排除していたことを示す36頁1⑷ア(最判昭和45年・最判昭和48年・最判昭和57年を挙げる)記載なし
29平成29年改正で絶対的効力事由が見直され,適用に支障がなくなったという論拠を示す36頁1⑷ア記載なし
30混同の規定は改正で変わっておらず,改正前の判例がまさに適用を排除していた規定であることに留意する36頁1⑷ア記載なし
31連帯債務の規定の適用の可否について,どちらかの見解を根拠とともに採る(結論はどちらでもよい)46頁1⑷ア(両論が成り立つ)3⑴イ(イ)優秀(自説を踏まえて論ずる)
32Dの単独相続により,Cの債務が混同で消滅すること(520条)を示す36頁1⑷イ(ア)3⑴イ(ア)②
33Cの債務の混同(520条)と,それがBの債務に及ぼす影響(440条)とを段階を分けて論じる4間接(6頁1⑷イ(ア)の論述の順序)3⑴イ(ア)②③(段階を分けたものは少数)
34440条を適用する立場から,Bの債務が全部消滅するとする36頁1⑷イ(ア)記載なし
35520条・440条の文言に反してCの債務の消滅を否定し,又はBの債務の消滅をCの負担部分に限定しない2記載なし3⑴イ(ア)②③(少なくなかった)
36不真正連帯債務とする立場からは,Bの債務がそのまま存続することを示す(反対の立場)27頁1⑷イ(イ)記載なし
37BとCの連帯関係に気付かずに結論だけを述べたり,被害者保護の観点だけを理由にしたりしない2記載なし3⑴イ(イ)不良

4 設問1⑵イ(求償と最終負担)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
38440条を適用する立場では,C(D)がBにBの負担部分に応じた求償権(442条)を取得する46頁1⑷イ(ア)3⑴イ(ア)④
39AとCの過失割合2対8から,BとC(D)の負担割合を2対8とし,求償額を損害の2割とする37頁1⑷イ(ア)3⑴イ(ア)④(ほとんどの答案が正しく理解)
40混同の効力を肯定するか否定するかに応じて,求償の向き(DからBか,BからDか)を切り替える3間接(6頁〜7頁1⑷イ(ア)(イ))3⑴イ(ア)④
41不真正連帯債務とする立場では,Bが自己の負担部分を超えて弁済したときに,その超える部分をDに求償する(最判昭和63年)27頁1⑷イ(イ)記載なし

5 設問1⑶(弁護士法72条違反の和解)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
42㋓を,弁護士法72条違反の本件和解は無効であるとの主張と捉える27頁1⑸記載なし
43無効の法律構成として,公序良俗違反(90条)又は強行規定違反(91条参照)を示す37頁1⑸ア3⑴ウ(ア)①(72条を挙げるにとどまるものも見られた)
44弁護士法72条を,非弁行為を禁じる取締規定と位置付ける27頁1⑸記載なし
45取締規定違反の契約の効力を,規定の目的からの要請と,取引の安全・当事者間の信義公平とを総合して判断する枠組みを示す47頁1⑸ア3⑴ウ(ア)(論ずべき事項③の総合考慮)
46無資格者との委任契約は無効となること(最判昭和38年6月13日)を示す37頁1⑸イ記載なし
47和解契約の効力は,委任契約の効力とは区別して判断することを示す57頁1⑸イ3⑴ウ(ア)②(区別した答案はごく少数),(イ)優秀
48委任契約の無効から直ちに,本件和解は無権代理で効力を生じないとしない4記載なし3⑴ウ(ア)②(相当数の答案がこの誤り)
49禁止の目的から和解を無効とする要請が働くか,その程度を論じる37頁1⑸イ3⑴ウ(ア)③
50和解を無効とすると,紛争が解決したと理解している当事者の利益を害し,これが有効の方向に働くことを示す57頁1⑸イ3⑴ウ(ア)③(明示した答案は乏しかった),(イ)優秀
51Bが弁護士法違反を口実に無効を主張することは,当事者間の信義・公平に反することを示す37頁1⑸イ記載なし
52設問に引用された最判平成29年7月24日を踏まえる47頁1⑸イ3⑴ウ(ア)③,(イ)一応の水準
53本件和解の具体的内容(金額等)を踏まえて効力を判断する4記載なし3⑴ウ(イ)優秀
54最判平成29年7月24日の射程を検討する(射程外として無効とする立論も許容)27頁1⑸ウ記載なし
55㋓を錯誤による取消しの主張として検討しない2記載なし3⑴ウ(ア)①,(イ)不良

6 設問2ア(乙の所有権の帰属)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
56契約①により,乙の所有権がDからCへ移転したこと(176条)を示す18頁2⑵ア記載なし
57Cが未成年で法定代理人の同意がないため契約①を取り消せることを,条文(4条,5条,818条,824条,120条)を示して論じる38頁2⑵ア3⑵ア(ア)①(条文の摘示が十分でないものが多かった)
58取消権はAとBが共同して行使すべきこと(818条3項本文)を示す48頁2⑵ア3⑵ア(ア)①(理解していない答案も少なくなかった)
59AがBに無断でした共同名義の取消しは,Dが悪意でない以上,825条により効力を妨げられないとする58頁2⑵ア3⑵ア(ア)①(気付かない答案が少なくなかった),(イ)優秀
60取消しにより契約①が遡及的に無効となり(121条),所有権の移転も遡って効力を失うことを示す38頁2⑵ア3⑵ア(ア)①(正確に記述した答案は少数)
61Eが取消後の第三者に当たることを示す38頁2⑵イ3⑵ア(ア)①
62Dが3月17日の占有改定で復帰的物権変動の対抗要件(178条)を備えたので,Eは承継取得できないとする48頁2⑵イ3⑵ア(イ)優秀(取消後の第三者Eとの関係を正確に論述)
63Eの即時取得は,占有改定では成立しないとする(最判昭和35年)38頁2⑵ウ3⑵ア(ア)②(ほとんどの答案が指摘)
64Eが無権利であるから,Fも承継取得できないことを示す18頁2⑵エ記載なし
65Fについて,指図による占有移転(184条)に基づく即時取得の成否を検討する48頁2⑵エ3⑵ア(ア)③
66指図による占有移転と即時取得の判例は,事案の違いによって結論が分かれていることを踏まえる(肯定例は最判昭和57年)28頁〜9頁2⑵エ記載なし
67乙の占有がCの下から一度も動いておらず,占有改定の場合と同じであるとして,Fの即時取得を否定する59頁2⑵エ3⑵ア(ア)③(多くの答案が正しく指摘した)
68本問の具体的事実を吟味せず,指図と占有改定の一般的・抽象的な対比でFの即時取得を肯定しない4記載なし3⑵ア(ア)③(半数近い答案がこの誤り),(イ)一応の水準
69Fが無権利であるから,Gも承継取得できないことを示す19頁2⑵オ記載なし
70Gが善意無過失で,取引行為に基づき現実の引渡し(182条1項)を受けて即時取得するとする39頁2⑵オ3⑵ア(ア)④
71Fの即時取得を肯定しながら重ねてGの即時取得も肯定したり,E・Fの成否を明らかにしないままGを論じたりしない2記載なし3⑵ア(ア)(なお書き)
72取消権の成立や取消権者を論じないまま取消しを前提にせず,Gの即時取得だけを論じることもしない2記載なし3⑵ア(イ)不良

7 設問2イ(不当利得の返還額)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
73請求2を,不当利得返還請求権(侵害利得)に基づくものと構成する39頁2⑶3⑵イ(ア)①(多数の答案が指摘)
74不当利得の成立要件(受益・損失・因果関係・法律上の原因の不存在)を検討する39頁2⑶ア3⑵イ(イ)不良ⓐ(成立要件を論じないもの)
75Fの受益を,所有者Dだけが享受できる乙を処分するという利益と捉える29頁2⑶ア記載なし
76Fに乙の処分権限がないことから,法律上の原因がないとする29頁2⑶ア記載なし
77Fが契約④によって代金を得たことをもって,法律上の原因があるとしない2記載なし3⑵イ(ア)①(少なくなかった),(イ)不良ⓒ
78設問イの仮定がGの即時取得を指すことを踏まえ,Fの即時取得を前提に法律上の原因があるとしない2記載なし3⑵イ(ア)①,(イ)不良ⓑ
79原物返還が原則で,それが不能なので価額返還となることを示す29頁2⑶イ(ア)記載なし
80返還額が,代金額35万円か適正価額30万円かの対立を論じる59頁2⑶イ(ア)3⑵イ(ア)②(多くの答案が論じた),(イ)優秀
81判例には代金額の見解に立つとみられるもの(最判平成19年など)が多いことを踏まえる39頁2⑶イ(ア)3⑵イ(ア)②(判例の立場に触れた答案はほとんどない)
82学説では適正価額の見解が有力であることを踏まえる210頁2⑶イ(ア)記載なし
83適正価額による理由として,差額5万円はFの才覚に帰せられることを指摘する3記載なし3⑵イ(ア)②(的確に指摘するものも少なくなかった)
84代金額35万円を基準とすべき理由も示す2記載なし3⑵イ(ア)②(ほとんど見られなかった)
85代金を原物の代位物と捉える構成も考える(許容される別構成)110頁2⑶イ(イ)記載なし
86FがEに支払った対価30万円を控除できるかを論じる510頁2⑶ウ3⑵イ(ア)③(論じた答案は少数),(イ)優秀
87対価の控除について最高裁の判例はなく,学説は否定する見解が有力で肯定する見解もあるという議論状況を踏まえる210頁2⑶ウ記載なし
88控除を否定する理由として,乙が残っていれば物権的返還請求に対して控除を主張できなかったこととの対比を示す410頁2⑶ウ3⑵イ(ア)③(的確な検討として評価)
89控除を肯定する側の構成として,現存利益の返還(利得消滅の抗弁)を検討する2記載なし3⑵イ(ア)③
90請求2を191条の損害賠償請求権と構成しても,適切に論じれば評価される(許容される別構成)1記載なし3⑵イ(ア)①

8 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
91複数の論点に表面的に触れるより,深い考察が求められる点を緻密に検討する3記載なし2
92論理的に矛盾する論述や構成をしない3記載なし2
93論点相互の関係を意識し,論点がどうつながって結論に至るのかを示す2記載なし2,4
94条文を正確に摘示する2記載なし3⑵ア(ア)①,4
95判例と異なる見解を採るときは,判例を正確に指摘した上で批判する2記載なし4
96判例の前提となる事実関係・価値判断・論理構造と射程に注意して判例を使う2記載なし4

9 重みの分布

96項目の内訳は,重み5が10項目,重み4が19項目,重み3が28項目,重み2が32項目,重み1が7項目であり,重みの合計は281点である。
重み5の10項目は,暴行の事件類型の判例の基準(事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為)を示す(番号5),この類型で過失相殺を認める合理性(求償関係の一挙解決・紛争の一回的処理)を説明する(番号16),CもDに対して不法行為による損害賠償債務を負い,Bの債務と併存することを指摘する(番号25),BとCの債務に民法の連帯債務の規定が適用されるかを検討する(番号27),和解契約の効力は,委任契約の効力とは区別して判断することを示す(番号47),和解を無効とすると,紛争が解決したと理解している当事者の利益を害し,これが有効の方向に働くことを示す(番号50),AがBに無断でした共同名義の取消しは,Dが悪意でない以上,825条により効力を妨げられないとする(番号59),乙の占有がCの下から一度も動いておらず,占有改定の場合と同じであるとして,Fの即時取得を否定する(番号67),返還額が,代金額35万円か適正価額30万円かの対立を論じる(番号80),FがEに支払った対価30万円を控除できるかを論じる(番号86)であり,いずれも出題の趣旨が検討の筋道として示し,かつ採点実感が評価の差がついた点として取り上げた事項である。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,問題文の指示どおり令和7年1月1日現在で施行されている法令と,試験の実施時(令和7年7月)までに言い渡された判例を前提にしている。

答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜といえるか。」「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる(①)。」)及び結論(「よって」「したがって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。

もっとも,現行の司法試験では,採点実感が,複数の論点に表面的に触れるよりも深い考察が求められる点を緻密に検討し,論点相互の関係に意を払う答案を評価しているため(第4の番号91・93),規範の論証は争いの中心に絞り,問題文の事実を評価する当てはめに多くの字数を割いた。
字数の配分は,おおむね問題提起が1割,規範が2割,当てはめが5割である。

答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,括弧書きで判例だけを示したものは,その判例の判示の内容を述べた箇所を示す。
出題の趣旨が挙げる大審院の判例は,内容を確認できなかったので答案では挙げていない(第7の4)。

字数は約5,900字であり,2時間の試験時間内に書き切れる分量より多い。
実際の答案では,重み5の評価項目(番号5・16・25・27・47・50・59・67・80・86)に対応する部分を残し,その他の部分を短くすることになる。

2 答案

1 設問1⑴アについて
(1) ㋐は,Bが使用者責任(715条1項)を負うとの主張である。その要件は,①使用関係,②被用者の不法行為,③「事業の執行について」第三者に損害を加えたことであり,Bは同項ただし書の免責事由を主張立証しない限り責任を負う。
 本問では,AはBの従業員であるから使用関係があり(①),Aは本件威嚇行為による本件負傷について不法行為責任を負うものとされている(②)。
(2) では,職務の執行行為そのものではない本件威嚇行為が,「事業の執行について」されたといえるか。
 被用者の職務権限の逸脱・濫用が問題となる取引的な行為では,行為の外形から観察して職務の範囲内の行為に属するとみられる場合にも同要件を満たす(最判昭和36年6月9日)。しかし,この外形基準は外形を信頼した相手方を保護するものであり,事実的不法行為には適切でない。
 思うに,715条の趣旨は,他人を使用して利益を上げる者は事業活動に伴う危険も負担すべきという点にある。よって,暴行又はこれに準ずる行為は,事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる場合に,同要件を満たすと解する(判例同旨・最判昭和44年11月18日,最判昭和46年6月22日)。
 本問では,Aは工具を振り回してCに向かって行ったのであり,本件威嚇行為は暴行に準ずる行為で,外形から観察しても職務の範囲内の行為とはいえないから,後者の基準による。
 本問では,Aは,Bの業務として甲車を運転中,Cに割り込まれてクラクションで抗議したことから口論となった。紛争は業務である運転行為から生じており,事業の執行行為を契機とするものといえる。
 また,本件威嚇行為は,信号待ちの現場で口論に引き続き,Cの「執拗」な挑発を受けて行われ,工具も業務用の甲車の荷台から取り出したものである。時間的・場所的に運転業務と接着し,業務用具を用いた点で,密接な関連を有するといえる(③)。
 本問では確かに,Aが業務で運転中であったことだけでは足りない。しかし,運転をめぐる紛争がそのまま威嚇行為に発展したのであり,運転を業務とする事業に内在する危険が現実化したものといえる。そして,Bの免責事由をうかがわせる事実はない。
(3) したがって,Bは使用者責任を負い,㋐の主張は正当である。

2 設問1⑴イについて
(1) ㋑は,Cの過失を理由とする過失相殺(722条2項)の主張である。もっとも,Cは被害者D自身ではないから,第三者の過失で過失相殺できるかが問題となる。
 思うに,過失相殺の趣旨は,損害の公平な分担にある。よって,被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられる関係にある者の過失(被害者側の過失)も考慮できると解する(判例同旨・最判昭和42年6月27日)。単なる経済的一体性では足りない。
 そして,配偶者の運転する車に同乗した者が負傷した場合は,婚姻関係が既に破綻にひんしているなどの特段の事情のない限り,配偶者の過失を考慮できる(判例同旨・最判昭和51年3月25日)。こう解すれば,加害者が被害者に全損害を賠償した後,過失ある配偶者にその負担部分を求償するという求償関係を一挙に解決し,紛争を一回で処理できる。
(2) 本問では,Dの夫Cがハンドル操作を誤っており,この類型に当たる。もっとも,CD間の婚姻関係は,本件事故時には同居して生計を一にする円満なものであったが,令和5年8月から別居し,請求1の時点では離婚に合意していた。そこで,特段の事情の基準時が問題となる。
 確かに,求償関係の一挙解決の要請が現実化するのは損害賠償請求時であるから,請求時を基準とすべきとも思える。しかし,被害者側の過失を考慮する中核は,結果発生に競合した過失を被害者側に負担させる公平にあり,一挙解決はそれを支える合理性にとどまる。
 よって,特段の事情は,過失が結果の発生に競合した不法行為時を基準に判断すると解する。
(3) 本問では,本件事故時にCD夫婦は円満であり,夫婦仲の悪化はDの入院を「きっかけ」とする事故後の事情にすぎないから,特段の事情はない。
(4) したがって,Cの過失は被害者側の過失として考慮され,過失割合(A2割,C8割)に従い,BがDに賠償すべき額は損害の2割に減額されるべきであるから,㋑の反論は正当である。

3 設問1⑵アについて
(1) 本問では,Cは運転上の過失によりAと共同してDに本件負傷を加えたから,Dに対し不法行為に基づく損害賠償債務を負う(709条,719条1項前段)。そして,B(Aの使用者)とCは,Dの同一の損害について「連帯して」債務を負う(同項前段)。
(2) では,BとCの債務に連帯債務の規定(440条,442条)が適用されるか。
 確かに,改正前の判例は,同一の損害について複数の者が負う賠償債務を不真正連帯債務とし,連帯債務の規定の一部の適用を排除しており(最判昭和45年4月21日,最判昭和57年3月4日),混同の絶対的効力の規定もその一つであった(最判昭和48年1月30日)。そして,混同の規定(旧438条,現440条)の文言は改正の前後で同じである。
 しかし,改正により請求・免除・時効の完成等は相対的効力となり(441条),絶対的効力事由は債権者が満足を得たと同視できるものに限られたから,不真正連帯債務の概念を立てる必要は失われた。混同も,債権者が債務者の地位と財産を承継する点で弁済と同視でき,被害者を害しない。
 よって,719条1項及び436条の文言どおり,BとCの債務には連帯債務の規定が適用されると解する。
(3)ア 本問では,唯一の相続人Dが単純承認をしてCの債務を承継した(896条本文,920条)から,CのDに対する債務は混同により消滅する(520条本文)。
イ そして,本問では,連帯債務者Cと債権者Dとの間に混同があったから,Cは弁済をしたものとみなされ(440条),BのDに対する債務も,Cの負担部分に限らず全部消滅する。
(4) したがって,㋒の反論は正当である。

4 設問1⑵イについて
(1) 本問では,Cは全額を弁済したものとみなされるから,Cを相続したDは,Bに対し,共同の免責を得た額のうちBの負担部分に応じた額を求償できる(442条1項)。
(2) 負担部分は過失割合により,使用者は被用者と一体をなすものとして,第三者との関係でも被用者と同じ内容の責任を負う(最判昭和63年7月1日)。本問では,AとCの過失割合が2対8であるから,BとC(D)の負担割合も2対8となる。
(3) したがって,DはBに損害額の2割を求償でき,最終的に,Bが損害の2割を,DがCから承継した8割を負担する。
 なお,㋒を否定する立場でも,Bは自己の負担部分(2割)を超えて弁済すれば,その超える部分をDに求償できる(同判決)から,最終的な負担は同じとなる。

5 設問1⑶について
(1) ㋓は,弁護士法72条違反の本件和解が,公序良俗違反(90条)又は強行規定違反(91条参照)により無効であるとの主張である。
(2) 同条は非弁行為を禁じる取締規定であるから,同条違反の契約の私法上の効力が問題となる。
 思うに,取締規定違反の契約の効力は,①規定の目的に照らして効力の否定が要請されるか,②効力の否定により取引の安全や当事者間の信義・公平が害されないかを総合して判断すべきである。よって,同条違反の和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならないと解する(判例同旨・最判平成29年7月24日)。
(3) 本問では,DE間の委任契約は,同条に違反し90条により無効である(最判昭和38年6月13日)。しかし,本件和解の効力は,委任契約とは区別して判断すべきである。
 本問では,①同条の禁止目的は,刑罰(同法77条3号)と,委任契約の無効によりEが報酬10万円を得られないことで既に実現されるから,本件和解まで無効とする必要はない。同判決は認定司法書士の事案であるが,刑罰と報酬否定による実効性の確保は無資格者のEにも同じく妥当するから,その趣旨は本問にも及ぶ。
 本問では,②本件和解を無効とすれば,紛争が解決したと理解している当事者の利益を害する。本件和解の200万円は,Bの提示額150万円とDの請求額250万円の中間であり,Bに不当に不利ではない。また,Dの意向に沿って締結され,Eが不当な手段を用いた事情もない。このような本件和解について,Bが弁護士法違反を口実に無効を主張することは,当事者間の信義・公平に反する。
 よって,特段の事情はなく,本件和解は無効とならない。
(4) したがって,㋓の反論は不当であり,Dの請求は認められる。

6 設問2アについて
(1) 乙の所有権は,契約①(586条1項)によりDからCに移転した(176条)。
(2) 本問では,Cは17歳の未成年者(4条)であり,法定代理人である父母A・B(818条1項,824条本文)の同意(5条1項本文,818条3項本文)を得ずに契約①を締結したから,A・Bは契約①を取り消すことができる(5条2項,120条1項)。
 ただし,父母の婚姻中は親権を共同して行う(818条3項本文)から,取消しもA・Bが共同してすべきところ,本問では,AがBに無断で取り消し,Bには取り消す意思がなかった。
 もっとも,取消しも法定代理人が子に代わってする法律行為であり,本問では,Aの取消しはA・Bの共同名義でされ,DはBの許諾があると考えていて,Bの意思に反することを知らなかった。よって,取消しは効力を妨げられない(825条)。
 したがって,契約①は遡及的に無効となり(121条),DからCへの所有権移転も遡って効力を失う。
(3) Eは取消後の第三者であり,取消しによる所有権の回復(CからDへの復帰的物権変動)とCからEへの譲渡とは対抗関係に立つ(178条)。
 本問では,Dは,3月17日,既に成年に達したCから占有改定(183条)により乙の引渡しを受けて対抗要件を備えたから,Cは無権利者となり,Eは乙の所有権を承継取得できない。
 また,無権利者からの譲受人が即時取得(192条)するには,一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるような占有の取得を要し,占有改定では足りない(最判昭和35年2月11日)。本問では,EはCから占有改定を受けたにとどまるから,即時取得もしない。
(4) Eが無権利である以上,Fも承継取得できない。では,Fは,指図による占有移転(184条)により即時取得するか。
 判例には,倉庫業者が寄託者台帳の名義を書き換えた事案で即時取得を肯定したもの(最判昭和57年9月7日)があるが,これは占有状態に外観上の変化が生じた事案であり,判例の結論は事案の違いによって分かれ得る。前述のとおり,即時取得には従来の占有状態の外観上の変化を要するから,指図による占有移転でも,占有状態に変化がなければ即時取得は認められないと解する。
 本問では,乙の占有は,Dのための占有改定(3月17日),Eのための占有改定(3月21日),Fへの指図(3月24日)を通じて一度もCの下から動いておらず,CはDに他の者のために所持する意思を表示していないから,Dの代理占有も存続している(204条1項2号)。占有状態は契約②の段階から変化しておらず,占有改定の場合と異ならない。
 よって,Fは乙を即時取得しない。
(5) Fも無権利であるから,Gは承継取得できない。しかし,本問では,Gは,Fが所有者であると過失なく信じ,売買という取引行為に基づき,Cの搬入によって乙の現実の引渡し(182条1項)を受けた。平穏・公然も推定され(186条1項),乙はDが自らCに占有させていた物で盗品・遺失物(193条)ではない。
 よって,Gは3月28日に乙を即時取得し(192条),Dは所有権を失う。
(6) 以上より,乙の所有権は,契約①でCに移転したが,取消しにより遡ってDに属していたことになり,3月28日にGが即時取得して,現在Gに属する。

7 設問2イについて
(1) 請求2は,不当利得(侵害利得)の返還請求(703条,704条)である。
 本問では,FのGへの処分がGの即時取得の要件を満たしたことにより,Fは,本来は所有者Dだけが享受できる乙を処分するという利益を受け,Dはその利益を失った。Fには処分権限がないから,法律上の原因もない。確かに,Fは契約④に基づき代金を得ている。しかし,契約④はFG間の関係にすぎず,Dとの関係でFの利益を正当化しない。
 よって,DはFに対し,不当利得返還請求権を有する。
(2) では,返還額はいくらか。
ア 処分の利益は原物で返還できないから,その価額を返還することになる。この価額が,契約④の代金35万円か,処分時の適正価額30万円かが問題となる。
 確かに,判例には,代替性のある物を売却した受益者は原則として売却代金相当額を返還すべきとしたものがある(最判平成19年3月8日)。代金額によれば,他人の物の処分による利益を受益者に残さないという利点もある。
 しかし,侵害利得の返還は,侵害された権利の客観的価値を損失者に回復させるものであり,その価値は適正価額である。同判決は代替物の価格の変動を考慮したものであり,本問では乙の価格に変動はない。
 本問では,適正価額30万円を超える5万円は,Fの取引上の才覚によって生じたものであり,Dの権利に帰属すべき利益ではない。代金を原物の代位物と捉えても,Dの権利の価値に対応するのは30万円分にとどまる。
 よって,返還すべき価額は30万円である。
イ 本問では,Fは,乙の取得のためEに30万円を支払ったから,これを控除すれば利益は現存しない(703条)と主張することが考えられる。
 確かに,善意の受益者は利益の存する限度で返還すれば足り,この点を直接判断した最高裁判例もない。しかし,本問で,FがGに引き渡す前にDが所有権に基づき乙の返還を請求していれば,Fは対価の控除を主張できずに乙を返還しなければならなかった。物権的返還請求権が不当利得返還請求権に代わったとたんにDF間の利益状況が変わる理由はなく,Fの支払った対価は,Eとの契約関係(561条,415条)で清算されるべきである。
 よって,対価の控除は認められない。
(3) 以上より,請求2は30万円の限度で認められ,その余は認められない。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は第4の番号1〜11(設問1⑴ア),2は番号12〜24(設問1⑴イ),3は番号25〜37(設問1⑵ア),4は番号38〜41(設問1⑵イ),5は番号42〜55(設問1⑶),6は番号56〜72(設問2ア),7は番号73〜90(設問2イ)に対応し,番号91〜96(答案全体)は各項目の条文の摘示と論点の順序で満たすようにした。
重み5の10項目は,1(2)の暴行の事件類型の判例の基準(番号5),2(1)の過失相殺を認める合理性(番号16),3(1)のCの債務の併存(番号25),3(2)の連帯債務の規定の適用の検討(番号27),5(3)の委任契約と和解契約の区別(番号47)及び当事者の利益の考慮(番号50),6(2)の825条(番号59),6(4)のFの即時取得の否定(番号67),7(2)アの返還額(番号80)並びに7(2)イの対価の控除(番号86)に当たる。

(2) 設問1⑴ア(使用者責任)

設問1⑴アについて,出題の趣旨は,職務権限の逸脱・濫用が問題となる事件類型の外形基準と,暴行が問題となる事件類型の執行行為契機性・密接関連性の基準とを判例に即して示し,本件威嚇行為は暴行に準ずるから後者によるとしている。
採点実感によれば,後者の基準で具体化した答案は多くなく,半数近い答案は外形基準で要件を充足するとしたが,本件威嚇行為は外形から観察しても職務の範囲内の行為とはいい難い(番号9)。
答案は,1(2)で外形基準をいったん示した上で本件に適さない理由を述べ,暴行の事件類型の基準によった(番号5〜7)。
業務として運転中であったことだけで要件を充足するとした答案は不良とされているため(番号11),当てはめでは,紛争が運転行為から生じたこと,業務用の甲車の荷台の工具を用いたこと及び時間的・場所的な接着を評価した。

(3) 設問1⑴イ(被害者側の過失)

設問1⑴イについて,出題の趣旨は,第三者の過失による過失相殺の可否から入り,被害者側の過失の判例と配偶者の運転する車に同乗した類型の判例を示し,その合理性として求償関係の一挙解決及び紛争の一回的処理を挙げた上で,婚姻関係の破綻という例外をどの時点で判断するかを問題としている。
採点実感によれば,配偶者の過失による過失相殺の合理性を説明した答案は少数で,一挙解決の中身を「DからCに対する求償」と説明する答案も見られた(番号16・17)。
答案は,2(1)で,加害者が被害者に全損害を賠償した後に過失ある配偶者へ求償する関係を一挙に解決するという合理性を説明し,2(2)で不法行為時と損害賠償請求時の両方の根拠を示した上で,不法行為時によった。
採点実感は,この基準時の問題はこれまで議論が乏しい論点であるが多くの答案が問題の所在を捉えていたとしており,請求時によって特段の事情を認め,過失相殺を否定する結論も十分に成り立つ。

(4) 設問1⑵(混同と求償)

設問1⑵について,出題の趣旨は,CもDに損害賠償債務を負うことを前提に,BとCの債務に連帯債務の規定が適用されるかを,平成29年改正前の判例(不真正連帯債務)と改正による絶対的効力事由の見直しの双方から検討させ,混同の規定は改正で変わっておらず改正前の判例が適用を排除していた規定であることにも留意を求めた上で,両論が成り立つとしている。
採点実感によれば,CがDに債務を負うことに気付かずに問題の所在を見誤った答案が多数を占め,連帯債務の規定の適用を検討した答案はごく少数であり,520条の混同と440条の効力を段階を分けて論じた答案も少数であった(番号25・27・33)。
答案は,3(1)でCの債務と「連帯して」を指摘し,3(2)で改正前の判例と混同の規定が変わっていないことを反対の見方として示した上で適用を肯定し,3(3)で520条と440条を段階を分けて論じた。
Bの債務の消滅をCの負担部分に限る答案は,両条の文言に反するとされているから(番号35),答案は全部消滅とした。
4では,442条によるDからBへの求償を損害の2割とし,不真正連帯債務とする立場でも,Bが自己の負担部分を超えて弁済した部分をDに求償するから,最終的な負担は変わらないことを示した(番号36・40・41)。

(5) 設問1⑶(弁護士法72条違反の和解)

設問1⑶について,出題の趣旨は,弁護士法72条を取締規定とし,取締規定違反の契約の効力を,規定の目的からの要請と,取引の安全・当事者間の信義公平とを総合して判断する枠組みを示した上で,委任契約は無効であるが,和解契約の効力まで否定する必要はなく,否定すれば紛争が解決したと理解している当事者の利益を害し,Bの主張は信義・公平に反するとしている。
採点実感によれば,委任契約の無効から直ちに本件和解を無権代理として効力を否定した答案が相当数あり,両者を区別した答案はごく少数で,当事者の利益の考慮が有効の方向に働くことを明示した答案は乏しかった(番号47〜50)。
答案は,5(2)で判断枠組みを示し,5(3)で委任契約の無効と和解契約の効力の区別を明示した上で,禁止の目的と当事者の利益の2つの方向から判断し,和解の金額(150万円・250万円・200万円)も評価した(番号53)。
出題の趣旨は,設問に引用された判決の射程の検討に基づいて本件和解を無効とする立論も考えられるとしており(番号54),答案は,同判決が認定司法書士の事案であることに触れた上で,その趣旨が無資格者にも及ぶとした。
㋓を錯誤による取消しの主張として検討した答案は不良とされている(番号55)。

(6) 設問2ア(乙の所有権の帰属)

設問2アについて,出題の趣旨は,契約①による所有権の移転から始め,未成年者の取消権,父母の共同行使と825条,取消しの遡及効,取消後の第三者Eと占有改定による対抗要件,占有改定による即時取得の否定,指図による占有移転による即時取得の否定及び現実の引渡しを受けたGの即時取得を,段階を追って検討させている。
採点実感によれば,条文の摘示が十分でない答案が多く,共同行使の原則や825条に気付かない答案も少なくなく,取消しの効果や取消後の第三者Eとの関係を正確に記述した答案は少数であった(番号57〜62)。
Fについては,多くの答案が占有状態に変化がないことを指摘して即時取得を否定した一方で,半数近い答案が,具体的事実を吟味せず,指図による占有移転と占有改定との一般的な対比でこれを肯定していた(番号67・68)。
答案は,6で各段階に条文を付け,6(4)で占有の経過を3月17日・21日・24日と日付で追い,占有が一度もCの下から動いていないことから占有改定の場合と同じであると評価した。
代理占有の存続(204条1項2号)は,公式資料には現れないが,占有が動いていないことを条文で補強するものとして加えた。

(7) 設問2イ(不当利得の返還額)

設問2イについて,出題の趣旨は,請求2を侵害利得の返還請求とし,Fの受益を乙を処分するという利益と捉えた上で,原物返還が不能であることから価額返還とし,その額を代金額(35万円)とするか適正価額(30万円)とするかについて,判例には前者に立つとみられるものが多く,学説では後者が有力であるという議論状況を踏まえた検討を期待している。
また,代金を原物の代位物と捉える構成も考えられるとし,Fが乙の取得のためにEに支払った対価の控除については,最高裁判所の判例はなく,学説では控除を否定する見解が有力であるとしている。
採点実感によれば,契約④による代金の取得やFの即時取得を理由に法律上の原因があるとした答案が少なくなく(番号77・78),代金額を基準とすべき理由や判例の立場に触れた答案はほとんど見られなかった一方,差額5万円はFの才覚に帰せられるべきことを的確に指摘する答案は少なくなかった(番号80〜84)。
対価の控除を論じた答案は少数であったが,原物が存在すると仮定した場合の物権的返還請求権との対比や,現存利益の返還(利得消滅の抗弁)という構成による的確な検討もあったとされている(番号86〜89)。
答案は,7(2)アで判例と代金額による利点を示した上で適正価額によって30万円とし,7(2)イで,現存利益による控除の主張を取り上げた上で,物権的返還請求権との対比によって控除を否定した。
代金額によって35万円とする結論や,191条の損害賠償請求権として構成する答案もあり得る(番号90)。

(8) 答案の弱点と扱わなかった事項

答案の弱点は次の3点である。
第一に,出題の趣旨が挙げる大審院の判例(指図による占有移転による即時取得を否定した例及び返還額を代金額とした例)は,本記事では内容を確認できなかったため,答案は番号66・81を判例の名を挙げない形でしか満たしていない。
第二に,440条を共同不法行為者の間に適用する理由として,債権者が債務者の地位と財産を承継する点で弁済と同視できると述べた部分は答案の解釈であり,平成29年改正後にこの点を判断した最高裁判所の判例は,本記事では確認できていない。
第三に,設問に引用された判決の趣旨が無資格者の代理にも及ぶとした部分も答案の解釈であり,同判決の射程については別の読み方もあり得る。
設問が考慮しないものとした自動車損害賠償保障法3条の責任及び乙の使用利益の返還と,設問1⑵で減額されないものとされた㋑の反論は,答案では扱っていない。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

①令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和7年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した72項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和7年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した65項目と5段階の重み付け(AI作成)
④令和7年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した75項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑤令和7年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した59項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥令和7年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した51項目と5段階の重み付け(AI作成)

2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事

①配偶者の運転する車に同乗中の事故と被害者側の過失―最高裁昭和51年3月25日判決,婚姻破綻の基準時及び運転者の死亡・相続(AI作成)
②共同不法行為の連帯責任と連帯債務―不真正連帯債務,示談,時効及び求償(AI作成)
③NHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断(AI作成)
④社員が会社の物品を買取業者に売ったときの取戻し―民法193条・194条と古物営業法20条,窃盗と業務上横領の区別(AI作成)
⑤親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用(AI作成)
⑥法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題(民事系科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(民事系科目)

2 法令

①民法(e-Gov法令検索)
②弁護士法(e-Gov法令検索)

3 裁判例

①最高裁判所第二小法廷昭和36年6月9日判決(昭和32年(オ)第281号,民集15巻6号1546頁)
②最高裁判所第三小法廷昭和44年11月18日判決(昭和44年(オ)第580号,民集23巻11号2079頁)
③最高裁判所第三小法廷昭和46年6月22日判決(昭和44年(オ)第743号,民集25巻4号566頁)
④最高裁判所第三小法廷昭和42年6月27日判決(昭和40年(オ)第1056号,民集21巻6号1507頁)
⑤最高裁判所第一小法廷昭和51年3月25日判決(昭和47年(オ)第457号,民集30巻2号160頁)
⑥最高裁判所第三小法廷昭和45年4月21日判決(昭和44年(オ)第479号,集民99号89頁)
⑦最高裁判所第三小法廷昭和48年1月30日判決(昭和46年(オ)第1109号,集民108号119頁)
⑧最高裁判所第一小法廷昭和57年3月4日判決(昭和56年(オ)第173号,集民135号269頁)
⑨最高裁判所第二小法廷昭和63年7月1日判決(昭和60年(オ)第1145号,民集42巻6号451頁)
⑩最高裁判所第一小法廷昭和38年6月13日判決(昭和37年(オ)第1460号,民集17巻5号744頁)
⑪最高裁判所第一小法廷平成29年7月24日判決(平成28年(受)第1463号,民集71巻6号969頁)
⑫最高裁判所第一小法廷昭和35年2月11日判決(昭和32年(オ)第1092号,民集14巻2号168頁)
⑬最高裁判所第三小法廷昭和57年9月7日判決(昭和55年(オ)第185号,民集36巻8号1527頁)
⑭最高裁判所第一小法廷平成19年3月8日判決(平成17年(受)第1996号,民集61巻2号479頁)

4 確認状態

出題の趣旨は,全科目を収めたPDF(42頁)のうち民事系科目第1問の部分(4頁〜10頁)を全て読んだ。
採点実感は,民事系科目のPDF(25頁)のうち第1問の部分(1頁〜6頁)を全て読んだ。
いずれも,本記事の作成日に法務省のウェブサイトから取得したものである。
上記3の裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,模範解答で用いた判示の内容を確認した。
出題の趣旨は,指図による占有移転による即時取得を否定した例及び他人の物を処分した者の返還額を代金額とした例として,大審院の判例を挙げている。
これらは裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,判例秘書の大審院判例検索でも内容を確認できなかったので,本記事では個別に挙げていない。
条文は,e-Gov法令検索で,試験の基準日である令和7年1月1日時点のものを確認した。
混同の規定(現行440条)の文言が平成29年改正前の438条と同じであることも,e-Gov法令検索の改正前の時点の条文で確認した。
出題の趣旨6頁は,最高裁昭和51年3月25日判決の例外を「破錠」と表記しているが,同判決の判決書では「破綻」である。