第1 この記事の対象と先に示す結論
本記事は,民法719条の共同不法行為が成立することを前提に,各共同不法行為者が被害者に負う連帯責任と,当事者の一人について支払,示談,免除,時効,相殺又は混同が生じた場合の効果を扱う。共同不法行為の成立要件,共同関連性,因果関係及び過失相殺については,共同不法行為の要件・過失相殺・求償関係で説明している。
結論を先に示すと,被害者は,共通する損害の全額を一人又は全員へ請求できるが,損害額を超えて二重に取得することはできない。一人による現実の支払は,同じ損害を填補した限度で他の者の債務も減少させる。これに対し,一人に対する請求,免除又は時効完成は原則として他の者へ及ばず,一人との示談が他の者を免責するかは示談の内容と被害者の意思によって決まる。
共同不法行為者間の求償については,改正前の最高裁判例が自己の負担部分を超える支払を要件としていた一方,現行民法442条1項は通常の連帯債務について少額の支払から割合的求償を認めている。同項を共同不法行為にもそのまま適用するかは見解が分かれ,本記事の調査範囲では,令和2年4月1日の改正法施行後にこの点を直接解決した最高裁判例を確認できなかった。
本記事は一般的な情報提供を目的とする。実際の事件では,不法行為時,示談時及び弁済時,改正法の経過措置,各人の責任原因並びに示談書の文言を個別に確認する必要がある。
1 被害者への全額責任と内部負担は別である
民法719条1項前段は,数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたとき,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うと定める。最高裁昭和43年4月23日判決は,各行為が客観的に関連共同し,各自の行為が独立して不法行為の要件を備える事案で,各行為者が全損害を賠償すべきものとした。したがって,各人が被害者に対して負う外部責任は,原則として自己の寄与分だけに限定されない。
もっとも,一人が被害者へ全額を支払うことと,その者が最終的にも全額を負担することは別である。被害者との外部関係では全額責任を負わせて損害回復を確保し,共同不法行為者間の内部関係では,故意・過失の程度,原因力その他の事情から負担割合を定め,求償によって最終負担を調整する。
2 不真正連帯債務は法律上廃止されたわけではない
不真正連帯債務は民法上の用語ではなく,発生原因を異にする複数の債務が,同一内容の給付によって一つの損害を填補する関係を説明してきた判例・学説上の概念である。共同不法行為者の責任のほか,被用者の民法709条上の責任と使用者の民法715条上の責任が典型である。
改正前の通常の連帯債務では,一人への請求,免除又は時効完成が他の連帯債務者にも影響する規定が置かれていた。共同不法行為責任を不真正連帯債務とすることには,このような絶対的効力を制限し,被害者が選択していない相手への請求権まで失うことを防ぐ実益があった。
平成29年法律第44号による改正後の民法441条は,更改,現実の相殺及び混同を除き,一人について生じた事由を原則として相対効とした。この改正は一部を除いて令和2年4月1日に施行され,請求,免除及び時効の結論は,通常の連帯債務と従来の不真正連帯債務とで近づいた。しかし,求償及び混同等の個別規定を共同不法行為へ適用するかという問題は残るため,「不真正連帯債務が法律上廃止された」と断定するのは正確でない。
第2 一人について生じた事由の効果一覧
一人について生じた事由が他の共同不法行為者へ及ぶかは,すべてを「連帯だから」と一括して決めることができない。現実の損害填補,示談契約の解釈,時効の相対効,通常の連帯債務に関する絶対効規定及び共同不法行為者間の求償を分けて検討する必要がある。
| 事由 | 通常の連帯債務に関する現行民法 | 共同不法行為での扱い |
|---|---|---|
| 全部又は一部の請求 | 436条により一人又は全員へ請求できる | 共通損害の全額を一人又は全員へ請求できるが,一人への請求による時効への効果は他の者へ及ばない |
| 弁済その他の現実の満足 | 共同の免責が生じ,442条以下の求償が問題となる | 同じ損害が填補された限度で他の者の債務も減少する |
| 更改 | 438条により全員の利益のため債権が消滅する | 現行法下で直接判断した最高裁判例を確認できず,合意の対象と共同債権消滅の実質を要する |
| 相殺 | 439条1項により現実の相殺は全員の利益となる | 実体的な相殺効と,相殺を認めた確定判決の効力を区別する。共同不法行為への439条の適用には検討を要する |
| 混同 | 440条により混同した者が弁済したものとみなされる | 旧法判例は不真正連帯債務への適用を否定したが,現行440条の適否を直接判断した改正後最高裁判例を確認できない |
| 免除 | 441条により原則として相対効である | 原則として免除を受けた者との関係にとどまるが,示談で他の者も免除する意思が認められれば他の者へ及び得る |
| 請求又は時効完成 | 441条により原則として相対効である | 各共同不法行為者との関係で別々に時効を管理する |
| 求償 | 442条により自己の負担部分を超えない支払から割合的求償が可能である | 改正前判例の超過額要件を維持するか,現行442条を適用するかについて見解が分かれる |
この表のうち,支払,免除及び時効は判例と現行441条から実務上の結論を比較的明確に示せる。これに対し,更改,混同及び改正後の求償については,通常の連帯債務に関する条文を共同不法行為へどこまで適用するかが未解決であり,確定した一般論として処理すべきではない。
第3 一部弁済は共通損害が填補された範囲で他の債務も減らす
一人が被害者へ支払った場合,被害者の同一損害が現実に填補された範囲で,他の共同不法行為者に対する請求額も減少する。これは,一人について生じた事由を他の者へ及ぼすかという相対効の問題というより,一つの損害について二重の満足を認めないことによる。
支払後の残額を計算するには,①損害総額,②各人の外部責任の上限,③各人の責任に共通する損害項目,④支払額,⑤支払がどの損害項目へ充当されたかを確認する必要がある。「既払金を損害総額から差し引く」という計算だけでは,各債務の範囲が異なる事案を処理できない。
1 現実の支払と免除を区別する
現実に支払われた示談金は,同じ損害を填補した額だけ他の者に対する請求額を減らす。これに対し,示談相手の残債務を免除しても,現実の支払がない部分まで当然に他の者の債務が減るわけではない。最高裁昭和45年4月21日判決は,被用者の責任と使用者の責任が不真正連帯の関係にある事案で,被害者と被用者との示談による債務の減免は,現実の弁済等によって被害者の損害が填補された限度を除き,使用者の債務へ影響しないとした。
したがって,示談金100万円を受領し,示談相手に対する残額を免除した場合,少なくとも100万円の現実の填補と,免除された残額を分けなければならない。他の共同不法行為者へ残額を請求できるかは,免除の相対効だけでなく,他の者まで免除する示談意思があったかを第4の基準で判断する。
2 責任上限が異なると単純な差引計算にならない
最高裁平成11年1月29日判決は,同一事故について共同不法行為責任と債務不履行責任が併存し,一方の債務だけに過失相殺による上限がある事案を扱った。同判決は,損害総額から他方の債務者の支払額を控除した残額が,過失相殺後の責任額を下回る範囲で,その債務が減少するという構造を採った。
この判例からは,各債務者の責任額が一致しない場合に,既払額をそれぞれの責任額から機械的に控除できないことが分かる。交通事故,使用者責任,契約責任と不法行為責任の競合等では,支払がどの債務にも共通する損害を填補したのかを先に特定すべきである。
第4 一人との示談が他の共同不法行為者へ及ぶ範囲
一人との示談は,他の共同不法行為者への請求を当然には終了させない。ただし,被害者が他の者の残債務まで免除する意思を有していたと認められる場合は,他の者にも免除の効力が及び得るため,示談金額だけでなく示談書の対象,清算条項及び交渉経過を確認する必要がある。
1 示談では四つの法的効果を分ける
共同不法行為者の一人との示談には,①示談金の支払による現実の損害填補,②示談相手に対する残額免除,③他の共同不法行為者に対する請求権の放棄又は留保,④示談相手と他の共同不法行為者との求償関係という四つの問題が含まれる。「本件について一切解決した」という清算条項だけを切り出し,すべての債務者との関係が終了したと即断することはできない。
まず,支払済みの金額と未払の免除額を区別する。次に,免除の対象者と対象損害を特定し,他の者への請求を留保したかを確認する。最後に,その示談によって他の者も共同の免責を得た額と,支払者が求償し得る内部負担額を別に計算する。
2 残額免除は原則相対効であるが示談意思による例外がある
最高裁平成10年9月10日判決は,共同不法行為者の一人と被害者との訴訟上の和解において,被害者が他の共同不法行為者の残債務も免除する意思を有していると認められるときは,その者にも残債務免除の効力が及ぶとした。また,この場合の求償額は,和解における支払額を確定した損害額として,双方の責任割合に従って負担部分を定め,算定すべきであるとした。
同判決は,一人との示談が常に他の者を免責するとしたものではない。反対に,示談の効力が他の者へ及ぶことは絶対にないとしたものでもない。現行民法441条も,一人に生じた事由を原則として相対効としながら,債権者と他の連帯債務者が別段の意思を表示した場合を認めているため,示談の文言と意思解釈が結論を左右する。
3 示談書には他の者への請求と求償の扱いを明記する
被害者側が他の共同不法行為者への請求を残す場合,示談相手だけを特定して残債務を免除し,他の共同不法行為者に対する請求権を放棄しないこと,示談金の対象となる損害項目及び清算効が発生する時点を明記する必要がある。全体解決を意図する場合には,免責される者と損害の範囲を列挙し,推測に委ねない方がよい。
支払者側では,他の共同不法行為者に対する求償権を留保するか,損害算定資料の提供を受けるか,支払前に他の負担者へ通知するかを確認する。ただし,被害者と一人の合意だけで,示談に参加しない共同不法行為者の内部負担割合を当然に拘束することはできない。
第5 一人への請求では他の者に対する時効を止められない
共同不法行為者の一人を提訴し,又は一人から債務の承認を得ても,他の者に対する請求権の消滅時効が当然に完成猶予又は更新されるわけではない。被害者は,各共同不法行為者について,起算点,完成日及び完成猶予・更新事由を別々に管理する必要がある。
1 被害者の請求権は各加害者について管理する
民法724条は,不法行為による損害賠償請求権について,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき,又は不法行為の時から20年間行使しないときに時効によって消滅すると定める。人の生命又は身体を害する不法行為では,民法724条の2により,主観的期間が3年から5年へ延長される。
複数の行為者がいる場合,誰が賠償義務者であるかを現実に認識した時期が異なることがあるため,「加害者を知った時」は各人について検討する。継続的不法行為,後発損害,改正前後にまたがる事案では,客観的起算点と経過措置も別途確認しなければならない。
2 請求・承認・訴訟の効力も相手ごとに確認する
最高裁昭和57年3月4日判決は,共謀による共同不法行為であっても,各行為者の債務は不真正連帯債務であり,一人に対する履行請求の効力は他の共同不法行為者へ及ばないとした。現行民法441条も通常の連帯債務について相対効を原則とするため,一人に対する訴訟による民法147条の完成猶予・更新を,他の者に当然流用することはできない。
債務の承認による民法152条の更新も,誰が,どの債務を,どの時点で承認したかを確認する必要がある。配達記録のある請求書,訴状・申立書と受付資料,和解交渉記録,支払明細及び承認書を相手ごとに整理し,最も早く到来し得る時効日を基準に対応する。
3 求償権には別の時効がある
共同不法行為者間の求償権は,被害者の不法行為損害賠償請求権そのものではなく,共同の免責を得た者と他の負担者との内部関係から生じる別個の債権である。現行民法442条を適用する立場では共同の免責を得た時に求償権が発生し,民法166条1項により,権利を行使できることを知った時から5年間,又は権利を行使できる時から10年間という一般債権の時効が問題となる。
改正前判例の法理を維持する立場では,少なくとも自己の負担部分を超える支払が求償の前提となる。このため,被害者の請求権の時効日と求償権の時効日は一致せず,弁済日,累計支払額,自己の負担部分を超えた時点及び適用法を記録する必要がある。通常の連帯債務に関する民法445条は,免除又は時効完成した連帯債務者に対する求償を認めるが,共同不法行為へ同条を直接適用するかは,442条の適否と併せて検討を要する。
第6 相殺,更改及び混同は判例の射程と改正後の未解決部分を分ける
現行民法は,通常の連帯債務について,更改,現実の相殺及び混同に全員へ及ぶ効果を認める。しかし,共同不法行為について,これらの規定が常にそのまま適用されるとする改正後最高裁判例は確認できないため,旧法判例の射程と現行条文を分けて読む必要がある。
1 相殺の実体的効力と判決の効力は別である
最高裁昭和53年3月23日判決は,被害者と一人の共同不法行為者との訴訟で相殺を認めた確定判決があっても,その判決の効力は他の共同不法行為者へ及ばないとした。この判例が直接判断したのは確定判決の効力であり,実体法上有効な相殺によって共通の損害賠償請求権が消滅した場合の効果全体を否定したものではない。
現行民法439条1項は,通常の連帯債務者の一人が相殺を援用した場合に,債権が全員の利益のために消滅すると定める。他方,民法509条は,悪意による不法行為に基づく損害賠償債務及び人の生命・身体の侵害による損害賠償債務について,債務者からの相殺を原則として禁止する。共同不法行為事件では,相殺適状,相殺禁止,相殺の実体的効力及び判決の既判力を順に分けて検討すべきである。
2 更改と混同の改正後の扱いは確定していない
現行民法438条は,通常の連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったとき,債権が全員の利益のために消滅すると定める。同440条は,一人と債権者との間に混同があったとき,その者が弁済したものとみなす。共同不法行為でこれらを問題とするときは,形式的な当事者関係だけでなく,元の共同債権が代替債務へ置き換えられたか,又は被害者が現実の満足を受けたと同視できるかを確認する必要がある。
最高裁昭和48年1月30日判決は,自動車損害賠償保障法上の複数の運行供用者の債務を不真正連帯債務とし,一人について生じた混同に当時の民法438条を適用して他の債務まで消滅させることを否定した。もっとも,現在は混同を定める条文が440条となり,連帯債務全体の規律も改正されている。本記事の調査範囲では,現行440条を共同不法行為又は同種の不真正連帯債務へ適用するかを直接判断した改正後最高裁判例を確認できなかった。
第7 共同不法行為者間の求償
一人が被害者へ支払った場合の求償額は,支払額を人数で割って決めるものではない。まず,その支払によって他の者も免責された共通額を確定し,次に,当事者間の責任割合から各人の負担部分を定める。さらに,自己の負担部分を超える前から割合的求償を認めるかについて,改正前判例と現行民法442条の関係を検討する必要がある。
1 改正前判例は自己の負担部分を超える支払を要した
最高裁昭和41年11月18日判決は,被用者と第三者の共同不法行為について賠償した使用者から第三者への求償を,第三者と被用者との過失割合に従って認めた。最高裁昭和63年7月1日判決は,第三者が自己の負担部分を超えて被害者へ賠償した場合,被用者の負担部分について使用者へ求償できるとした。
この判例系列では,自己の負担部分を超えて共通損害を填補したことが求償の前提であった。被害者がまだ全額の満足を受けていない段階で内部求償を広く認めると,資力のある共同不法行為者の財産が求償者へ移り,被害者の回収と競合し得ることが背景にある。
2 現行民法442条の割合的求償を適用するかは見解が分かれる
現行民法442条1項は,通常の連帯債務者の一人が自己の財産をもって共同の免責を得たとき,その額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず,支出額又は共同免責額のうち各自の負担部分に応じた額を求償できると定める。これは,自己負担を超えた後に限って求償を認める仕組みではなく,少額の支払段階から割合的求償を認める規定である。
共同不法行為への適用については,①民法719条の「連帯して」は法令による連帯債務であり442条を適用する見解,②不真正連帯債務という概念を用いないとしても被害者優先のため超過額要件を維持する見解,③各条文の目的ごとに適用を判断する見解,④不真正連帯債務を維持して従来の判例法理を基本とする見解に分かれる。割合的求償説は条文の文言と改正時の統一的処理を重視し,超過額要件維持説は被害者の未回収債権との競合及び各債務の発生原因の独立性を重視する。
本記事の調査範囲では,令和2年4月1日以後の共同不法行為について,自己の負担部分を超えない支払から現行442条による割合的求償を認めるかを直接決着した最高裁判例又は明確な公刊下級審判例を確認できなかった。したがって,「現在も必ず超過額だけが求償できる」とも,「442条が当然に全面適用される」とも断定できない。
3 負担割合は人数割りではない
共同不法行為者間の負担部分は,故意・過失の程度,損害発生への原因力・寄与度,行為によって得た利益,危険の支配・管理可能性及び当事者間の契約・身分関係等を考慮して定める。最高裁平成3年10月25日判決は,複数の使用者が関係する事案で,行為者の過失割合だけでなく,各事業との関係及び指揮監督の態様等を考慮して負担部分を定めた。
使用者と被用者の関係では,民法715条3項が使用者から被用者への求償を妨げないとする一方,全額求償が当然に認められるわけではない。最高裁令和2年2月28日判決は,被用者が被害者へ賠償した場合の使用者に対する逆求償を認め,事業の性格・規模,施設の状況,被用者の業務内容・労働条件・勤務態度,加害行為の態様,加害予防及び損失分散への配慮等から相当額を定めるとした。
4 求償では共同免責額と責任割合を別々に立証する
求償する側が優先して確認すべき事項は,①被害者に対する共同の責任,②支払その他の出捐,③その出捐によって相手方も免責された共通額,④内部負担割合を基礎付ける具体的事実である。超過額要件を維持する見解に立つ場合は,累計支払額が自己の負担部分を超えたことも必要となる。
相手方は,共同責任又は自らの責任の不存在,支払が不必要又は過大で共同免責を生じていないこと,求償者自身の責任割合が大きいこと,通知を欠いたことによる不利益及び求償権の時効を検討する。損害算定資料,示談書,送金記録,被害者の受領確認,責任割合を示す事故・業務資料並びに支払前後の通知が中心証拠となる。民法443条の共同不法行為への直接適用にも442条と同様の議論があるが,通知記録を残すことは二重払いと後の事実争いを減らす。
第8 当事者別の確認順序
理論上可能な資料取得手続を最初から並べるより,既存資料から時効,既払額,共通損害及び示談の対象を固定し,結論を左右する争点が残る場合だけ追加調査へ進む方が合理的である。被害者側と支払者側では,優先順位が異なる。
1 被害者側は時効日と既払額を先に固定する
被害者側は,①各行為者の責任原因と外部責任の上限,②共通する損害の範囲,③既払金・保険金・示談金の支払者,日付,対象損害及び充当,④各行為者についての民法724条・724条の2の起算点と完成猶予・更新事由を一覧化する。一人との示談を検討する場合は,他の者への請求を残すのか,全体解決をするのかを先に決め,その意思を示談書へ反映する。
最初に用いる資料は,事故又は加害行為の資料,損害資料,請求・催告の到達資料,訴訟等の手続資料,示談書,支払明細及び領収証である。第三者が保有する資料について直ちに文書提出命令等を申し立てるのではなく,手元資料と公的記録で時効日及び請求残額を固定し,取得できれば結論が変わる資料だけを追加取得の対象とする。
2 支払者側は示談前に求償資料を残す
請求を受けた者は,他の者が支払ったという事実だけで自らの免責を断定せず,支払証憑,対象損害及び示談書の免除・権利留保条項を確認する。自らが支払う場合は,支払前に他の負担者へ責任原因,損害額,示談条件及び支払期限を通知し,支払後に示談書,送金記録,受領確認及び損害計算書を保存する。
鑑定,大量記録の分析又は別訴は,低負担の資料を確認しても責任割合等の具体的争点が残り,その結論によって回収可能額が費用を上回る場合に検討する。支払額が小さく,超過額要件を採ると求償が成立せず,割合的求償説に立っても回収見込額が費用を下回る場合は,追加手続を進めないことも合理的である。
第9 関連記事
①消滅時効に関するメモ書きは,完成猶予,更新及び経過措置を含む時効一般の確認に用いることができる。
②交通事故に関する示談代行は,交通事故における保険会社の示談対応を扱う。
③自賠責保険の支払基準は,交通事故の損害額及び既払金を検討する際の関連資料である。
第10 出典・参考資料
1 法令・立法資料
①e-Gov法令検索「民法」(147条,152条,166条,436条~445条,509条,709条,715条,719条,724条及び724条の2)。
②法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」(平成29年法律第44号,施行期日及び改正資料)。
③法務省民事局参事官室「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」(連帯債務者間の求償に関する中間段階の案)。
④法務省「民法(債権関係)の改正に関する要綱」(相対的効力の原則及び連帯債務者間の求償)。
2 裁判例
①最高裁判所昭和43年4月23日判決(昭和39年(オ)第902号,民集22巻4号964頁,裁判所ウェブサイト)。
②最高裁判所昭和45年4月21日判決(昭和44年(オ)第479号,裁判集民事99号89頁,裁判所ウェブサイト)。
③最高裁判所昭和48年1月30日判決(昭和46年(オ)第1109号,裁判集民事108号119頁,判例時報695号64頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)。
④最高裁判所昭和53年3月23日判決(昭和51年(オ)第348号,裁判集民事123号273頁,裁判所ウェブサイト)。
⑤最高裁判所昭和57年3月4日判決(昭和56年(オ)第173号,裁判集民事135号269頁,裁判所ウェブサイト)。
⑥最高裁判所昭和41年11月18日判決(昭和41年(オ)第58号,民集20巻9号1886頁,裁判所ウェブサイト)。
⑦最高裁判所昭和63年7月1日判決(昭和60年(オ)第1145号,民集42巻6号451頁,裁判所ウェブサイト)。
⑧最高裁判所平成3年10月25日判決(昭和63年(オ)第1383号,民集45巻7号1173頁,裁判所ウェブサイト)。
⑨最高裁判所平成10年9月10日判決(平成9年(オ)第448号,民集52巻6号1494頁,裁判所ウェブサイト)。
⑩最高裁判所平成11年1月29日判決(平成9年(オ)第2049号,裁判集民事191号265頁,裁判所ウェブサイト)。
⑪最高裁判所令和2年2月28日判決(平成30年(受)第1429号,民集74巻2号106頁,裁判所ウェブサイト)。
3 文献
①尾藤司『複数行為者の不法行為責任に関する考察』法律文化社,2025年,263頁~290頁。
②吉村良一『不法行為法〔第6版〕』有斐閣,2022年,278頁~306頁。
③我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権〔第8版〕』日本評論社,2022年,920頁~921頁,1644頁~1659頁。
④岡口基一『要件事実マニュアル第6版第2巻 民法2』ぎょうせい,2021年,408頁~421頁。
⑤松岡久和「民法(債権関係)の改正と不真正連帯債務」立命館法学2021年5・6号(399・400号),1頁~23頁。
⑥飯野敦之・岩﨑莉乃「連帯債務と不真正連帯債務―改正民法の問題点と新たな立法提案―」法律学研究59号,2018年。