目次
1 共同不法行為者の責任
2 共同不法行為と過失相殺
3 共同不法行為者が損害の一部を支払った場合
4 共同不法行為者間の求償
5 不真正連帯債務における相対的効力
6 連帯債務と不真正連帯債務の主な違い等
7 関連記事その他
1 共同不法行為者の責任
(1) 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合,最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては,死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではありません(最高裁平成8年5月31日判決)。
(2) 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害額を案分し,責任を負うべき損害額を限定することはできません(最高裁平成13年3月13日判決)。
2 共同不法行為と過失相殺
(1) 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,過失相殺は,各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしんしゃくしてすることは許されません(最高裁平成13年3月13日判決)。
(2) 複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(いわゆる絶対的過失割合)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負います(最高裁平成15年7月11日判決)。
3 共同不法行為者が損害の一部を支払った場合
・ 1つの交通事故について甲及び乙が被害者丙に対して連帯して損害賠償責任を負う場合において,乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされ,両者の賠償すべき額が異なるときは,甲がした損害の一部てん補は,てん補額を丙が甲からてん補を受けるべき損害額から控除しその残損害額が乙の賠償すべき額を下回ることにならない限り,乙の賠償すべき額に影響しません(最高裁平成11年1月29日判決(判例秘書に掲載))。
4 共同不法行為者間の求償
(1) 自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に充当されます(最高裁平成15年7月11日判決)。
(2) 共同不法行為者の一人甲と被害者丙との間で成立した訴訟上の和解により,甲が丙の請求額の一部につき和解金を支払うとともに,丙が甲に対し残債務を免除した場合において,他の共同不法行為者乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶときは,甲の乙に対する求償金額は,確定した損害額である右訴訟上の和解における甲の支払額を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて,これを算定すべきとされます(最高裁平成10年9月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和63年7月1日判決及び最高裁平成3年10月25日判決参照)。
(3) 一問一答 民法(債権関係)改正119頁には以下の記載があります。
例えば、旧法下の判例(最判昭和63年7月1日)は、一般的に不真正連帯債務と解されている共同不法行為に基づく損害賠償債務のケースで、弁済などをした連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、自己の負担部分を超えて共同の免責を得ていない限り、求償はできないとするが、一部しか弁済がされていない場合は、他の連帯債務者は、弁済をした連帯債務者からの求償に応じるよりもむしろそれを被害者への賠償にあてることが被害者保護に資するという考え方にも合理性があるから、共同不法行為のケースには新法第442条第1項(改正の内容については、Q66参照)を適用しないという解釈もあり得るものと考えられる。
5 不真正連帯債務における相対的効力
(1) 被用者の不法行為に基づく責任と民法715条に基づく使用者の責任とはいわゆる不真正連帯債務の関係にあり,その一方の債務について和解等がされても,現実の弁済がされない限り,他方の債務については影響がありません(最高裁昭和45年4月21日判決)。
(2) 不真正連帯債務者中の一人と債権者との間の確定判決は,他の債
務者にその効力を及ぼすものではなく,このことは,民訴法114条2項により確定判決の既判力が相殺のために主張された反対債権の存否について生ずる場合においても同様です。
そのため,不真正連帯債務者中の一人と債権者との間で右債務者の反対債権をもってする相殺を認める判決が確定しても,右判決の効力は他の債務者に及ぶものではありません(最高裁昭和53年3月23日判決)。
6 連帯債務と不真正連帯債務の主な違い等
(1) 令和2年4月施行の民法改正に基づき,連帯債務の絶対的効力事由が削減されました(法務省HPの「連帯債務に関する見直し」参照)。
その結果,連帯債務と不真正連帯債務の主な違いは,連帯債務では一部の債務者が負担部分に満たない弁済を行った場合であっても他の債務者に負担割合に応じて求償できるのに対し,不真正連帯債務では負担部分を超えた弁済を行った場合のみ求償できるという程度に限られています(新日本法規HPの「交通事故に基づく損害賠償実務と民法、民事執行法、自賠責支払基準改正(法苑191号) 」参照)。
(3)ア 例えば,甲,乙及び丙が300万円の連帯債務を負っており,甲の債務について時効が完成したとしても,相対的効果しかないために(改正民法441条),債権者は,乙及び丙に対しても300万円の請求ができます。
また,改正民法445条は「連帯債務者の一人に対して債務の免除がされ、又は連帯債務者の一人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、その一人の連帯債務者に対し、第四百四十二条第一項の求償権を行使することができる。」と規定していますから,乙又は丙が債権者に弁済した場合,時効が完成している甲に対して求償できます。
イ 改正民法445条は,連帯債務において時効援用の効果を相対的効力に変更したことを受けた改正です(一問一答・民法(債権関係)改正125頁)。
そのため,不真正連帯債務者の一人Aについて時効が完成したときに他の不真正連帯債務者Bが被害者に弁済した場合,不真正連帯債務にも民法445条が準用されると思いますから,BはAに対して求償できると思います。
7 関連記事その他
(1) 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件です(最高裁令和3年5月17日判決)。
(2) 使用者の施工にかかる水道管敷設工事の現場において,被用者が,右工事に従事中,作業用鋸の受渡しのことから,他の作業員と言い争ったあげく同人に対し暴行を加えて負傷させた場合,これによって右作業員の被った損害は、被用者が事業の執行につき加えた損害にあたります(最高裁昭和44年11月18日判決)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)