第1 共同不法行為の全体像
1 民法719条の三つの規律
民法719条は,①数人が共同の不法行為によって損害を加えた場合(1項前段),②共同行為者のうち誰が損害を加えたかを知ることができない場合(1項後段),③教唆者又は幇助者がいる場合(2項)を定めている。
1項前段と1項後段は,同じ「各自が連帯して」賠償責任を負うという効果を定めているものの,問題となる因果関係の構造が異なる。前段は複数の行為の関連共同性を問題とするのに対し,後段は加害行為者を特定できないことによる因果関係の立証困難を救済する規律である。
2 被害者に対する責任と加害者間の負担
共同不法行為を検討するときは,①被害者が誰にどの範囲の損害を請求できるかという対外的責任と,②共同不法行為者間で最終的に誰がどの割合を負担するかという内部関係を分ける必要がある。
被害者との関係で各加害者が全損害について責任を負う場合でも,加害者間では過失,原因力その他の事情に応じた負担部分が定められ,自己の負担部分を超えて賠償した者に求償が認められることがある。対外的な寄与度減責が否定されることと,内部求償において負担割合を定めることは矛盾しない。
第2 民法719条1項前段の共同不法行為
1 関連共同性
最高裁昭和43年4月23日第三小法廷判決(昭和39年(オ)第902号,民集22巻4号964頁)は,複数人の行為が客観的に関連共同して流水を汚染し,各人の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備える事案において,各人が相当因果関係にある全損害について責任を負うとした。
したがって,1項前段の「共同」は,共謀その他の主観的な意思連絡がある場合だけに限られない。ただし,複数人が同じ場所又は同じ時期に行動しただけで足りるものではなく,各人の行為の違法性,故意又は過失,行為相互の関連性,各行為と損害との因果関係及び全損害責任を基礎付ける一体性を具体的に検討する必要がある。
2 順次競合して不可分の損害を生じた場合
最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決(平成10年(受)第168号,民集55巻2号328頁)は,交通事故とその後の医療行為が順次競合し,いずれも死亡という不可分の一個の結果との間に相当因果関係がある事案を扱った。同判決は,各不法行為者が全損害について責任を負い,結果に対する寄与割合によって被害者に対する賠償額を案分することはできないとした。
この判例は,独立して成立する複数の不法行為が順次作用した場合にも共同不法行為が成立し得ることを示している。他方,後記の1項後段の典型である「誰か一人の行為が原因であるが,その者を特定できない場合」とは区別する必要がある。
第3 民法719条1項後段と因果関係不明
1 典型的な適用場面
1項後段の典型は,特定された複数人の行為がそれぞれ単独で損害を生じさせ得るものの,実際に誰の行為によって損害が生じたかを被害者が特定できない場合である。この規定により因果関係の立証責任が転換又は緩和され,各行為者は自己の行為が損害を生じさせていないことを主張立証しない限り責任を負うことになる。
これに対し,複数の行為が累積して初めて損害を生じさせた場合,各行為が損害の一部だけに寄与した場合又は特定された者以外にも原因者が存在し得る場合には,条文をそのまま適用できるか,類推適用にとどまるか,責任範囲を全部とするか一部とするかを別に検討しなければならない。
2 建設アスベスト訴訟と割合的な連帯責任
最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決(平成30年(受)第1447号,民集75巻5号1359頁)は,1項後段の適用について,被害者が特定した複数の行為者以外に,その損害を単独で生じさせ得る行為をした者が存在しないことを要するとした。
同判決は,この要件を示しただけではない。累積的な石綿粉じん曝露の事案で,被害者ごとに建材が現場へ相当回数到達したこと,対象建材による曝露量が全体の3分の1程度であること等を踏まえ,1項後段を類推適用し,特定された建材メーカーらに損害の3分の1の範囲で連帯責任を認めた。共同不法行為が問題となるからといって,常に全損害について責任が認められるわけではないことを示す重要な判例である。
第4 教唆者及び幇助者の責任
民法719条2項は,行為者を教唆した者及び幇助した者を共同行為者とみなし,同条1項を適用すると定めている。教唆は不法行為をする意思を生じさせ,又は強める行為を,幇助は不法行為を容易にする物理的又は精神的援助を意味する。
例えば飲酒運転の場面でも,飲酒の席に同席したこと又は車両に同乗したことだけで直ちに責任が生ずるものではない。飲酒運転を認識しながら飲酒を勧めたか,車両を提供したか,運転を助長したか,その関与が事故発生の危険をどの程度高めたか等を踏まえ,教唆又は幇助に当たる行為と事故による損害との関係を個別に検討する必要がある。
第5 共同不法行為における過失相殺
1 相対的な過失相殺
前記の最高裁平成13年3月13日判決は,交通事故と医療行為が順次競合した事案において,過失相殺は各不法行為者と被害者との関係ごとに行い,他の不法行為者と被害者との間の過失割合を考慮してはならないとした。加害行為の内容が異なり,被害者の過失も各行為者との関係で異なるためである。
2 絶対的過失割合による過失相殺
最高裁平成15年7月11日第二小法廷判決(平成14年(オ)第1689号,民集57巻7号815頁)は,複数の加害者と被害者の各過失が競合する一つの交通事故について,全員の絶対的過失割合を認定できるときは,その割合に基づいて被害者の過失相殺を行い,その後の賠償額について加害者らが連帯責任を負うとした。
二つの判例の違いは,単に加害者が複数かどうかではない。一つの交通事故における全員の過失を同じ基準で評価できるのか,それとも異質な事故又は行為が順次競合し,被害者の過失を各加害者との関係で個別に評価すべきかが分岐点となる。
第6 一部弁済,保険金及び和解
1 一人による一部填補
最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決(平成9年(オ)第2049号,集民191号265頁)は,一つの交通事故について二人が連帯責任を負うものの,一方にだけ過失相殺がされて各自の賠償額が異なる場合を扱った。同判決によれば,一方による填補額は被害者が填補を受けるべき全損害から控除し,その残損害額が他方の賠償額を下回らない限り,他方の賠償額には影響しない。
この計算は,被害者の二重取得を防ぎながら,責任を果たしていない他の加害者が当然に免責されることも防ぐものである。一部弁済,保険金又は共済金を控除するときは,誰のどの債務を填補する支払であるかを確認する必要がある。
2 自賠責保険金と内部負担
前記の最高裁平成15年7月11日判決は,共同不法行為者の一人の自賠責保険から支払われた保険金について,内部求償の場面では,その加害者の負担部分にまず充当され,これを超える部分に限って他の加害者の負担部分に影響するとした。
したがって,「既払金」という一語だけで処理するのは適切でない。自賠責保険,人身傷害保険その他の給付について,填補対象,代位の有無,内部負担への充当関係及び遅延損害金との関係を区別する必要がある。
3 一人との和解及び債務免除
最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決(平成9年(オ)第448号,民集52巻6号1494頁)は,被害者と共同不法行為者の一人との和解による残債務免除は,他の共同不法行為者に当然には及ばないものの,被害者が他の者の残債務も免除する意思を有していたと認められるときは,その者にも効力が及ぶとした。
和解条項では,①合意する損害総額,②和解金を充当する損害項目,③残債務を免除する相手の範囲,④他の共同不法行為者に対する請求を残すか,⑤共同不法行為者間の求償を残すかを明確にする必要がある。債務そのものの免除と,特定の相手に訴えを提起しないという合意も区別すべきである。
第7 共同不法行為者間の求償
1 求償の基本的な考え方
最高裁判例は,共同不法行為者の一人が自己の内部的負担部分を超えて損害を賠償した場合,その超過部分について,他の共同不法行為者の負担部分の限度で求償できるとしてきた。負担割合は,典型的な交通事故では過失割合を基礎とするが,事案によっては原因力,利益,危険の支配又は管理可能性その他の公平な分担に関する事情も問題となる。
最高裁昭和41年11月18日第二小法廷判決(昭和41年(オ)第58号,民集20巻9号1886頁)は,被用者と第三者の共同過失による交通事故について賠償した使用者から第三者への求償を認め,第三者の負担部分は被用者と第三者の過失割合によって定めるとした。
2 使用者責任が関係する求償
最高裁昭和63年7月1日第二小法廷判決(昭和60年(オ)第1145号,民集42巻6号451頁)は,被用者と共同不法行為をした第三者が自己の負担部分を超えて賠償した場合,被用者の負担部分について使用者へ求償できるとした。最高裁平成3年10月25日第二小法廷判決(昭和63年(オ)第1383号,民集45巻7号1173頁)は,複数の被用者の共同不法行為について,各使用者間の負担及び求償の方法を示した。
最高裁令和2年2月28日第二小法廷判決(平成30年(受)第1429号,民集74巻2号106頁)は,被用者が使用者の事業の執行について第三者へ損害を加え,自ら賠償した場合,損害の公平な分担の見地から相当と認められる額を使用者に求償できるとした。使用者から被用者への求償だけでなく,被用者から使用者への求償も認められ得る。
3 支払前後の対応及び消滅時効
他の共同不法行為者への求償を予定するときは,支払前に他の関係者へ通知し,被害者が主張する損害額,責任割合,示談案及び支払証拠を共有することが望ましい。共同不法行為に民法443条が当然に適用されるかとは別に,通知をしないまま不相当に高額な示談をすると,求償訴訟で損害額又は負担割合を争われるおそれがある。
求償権は,被害者の不法行為に基づく損害賠償請求権そのものではなく,賠償によって生ずる固有の金銭債権である。その消滅時効については,原則として民法166条の主観的5年及び客観的10年を検討し,民法724条の期間を機械的に適用しない。ただし,求償権の発生時期及び権利行使可能性は,支払内容と当事者関係に即して確認する必要がある。
第8 不真正連帯債務と平成29年民法改正
1 一人について生じた事由の効力
共同不法行為者の賠償債務は,判例上,不真正連帯債務と呼ばれてきた。最高裁昭和57年3月4日第一小法廷判決(昭和56年(オ)第173号,集民135号269頁)は,共謀による共同不法行為であっても,一人に対する履行請求の効力が他の者に及ぶとした旧民法434条を適用しないとした。
最高裁昭和45年4月21日第三小法廷判決(昭和44年(オ)第479号,集民99号89頁)は,被用者の不法行為責任と使用者責任の一方について和解等がされても,現実の弁済がない限り,他方に影響しないとした。最高裁昭和53年3月23日第一小法廷判決(昭和51年(オ)第348号,集民123号273頁)は,一人との訴訟で相殺を認める判決が確定しても,判決の効力は他の債務者に及ばないとした。
これに対し,弁済その他の現実の損害填補は,被害者の二重取得を防ぐ範囲で他の債務にも影響する。履行請求,判決,免除,時効完成,相殺等の人的な事由と,現実の損害填補とを分けることが重要である。
2 改正後の連帯債務規定との関係
平成29年民法改正により,連帯債務についても,一人に生じた事由は民法438条から440条までの例外を除き他の債務者へ効力を及ぼさないという相対的効力の原則が民法441条に置かれた。そのため,真正連帯債務と不真正連帯債務の対外的効果の差は改正前より小さくなった。
もっとも,両者の違いがなくなったわけではない。共同不法行為による各債務は発生原因,過失相殺及び時効の判断が個別になり得るほか,民法442条1項を適用して自己の負担部分を超えない弁済でも割合的求償を認めるか,民法445条を免除又は時効完成後の求償に適用するかについて見解が分かれている。これらを共同不法行為に一般的に適用すると明示した最高裁判例は確認できないため,「違いは求償の一点だけである」又は「民法445条が当然に類推適用される」と断定すべきではない。
第9 関連する損害論及び使用者責任の判例
最高裁平成8年5月31日第二小法廷判決(平成5年(オ)第1958号,民集50巻6号1323頁)は,交通事故の被害者が別の事故で死亡した場合でも,最初の事故による後遺障害の逸失利益を算定する際に死亡の事実を就労可能期間の短縮として考慮しないとした。これは共同不法行為の成立要件ではなく,事故後の事情が損害額に及ぼす影響を扱う判例である。
最高裁昭和44年11月18日第三小法廷判決(昭和44年(オ)第580号,民集23巻11号2079頁)は,水道管敷設工事に従事中の被用者が作業用の鋸の受渡しをめぐって他の作業員へ暴行した事案について,民法715条の「事業の執行について」に当たるとした。共同不法行為と使用者責任が競合する事案では,まず使用者責任自体の要件を満たすかを確認する必要がある。
第10 実務上の確認事項
共同不法行為の主張又は反論では,少なくとも次の事項を順に確認する必要がある。
① 各人について,権利又は法律上保護される利益の侵害,故意又は過失,損害及び因果関係が認められるか。
② 1項前段の関連共同性,1項後段の加害者不明又は2項の教唆・幇助のうち,どの規律を主張するのか。
③ 損害は一個で不可分か,各行為ごとに分けられるか,複数の行為は共同加害,択一的競合,累積的競合又は順次競合のいずれに近いか。
④ 被害者に対する責任範囲と,加害者間の内部負担割合を区別しているか。
⑤ 一部弁済,保険金,和解又は免除が,誰のどの債務及び損害項目に影響するか。
⑥ 被害者の各加害者に対する請求権の消滅時効と,支払後に生ずる求償権の消滅時効を区別しているか。
第11 関連記事
交通事故における保険金の支払基準については,自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)にまとめている。
不法行為及び保険金請求を含む時効については,消滅時効に関するメモ書きにまとめている。
任意保険会社による示談交渉と自賠責保険の関係については,任意保険の示談代行を参照されたい。
第12 出典・参考資料
1 法令
2 裁判例
① 最高裁昭和41年11月18日第二小法廷判決・民集20巻9号1886頁
② 最高裁昭和43年4月23日第三小法廷判決・民集22巻4号964頁
③ 最高裁昭和44年11月18日第三小法廷判決・民集23巻11号2079頁
④ 最高裁昭和45年4月21日第三小法廷判決・集民99号89頁
⑤ 最高裁昭和53年3月23日第一小法廷判決・集民123号273頁
⑥ 最高裁昭和57年3月4日第一小法廷判決・集民135号269頁
⑦ 最高裁昭和63年7月1日第二小法廷判決・民集42巻6号451頁
⑧ 最高裁平成3年10月25日第二小法廷判決・民集45巻7号1173頁
⑨ 最高裁平成8年5月31日第二小法廷判決・民集50巻6号1323頁
⑩ 最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁
⑪ 最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決・集民191号265頁
⑫ 最高裁平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号328頁
⑬ 最高裁平成15年7月11日第二小法廷判決・民集57巻7号815頁
⑭ 最高裁令和2年2月28日第二小法廷判決・民集74巻2号106頁
⑮ 最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・民集75巻5号1359頁
3 文献
① 岡口基一『要件事実マニュアル第6版 第1巻 総論・民法1』ぎょうせい,625頁~627頁
② 筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務,119頁
③ 大塚直『民法改正と不法行為』岩波書店
④ 吉村良一『不法行為法〔第6版〕』有斐閣
⑤ 尾藤司『複数行為者の不法行為責任に関する考察―民法719条1項後段の責任の意義と限界』法律文化社