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令和7年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した72項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,公法系科目第2問(行政法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
本問は,養鶏場の設置者に対する市の条例に基づく勧告・指示をめぐる紛争を題材に,勧告と指示の処分性(設問1⑴),指示の差止訴訟における「重大な損害を生ずるおそれ」(設問1⑵)及び勧告の実体的違法性(設問2)を,弁護士の立場から論じさせるものである。

公式資料から抽出できた評価項目は72項目である。
重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,病院開設中止勧告に関する平成17年判決の判示,差止訴訟に関する平成24年判決の判示,本件指示の後の取消訴訟と執行停止による救済の可能性,条例29条2項の本文とただし書の構造及び要件裁量を否定する主張と仮に裁量がある場合の主張の二段構えの5項目である。
第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(公法系科目第2問の部分)又は採点実感(同)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
「〜しない」の形の項目は,採点実感が誤り又は不十分な答案として挙げた記述から作ったものである。
結論が複数あり得る論点(設問1⑵の「重大な損害を生ずるおそれ」の充足の有無)は,結論ではなく検討の有無を項目にした。
設問1⑴は,設問自体が「①本件勧告は処分性を有しないが②本件指示は処分性を有する」という立場を指定しているので,その立場で結論することを項目にしている(番号6)。

各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを示した。
出題の趣旨は,法務省のPDFの頁と段落(例えば「3頁〔設問1〕⑴」は,3頁の〔第2問〕のうち〔設問1〕⑴を説明した段落を指す。)で示した。
採点実感は,公法系科目の採点実感のうち第2問の部分の見出し番号(例えば「3⑴(優秀)」は「3 答案に求められる水準」の⑴(設問1⑴)のうち優秀な答案の記述を,「4⑵(平成17年判決について)」は「4 採点実感」の⑵(設問1⑴)のうち同じ小見出しの記述を指す。)で示した。
一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
①重み5:採点実感が「多くみられた」「ほとんど見られなかった」等と述べて評価の分かれ目とした事項のうち,出題の趣旨も検討を求めるもの,又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項,又は採点実感が多数の答案の不十分な点として指摘した事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け,又は採点実感が優秀な答案の特徴として挙げた事項
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項

第3 本問の概要

本問の事実は,次のとおりである。
Aは,B市の郊外で鶏を500羽以上飼養する養鶏場(本件養鶏場)を令和6年9月に設置した。
本件養鶏場から40メートルの場所にはCの住宅(本件住宅)があるが,Cは設置前の同年8月に骨折して隣接するD市内の病院に入院し,令和7年1月以降は同市内の介護老人保健施設に入所しており,本件住宅には現に居住している者がいない。
B市生活環境保全条例(本件条例)は,特定家畜飼養施設について,設置の届出(29条1項),規制距離(鶏500羽以上の施設は近隣の住宅から50メートル)内の設置の禁止と,住宅の居住者の同意による例外(同条2項),市長の指導・勧告(32条),勧告に正当な理由なく従わない場合の審議会の意見を聴いた上での指示(33条)及び指示に従わない場合の公表(34条)を定めており,罰則はない。
B市の測定では,本件養鶏場の敷地境界線の地表で,令和7年2月以降,悪臭防止法の規制基準(アンモニア1ppm)を下回る0.8ないし0.9ppmが計測され,同年3月には65メートル離れた場所の住民Fから臭いについて意見が出され,同年4月にはAが悪臭防止法20条1項の立入検査を拒否した。
B市長は,令和7年5月7日,Aに対し,29条2項違反の状態の解消(勧告事項1),立入検査に応じること(勧告事項2)及び悪臭の原因となる物質の排出を減少させる措置(勧告事項3)を求める勧告(本件勧告)をし,同年7月1日,指示発出後40日以内に勧告事項に対応した措置をとることを求める指示(本件指示)を予定する弁明の機会の付与の通知をした。
この通知には,本件指示に従わない場合には公表を行う方針も記載されていた。

設問1⑴は,本件勧告は処分性を有しないが本件指示は処分性を有するという立場からの主張を,反対の見解の論拠を踏まえて検討させる。
設問1⑵は,本件指示が処分に当たることを前提に,差止訴訟の「重大な損害を生ずるおそれ」が認められるかを問う。
設問2は,本件勧告に手続的違法がないことを前提に,本件勧告が違法であることについてAがすべき主張を,B市の反論を踏まえて検討させる。
配点の割合は,設問1⑴,設問1⑵及び設問2の順に35:15:50である。

第4 評価項目と重み

1 設問1⑴(処分性の一般論と論じ方)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1行政事件訴訟法3条2項の「処分」の意義を,最判昭和39年の定式(又は公権力の行使・法的効果という要素)で示す33頁〔設問1〕⑴(同判決の定式を挙げる)3⑴(一応の水準)
2処分性が認められる範囲が拡大する傾向(処分性拡大)に触れる13頁〔設問1〕⑴(留意を求める)記載なし
3本件勧告・本件指示が具体的な義務を課し又は法的地位を変動させるかを論じ,救済の必要性等の抽象論に終始しない4間接(3頁〔設問1〕⑴の各論拠)4⑵(全体について)(抽象論に終始する答案が多くみられた)
4市長の行為であることや条例に根拠があることだけで権力的行為とせず,「一方性」を法効果の発生が相手方の同意に依存しないことの意味で用いる2記載なし4⑵(全体について),(本件勧告の処分性について)
5本件条例が法律でないことを処分性の論拠にせず,公表を処分として取消訴訟の対象としない1記載なし4⑵(全体について)
6本件勧告と本件指示の双方について論じ,設問の立場(勧告は処分性なし,指示は処分性あり)で結論する33頁〔設問1〕⑴(立場の論拠の検討を求める)4⑵(全体について)
7勧告と指示のどちらについて論じているかを明示する1記載なし4⑵(全体について)

2 設問1⑴(本件勧告の処分性)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
8最判平成17年の判示(行政指導として定められた勧告でも,従わなければ相当程度の確実さで保険医療機関の指定を受けられなくなり,国民皆保険の下で病院の開設自体を断念せざるを得なくなる)を示す53頁〔設問1〕⑴(判示を示した上で検討することを求める)3⑴(一応の水準),4⑵(平成17年判決について)(理解が不正確な答案が多くみられた)
9同判決の要約で「保険医療機関の指定」を明示し,相当程度の確実さで生ずるのを指定を受けられないことに置く(病院開設の断念としない)3記載なし4⑵(平成17年判決について)
10同判決が,後続処分を争っても実効的な救済を受けられないと判示したと述べない2記載なし4⑵(平成17年判決について)
11肯定する立場の論拠として,勧告がされると33条の指示や34条の公表が可能になる(勧告が指示・公表の前提となる)ことを指摘する33頁〔設問1〕⑴4⑵(本件勧告の処分性について)(指摘を欠く答案が散見された)
12肯定する立場の論拠として,公表によって相手方にもたらされる不利益が重大であることを指摘する23頁〔設問1〕⑴記載なし
13否定する立場の論拠として,32条の勧告によって相手方に具体的な行為義務が課されるとは解し難いことを示す43頁〔設問1〕⑴3⑴(良好)(法的効果の有無・内容)
14否定する立場の論拠として,勧告の後に相当程度の確実さをもって指示・公表がされる法的仕組みではないことを示す33頁〔設問1〕⑴記載なし
15否定する立場の論拠として,勧告の次の措置は指示であって公表ではないから,公表の不利益に着目して勧告の処分性を認めるべきではないことを示す33頁〔設問1〕⑴記載なし
16指示・公表の蓋然性を,法的地位への影響を検討する考慮事項の一つとして位置付け,蓋然性の否定だけで処分性を否定しない2記載なし4⑵(本件勧告の処分性について)
17勧告に従えば指示や公表に至らないことを,処分性を否定する理由にしない1記載なし4⑵(本件勧告の処分性について)
18本件勧告を悪臭防止法8条1項に基づく勧告と取り違えない1記載なし4⑵(本件勧告の処分性について)
19後続の行為(指示)を争うことによる救済の可能性に触れる2記載なし3⑴(良好)

3 設問1⑴(本件指示の処分性)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
20肯定する立場の論拠として,条例の仕組み上,勧告に続く指示によって相手方に具体的な行為義務が課されることを示す43頁〔設問1〕⑴4⑵(本件指示の処分性について)
21指示の法的効果の内容(何をいつまでにすべき義務か)を明確に示す2記載なし4⑵(本件指示の処分性について)
22肯定する立場の論拠として,指示によって相手方は34条の公表をされる地位に立たされることを示す33頁〔設問1〕⑴記載なし
23公表が制裁であり,指示が課す義務の実効性確保措置であることを指摘する4間接(3頁〔設問1〕⑴の義務の構造)4⑵(本件指示の処分性について)(指摘できている答案は少なかった)
24否定する立場の論拠として,条例に罰則がないため指示によって義務が課されるとはいえないことを示す33頁〔設問1〕⑴3⑴(一応の水準)
25否定する立場の論拠として,公表による損害は事実上の効果にすぎないことを示す23頁〔設問1〕⑴記載なし
2633条2項の審議会への諮問と33条1項の「正当な理由なく」の要件が,32条(及び34条)には無いことに着目する3記載なし3⑴(優秀)
27平成17年判決との同視の検討は勧告についてだけ行い,指示の処分性の論拠(相当程度の蓋然性で公表されること等)に同判決を用いない2記載なし4⑵(本件指示の処分性について)(少なくなかった)

4 設問1⑵(差止訴訟の「重大な損害を生ずるおそれ」)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
28差止めの要件を,処分後の取消訴訟と執行停止による救済との関係を踏まえて論じる2記載なし4⑶(全体について)
29最判平成24年の判示(処分後に取消訴訟等を提起して執行停止を受けることなどにより容易に救済を受けられるものではなく,処分前に差し止めなければ救済が困難なものであることを要する)を示す53頁〔設問1〕⑵(判示を明らかにして検討することを求める)3⑵(一応の水準),4⑶(平成24年判決について)(書けていない答案が多かった)
30本件指示の後に取消訴訟を提起して執行停止を受けることにより容易に救済を受けられるかを当てはめる53頁〔設問1〕⑵3⑵(一応の水準),4⑶(検討ができていない答案が多かった)
31指示の発出後直ちに公表されるわけではないことを指摘し,公表前に執行停止を受けられるかを検討する4間接(3頁〜4頁〔設問1〕⑵の両論)3⑵(良好),4⑶
32公表までの具体的日数(指示の発出後40日以降であること)を指摘する3記載なし3⑵(優秀)
33Aに生じ得る損害自体の回復困難性を論じた上で,執行停止による救済可能性を検討する3記載なし3⑵(優秀)
34販売への支障等の経済的損失は,基本的に金銭賠償で回復可能であることに触れる2記載なし4⑶(言及した答案が少なかった)
35公表前に執行停止を受けられるとはいえないとする立場(要件充足)も検討する(許容される分岐)23頁〜4頁〔設問1〕⑵(両方の結論があり得る)記載なし
36平成24年判決の事案の当てはめ(懲戒処分が反復継続的・累積加重的にされること)を長く論じない1記載なし4⑶(平成24年判決について)
37公表による損害が回復困難であることだけから要件を充足するとせず,執行停止が間に合うかを検討する2記載なし4⑶(検討ができていない答案が多かった)

5 設問2(勧告事項1:規制距離と居住者)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
38Aの主張として,29条2項の居住者とは住宅に現に居住している者をいい,Cは居住者に当たらないことを示す44頁〔設問2〕勧告事項14⑷(勧告事項1について)
39現に居住している者が居住者に当たると解する理由(施設から生ずる生活環境への影響を防止する条例の目的等)を説明する44頁〔設問2〕勧告事項1(保護されるべき者や利益)3⑶(優秀),4⑷(勧告事項1について)
4029条2項が本文とただし書から成ることに留意し,居住者のいない住宅には本文が適用されない(本文の「住宅」に当たらない)として本文の違反がないことを論じる54頁〔設問2〕勧告事項1(本文の違反はない)3⑶(優秀),4⑷(勧告事項1について)(ほとんど見られなかった)
41Aの主張として,仮に設置時(令和6年9月)にCが居住者であっても,勧告時には一時的に離れているにすぎないとはいえないことを示す34頁〔設問2〕勧告事項1記載なし
42B市の反論として,一時的に住宅を離れているにすぎない者は,現に居住していなくても居住者に当たることを示す34頁〔設問2〕勧告事項14⑷(勧告事項1について)
43B市の反論として,設置時にはCは一時的に離れていただけで居住者に当たることを示す24頁〔設問2〕勧告事項1記載なし
44B市の反論として,介護老人保健施設は長期間の入所を想定した施設ではないから,Cは依然として居住者に当たることを示す24頁〔設問2〕勧告事項1記載なし
45A・B市の規範を対置し,それぞれ事実を当てはめて結論を導く3記載なし4⑷(勧告事項1について)(少なかった)
46「Cは居住者ではないためその同意は不要である。」と述べるだけで終わらない2記載なし4⑷(勧告事項1について)

6 設問2(勧告事項2:立入検査の拒否)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
47Aの主張として,32条は施設が法の規定に適合していないことを要件とするから,立入検査の拒否はこれに当たらないことを示す34頁〔設問2〕勧告事項24⑷(勧告事項2について)
48Aの主張として,悪臭防止法8条1項の要件が充足されていないから20条1項の立入検査はできないことを,20条1項の「第8条第1項(中略)の規定による措置に関し」の文言を根拠に示す44頁〔設問2〕勧告事項24⑷(勧告事項2について)
49Aの主張として,同法の規定の違反には同法の措置で対処すべきであり,条例に基づく措置は許されないことを示す34頁〔設問2〕勧告事項2記載なし
50B市の反論として,立入検査ができるのに拒否された場合は32条の要件に当たることを示す24頁〔設問2〕勧告事項2記載なし
51B市の反論として,立入検査の前提として8条1項の要件の充足が常に必要ではなく,本件は同要件に近い状態にあるから許容性・必要性があることを示す34頁〔設問2〕勧告事項24⑷(勧告事項2について)
52B市の反論として,施設が同法の規定に適合していない場合にその適合を求めることは同法の趣旨に反しないことを示す24頁〔設問2〕勧告事項2記載なし
53悪臭防止法20条1項は権限を与える規定にすぎず私人に義務を課さないから,立入検査の拒否は違法でないと論じない2記載なし4⑷(勧告事項2について)(誤りとする)
54悪臭防止法28条の罰則を規制基準違反の罰則と読み違えない1記載なし4⑴(問題文や参照条文の正確な読み取り)

7 設問2(勧告事項3:生活環境を損なうおそれ)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
55Aの主張として,勧告時に規制基準を超えるアンモニアが排出される見込みがあったとはいえず,「生活環境を損なうおそれ」は認められないことを示す44頁〔設問2〕勧告事項34⑷(勧告事項3について)
56要件裁量が認められないこと及びその理由を示して違法を主張し,その上で,仮に裁量が認められても逸脱濫用があると論じる5間接(4頁〔設問2〕勧告事項3:仮に要件裁量があるとしても)3⑶(優秀),4⑷(勧告事項3について)(多くなかった)
57Aの主張として,仮に要件裁量があっても,意見を提出した住民は1名のみで日常的に不快な臭いが感じられるわけでもないから,その意見は重視すべきでないことを示す44頁〔設問2〕勧告事項34⑷(勧告事項3について)
58B市の反論として,要件の認定に市長の裁量が認められることを示す24頁〔設問2〕勧告事項34⑷(勧告事項3について)
59B市の反論として,令和7年2月以降0.8ないし0.9ppmのアンモニアが計測されているから生活環境を損なうおそれがうかがわれることを示す24頁〔設問2〕勧告事項3記載なし
60B市の反論として,65メートル離れた場所の住民の意見も考慮して要件の充足を肯定したことに裁量権の逸脱濫用はないことを示す24頁〔設問2〕勧告事項3記載なし
61どの点に裁量が認められるのか,どのような基準で違法・適法が判断されるのかという裁量統制の枠組みを,最高裁判例の論理構造に沿って示す3記載なし4⑷(勧告事項3について)(少なかった)
62要件裁量を認める場合は,その理由を示す2記載なし4⑷(勧告事項3について)
63裁量を論じるのは勧告事項3に限り,勧告事項1・2で裁量を論じない1記載なし4⑷(全体について)

8 設問2の全体と答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
64設問2では本件勧告の違法性を端的に論じ,本件指示の違法性や違法性の承継を論じない3記載なし4⑷(全体について)
65勧告事項1〜3のそれぞれについて,本件勧告が適法であるとする立場と違法であるとする立場の論拠を示す44頁〔設問2〕(反対説にも言及しながら論じることを求める)3⑶(一応の水準)
66会議録で示された複数の観点を用いて,Aの主張とB市の反論を構成する3記載なし3⑶(良好)
67Aの主張すべき内容として本件勧告が違法であると結論付け,Aの主張は失当である又は本件勧告は適法であると結論しない2記載なし4⑷(全体について)
68規範を定立し,本件の具体的事実を当てはめて結論を導く(法的三段論法)3記載なし4⑴(全体の構成)
69反対の見解やB市の反論を踏まえた論述を,一方の立場に偏らずに行う2記載なし4⑴(全体の構成)
7032条・33条の「必要な措置」を,市長ではなく設置者がとる措置と読む1記載なし4⑴(問題文や参照条文の正確な読み取り)
71問いに対して「処分に当たる」「適法である」等の結論を明示する1記載なし4⑴(問いに対する的確な対応)
72設問間の分量のバランスをとり,設問2を途中答案にしない1記載なし4⑴(途中答案・時間配分)

9 重みの分布

72項目の内訳は,重み5が5項目,重み4が11項目,重み3が21項目,重み2が24項目,重み1が11項目であり,重みの合計は191点である。
重み5の5項目は,本件勧告についての平成17年判決の判示(番号8),平成24年判決の判示(番号29),取消訴訟と執行停止による救済の可能性(番号30),29条2項の本文とただし書の構造(番号40),勧告事項3の裁量なしの主張と仮に裁量がある場合の主張の二段構え(番号56)であり,いずれも出題の趣旨が検討の筋道として示し,かつ採点実感が評価の差がついた点として取り上げた事項である。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,Gの指示に応じる弁護士Hの立場で,試験の実施時(令和7年7月)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提にしている。
設問の指示どおり,設問1⑵は本件指示が処分に当たることを前提とし,設問2は本件勧告に手続的違法がないことを前提としている。

答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜に当たるか。」「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる(①)。」)及び結論(「よって」「したがって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。

もっとも,現行の司法試験では,採点実感が,法的三段論法に沿った論述と,反対の見解・B市の反論を踏まえた論述を求め,裁量統制の当てはめでは問題文の事実をいかに丁寧に拾えるかが枢要であるとしているため(第4の番号65・68・69),規範の論証は争いの中心に絞り,Aの主張とB市の反論を対置して問題文の事実を評価する当てはめに多くの字数を割いた。
字数の配分は,おおむね問題提起が1割,規範が2割,当てはめが6割である。

答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるものを示す。
平成17年判決については,判旨の理由を構成する仕組み(保険医療機関の指定と国民皆保険)を判決の用語のまま示した(第4の番号8・9)。

字数は約5,900字であり,2時間の試験時間内に書き切れる分量より多い。
実際の答案では,重み5の評価項目(番号8・29・30・40・56)に対応する部分を残し,その他の部分を短くすることになる。

2 答案

1 設問1⑴について
(1) 処分の意義
 行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項の「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(判例同旨・最判昭和39年10月29日)。もっとも,近時は,法令の仕組み全体から法的効果を判断し,処分性を認める範囲が拡大する傾向にある。
(2) 本件勧告の処分性について
ア 本件勧告は,本件条例32条に基づく勧告であるが,処分に当たるか。
 反対の見解は,本件勧告がされると,これに従わない場合に33条1項の指示や34条の公表が可能になり,公表されればAは鶏卵の販売や信用に重大な不利益を受ける。そして,病院開設中止勧告について,医療法上は行政指導として定められているものの,これに従わない場合には相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けることができなくなり,国民皆保険制度の下では実際上病院の開設自体を断念せざるを得なくなることから,処分性を認めた判例(最判平成17年7月15日)と同様に,本件勧告も処分に当たると論ずると考えられる。
イ しかし,本件勧告は処分性を有しないと解する。
 第一に,32条は,市長が必要な措置をとるべきことを「指導し、又は勧告することができる」と定め,勧告を指導と並べている。勧告は,相手方が任意に従うことを期待してされる行政指導であり,Aに措置をとる具体的な行為義務を課すものではない。したがって,本件勧告自体はAの権利義務又は法的地位に変動を生じさせない。
 第二に,平成17年判決は,勧告への不服従が相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けられないという結果をもたらす仕組みであることを理由とした。
 ところが,本件条例では,指示をするには勧告に「正当な理由なく」従わなかったことを要し(33条1項),あらかじめ審議会の意見を聴かなければならず(同条2項),指示をするか否かも市長の判断に委ねられている(「できる」)。32条にはこのような要件や手続はなく,勧告から指示へ移るには独立の判断が介在する。そうすると,本件勧告の後に相当程度の確実さをもって指示・公表がされる法的仕組みが採られているとはいえない。
 第三に,勧告の次に採られる措置は指示であって公表ではない。公表の不利益は,指示がされ,さらにこれに従わなかった場合に初めて問題となるから,公表の不利益に着目して指示に先行する勧告の処分性を認めるべきことにはならない。Aは,後続の指示を処分として争えば足り,救済の機会も確保されている。
ウ よって,本件勧告は処分性を有しない。
(3) 本件指示の処分性について
ア では,本件指示は処分に当たるか。
 反対の見解は,本件条例には罰則が全くないから,指示によってAに義務が課されるとはいえず,指示に続く公表によってAに損害が生じ得るとしても,それは事実上の効果にすぎないと論ずると考えられる。
イ しかし,本件指示は処分性を有すると解する。
 第一に,本件条例は,任意の協力を求める32条の指導・勧告と,33条1項の指示とを書き分け,指示についてだけ,32条や34条にはない「正当な理由なく」との要件と審議会の意見聴取を定めている。このような要件と手続の加重は,勧告に続く指示によって相手方に具体的な行為義務が課される構造になっていることを示す。本件指示は,Aに対し,指示発出後40日以内に勧告事項1~3に対応した措置をとる義務を課すものである。
 第二に,34条は,指示に「従わなかったとき」に限り,その旨を公表できるとする。公表は,指示により課された義務の履行を確保するための制裁であり,指示に従う義務の存在を前提とする。そして,指示を受けることにより,Aは,これに従わなければ34条の公表を受ける地位に立たされる。
 確かに,本件条例には罰則がない。しかし,処分性は法的効果の有無により決まり,義務の実効性確保の手段が罰則か公表かによって左右されない。また,公表は事実行為であって抗告訴訟で争うことは困難であるから,指示の段階で争わせることは救済の観点からも合理的である。
ウ よって,本件指示は処分性を有する。

2 設問1⑵について
(1) 差止訴訟は,処分がされる前に裁判所がその適法性を判断して差止めを命ずるものであり,行訴法は,処分後の取消訴訟と執行停止(25条)による救済を原則としている。そこで,「重大な損害を生ずるおそれ」(37条の4第1項本文)とは,処分により生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解する(判例同旨・最判平成24年2月9日)。
(2) 本問では,Aに生じ得る損害は,①措置に要する費用,②公表による鶏卵の販売への支障,③公表による養鶏業者としての信用・社会的評価の低下である。①②は経済的損失であり,基本的には金銭賠償で回復が可能である。これに対し,③は,いったん公表されれば回復が困難な性質の損害である。
 そこで,③について,本件指示後に取消訴訟を提起して執行停止を受けることにより容易に救済を受けられるかを検討する。本件指示の発出後直ちに公表が行われるわけではなく,公表は,指示発出後40日の履行期間が経過し,なおAが指示に従わない場合に,市長がさらに公表の判断をして初めてされる(34条)。したがって,Aは,本件指示がされた直後に取消訴訟を提起して執行停止を申し立てることができる。
 確かに,Aとしては,40日以内に執行停止の決定が得られる保証はなく,決定前に公表されれば損害は回復できないと主張することが考えられる。しかし,執行停止の決定は疎明に基づき,口頭弁論を経ずにすることができる(25条5項・6項)から,40日の間に判断を受けることは十分可能であり,③は回復困難な損害であるから(同条3項),執行停止の要件を満たす見込みも高い。そして,指示の効力が停止されれば,指示への不服従を理由とする公表はできない。
(3) よって,Aの損害は,本件指示後に取消訴訟を提起して執行停止の決定を受けることにより容易に救済を受けることができるから,「重大な損害を生ずるおそれ」は認められない。

3 設問2について
(1) 勧告事項1について
ア 勧告事項1は,本件養鶏場が29条2項に違反し,32条の「規定に適合していないとき」に当たることを前提とする。29条2項は,本文で規制距離内の設置を禁じ,ただし書で住宅の「居住者」の同意があるときを除外するから,Cが居住者に当たらず同意が不要というだけでは本文の違反は残る。そこで,Aとしては,居住者のいない住宅は本文の「住宅」に当たらず,本文が適用されないと主張すべきである。
イ Aの主張
 思うに,29条は周辺地域の生活環境に影響を及ぼすおそれがある施設を規制するものであり(同条1項,1条),2項の規制距離は,施設から生ずる悪臭等の影響から近隣で生活する者を保護するためのものである。そうすると,規制距離の起点となる「住宅」とは,現に居住者がいる建物をいい,ただし書の「居住者」も,住宅に現に居住している者をいうと解する。居住者のいない住宅については,保護されるべき者や利益が存在しないからである。
 本問では,Cは,本件養鶏場の設置前である令和6年8月に骨折してD市内の病院に入院し,令和7年1月以降は同市内の介護老人保健施設に入所しており,本件住宅は現に居住している者がいない状態が続いている。したがって,本件住宅は本文の「住宅」に当たらず,本文の違反はない。
ウ B市の反論と再反論
 これに対し,B市は,入院等で一時的に不在となった者の保護が失われるのは不合理であるから,一時的に住宅を離れているにすぎない者も居住者に当たると反論すると考えられる。そして,Cの住民票上の住所は本件住宅のままであり,設置時の令和6年9月には入院の翌月で一時的に離れていたにすぎず,介護老人保健施設も長期間の入所を想定した施設ではないから,Cは居住者に当たると主張すると考えられる。
 しかし,32条は「適合していないとき」と定め,勧告は将来に向けて違反状態の是正を求めるものであるから,違反の有無は勧告時を基準に判断すべきである。仮に設置時にはCが居住者に当たっていたとしても,勧告時には,高齢のCが入院から他市の施設入所へと移り,約9か月にわたり本件住宅に人が住んでいない状態が続いている。住民票の記載は形式的なものにすぎず,帰宅の可能性も抽象的であるから,Cは一時的に離れているにすぎないとはいえない。
エ よって,勧告時に29条2項本文の違反はなく,勧告事項1は32条の要件を欠く。
(2) 勧告事項2について
ア 勧告事項2は,立入検査の拒否が32条の「悪臭防止法(中略)の規定に適合していないとき」に当たることを前提とする。Aとしては,まず,32条は「特定家畜飼養施設が」規定に適合していないことを要件とするから,施設からの排出が規制基準に適合しない場合のように,施設の状態を問題とするものであり,設置者による立入検査の拒否はこれに当たらないと主張すべきである。
 これに対し,B市は,立入検査は受忍義務を伴い,その拒否は罰則(悪臭防止法28条)の対象となるから,適法に行い得る立入検査が拒否された場合には,施設が同法の規定に適合していないときに当たると反論すると考えられる。
イ 次に,Aとしては,そもそも本件の立入検査は適法に行い得なかったと主張すべきである。悪臭防止法20条1項は,「第8条第1項(中略)の規定による措置に関し」必要があるときに立入検査を認めるから,その前提として,排出が規制基準に適合せず住民の生活環境が損なわれているという8条1項の要件の充足が必要と解される。本問では,アンモニアの測定値は0.8ないし0.9ppmであり,許容限度1ppmを超えておらず,8条1項の要件は充足されていない。
 これに対し,B市は,要件充足を確かめるための調査も必要であるから8条1項の要件充足が常に前提とはいえず,本件は測定値が許容限度に近く,Fの意見も出されており,同要件に近い状態にあるから,立入検査の許容性・必要性があると反論すると考えられる。
 しかし,立入検査は罰則により受忍が強制されるものであるから,その要件は厳格に解すべきである。しかも,規制基準は敷地境界線の地表における濃度として定められ(同法4条1項1号),B市は立入りをせずに毎月測定を行い,基準内であることを確認している。したがって,仮にB市の立場に立っても,立入検査の必要性は認められない。
ウ さらに,Aとしては,仮に同法20条1項の違反があるとしても,同法は検査の拒否に罰則を設けて自ら実効性を確保しているから,その違反には同法に定める措置で対処すべきであり,本件条例に基づく勧告等の措置を採ることは許されないと主張すべきである。
 これに対し,B市は,施設が同法の規定に適合していない場合にその規定への適合を求めることは,生活環境の保全という同法の趣旨に反しないと反論すると考えられる。しかし,同法が検査の拒否に罰則という手段を選んでいる以上,条例が別に勧告・指示・公表を重ねることは,同法の予定する実効性確保の仕組みを変えるものである。
エ よって,勧告事項2も32条の要件を欠く。
(3) 勧告事項3について
ア 勧告事項3は,32条の「周辺地域の生活環境を損なうおそれがあると認められるとき」に当たることを前提とする。
イ Aの第一次的な主張
 悪臭防止法の規制基準は,「生活環境を保全」する(1条)ため,市の区域では市長が地域の自然的,社会的条件を考慮して定めるものであり(3条,4条1項),なお不十分な区域ではより厳しい臭気指数の基準を選ぶこともできる(4条2項)。そうすると,悪臭について「生活環境を損なうおそれ」が認められるのは,規制基準を超過している場合又は超過する見込みがある場合に限られると解する。そして,この要件は,規制基準という客観的な基準に照らして判断できるから,市長に要件裁量は認められない。
 本問では,令和6年11月から毎月測定が行われ,令和7年2月以降の測定値は0.8ないし0.9ppmで推移しており,許容限度1ppmを超過したことはなく,勧告時に超過する見込みがあったともいえない。したがって,「生活環境を損なうおそれ」は認められない。
ウ B市の反論
 これに対し,B市は,「おそれがあると認められるとき」との文言や,生活環境への影響の評価には地域の実情に即した専門的判断を要することから,要件の認定に市長の裁量が認められると反論すると考えられる。その上で,令和7年2月以降0.8ないし0.9ppmのアンモニアが計測され,65メートル離れた場所に居住するFから不快な臭いが感じられるとの意見も提出されているから,これらを考慮して要件の充足を肯定したことに裁量権の逸脱濫用はないと主張すると考えられる。
エ 仮に裁量が認められる場合のAの主張
 仮に裁量が認められるとしても,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると解される(判例同旨・最判平成18年11月2日)。
 本問では,臭いについて意見を提出した周辺住民はF1名のみであり,その内容も「風が吹いてきた場合には」不快な臭いが「感じられることがある」というにすぎず,日常的に臭いが感じられるわけではないから,重視すべきでない。
 他方,測定値は許容限度内にあり,市長自らが生活環境の保全のために定めた規制基準に適合しているという事情は,最も重視すべき事情である。そうすると,Fの意見を重視し,規制基準への適合を軽視した市長の判断は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠き,社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。
オ よって,勧告事項3についても32条の要件を欠き,少なくとも裁量権の逸脱濫用がある。
(4) 以上より,Aは,本件勧告は勧告事項1~3のいずれについても32条の要件を欠き,違法であると主張すべきである。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は第4の番号1〜27(設問1⑴),2は番号28〜37(設問1⑵),3(1)は番号38〜46(勧告事項1),3(2)は番号47〜54(勧告事項2),3(3)は番号55〜63(勧告事項3)に対応し,番号64〜72(設問2の全体と答案全体)は各項目の論じ方と結論の示し方で満たすようにした。
重み5の5項目は,1(2)アの平成17年判決の判示(番号8),2(1)の平成24年判決の判示(番号29),2(2)の取消訴訟と執行停止による救済の可能性(番号30),3(1)アの29条2項の本文とただし書の構造(番号40)並びに3(3)イ・エの裁量なしの主張と仮に裁量がある場合の主張の二段構え(番号56)に当たる。

(2) 設問1⑴(本件勧告・本件指示の処分性)

設問1⑴について,出題の趣旨は,最判昭和39年の定式を示しつつ処分性拡大の傾向にも留意させた上で,本件勧告については平成17年判決の判示を示してから,肯定・否定の双方の論拠を検討させ,本件指示については,勧告に続く指示で具体的な行為義務が課される構造と公表される地位を肯定の論拠,罰則がないことと公表の効果が事実上のものであることを否定の論拠として挙げている。
採点実感によれば,処分性の一般論はよく書けていた一方,具体的な義務や法的地位の変動を論じないまま救済の必要性等の抽象論に終始する答案が多く(番号3),平成17年判決について「保険医療機関の指定」が出てこない答案や,相当程度の確実さで病院開設を断念させられるとする答案など,同判決の理解が不正確な答案が多かった(番号8〜10)。
答案は,1(2)で同判決の理由を判決の用語のまま示し,本件条例では勧告から指示へ移るのに「正当な理由なく」の要件,審議会への諮問及び市長の判断が介在することから,相当程度の確実さを欠くとした(番号14・26)。
本件指示については,1(3)イで,指示の義務の内容(40日以内に勧告事項に対応した措置をとること)を特定し,公表が指示の義務の実効性確保措置であることから義務の存在を導いた(番号20〜23)。
採点実感は,平成17年判決と同様に考えることができるかの検討は本件勧告についてだけ求められていたとし,本件指示の処分性の論拠に同判決を使う答案が少なくなかったとしているため(番号27),答案は本件指示の段では同判決を用いていない。

(3) 設問1⑵(差止訴訟の「重大な損害を生ずるおそれ」)

設問1⑵について,出題の趣旨は,平成24年判決の判示に従い,本件指示の後に取消訴訟を提起して執行停止の決定を受けることにより容易に救済を受けられるかを検討させ,受けられるとすれば要件は充足されず,公表前に執行停止を受けられるとはいえないとすれば充足されるとして,両方の結論を許容している。
採点実感は,指示の発出後直ちに公表されるわけではないことを指摘して執行停止が間に合うかを検討する答案を良好,公表までの具体的日数や損害自体の回復困難性まで論じる答案を優秀としている(番号31〜33)。
答案は,2(2)で損害を措置の費用,販売への支障及び信用・社会的評価の低下に分け,前二者は金銭賠償で回復可能であるとした上で(番号34),回復困難な信用の低下について,公表まで40日の猶予があり,執行停止は疎明に基づき口頭弁論を経ずにできることから,要件を充足しないとした。
執行停止が公表前に間に合わないおそれを重く見て要件を充足するとする結論も十分に成り立つ(番号35)。
平成24年判決の事案(懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされること)は,本問と無関係の当てはめであるとされているため(番号36),答案では触れていない。

(4) 設問2の全体と勧告事項1(規制距離と居住者)

設問2について,採点実感は,本件勧告の違法性を端的に論じればよく,本件指示の違法性や違法性の承継を論じる答案が散見されたとしているため(番号64),答案は勧告事項ごとの違法だけを論じ,本件指示の違法には触れていない。
勧告事項1について,出題の趣旨は,Aの主張として,居住者とは現に居住している者をいい,仮に設置時にCが居住者であっても勧告時には一時的に離れているにすぎないとはいえず,居住者がいなければ保護されるべき者や利益が存在しないから同項本文の違反はないという筋を示し,B市の反論として,一時的に離れているにすぎない者も居住者に当たり,介護老人保健施設は長期間の入所を想定した施設ではないという筋を示している。
採点実感は,29条2項が本文とただし書から成ることに留意し,居住者のいない住宅には本文が適用されないと論ずる答案はほとんど見られなかったとし,Cが居住者に当たらず同意が不要とするだけでは本文に違反していることに変わりはないと注意している(番号40・46)。
答案は,3(1)アでこの構造を示し,イで規制距離の起点となる「住宅」を現に居住者がいる建物と解した上で,ウで勧告時を基準とする理由を示した。

(5) 勧告事項2(立入検査の拒否)

勧告事項2について,出題の趣旨は,Aの主張として,立入検査の拒否は施設が法の規定に適合していないときに当たらないこと,悪臭防止法8条1項の要件が充足されていないから立入検査はできないこと及び同法の違反には同法の措置で対処すべきことを挙げ,B市の反論として,それぞれに対応する3つの主張を挙げている。
採点実感は,20条1項が権限を与える規定にすぎず罰則は実効性確保手段にすぎないから立入検査の拒否は違法でないとする論述を誤りとしている(番号53)。
答案は,3(2)で,B市の反論の中で立入検査の受忍義務と罰則を示し,Aの主張は,32条が施設の状態を要件とすること,20条1項の文言から8条1項の要件の充足が前提となること及び同法が罰則という実効性確保の手段を選んでいることに置いた。
また,B市が敷地境界線で毎月測定し基準内であることを確認していた事実から,B市の立場に立っても立入検査の必要性はないとした。

(6) 勧告事項3(生活環境を損なうおそれ)

勧告事項3について,採点実感は,Aの立場では市長の裁量の存在は不利に働くから,裁量論に踏み込まずに違法を論証することが第一選択となり,まず規制基準を超過しておらず超過する見込みもなかった以上生活環境を損なうおそれはないと主張し,それが認められない場合に備えて裁量濫用の主張をすべきであるとしている(番号55・56)。
答案は,3(3)イで,悪臭防止法の規制基準が生活環境の保全のために市長自身が地域の条件を考慮して定めるものであることから,おそれを規制基準の超過又は超過の見込みに限る解釈と,裁量が認められない理由を示して当てはめ,結論まで述べた後に,エで仮に裁量が認められる場合の主張を置いた。
判断過程審査の当てはめでは,採点実感が拾うべき事実として挙げる意見提出者が1名であることと,「風が吹いてきた場合には」「感じられることがある」という限定の付いた意見の内容を評価し,B市が着目した測定値と意見の2点だけを検討した(番号57・60)。

(7) 答案の弱点と扱わなかった事項

答案の弱点は次の3点である。
第一に,勧告事項2で,同法の違反には同法の措置で対処すべきとした理由(同法が罰則という手段を選んでいること)は答案の解釈である。
悪臭防止法23条は,同法に規定するもののほか,悪臭原因物の排出に関し条例で必要な規制を定めることを妨げるものではないとしており,B市がこれを根拠に反論することも考えられる。
第二に,勧告事項3で,悪臭を理由とする「生活環境を損なうおそれ」を規制基準の超過又は超過の見込みに限る解釈は,採点実感が示すAの主張の筋によるものであり,本件条例が同法と別の観点から規制することを認める読み方もあり得る。
第三に,設問1⑵で要件を充足しないとした結論は,執行停止の決定が公表前に得られることを前提としており,出題の趣旨は反対の結論も許容している。
設問が前提とした本件勧告の手続的適法性と本件条例自体の適法性は,答案では扱っていない。

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第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題(公法系科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(公法系科目)

2 法令

①行政事件訴訟法(e-Gov法令検索)
②悪臭防止法(e-Gov法令検索)

3 裁判例

①最高裁判所第一小法廷昭和39年10月29日判決(昭和37年(オ)第296号,民集18巻8号1809頁)
②最高裁判所第二小法廷平成17年7月15日判決(平成14年(行ヒ)第207号,民集59巻6号1661頁)
③最高裁判所第一小法廷平成24年2月9日判決(平成23年(行ツ)第177号ほか,民集66巻2号183頁)
④最高裁判所第一小法廷平成18年11月2日判決(平成16年(行ヒ)第114号,民集60巻9号3249頁)

4 確認状態

出題の趣旨は,全科目を収めたPDF(42頁)のうち公法系科目第2問の部分(3頁〜4頁)を全て読んだ。
採点実感は,公法系科目のPDF(10頁)のうち第2問の部分(5頁〜10頁)を全て読んだ。
いずれも,令和8年9月27日に法務省のウェブサイトから取得したものである。
上記3の裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,模範解答で用いた判示の文言を確認した。
上記3①の判決は,行政事件訴訟法の施行前の行政事件訴訟特例法1条にいう「行政庁の処分」について判示したものであり,答案では「判例同旨」として示している。
出題の趣旨は,上記3①の判決の定式を「法律上認められるもの」と引用しているが,同判決の判決書では「法律上認められているもの」である。
条文は,e-Gov法令検索で,試験の実施時である令和7年7月1日時点のものを確認した。
本件条例とB市行政手続条例は問題文の架空の条例であり,その内容は問題文の資料による。