第1 処分性が問題になる理由
1 取消訴訟の対象を画する要件である
行政事件訴訟法3条2項の取消訴訟は,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の取消しを求める訴訟である。
行政機関が行う通知,勧告,指導,計画決定,公表等のすべてが取消訴訟の対象になるわけではない。
一般に,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものが処分に当たると説明される。
2 名称ではなく法的仕組みで判断する
「勧告」でも処分性が認められる場合がある一方,「決定」又は「告示」でも処分性が否定される場合がある。
行為の名称ではなく,①根拠法令,②相手方・対象者の範囲,③権利義務への直接具体的な影響,④不服従の効果,⑤後続処分との関係,⑥後の段階で争うことによる救済の実効性を検討する。
第2 処分性を検討する順序
1 根拠法令と行為の位置付け
まず,行政庁が何の法令に基づいて行為をしたか,法令上どの段階に位置付けられるかを特定する。
法令に根拠がない事実行為,行政内部の行為,準備行為又は一般的・抽象的規範の制定は,通常の処分とは異なる検討を要する。
2 直接性と具体性
当該行為だけで権利が制限され,義務が課され,資格・地位が変動し,又は後続手続が当然に進むかを確認する。
影響が不特定多数者に一般的・抽象的に及ぶだけか,特定の者の法的地位に直接具体的に及ぶかを分ける。
3 後続措置と救済の実効性
当該行為に従わない場合に許可拒否,命令,公表,過料その他の措置が予定されているかを確認する。
後続処分を待って争えるとしても,その時点では損害回復が困難であるか,先行行為の違法を主張できるかも検討する。
4 成熟性と紛争の一回的解決
計画段階の行為については,権利制限が具体化しているか,後続処分まで複数段階あるか,現段階で争わせることが紛争の成熟性・一回的解決に資するかが問題となる。
これは単なる将来の不安の有無とは異なる。
5 候補者選定・不選定など中間段階の行為
公募又は競願では,「申請→候補者選定・不選定→最終許認可→競願者への許認可」という複数段階の行為を分ける。不選定によって最終許認可の申請自体が法的にできなくなるのか,申請はできるが候補者でないため実体要件を満たさないのか,それとも最終処分に向けた内部的・準備的判断にすぎないのかを確認する。事実上許可されにくいだけの場合と,法令上の可能性が閉ざされる場合は区別する。
具体的には,①根拠法令,②不選定による法的地位の変動,③最終処分までの自動性,④後の段階で不選定の違法を争えるか,⑤後の段階まで待つと救済が著しく困難になるかを検討する。候補者選定という名称だけから処分性を肯定又は否定することはできない。
救済経路は,①不選定自体を直ちに争う,②最終許認可を申請して拒否処分を争う,③競願者への許可を第三者として争う,の三つに分ける。どの経路が使えるかは,個別法上の申請要件・許可要件,自己拒否と競願者許可の連動,第三者の原告適格によって異なる。
現在の一般的な候補者選定制度と同一構造の判例を網羅的に確認したものではない。競願者への許可後の訴えの利益,審査基準及び諮問機関を含む検討は,競願・候補者不選定を争う行政訴訟で整理している。
6 申請書の返送・拒否処分・無応答を分ける
申請書を返送された場合は,正しい提出先への到達,返送の理由と権限,諾否の最終判断の有無及び申請者による取下げを確認する。返送という名称だけで処分性や申請の消滅を断定することはできない。
| 状態 | 確認事項・救済の方向 |
|---|---|
| 返送された | 補正の要求か,法的に申請を拒否する処分かを調べる。到達した申請が係属している場合は,不作為の救済も問題となる。 |
| 拒否処分がある | 処分の理由と受領日を確認し,取消訴訟等と出訴期間を検討する。有利な処分まで求めるなら義務付けの要件も確認する。 |
| 何らの処分もない | 法令に基づく申請と相当期間の経過を確認し,不作為についての審査請求又は不作為の違法確認を検討する。 |
応答を求めることと,許可等の有利な処分を命じてもらうことは異なる。申請型義務付けでは,行政事件訴訟法37条の3の併合要件と本案要件を別に確認する。詳しくは,申請書を受け取らない・返送する行政庁への対応で整理している。
第3 最高裁が処分性を認めた例
1 第二種市街地再開発事業の事業計画決定
最高裁平成4年11月26日判決(昭和63年(行ツ)第170号・民集46巻8号2658頁)は,地方公共団体が定めて公告した第二種市街地再開発事業の事業計画決定について,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとした。
同判決は,事業計画決定の公告により市町村が土地収用法に基づく収用権限を取得し,施行地区内の土地の所有者等は,特段の事情のない限り,自己の所有地等が収用されるべき地位に立たされることを理由とした。
さらに,施行地区内の宅地の所有者等は,公告の日から30日以内に,対償の払渡しを受けるか,これに代えて建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされること(判決当時の都市再開発法118条の2第1項1号)も指摘した。
計画という名称だけで一般的・抽象的行為と扱うことはできない。
2 病院開設中止勧告
最高裁平成17年7月15日判決(平成14年(行ヒ)第207号・民集59巻6号1661頁)は,医療法に基づく病院開設中止勧告について処分性を認めた。
勧告自体に直接の法的強制力がないように見えても,勧告に従わない場合は保険医療機関の指定を受けられない結果となることが相当程度確実であり,国民皆保険制度の下では病院開設を断念せざるを得ないという実際上の効果が重いことが考慮された。
3 土地区画整理事業の事業計画決定
最高裁大法廷平成20年9月10日判決(平成17年(行ヒ)第397号・民集62巻8号2029頁)は,市町村施行の土地区画整理事業の事業計画決定について処分性を認めた。
事業計画決定により,施行地区内の宅地所有者等は換地処分に向けた具体的な法的規制を受ける。
この判決は,従前の最高裁判例を変更し,実効的な権利救済の観点を示した。
この判決は市町村施行の事業計画決定を対象としており,組合設立認可や個別の仮換地指定等は,対象行為と根拠法を別に確認する必要がある。また,処分性が認められても,審査請求が可能とは限らない。土地区画整理法127条の適用除外,意見書,出訴期間及び執行停止については,土地区画整理事業の反対・争い方を参照されたい。
第4 最高裁が処分性を否定した例
1 工業地域の指定
最高裁昭和57年4月22日判決(昭和53年(行ツ)第62号・民集36巻4号705頁)は,都市計画法に基づく工業地域指定について,抗告訴訟の対象にならないとした。
用途地域指定による規制は区域内の不特定多数者に一般的・抽象的に及び,個別の建築確認等の段階で具体化するという構造であった。
2 地区計画の決定
最高裁平成6年4月22日判決(平成5年(行ツ)第48号・集民172号445頁)は,地区計画の決定について処分性を否定した。
地区計画区域内では一定の届出や勧告が予定されても,計画決定自体が個人の権利義務に直接具体的な変動を与えるとは認められなかった。
平成20年大法廷判決後も,個々の計画の法的効果,後続手続及び制約の具体性を調べる必要がある。
第5 勧告・指示・公表の処分性
1 行為の連鎖を分解する
法制度が「助言・勧告→指示・命令→公表→許可拒否・制裁」という段階を採る場合,各段階を一括して処分と呼ぶことはできない。
各行為の根拠規定,相手方,不服従の法的効果及び次の段階までの期間を表にして検討する。
2 処分性が否定されても救済が終わるわけではない
取消訴訟の対象にならない場合でも,差止めの訴え,当事者訴訟,公法上の確認訴訟,国家賠償請求又は民事上の差止めが問題となり得る。
もっとも,各訴訟類型の要件は別であり,処分性がないことだけから他の訴えが適法になるわけではない。
詳しくは,行政庁の勧告・指示・公表に対する争い方及び通達の法的性質・拘束力と争い方を参照されたい。
第6 実務上のチェックリスト
1 取消訴訟を提起する前
①行為文書の正式名称・日付・発出者,②根拠法令・条例,③相手方,④法的効果,⑤不服従の効果,⑥後続処分,⑦後続段階で争える範囲,⑧出訴期間,⑨執行停止又は仮の差止めの必要性を確認する。
申請に関する事件では,提出版の申請書・添付資料,受付・配達・電子受信の記録,返送文書と封筒,補正要求と回答,取下げの有無及び申請を維持する意思を伝えた記録も集める。法令上の経由機関と処分権限者が異なる場合は,経由規定と書類の送付経過を確認する。
2 処分性の主張を組み立てるとき
行為が不利益であると述べるだけでなく,法令の条文連鎖と運用実態に即して,現在の法的地位がどのように変わったか,後続処分を待つことがなぜ実効的でないかを示す。
肯定例だけでなく,否定例との相違点を明示する。
第7 出典及び関連記事
行政事件訴訟法3条(e-Gov法令検索)並びに本記事でリンクした裁判所HPの判例結果詳細を確認した。
行政事件全体は,行政事件訴訟の主要論点を参照されたい。
再開発事業の計画変更と処分性は,第一種市街地再開発事業の事業計画変更を争う方法で整理している。
同事業の変更認可・権利変換処分・明渡請求の各段階で主張できる違法に関する下級審の判断は,再開発の変更認可・権利変換処分・明渡請求で主張できる違法で紹介している。