本記事の対象範囲:本記事でいう公募・競願は,許認可,指定その他の行政処分に向けた候補者選定を対象とする。国,地方公共団体その他の公的主体が契約相手方を選定する公募型企画競争は,契約法上の救済,仮処分・国家賠償等の可否及び刑法96条の6第1項の「入札」該当性を別に検討する必要がある。
第1 許認可・指定における競願・候補者選定の全体像
1 まず行政過程を時系列にする
公募又は競願では,申請,形式審査,候補者選定・不選定,諮問機関の答申,最終許認可,競願者への許認可という複数の行為が連続することがある。最初に,各行為の主体,根拠規定,通知日,法的効果及び次の段階への影響を一枚の表にする。
2 手続上の要件を分ける
「選定基準に違反した」というだけでは足りない。根拠法令,公募要領,審査基準,内部の採点要領,諮問規定及び最終決定権限を分け,どの段階のどの要件に違反したかを特定する。
第2 候補者不選定に処分性があるか
1 名称ではなく法的効果で判断する
「選定」「推薦」「答申」「内定」などの名称だけで処分性は決まらない。不選定によって後の申請自体が法的にできなくなるのか,申請はできるが候補者でないため実体要件を満たさず拒否されるのか,それとも不選定が内部的・準備的判断にすぎず最終処分時に改めて判断されるのかを区別する。単に事実上許可されにくくなるだけの場合と,法令上の可能性が閉ざされる場合を混同しない。
2 確認する六つの要素
①根拠法令,②不選定を受ける者の範囲,③不選定による法的地位の変動,④最終処分までの自動性,⑤後の段階で不選定の違法を争えるか,⑥後の段階まで待つと救済が著しく困難になるかを検討する。
3 三つの救済経路を分ける
第一は,不選定自体を処分として直ちに争う経路である。第二は,なお最終許認可を申請できるなら,申請して拒否処分を受け,その取消し等を求める経路である。第三は,競願者への許可に対して第三者として取消し等を求める経路である。どの経路が使えるかは,候補者であることが申請要件か許可要件か,自己拒否と競願者許可が法的に連動するか,競願者許可について原告適格があるかなど,個別法の構造で決まる。
中間判断の処分性が否定されても,公法上の当事者訴訟又は確認訴訟,国家賠償請求の余地を別に検討する。ただし,各訴訟類型の要件は独立しており,処分性がないことから直ちに他の訴えが適法になるわけではない。
第3 競願者への許可後も訴えの利益があるか
1 自己への拒否と競願者への許可を一体として見る
最高裁昭和43年12月24日判決(いわゆる東京12チャンネル事件)は,同一周波数をめぐる競願について,原告への拒否処分と競願者への免許付与は表裏の関係にあるとした。拒否処分に関する決定が取り消されれば,行政庁は決定前の白紙の状態に戻り,両申請の優劣を再審査すべきことになるため,競願者に既に免許が付与されているだけで訴えの利益は失われないとした。
2 取消判決後の再審査と競願者の地位
東京12チャンネル事件で取消しの対象となったのは,当時の裁決主義の下で,自己への免許拒否に対する異議申立てを棄却した決定である。最高裁は,その決定が取り消されると,行政庁は改めて両申請の優劣について審議会の判断を求め,異議申立てに対する決定をするべきものとした。現行の行政事件訴訟法33条2項も,申請拒否処分又は審査請求棄却裁決等の取消判決後に,判決の趣旨に従った再処分・再裁決を義務付けている。ただし,自己拒否側の取消しだけで競願者の免許が当然に失効するのではなく,同判決は,再審査の結果によっては競願者の免許を取り消して原告に免許を付与することもあり得るとしたのである。
したがって,取消判決が直ちに自己への許可を意味するわけではない。また,この判決の連鎖が他制度にもそのまま当てはまるわけではなく,制度によっては自己への拒否だけでなく,競願者への許可を別に争う必要がある。
再処分義務と,許可を命じる申請型義務付けの要件・併合提起の違いは,申請拒否の取消判決で許可は得られるか―再処分義務・義務付け訴訟・競願者の地位で整理している。
3 期間満了と更新・再免許
同判決は,当初の免許期間が満了しても,直ちに再免許が与えられて事業が継続している場合,形式的な期間満了だけで訴えの利益を否定しなかった。現在の制度に当てはめる際は,旧電波法の競願・異議申立て・裁決主義を前提とする判決である点に注意し,更新が従前の許可と法的・実質的に連続するかを個別に検討する。
第4 審査基準・内部採点をどう点検するか
1 実体法・公表基準・内部運用の順に確認する
まず,根拠法令が定める許可要件・比較要素を確認し,次に募集時に公表された基準,内部の採点要領,個別採点及び最終決裁理由を区別する。候補者選定自体が行政手続法上の「申請に対する処分」に当たる場合は,同法5条の審査基準及び同法8条の理由提示が直接問題となる。不選定が内部的・準備的判断にとどまる場合,これらの規定がそのまま適用されるとは限らないが,選定基準と運用実態は,公平な取扱い,判断過程の合理性及び後の処分の適法性を検討する重要資料である。
2 公表基準と内部基準を区別する
募集時に示された基準,内部の採点表,審査途中で追加された評価項目及び最終決定時の判断理由を時系列で比較する。公表基準を内部で具体化しただけなのか,応募者が予測できない新基準を追加したのかを分ける。
3 比較可能な事実が認定されているか
東京12チャンネル事件は,競願者の優劣比較に必要な具体的事実がなければ比較考量はできないとした。抽象的な結論だけでなく,資金,実施能力,事業計画,地域との結び付きその他の法定考慮事項について,比較可能な資料と認定事実が示されているかを確認する。
4 政策判断を法定基準に接続できるか
政治的方針,首長の公約又は行政計画が考慮された事実だけで直ちに違法になるとは限らない。しかし,それが根拠法令の目的及び審査基準とどのように関係するか,必要な事実に基づくか,他の考慮事項を押しのけていないか,同種事案との不平等を生じさせていないかを検討する。
第5 諮問機関の答申と最終決定権者
1 答申に法的拘束力がなくても無視できるとは限らない
最高裁昭和50年5月29日判決(群馬中央バス事件)は,法が行政庁に諮問を求め,諮問機関の決定を尊重して処分するよう定める場合,答申は行政庁を法的に拘束しないとしても,行政庁は答申を慎重に検討し,十分に考慮し,特段の合理的な理由がない限り反する処分をしないことが要求されるとした。
2 二段階で監査する
第一に,諮問機関が適正な資料を収集し,利害関係人に意見・証拠提出の機会を与え,法定基準に沿って審理・答申したかを点検する。第二に,最終決定権者が答申と異なる結論を採った場合,その理由が法定目的,具体的事実及び比較基準に結び付いているかを点検する。
3 手続違反の影響を一律に扱わない
群馬中央バス事件は,補助機関の聴聞の瑕疵と,独立した第三者的諮問機関の公聴会・答申の重大な瑕疵を区別した。手続違反があれば常に最終処分が取り消されるのではなく,当該手続が制度上担う役割と,瑕疵の重大性を検討する。
同判決は,運輸審議会の公聴会審理において申請者に主張・立証の機会を十分に与えなかった瑕疵があっても,仮にその機会を与えたとしても申請者が運輸審議会の認定判断を左右するに足りる資料及び意見を提出し得る可能性があったとは認め難い事情があるときは,その瑕疵は諮問を経てされた処分を取り消す事由とはならないとした。そのため,処分を争う側は,手続をやり直しても結論は変わらなかったという反論を想定し,瑕疵がなければ提出できた資料・意見の内容と,それが諮問機関の判断を左右し得た理由を具体的に示す必要がある。
もっとも,除斥事由のある委員が議決に加わった場合のように,瑕疵が審議機関の公正・中立そのものに関わるときは,その委員の票を除いても議決の結論が変わらないという数の比較だけで足りるかは,除斥制度の趣旨に照らして別に検討する必要があると考えられる。
第6 従前の取扱いの考慮価値と経過措置の限界
長年の指定,許可又は事実上の行政承認があることから,将来も同じ地位が保障されるとは限らない。特に,法令が名義貸し等を明示的に禁止している場合,従前の状態から更新権又は既得権が当然に生じるとはいいにくい。
もっとも,権利がないことと,裁量判断で考慮価値がないことは別である。個別の審査基準が営業実績・能力・地域への影響を評価対象としているか,地位の承継規定があるか,行政が状態を認識しながらどのような説明・指導をしたか,事業者が投資・雇用等の行動をしたか,代替措置と移行期間が十分かを分けて確認する。これらは,適格性の証拠,信頼保護,平等取扱い,比例性又は裁量判断の合理性を検討する事情となり得る。
既得権があるという抽象論ではなく,行政庁がいつ,誰に,どの内容を説明し,当事者が何を信頼してどの行動をしたかを証拠化する。
第7 受任直後の証拠保全と訴訟設計
1 直ちに確保する資料
①根拠法令・条例・規則,②公募要領,③審査基準と各改訂版,④内部採点表,⑤審査会・諮問機関の議事録及び配布資料,⑥当初評価と最終評価,⑦答申,⑧決裁文書,⑨不選定通知と理由,⑩競願者への選定・許可文書,⑪従前の許可・更新資料,⑫移行措置の検討資料,⑬許可申請書の受付可否・許可要件を示す運用資料,⑭地位承継規定と行政の説明・指導記録を確保する。
2 処分と訴訟類型の対応表を作る
自己への不選定,最終拒否,競願者への許可,更新・再許可の各行為について,処分性,原告適格,訴えの利益,出訴期間,執行停止又は仮の差止めの必要性を別々に検討する。取消しを求める対象を一つに決め付けず,制度全体の救済経路を図示する。
3 事実・評価・結論を分ける
主張書面では,①認定された事実,②法定の考慮事項,③各事実の評価,④競願者間の比較,⑤結論を分ける。問題のある箇所を,事実誤認,調査不足,考慮不尽,他事考慮,評価の不合理,平等取扱い違反,理由提示の不備又は手続違反に分類する。
第8 出典、射程及び関連記事
なお,国,地方公共団体その他の公的主体が契約相手方を選ぶ公募型企画競争については,許認可・指定の候補者不選定とは法的構造が異なる。最高裁第二小法廷令和8年9月28日判決は,法令又は内規に基づく選定方法が権限ある機関によって適法に決定され,競争入札の実質を有するときは,刑法96条の6第1項の「入札で契約を締結するためのもの」に当たり得るとした。詳しくは,「公募型企画競争は公契約関係競売入札妨害罪の「入札」に当たるか―最高裁令和8年9月28日判決と発注者・応募者の実務(AI作成)」を参照されたい。
本記事では,行政事件訴訟法及び行政手続法の現行条文,最高裁昭和43年12月24日判決並びに最高裁昭和50年5月29日判決の裁判所HP掲載判決全文を確認した。
両判決は,それぞれ当時の電波法上の競願・異議申立手続と,運輸審議会への諮問・答申尊重を定めた制度を前提とする。現在の個別案件では,候補者選定と最終許認可の法的関係,競願者の許可との連動及び諮問機関の役割を,その制度の根拠法令と裁判例に即して確認する必要がある。
関連記事として,行政処分の処分性とは,取消訴訟の原告適格と訴えの利益の違い,行政裁量の司法審査及び行政事件訴訟の主要論点を参照されたい。