第1 取消判決は何を取り除くか
許可申請を拒否した処分の取消判決が確定しても,その判決だけで許可を取得したことにはならない。行政庁が判決の趣旨に従って改めて判断することと,裁判所が許可をすべき旨を命ずることは,求める救済も判断条件も異なる。競願者に既に許可がある場合には,その許可の扱いも分けて検討する必要がある。
1 取消訴訟と義務付け訴訟の請求は異なる
行政事件訴訟法3条2項は,処分の取消しを求める訴訟を定め,同条6項は,行政庁が一定の処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えを定める。許可申請の拒否処分を取り消す請求は,拒否を取り除くためのものであり,許可をすべき旨を命ずる請求とは区別される。
したがって,訴訟を起こす段階で,拒否処分を取り消して再審査を受けたいのか,許可をすべき旨の判決も求めたいのかを明確にする必要がある。許可に向けた再審査の機会を得ることと,許可取得まで裁判で確保することを,同じ意味で説明してはならない。
2 第三者効は別の許可の当然失効を意味しない
同法32条1項により,処分又は裁決を取り消す判決は第三者に対しても効力を有する。ただし,この規定は,判決で取り消された処分又は裁決の取消しの効力を第三者にも及ぼす規定である。第三者に関係する別個の処分まで,取消判決の対象にしていないのに当然に取り消すという意味ではない。
競願の場合も,自己への拒否処分の取消しと,競願者への許可の効力を除くことを分ける必要がある。この区別は,取消判決後にどの行政庁がどの行為を行う必要があるかを考える出発点となる。
第2 行政庁には判決の趣旨に従った再処分義務がある
1 行政事件訴訟法33条の拘束力
同法33条1項により,処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分庁その他の関係行政庁を拘束する。同条2項は,申請を却下又は棄却した処分等が判決により取り消された場合,行政庁が判決の趣旨に従い,改めて申請に対する処分等をしなければならないと定める。
再処分は,単に同じ結論を別の通知書で出す作業ではない。行政庁が判決で指摘された違法を踏まえて判断しなければならないことが重要である。一方,この条文だけから,すべての拒否処分取消事件で許可をする義務が生じると読むこともできない。
2 取消理由と必要なやり直しを対応させる
判決がどの点を理由に取り消したかを読み,申請に対する判断をどの段階からやり直す必要があるかを整理する。例えば,手続のやり直しを要するのか,比較に必要な事実を調べ直すのか,法令の解釈を改めて判断するのかによって,再処分に必要な作業は異なる。
実務では,判決主文,取消しの理由,申請の内容,処分の根拠規定を並べて確認する。取消理由を無視した再拒否と,判決の趣旨に従って残る審査事項を判断した再処分を,一律に同じものとして扱わないことが必要である。
第3 競願では再審査と競願者の許可を順に考える
1 最高裁昭和43年12月24日判決
最高裁第三小法廷昭和43年12月24日判決は,同一周波数をめぐる競願について,自己への免許拒否と競願者への免許付与が表裏の関係にあるとした。
この事件では,拒否処分に対する異議申立てを棄却した決定が取り消されると,行政庁は決定前の状態に戻り,両申請の優劣について再び審議会の判断を求め,異議申立てに対する決定をするべきことになる。再審査の結果によっては,競願者の免許を取り消して原告に免許を与えることもあり得るため,競願者への免許が当然に取り消されないことだけを理由に,自己拒否側の取消しを求める訴えの利益を否定することはできないとした。
2 再審査の機会と許可の取得を区別する
同判決からは,競願者の免許が残っていることだけで再審査の機会まで否定しないこと,その一方で自己拒否側の取消判決だけが競願者の免許を当然に失効させるものではないことを読み取れる。再審査の結果として競願者の免許をどう扱うかは,その後の行政上の判断の問題となる。
ただし,同判決は当時の電波法の競願関係,異議申立手続及び裁決主義を前提とする。現在の許認可・指定制度に当てはめるには,自己の申請と競願者の申請が同じ枠を争うものか,自己への拒否と競願者への許可が法的に連動するか,再審査で自己の地位を回復できるかを確認しなければならない。すべての競業者が自己への拒否だけを争えば足りるという判例ではない。
第4 許可を命じる判決も求めるとき
1 申請型義務付けの訴えと併合提起
法令に基づく申請に対する拒否処分がされた場合,同法37条の3第1項2号は,その処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であることを,申請型義務付けの訴えの要件としている。同条2項により,申請をした者が提起する訴えである。
同条3項2号により,拒否処分の取消訴訟又は無効等確認の訴えを,義務付けの訴えに併合して提起する必要がある。許可申請をしていない状態や,法令に基づく申請であること自体が問題となる状態を,この型に当然に当てはめることはできない。
2 拒否処分の違法性に加えて許可すべき条件を示す
同条5項による義務付け判決には,併合した取消訴訟等の請求に理由があることに加え,行政庁がその処分をすべきことが根拠法令の規定から明らかであるか,その処分をしないことが裁量権の範囲を超え,又は濫用となることが必要である。
したがって,拒否の理由が違法であることを示すだけでなく,求める許可の要件を満たすこと,判断の余地が残る事項についてなぜ許可をしないことが違法になるかを,法令と事実に即して示す必要がある。比較審査をやり直すべきことが認められた段階と,自己を許可すべきことまで認められる段階を分けて主張することが重要である。
第5 受任時と勝訴後に確認する事項
1 訴訟の対象と希望する結果を整理する
受任時には,自己への拒否,拒否に対する裁決,競願者への許可をそれぞれ特定し,根拠規定,通知日,申請内容及び処分理由を確認する。競願者への許可を別に争う必要がある場合には,原告適格,訴えの利益及び出訴期間を別途検討する。
依頼者が望む結果が「再審査の機会」なのか「一定の許可の取得」なのかを聞き,その結果に対応する請求と証拠を組み立てる。競願者の許可文書や比較審査資料も,適法に入手できる範囲で確保する。
2 勝訴後の行政上の対応を追う
取消判決後には,判決の趣旨に従った再審査・再処分が行われているかを確認する。競願者の許可が関係する制度では,自己の申請への再処分と,競願者の許可に対する措置を区別して記録する。行政庁に求める説明も,どの手続をいつ行い,どの資料を再評価するかという具体的な内容にする。
行政庁が改めて拒否した場合には,新たな拒否の理由と先の取消理由の関係を検討する。再処分の通知と理由を保存し,旧処分を取り消した判決があることだけで,新しい処分への対応も終わったと扱わないことが必要である。
第6 出典と関連記事
本記事の一般的な手続の説明は,行政事件訴訟法3条,9条,32条,33条及び37条の3による。令和8年10月8日現在の施行条文を確認した。競願に関する判例の説明は,最高裁昭和43年12月24日判決全文1~3頁の判断による。当時の電波法上の制度と,現在の一般的な訴訟手続を区別している。
許認可・指定における競願・候補者不選定を争う行政訴訟では,処分性,審査基準及び諮問機関を含む争い方を整理している。行政事件訴訟の主要論点も参照されたい。
試験問題に即した処分性・訴えの利益の論証については,令和3年司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目を参照されたい。