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令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,公法系科目第1問(憲法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。

本問は,国政選挙における投票の義務化(施策①⒜),連続3回の不投票者の国政選挙権を5年間停止する措置(施策①⒝)及び街頭演説における聴衆の不穏当な行為の禁止(施策②)という架空の法案骨子について,法律家の立場からその憲法適合性を論じさせるものである。

公式資料から抽出できた評価項目は40項目であり,重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,選挙権の二元説,在外国民選挙権訴訟の大法廷判決の参照,同判決の「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」という例外への該当性,戸別訪問判決の伊藤正己裁判官補足意見の「選挙のルール」論,主催者の要請による実質的な内容規制及び事案の分析に基づく判断枠組みの設定の6項目である。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(公法系科目第1問の部分)又は採点実感(同)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。

各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,頁と見出し番号(採点実感の「3⑷」は「3 施策①⒜について」の⑷を指す。)で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。

公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。

①重み5:採点実感が「大きな差がついた」「評価の一つの分かれ目」「無視し得ない」等と明言した事項,又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も高く評価した事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項

第3 本問の概要

本問の法案骨子は,施策①として国政選挙の投票を義務付け(⒜),連続3回にわたり投票しなかった者の国政選挙権を3回目の投票日の翌日から5年間停止する(⒝)ものであり,施策②として,選挙運動中の街頭演説の演説者から半径25メートル以内にいる聴衆が,主催者の指定する30分以内の間,演説者が圧迫感を覚えて演説を続けづらくなるような不穏当な行為をすることを禁止し,主催者の要請に基づいて選挙管理委員会の派遣者が中止命令・退去命令を出し,退去命令違反に5万円以下の罰金を科すものである。

設問は,法律家甲の立場で施策①及び施策②の憲法適合性を論じさせ,参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場への言及を求める一方,施策②の規制対象行為の不明確性及び過度広汎性は論じる必要がないとしている。

問題文の会話では,高齢者・障がい者の取扱いと5年という停止期間の相当性も,検討の対象から外されている。

第4 評価項目と重み

1 施策①⒜(投票の義務化)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1選挙権の公務性又は権利・公務の二元説に触れる51頁「2.」⒜の段落(公務性を重視する立場からは義務化の合憲性が説かれる)3⑷(触れたか否かで大きな差がついた)
2自由選挙の原則(任意投票)に触れる41頁「2.」⒜の段落(自由選挙原則に任意投票を含めるか否かで見解が分かれる)3⑷(自由選挙の原則とその趣旨に触れた答案を高く評価)
3選挙原則・選挙権の法的性格から,義務化の可否をどう導くかを示す3記載なし3⑷後段(導き方が明らかでない答案が多かった)
4選挙制度の形成に関する立法裁量(44条)に触れる3間接(1頁「2.」冒頭の統治機構論)3⑸(高く評価)
5低投票率がひっ迫した状況に限って強制投票が正当化されるかを検討する31頁「2.」⒜の段落末尾記載なし
6人権論だけでなく,議会制民主主義・国民主権という統治機構論の観点から論じる31頁「1.」「2.」冒頭1⑴,3⑴後段
7「投票の自由」を自由権として制約審査するだけの型どおりの答案にしない2記載なし3⑴
813条又は19条を義務化の根拠条文・補強根拠にしない1記載なし3⑵
9選挙権を社会権と説明しない1記載なし3⑶
10義務化が投票の秘密を害すると論じない(投票の秘密は誰に投票したかの問題)2記載なし3⑹

2 施策①⒜と⒝の区別

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
11⒜と⒝を区別して別々に論じる3間接(1頁「2.」で⒜と⒝を分けて論点を示す)2⑴
12⒝を「投票しない自由」の制約ではなく,選挙権(その行使)の制限として構成し,⒜と同じ基準で済ませない3間接(1頁⒝の段落:選挙権の停止は強い権利制限)4⑵,2⑵
13⒜を違憲としながら,「仮に合憲であるとしても」との仮定を置かずに⒝を合憲とする矛盾をしない2記載なし2⑶

3 施策①⒝(国政選挙権の停止)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
14在外国民選挙権訴訟の大法廷判決(平成17年)の判断枠組みを参照する51頁⒝の段落(同判決が参照されるべき)4⑴(同判決の存在は無視し得ない)
15同判決の枠組みと学説上の違憲審査基準との関係を意識し,厳格審査基準に置き換えるなら理由を示す3記載なし4⑴後段
16同判決の「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」という例外に当たるかを論証する51頁⒝の段落(まず例外に当たるかを考える必要)4⑶(言及・論証した答案は少数)
17「選挙の公正」の内容を本問に即して論じる(買収等の不正に限るのか,低投票率が民主主義を空洞化させる場面を含むのか)41頁⒝の次の段落(投票率の向上と選挙の公正の確保が結び付くか)4⑶後段(本問に即して丁寧に論じた答案を高く評価)
18議員定数不均衡の判例を先例として参照しない(平等選挙の問題である)2記載なし4⑷
19罰金ではなく選挙権の停止という手段が採られたことを,単純な軽重比較に終わらせずに検討する41頁⒝の次の段落末尾4⑺(丁寧な比較を高く評価し,1回ごとの罰金が常に軽いといえるかの検討を求める)
20世論調査の7割という問題文の事実を,特段の論証なく否定しない2記載なし4⑹
21学校教育の充実や民間との連携等を,立法目的にそぐわない代替手段として挙げない1記載なし4⑸

4 施策②(聴衆の不穏当な行為の禁止)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
22施策②が聴衆の表現の自由(21条1項)を制約するという構図を,問題文から拾う32頁冒頭5⑶(最低限のポイント)
23候補者,聴衆,ヤジを飛ばす聴衆など,誰の自由がどう影響を受けるかを区別する3間接(2頁の失われる利益の段落)5⑷
24聴衆が候補者に直接意見を届けることの意義(その場でしか実現できない双方向性)を評価する3間接(2頁の失われる利益の段落)5⑸,5⑻
25規制される表現を低価値表現と即断しない2記載なし5⑻
26機会の限られた街頭演説であることから演説者側の表現の自由を重く見る立場も検討する(許容される分岐)2間接(2頁の失われる利益の段落)5⑻
27間接的・付随的制約か直接的制約かを論じる(場所・時間の指定は直接的規制である)32頁「第1に」5⑺
28選挙運動規制の一環という側面に着目し,戸別訪問判決等と本問の場面の異同を考慮する42頁「第1に」「第2に」5⑴(高く評価)
29伊藤正己裁判官補足意見の「選挙のルール」論を参照する52頁「第2に」5⑵(評価の一つの分かれ目)
30「選挙のルール」論を誤った理解で使わない2記載なし5⑵後段
31文言上は内容中立でも,主催者の要請に基づく仕組みにより実質的に内容(見解)規制となり得ることを論じる52頁「第3に」,3頁冒頭5⑹(制度の立て付けと実質的効果を踏まえたものとして評価)
32選挙の自由妨害罪に至らない聴衆の行為を規制する必要性を検討する32頁の失われる利益の段落5⑻
3330分以内の演説なら演説全体にわたって聴衆の発言を制限できる等,限定の実質的な強さを検討する22頁の失われる利益の段落末尾記載なし
34特定の見解が排除された街頭演説が議会制民主主義を支える健全な選挙運動といえるか,という根本の問いに触れる23頁冒頭記載なし

5 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
35判断枠組みを,権利の性質・判例・制度という事案の分析から理由付きで設定し,理由のない中間審査基準を置かない52頁(説得力ある判断枠組みを示して具体的に審査する),1頁⒝の段落1⑷
36参照すべき判例を想起し,汎用的な違憲審査基準だけで解決しない31頁「1.」(参照すべき判例を踏まえた論述)1⑶
37判例に言及し,どの判例かを特定できる形で示す3記載なし1⑵
38判断基準で挙げたキーワードを当てはめでも使い,基準と当てはめを一致させる3記載なし1⑸
39問題文の事情を写しただけで直ちに「重要」「合理的」と結論付けない2記載なし1⑹
40専門用語の誤字をしない1記載なし6

6 重みの分布

40項目の内訳は,重み5が6項目,重み4が4項目,重み3が15項目,重み2が11項目,重み1が4項目であり,重みの合計は117点である。

重み5の6項目は,施策①⒜の二元説(番号1),施策①⒝の平成17年大法廷判決と例外への該当性(番号14・16),施策②の「選挙のルール」論と実質的な内容規制(番号29・31)及び判断枠組みの設定(番号35)であり,いずれも出題の趣旨が検討の筋道として示し,かつ採点実感が特に取り上げた事項である。

第5 模範解答

以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したもので,字数は見出しを含めて約4700字である。

1 施策①⒜(投票の義務化)について

(1) 問題となる権利

憲法15条1項は公務員の選定を「国民固有の権利」とし,同条3項は成年者による普通選挙を保障する。
国会議員を選挙する権利は,国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として,議会制民主主義の根幹を成す(最大判平成17年9月14日民集59巻7号2087頁〔在外国民選挙権訴訟〕)。
問題は,選挙権に棄権の自由が含まれるかである。

選挙権を権利であると同時に公務でもあるとみる二元説に立ち,又は自由選挙の原則に任意投票を含めない立場に立てば,投票の義務化も許容され得る。
しかし,15条4項後段は「選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない」と定め,選挙が選挙人の自由な意思の表明によって行われるべきこと(自由選挙の原則)を示す。
投票するか否かの判断もこの意思形成の一部であり,支持すべき候補者がいないことを示す棄権は政治的意思の表明という側面も持つ。
したがって,自由選挙の原則は任意投票を原則とし,棄権の自由も同条1項・4項により保障されると解する。

(2) 制約の程度

⒜は投票を法的に義務付け,棄権の自由を制約する。
もっとも,投票の秘密(15条4項前段)が維持される以上,義務の内容は投票所で投票用紙を投函するという外形的行為にとどまり,白票も妨げられないから,選択の自由の核心は侵されない。
また,【資料】第1の1は違反に対する制裁を定めていない。

(3) 判断の枠組み

44条本文は選挙人の資格を,47条は投票の方法その他選挙に関する事項を法律で定めるとしており,選挙制度の形成は第一次的には国会の裁量に委ねられている。
⒜は選挙権の「行使」を制限するものではないから,平成17年判決の「やむを得ない事由」の基準は直ちに及ばない。
他方,⒜は自由選挙の原則の中核に関わるから,立法裁量も無限定ではない。
そこで,選挙人の自発的な意思形成が損なわれる程度と,議会制民主主義の基盤が差し迫って損なわれている程度とを比較し,義務化がその状況に対処するために合理的かつ必要な範囲にとどまるかによって判断すべきである。

(4) 当てはめ

国政選挙の投票率が近い将来30パーセントを下回ると予測され,多数の有権者の支持を受けていない議員が恒常的に出現すれば,「全国民を代表する」議員(43条1項)による議会制民主主義の前提そのものが揺らぐ。
平時の任意投票制は尊重すべきであるが,このようにひっ迫した状況に限っては,議会制民主主義の維持という憲法自体が予定する価値のために選挙人に参加を求めることにも正当な理由がある。

そして,投票を義務付ける国で高い投票率が維持されていることからすれば,義務化は投票率の向上に資する。
他方,義務の内容は外形的行為にとどまり,白票により選択の自由の核心は保たれ,制裁もないから,自発的な意思形成が損なわれる程度は小さい。
したがって,⒜は合理的かつ必要な範囲にとどまる。

これに対し,制裁のない義務は実効性を欠き,自由の制約だけが残るとの見解もあり得る。
しかし,制裁の当否は⒝で別途問題とすべきであり,⒜単独では,国家が主権者に参加を求める規範の定立として許容される。

(5) 結論

施策①⒜は,投票の秘密を維持し白票等の自由を妨げない限り,合憲である。

2 施策①⒝(国政選挙権の停止)について

(1) 判断の枠組み

⒝は,連続3回不投票の者から5年間国政選挙の選挙権そのものを奪うものであり,⒜の「投票しない自由」ではなく,普通選挙の保障(15条3項)の下での選挙権の行使そのものを制限する。

平成17年判決は,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,選挙権又はその行使を制限するためにはやむを得ないと認められる事由がなければならず,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,やむを得ない事由があるとはいえないとする。

これに対しては,選挙権の公務性を重視し,公務を3回怠った者の排除は44条の立法裁量の範囲内であるとの立場があり得る。
選挙犯罪者の選挙権停止を合憲とした最大判昭和30年2月9日刑集9巻2号217頁が,選挙の公正を阻害した者を選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保すると共に「本人の反省を促す」ことは相当であるとしたことを挙げ,⒝も同じ発想に立つと主張することが考えられる。

しかし,同判決は,選挙犯罪の処刑者が「現に選挙の公正を害したもの」であることを制限の基礎としており,「本人の反省を促す」ことも,選挙の公正を阻害した者であることを前提に,選挙の公正の確保と並べて述べられたものと解される。
また,投票率が著しく低下した状況では,棄権が民主主義を空洞化させ「選挙の公正」を脅かすとの見解もあり得る。
しかし,「選挙の公正」とは,選挙が買収等の不正なく選挙人の自由な意思に基づいて行われることをいうと解され,棄権は選挙権の保障の範囲内の行動である。
低投票率は民主的正統性の問題であって,個々の不投票が選挙の公正を害するものではない。
したがって,不投票者は「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に当たらず,⒝には平成17年判決の枠組みが妥当する。

(2) 当てはめ

Xが述べる⒝の意図は,選挙権の重要性を再認識させることであり,選挙の公正の確保とは無関係である。
選挙権を制限しなければ選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であるという事情はなく,「やむを得ない事由」は認められない。

目的を投票率の向上による民主的正統性の確保と捉え直しても,同様である。
第一に,停止された者は有権者から除外されるから,投票率の上昇は分母の縮小による見かけ上のものを含み,正統性の確保という目的からかえって遠ざかる。
第二に,世論調査で7割程度が「行く」と回答していることからすれば,停止の予告が投票率向上に一定の効果を持つことは認められる。
しかし,効果があることは制限が不可欠であることを意味せず,かえって残る約3割から多数の選挙権喪失者が生じ得るうえ,選挙権を失った者は選挙への関心自体を失いかねない。
第三に,諸外国では罰金を伴う強制投票制度により90パーセント程度の投票率が維持されている。
1回ごとの罰金が連続3回で初めて停止する⒝より常に軽いとは一概にいえないが,罰金は金銭的負担にとどまり次の選挙に参加できるのに対し,⒝は5年間国政に参加する機会そのものを奪うもので,不利益の質が異なる。
Xが挙げるペナルティ性や無責任投票の懸念は選挙権の停止にも同様に当てはまり,⒝を選ぶ理由にならない。

(3) 結論

施策①⒝は,やむを得ない事由なく選挙権を制限するものであり,15条1項・3項,43条1項及び44条ただし書に違反し,違憲である。

3 施策②(聴衆の不穏当な行為の禁止)について

(1) 問題となる権利

街頭演説の場で聴衆が大声で声援を送り,ヤジを飛ばし,プラカードを掲示することは,候補者及び周囲の聴衆に向けて政治的意見を表明する行為であり,表現の自由(21条1項)の保障を受ける。
とりわけ選挙の時期に,聴衆が候補者に直接意見を届け,その場で応答を求めることができる双方向性は,街頭演説でしか実現できない価値を持つ。
また,道路や広場などの街頭は表現の場として役立つ場所であり,その利用を制約する場合には表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要がある(最判昭和59年12月18日刑集38巻12号3026頁における伊藤正己裁判官の補足意見参照)。
他方,施策②が守ろうとするのは,演説をする候補者の選挙運動の自由と,他の聴衆が候補者の主張を聞く利益である。

(2) 判断の枠組み

施策②は,聴衆の声援,ヤジ,プラカードの掲示等そのものを禁止し,命令と刑罰をもって制止するものであるから,行動がもたらす弊害の防止の結果として表現が制約されるにすぎない間接的・付随的制約(最判昭和56年6月15日刑集35巻4号205頁参照)ではなく,表現行為に対する直接的制約である。
場所と時間の指定もこの性質を変えない。

Xの立場からは,施策②は表現内容に中立な規制であり,また,選挙運動においては各候補者が選挙の公正を確保するために定められたルールに従って運動するのであって,ルールの内容は立法政策に委ねられている範囲が広い(最判昭和56年7月21日刑集35巻5号568頁における伊藤正己裁判官の補足意見)として,合理的関連性で足りるとの主張が考えられる。

しかし,第一に,「選挙のルール」論は,候補者が公平な条件の下で競争するため選挙運動をする者に課されるルールを念頭に置くものであり,一般の有権者である聴衆の政治的表現を規制する施策②には射程が及ばない。
第二に,施策②は文言上は内容中立的であるが,中止命令は候補者陣営である主催者の要請に基づく。
主催者は支援者の声援を問題視せず,反対者のヤジやプラカードについてのみ要請する誘因を持つ。
Xは双方への命令の要請もあり得るとするが,それは主催者の任意の選択にとどまり,中立的な発動を担保する仕組みはない。
そうすると,施策②は候補者を支持しない見解の表明のみを国家の命令と刑罰によって排除し得るものであり,実質的には見解に基づく内容規制と同視すべきである。

したがって,施策②は,目的がやむにやまれぬ利益の実現にあり,手段がそのために必要最小限度のものである場合に限り合憲と解すべきである。

(3) 当てはめ

目的についてみると,演説の妨害は既に公職選挙法225条2号の選挙の自由妨害罪により処罰され,演説自体が継続されても聴衆がこれを聴き取ることを不可能又は困難にする所為は演説の妨害に当たる(旧衆議院議員選挙法115条2号に関する最判昭和23年12月24日刑集2巻14号1910頁)。
施策②が新たに対象とするのは,そこに至らず,演説者が「圧迫感を覚え、萎縮して演説を続けづらくなる」にとどまる行為である。
公開の場で政治的主張を訴える候補者は批判的な反応を当然に予定すべき立場にあり,批判には言論で応答するのが民主政の基本である。
選挙の自由妨害罪に至らない行為を規制しなければ候補者の主張の発信ができなくなるとはいえず,演説者の圧迫感からの保護は,やむにやまれぬ利益とはいえない。

仮に目的の重要性を認めても,手段は必要最小限度とはいえない。
第一に,肉声やプラカードで候補者に意思を伝えられる範囲はおおむね半径25メートル内にとどまり,30分以内の演説であれば演説全体にわたって聴衆の発言等を封じることができる。
演説中こそが候補者に直接意見を届けられるほぼ唯一の機会であり,場所・時間の限定は制約を実質的に弱めない。
第二に,段階的な命令手続や,罰金が5万円以下で選挙の自由妨害罪より大幅に軽いことは緩和事情ではあるが,退去命令は演説を聞く機会まで奪い,刑罰である以上萎縮効果も否定できない。
刑の軽重の比較は,妨害に至らない表現を処罰する必要性を基礎付けない。
第三に,主催者の要請要件を外し選挙管理委員会が支持・不支持を問わず中立に判断する仕組みとする,対象を拡声器の使用や物理的接近など内容と無関係な態様に限定するといった,より制限的でない手段がある。

(4) 結論

特定の見解に基づく言動のみを排除し得る仕組みの下の街頭演説は,議会制民主主義を支える健全な選挙運動とはいい難い。
施策②は,本法案骨子のままでは聴衆の表現の自由を過度に制約し,21条1項に反して違憲である。
上記の修正を加えれば,合憲とする余地がある。

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①デモ参加者の顔面被覆と匿名表現の自由―内容中立規制・萎縮効果・代替手段(AI作成)
②18歳未満の選挙運動禁止(公職選挙法137条の2)の国際比較-OECD38か国と東京地裁令和8年9月25日判決(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題(公法系科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(公法系科目)

2 法令

①日本国憲法(e-Gov法令検索)
②公職選挙法(e-Gov法令検索)

3 裁判例

①最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号,民集59巻7号2087頁)
②最高裁判所大法廷昭和30年2月9日判決(昭和29年(あ)第439号,刑集9巻2号217頁)
③最高裁判所第二小法廷昭和56年6月15日判決(昭和55年(あ)第874号,刑集35巻4号205頁)
④最高裁判所第三小法廷昭和56年7月21日判決(昭和55年(あ)第1472号,刑集35巻5号568頁)
⑤最高裁判所第三小法廷昭和59年12月18日判決(昭和59年(あ)第206号,刑集38巻12号3026頁)
⑥最高裁判所昭和23年12月24日判決(昭和23年(れ)第1324号,刑集2巻14号1910頁)

4 確認状態

出題の趣旨は,公法系科目第1問の部分を全て読み,法務省掲載のPDFとファイルサイズが一致することを確認した。

採点実感は,公法系科目第1問の部分を,全科目を収めたPDFで読んだ。
上記⑦の公法系科目のPDFとの対応は確認しておらず,本記事の採点実感の見出し番号は全科目版の記載による(採点実感の欄は頁を示さず見出し番号だけで示している)。

裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,引用した判示の文言を確認した。
上記⑥の判決は,同サイトの詳細画面の法廷名と判決書の署名の法廷名が一致しないため,法廷名を記載していない。

条文は,e-Gov法令検索で確認した。
公職選挙法225条の法定刑は,試験の実施前の令和7年6月1日に「拘禁刑」へ改められているが,模範解答は問題文の記載を前提としており,法定刑の文言には触れていない。