メインコンテンツへスキップ
       

18歳未満の選挙運動禁止(公職選挙法137条の2)の国際比較-OECD38か国と東京地裁令和8年9月25日判決(AI作成)

第1 この記事の対象と調査の基準日

1 対象・範囲・基準日

(1) 取り上げる問い

本記事は,18歳未満の者の選挙運動を禁止する公職選挙法137条の2について,同じような禁止規定がOECD(経済協力開発機構)の加盟38か国にあるかを比較するものである。
あわせて,令和8年9月25日に東京地方裁判所が同条1項を憲法21条1項に違反すると判断した判決の内容と,現時点での実務上の扱いを整理する。
18歳未満の者が選挙で何をしてよく,何をすると罰則の対象になり得るのかという問いに対しても,条文と所管行政機関の説明に即して答える。

(2) 調査の方法と基準日

調査の基準日は令和8年(2026年)9月25日である。
日本の法令はe-Gov法令検索の現行条文で確認し,外国の法令は,原則として各国の公式法令データベースに掲載された現行版を,「未成年」「18歳未満」等に当たる各国語で全文検索して確認した。
比較の対象は国の法令であり,州,カントン,自治体等の地方の法令や政党の規約は原則として含まない。
本記事は,生成AIを用いて各国の法令,裁判例,国会会議録及び判決書を調査し,記載内容を原資料と照合して作成した。

2 調査結果の要旨

(1) OECD加盟国の比較の結論

未成年者本人の選挙運動を一般的に禁止し,違反した未成年者本人も処罰の対象とする法律を持つ国は,OECD加盟38か国のうち日本と韓国だけであった。
他の36か国には,確認した国の法令の範囲で,そのような一般的な禁止規定は見当たらなかった。
ただし,宣伝物の配布者や投票所代理人など特定の役割に年齢要件を置く国(トルコ,ギリシャ,スペイン等),子どもを選挙宣伝に使うことを規律する国(イスラエル,メキシコ,ハンガリー等)及び未成年者の政治献金を規律する国(アメリカ,チリ,オランダ等)はある。
各国の未成年者の選挙運動禁止の有無を数え上げた比較資料は,調査した範囲では見当たらなかった。

(2) 東京地裁判決の結論

東京地方裁判所令和8年9月25日判決は,未成年者本人の選挙運動を禁止する公職選挙法137条の2第1項と,その違反に対する罰則及び公民権停止を,憲法21条1項に違反すると判断した。
他方で,未成年者を「使用して」選挙運動をすることを禁止する同条2項は合憲とし,原告らの請求はいずれも却下又は棄却した。
地方裁判所の判決であり,判決理由中の違憲判断が同条を一般的に無効とするものではないから,基準日現在,137条の2は効力を有する規定として扱うことになる。

第2 公職選挙法137条の2の内容

1 条文と罰則

(1) 条文

公職選挙法137条の2は,1項で「年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない。」と定め,2項で「何人も、年齢満十八年未満の者を使用して選挙運動をすることができない。ただし、選挙運動のための労務に使用する場合は、この限りでない。」と定める。
1項の名宛人は未成年者本人であり,2項の名宛人は未成年者を使用する者である。

(2) 罰則と公民権停止

137条の2に違反して選挙運動をした者は,1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処せられる(公職選挙法239条1項1号)。
罰金刑に処せられた者は,原則として裁判確定の日から5年間,拘禁刑に処せられた者は,原則として刑の執行を終わるまでの間及びその後5年間,選挙権及び被選挙権を有しない(同法252条1項,2項)。
ただし,裁判所は,情状により,刑の言渡しと同時に,これらの規定を適用しない旨又は期間を短縮する旨を宣告することができる(同条4項)。
公民権停止の仕組みと恩赦による回復については,「選挙違反者にとっての平成時代の恩赦―公民権回復の仕組みと実績(AIリライト)」で,公職選挙法違反事件の裁判については,「百日裁判事件(公職選挙法違反)」で扱っている。

(3) 少年である場合の手続

14歳に満たない者の行為は罰しない(刑法41条)。
14歳以上の少年の被疑事件は,捜査の後,家庭裁判所に送致され(少年法41条,42条),家庭裁判所が罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めたときに限り,検察官に送致される(同法20条1項)。
したがって,137条の2第1項に違反した未成年者が直ちに刑事裁判で刑を受けるわけではないが,条文上は処罰の対象とされている。

2 「選挙運動」の意味と総務省が示す実例

(1) 判例の定義

最高裁判所の判例は,公職選挙法における選挙運動とは,「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいう」としている(最高裁判所第一小法廷昭和52年2月24日判決(昭和49年(あ)第1709号,刑集31巻1号1頁))。
同判決は,この定義が最高裁判所第三小法廷昭和38年10月22日決定(昭和38年(あ)第984号,刑集17巻9号1755頁)の示すところであるとしている。
特定の候補者の当選を目的としない政治活動や,選挙に関する単なる意見の表明は,この定義に当たらない限り,137条の2の対象外である。

(2) 総務省事務連絡が整理した実例

総務省自治行政局選挙部選挙課は,令和5年3月1日付けで各都道府県選挙管理委員会事務局に宛てた事務連絡「候補者が自身のこどもを伴って行う活動について(年齢満18年未満の者の選挙運動の禁止)」で,それまでの実例を問答形式で整理している。
これは所管行政機関による実例の整理であり,個別の行為が同条に抵触するかは具体の事実関係に即して判断されるとされている。
主な問答は,次のとおりである。
①子どもが候補者やスタッフと単に一緒に歩くことは差し支えない(問1)。
②選挙運動用葉書の宛名書きや公営掲示板へのポスター貼りは,単純な機械的労務のみであれば差し支えない(問2)。
③街頭演説で子どもが与えられた原稿を機械的に読み上げること,選挙運動用自動車で候補者名を連呼することは,同条に抵触するおそれがある(問4,問7)。
④子どもが選挙運動に関する投稿をシェア又はリツイートすること,候補者の街頭演説の写真をSNSに掲載することは,一般的には選挙運動に当たるおそれがあり,同条に抵触するおそれがある(問9①,③)。
⑤「頑張ってください」等の単なる応援や,「賛成」「支持する」等の自身の意思表示にすぎないメッセージは,直ちには選挙運動に当たらないと考えられるが,個別具体の状況により選挙運動と認められる場合には,同条に抵触するおそれがある(問9②)。
⑥子どもと一緒に当選後の万歳をすることは差し支えない(問15)。

(3) 高校生向け副教材の説明

総務省と文部科学省が作成した高校生向け副教材『私たちが拓く日本の未来』の参考編「投票と選挙運動等についてのQ&A」は,候補者への投票を呼びかけるチラシを配ることは,他の者から指示されたとおりに機械的に行ったとしても一般的には選挙運動になるので,満18歳未満の者が行うことは禁止されると説明している(99頁)。
同じ参考編は,ウェブサイト等を利用する選挙運動のうち,選挙運動メッセージの書込みや,他人の選挙運動メッセージのSNSでの拡散について,満18歳未満の者はできないと図示している(100頁)。

3 昭和27年の新設と平成27年の改正

(1) 昭和27年の新設

137条の2は,昭和27年8月16日法律第307号(公職選挙法の一部を改正する法律)により,「未成年者の選挙運動の禁止」の見出しで新設された。
新設時の年齢は「年齢満二十年未満」であり,同じ改正で,239条1号の罰則の対象に同条違反が加えられた。
同じ改正法は,連呼行為の制限や戸別訪問の全面禁止も定めており,137条の2は,選挙運動の規制を広く強化した改正の一部として導入された規定である。

(2) 本人処罰に至った国会審議

昭和27年6月4日の衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会で,衆議院法制局の三浦義男参事は,未成年者が自発的に選挙運動をする場合について,「未成年者が自発的にやる場合については、この法律で制限する範囲ではない、かように考えております。」と答弁した。
ところが,同じ委員会で,小澤佐重喜委員長は,法制局では自発的に未成年者が行った場合には罰しない趣旨で規定ができていたと説明しつつ,委員の意向を受けて,「かりに警察官がこれを取締ることが可能であるということだけでも相当の効果があるという趣旨で、(中略)多少理論的には変であるけれども、未成年者も罰する、取締るということで進むことにしていかがですか。使用者も罰する。」と委員会に諮り,異議なしとされた。
昭和27年7月14日の参議院地方行政委員会では,小澤佐重喜衆議院議員が,選挙権を行使できない者は選挙運動を禁止したほうがよいという意見が出たこと,ただし選挙事務所でのお茶くみや郵便を出しに行くといった単純な労務は未成年者でも差し支えないことを説明した。
同じ委員会で,三浦参事は,前回の地方選挙等で未成年者の選挙運動による相当の弊害が現れたという意見が出ており,連呼行為や「人海戦術」と裏腹の問題であることを説明している。

(3) 平成27年の年齢引下げ

平成27年法律第43号により,選挙権年齢が満20年以上から満18年以上に引き下げられ,137条の2の年齢も満20年未満から満18年未満に改められた(平成27年6月19日総行選第42号総務大臣通知)。
改正法は平成28年6月19日に施行され,施行日後初めて公示される国政選挙の公示日以後に公示又は告示される選挙から適用された。

4 裁判所ウェブサイトで確認できる刑事事件

(1) 確認できた4件

裁判所ウェブサイトの検索で確認できた137条の2違反の刑事事件は4件であり,いずれも未成年者を「使用して」選挙運動をした者(同条2項違反)の事件であった。
①大阪高等裁判所平成4年6月26日判決(平成2年(う)第966号,高刑集45巻2号43頁)
②東京地方裁判所平成13年10月25日判決(平成13年特(わ)第3174号)
③横浜地方裁判所平成13年10月23日判決(平成13年(わ)第1989号)
④名古屋地方裁判所平成13年10月30日判決(平成13年(わ)第1899号)
同じ検索の範囲では,未成年者本人が同条1項違反で処罰された裁判例は見当たらなかった。
裁判所ウェブサイトに掲載されていないことは,そのような事件が存在しないことを意味しない。

(2) 大阪高裁平成4年判決の説明

大阪高等裁判所平成4年6月26日判決は,137条の2第2項ただし書の「選挙運動のための労務に使用する場合」に当たらないとした事例である。
同判決は,同条2項を,投票権がなく社会性も未熟な未成年者を巻き込ませないことが望ましいとする考え方を背景として,選挙運動のあり方に一定の自制的ルールを設定した立法と解している。
その上で,量刑不当を理由に原判決を破棄して罰金5万円とし,公民権停止の期間を1年に短縮した。

第3 OECD加盟38か国の比較

1 調査の方法と限界

(1) 対象国と対象法令

OECDの公式サイトで,基準日現在の加盟国が38か国であることを確認した。
各国の選挙法,政党法,政治資金法及び選挙に関する規定を含む児童保護法を対象とし,未成年者本人の選挙運動の禁止,未成年者を選挙運動に使用し又は参加させることの禁止,選挙権年齢及び未成年者の政治献金に関する規律を確認した。
本記事では,各国の規律を,①未成年者本人の選挙運動を一般的に禁止する国,②特定の役割・行為等について年齢等の要件を置く国,③子どもを選挙宣伝に使うことを規律する国,④未成年者の政治献金を規律する国,⑤年齢による規律の見当たらない国の5つに整理する。

(2) 調査の限界

「規定が見当たらない」とは,確認した国の法令の全文検索で該当規定が見つからなかったという意味であり,規定が存在しないことの証明ではない。
ベルギー,チェコ,ハンガリーの一部の法令は,公式データベースに機械的に接続できず,非公式の法令集や公的機関の統合版で確認している。
フランスの選挙法典は,公式データに基づく複製版で全文検索した。

2 本人の選挙運動を一般的に禁止する国―日本と韓国

(1) 韓国の規定

韓国の公職選挙法60条1項2号は,「未成年者(18歳未満の者をいう。)」を選挙運動をすることができない者と定める。
違反して選挙運動をし,又は「させた」者は,3年以下の懲役又は600万ウォン以下の罰金に処せられ(同法255条1項2号),日本の137条の2第2項ただし書のような「労務」の例外はない。
1994年の制定時は単に「未成年者」と定めており(当時の民法の成年年齢により20歳未満),2005年に「19歳未満」,2020年に「18歳未満」と改められた。
韓国では2022年に政党の党員となれる年齢が16歳に引き下げられ(政党法22条1項),18歳未満の者は入党申請に法定代理人の同意書を添付する(同法23条1項)。
また,党員だけを対象とする党内予備選挙では,党員となることができる者は18歳未満でも予備選挙の運動をすることができる(公職選挙法57条の6第1項ただし書)。
韓国の司法制度一般については,「日本と韓国の司法制度の徹底比較――法曹一元化,上告審の負担及び国民の刑事裁判参加(AI作成)」で扱っている。

(2) 韓国憲法裁判所の2つの決定

韓国の憲法裁判所は,この禁止規定を2度にわたり合憲としている。
2014年4月24日の決定(2012헌마287)は,当時の19歳未満の選挙運動禁止が選挙運動の自由を侵害しないとした(6対3)。
3人の裁判官は,18歳の者に適用される限りで違憲であるとする反対意見を述べている。
2024年5月30日の決定(2020헌마1743)は,18歳未満の選挙運動禁止について,単純な意見表明等は制限されていないこと,18歳になれば選挙運動の自由を行使できること,選挙運動の自由は選挙権行使の前提であることなどを理由に,選挙運動の自由を侵害しないとした(7対2)。
2人の裁判官は,16歳から党員になれるとしながら政党活動の核心である選挙運動を禁止するのは法律間の整合性を欠き,16歳以上18歳未満の者の選挙運動の自由を侵害するとする反対意見を述べている。

3 特定の役割・行為等について年齢等の要件を置く国

(1) トルコ

トルコの選挙の基本規定及び選挙人名簿に関する法律(298号法)57条の最終段は,同条に定める宣伝用の出版物又は物品を配布する者は18歳に達していなければならないと定める。
この年齢要件は2010年の改正で設けられたものであり,宣伝物の配布に限った規定で,これに対応する固有の罰則も見当たらない。

(2) ギリシャとスペイン

ギリシャの国会議員選挙法の法典化大統領令(26/2012)41条は,政党・候補者の投票所代理人,その代行者等に,一定の公務員,軍人,宗教者等と並んで未成年者を任命することができないと定める。
ギリシャの選挙権年齢は17歳である。
スペインの選挙制度組織法(LOREG)76条1項は,候補者団体が選任する代理人(apoderado)を成年者に限っている。

(3) リトアニア

リトアニアの選挙法典は,2026年9月1日に施行された改正により,資金や有償のサービスを用いた選挙運動を,選挙運動の参加者等と登録された「利害関係者」に限った(93条4項)。
このうち「利害関係者」は,その選挙で選挙権を有する者でなければならない(103条1項)。
また,選挙監視人は有権者に限られている(92条1項)。
いずれも,未成年者が個人として無償で選挙運動をすることを禁止する規定ではない。

(4) コスタリカ

コスタリカの児童青少年法典は,未成年者は政治的権利を除く権利を享有するとし(10条),未成年者の結社の自由から「政治目的」を除外している(18条)。
ただし,個人としての選挙運動を禁止する規定ではなく,罰則もない。

4 子どもを選挙宣伝に使うことを規律する国

(1) イスラエル

イスラエルの選挙(宣伝方法)法2条ג(2C)は,15歳未満の子どもを選挙宣伝に参加させてはならないと定め,日常の活動の中で子どもが写っている写真や録画を宣伝に用いることを除いている。
2000年の制定時は親の書面による同意がなければ参加させてはならないとされていたが,同じ日に成立した別の改正法で同意の部分が削除され,同意があっても許されない規定となった。
同法の違反は,6か月以下の拘禁刑又は罰金の対象とされている(17条)。
条文の文言上,この規定は子どもを宣伝に参加させる側を規律するものと読め,15歳以上18歳未満の者は対象外である。

(2) メキシコ

メキシコの連邦の選挙法(2024年10月の改正時点の統合版)には明文の規定はないが,国家選挙機関(INE)の指針(2017年に制定され,2019年のINE/CG481/2019で改正されたもの)が,政党,候補者等に対し,宣伝に未成年者を登場させる場合の両親の書面による同意,子ども本人への説明と意見の聴取,同意がない場合の画像のぼかし等を義務付けている。
同指針は,未成年者が選挙に関する活動に参加すること自体を禁止するものではない。
2026年9月3日には,AI等で作成・編集された未成年者の画像の規律を加えた改定(INE/CG527/2026)が承認されたが,基準日現在,官報掲載による発効の有無は確認できていない。

(3) ハンガリー

ハンガリーの最高裁判所(クーリア)は,2026年3月27日の決定(Kvk.III.39.071/2026/9)で,ハンガリーには子どもを選挙運動に用いることを一般的に禁止する法律の規定はないことを認めた。
その上で,幼い子どもを中心に据えた選挙動画・写真を公開した与党連合の名簿の候補者について,選挙手続法2条1項c号の基本原則(候補者間の機会均等)に違反するとし,同様の行為を禁止した。
同決定は,子どもを選挙運動の目的に用いてはならないとする従来の実務と,これに言及したハンガリー憲法裁判所の2019年の決定を踏まえたものである。

(4) コロンビア

コロンビアの国家選挙評議会(CNE)は,2021年9月,選挙運動や政党が未成年者の画像を選挙宣伝に用いる場合のルールを定め,親の事前の承諾が必要であると公表している。
ただし,決議の本文は確認できていない。

5 未成年者の政治献金を規律する国

(1) アメリカ

アメリカの連邦法は17歳以下の者の政治献金を禁止していたが,連邦最高裁判所は,2003年の判決で,未成年者も合衆国憲法修正1条(表現の自由等)の保護を受けるとして,この禁止を違憲とした。
現在は,連邦選挙委員会の規則により,献金が本人の意思によるものであること,本人の資金であること等を条件として,未成年者の献金が認められている。

(2) チリ,オランダ,アイスランド,アイルランド,イギリス

チリは,選挙運動への寄付を18歳以上の者に限っている。
オランダは,政党等が寄付を受けられる個人を下院の選挙権を有する者等に限っており,結果として18歳未満の者からの寄付は受けられないと解される。
アイスランドは,政党等が個人から受けられる寄付を,行為能力者(18歳以上)からのものとして定めている。
アイルランドは,政党が18歳未満の者から宝くじの賭け金を受け取ることを禁止している。
イギリスでは,選挙人名簿に登録された個人であれば寄付をすることができ,現行法上,名簿に登録された16歳・17歳の者も寄付をすることができるが,選挙権年齢を16歳に引き下げるとともに16歳未満の者からの寄付を禁止する法案が審議中である(基準日現在,法律として成立していない。)。

6 年齢による規律の見当たらない国と比較表

(1) 年齢による規律の見当たらない国

オーストラリア,オーストリア,ベルギー,カナダ,チェコ,デンマーク,エストニア,フィンランド,フランス,ドイツ,イタリア,ラトビア,ルクセンブルク,ニュージーランド,ノルウェー,ポルトガル,スロバキア,スウェーデン及びスイスの19か国では,確認した国の法令の範囲で,選挙運動や政治献金についての年齢による規律は見当たらなかった。
ポーランドの選挙法典106条1項は「すべての有権者」が選挙運動をすることができると定めるが,未成年者を明示的に禁止する規定や罰則はなく,国家選挙委員会の解釈も見当たらなかった。
スロベニアの選挙運動法3条1項は,選挙運動の組織者となり得る者として選挙権を有する市民等を挙げるが,この要件が選挙の場合の個人にどこまで及ぶかは明らかでない。

(2) 比較表

次の表は,以上の結果を一覧にしたものである。
「その他18か国」は,(1)に掲げた19か国のうちオーストリアを除く国である。

国本人の選挙運動の一般的禁止関連する年齢規律選挙権年齢
日本あり(18歳未満。本人も処罰。労務の例外あり)使用禁止(137条の2第2項)18
韓国あり(18歳未満。本人も処罰。労務の例外なし)党員は16歳から。党員限定の予備選挙は例外18
イスラエルなし15歳未満を宣伝に参加させることの禁止(罰則あり)18
トルコなし宣伝物の配布者は18歳以上18
ギリシャなし投票所代理人等に未成年者を任命できない17
スペインなし候補者団体の代理人は成年者18
ハンガリーなし子どもを中心に据えた選挙動画を違法とした決定(2026年)18
メキシコなしINEの指針(宣伝への登場に親の同意等)18
コロンビアなしCNEの未成年者画像のルール(本文未確認)18
リトアニアなし資金を用いた運動の利害関係者・選挙監視人は有権者18
コスタリカなし未成年者の政治目的の結社を除外18
ポーランドなし「すべての有権者」が選挙運動できるとの規定18
スロベニアなし選挙運動の組織者の資格(解釈未確定)18
アメリカなし未成年者の献金禁止は違憲(2003年)18
チリなし選挙運動への寄付は18歳以上18
オランダなし未成年者からの寄付は受領不可(解釈)18
アイスランドなし個人からの寄付は行為能力者から18
アイルランドなし未成年者からの宝くじ賭け金の受領禁止18
イギリスなし16歳未満の寄付禁止等の法案が審議中18(スコットランド・ウェールズの自治議会等は16)
オーストリアなし―16
その他18か国なし―18(エストニアの地方選挙,ドイツ・ベルギーの欧州議会選挙,スイスのグラールス州の選挙は16)

第4 東京地裁令和8年9月25日判決

1 事件の概要と主文

(1) 当事者と請求

事件は,東京地方裁判所令和7年(行ウ)第91号未成年者選挙運動禁止規定違憲確認等請求事件である。
担当は東京地方裁判所民事第2部であり,裁判体は衣斐瑞穂裁判長,中村英晴裁判官及び落合沙紀裁判官である。
原告は4人(報道によれば,提訴時にはいずれも高校生),被告は国である。
原告らは,137条の2並びにその違反に対する罰則(239条1項1号)及び公民権停止(252条)が憲法21条1項及び31条に違反すると主張して,口頭弁論終結時に未成年者であった原告について次回選挙で選挙運動をすることができる地位にあることの確認等を求めるとともに,原告ら全員について国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。

(2) 主文

主文は,次のとおりである。
①本件訴えのうち,地位確認を求める部分及び違法確認を求める部分をいずれも却下する。
②原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
③訴訟費用は,原告らの負担とする。
確認の訴えは,どの選挙で,どの候補者のために,どのような選挙運動を行うのかが具体化されていないとして,即時確定の利益を欠き不適法とされた。

2 137条の2第1項を違憲とした理由

(1) 判断枠組み

判決は,表現の自由が民主主義社会を基礎付ける重要な権利であることから,未成年者の選挙運動の禁止は,必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきであるとした。
その上で,規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは,規制の目的のために規制が必要とされる程度と,規制される自由の内容及び性質,具体的な規制の態様及び程度等を較量して決すべきであるとした。
この枠組みについて,判決は,最高裁判所大法廷昭和58年6月22日判決(昭和52年(オ)第927号,民集37巻5号793頁)及び最高裁判所第二小法廷平成24年12月7日判決(平成22年(あ)第762号,刑集66巻12号1337頁)を参照している。

(2) 目的と規制の必要性

判決は,同項の目的を,選挙の公正の確保と,選挙運動への参加により生ずるとされる弊害からの未成年者の保護であると認定した。
選挙の公正については,連呼行為や人海戦術による弊害は未成年者が参加する場合に限られず,それ自体を規制すべきであること,公職選挙法は既に連呼行為等を規制していること,立法時に未成年者の参加自体によりどのような弊害が生ずるのかについて具体的な検討がされたとは認め難いことから,規制の必要性は高くないとした。
選挙権がないことについても,公職選挙法は選挙権の有無だけを基準に選挙運動を禁止しているわけではないとして,一律禁止の根拠とはし難いとした。
未成年者の保護については,不当と評価される態様の選挙運動や動員を規制すべきであり,学業への支障を理由に,未成年者が自らの関心や価値判断に基づいて選挙運動に参加すること自体を禁止する実質的根拠は見いだし難いとした。

(3) 制約の程度と結論

判決は,同項が表現の自由に対する直接の制約であり,未成年者は一切の選挙運動を禁止されるから,未成年者が選挙権を持たないこと,規制が成年に達するまでの期間に限られること,選挙運動以外の政治活動は禁止されないことを考慮しても,制約の程度は大きいとした。
そして,選挙の公正の確保や未成年者の保護という目的は,2項の使用禁止規定,教育者の地位を利用した選挙運動の禁止(公職選挙法137条)及び連呼行為の禁止(同法140条の2)等に準じた,弊害に対応する個別的な規定を設けることにより達成できるとして,同項を憲法21条1項に違反するとした(判決書53頁)。

(4) 罰則と公民権停止

判決は,1項が違憲である以上,その違反を理由とする罰則(239条1項1号)及び公民権停止(252条)も憲法21条1項に違反するとした。
加えて,選挙運動そのものは社会的非難を受けるべき行為ではない上,未成年者の保護を目的とする規定の実効性を担保するために保護の対象とすべき未成年者を処罰することは,およそ合理性を欠くとした(判決書53頁)。

3 第2項を合憲とした理由と国家賠償の判断

(1) 使用禁止規定

判決は,未成年者が親権者等の意思決定に影響力を有する立場の者により,その意に沿わない選挙運動に従事させられる蓋然性があることは明らかであり,未成年者を選挙運動に使用することを一律に禁止する必要性は高いとした。
他方で,2項は未成年者を使用しようとする第三者を規制するものであり,未成年者が受ける制約は反射的な効果にすぎず,自ら選挙運動を行うことやインターネットで情報を発信することは妨げられないから,制約の程度は低いとして,同項を合憲とした。
2項の違反を理由とする罰則等についても,憲法21条1項及び31条に違反しないとした(判決書56頁)。

(2) 国家賠償

判決は,立法の内容又は立法不作為が憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合などに限り,国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるとした最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号ほか,民集59巻7号2087頁)を引用した(判決書56頁)。
その上で,立法当時,国会で未成年者を選挙運動に利用する弊害が繰り返し指摘され,地方の選挙関係者の大多数から同旨の規定を求める意見があったこと,未成年者の権利に対する意識の向上や憲法学説の進展は,児童の権利に関する条約(平成元年採択,平成6年日本批准)に代表されるように相当期間が経過してからのことであること,その後に国会で規定の適否が具体的に検討されたことはなく,規定の憲法適合性を明示的に判断した裁判例もなかったことから,違憲であることが明白であったとはいえないとした。
判決は,未成年者に制裁を科すことの不合理性が審議過程で意識されていたとみることもできるとしつつ,立法目的に選挙の公正の確保も含まれていたことなどから,制裁規定を設けたことが違法であることが明白であったとまではいえないとしている。

4 韓国の憲法裁判所との違いと比較法の読み方

(1) 判断の分かれ目

韓国の憲法裁判所は,選挙運動の自由は選挙権行使の前提であるとして,選挙運動ができる年齢を選挙権年齢と一致させることを不合理ではないとした。
これに対し,東京地方裁判所は,公職選挙法が選挙権の有無だけを基準に選挙運動を禁止しているわけではないとして,選挙権がないことを一律禁止の根拠としなかった。
判決書を見る限り,判決は外国法には言及していない。
判決が未成年者本人の禁止(1項)を違憲とし,未成年者を使う側の禁止(2項)を合憲と切り分けた点は,イスラエル,メキシコ,ハンガリー等に見られる子どもを選挙に使う側を規律する方法に近いと考えられる。

(2) 比較法を評価する際の注意

北欧5か国やドイツ,オーストリア,エストニア等では,選挙法上の選挙運動の規制は,投票所付近での運動の禁止などに限られている。
これに対し,日本の公職選挙法は,戸別訪問の禁止や文書図画の規制など選挙運動そのものを広く規制する法制であり,最高裁判所も戸別訪問の禁止を合憲としている(最高裁判所第二小法廷昭和56年6月15日判決(昭和55年(あ)第874号,刑集35巻4号205頁))。
そのため,他国に未成年者の選挙運動禁止がないことは,他国が未成年者の選挙運動を特に保障していることを直ちに意味するものではなく,選挙運動の規制の在り方そのものの違いを反映している面がある。
また,韓国の憲法裁判所は2度にわたり禁止規定を合憲としており,比較法だけから日本の規定の合憲性の結論を導くことは難しいと考えられる。

第5 現時点の実務上の扱い

1 地裁判決後の137条の2の効力

(1) 判決の効力と控訴

地方裁判所の判決理由中の違憲判断は,法律の規定を一般的に無効とするものではない。
国は主文ですべての請求について勝訴しているから,一般には,国が控訴する利益はないと解される。
原告ら側が控訴するかどうか,控訴審がどのような判断をするかは,基準日現在確認できていない。
控訴期間は,電子判決書等の送達を受けた日から2週間の不変期間である(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法285条)。

(2) 当面の対応

選挙の現場では,当面,137条の2が効力を有することを前提として対応することになる。
18歳未満の者が選挙に関わる場合は,特定の候補者の当選を目的としない政治活動や単なる意思表示にとどまるか,選挙運動に当たるかを,前記の総務省の問答に照らして確認することになる。

2 使用する側の責任は判決後も変わらない

東京地方裁判所の判決も,未成年者を使用して選挙運動をすることを禁止する2項を合憲としており,裁判所ウェブサイトで確認できた刑事事件もすべて2項違反の事件である。
「労務」の例外は単純な機械的労務に限られ,チラシ配りのように投票の呼びかけを伴う行為は,指示どおり機械的に行ったものでも選挙運動に当たり得る。
候補者や陣営が子どもや18歳未満のボランティアを関与させる場合には,役割が単純な機械的労務にとどまるかを個別に確認することが考えられる。

3 今後確認する事項

今後の確認対象は,次のとおりである。
①本判決の控訴の有無及び控訴審の判断
②国会における137条の2の改正の動き
③メキシコの国家選挙機関の新指針の発効,イギリスの選挙権年齢引下げ法案,リトアニアの新制度の運用等の外国の法改正の動き

第6 出典・参考資料

1 法令

①公職選挙法(昭和25年法律第100号)9条・137条・137条の2・140条の2・239条・252条(e-Gov法令検索。令和8年法律第27号による改正(令和8年9月3日施行)後の現行版)
②刑法(明治40年法律第45号)41条(e-Gov法令検索)
③少年法(昭和23年法律第168号)20条・41条・42条(e-Gov法令検索)
④民事訴訟法(平成8年法律第109号)285条(e-Gov法令検索)
⑤行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)7条(e-Gov法令検索)
⑥公職選挙法の一部を改正する法律(昭和27年8月16日法律第307号)(衆議院ウェブサイト)

2 裁判例

①東京地方裁判所令和8年9月25日判決(令和7年(行ウ)第91号。裁判所HP未掲載。原告側支援団体がCALL4に掲載した判決書の写し及び判決要旨の写しにより確認)
②最高裁判所第三小法廷昭和38年10月22日決定(昭和38年(あ)第984号,刑集17巻9号1755頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所第一小法廷昭和52年2月24日判決(昭和49年(あ)第1709号,刑集31巻1号1頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁判所第二小法廷昭和56年6月15日判決(昭和55年(あ)第874号,刑集35巻4号205頁,裁判所ウェブサイト)
⑤最高裁判所大法廷昭和58年6月22日判決(昭和52年(オ)第927号,民集37巻5号793頁,裁判所ウェブサイト)
⑥最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号ほか,民集59巻7号2087頁,裁判所ウェブサイト)
⑦最高裁判所第二小法廷平成24年12月7日判決(平成22年(あ)第762号,刑集66巻12号1337頁,裁判所ウェブサイト)
⑧大阪高等裁判所平成4年6月26日判決(平成2年(う)第966号,高刑集45巻2号43頁,裁判所ウェブサイト)
⑨東京地方裁判所平成13年10月25日判決(平成13年特(わ)第3174号,裁判所ウェブサイト)
⑩横浜地方裁判所平成13年10月23日判決(平成13年(わ)第1989号,裁判所ウェブサイト)
⑪名古屋地方裁判所平成13年10月30日判決(平成13年(わ)第1899号,裁判所ウェブサイト)

3 国会会議録

①第13回国会衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会議録第4号(昭和27年6月4日。三浦義男衆議院法制局参事の答弁(発言番号30)及び小澤佐重喜委員長の発言(発言番号33)。国立国会図書館国会会議録検索システム)
②第13回国会参議院地方行政委員会会議録第60号(昭和27年7月14日。小澤佐重喜衆議院議員の説明(発言番号76)及び三浦義男衆議院法制局参事の説明(発言番号90)。国立国会図書館国会会議録検索システム)

4 所管行政機関の通知・事務連絡・解説資料

①総務大臣「公職選挙法等の一部を改正する法律の施行について(通知)」(平成27年6月19日総行選第42号)
②総務省自治行政局選挙部選挙課「候補者が自身のこどもを伴って行う活動について(年齢満18年未満の者の選挙運動の禁止)」(令和5年3月1日事務連絡)
③総務省・文部科学省『私たちが拓く日本の未来』参考編「投票と選挙運動等についてのQ&A」98頁~100頁(PDF7頁~9頁)

5 外国の法令・裁判例・公的資料

①OECD「Members and partners」
②韓国・公職選挙法60条及び255条(国家法令情報センター。2026年4月22日施行の法律第21577号による改正後の版)
③韓国・憲法裁判所2024年5月30日決定(2020헌마1743)(国家法令情報センター)
④韓国・憲法裁判所2014年4月24日決定(2012헌마287)(国家法令情報センター)
⑤トルコ・298号法(大統領府法令情報システム)
⑥イスラエル・選挙(宣伝方法)法の改正法(2000年改正第18号,同日の削除改正,2002年改正第22号。いずれもクネセト掲載の法令集)
⑦ギリシャ・大統領令26/2012(ギリシャ議会ウェブサイト掲載の官報)
⑧スペイン・選挙制度組織法(LOREG)(官報BOEの統合版)
⑨リトアニア・選挙法典(国会法令データベースの統合版。2026年9月2日からの版)
⑩コスタリカ・児童青少年法典(法律第7739号)(法令情報システムSINALEVI)
⑪ハンガリー・クーリア2026年3月27日決定(Kvk.III.39.071/2026/9)(クーリアウェブサイト)
⑫メキシコ・国家選挙機関の決議(INE/CG481/2019の指針,INE/CG527/2026。国家選挙機関の文書庫)
⑬コロンビア・国家選挙評議会の発表(2021年9月14日)
⑭ポーランド・選挙法典(Dz.U. 2025 poz. 365)
⑮スロベニア・選挙及び国民投票運動法(法令情報システムPISRS)
⑯アメリカ・McConnell v. Federal Election Commission, 540 U.S. 93 (2003)(合衆国判例集)及び11 CFR 110.19(連邦規則集)
⑰チリ・政令第3号(2017年。選挙費用の透明性等に関する法律の統合版)10条(国会図書館LeyChile)
⑱オランダ・政党資金法(2026年6月6日からの版)
⑲アイスランド・政治団体の財務等に関する法律(2006年法律第162号)7条
⑳アイルランド・2022年選挙改革法206条(法改正委員会の改訂版)
㉑イギリス・Representation of the People Bill(議会ウェブサイト)及びPolitical Parties, Elections and Referendums Act 2000 s.54

6 報道・その他

①朝日新聞「18歳未満の選挙運動、一律の禁止は『憲法違反』と判決 東京地裁」(令和8年9月25日,Yahoo!ニュース配信)
②CALL4「『18歳未満にも選挙で応援する自由を』訴訟」(原告側支援団体による訴訟記録の公開ページ)