第1 この記事が扱う対象
1 比較の対象と時点
本記事は,2026年8月現在の日本と韓国の司法制度を,裁判官の任用制度,裁判官の人事構造,最高裁判所(大法院)の規模,国民の刑事裁判参加及び違憲審査制度の5つの場面に絞って比較するものである。韓国側の記述は,韓国国家法令情報センター(국가법령정보센터)に掲載された法院組織法,国民の刑事裁判参加に関する法律,各級法院判事定員法及び憲法裁判所法の現行条文並びに改正理由,憲法裁判所の決定,大法院法院行政処『2025 사법연감』(司法年鑑),司法政策研究院の研究報告書並びに大韓民国国会の議案情報システム及び会議録によって確認した。日本側の記述は,e-Gov法令検索の現行条文,裁判所ウェブサイト掲載の裁判例及び最高裁判所『裁判所データブック2026』によって確認した。生成AIを用いて,これらの一次資料を1件ずつ照合して構成した。
韓国の司法制度をめぐっては,「法曹一元化を採用した」という紹介がしばしば見られる。しかし,本記事が確認したとおり,韓国の法院組織法は2011年に判事任用の最小法曹経歴を10년(10年)とする改正を行いながら,その後2度の延期を経て2024年10月16日改正で本則を5년(5年)に改め,10年という数字自体は条文から姿を消している。この経過を法制処が公表する改正理由の逐語によって時系列で示すことが,本記事の中心的な資料価値の一つである。
2 既存記事との役割分担
最高裁判所に対する司法行政文書開示請求により開示された「諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表)」を出発点として日本の司法制度の特徴を確定した記事については,外国の司法制度と比べた日本の司法制度の特徴――米英独仏豪加との比較でみる構造,法曹人口及び裁判例を参照されたい。同対照表は米英独仏豪加の7か国を対象とし,韓国を含んでいない。本記事は,同対照表によらず,韓国側の一次資料に直接当たることで,同記事が扱わなかった韓国との比較を独立に行うものである。
日本国内における法曹一元をめぐる議論の経緯については法曹一元で,日本の最高裁判所裁判官15人の任命・定年・国民審査については最高裁判所裁判官とは|現職15人の一覧・任命・定年・国民審査で,それぞれ整理している。
第2 裁判官の任用制度――韓国の法曹一元化は実現していない
1 現行の任用資格
法院組織法42条2項は,판사(判事)の任用資格について,「판사는 5년 이상 제1항 각 호의 직에 있던 사람 중에서 임용한다」と定める。すなわち,2021年12月21日改正及び2024年10月16日改正を経た現行条文は,判事の任用に必要な最小法曹経歴を5年としている。同条の3第1項は,42条1項各号の在職期間を合算して10年未満の判事は,弁論を開いて判決する事件について単独で裁判することができないと定め,同条2項は,同項の判事は合議部の裁判長になることができないと定める。任用資格そのものを5年に緩和する一方で,在職期間が10年に満たない判事の職務権限を制限するという形で,これを補っていることになる。
日本の裁判所法42条1項は,高等裁判所長官及び判事の任命資格として,判事補,簡易裁判所判事,検察官,弁護士,裁判所調査官・司法研修所教官・裁判所職員総合研修所教官並びに大学の法律学の教授又は准教授の職に通算10年以上在職した者と定める。他方,同法43条は「判事補は,司法修習生の修習を終えた者の中からこれを任命する。」と定め,判事補についてはこの限定を置かない。日本弁護士連合会が弁護士任官の推進に関するウェブサイトで説明するとおり,日本の裁判官は司法修習を終えて直ちに判事補に任官し,多くがそのまま10年後に判事となる運用が続いており,裁判所法42条1項が定める10年以上の在職要件は,判事補としての在職年数によって満たされるのが通例である。
2 2011年の原設計と13年の経過
韓国が現行の5年という要件に至るまでの経過は,法制処が公表する改正理由(제정・개정이유)の逐語で確認できる。2011年7月18日法律第10861号は,判事任用の最小法曹経歴を本則で10年とする一方,附則2条で経過措置を置き,2017年までは3年,2019年までは5年,2021年までは7年とする段階的な施行を定めた。その後の改正理由は,この原設計について,「이 법 개정(법률 제10861호, 2011. 7. 18. 공포, 2013. 1. 1. 시행)으로 판사 임용을 위한 최소 법조경력을 10년으로 하되, 부칙 제2조에서 최소 법조경력을 2017년까지는 3년, 2019년까지는 5년, 2021년까지는 7년으로 하여 전면적 법조일원화가 단계적으로 시행될 수 있도록 경과규정을 두었으나, 2015년 이후에 배출될 신규 인력이 2018년부터 2021년까지 경과규정이 요구하는 5년과 7년의 최소 법조경력을 갖출 수 없어 판사로 임용될 수 없게 됨으로써 전면적 법조일원화의 단계적 이행에 어려움이 있는바, 판사 임용에 필요한 최소 법조경력 5년의 이행기를 2021년까지로, 최소 법조경력 7년의 이행기를 2025년까지로 연장하여 법관의 원활한 수급을 도모하는 한편, …」と振り返っている。新規に輩出される法曹人材の数が経過規定の要求する経歴年数を満たせず判事になれないという,法曹一元化の段階的移行そのものに内在する需給の問題が,早い段階から表れていたことになる。この2021年12月の延期に先立つ2021年8月31日,最小法曹経歴を10年から5年に改める趣旨の法院組織法改正案が,国会本会議で在席229人のうち賛成111人・反対72人・棄権46人により否決されている。可決に必要な出席議員の過半数(115票)に4票足りなかった。同日の本会議で改正案への賛成討論に立った議員は,現行法を維持すれば7年経歴要件が適用される2022年から4年間で68名,10年経歴要件が適用される2026年から4年間で128名の判事が減少するという試算,法曹経歴10年及びロースクール3年を要求すれば新任判事の年齢が最速でも40代前半となり30代の判事がいなくなるという世代の偏りへの懸念,並びに日本には法曹経歴の制限がなくアメリカ及びイギリスは5年以上,ドイツも3年から5年以上であるという比較法上の説明を述べている。この改正案は否決されたものの,前記のとおり同年12月には別の改正で5年の適用期限が延長されており,経歴要件の緩和そのものは,形を変えて後の改正に引き継がれている。
10年という本則そのものが放棄されたのは,2024年10月16日法律第20465号によってである。同法は,42条2項の本則を「5년 이상」に改め,段階的な引上げを定めていた附則2条を削除した。改正理由は,この転換について,「판사 임용자격으로서의 법조경력요건을 5년으로 완화하고, 충분한 사회적 경험과 연륜을 갖춘 판사에 의한 재판이 실현될 수 있도록 …(20년 이상의 법조경력이 있는 사람을 특정 재판사무만을 담당하는 판사로 임용할 수 있도록 하며)… 원칙적으로 10년 미만의 법조경력을 갖춘 판사는 재판장이 될 수 없도록 하는 등 법조일원화제도를 현실성 있게 개선함」と説明する。すなわち,10年という数字は法曹経歴要件そのものから消えたのではなく,前記1で述べた42条の3の職務権限の制限(10年未満の判事は単独裁判・裁判長を務められない)に姿を変えて残った。2011年の原設計が予定した「本則10年」は,13年間の延期を重ねた末に,2024年改正で正式に放棄されたことになる。
3 憲法裁判所2012年決定による経過措置の削除
前記の経過には,憲法裁判所の決定が関わっている。現行の法院組織法附則(法律第10861号関係)には,「2024. 10. 16. 법률 제20465호에 의하여 2012. 11. 29. 헌법재판소에서 한정위헌 결정된 이 조 단서 중 제42조제2항에 관한 부분을 개정함」との注記が付されている。すなわち,2012年11月29日の憲法裁判所決定を受けて,2024年改正でその部分が改められたことが条文自体に明記されている。
憲法裁判所2012年11月29日決定(2011헌마786・2012헌마188併合,全員裁判部)の主文は,「법원조직법(2011. 7. 18. 법률 제10861호) 부칙 제1조 단서 중 제42조 제2항에 관한 부분 및 제2조는 2011. 7. 18. 당시 사법연수생의 신분을 가지고 있었던 자가 사법연수원을 수료하는 해의 판사 임용에 지원하는 경우에 적용되는 한 헌법에 위반된다」というものである。請求人は,2011年7月18日の改正当時に既に司法研修生の身分にあった821名である。決定要旨は,判事任用資格に関する規定が約40年間維持されてきたことにより,司法試験合格後に司法研修院を修了すれば直ちに判事任用資格を得られるという信頼が保護に値するとし,改正当時既に司法研修院に入所していた者にまでこの規定を適用することは信頼保護原則に反すると判断した。もっとも,同じ経過措置について,憲法裁判所2014年5月29日決定(2013헌마127)は,改正当時にまだ司法研修院に入所していなかった者については信頼保護原則違反も平等権侵害も認めず,請求をいずれも退けている。憲法裁判所は,改正時に既に司法研修生であったか否かで線を引いたことになる。
この限定違憲決定によって無効とされた範囲は,2011年改正時点で既に研修生だった者への適用に限られており,段階的施行のスケジュール自体を無効としたものではない。したがって,2013年から2021年までの延期(前記2)は,この決定の後も進められている。もっとも,法院組織法の附則注記が示すとおり,2024年改正は,この決定を条文上の理由の一つとして明記しており,法曹一元化をめぐる制度設計が,国会の立法裁量だけでなく憲法裁判所の判断にも規律されてきたことがうかがえる。
4 法曹一元化の受け皿としての裁判研究員制度
2011年の同じ改正で,各級法院に裁判研究院(재판연구원)を置く制度が新設された。法曹一元化により司法研修修了者が直ちに判事になれなくなったことを受けた措置であり,改正理由は,裁判研究員としての勤務期間を含めて最小5年の法曹経歴を備えれば判事に任用され得ることを踏まえ,任期を段階的に見直すとしている。裁判研究員の定員は,2018年までに200名,2022年までに300名の範囲で大法院規則によって定めるものとされた。判事の給源を弁護士・検察官等の複数の職種に開くという条文上の建付けと,実際には裁判研究員として一定期間勤務した後に判事に任用されるという運用実態とは,区別して理解する必要がある。
第3 裁判官の人事構造と比較法研究体制
1 高等法院と地方法院の人事の分離
大法院法院行政処『2025 사법연감』130頁によれば,法曹一元化の導入前は,司法研修院修了後に直ちに任用された判事が,地方法院陪席判事,単独判事,高等法院陪席判事,地方法院部長判事,高等法院部長判事という順に補職を移動する段階的な人事類型が採られていた。大法院は,法曹一元化の実施に備えて2010年に方案を策定し,高等法院及び地方法院に所属する判事の人事体系を分離することとした。法官人事規則10条に基づき,一定の経歴を積んだ判事を順次高等法院判事に補任し,以後は特別の事情がない限り高等法院でのみ勤務させる運用が採られ,同年鑑は,ソウル高等法院(院外裁判部を除く。)について2019年の定期人事から高等法院部長判事を除く法官の全員が高等法院判事で構成されているとしている。日本の裁判官が地方裁判所と高等裁判所を繰り返し異動する人事とは対照的な設計である。
2 高等法院部長判事の廃止
前記の人事の分離と一体をなす改革が,2020年3月24日法律第17125号(施行2021年2月9日)による高等法院部長判事の廃止である。改正理由は,「사실상 승진 개념으로 운용되어 법관의 관료화를 심화시킨다는 비판을 받아 온 고등법원 부장판사 직위를 폐지함으로써 대등한 지위를 가진 판사로 구성된 재판부를 통해 충실한 심리가 이루어지도록 하고, 사회관계망서비스(SNS)를 통해 현직 법관의 정치적 의사표명이 늘어나는 등 법관의 정치적 중립성에 대한 논란이 증가하는 점을 고려하여 법관의 임용 결격사유를 강화하는 한편, …」と説明する。すなわち,事実上の昇進として運用され裁判官の官僚化を深めるという批判を受けてきた高等法院部長判事という職位そのものを,法律で廃止したことになる。同じ改正は,SNSを通じた現職裁判官の政治的意思表明の増加を理由に,裁判官の任用欠格事由を強化する内容もあわせて含んでいる。日本では,情報ネットワーク上の投稿を理由とする裁判官の規律の問題は,裁判所法49条の「品位を辱める行状」に関する分限事件(最高裁判所大法廷平成30年10月17日決定,最高裁判所大法廷令和2年8月26日決定)という,既存の懲戒法制の解釈によって扱われてきた。韓国が任用資格の要件そのものを立法によって強化したのに対し,日本は既存の分限手続の中でこの問題に対応してきたことになる。
3 外国司法制度の比較研究を担う常設機関
2013年8月13日法律第12041号(施行2014年1月1日)により,大法院傘下に司法政策研究院が設置された。改正理由は,同院の任務の一つとして,外国の司法制度に関する比較研究並びに海外各国との司法交流の拡大及び韓国司法制度の海外への発信を担う専門的な研究機関として位置付けている。後記第5で引用する2024年の国民参与裁判に関する報告書及び後記第6で引用する裁判に対する憲法訴願をめぐる議論も,この機関が公表した資料に基づくものである。日本については,最高裁判所に対する司法行政文書開示請求により入手された「諸外国(米英独仏豪加)及び我が国の司法制度の概要(対照表)」の作成時点が令和元年5月以降更新されていないことを,外国の司法制度と比べた日本の司法制度の特徴で確認している。外国の司法制度を比較研究する常設の機関を法律上明確に位置付けているかどうかという点も,両国の違いとして指摘できる。
第4 最高裁判所(大法院)の規模――大法官14名から26名へ
1 増員の立法理由
法院組織法4条2項は,「대법관의 수는 대법원장을 포함하여 14명으로 한다」と定めてきたが,2026年3月12日法律第21451号は,この員数を26名に増員した。増員は一度に行われるのではなく,附則により2028年3月13日に4名,2029年3月13日に4名,2030年3月13日に4名を,段階的に加える方式が採られている。立法理由は,増員を要する事情について,「2022년 기준 대법원 본안사건 접수 건수는 연간 56,000건을 초과하였고, 대법관 1인당 연간 약 5,000건에 이르는 사건을 처리해야 하는 상황으로 심층적 심리와 숙의가 어려워지고 있으며, 상당수 사건이 ‘심리불속행 기각’으로 종결되는 구조 속에서 상고심에 대한 국민적 불신이 심화되고 있는바, 현행 14명인 대법관의 수를 단계적으로 증원하여 26명이 되도록 함…」と説明する。大法官1人当たり年間約5,000件という処理件数と,심리불속행(審理不続行)棄却による終結が多いことへの国民の不信を,増員の立法事実として挙げている。審理不続行棄却は,上告理由が法定の事由(憲法違反,判例違反等)に該当しないと判断される場合に,実質審理をせずに棄却する韓国独自の制度である。
日本の裁判所法5条3項は,「最高裁判所判事の員数は,十四人とし」と定め,最高裁判所長官を加えた15人の裁判官が最高裁判所を構成する。上告審への事件集中に対する制度的な対応としては,最高裁判所判事の員数を増やすのではなく,上告受理の申立てという制度によって最高裁判所が扱う事件の範囲を限定する方式が採られている。民事訴訟法318条1項は,最高裁判所が,原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる事件について,申立てにより上告審として事件を受理することができると定める。すなわち,日本は裁判官の数を維持したまま受理する事件の範囲を絞り込む方向で対応し,韓国は事件の範囲を維持したまま裁判官の数を増やす方向で対応したことになる。両国の対応の違いは,同じ「上告審の負担」という問題に対する異なる制度選択として位置付けることができる。
2 日本の裁判官定員との対比
比較の前提として両国の裁判官の規模を確認する。最高裁判所『裁判所データブック2026』22頁によれば,令和8年度の裁判官の定員は,最高裁判所長官・最高裁判所判事・高等裁判所長官の合計23人,判事2,155人,判事補842人及び簡易裁判所判事806人の合計3,826人である。同書28頁の総人口は1億2,305万人である。
韓国側は,大法院法院行政処『2025 사법연감』の別表2-2によれば,2024年12月31日時点の판사(判事)の定員は3,214名,現員は3,094名であり,定員に対し120名の欠員がある。これに大法院長1名及び当時の大法官14名を加えると,裁判官の定員は3,229名となる。国家データ処が2026年7月28日に公表した「2025年人口住宅総調査結果(登録センサス方式)」によれば,2025年11月1日時点の韓国の総人口は5,182万人である。
両国の数値を裁判官1人当たりの人口に換算すると,日本は約32,160人(3,826人で1億2,305万人を除して算出),韓国は約16,050人(3,229名で5,182万人を除して算出)となる(いずれも本記事における計算)。韓国の裁判官は,人口当たりで見ると日本のおよそ2倍の密度にある。ただし,日本側の数値は各年度の定員であるのに対し,韓国側の数値は司法年鑑及び人口統計それぞれの基準時点(2024年末及び2025年末)によるものであり,両者は同一時点の比較ではない。また,韓国の判事定員は,各級法院判事定員法の2025年1月7日改正(法律第20659号)により,2025年から2029年までの5年間で3,214名から3,584名へ370名増員される途上にあり,同法附則により2025年90名,2026年80名,2027年70名,2028年70名,2029年60名と段階的に施行される。この増員も,2024年12月31日時点で既に定員を120名下回っていた状況からの積み増しであることに留意する必要がある。
第5 国民の刑事裁判参加――拘束力ある参審と拘束力なき陪審
1 国民参与裁判の制度設計と憲法上の理由
韓国の국민의 형사재판 참여에 관한 법률(国民の刑事裁判参加に関する法律)は,2008年1月1日に施行され,刑事裁判に国民が陪審員として参加する国民参与裁判の制度を導入した。5条1項は,対象事件を法院組織法32条1項の合議部管轄事件(一部の除外事由を除く。)とし,同条2項は,被告人が国民参与裁判を望まない場合又は法院が排除決定をした場合には実施しないと定める。8条1項は,法院が対象事件の被告人に対し国民参与裁判を望むかどうかの意思を書面等の方法で必ず確認しなければならないと定めており,被告人の申請を要件とする点に特色がある。
評決の効力は,46条5項に定められている。同項は,陪審員の有罪無罪に関する評決及び量刑に関する意見は法院を羈束しないと定める。46条2項は,審理に関与した陪審員が有罪無罪について評議し,全員の意見が一致すればその評決によるとする一方,陪審員の過半数の要請があれば審理に関与した判事の意見を聴くことができるとし,同条3項は,全員一致に至らない場合の有罪無罪の評決を多数決の方法によるとした上で,審理に関与した判事は評議に参席して意見を述べることはできても評決には参加できないとする。48条4項は,裁判長が判決宣告の際に被告人へ陪審員の評決結果を告知し,評決結果と異なる判決を宣告するときはその理由を説明しなければならないと定め,49条2項は,評決結果と異なる判決を宣告するときは判決書にその理由を記載しなければならないと定める。
この設計が採られた理由について,司法政策研究院が2024年5月20日に公表した研究報告書『국민참여재판의 현황 및 활성화 방안에 관한 연구――실시요건 개선을 중심으로』は,「헌법 제27조 제1항에서 피고인의 ‘법관에 의한 재판을 받을 권리’를 보장하고 있는데, 여기서 ‘법관’은 직업법관을 의미하는 것이지, 배심원과 같은 시민법관까지 포함한다고 해석하기 어렵다. 이에 국민참여재판법에서 피고인 신청주의, 배심원 평결의 권고적 효력, 다수결 평의나 양형 토의에 법관 관여 등 헌법적합성을 고려한 여러 제도를 마련한 것…」と説明する。すなわち,韓国憲法27条1項が保障する「法官による裁判を受ける権利」の「法官」を職業裁判官に限られると解した結果として,被告人の申請主義及び評決の勧告的効力(拘束力を持たせないこと)という制度設計が採られたことになる。同報告書は,制度全体を「국민의 사법 참여 경험이 없고, 헌법에서 ‘법관에 의한 재판을 받을 권리’를 보장하고 있는 점 등을 고려하여 배심제와 참심제를 혼합한 시범적・타협적인 형태로 출범」したものと位置付けている。
日本の裁判員の参加する刑事裁判に関する法律は,これと異なる設計を採る。2条1項は,対象事件を死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件及び故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件(裁判所法26条2項2号)とし,被告人に対象事件からの選択権を認めていない。67条1項は,事実の認定等に関する評決について,構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によると定めており,裁判官のみの意見でも裁判員のみの意見でも結論を決めることができない。裁判員が加わった評決は,そのまま判決となる点で,韓国の国民参与裁判のように後から法院が異なる判決を宣告する余地を持たない。裁判員制度の合憲性については,最高裁判所大法廷平成23年11月16日判決が,「憲法は,刑事裁判における国民の司法参加を許容しており,憲法の定める適正な刑事裁判を実現するための諸原則が確保されている限り,その内容を立法政策に委ねている。」と判示し,裁判官と裁判員によって構成される合議体も憲法の定める裁判所に当たるとした上で,制度全体を合憲としている。本記事では,両国の制度が,市民参加の有無ではなく,評決に法的効力を与えるかどうかという一点で分かれていると整理する。
2 実績――評決に拘束力がなくても大半は一致する
大法院『2025 사법연감』は,2008年2月12日の大邱地方法院での第1回国民参与裁判以来,2024年12月31日までに総計3,080件が実施され,そのうち93.8%に当たる2,889件で陪審員の有罪無罪の評決と法院の判決が一致したと記録する。前記1のとおり評決には法的拘束力がないにもかかわらず,17年間の実績で9割を超える一致率が保たれていることになる。
同年鑑は,実施件数の年次推移についても,2013年の345件をピークに,2024年は91件であったと記録する。司法政策研究院の前記報告書は,別の集計として,2008年から2022年までの累積対象事件240,833件のうち,国民参与裁判が申請された事件は9,439件で申請率3.9%であり,実際に実施された事件は2,894件であったとする。実施の減少について,同報告書は,被告人の申請主義そのものに内在する限界(申請しても自由に撤回できること)と,法院に広範な排除決定の権限が与えられていることを主な要因として挙げている。実施件数が伸び悩む一方で,実施された事件に限れば,同報告書は,国民参与裁判の平均無罪率が12.8%であり,全国の1審刑事合議部の平均無罪率4.8%のおよそ2.6倍であったとし,他方で控訴審における破棄率は29.8%にとどまり,全国高等法院の1審合議事件の破棄率41.7%より低かったとしている。無罪率が高い一方で控訴審における破棄率はむしろ低いという2つの数値は,本記事では,市民が加わることで判断の精度が損なわれるという懸念に対する反証と評価し得るものと整理する。
司法政策研究院の報告書は,各国の市民参加型裁判制度の実施状況も比較しており,2022年の日本については,「과거 배심제 실패의 경험을 바탕으로 재판원재판에 대한 피고인의 선택권은 인정되지 않고 있다」(過去の陪審制失敗の経験を踏まえ,裁判員裁判に対する被告人の選択権は認められていない)とし,同年の1審公判事件処理件数43,517件のうち裁判員裁判の処理件数を753件(約1.7%)としている。同じ報告書は,被告人の申請主義を維持しつつ,故意の犯罪行為による生命侵害犯罪を必要的な対象事件として指定することを,制度活性化のための優先的な提言として掲げている。この提言は,日本の裁判員法2条1項2号が定める「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」という対象事件の設計と対応する内容であり,被告人の選択に委ねる部分を残しつつ,重大な生命侵害犯罪については実施を確保しようとする方向性を示すものである。
第6 2026年の裁判憲法訴願――司法制度そのものを憲法訴訟で争えるか
1 制度の内容
2026年3月12日法律第21452号による改正前の憲法裁判所法68条1項は,公権力の行使又は不行使により憲法上保障された基本権を侵害された者は,法院の裁判を除いては憲法裁判所に憲法訴願審判を請求することができると定め,「법원의 재판을 제외하고는」(法院の裁判を除いては)という限定によって法院の裁判を憲法訴願の対象から除外していた。同改正は,法制処の改正文によれば,同項本文中の「법원의 재판을 제외하고는 헌법재판소」を「헌법재판소」に改めるものであり,この限定を削除して,法院の裁判に対する憲法訴願(재판소원,裁判所願)を導入した。
改正後の68条3項は,法院の裁判に対する憲法訴願を,確定した裁判を対象とし,次の3類型のいずれかに該当する場合に限って請求できると定める。すなわち,①法院の裁判が憲法裁判所の決定に反する趣旨で裁判をしたことにより基本権を侵害した場合,②法院の裁判が憲法及び法律で定めた適法な手続を経ないで裁判をしたことにより基本権を侵害した場合,③法院の裁判が憲法及び法律に違反して基本権を侵害したことが明白な場合,である。手続面では,69条1項ただし書が請求期間を確定日から30日以内とし,71条4項が請求書に裁判書及びその確定証明願の添付を求める。71条の2は仮処分の規定であり,憲法裁判所は,憲法訴願の請求を受けたときは,職権又は請求人の申立てにより,終局決定の宣告時まで審判対象となった公権力の効力を停止する決定をすることができるとする。法制処は,これらの改正の理由について,「…법원의 재판은 사법권의 행사라는 점에서 공권력의 일종에 해당하므로 헌법소원심판 사건의 대상에 포함하는 것이 타당하고, 법원의 심급제도로 구제받기 어려운 재판절차에서 발생하는 기본권 침해 등은 헌법소원을 허용하여 국민의 기본권을 충실히 보장할 필요가 있다는 지적이 있는바, …국민의 기본권 보장의 사각지대를 해소하고, 국민의 권리구제 수단을 보다 강화하려는 것임」と説明している。さらに,同じ改正で75条4項が新設されている。国会に提出された議案の説明によれば,同項は,基本権侵害の原因となった公権力の行使が法院の裁判であるときは,憲法裁判所が当該裁判を取り消し,法院は憲法裁判所の決定の趣旨に従って再度裁判をするものとされている。この改正は,前記第4で述べた法院組織法4条2項の大法官14名から26名への増員(法律第21451号)と同じ2026年3月12日に公布されており,連番の法律番号が付されている。上告審の受理容量を拡大する改正と,確定判決に対する新たな外部審査の経路を開く改正が,同時に成立したことになる。
2 国会での賛否
この改正は,全会一致で成立したものではない。国会議案情報システムによれば,議案番号2216845「헌법재판소법 일부개정법률안(대안)(법제사법위원장)」は,2026年2月12日に法制司法委員会の対案として提案され,同月27日の本会議で,在席225人のうち賛成162人・反対63人・棄権0人により原案どおり可決された。委員会審査の段階でも「상정/소위심사보고/찬반토론/의결(대안가결)」という経過が記録されており,賛否の討論を経て可決に至っている。
可決に先立つ2026年2月24日の本会議では,賛否双方の議員が具体的な立法例と統計を挙げて討論している。反対の立場からは,ドイツが裁判に対する憲法訴願を導入している一方,オーストリアは2012年憲法改正後も行政法院の第1審判決に限って認め,行政裁判所自身の裁判には憲法訴願を認めていないという立法例の違いが指摘され,ドイツ連邦憲法裁判所が受理する事件のうち裁判に対する憲法訴願が占める割合は2020年から2024年まで概ね80%前後に達する一方,その認容率は概ね1%台前半にとどまり,特に連邦最高法院の裁判に対する認容率は平均0%台であるという統計が示された。あわせて,韓国はドイツと異なり上訴を制限していないため,裁判に対する憲法訴願は主として大法院の確定判決に集中することになり,訴訟の相手方がこの制度を濫用すれば審理が長期化しかねないという懸念も述べられている。
賛成の立場からは,国会立法調査処が2025年11月に公表した報告書がドイツ・スペイン・台湾の導入例を分析していること,及び,1988年の憲法裁判所法制定当時に憲法裁判所長を務め裁判に対する憲法訴願の導入に反対していた人物が,後年のインタビューで当時の反対意見を誤りであったと述べたことが紹介された。
3 日本との対比
日本国憲法81条は,最高裁判所を「一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所」と定めるが,最高裁判所大法廷昭和27年10月8日判決は,具体的事件を離れて抽象的に法律・命令等の合憲性を判断する権限を最高裁判所は有しないと判示しており,日本の違憲審査は具体的事件に付随してのみ行われる。最高裁判所の確定判決そのものに対する不服申立ての手段は再審に限られ,判決の当否を別の憲法上の機関が審査する制度は存在しない。
これに対し,韓国は,前記1及び2で見たとおり,確定判決を対象とする裁判憲法訴願を2026年に導入し,しかも終局決定までの間,公権力の効力を停止する仮処分の制度まで設けた。韓国憲法111条1項5号は,憲法裁判所が管掌する事項として「법률이 정하는 헌법소원에 관한 심판」(法律の定める憲法訴願に関する審判)を掲げており,憲法自身が憲法訴願の対象範囲を法律に委ねている。他方,韓国憲法101条2項は法院を「最高法院인 대법원」(最高法院である大法院)を頂点とする組織と定め,107条2項は,命令・規則又は処分の憲法・法律適合性が裁判の前提となった場合には大法院がこれを最終的に審査する権限を有すると定めており,前記2の反対討論は,この規定と裁判憲法訴願との整合性を主たる争点の一つとしている。日本にはこの2つの憲法規定に相当するものがなく,したがってこの種の対立自体が生じない構造になっている。
なお,憲法裁判所は,9人の裁判官で構成され(憲法裁判所法3条),うち3人を国会が選出し,3人を大法院長が指名し,残る3人を含めて全員を大統領が任命する(同法6条1項)。すべての裁判官が国会の人事聴聞を経ることも同条2項に定められている。日本の最高裁判所裁判官の任命は,長官については内閣の指名に基づいて天皇が行い(憲法6条2項),その他の裁判官については内閣が行う(憲法79条1項)ものとされており,いずれも国会の関与を経ない。他方,任命後には国民審査(憲法79条2項・3項)という事後の民主的統制の仕組みが置かれている。韓国側の憲法裁判所裁判官の選任過程には,これに相当する事後審査の制度は見当たらない。両国の裁判官の民主的正当性の担保方法が異なることを示している。
出典・参考資料
1 法令
①裁判所法(昭和22年法律第59号)5条・42条・43条(e-Gov法令検索)
②裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)2条・67条(e-Gov法令検索)
③民事訴訟法(平成8年法律第109号)318条(e-Gov法令検索)
④日本国憲法6条・79条・81条(e-Gov法令検索)
2 韓国の法令
①법원조직법(法院組織法)4条・42条・42条の3(韓国国家法令情報センター)
②국민의 형사재판 참여에 관한 법률(国民の刑事裁判参加に関する法律)5条・8条・46条・48条・49条(韓国国家法令情報センター)
③각급 법원 판사 정원법(各級法院判事定員法)1条(韓国国家法令情報センター)
④헌법재판소법(憲法裁判所法)3条・6条・68条・69条・71条・71条の2・75条(韓国国家法令情報センター)
⑤대한민국헌법(大韓民国憲法)101条・107条・111条(韓国国家法令情報センター)
3 裁判例・決定
①最高裁判所大法廷昭和27年10月8日判決(昭和27年(マ)第23号,民集6巻9号783頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所大法廷平成23年11月16日判決(平成22年(あ)第1196号,刑集65巻8号1285頁,裁判所ウェブサイト)
③헌법재판소 2012. 11. 29. 선고 2011헌마786・2012헌마188(併合)전원재판부 결정「법원조직법 부칙 제1조 등」(韓国国家法令情報センター)
④헌법재판소 2014. 5. 29. 선고 2013헌마127 전원재판부 결정「법원조직법 부칙 제1조 단서 등 위헌확인」(韓国国家法令情報センター)
4 公的資料・統計
①最高裁判所『裁判所データブック2026』22頁・28頁(資料上の頁。裁判所)
②大法院法院行政処『2025 사법연감』別表2-2,374頁~376頁,825頁~826頁(大法院)
③司法政策研究院임성민『국민참여재판의 현황 및 활성화 방안에 관한 연구――실시요건 개선을 중심으로』(2024年5月20日)(司法政策研究院)
④韓国国家データ処「2025年人口住宅総調査結果(登録センサス方式)」(2026年7月28日公表)
⑤日本弁護士連合会「弁護士任官の推進(弁護士任官等推進センター)」(日本弁護士連合会)
5 国会資料
①大韓民国国会議案情報システム議案2112201「법원조직법 일부개정법률안(대안)(법제사법위원장)」表決情報(大韓民国国会)
②大韓民国国会議案情報システム議案2216845「헌법재판소법 일부개정법률안(대안)(법제사법위원장)」審査情報・表決情報(大韓民国国会)
③大韓民国国会会議録システム 제21대국회 제390회 제1차 국회본회의(2021年8月31日)・제22대국회 제432회 제8차 국회본회의(2026年2月24日)会議録(大韓民国国会)