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令和7年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した75項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,民事系科目第3問(民事訴訟法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。

本問は,被相続人Aの遺産に本件建物が属することの確認を求める遺産確認の訴えを題材として,固有必要的共同訴訟と確認の利益(設問1),証明妨害と信義則(設問2),弁論主義と法的観点指摘義務(設問3)という民事訴訟法の基礎的な概念の理解と,事案への当てはめを問うものである。

公式資料から抽出できた評価項目は75項目であり,重み5(答案の骨格,又は採点実感が差がついた事項若しくは評価の段階を分ける事項として挙げたもの)に当たるのは,次の11項目である。

①固有必要的共同訴訟が,合一確定の必要と訴訟共同の必要とがある共同訴訟であることを示し,両者を区別する(番号1)
②遺産確認の訴えでは訴訟法的観点が重視されて訴訟共同の必要が肯定されることを,具体的な要素を挙げて導く(番号7)
③「XとBとの間で本件建物がAの遺産に属することに争いがない」という事情を取り上げ,即時確定の利益との関係で評価する(番号16)
④非同調者を被告とすることで提訴者の訴権を保護した判例の趣旨と整合するかという観点から,即時確定の利益を肯定する理論構成を示す(番号19)
⑤証明妨害が,相手方に証明困難という不利益を課し,その反面で自らは訴訟上有利な地位を得るものであることを踏まえ,信義則違反の論拠を示す(番号25)
⑥当てはめを課題②の一般論(客観面・主観面)と対応させ,各側面を基礎付ける問題文の事実とその評価を示す(番号33)
⑦弁論主義の根拠を,実体法上の私的自治原則の訴訟手続への反映(本質説・私的自治説)に求める(番号49)
⑧求釈明による不意打ち防止は,攻撃防御を尽くすための機能的(手段的)役割であり,弁論主義の根拠とは区別されることを示す(番号52)
⑨当事者の弁論権を実質的に保障するため,裁判所は法的観点についても指摘義務を負うことを示す(番号63)
⑩理論構成として,釈明権の行使による不意打ち防止・弁論権保障の機能を法的構成まで拡充する必要を示す(番号64)
⑪法的観点の指摘の問題を,事実の主張を促す釈明の問題と区別して論じる(番号65)

未読のまま答案を書くと,論点名はほぼ問題文の会話から拾えるのに対し,差がつくのは,定義の要件を全部書いたか,判断基準の語を具体的な意味まで書いたか,原則から結論までの理由の鎖を書いたか,という理由付けの深さであった。

第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(民事系科目第3問の部分)又は採点実感(同)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。

誤りとして指摘された事項は,「~しない」の形の項目とし,答案がその誤りをしていなければ満たすものとした。

各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,頁と見出し番号で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。
出題の趣旨の頁は,全科目を収めた出題の趣旨のPDFの頁番号(第3問は14頁から16頁まで)である。
採点実感の見出し番号は,民事系科目の採点実感のPDFの第3問の部分(18頁から25頁まで)のもので,例えば「3⑵ア」は「3 採点実感等」の「⑵ 設問1について」の「ア 設問1の採点実感」を,「3⑵イ」は同じく「イ 設問1のまとめ」を指す。

公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。

①重み5:答案の骨格となる事項,又は採点実感が「差がついた」「実力の差が明瞭に表れていた」と述べ,若しくは各設問のまとめで優秀・良好・一応の水準・不良の段階を分ける事項として挙げた事項
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も高く評価し又は答案の不足を指摘した事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け又は当てはめ,又は採点実感が高く評価した発展的な事項
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項

第3 本問の概要

Aが死亡し,相続人は妻Yと子X・Bの3名である。
Aが生前にYと住んでいた本件建物には,売買を原因とするCからYへの所有権移転登記がされており,遺産分割協議では,Xが本件建物はAの遺産であると主張し,Yが自分がCから買ったと主張したため,協議は成立しなかった。

設問1は,遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟とされる根拠(課題1)と,本件建物がAの遺産に属すると考えながら提訴に反対するBを被告に加えて訴えを提起した場合に確認の利益があるという方向での立論(課題2)を求める。
問題文は,入会権確認の訴えで提訴に同調しない構成員を被告に加えることを認めた判例(最判平成20年7月17日)を挙げ,その事案では非同調者が入会地であることを争っていたことを指摘している。

設問2は,X・Bが原告となった本件訴訟で,AがCから本件建物を買ったことを示す売買契約書をYが廃棄していたことを前提に,証明妨害の意義,証明妨害が訴訟当事者間の信義則に反すると評価できる理由と評価を基礎付ける一般的な要素,及び本件で信義則違反を基礎付ける具体的事実を問う。
Cが保管していた契約書は焼失しており,C自身も訴え提起後に死亡している。

設問3は,裁判所が,当事者のいずれも主張していない事実(AがYに本件建物を死因贈与する黙示の合意を基礎付ける事実)を証拠調べの結果から認定して請求を棄却することにつき,弁論主義のどの内容が問題となるか及びその事実が抗弁となること(課題①),裁判官が主張の意思を尋ねYの訴訟代理人が主張しないと答えた場合に,不意打ちにならなくても弁論主義に反する理由(課題②),並びにその事実が主張されていたと仮定して,裁判所が死因贈与という法的構成を当事者に示して検討を促すべきであるとする立論(課題③)を求める。

解答は,令和7年1月1日現在において施行されている法令に基づくものとされている。

第4 評価項目と重み

1 設問1課題1(遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟とされる根拠)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1固有必要的共同訴訟が,合一確定の必要と訴訟共同の必要とがある共同訴訟であることを示し,両者を区別する514頁「1」課題1の段落(特に訴訟共同の必要が問題となることの指摘を期待)3⑵ア(合一確定の必要のみを挙げる答案が少なからずあった),4(検討不十分な答案が多かったのはやや意外)
2訴訟共同の必要の判断基準として,訴訟物についての管理処分権が共同的に帰属し,かつ共同で行使されるかという実体法的観点を基礎とする414頁「1」課題1の段落(判例の一般的傾向として実体的観点を基礎とする)3⑵ア(解答できた答案は相当数あった)
3管理処分権について「全員に帰属する」と述べるだけで終わらせず,単独では行使できず全員でなければ行使できないという意味まで示す3記載なし3⑵ア(その趣旨が読み取れない答案があった)
4紛争解決の統一性・実効性や矛盾判断の回避といった訴訟法的観点も考慮すべきことを,その具体的内容と考慮する根拠とともに示す314頁「1」課題1の段落(訴訟法的観点も一定の場合に考慮)3⑵ア(具体的内容や根拠の記述がない答案が少なからずあった)
5遺産確認の訴えが,遺産帰属性を既判力をもって確定し,その後の遺産分割手続を円滑に進行させる機能を持つことを示す414頁「1」課題1の段落3⑵ア(遺産確認の訴えに当てはめた具体的要素の記述を高く評価)
6遺産確認の訴えが,共同相続人全員の関与を要する遺産分割手続の前段階の手続であることを示す314頁「1」課題1の段落間接(3⑵ア,具体的要素の記述)
7遺産確認の訴えでは訴訟法的観点が重視されて訴訟共同の必要が肯定されることを,具体的な要素を挙げて導く514頁「1」課題1の段落(これを指摘できるかがポイント)3⑵ア(具体的かつ簡潔に述べた答案は高く評価),3⑵イ(良好と優秀を分ける事項)
8問題文記載の平成元年判決の根拠と判断枠組みを踏まえて論じる314頁「1」冒頭の段落3⑵ア(判断枠組みを踏まえた論述を期待)
9「紛争の一回的解決」「訴訟経済」といった定型の文言だけで理由を済ませない2記載なし3⑵ア(定型の文言に頼る答案が多くあった)
10「合一確定」「管理処分権」「遺産分割前の共有状態」等の用語を並べるだけでなく,相互に関連付けて論証する2記載なし3⑵ア
11遺産確認の訴えを過去の法律関係の確認と誤解しない(遺言無効確認の訴えに関する判例と混同しない)2記載なし3⑵ア(最判昭和47年2月15日と混同したと思われる答案)

2 設問1課題2(Bを被告に加えた訴えの確認の利益)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
12確認の利益が認められるための一般的基準を示し,その内容を簡潔に説明する3間接(15頁冒頭,確認の利益が要求される趣旨に遡った根拠)3⑵ア(説明がない又は不正確な答案も散見された)
13問題となるのが即時確定の利益であることを指摘する414頁「1」課題2の段落3⑵ア(指摘できた答案は多かった)
14対象選択・方法選択の検討に分量を割かない1記載なし3⑵ア
15XとBとの間に争いがないという事情を,方法選択の適否の問題として論じない2記載なし3⑵ア
16「XとBとの間で本件建物がAの遺産に属することに争いがない」という事情を取り上げ,即時確定の利益との関係で評価する514頁「1」課題2の段落3⑵ア(全く触れない答案が一定数あった),3⑵イ(一応の水準と良好を分ける事項)
17平成20年判決の射程が本件に及ぶかを検討する414頁「1」課題2の段落(射程が問題になる)3⑵ア
18一部の相続人について本案判決が得られないことが,その後の遺産分割手続との関係で妥当かという観点から論じる414頁「1」課題2の段落(紛争解決機能を弱めるとの理由を例示)3⑵ア(高く評価)
19非同調者を被告とすることで提訴者の訴権を保護した判例の趣旨と整合するかという観点から,即時確定の利益を肯定する理論構成を示す514頁「1」課題2の段落(訴権の保護を図った意味が失われるとの理由を例示)3⑵ア(高く評価),3⑵イ(実力の差が明瞭に表れた,良好と優秀を分ける事項)
20遺産帰属性の蒸し返しを防ぐという遺産確認の訴えの目的が,現在争いのない当事者間でも等しく当てはまることを示す214頁「1」課題2の段落(理由を例示)記載なし
21確認の利益が要求される趣旨に照らし,本件はむしろ権利関係の確定が必要かつ有益な場合であることを示す215頁冒頭(理由を例示)記載なし
22「確認の利益があるという方向で」との指示に従い,確認の利益を肯定する314頁「1」課題2の段落(Xの立場からの立論)3⑵ア(否定する結論をとる答案も少数あった)

3 設問2(証明妨害と信義則)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23証明妨害の意義を,相手方による証拠の収集・提出を不可能又は困難にする行為として示す315頁「2」第1段落3⑶ア(簡潔に述べた答案が多かった)
24証明妨害の意義を文書の場合に限定しない3記載なし3⑶ア,3⑶イ(不良と評価される典型)
25証明妨害が,相手方に証明困難という不利益を課し,その反面で自らは訴訟上有利な地位を得るものであることを踏まえ,信義則違反の論拠を示す515頁「2」第2段落(基本的な性格を踏まえることを期待)3⑶ア(説明が不十分な答案が多かった),3⑶イ(一応の水準との境を画する事項)
262条を挙げるだけでなく,どのような論拠で信義則違反といえるかを説明する3記載なし3⑶ア,3⑶イ
27根拠の説明として,一種の禁反言,又は当事者の信義則上の協力義務への違反のいずれかを用いる215頁「2」第2段落(例示)記載なし
28行為の客観的性格と行為者の主観的態様から,規範的に否定的な評価が導かれることを示す315頁「2」第2段落記載なし
29信義則違反を基礎付ける一般的要素として,相手方に証明困難という不利益を生じさせるという客観的側面を挙げる415頁「2」第2段落(指摘できるかがポイント)3⑶ア(一方しか述べない答案が少なくなかった)
30同じく,行為者の認識又は認識可能性(故意・重過失)という主観的側面を挙げる415頁「2」第2段落(指摘できるかがポイント)3⑶ア(同上)
31典型例を挙げるだけでなく,一般的な要素を挙げる2記載なし3⑶ア(課題に対する応答として不十分)
32証明責任や弁論主義についての一般論を展開しない1記載なし3⑶ア(迂遠に過ぎる)
33当てはめを課題②の一般論(客観面・主観面)と対応させ,各側面を基礎付ける問題文の事実とその評価を示す515頁「2」第3段落(一般論と対応させることがポイント)3⑶ア(高く評価),3⑶イ(具体的な事情を拾い上げたかで差がついた)
34本件契約書がAC間の売買を立証する重要な証拠(処分証書)であることを指摘する315頁「2」第3段落3⑶ア
35本件契約書の証拠法上の位置付け(処分証書・類型的信用文書として,真正な成立が認められれば売買を直接認定できること,唯一の証拠方法とも考えられること)を論じる3記載なし3⑶ア(事案分析と法的評価の両面で高い評価)
36証人となり得たA及びCが死亡し,Cの保管分の契約書も焼失したため代替証拠が乏しいことを指摘する315頁「2」第3段落記載なし
37廃棄が,Yも参加した遺産分割協議で遺産帰属性の争点が顕在化した後にされたことを指摘する415頁「2」第3段落3⑶ア(時系列に沿った整理を高く評価)
38CがYに契約書の焼失を告げており,Yは本件契約書が唯一の有力な証拠だと認識していたことを指摘する415頁〜16頁「2」第3段落3⑶ア(唯一の証拠方法との指摘)
39Yが,Aの所有権取得が争われる可能性と本件契約書の重要性を十分に認識できたと評価する315頁「2」第3段落3⑶ア(主観的側面)
40問題文の事実を時系列に沿って整理し,故意若しくは重過失又は背信性の高さを論じる3記載なし3⑶ア(高い評価)
41Yに本件契約書を保存すべき義務があったことを論じる116頁冒頭(論じることも考えられる)記載なし

4 設問3課題①(主張原則と抗弁)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
42弁論主義の第一原則(主張原則)の内容を示し,本件で問題となるのがこれであることを示す316頁「3」3⑷ア(必要な記載ができた答案が多かった)
43主要事実の意義を示す316頁「3」3⑷ア
44抗弁の意義を,請求原因と両立すること及び請求原因から生じる法律効果を消滅・障害・阻止することの二つの要素で示す316頁「3」3⑷ア(一方しか指摘できない答案が散見された)
45抗弁を請求原因と「両立しない」ものと記述しない2記載なし3⑷ア
46AY間の贈与の事実を具体的に挙げ,それが所有権喪失の抗弁の主要事実となることを示す416頁「3」(主要事実説を前提)3⑷ア(AY間贈与を具体的に挙げない答案が散見された)
47贈与の事実が請求原因と両立することを,事実関係に即して当てはめる2記載なし3⑷ア
48参考判例として最判昭和55年2月7日を踏まえる216頁「3」(参考判例)記載なし

5 設問3課題②(不意打ちにならなくても弁論主義に反する理由)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
49弁論主義の根拠を,実体法上の私的自治原則の訴訟手続への反映(本質説・私的自治説)に求める516頁「3」課題②の段落3⑷ア,3⑷イ(一応の水準との境を画する事項)
50私的自治の原則(民事実体法の基本原則)がなぜ訴訟法に及ぶのかを説明する3記載なし3⑷ア(高い評価),3⑷イ(説明できた答案は多くなかった)
51判決の基礎となる事実の提出について当事者の権限が及ぶべきことを示す316頁「3」課題②の段落3⑷ア
52求釈明による不意打ち防止は,攻撃防御を尽くすための機能的(手段的)役割であり,弁論主義の根拠とは区別されることを示す516頁「3」課題②の段落3⑷ア(区別できない答案は基本概念の理解を疑わせる),3⑷イ(不良と評価される典型)
53不意打ち防止を弁論主義の根拠に挙げながら,「不意打ちはないが当事者の意思に反するから違反」とする論理の矛盾をしない2記載なし3⑷ア
54私的自治に触れずに当事者意思の尊重だけを根拠にしない(処分権主義との違いを意識する)2記載なし3⑷ア(不十分)
55Y(L2)が釈明に対して明示的に主張しない意思を示したことを踏まえて検討する316頁「3」課題②の段落3⑷ア
56明示の意思が示されているのに,当事者の「合理的意思」に反するという構成をとらない1記載なし3⑷ア(不適切な記述)
57求釈明さえすれば主張がなくても証拠から事実を認定できることになり,職権探知主義との境界が曖昧になることを指摘する216頁「3」課題②の段落(指摘できる)記載なし
58不意打ち防止の要請は,弁論権の実質的保障に係る要請であることを示す216頁「3」課題②の段落記載なし
59釈明権の行使そのものが弁論主義に反するかのように論じたり,釈明権の行使で不意打ちが生じるとしたりしない1記載なし3⑷ア(問題は裁判所の認定である,用語に注意)

6 設問3課題③(法的観点指摘義務)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
60法的構成の判断は原則として裁判所の権限(専権)に属するという原則から出発する316頁「3」課題③の段落3⑷ア(高い評価を得た論旨の出発点)
61法的構成と事実の主張・立証とが深く結び付いていることを示す316頁「3」課題③の段落3⑷ア(高い評価を得た論旨)
62判決における不意打ち防止の要請が,事実だけでなく法的観点(法的構成)にも及ぶことを示す416頁「3」課題③の段落3⑷ア(意識した答案はそれほど多くなかった)
63当事者の弁論権を実質的に保障するため,裁判所は法的観点についても指摘義務を負うことを示す516頁「3」課題③の段落3⑷ア(弁論権に言及できた答案は僅か),3⑷イ(良好と優秀を分ける事項)
64理論構成として,釈明権の行使による不意打ち防止・弁論権保障の機能を法的構成まで拡充する必要を示す516頁「3」課題③の段落3⑷ア,3⑷イ(根拠・理論構成の記述の不十分さが良好と優秀を分ける)
65法的観点の指摘の問題を,事実の主張を促す釈明の問題と区別して論じる5間接(16頁「3」,課題③は事実の主張がある場合を問う)3⑷ア(区別できない答案が少なくなかった),3⑷イ(差がついた,一応の水準との境を画する事項)
66参考判例として最判平成22年10月14日を踏まえる216頁「3」課題③の段落(参考判例)記載なし
67弁論準備手続の終結時に主たる争点が確認(限定)され,それに基づく証拠調べが行われたことを指摘する416頁「3」末尾の段落3⑷ア(挙げた答案は高く評価)
68いずれの当事者も死因贈与を念頭に置いた攻撃防御の機会がなく,その期待可能性もなかったことを指摘する316頁「3」末尾の段落記載なし
69現在は証拠調べ後・口頭弁論終結前で,事実の主張立証と心証形成は済み,法的評価だけに裁判所と当事者の食い違いがある段階であることを踏まえる2記載なし3⑷ア(踏まえた論述が大切)
70「検討を促すべきであるとする立論」の指示に従い,逆の結論をとらない2記載なし3⑷ア(逆の結論の答案が少数あった)

7 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
71問題文の登場人物の発言が示す検討事項を分析し,論点を論理的に整理して,論述の順序と相互関係を考える2間接(14頁〔第3問〕冒頭の設問構造)2
72論証パターンをそのまま書き出したり,理由を述べずに結論だけを書いたりせず,事案に即して端的に論じる3記載なし2,4(定型的な論述を判定しているのではない)
73余事記載を避けて時間配分を誤らず,最後の設問まで検討を尽くす2記載なし3⑴
74刑事訴訟の用語(「被告人」「弁護人」「構成要件」等)を誤用しない1記載なし3⑴
75判読できる字で書き,漢字の誤りや平易な漢字の平仮名書きをしない1記載なし3⑴

8 重みの分布

75項目の内訳は,重み5が11項目,重み4が12項目,重み3が25項目,重み2が20項目,重み1が7項目であり,重みの合計は225点である。

設問1課題1が11項目・36点,設問1課題2が11項目・35点,設問2が19項目・59点,設問3課題①が7項目・19点,設問3課題②が11項目・29点,設問3課題③が11項目・38点,答案全体が5項目・9点である。
設問1(課題1・2)の重みの合計は71点,設問2は59点,設問3(課題①~③)は86点であり,配点の割合(35:25:40)とおおむね対応している。

重み5の項目は,いずれも出題の趣旨が検討の筋道として示し,かつ採点実感が差のついた点又は評価の段階を分ける点として取り上げた事項であり,論点を発見できたかどうかではなく,定義の要件,判断基準の具体的な意味,根拠と機能の区別,理論構成の中間の理由を書けたかどうかに集中している。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,問題文の指示に従い,設問1及び設問2は司法修習生Pの立場で,設問3は司法修習生Qの立場で,令和7年1月1日現在において施行されている法令と,試験の実施時までに言い渡された判例を前提にしている。

答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜に当たるか。」「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本件では,〜といえる(①)。」)及び結論(「よって」「したがって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。

もっとも,本問は,固有必要的共同訴訟の根拠,証明妨害が信義則に反する理由,弁論主義の根拠及び法的観点指摘義務の理論構成という,意義・根拠・理論構成そのものを問う課題が多い。
そのため,採点実感が差のついた点として挙げた定義の要件,判断基準の具体的な意味及び原則から結論までの理由の鎖は省かずに書き,その上で,問題文の事実を評価する当てはめに多くの字数を割いた。
字数の配分は,おおむね問題提起が1割,規範が2〜3割,当てはめが4割強である。

民事訴訟法の条文は条数だけで示し,民法の条文には「民法」を付けた。
答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたもの,判例名だけのものは判例が示した命題を前提として述べたものを示す。

字数は,見出しと末尾の「以上」を含め,空白を除いて5,117字であり,字下げの全角スペースを含めても5,200字以内に収めた。
時間が足りない場合は,重み5の評価項目(番号1・7・16・19・25・33・49・52・63・64・65)に対応する部分を残し,その他の部分を短くすることになる。

2 答案

1 設問1について
(1) 課題1
 遺産確認の訴えは,固有必要的共同訴訟に当たるか。
 固有必要的共同訴訟とは,判決が全員について合一にのみ確定すべき必要(40条1項)に加え,全員が共同して訴え又は訴えられなければならない訴訟共同の必要がある訴訟をいう。そこで,訴訟共同の必要がいかなる基準で判断されるかが問題となる。
 思うに,訴訟は実体法上の権利関係を確定する手続であるから,訴訟物たる権利関係の管理処分権が共同的に帰属し,全員が共同してでなければ行使できないかという実体法的観点を基礎とすべきである。もっとも,訴訟共同の要否は紛争解決の在り方の問題でもあるから,紛争解決の統一性・実効性や矛盾判断の回避という訴訟法的観点も考慮すべきである。
 よって,実体法的観点を基礎としつつ,訴訟法的観点も併せて考慮して判断すべきと解する。
 遺産確認の訴えは,当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えである(最判昭和61年3月13日)。この共有は民法上の共有と解されるから(民法898条1項),実体法的観点だけから直ちに全員の共同行使が要求されるとはいい難い。
 しかし,同訴えの意義は,原告勝訴の確定判決により当該財産が遺産分割の対象であることを既判力をもって確定し,遺産分割手続での蒸し返しを許さず,同手続を円滑に進行させる点にある。そして,遺産確認の訴えは共同相続人全員が関与する遺産分割(民法907条)の前段階の手続であるから,全員に既判力が及ばなければ,拘束されない相続人が遺産分割で遺産帰属性を蒸し返し,矛盾した判断が生じ得る。遺産分割審判での遺産帰属性の判断には既判力が生じない(最大決昭和41年3月2日)から,この弊害は審判では解消されない。
 このように訴訟法的観点が強く働くから,遺産確認の訴えには訴訟共同の必要が認められ,共同相続人全員が当事者として関与し,合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である(判例同旨・最判平成元年3月28日)。
(2) 課題2
ア XがBを被告に加えた場合,XB間には遺産帰属性の争いがないから,Bとの関係で確認の利益を欠くのではないか。
 思うに,確認の利益の趣旨は,確認の対象が論理的に無限定であることから,紛争の解決に役立たない無益な訴訟を排除する点にある。
 よって,①確認対象の選択が適切であり,②確認の訴えという方法の選択が適切であり,③原告の権利又は法的地位に現に危険・不安が存在し,これを除去するため被告との間で確認判決を得ることが必要かつ適切である(即時確定の利益)場合に,確認の利益が認められると解する(判例同旨・最判昭和30年12月26日)。
イ 本件では,確認対象は遺産分割前の共有関係という現在の法律関係であり(①),遺産帰属性の確定は確認の訴えによるほかないから(②),問題は③である。
 確かに,Bは「自分も本件建物がAの遺産に属すると思っている」と述べており,Bとの関係では即時確定の利益を欠くとも思える。
 しかし,遺産確認の訴えは固有必要的共同訴訟であるから,Bとの関係で確認の利益が否定されれば訴え全体が不適法となり,Yとの紛争も解決できない。一部の当事者について本案判決をしないことは,同訴えの紛争解決機能を失わせる。
 また,遺産分割手続での蒸し返しの防止という同訴えの目的は,現在争っていない相続人との間でも等しく妥当する。Bは「現段階では」提訴に反対しているにすぎず,その認識に法的拘束力はなく,後に態度を変え得るから,Bにも既判力を及ぼす必要がある。
 さらに,固有必要的共同訴訟の対象となる権利の存否に争いがあるときは,提訴を望む者の訴権を保護するため,提訴に同調しない者を被告に加えることが許され,全員が当事者として関与する以上その者の利益も害されない(判例同旨・最判平成20年7月17日)。
 確かに,同判決の事案では非同調者自身が権利の存否を争っていた。しかし,同判決が前提とするのは権利の存否をめぐる争いであり,本件ではYとの間にそれがある。非同調者を被告とする必要も訴訟共同の必要から生じるのであり,非同調者と争いがないことを理由に確認の利益を否定すれば,訴権を保護した意味が失われる。
 以上から,本件はむしろ権利関係の確定が必要かつ有益な場合であり,Bとの関係でも即時確定の利益が認められる(③)。
ウ したがって,Bを被告に加えた本件の訴えには確認の利益がある。

2 設問2について
(1) ①証明妨害とは,当事者の一方が,相手方による証拠の収集・提出を不可能又は困難にする行為をいい,文書に限らず証拠一般について問題となる。
(2)ア ②当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない(2条)。証明妨害は,相手方に証明困難という不利益を課し,証明責任の法理により相手方を敗訴させる一方で,妨害者自身は訴訟上有利な地位に立つという利益を得るものである。自ら作り出した状態を利用して利益を得ることは,一種の禁反言として許されず,不公平・不公正である。
 また,当事者は,紛争が生じ訴訟が予想される段階では,自己の支配下にある証拠を保存して相手方の立証に協力すべき信義則上の義務を負うと解され,証明妨害はこれに違反する。ここに,証明妨害が信義則に反すると評価される根拠がある。
イ よって,その評価を基礎付ける要素としては,⒜妨害行為により相手方に証明困難という不利益が生じたという客観的側面(証拠の重要性,代替証拠の有無,行為の態様)と,⒝妨害者が相手方の証明を困難にすることを認識し又は認識し得たという主観的側面(故意又は重過失)が挙げられる。
(3) ③本件では,まず,客観的側面について,本件契約書はAとCが署名押印した処分証書であり,真正な成立が認められれば,AがCから本件建物を買い受けたことを直接認定できる直接証拠である。登記名義がYにある本件で,買主がAかYかという争点を決する証拠といえる。
 そして,Cの保管分は令和2年3月に焼失し,売買を直接知るAは令和5年3月30日に,Cは令和6年3月に死亡したから,代替証拠は乏しく,Yの廃棄によりXらには重大な証明困難が現に生じている(⒜)。
 次に,主観的側面について時系列に沿ってみると,Yは,A死亡後の令和5年5月の遺産分割協議で本件建物は自らが買い受けたものと主張し,遺産帰属性が争点として顕在化していた。また,Yは同月頃,Cに契約書の存否を尋ね,Cの保管分の焼失を告げられている。
 そうすると,Yは,Aの所有権取得が訴訟で争われる可能性と,本件契約書が唯一の有力な証拠となることを十分に認識していたといえ,本件契約書を保存すべき義務があったといえる。それにもかかわらず,Yは同年夏頃にAの身の回りの物を廃棄処分しており,本件契約書の廃棄について少なくとも重過失がある(⒝)。加えて,Yが本件訴訟で契約書は「もともと存在しない」と主張することは,自らCに存否を尋ねた事実と矛盾し,背信性が高い。
 以上より,Xらは,Yによる本件契約書の廃棄が訴訟当事者間の信義則に反する証明妨害に当たると主張できる。

3 設問3について
(1) 課題①
ア 弁論主義とは,判決の基礎となる事実と証拠の収集・提出を当事者の権能と責任とする建前をいい,⒜当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない(主張原則),⒝争いのない事実はそのまま判決の基礎としなければならない,⒞証拠は当事者の申し出たものに限る,の3つを内容とする。本件では,当事者の主張していない本件各事実を認定しようとしているから,⒜の主張原則が問題となる。
イ 主要事実とは,権利の発生・障害・消滅等の法律効果の判断に直接必要な事実をいう。抗弁とは,①請求原因事実と両立し,かつ,②請求原因から生じる法律効果を障害・消滅・阻止する事実であって,被告が主張立証責任を負うものをいう。
 本件請求原因事実によれば,本件建物はA死亡により共同相続人の共有(民法896条,898条1項)に属する。これに対し,Yの主張するCY間の売買はAC間の売買と両立しないから,抗弁ではなく積極否認である。
 他方,AY間の死因贈与は,AがCから本件建物を買い受けて所有していたことを前提とするから,本件請求原因事実と両立する(①)。そして,死因贈与は贈与者の死亡により効力を生じ(民法554条,985条1項),Aの死亡と同時に本件建物の所有権はYに移転するから,Aの遺産に属するという効果を消滅させる(②)。つまり,AY間の死因贈与の事実はYが主張立証責任を負う所有権喪失の抗弁であり,本件各事実はその黙示の合意を基礎付ける主要事実である。
 よって,当事者の主張がない本件各事実を認定して請求を棄却することは,弁論主義に反する(判例同旨・最判昭和55年2月7日)。
(2) 課題②
 では,J裁判官が主張の意思を尋ね,不意打ちにならない場合でも,弁論主義に反するか。
 確かに,弁論主義には当事者に攻撃防御の対象を示して不意打ちを防止する働きがあるから,不意打ちがなければ主張のない事実を認定してもよいとも思える。
 しかし,弁論主義の根拠は私的自治の原則に求めるべきである。民事訴訟の対象である私法上の権利関係は当事者が実体法上自由に処分できるものであるから,判断の基礎となる事実の提出も当事者に委ねなければ,当事者の自由に委ねられた権利関係の帰すうを訴訟では裁判所が決めることになり,私的自治と矛盾する。求釈明による不意打ち防止は,当事者が真意に基づく攻撃防御を尽くすための機能的な役割にすぎず,弁論主義の根拠ではない。
 そうすると,判決の基礎とできる事実の範囲は当事者の主張によって画され,不意打ちがないことは主張の欠缺を補わない。仮に不意打ちでなければよいとすれば,裁判所は求釈明さえ行えば主張がなくとも証拠から事実を認定できることになり,弁論主義と職権探知主義との境界が曖昧になる。
 本件では,L2は,登記原因が売買であることを理由に「そのような主張をする予定はない」と明言しており,Yは死因贈与の事実を判決の基礎としないことを自ら選択している。
 したがって,不意打ちにならないとしても,本件各事実の認定はYの明示の意思に反して裁判所が事実を持ち込むものであり,弁論主義に反する。
(3) 課題③
ア 本件各事実が主張されている以上,法的構成の判断は原則として裁判所の権限に属するから,これを死因贈与と評価しても弁論主義には反しない。もっとも,当事者の予期しない法的構成で直ちに判決することが許されるかが問題となる。
 思うに,いかなる事実を主張立証するかは法的構成と深く結び付いているから,予期しない法的構成で判決がされると,当事者はその構成を前提とした主張立証の機会を奪われる。そうだとすれば,判決における不意打ち防止の要請は,事実のみならず法的観点にも及ぶべきである。
 そして,判決の基礎となる事項について意見を述べ攻撃防御を尽くす機会,つまり弁論権を実質的に保障するには,裁判所が自らの法的観点を開示し,主張立証を促す必要がある。釈明権は法律上の事項にも及ぶから(149条1項),釈明権の行使による不意打ち防止と弁論権保障の機能は,法的構成にまで拡充されるべきである。
 よって,訴訟の経過等から予測困難で判決の結論を左右する法的観点を採用する場合,裁判所は,釈明権の行使としてこれを当事者に指摘し,主張立証を促す義務を負うと解する(最判平成22年10月14日参照)。
イ 本件では,弁論準備手続の終結に当たり,争点がAC間の売買契約の成否であると確認され(170条5項・165条1項),これに基づく証拠調べが実施された。現在は口頭弁論終結前で,事実の主張立証と心証形成はほぼ完了しているが,裁判所の認識する死因贈与という法的観点を当事者は認識しておらず,法的評価に食い違いがある段階である。
 当事者双方の攻撃防御は買主がAかYかに集中しており,Yも自らが買主であると主張していたから,いずれの当事者にも死因贈与を念頭に置いた攻撃防御の機会はなく,その期待もできなかった。
 しかも,死因贈与の成否はXらの請求を認容から棄却へと転じさせる決定的な法的観点である。この構成が採られるなら,Xらは,本件各事実が単なる希望の表明にとどまること等を主張立証する必要がある。
ウ したがって,裁判所は,口頭弁論終結前に,AのYへの黙示の死因贈与という法的構成が採られる可能性を当事者に明らかにし,それを踏まえた主張立証を検討するよう促すべきである。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1(1)は第4の番号1〜11(設問1課題1),1(2)は番号12〜22(同課題2),2は番号23〜41(設問2),3(1)は番号42〜48(設問3課題①),3(2)は番号49〜59(同課題②),3(3)は番号60〜70(同課題③)に対応し,番号71〜75(答案全体)は各項目の規範と当てはめの書き方で満たすようにした。
重み5の11項目は,1(1)の固有必要的共同訴訟の二つの要件(番号1)と訴訟法的観点を重視した訴訟共同の必要の肯定(番号7),1(2)イのXB間に争いがないという事情の評価(番号16)と訴権の保護を踏まえた理論構成(番号19),2(2)アの信義則違反の論拠(番号25),2(3)の一般的要素と対応させた当てはめ(番号33),3(2)の私的自治による根拠付け(番号49)と根拠・機能の区別(番号52),3(3)アの弁論権の実質的保障(番号63)と釈明権の機能の拡充(番号64)及び3(3)ア冒頭で事実の主張がある場面の法的構成の問題として立てたこと(番号65)に当たる。

(2) 設問1課題1(遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟とされる根拠)

設問1課題1について,出題の趣旨は,固有必要的共同訴訟の要件のうち特に訴訟共同の必要が問題となることを指摘し,その判断基準を,管理処分権の共同的な帰属・行使という実体的観点を基礎としつつ,紛争解決の統一性・実効性等の訴訟法的観点も考慮するものとして示した上で,遺産確認の訴えでは訴訟法的観点を重視して訴訟共同の必要が肯定される点を指摘できるかをポイントとしている。
採点実感は,合一確定の必要だけを挙げる答案,管理処分権が全員に「帰属する」と述べるだけで全員でなければ行使できない趣旨が読み取れない答案,「紛争の一回的解決」等の定型の文言に頼る答案を不十分とした。
答案は,定義で合一確定の必要と訴訟共同の必要を分け,基準を「全員が共同してでなければ行使できないか」まで具体化し,遺産の共有が民法上の共有であるため実体法的観点だけでは決まらないことを認めた上で,既判力による遺産帰属性の確定,遺産分割手続の前段階であること及び遺産分割審判の判断に既判力がないことを,訴訟法的観点の具体的な内容として挙げた。

(3) 設問1課題2(Bを被告に加えた訴えの確認の利益)

設問1課題2について,出題の趣旨は,確認の利益,特に即時確定の利益の問題として,平成20年判決の射程を検討し,Xの立場から確認の利益を肯定する理論構成を示すことを求め,その理由として,一部の当事者について本案判決をしないことは紛争解決機能を弱めること,訴権の保護を図った判例の意味が失われること,遺産分割手続での蒸し返しを許さないという目的は争いのない当事者間でも等しく当てはまること,及び権利関係の確定が必要かつ有益な場合であることを例示している。
採点実感は,遺産分割手続との関係や訴権の保護との関係を明らかにしながら論じた答案を高く評価し,この課題で実力の差が明瞭に表れたとしている。
答案は,例示された四つの理由をすべて用い,平成20年判決の事案では非同調者自身が入会地であることを争っていたという違いを認めた上で,同判決が前提とする「争い」は権利の存否をめぐる争いであり,本件ではYとの間にそれがあるとして射程を論じた。
対象選択と方法選択は,採点実感が分量を割くことを不十分としたため,各1文で処理した。

(4) 設問2(証明妨害と信義則)

設問2について,出題の趣旨は,信義則説を前提に,証明妨害が相手方に証明困難という不利益を課しつつ自らは訴訟上有利な地位を得るものであるという基本的な性格を踏まえることを求め,説明の例として一種の禁反言と信義則上の協力義務を挙げ,評価を基礎付ける要素として客観的側面と主観的側面を指摘できるかをポイントとしている。
採点実感は,2条を挙げるだけの答案,客観・主観の一方しか挙げない答案及び証明妨害の意義を文書の場合に限定した答案を不十分とし,本件契約書の処分証書としての位置付けや,事実を時系列に沿って整理して故意・重過失を論じた答案を高く評価した。
答案は,意義を証拠一般について示し,禁反言と協力(保存)義務の双方を根拠に挙げ,要素を⒜客観的側面と⒝主観的側面に分け,当てはめも⒜⒝に対応させた。
Yが本件訴訟で契約書は「もともと存在しない」と主張したことは公式資料には挙げられていないが,Y自身がCに契約書の存否を尋ねていた事実と矛盾するため,背信性を補強する事情として加えた。

(5) 設問3課題①(主張原則と抗弁)

設問3課題①について,出題の趣旨は,黙示の意思表示の要件事実について主要事実説を前提とし,AY間の贈与の事実が所有権喪失の抗弁の主要事実となることを求め,参考判例として昭和55年判決を挙げる。
同判決は,買い受けたのは被相続人ではなく別人であるという被告の主張を積極否認にすぎないとした上で,抗弁として主張されていない死因贈与を認定したことを弁論主義違反としており,答案もCY間の売買の主張を積極否認,AY間の死因贈与を抗弁として区別した。
採点実感は,抗弁の意義の二つの要素の一方しか示さない答案や,請求原因と両立することの当てはめを欠く答案を不十分としたため,答案は両立性と効果を条文(民法554条・985条1項)に即して示した。

(6) 設問3課題②(不意打ちにならなくても弁論主義に反する理由)

設問3課題②について,出題の趣旨は,本質説ないし私的自治説から,判決の基礎となる事実の提出について当事者の権限が及ぶべきこと,求釈明による不意打ち防止は機能的(手段的)役割であることを論じ,職権探知主義との境界が曖昧になることも指摘できるとしている。
採点実感は,私的自治の原則がなぜ訴訟法に適用されるのかを説明した答案を高く評価し,当事者の意思の尊重だけを根拠とする答案,不意打ち防止を根拠に挙げながら「不意打ちはないが違反」とする答案,「合理的意思」を持ち出す答案を不十分とした。
答案は,権利関係を当事者が実体法上自由に処分できる以上,判断の基礎となる事実の提出も当事者に委ねなければ私的自治と矛盾するという形で架橋し,不意打ち防止は根拠ではなく機能であると位置付け,Y(L2)の明示の不主張の意思を当てはめた。

(7) 設問3課題③(法的観点指摘義務)

設問3課題③について,出題の趣旨は,法的構成の判断は原則として裁判所の権限に属するが,法的構成と事実の主張・立証は深く結び付いており,判決における不意打ち防止の要請が法的観点にも及ぶとすれば,弁論権の実質的保障のため裁判所は法的観点の指摘義務を負い,その理論構成として釈明権の機能を法的構成まで拡充する必要がある,という筋道を示し,参考判例として平成22年判決を挙げる。
採点実感は,法的観点の指摘の問題を事実の主張を促す釈明の問題として論じた答案が少なくなかったことを指摘し,弁論準備手続の終結時の争点の確認を挙げた答案を高く評価し,証拠調べ後・口頭弁論終結前という段階を踏まえることが大切であるとした。
答案は,事実は主張されている前提であることを冒頭で確認して事実主張の釈明と区別し,出題の趣旨の筋道のとおり理由を重ね,当てはめでは争点の確認,心証形成の段階及び当事者双方の期待可能性を挙げた。

(8) 答案の弱点と扱っていない事項

答案の弱点は次の2点である。
第一に,平成22年判決は,当事者の主張しない信義則違反の法律構成を採るに当たり釈明権の行使を怠った違法を認めたものであり,「法的観点指摘義務」という語を用いたものではないため,答案は「参照」として示した。
第二に,「遺産の共有は民法上の共有と解される」との記述は確立した判例の立場によるものであるが,本記事の作成に当たってその判例の原文は確認していない。

設問2では,課題が信義則違反の主張のまとめを求めるものであるため,224条2項・1項による真実擬制の効果やその要件(提出義務,使用を妨げる目的)は答案で扱っていない。

設問3課題①で検討の必要がないとされた弁論主義の適用が主要事実に限られるか否かと,各設問で考慮しなくてよいとされた後続の事実関係は,答案では扱っていない。

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第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題(民事系科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(民事系科目)

2 法令

①民事訴訟法(e-Gov法令検索)
②民法(e-Gov法令検索)

3 裁判例

①最高裁判所第三小法廷平成元年3月28日判決(昭和60年(オ)第727号,民集43巻3号167頁)
②最高裁判所第一小法廷昭和61年3月13日判決(昭和57年(オ)第184号,民集40巻2号389頁)
③最高裁判所第一小法廷平成20年7月17日判決(平成18年(受)第1818号,民集62巻7号1994頁)
④最高裁判所大法廷昭和41年3月2日決定(昭和39年(ク)第114号,民集20巻3号360頁)
⑤最高裁判所第三小法廷昭和30年12月26日判決(昭和27年(オ)第683号,民集9巻14号2082頁)
⑥最高裁判所第三小法廷昭和47年2月15日判決(昭和43年(オ)第627号,民集26巻1号30頁)
⑦最高裁判所第一小法廷昭和55年2月7日判決(昭和52年(オ)第1144号,民集34巻2号123頁)
⑧最高裁判所第一小法廷平成22年10月14日判決(平成20年(受)第1590号,集民235号1頁)

4 確認状態

出題の趣旨は,民事系科目第3問の部分を全て読み,法務省掲載のPDFとファイルサイズが一致することを確認した。

採点実感は,民事系科目のPDF(上記⑦)のうち第3問の部分(18頁から25頁まで)を全て読んだ。

採点実感は,平成20年判決を「提訴に同調しない相続人」を被告とすることを認めた判例と記載しているが,同判決は入会集団の構成員に関する判断であり,本記事ではその趣旨に沿って記載している。
出題の趣旨は,設問3の冒頭で「黙示の贈与」と記載しているが,問題文は死因贈与の黙示の合意を問題としており,本記事は問題文の記載による。

裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,引用した判示の趣旨を確認した。
模範解答の「遺産共有は民法上の共有と解される」との記述は確立した判例の立場によるものであるが,本記事の作成に当たってその判例の原文は確認していない。

条文は,e-Gov法令検索で,令和7年1月1日時点の民事訴訟法及び民法の規定を確認した。