第1 地図に島名があっても海域の権利は決まらない
海上の地形については,誰が領有するか,地形がどの法的類型に当たるか,そこからどの海域の権利が生じるか,隣接国との境界がどこかを分けて検討する必要がある。
国連海洋法条約121条の島,3項の岩,13条の低潮高地及び60条の人工島は,海域の権利に関する扱いが異なる。
本記事はこれらの区別と立証資料の読み方を扱い,特定の島の領土帰属や沖ノ鳥島等の具体的な分類を判断するものではない。
海域全体の制度は,国連海洋法条約の全体像を,資源への権利の違いは,EEZと大陸棚の違いを参照されたい。
第2 121条の島と岩
121条1項は,島を,自然に形成された陸地で,水に囲まれ,高潮時にも水面上にあるものと定義する。
同条2項は,3項の例外を除き,島の領海,接続水域,排他的経済水域及び大陸棚を,他の陸地に適用される条約の規定に従って定める。
しかし,それだけで隣接国との境界が常に島から200海里の線になるわけではない。
同条3項は,人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩について,排他的経済水域と大陸棚を持たないとする。
同項は領海まで否定する規定ではない。
また,地名に「島」又は「岩」とあることだけで,条約上の分類が決まるものでもない。
第3 13条の低潮高地
13条1項の低潮高地は,低潮時には水面上にあるが高潮時には水没する,自然に形成された陸地である。
その全部又は一部が本土又は島から領海の幅を超えない距離にある場合,その低潮線を領海の幅を測る基線として用いることができる。
全部がその距離を超えて位置する低潮高地には,それ自体の領海がないと同条2項は定める。
したがって,「低潮高地だから常に基線と無関係」とも,「低潮時に見えるので独自の領海がある」とも説明できない。
高潮・低潮の状態と,本土又は島からの位置関係を併せて確かめる必要がある。
この規定は通常の低潮高地の基線利用に関するものであり,直線基線等の別の制度の要件まで省略してよいという意味ではない。
第4 埋立てと人工島
60条8項は,人工島,施設及び構築物は島の地位を有せず,それ自体の領海を持たず,領海・排他的経済水域・大陸棚の境界画定に影響しないと定める。
同条4項・5項の安全水域は,航行と施設等の安全のための制度であり,人工島の周囲に領海を作る制度ではない。
人工的な造成や外部からの物資の供給によって,元の自然地形の法的分類が当然に変わるとはいえない。
ただし,人工島の建設・利用が無規律という意味でもない。
排他的経済水域では60条1項・2項の沿岸国の権利と管轄権を,大陸棚では80条による60条の準用を確認する必要がある。
条約の英語原文は,国連掲載の本文で確認できる。
https://www.un.org/Depts/los/convention_agreements/texts/unclos/unclos_e.pdf
第5 2016年南シナ海仲裁判断の読み方
2016年7月12日の南シナ海仲裁判断は,国連海洋法条約の解釈・適用に関する判断であり,南シナ海のすべての陸地の領有国を決めたものではない。
海洋境界の画定についての判断とも区別する必要がある。
同判断540項は,121条3項の岩を,岩石でできた地形だけに限定していない。
541項は,人間の居住又は独自の経済的生活を維持する能力について,それを増やすための外部からの追加・改変を除いた自然の能力に基づいて判断するとする。
542項は,人間の居住について,その地形を生活の本拠とする安定した共同体という観点を示す。
この判断の具体的な地形に関する事実認定を,別の地形へ資料の検討なしに移し替えることはできない。
判断原文は次の資料を参照されたい。
https://docs.pca-cpa.org/2016/07/PH-CN-20160712-Award.pdf
第6 証拠を集めるときの確認表
| 確認する事実 | 有用な資料 | その資料だけでは決まらないこと |
|---|---|---|
| 高潮時に水面上にあるか | 測量,潮汐資料,造成前の海図・写真 | 領有国,境界線 |
| 自然の居住・経済的能力 | 水・食料・居住の実態,造成・供給の記録 | 現在の施設や駐留人数だけからの121条3項の結論 |
| 低潮高地と本土・島との距離 | 基線資料,測地系を特定した海図・座標 | 陸地の領有権 |
| 人工的な改変の有無と時期 | 造成前後の写真,工事記録,測量 | 改変後の面積からの自然地形の分類 |
| 海域の重なりと境界 | 関係国の主張,境界協定,裁判・仲裁判断 | 地形の分類だけからの最終境界 |
写真や海図は,撮影・測量の日,潮位,作成主体,縮尺及び測地系まで記録しておく必要がある。
政府の地図や現地施設の存在は重要な調査資料になり得るが,それだけで領土主権,地形の類型及び境界画定を一度に立証できるわけではない。
具体例は,マレーシア・ブルネイの南沙諸島南部の資料を読む記事で整理している。