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南沙諸島南部のマレーシア・ブルネイの主張と実効支配――1979年地図・海域図・2009年書簡交換をどう読むか(AI作成)

マレーシアとブルネイの南沙諸島南部に関する公表資料を、地図・海域・各礁の活動に分けて検討します。

第1 結論と資料の到達範囲

マレーシアの1979年地図と国会答弁は,同国による南沙諸島南部の主張を調べる出発点である。他方,ブルネイの排他的経済水域宣言と2009年のマレーシア・ブルネイ間の書簡交換を,ルイーザ礁その他の個別の礁の領有権が確定した証拠として扱うことはできない。本記事は,令和8年10月3日までに確認した公表資料から,地図による主張,海域への権利,現地での活動を分けて整理する。 1979年地図については後年の政府報告書に掲載された複製を確認したが,当時の配布原図を取得していない。ブルネイの排他的経済水域宣言5条が指定する寄託図,2009年書簡交換の全文・附属図・境界点座標も確認していない。このため両国の線を精密に重ね合わせたり,ルイーザ礁を通る境界点を示したりしない。

第2 領土,海域及び地形の性質

1 平和条約第2条(f)

サンフランシスコ平和条約第2条(f)は,日本が新南群島及び西沙群島への権利,権原及び請求権を放棄すると定めるが,受領国は指定していない。この条項だけで南沙の個別の礁の帰属は決められない。詳しくは条約第2条の領土問題及び南シナ海の個別島嶼を参照されたい。

2 海域への権利と礁の領有権

国連海洋法条約13条は低潮高地を,同121条は島と岩の海洋権益を扱う。排他的経済水域・大陸棚の資源への主権的権利と,高潮時にも水面上にある陸地への領有権は異なる。2016年の南シナ海仲裁判断も地形の自然状態と海洋権益を判断し,陸地の領有権や海洋境界の画定は判断していない。

第3 マレーシアの1979年地図と行政資料

1 後年の複製と国会答弁

マレーシアの2024年王立調査委員会報告書の印刷頁33・35には,1979年地図のSyit 1・Syit 2の複製がある。南シナ海側を含むSyit 2には報告書の透かしが重なる。この複製を1979年の配布原図そのものとは呼べず,図中座標の高精細な校合と測地系の確認も完了していない。 1987年6月29日の国会会議録では,政府側が1979年地図による主張,ベトナムの異議及び1983年からの部隊配置を説明した。地図は同国の主張と表示を示す資料であり,それだけで対立国に対抗できる権原が確定したとはいえない。

2 ラヤンラヤン礁

1983年10月12日の国会会議録は,ラヤンラヤン礁へのマレーシア軍の存在とベトナムの抗議を記す。2021年の首相府書面答弁・質問287は,同礁を1979年地図に基づく自国海域内に位置付け,滑走路・桟橋の維持及び連邦政府による管理を説明する。2026年6月16日の国防省発表も海軍のStesen LIMAの運用を記す。これらは主張と現地活動を示すが,領有権紛争を裁定した資料ではない。

3 ウビ・マンタナニ・シプット・ペニンジャウ

2016年11月7日の国会答弁104頁は,Gugusan Semarang Peninjauの範囲としてラヤンラヤン,ウビ,マンタナニ,シプット,ペニンジャウを列挙し,同海域で勤務する軍人の手当を説明する。前記2021年答弁もこれらを列挙する。ただし,その列挙と手当の説明だけで,4礁それぞれの配備開始日,継続的な常駐,個別施設及び埋立て前の自然状態までは確定しない。

第4 ブルネイの海域資料とルイーザ礁

1 排他的経済水域宣言と寄託図

ブルネイの排他的経済水域宣言4条は海域の外縁と東西の側方境界を定め,5条は大縮尺図を測量総監室に寄託すると定め,7条は資源探査・利用等に関する主権的権利と管轄権を定める。確認した公開法令PDFに寄託図そのものはなく,後年の境界線と同一視しない。生物多様性条約第5回国別報告の概略図は海域の概観を示すが,寄託図又は2009年の境界点座標ではない。

2 ルイーザ礁付近の活動

ブルネイ海軍の2024年刊行物10頁には,2009年にルイーザ礁付近で撮影された哨戒時の写真説明がある。これは付近での哨戒を示すにとどまり,礁上の恒常的施設,礁そのものへの明示的な領有宣言,又は自然状態での高潮時地形を証明しない。排他的経済水域宣言と国連への大陸棚暫定提出だけを根拠に「ブルネイがルイーザ礁を島として領有する」と断定できない。

第5 2009年書簡交換で分かること

両国首脳の2009年3月共同声明は,書簡交換に海洋境界の最終画定等が含まれると公表した。ブルネイの国連大陸棚暫定提出3頁10項は,3月16日の書簡交換によって領海・排他的経済水域・大陸棚の200海里までの境界が画定されたと説明する。 確認できた公表資料には書簡の全文,附属図,境界点座標及び測地系の転載がない。境界が画定されたという政府説明と,境界線がルイーザ礁のどちら側を通るかという個別の立証を区別する。海域の境界画定を,礁の自然状態や領有権を判断した合意とも読み替えられない。

第6 弁護士実務での資料確認

地図を証拠に用いる際は,作成主体,作成年,原図か複製か,図葉,凡例,測地系,座標及び当事国による異議を一組として確認する。政府答弁は当該政府の主張と行政活動を示すが,その正しさを中立的に認定した判決ではない。哨戒,施設,滑走路及び軍人への手当についても,行為の場所・期間・主体を個別に立証する必要がある。 本記事で確認できたのは,ラヤンラヤン礁におけるマレーシアの管理活動,ほか4礁に関する政府答弁,ブルネイの一般的な海域法令とルイーザ礁付近の哨戒,及び2009年境界画定に関する政府説明である。個別の領有権や境界点の結論には,未取得の図面・書簡本文と地形ごとの史料を要する。

第7 主な出典と関連記事

1979年地図の複製を収録する2024年マレーシア王立調査委員会報告書(印刷頁33・35),ブルネイ排他的経済水域宣言,ブルネイの2009年国連大陸棚暫定提出。関連記事は平和条約第2条と南シナ海の個別島嶼及び条約第2条と領土問題である。