令和2年司法試験の民事訴訟法について,敷金返還の訴えの利益,和解発言の心証資料性,共同訴訟の一部取下げと証拠共通を整理し,約5000字の模範解答と59の評価項目を示す。
第1 この記事の対象と結論
対象は法務省の令和2年司法試験民事系科目第3問(民事訴訟法)である。出題の趣旨と採点実感の本問に関する全範囲から独自に59項目を抽出した。公式の採点基準・項目別配点を再現したものではない。
答案は,将来給付の指定された固定額請求を不適法とし,現在の条件付き敷金返還権の確認を構成する。和解面接の発言は民訴法247条の資料に含めない。明渡義務は各共同相続人の不可分債務と解し,通常共同訴訟としてY2のみの取下げを認め,既に取り調べた日誌はX・Y1間で利用できるとする。公式が別構成を許容する部分は,第4と第5の解説で条件を示す。
重み5は23項目である。対象番号と内容は,第4の重みの分布に全件示す。高評価や条件付き分岐を含み,全23項目を全答案の累積必須事項とするものではない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は一つの判定対象ごとに言い換え,番号を記事全体で連続させた。「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」と重みは別の分類である。負例は避けるべき誤り,許容分岐は採用した構成に応じて検討する事項を意味する。根拠欄はPDFの物理頁と当該設問を示す。「記載なし」は本問の関連範囲を全部読んだ結果を意味する。一般的な答案作法は評価項目数へ算入しない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5=答案の骨格,又は採点実感が深度の分かれ目を示した事項。重み4=出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。重み3=一方の資料が明示する中核の理由付け。重み2=軽い表現の補強又は典型的な誤り。重み1=控えめに触れる事項。本問の重み4を一律に「高く評価した事項」とは表示しない。重み1が0件でも,他の段階へ件数を割り当てて調整しない。
第3 本問の概要
XがAへ月額20万円で建物を賃貸した後,Aが死亡し,子Y1・Y2が各2分の1で相続した。XはAとの解約合意を主張するが,Y1は契約継続を希望する。授受済み120万円についてY2は敷金,Xは礼金と主張し,明渡し時期は決まっていない。
設問1は,明渡しを条件とする60万円の将来給付と,その訴えが不適法な場合の確認の利益を問う。応訴負担は検討対象外である。設問2は,交互面接による不成立和解の発言を心証形成に用いられない理由を問う。設問3は,Y2だけに対する訴えの取下げと,それ以前にY2が提出し取り調べられたAの日誌の利用を問う。課題2では取下げが適法という仮定を維持する。配点割合は設問1・2・3で40:20:40である。
第4 評価項目と重み
1 設問1・課題1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 明渡し前には被担保債務控除後の返還権の成否・額が具体化しないと説明する。 【必須】 | 5 | 12頁・設問1・課題1:請求権の成否及び額が明確に定まらない | 17頁・設問1・課題1:請求権の成否及び額が明確に定まらない |
| 2 | 判断の基準時を事実審口頭弁論終結時に置く。 【必須】 | 4 | 12頁・設問1・課題1:事実審の口頭弁論終結時 | 17頁・設問1・課題1:事実審の口頭弁論終結時 |
| 3 | 民訴法135条のあらかじめ請求する必要に言及する。 【必須】 | 4 | 12頁・設問1・課題1:第135条 | 17頁・設問1・課題1:第135条 |
| 4 | 条件付であるだけで当然に将来給付の訴えが適法とはしない。 【必須】 | 5 | 12頁・設問1・課題1:成否及び額が定まらない請求権 | 17頁・設問1・課題1:成否及び額が定まらない請求権 |
| 5 | 請求の適格と狭義の必要性を区別し,採用枠組みを一貫させる。 【許容分岐】 | 4 | 12頁・設問1・課題1:権利保護の資格 | 17頁・設問1・課題1:権利保護の資格 |
| 6 | 発生蓋然性と現在の行使必要性を総合する構成も許容される。 【許容分岐】(条件:総合判断説を採る答案) | 4 | 12頁・設問1・課題1:総合的に判断 | 17頁・設問1・課題1:総合的に判断 |
| 7 | 三要件を用いるなら,基礎関係の存在と継続予測を示す。 【許容分岐】(条件:三要件で判断する答案) | 4 | 12頁・設問1・課題1:判断基準を用いることが適当か | 17頁・設問1・課題1:その継続が予測される |
| 8 | 三要件を用いるなら,将来変動が明確に予測できる事由に限られることを示す。 【許容分岐】(条件:三要件で判断する答案) | 4 | 12頁・設問1・課題1:判断基準を用いることが適当か | 17頁・設問1・課題1:明確に予測し得る事由に限られ |
| 9 | 三要件を用いるなら,請求異議と立証負担を課す衡平を示す。 【許容分岐】(条件:三要件で判断する答案) | 5 | 12頁・設問1・課題1:請求異議の訴えを提起 | 17頁・設問1・課題1:その発生を証明してのみ執行を阻止 |
| 10 | 継続的不法行為等の三要件を敷金へ用いることの適合性を吟味する。 【高評価】 | 5 | 12頁・設問1・課題1:判断基準を用いることが適当かどうか | 17頁・設問1・課題1:同様に当てはまるかどうか |
| 11 | 将来の賃料滞納により残額・権利成立が変わると具体的に評価する。 【必須】 | 4 | 12頁・設問1・課題1:敷金の被担保債権一切を控除 | 17頁・設問1・課題1:今後の賃料の滞納の可能性 |
| 12 | 現在の修繕不要から明渡し時の原状回復債務不存在を導かない。 【必須】 | 4 | 12頁・設問1・課題1:本件におけるXとY2間の争いの状況 | 17頁・設問1・課題1:明渡しの時の原状回復の必要性 |
| 13 | 明渡し時期が債務者Xでなく債権者側,特にY1に依存することを負担評価へ接続する。 【高評価】 | 5 | 12頁・設問1・課題1:Y1がXとAとの間 | 17頁・設問1・課題1:債務者(X)ではなく |
| 14 | Xの礼金主張による返還義務否定を早期確定の必要性へ対応させる。 【必須】 | 4 | 12頁・設問1・課題1:敷金であることを否定 | 16頁・設問1・課題1:敷金であることを否定 |
| 15 | 60万円固定の債務名義と将来控除額変動が生む請求異議負担を具体化する。 【必須】 | 5 | 12頁・設問1・課題1:将来の強制執行に対する防御 | 17頁・設問1・課題1:将来の強制執行に対する防御 |
| 16 | 敷金の特質を列挙するだけでなく採用基準・結論へ接続する。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 17頁・設問1・課題1:どのように考慮されているのかが不明 |
| 17 | 根拠なく請求異議負担が不当又は不当でないと結論だけを置かない。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 17頁・設問1・課題1:何らの具体的な根拠を示すことなく |
2 設問1・課題2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 18 | 確認という方法の適切性を現在給付・将来給付が使えない事情と関連付ける。 【必須】 | 4 | 13頁・設問1・課題2:方法を選択することの適切性 | 18頁・設問1・課題2:方法を選択することの適切性 |
| 19 | 確認対象となる権利又は法律関係を具体的に特定する。 【必須】 | 5 | 13頁・設問1・課題2:確認対象の適切性 | 18頁・設問1・課題2:確認対象の適切性 |
| 20 | 即時確定の必要性を,特定した法的地位への現実の不安と関連付ける。 【必須】 | 5 | 13頁・設問1・課題2:即時確定の必要性 | 18頁・設問1・課題2:十分に具体化,現実化 |
| 21 | 現在の条件付き権利説では,現在の法的地位と未具体化の給付額を分ける。 【許容分岐】(条件:現在の条件付き権利説を採る答案) | 5 | 13頁・設問1・課題2:給付訴訟との違いを示し | 18頁・設問1・課題2:給付訴訟との違いを意識的に |
| 22 | 将来法律関係説でも,現在の紛争と即時確定の必要を具体的に論証する。 【許容分岐】(条件:将来法律関係説を採る答案) | 4 | 13頁・設問1・課題2:将来の権利又は法律関係 | 18頁・設問1・課題2:将来の権利又は法律関係 |
| 23 | 礼金か敷金かの現実の紛争を確認判決が除去する関係を示す。 【必須】 | 4 | 13頁・設問1・課題2:敷金でないと争っている | 18頁・設問1・課題2:敷金でないと争っている |
| 24 | 確認の利益を,主文で基礎的返還義務を既判力確定する必要へ接続する。 【必須】 | 5 | 13頁・設問1・課題2:基準時に確定する必要 | 18頁・設問1・課題2:基準時に確定する必要 |
| 25 | 過去の授受という事実だけを無留保に確認対象としない。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 18頁・設問1・課題2:過去の事実や過去の法律関係を無留保 |
| 26 | 過去の基礎法律関係を対象とする枝では,直接かつ抜本的解決の機能を説明する。 【許容分岐】(条件:過去の法律関係説を採る答案) | 3 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 18頁・設問1・課題2:直接かつ抜本的な解決の機能 |
| 27 | Xの態度だけでなく,特定した権利の具体化と確認判決の必要性を多角的に論ずる。 【高評価】 | 5 | 13頁・設問1・課題2:本件の紛争状況 | 19頁・設問1・課題2:多角的に論証 |
3 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 28 | 民訴法247条が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に心証資料を限ると指摘する。 【必須】 | 5 | 13頁・設問2:第247条 | 19頁・設問2:第247条 |
| 29 | 口頭弁論の全趣旨の意義を,訴訟に関する裁判官の私的知識と区別して説明する。 【必須】 | 5 | 13頁・設問2:これらに当たらないこと | 19頁・設問2:口頭弁論の全趣旨」の意義 |
| 30 | 個別和解面接の発言は口頭弁論の全趣旨に当たらないと当てはめる。 【必須】 | 4 | 13頁・設問2:当事者の発言がこれらに当たらない | 19頁・設問2:当事者の発言がこれらに当たらない |
| 31 | 和解面接は当事者尋問等でなく,発言は証拠調べの結果にも当たらないと説明する。 【必須】 | 4 | 12頁・設問2:証拠調べの結果 | 19頁・設問2:証拠調べの結果 |
| 32 | 和解発言を判決資料に用いると自由な発言・譲歩を萎縮させる理由を説明する。 【必須】 | 4 | 13頁・設問2:自由な発言を阻害 | 19頁・設問2:自由な発言を阻害 |
| 33 | 交互面接では情報共有・反論の機会が欠けることを具体的に説明する。 【高評価】 | 5 | 13頁・設問2:情報の共有や反論の機会 | 19頁・設問2:情報の共有や反論の機会 |
| 34 | 利用弊害を発言萎縮だけに限定せず多角的に検討する。 【高評価】 | 5 | 13頁・設問2:より実質的な観点 | 19頁・設問2:多角的に検討 |
| 35 | 本問を弁論主義の問題として長々と論ずることを避ける。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 19頁・設問2:弁論主義について延々と論じて |
| 36 | 手続保障を欠くという抽象語だけで利用弊害の説明を終えない。 【負例】 | 2 | 13頁・設問2:単に「手続保障を欠く」 | 19頁・設問2:より実質的な観点から具体的 |
4 設問3・課題1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 37 | 通常共同訴訟か固有必要的共同訴訟かを訴訟共同の必要から区分する。 【必須】 | 5 | 13頁・設問3・課題1:訴訟共同の必要 | 20頁・設問3・課題1:訴訟共同の必要 |
| 38 | 通常説では相続財産共有の性質を通常の共有と異ならないものとして検討する。 【許容分岐】(条件:通常共同訴訟説を採る答案) | 4 | 13頁・設問3・課題1:第249条以下の共有と性質を異にするものではない | 20頁・設問3・課題1:第249条以下の共有と性質を異にするものではない |
| 39 | 通常説では明渡義務の不可分性と各義務者の全部履行義務を示す。 【許容分岐】(条件:通常共同訴訟説を採る答案) | 5 | 13頁・設問3・課題1:建物明渡義務が不可分債務 | 20頁・設問3・課題1:建物明渡義務が不可分債務 |
| 40 | 通常説では民訴法39条の共同訴訟人独立を一部取下げへ接続する。 【許容分岐】(条件:通常共同訴訟説を採る答案) | 5 | 13頁・設問3・課題1:第39条 | 20頁・設問3・課題1:第39条 |
| 41 | 固有必要説では,合一確定に加え全員の訴訟共同が必要な理由を示す。 【許容分岐】(条件:固有必要的共同訴訟説を採る答案) | 4 | 13頁・設問3・課題1:説得力のある理由 | 20頁・設問3・課題1:合一的確定の必要と訴訟共同の必要 |
| 42 | 固有必要説では,民訴法40条と全員の当事者適格喪失を一部取下げ無効へ接続する。 【許容分岐】(条件:固有必要的共同訴訟説を採る答案) | 4 | 13頁・設問3・課題1:取下げをすることはできない | 20頁・設問3・課題1:全員の当事者適格を失わせる |
| 43 | 不可分という語感だけで固有必要的共同訴訟を基礎付けない。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 20頁・設問3・課題1:「不可分」という語の語感 |
| 44 | 固有必要説を採りながら一部取下げ有効とする内部矛盾を避ける。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 20頁・設問3・課題1:根拠と結論との整合性 |
| 45 | 固有必要と類似必要を混同し,類似必要とする無根拠な分類をしない。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 21頁・設問3・課題1:類似必要的共同訴訟の区別 |
| 46 | 民訴法261条1項の一部取下げを本件のY2に対する取下げとして具体化する。 【必須】 | 4 | 13頁・設問3・課題1:取下げをすることができる | 20頁・設問3・課題1:第261条第1項 |
| 47 | 共同訴訟の類型名だけで止めず,Y2に対する取下げ可否の結論を示す。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 21頁・設問3・課題1:取下げができるかどうかについての結論 |
5 設問3・課題2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 48 | 課題1の立場にかかわらず,Y2に対する適法な取下げという仮定を維持する。 【必須】 | 4 | 13頁・設問3・課題2:適法にY2に対する訴えのみ | 21頁・設問3・課題2:適法にY2に対する訴えのみ |
| 49 | 共同訴訟人独立の例外として証拠共通を位置付ける。 【必須】 | 4 | 14頁・設問3・課題2:証拠共通の原則 | 21頁・設問3・課題2:その例外として |
| 50 | 証拠共通は援用なしでも他の共同訴訟人の認定資料となることと説明する。 【必須】 | 5 | 14頁・設問3・課題2:その援用がなくとも | 21頁・設問3・課題2:その援用がなくとも |
| 51 | 提出者Y2の証拠がX・Y1間で共通利用される方向を明示する。 【必須】 | 4 | 14頁・設問3・課題2:XとY1との関係 | 21頁・設問3・課題2:誰と誰との間の規律 |
| 52 | 事実の統一的認定を証拠提出者別に分断するのは自由心証の不当な制約と説明する。 【必須】 | 4 | 14頁・設問3・課題2:認められる根拠 | 21頁・設問3・課題2:自由心証主義の不当な制約 |
| 53 | 他の共同訴訟人にも証拠調べに関わり反証する機会があることを根拠にする。 【高評価】 | 5 | 14頁・設問3・課題2:認められる根拠 | 21頁・設問3・課題2:他の共同訴訟人の手続保障 |
| 54 | 民訴法262条1項の取下部分の係属の遡及的消滅を示す。 【必須】 | 5 | 14頁・設問3・課題2:第262条第1項 | 21頁・設問3・課題2:第262条第1項 |
| 55 | 取下げで証拠申出・調べの効果も失われるかという衝突を独立に検討する。 【必須】 | 5 | 14頁・設問3・課題2:証拠共通に影響を与えるのではないか | 21頁・設問3・課題2:証拠共通に影響を与えるのではないか |
| 56 | 利用肯定説では,証拠調べ終了後の撤回禁止と相手方の証拠利益を論拠として示す。 【許容分岐】(条件:証拠利用肯定説を採る答案) | 4 | 14頁・設問3・課題2:証拠調べの終了後においては許されない | 21頁・設問3・課題2:証拠調べの終了後においては許されない |
| 57 | 利用肯定説では,存続するX・Y1間で既に生じた別の訴訟法律関係の効果が残ると説明する。 【許容分岐】(条件:証拠利用肯定説を採る答案) | 5 | 14頁・設問3・課題2:別の訴訟法律関係が生じている | 22頁・設問3・課題2:別個の訴訟法律関係が生じている |
| 58 | 利用否定説では,遡及消滅と同意ある撤回を実質的な消滅同意へ接続する。 【許容分岐】(条件:証拠利用否定説を採る答案) | 4 | 14頁・設問3・課題2:消滅に同意をしている | 22頁・設問3・課題2:消滅に同意をしている |
| 59 | 一度できた心証は消せないという心理的事情だけを根拠にしない。 【負例】 | 2 | 記載なし(第3問関連範囲実読) | 22頁・設問3・課題2:一度形成された心証は消せない |
6 答案全体
一般的な指摘:条文番号・法令用語を正確にし,会話で指示された全課題へ答える。基準だけを暗記して列挙せず,具体的事実から結論までの接続を示す。設問外の礼金の本案立証や解約合意の実体的成否へ長い紙幅を割かない。これらは重みを付さないため,59項目及び重み合計には含めていない。
7 重みの分布
重み1:0件,重み2:10件,重み3:1件,重み4:25件,重み5:23件。総項目数N=59,重み合計W=238。合計は公式得点・難易度・合格可能性を示さない。
番号1:明渡し前には被担保債務控除後の返還権の成否・額が具体化しないと説明する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:明渡し前には被担保債務控除後の返還権の成否・額が具体化しないと説明する。。
番号4:条件付であるだけで当然に将来給付の訴えが適法とはしない。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:条件付であるだけで当然に将来給付の訴えが適法とはしない。。
番号9:三要件を用いるなら,請求異議と立証負担を課す衡平を示す。 条件:三要件で判断する答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:三要件を用いるなら,請求異議と立証負担を課す衡平を示す。。
番号10:継続的不法行為等の三要件を敷金へ用いることの適合性を吟味する。 条件:全答案。採点実感で十分な検討の乏しさ又は多角的検討による深度差が示されるため,この理由付けを重点化する。判定対象:継続的不法行為等の三要件を敷金へ用いることの適合性を吟味する。。基準の抽象提示はあるが,敷金の担保性と先例の権利構造の比較を明示していない。
番号13:明渡し時期が債務者Xでなく債権者側,特にY1に依存することを負担評価へ接続する。 条件:全答案。採点実感で十分な検討の乏しさ又は多角的検討による深度差が示されるため,この理由付けを重点化する。判定対象:明渡し時期が債務者Xでなく債権者側,特にY1に依存することを負担評価へ接続する。。Y1依存は書いたが,債務者Xには統御できないという対称比較が明示されていない。
番号15:60万円固定の債務名義と将来控除額変動が生む請求異議負担を具体化する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:60万円固定の債務名義と将来控除額変動が生む請求異議負担を具体化する。。
番号19:確認対象となる権利又は法律関係を具体的に特定する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:確認対象となる権利又は法律関係を具体的に特定する。。
番号20:即時確定の必要性を,特定した法的地位への現実の不安と関連付ける。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:即時確定の必要性を,特定した法的地位への現実の不安と関連付ける。。
番号21:現在の条件付き権利説では,現在の法的地位と未具体化の給付額を分ける。 条件:現在の条件付き権利説を採る答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:現在の条件付き権利説では,現在の法的地位と未具体化の給付額を分ける。。
番号24:確認の利益を,主文で基礎的返還義務を既判力確定する必要へ接続する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:確認の利益を,主文で基礎的返還義務を既判力確定する必要へ接続する。。両資料の確定必要性と設問Lの既判力指定を合わせた具体化。条文は独立確認済み。
番号27:Xの態度だけでなく,特定した権利の具体化と確認判決の必要性を多角的に論ずる。 条件:全答案。採点実感で十分な検討の乏しさ又は多角的検討による深度差が示されるため,この理由付けを重点化する。判定対象:Xの態度だけでなく,特定した権利の具体化と確認判決の必要性を多角的に論ずる。。
番号28:民訴法247条が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に心証資料を限ると指摘する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:民訴法247条が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果に心証資料を限ると指摘する。。
番号29:口頭弁論の全趣旨の意義を,訴訟に関する裁判官の私的知識と区別して説明する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:口頭弁論の全趣旨の意義を,訴訟に関する裁判官の私的知識と区別して説明する。。
番号33:交互面接では情報共有・反論の機会が欠けることを具体的に説明する。 条件:全答案。採点実感で十分な検討の乏しさ又は多角的検討による深度差が示されるため,この理由付けを重点化する。判定対象:交互面接では情報共有・反論の機会が欠けることを具体的に説明する。。
番号34:利用弊害を発言萎縮だけに限定せず多角的に検討する。 条件:全答案。採点実感で十分な検討の乏しさ又は多角的検討による深度差が示されるため,この理由付けを重点化する。判定対象:利用弊害を発言萎縮だけに限定せず多角的に検討する。。
番号37:通常共同訴訟か固有必要的共同訴訟かを訴訟共同の必要から区分する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:通常共同訴訟か固有必要的共同訴訟かを訴訟共同の必要から区分する。。
番号39:通常説では明渡義務の不可分性と各義務者の全部履行義務を示す。 条件:通常共同訴訟説を採る答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:通常説では明渡義務の不可分性と各義務者の全部履行義務を示す。。
番号40:通常説では民訴法39条の共同訴訟人独立を一部取下げへ接続する。 条件:通常共同訴訟説を採る答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:通常説では民訴法39条の共同訴訟人独立を一部取下げへ接続する。。
番号50:証拠共通は援用なしでも他の共同訴訟人の認定資料となることと説明する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:証拠共通は援用なしでも他の共同訴訟人の認定資料となることと説明する。。
番号53:他の共同訴訟人にも証拠調べに関わり反証する機会があることを根拠にする。 条件:全答案。採点実感で十分な検討の乏しさ又は多角的検討による深度差が示されるため,この理由付けを重点化する。判定対象:他の共同訴訟人にも証拠調べに関わり反証する機会があることを根拠にする。。
番号54:民訴法262条1項の取下部分の係属の遡及的消滅を示す。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:民訴法262条1項の取下部分の係属の遡及的消滅を示す。。
番号55:取下げで証拠申出・調べの効果も失われるかという衝突を独立に検討する。 条件:全答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:取下げで証拠申出・調べの効果も失われるかという衝突を独立に検討する。。
番号57:利用肯定説では,存続するX・Y1間で既に生じた別の訴訟法律関係の効果が残ると説明する。 条件:証拠利用肯定説を採る答案。この要件・効果・構成の橋を欠くと当該課題の主ルートが閉じないため,答案の骨格とする。判定対象:利用肯定説では,存続するX・Y1間で既に生じた別の訴訟法律関係の効果が残ると説明する。。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施日である令和2年8月13日に施行されていた法令を基準とする。答案本文は改行を除いて5000字である。数字・句読点は全角数字と「,」「。」を基本とする。公式の許容分岐のうち,現在の条件付き権利,通常共同訴訟,証拠利用肯定の各立場を一貫して採用する。
2 答案
1 設問1
(1) 課題1―将来給付の訴え
ア 敷金返還請求権は,賃貸借終了後,賃貸物が明け渡された時に,それまでの被担保債務を控除した残額について発生するという設問の前提に従う。本件では,Y1が解約合意を争っており,建物はまだ明け渡されていない。事実審の口頭弁論終結時という既判力の基準時にも,返還請求権の成否及び額は具体化しない。したがって,Y2が直ちに60万円の給付を求めることはできず,明渡しを条件として将来の給付を求める訴えの適法性が問題となる。相続分が2分の1であることは請求額の設定を説明するが,将来給付の適法性を当然に基礎付けるものではない。
イ 民事訴訟法135条は,あらかじめ請求をする必要がある場合に限って将来給付の訴えを許す。これは履行期未到来又は条件未成就の請求権について早期の権利保護を認める規定であるが,将来成立するかも内容も分からない請求権を無制限に現在の判決で確定してよいという趣旨ではない。将来給付を求める請求権としての適格と,先に債務名義を得る必要を区別して検討する。
適格の判断では,請求権の基礎となる事実関係・法律関係が既に存在し,その継続が見込まれること,将来の権利の成否及び内容を左右する事情の変動があらかじめ明確に予測できる事由に限られること,その変動を請求異議の訴えで主張立証して執行を阻止すべき負担を被告に課しても不当でないことを考慮すべきである。将来の成立要件を本来原告が証明すべき場合に,現在の債務名義によって被告側に争訟・立証負担を移してよいかが重要である。これらは,継続的不法行為による将来損害等を念頭に置く基準を,本件の敷金へそのまま形式的に適用するための定式ではない。敷金では,既存の担保関係に基づく金銭授受があり,将来の損害が逐次発生する類型とは異なる。しかし,明渡しまで担保される債務によって返還の成否・額が変わり,給付判決が本来の負担を転換する危険は共通する。したがって,本件ではこの危険を吟味する基準として用い,敷金固有の担保性と明渡しの支配主体を具体的に評価する。
ウ 本件では,120万円の授受と賃貸借という基礎関係は既に存在する。Xは返還義務そのものを否定しているので,明渡し後の任意履行を期待できず,早期に権利関係を確定する必要はある。また,現在まで賃料の滞納はなく,X自身が修繕を要しないと述べている。賃料月額も20万円と定まっているから,将来の控除額も把握しやすいとの肯定論が考えられる。
しかし,敷金は,明渡しまでに生じる賃料,明渡し遅滞による損害金その他の賃貸借上の一切の債務を担保する。現在の滞納・修繕必要性の不存在は,将来の債務不存在を意味しない。Y1は契約継続を主張しており,Y2だけでは明渡し時期を確定できない。返還債務者Xの行為ではなく,債権者側,特に継続を希望するY1の意思に明渡しが依存しており,Xは返還額確定の時点やそれまでの控除債務を自ら統御できない。明渡しまでの期間が不明である以上,賃料の不払いや建物の損傷等によって控除額が変わり,60万円の返還が生じるか,その全額が残るかを現在確定することは困難である。
エ 指定された主文は,「Yらから本件建物の明渡しを受けたときは,Y2に60万円を支払え」というものである。明渡しという条件は取り込まれているが,明渡しまでの債務控除による金額変動は取り込まれていない。この主文で債務名義を与えると,明渡し後に返還額が減少した場合,Xは自ら請求異議の訴えを提起し,事情変動を主張立証して執行を防がなければならなくなる。敷金の担保としての性質と,明渡し見通しのない本件で,確定額60万円の執行を阻止するためのこの負担をXに課すのは,当事者間の衡平を欠く。
したがって,返還義務の否定による事前請求の必要性を認める余地があっても,本件の指定された将来給付の訴えは,請求権の適格を欠き,不適法である。問題は応訴の負担ではなく,将来の事情変動を被告の請求異議に委ねる負担である。
(2) 課題2―確認の利益
ア 確認の訴えには,原告の権利又は法律上の地位に現実の危険・不安があり,確認判決によってこれを除去することが必要かつ適切であるという即時確定の利益が必要である。確認対象は,紛争の中核となる法律関係を適切に捉え,既判力による確定が実効的な解決に資するものでなければならない。
イ Y2は,「Y2がXに対し,本件賃貸借が終了し,Yらが本件建物を明け渡したときに,差入敷金120万円から被担保債務額を控除した残額の2分の1の返還を受ける権利を有すること」の確認を求めるべきである。このように,敷金契約に基づく条件付きの返還請求権という現在の法律上の地位を対象とし,明渡し時の確定額60万円を対象としない。
Xは120万円を礼金と主張し,返還義務を全面的に否定している。そのため,Y2の条件付きの返還を受ける地位には現実の不安がある。明渡しの時期が決まらなくても,敷金として交付されたかという基礎関係の争いは既に顕在化している。将来給付の訴えは不適法であり,現時点では現在給付による解決もできないから,確認による解決の必要がある。
ウ 単に「Aが120万円を交付したこと」の確認では,法律関係ではなく過去の事実を対象とし,礼金か敷金かという紛争を十分に解決できない。また,将来の給付訴訟で敷金契約の存在を判決理由中で判断しても,その判断それ自体は民事訴訟法114条1項の既判力で確定されない。条件付きの返還を受ける権利を主文で確認すれば,Xはその基礎的返還義務を改めて否定できなくなる。他方,明渡しまでに生じる債務と最終残額については,後に判断する余地を残せる。これにより,現在の紛争部分だけを確定し,将来の事情変動への対処を不当にXへ転嫁しない。よって,上記確認の訴えには確認の利益が認められる。
2 設問2
(1) 心証形成の法定資料
民事訴訟法247条は,裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌し,自由な心証によって事実認定をすることを定める。証拠調べの結果とは,書証,当事者尋問等の適法な証拠調べによって得られた資料である。口頭弁論の全趣旨とは,口頭弁論に現れた陳述の内容・態度,主張立証活動の経過等を含む訴訟の全体的状況であって,裁判官が訴訟に関連して知り得たあらゆる情報を意味しない。
(2) 本件発言の位置付け
Y2の発言は,当事者を順次個別に面接する和解期日に,敷金返還と明渡しを交換する解決を提案するためされたものである。和解の試みは同法89条に基づくが,和解協議は口頭弁論ではなく,その発言は口頭弁論の全趣旨には含まれない。また,当事者尋問等の証拠調べとしてされたものでもない。Jが直接聞いたというだけで証拠調べの結果になることも,解約合意という主要事実を自白したことになることもない。
Aが店の経営不振に悩みXに相談していたとの話から,解約合意の存在を推認することが事実上可能に見えても,法定の心証資料となっていない以上,それを基礎に認定してはならない。和解が不成立に終わった本件ではなおさら,そこでの譲歩・解決案を本案についての陳述へ置き換えることは許されない。
(3) 利用を認めた場合の弊害
和解では,必ずしも自らの法的主張を承認せずとも,早期解決のため不利益を受け入れたり,相手方の主張を仮定して譲歩したりする。そうした発言を判決の不利益資料に用いると,当事者は交渉が失敗したときの不利益を恐れ,率直な事情説明や柔軟な提案を控える。裁判所による和解促進の機能が損なわれる。
また,本件ではXやY1はY2の個別面接に立ち会っていない。知らない発言を事実認定に用いると,その趣旨や信用性を争い反証する機会が確保されず,不意打ちとなる。解決のための発言は条件や交渉文脈と一体であるから,これを切り離すと事実認定の正確性も損なわれる。したがって,Jは和解期日のY2の発言を解約合意の存否に関する心証資料としてはならず,口頭弁論及び適法な証拠調べに現れた資料に基づき判断すべきである。
3 設問3
(1) 課題1―共同訴訟の類型と一部取下げ
ア Xは,Y1及びY2が承継した賃貸借上の明渡義務の履行を求めている。建物明渡しは性質上不可分の給付であり,各相続人は全体について履行義務を負う。不可分債務には民法430条によって連帯債務の規律が準用され,436条により各債務者への個別の請求が可能である。
未分割の相続財産の共有も,民法249条以下の共有と性質を異にするものではなく,共同相続人全員を一体の権利義務主体としてのみ扱う理由はない。同じ契約終了と相続に基づく義務について請求しているので,民事訴訟法38条の共同訴訟要件は満たす。しかし,各人に対する明渡請求は個別に判断でき,共同相続人全員に対してのみ提訴できるものではない。解約合意の有無が共通の前提であっても,それは各請求の理由となる事項であり,主文の法律関係を全員について合一に確定すべきことを意味しない。判決の既判力も原則として当事者ごとに生じる。実体上の給付の不可分性と,訴訟上の合一確定の必要とは別であるから,本件は通常共同訴訟である。
イ 通常共同訴訟では,共同訴訟人独立の原則により,一人に対する相手方の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響しない(同法39条)。したがって,民事訴訟法261条1項により,XはY2に対する訴えのみを取り下げることができる。
Y2は第1回口頭弁論で請求棄却を求め解約合意を争い,本案について弁論をしているから,取下げにはY2の同意が必要である(261条2項)。Xは取下書を提出し,Y2も同意書を提出しており,書面による取下げの方式も満たす(同条3項)。Y1の同意は必要ない。よって,Y2に対する取下げは有効であり,X・Y2間の訴訟だけが終了し,X・Y1間の訴訟は存続する。
(2) 課題2―証拠共通と取下げの効果
ア 通常共同訴訟では,主張の共通は当然には認められないが,証拠調べの結果は共同訴訟人間で共通に利用できる。自由心証主義の下で歴史的に一つである事実について,提出者ごとに証拠資料を分断して矛盾した認定を強いることは,自由心証主義を不当に制約することになるからであり,併合審理の中で他の共同訴訟人にも証拠に意見を述べ反証する機会があるからである。証拠共通は,一人の主張や自白を当然に他の者に有利・不利に扱うこととは異なる。
本件日誌は,Y2が提出したが,第2回口頭弁論期日に裁判所によって取り調べられている。その結果は,X・Y1間の請求についても証拠資料となっている。解約合意はXが主張し,Y1が否認している争点であるから,Y1が新たに日誌を提出し直さなくても,会話の不存在を推認する資料として用いることができる。ただし,日誌に記載がないことが直ちに会話の不存在を証明するわけではなく,日誌の記載内容・性質等から証明力を評価する必要がある。
イ 262条1項によれば,取下げがあった部分の訴訟は初めから係属しなかったものとみなされる。しかし,その効果はX・Y2間の訴訟に限定される。日誌の取調べの結果は,取下げ前に証拠共通によってX・Y1間でも利用できる状態になっており,そちらの訴訟は取り下げられていない。Y2の脱退によって,存続する訴訟で生じた証拠調べの効果まで遡及的に失わせる理由はない。
また,証拠調べ終了後は証拠申出を一方的に撤回してその結果を排除できないと解すべきである。その資料が提出者以外の者にも有利であり得る以上,提出者が不利な結果を見て撤回することを許すべきでないからである。本件の取下げは,X・Y2間の係属を処分する行為であって,別に存続するX・Y1間の証拠資料を処分する行為ではない。証拠資料を既に審理に取り込んだ後,提出者への訴えの取下げでその結果を消せるとすると,相手方と提出者の合意によって,他の共同訴訟人の訴訟にも影響を及ぼし,既に得られた証拠資料を恣意的に排除できることになる。これは共同訴訟人独立の原則にも,適法な証拠調べの結果に基づく事実認定にも反する。したがって,Jは,取下げ後も本件日誌の取調べの結果をX・Y1間の事実認定に用いることができる。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
設問1・課題1は,番号1~17に対応する。答案の同名課題で,採用した構成に適用される要件・事実評価・効果を示した。別構成への項目は以下の許容分岐の説明を参照されたい。
設問1・課題2は,番号18~27に対応する。答案の同名課題で,採用した構成に適用される要件・事実評価・効果を示した。別構成への項目は以下の許容分岐の説明を参照されたい。
設問2は,番号28~36に対応する。答案の同名課題で,採用した構成に適用される要件・事実評価・効果を示した。別構成への項目は以下の許容分岐の説明を参照されたい。
設問3・課題1は,番号37~47に対応する。答案の同名課題で,採用した構成に適用される要件・事実評価・効果を示した。別構成への項目は以下の許容分岐の説明を参照されたい。
設問3・課題2は,番号48~59に対応する。答案の同名課題で,採用した構成に適用される要件・事実評価・効果を示した。別構成への項目は以下の許容分岐の説明を参照されたい。
(2) 将来給付と確認を区別する
番号10・13・15が重要である。将来給付では,確定額の債務名義を今与えると,明渡しまでの滞納等をXが請求異議で争う負担へ転換する。先例の三要件を敷金へ機械的に適用せず,既存の担保関係と金額変動,明渡しを統御する主体を検討する。番号6の総合判断説を採ることもでき,適格と必要性を分ける説だけが正解ではない。
番号19~21・24・27は,確認対象と確定必要性を結ぶ。本答案は現在の条件付き地位を対象とし,執行すべき確定給付額とは区別する。番号22の将来法律関係説も,本件の返還義務否定を踏まえて現在確定すべき必要を論証すれば許容される。番号26の過去の基礎法律関係を確認する構成も,直接かつ抜本的解決の機能を説明する場合には評価され得る。過去の関係であるというだけで一律に不適法とはしない。
(3) 和解発言と法定の心証資料
番号28・29は法定資料の範囲,番号33・34は交互面接の弊害である。口頭弁論の全趣旨は裁判官が知った全情報を意味しない。和解が口頭弁論でも証拠調べでもないことを説明した後,発言萎縮と反論機会の欠如を別々に示す。弁論主義の一般論で代替しない。
(4) 共同訴訟の類型と証拠効果
番号37・39・40は,明渡給付の不可分性から各人の全部履行義務を経て通常共同訴訟・一部取下げへ接続する。相続財産が共有であっても,直ちに全員の訴訟共同が必要になるわけではない。番号41・42の固有必要説も,判例との違いを意識して合一確定及び訴訟共同の双方の必要を論証すれば許容される。その立場では40条と全員の当事者適格への影響を踏まえ,一部取下げを否定することになる。単に不可分だから必要的とするのは番号43の負例である。
番号50・53~55・57は,証拠共通と係属の遡及的消滅の衝突を処理する。本答案は,適法に取り調べられた結果が,取下げ前にX・Y1という別の訴訟関係でも資料となった点を根拠に,その効果を保持する。証拠調べ終了後の一方的撤回を許さない理由も補強として示した(番号56)。番号58の利用否定説も,消滅効果と同意ある撤回の可否を論じ,取下げを証拠効果消滅への実質的同意と評価する理由があれば,公式上は結論による評価差はない。単に心証を忘れられないから利用できるとする説明は不足する。
(5) 答案の限界と扱わなかった事項
本答案は本問の条件に対する一つの論証例であり,訴訟のあらゆる証拠や和解情報の利用可否を一般化したものではない。敷金か礼金かの実体的認定,解約合意の成立,日誌の最終的な信用性は,本問が直接要求する手続上の検討とは区別した。全評価項目の別構成を答案本文へ累積記載すると,一貫性と分量を失うため,許容分岐は解説で整理した。
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第7 出典及び確認状態
1 公式資料
令和2年司法試験論文式試験問題・民事系(物理10~13頁,第3問)
令和2年司法試験論文式試験出題の趣旨(物理12頁の第3問見出しから14頁の刑事系見出し直前)
令和2年司法試験の採点実感・民事系(物理16~23頁,第3問の総論・各課題・末尾説明全部)
2 法令
民事訴訟法・令和2年4月1日施行版(e-Gov法令API)の38~40条,87・89・114・135・179・247・261・262条を確認した。民法・令和2年4月1日施行版(e-Gov法令API)の249・430・436・622条の2・896・898~900条等を確認した。後年の民事裁判IT化に伴う条文は答案に使っていない。
3 裁判例
最高裁平成28年12月8日第一小法廷判決(平成27年(受)第2309号)は,原文3頁の将来給付と立証負担の判示を確認し,航空機騒音と敷金の権利構造の違いを保って参考にした。出題趣旨・採点実感が紹介する最高裁昭和56年12月16日大法廷判決,同昭和63年3月31日第一小法廷判決,平成11年1月21日第一小法廷判決,昭和32年6月25日第三小法廷判決については,この記事では公式資料中の紹介内容と判決原文の独立確認を区別する。
4 確認状態
Confirmed(確認済み):問題文,対象公式資料の全関連部分,当時の法令原文及び上記平成28年判決の実読範囲。Source statement(資料の記載):公式が示す評価・許容構成と,公式が紹介する他の判例。Inference(分析):評価項目の原子化,重み,答案の当てはめと採用構成。Unknown(未確認):公式が紹介する前記4判決の原文は独立確認に至っていないため,原文確認済みとは表示しない。この限界は判例の理由・射程の直接確認に関わるが,公式に許容された構成と確認した条文からの本答案の論証を,資料不存在という理由で否定するものではない。