目次
1 処分証書
2 報告文書
3 関連記事その他
1 処分証書
(1) 処分証書の意義については以下の二つの説があります(事例で考える民事事実認定21頁,及び民事弁護の起案技術39頁参照)。
① 「よってした」説
・ 意思表示その他の法律行為が文書によってされた場合における当該文書をいうとするものです。
② 「記載した」説
・ 立証命題たる意思表示その他の法律行為が記載されている文書をいうとするものであり,例えば,契約成立後に作成された確認書も処分証書に含まれます。
(2) 処分証書の例としては,判決書のような公文書のほか,契約書,約束手形,解除通知書,遺言書がありますところ,「よってした」説に立った場合,契約成立後に作成された確認書は処分証書に含まれないこととなります。
(3)ア 処分証書が真正に成立している場合,特段の事情がない限り,原則としてその記載通りの事実が認定されることとなります(最高裁昭和32年10月31日判決,最高裁昭和45年11月26日判決)。
イ 処分証書が真正に成立している場合,処分証書の記載以上に本人尋問の結果を信頼すべき特段の事情がない限り,処分証書の記載が尊重されることとなります(最高裁平成14年6月13日判決(判例時報1816号25頁)参照)。
ウ 判例から学ぶ民事事実認定222頁ないし226頁には,最高裁平成14年6月13日判決に関する34期の林道晴司法研修所事務局長(当時)の解説が載っています。
(4) 例えば,以下の契約書については必ずしも処分証書であるとは限りません(一橋大学機関リポジトリに掲載されている「処分証書による法律行為の証明」(リンク先のPDF5頁及び6頁)参照)。
① 代金総額の記載がない売買契約書その他記載の不備がある契約書
② 税金対策のために本当の契約書とは別に金額等を偽った契約書
③ 登記手続のための登記原因証明情報として細かい条項を省略した契約書
(5) 判例タイムズ1410号(平成27年5月1日発行)26頁ないし34頁に「契約の実質的証拠力について-処分証書とは-」が載っています。
世間の人は契約書を甘く見過ぎだと思うことが多い。「契約書には100万円と書いてあるが本当は1000万円の約束だ」とか「賃料と書いてあるがこれは利息だ」とか「事故は無かったけどあったことになっている」とか「便宜的に契約書を作っただけで実体は違う」とか、そういうのは無理です🙅♂️
— きたぐにのふわもこ (@kitaguni_b) May 19, 2022
修習生の皆様、これは必読です!
この論文の著者はむっちゃキレ者ですがわかりやすいですし、真正の問題と意思表示の無効の問題との区別も論じられてます。 https://t.co/rVnWzwgBsa— ありふれたろいやー (@OrdinaryLaywer) October 22, 2022
2 報告文書
(1)ア 報告文書とは,処分証書以外の文書で,事実に関する作成者の認識,判断,感想等が記載されたものをいいます。
イ 報告文書の例としては,領収証,商業帳簿,議事録,日記,手紙,陳述書があります。
(2)ア 最高裁平成7年5月30日判決(判例体系)は,「一般に、金員の授受に関する領収書等が存する場合には、実際にその授受があったものと事実上推定することができるが、その逆に、右領収書等が存しないからといって、直ちに金員の授受がなかったものということはできない。」と判示しています。
イ 最高裁平成11年4月13日判決(判例体系)の事案では,和解契約に基づく金員の支払を裏付ける文書として,和解契約書,合意書,信用状開設通知,小切手,領収書が提出されていた事案において,原審はこれらの書証の内容などが不自然,不合理であるなどとして弁済の事実を認めなかったものの,最高裁は,弁済の事実を認めなかった原審の判断には,経験則違反ないし採証法則違反があるとして破棄差戻しとしました。
(3)ア 報告文書が真正に成立している場合であっても,その文書が示す事実の基礎となる法律行為の存在や内容については,その文書から直接に認められるわけではないのであって,報告文書の性質等に左右されることとなります。
イ どのような報告文書が信用されるかについては,「通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い」を参照してください。
3 関連記事その他
(1) 裁決書起案の留意事項(参考資料)37頁には「租税回避事案については、「処分証書」が大きな壁になることが多い。」と書いてあります。
(2)ア 「ステップアップ民事事実認定 第2版」109頁には以下の記載があります。
ある行動をする際に通常は作成されるはずの書証が存在しない時,作成されなかった(または,作成されたがその後に消滅した)理由についての合理的な説明がされない限り,その行動がされたと認めることはできません。
イ 国と私人との間に,私人を売主として成立した土地売買契約において,目的土地の利用方法に関する特約は,当事者にとって極めて重要な特約であるから,右契約につき予算決算及び会計令68条に基づき契約書が作成された以上,かかる特約の趣旨は契約書に記載されるのが通常の事態であり,これに記載されていないときは,特段の事情のないかぎり,かかる特約は存在しないものとされました(最高裁昭和47年3月2日判決)。
(3)ア 最高裁昭和38年7月30日判決は,賃貸借契約の合意解約の存在を否定した判断が経験法則に反するとされた事例です。
イ 最高裁昭和42年12月21日判決は,「契約書」等と題する書面に法的拘束力を認めないのが違法とされた事例です。
(4) 以下の記事も参照して下さい。
・ 二段の推定
・ 文書鑑定
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
・ 陳述書作成の注意点
・ 新様式判決
・ 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
・ 通常は信用性を有する私文書と陳述書との違い