第1 条約に書かれていることと慣習国際法は同じではない
慣習国際法とは,一般的な実行が法として受け入れられることによって成立する国際法の規則である。
ある行動が長年繰り返されていることや,多数国間条約に条文があることだけで,直ちにその内容が慣習国際法になるわけではない。
条約に加入していない国に対して規則を主張する場合や,条約が適用される時期より前の行為を評価する場合にも,慣習国際法を独立に確認する必要が生ずる。
国連国際法委員会の2018年「慣習国際法の同定に関する結論」は,その存在と内容を調べるための方法を整理する資料である。
結論自体が新たな条約として国家を拘束するものではなく,個別の規則の成立を証明する資料の検討に代わるものでもない。
本記事では,結論2~14を中心に,調査で何を分けて確かめるかを説明する。
第2 国家実行と法的確信を別々に確認する
結論2・3は,一般的な実行と,その実行が法として受け入れられていることを,それぞれ確認するという方法を示す。
後者は法的確信と呼ばれ,単なる便宜,習慣,礼儀又は政治的な配慮による行動と区別される。
同じ資料が両方の検討に関係する場合でも,どの部分が行動の証拠で,どの部分が法的な権利・義務としての認識の証拠なのかを説明する必要がある。
例えば,ある国が外国船の通航を繰り返し認めていたという事実と,その国が通航を認める国際法上の義務があると認識していたという事実は,同じ命題ではない。
行動の回数だけでなく,法令,政府の説明,外交文書,抗議や応答等を照合する。
これは二つの別々の資料が常に必要という意味ではなく,二つの要素を混同せず評価するという意味である。
第3 国家実行として何を集めるか
1 行政・立法・司法の行動を対象にする
結論5・6は,国家実行として,行政上の現実の行動だけでなく,外交上の言動,条約や国際機関の決議に関する行動,立法・行政行為,国内裁判所の判断等を挙げる。
物理的な行為に限らず,言語による行為も対象となり,事情によっては不作為も関係する。
ある種類の資料が常に他の資料より優先するという固定的な序列はない。
一国の実行は,利用できる資料を全体として評価する(結論7)。
政府の声明だけを拾い,それと異なる法令,運用又は裁判を除外すると,その国の立場を過大に評価するおそれがある。
国家実行としての裁判と,規則の存在を判断する補助手段としての裁判の役割も区別する。
2 広がり・代表性・一貫性を確認する
結論8は,実行が十分に広範で代表的であり,一貫していることを求める。
単純な国数の多数決や,固定された年数だけで成立を決める方法ではない。
実行が一般的であれば特定の継続期間を必須としないが,資料が少ないことを時間の経過だけで補うこともできない。
第4 法的確信を示す資料と沈黙の扱い
結論9・10は,法的な権利又は義務として受け入れられているかを検討し,政府声明,公刊資料,政府の法律意見,外交書簡,国内裁判,条約の規定,国際機関の決議に関する行動等を証拠の例として挙げる。
政治的に望ましいという評価と,既に法的な義務であるとの認識を区別することが重要である。
他国が反応しなかったことも,常に黙認を意味するわけではない。
結論10の3は,反応できる立場にあり,かつ,事情から反応が求められる場合に,時間の経過を通じた不反応が証拠となり得るとする。
情報への接近可能性や,何に対して反応する機会があったかを確かめず,「抗議がないから合意した」と結論付けることは避けるべきである。
第5 条約・国連決議・判決・学説をどう位置付けるか
1 条約が慣習国際法を示す場合
結論11は,条約の規則が,既存の慣習国際法を法典化した場合,形成途中の規則を結晶化させた場合,又は一般的な実行と法的確信を生み出して新たな慣習規則を形成した場合を区別する。
同じ内容が複数の条約に存在することも,慣習国際法を示す可能性はあるが,必ずそうなるわけではない。
条約の当事国であることによる義務と,慣習国際法による義務を別々に示す必要がある。
2 国連決議だけで成立を決めない
結論12は,国際機関等の決議が,それだけで慣習国際法を作り出すことはできないとする。
一方で,決議は規則の存在・内容を判断する証拠となり,発展に寄与することもある。
決議の文言,採択に関する各国の行動と説明,関連する実行を具体的に検討する。
3 判決・学説は補助手段として読む
結論13・14は,裁判所の判断と学説を,規則の存在・内容を判断するための補助手段として位置付ける。
学説が引用しているという理由だけで原判決の確認を省かず,判決については,どの時点・当事者・事実・規則を対象にした判断かを確認する。
国内裁判所の判断は,国家実行としての意味を持つ場合と,規則認定の補助手段として参照する場合がある。
第6 一般的な慣習と特定国間の慣習
結論15は,規則の形成過程で明確に反対し,他国に知らしめ,継続して反対した国に関する持続的反対国の問題を扱う。
既に形成された規則に後から反対すれば常に適用を免れるという制度ではない。
また,強行規範の問題をこの結論だけで処理することもできない。
結論16は,地域的・局地的なものを含む,限られた国の間の慣習国際法を扱う。
その場合は,関係する国の間で一般的な実行が法として受け入れられていることを確認する。
一部の地域での取扱いを,そのまま世界共通の一般的な慣習として広げてはならない。
第7 調査メモ・準備書面での整理方法
調査では,最初に「どの時点に,どの国との関係で,どの規則が存在したと主張するか」を一文で特定する。
その後,資料の作成者・日付・原文・対象行為を記録し,国家実行,法的確信,補助手段のどの検討に使うのかを示す。
反対方向の資料や説明できない例も残し,結論を先に決めて資料を選ばないことが重要である。
| 確認対象 | 集める資料の例 | 評価上の注意 |
|---|---|---|
| 国家実行 | 法令,運用,外交上の行動,国内判決 | 一国の実行を全体として見る。 |
| 法的確信 | 権利・義務を述べる政府説明,抗議,応答 | 政策上の希望や礼儀と区別する。 |
| 補助手段 | 国際裁判の原判決,学説 | 判断対象・時点・引用の連鎖を確認する。 |
この整理は,国際法委員会の結論を実務上の調査手順として組み直したものである。
特定の国内訴訟における主張・立証責任や証明度を,一律に定めるものではない。
第8 一次資料と関連する解説
基礎資料は,国際法委員会2018年結論原文及び公式コメンタリーである。
規則の内容と,その内容を認定する方法を区別して読む必要がある。
具体的な接点は,外国国家を被告とする民事訴訟,国際海峡の通航制度及び国際司法裁判所の管轄権で扱っている。
国際法の分野全体の位置付けは,国際公法の総合解説を参照されたい。