第1 国際公法の意味と国際法・国際私法との違い
1 国際公法とは何を扱う分野か
国際公法とは,国家間の関係を中心として,国際社会の権利,義務,制度を扱う法分野である。条約,領海,外交官の免除,武力行使の禁止,国際裁判などがその例である。国際組織や個人の地位も関わるため,国家だけの問題に限られるわけではない。
「国際公法」という名前の一つの法律があるわけではなく,条約や慣習国際法などを通じて成り立つ分野を指す。大学の国際関係法の説明でも,国際公法と国際私法は区別されている。
参照:早稲田大学法学部の学問分野紹介
2 国際法という言葉との関係
「国際法」は,国際公法を指して使われることが多い。一方,学問分野の分類として国際私法などを含めて広く使われる場面もある。記事,講義,試験科目を読むときには,名称だけで判断せず,扱われている問題と資料を確認する必要がある。
司法試験の選択科目では,国際公法に対応する正式な科目名は「国際関係法(公法系)」である。これとは別に「国際関係法(私法系)」が設けられている。
参照:法務省・司法試験に関するQ&A
3 国際私法との違い
国際私法は,外国と関係する私人間の問題について,どの国の法律を適用するかなどを扱う分野である。
例えば,国籍が異なる当事者の婚姻や,国境を越えた契約について準拠法が問題となる。
国際的な民事紛争では,準拠法に加え,どの国の裁判所が裁判できるか,外国判決を承認・執行できるかという手続の問題も生じる。
外国国家を被告とする場合には主権免除(国家免除)という国際公法上の問題も関係するため,両分野が接することがある。
主権という国家の権能一般と,外国国家への裁判権行使等を制限する主権免除とは,問いが異なる。
具体的な接点は,主権免除(国家免除)と外国国家への民事訴訟を参照。
第2 国際公法の法源―条約・慣習国際法・法の一般原則
1 条約
条約は,国家間などの合意によって国際法上の規則を定めるものである。ウィーン条約法条約2条1項(a)は,同条約で扱う条約を,国家間で文書により締結され,国際法によって規律される合意として定義している。その名称が「条約」「協定」などのどれであるかだけで決まるものではない。
同条約26条は,効力を有する条約の誠実な履行を定める。署名,批准,発効はそれぞれの条約と合意の内容に従って確認する事項であり,署名したという事実だけで常にすべての条約上の義務が発生するわけではない。
参照:国連・ウィーン条約法条約(英語)
条約の締結,署名・批准・加入,留保,解釈,脱退の基本は,条約法に関するウィーン条約とは―日本の加入,重要条文と条約の基本ルール(AI作成)で説明している。
条約そのものの適用と,条約とは独立して適用される慣習国際法上の規則を区別することも,同記事で確認できる。
2 慣習国際法
慣習国際法の認定では,一般的な国家実行と,その実行が法として受け入れられていることを分けて確認する。繰り返されている慣行であっても,礼儀や政策上の都合から行われているだけなら,それだけで法的義務を伴う慣習とはいえない。
国際法委員会の2018年結論は,この二つの要素を示し,条約の規定や国際機関の決議も,それだけで直ちに慣習国際法の存在を決めるものではないと整理している。この結論自体を条約と同じものとして扱うべきではない。
参照:国連国際法委員会・慣習国際法の同定に関する結論(英語)
慣習国際法の調査では,国家実行と法的確信の証拠を分け,反対方向の資料も確認する。
政府声明,条約,国連決議及び国内判決をどう評価するかは,慣習国際法の認定方法で説明する。
3 法の一般原則と判例・学説
国際司法裁判所規程38条1項は,裁判所が適用するものとして,国際条約,国際慣習,法の一般原則を掲げ,裁判上の判決と学説を法則決定の補助手段として位置付けている。条約の条文だけを調べて終わらず,その問題でどの法源が根拠になるかを確かめることが大切である。
参照:外務省・国際司法裁判所規程
第3 国際公法の主な分野と関連する解説
1 国家,外交関係,個人の保護
国家の成立や承認,外交関係,国籍,外国人の保護,難民などは,国際公法を学ぶ際の基本的な問題である。例えば,自国民が外国で被害を受けた場合の外交的保護と,外交官が受ける裁判権免除は,目的も要件も異なる制度である。
関連解説:外交的保護,犯罪人引渡し,外交官の民事裁判権免除,難民条約上の難民
外交関係に関するウィーン条約は,外交関係と外交使節団・外交官の特権及び免除を定める条約である。
条約の締結・解釈・終了等を扱う条約法に関するウィーン条約とは対象が異なる。
全体像と主要条文は外交関係に関するウィーン条約の総合解説を,公館への立入りと接受国の保護義務は同条約22条の解説を参照されたい。
領事関係に関するウィーン条約は,領事任務,領事機関の公館の不可侵,逮捕・拘禁された自国民との連絡,領事官等の裁判権免除を定める。
自国民への領事援助,外交官の免除及び外交的保護は,根拠と目的を区別する必要がある。
重要条文と制度の違いは,領事関係に関するウィーン条約とは―36条の領事通報・面会と領事館の不可侵を参照されたい。
一般的な多数国間条約を二国間で補足する例として,日中領事協定がある。
協定12条は,領事関係に関するウィーン条約を確認・補足・拡大・拡充し,明示の定めがない事項は同条約によると定める。
要請の有無にかかわらない逮捕等の通報と,遅滞なく遅くとも4日以内という上限,領事官の住居の保護は,日中領事協定とは(AI作成)で整理する。
2 海洋法
海洋法では,海域の区分と,各海域で沿岸国・旗国・外国船舶に認められる権限や義務を確認する。領海の幅を測る基線の問題と,外国船舶が通航できる条件の問題を分けて読むと理解しやすい。
関連解説:日本の領海,直線基線,国際海峡の通航制度
海洋法の中心的な条約である国連海洋法条約(UNCLOS)は,海域の区分,資源利用,海洋環境,紛争解決などを包括的に定める。全体像は,国連海洋法条約とは―領海・EEZ・大陸棚・公海と日本との関係を参照。水域と海底,主権と主権的権利の違いはEEZと大陸棚の違いで,裁判所等の選択と管轄権の限界は国連海洋法条約の紛争解決制度で詳しく説明する。
3 国家責任
国際法委員会の2001年国家責任条文は,国家への行為の帰属と国際義務の違反を基本要素として整理し,継続する違反行為の停止や損害の賠償などを規定している。誰のどの行為が国家に帰属するかと,どの国際義務に違反するかは,別々に検討する事項である。
国家責任条文は条約として成立したものではない。個々の規定について,慣習国際法を反映するか,特別の条約上の規則があるかを確認する必要がある。
参照:国連国際法委員会・国家責任条文(英語)
越境環境被害が問題になる事業では,国内の事業許可と国際法上の義務の検討を分ける。
ウルグアイ川製紙工場事件判決204・205項を参照し,重大な越境悪影響の危険がある産業活動について,適用条約の手続と一般国際法上の環境影響評価を確認し,事業実施前に行った調査・評価の内容を資料で確かめる。
同判決は評価の具体的内容を各国の国内法や認可手続に委ねる一方,相当注意を尽くす必要性と事業実施前の評価を述べている。
参照:国際司法裁判所・ウルグアイ川製紙工場事件判決204・205項。
条約の終了・運用停止と,国家責任法上の対抗措置も別の根拠として確認する。
国家責任条文49条の対抗措置は,責任国に義務の履行を促すための,国家間の国際義務の一時的な不履行という枠で検討する制度であり,国家間条約を当然に終了させるものではない。
民間企業の代金支払停止や相殺の根拠を,この制度から直接導かず,契約の準拠法・条項・債権の内容と紛争解決条項を別途確認する。
参照:ILC国家責任条文49条及び条約法に関するウィーン条約54・56条。
帰属,義務違反,違法性阻却,停止・賠償及び対抗措置を順に調べるには,国家責任の総合解説を参照されたい。
私人の行為が国家に帰属するかと,国家自身が保護義務に違反したかは,別々に検討する。
4 武力行使と国際紛争の平和的解決
国連憲章2条4項は,国際関係における武力による威嚇又は武力の行使を禁止する。紛争の平和的解決については,同憲章33条が,交渉,仲介,調停,仲裁裁判,司法的解決などの手段を掲げている。紛争が存在することと,直ちに特定の裁判所が裁判できることは同じではない。
参照:外務省・国際連合憲章
関連解説:ニカラグア事件と武器供与・不干渉原則
国連憲章の全体像は,国連憲章とは―目的・内容・成立と重要条文を参照されたい。
武力行使禁止と,個別的・集団的自衛権及び安保理の措置の関係は,国連憲章では戦争は禁止されるか―2条4項・51条と自衛権で説明している。
5 国際人権法と国際経済法
国際公法は,国境や武力紛争だけを扱う分野ではない。人権の国際的な保障,貿易などの経済関係に関する国際的な規則も対象となる。司法試験の出題範囲についても,法務省のQ&Aは,国際公法の体系に含まれる範囲では国際人権法及び国際経済法が除外されないことを説明している。
特定の年度の過去問に出ていない分野を,出題範囲から外れていると判断しないことが必要である。
国際人権法の具体的な手続として,人権条約の個人通報制度がある。
条約の締約国であることと個人通報を受け入れていること,個別通報への見解と政府報告審査の総括所見を区別して読む必要がある。
6 領域・領土と戦後処理
領域・領土の問題では,領土主権,施政権,租借,権利の放棄及び領土の取得を区別する。
ある国が統治を行ったことや,条約で権利を放棄したことだけから,別の国がどの権原によって領土主権を取得したかまで,一度に結論づけることはできない。
歴史的な行為については,行為当時の法に照らした権利の成立と,その後の存続・変動を分けて検討する。
その考え方と条約の不遡及との違いは,領土問題と時際法で説明している。
戦後処理の資料では,国家と政府,国家間の賠償と個人の請求,条約本文と政府の説明も区別する。
具体例として,日中共同声明及び南極条約の解説を参照されたい。
第4 国際公法を読むときに混同しやすい点
1 義務違反と裁判所の管轄権は別の問題である
国際司法裁判所は,国家間の争訟事件を裁判するほか,権限を持つ国連の機関等の要請に応じて,法律問題について勧告的意見を示す。両手続は,要請・申立ての仕組みと効力が異なる。制度の全体像は,国際司法裁判所とは―役割・管轄権・国際刑事裁判所との違いを参照。根拠条文は,国際司法裁判所規程34条・36条・65条及び国連憲章96条である。
国際司法裁判所(ICJ)の争訟事件の当事者になれるのは国家である。同裁判所の管轄権を考える際には,国際司法裁判所規程36条に従い,国家の同意を基礎とする管轄権の根拠と範囲を確認する。国際法違反を主張できることだけから,ICJがその紛争を裁判できるとは限らない。
関連解説:国際司法裁判所の管轄権―選択条項受諾宣言・相互主義・留保
2 国際司法裁判所と国際刑事裁判所は異なる
国際司法裁判所(ICJ)が国家間の法的紛争などを扱うのに対し,国際刑事裁判所(ICC)は,集団殺害犯罪,人道に対する犯罪,戦争犯罪などについて個人の刑事責任を扱う裁判所である。名称が似ていても,当事者,対象,設置根拠が異なる。
参照:外務省・国際刑事裁判所(ICC)の概要
ICCの対象犯罪,管轄権,補完性及び日本との関係は,国際刑事裁判所(ICC)とは―役割・管轄権・加盟国と日本との関係で説明している。両裁判所の当事者,管轄権,判断の効力と実行の仕組みを比較する場合は,国際司法裁判所と国際刑事裁判所の違いを参照できる。
ICJの判決・暫定措置命令の拘束力,勧告的意見の効力及び履行の仕組みは,国際司法裁判所の判決に拘束力はあるかを参照。国家の責任を扱う判決と,個人の刑事責任に関するICCの判断を混同しないことが必要である。
3 国際法上の義務と国内裁判での扱いを分ける
国家が国際法上どのような義務を負うかと,私人が国内裁判でどのような請求をできるかは,分けて確認する必要がある。ウィーン条約法条約27条は,条約を履行しない理由として国内法を援用できないことを定めるが,このことだけで私人の具体的な請求権や国内での手続が決まるわけではない。
実際の紛争では,該当する条約の適用関係,国内法,裁判権,免除,救済手段を順に確認することになる。
第5 資料と過去問の読み方
最初に,問題となる制度を特定し,条約本文や公的資料を読む。次に,適用される法源,当事者,地理的・時間的な範囲を整理し,必要な判例と個別解説を確かめる。この順序なら,条約上の規則,慣習国際法,裁判所の管轄権を混同しにくい。
司法試験の答案を探す場合は,司法試験の過去問・参考答案一覧から各年度の国際関係法(公法系)に進める。公式問題とブログの参考答案・評価の整理は,資料の性格を区別して読む必要がある。
条約の正式名称,正文,日本・相手国についての発効,留保及び裁判例の原文を確認する手順は,条約・国際判例の調べ方で整理している。
歴史資料,政府見解及び判決の判断を引用するときにも,資料の種類と対象時点を記録することが大切である。
年度別・論点別に国際公法の答案を探す場合は,司法試験の国際公法―過去問・答案と論点別ガイドを参照。条約法,海洋法,国家責任,外交的保護,難民などの論点から各答案へ進める。
相談・調査の対象から探す場合は,まず相手方と求める救済を特定し,問題となる制度と根拠資料を対応させる。
次の対応は入口を示すものであり,個別事件の請求権や手続要件を一括して満たすという意味ではない。
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| 外国政府との契約・代金回収 | 国家免除,送達,対象財産 | 外国国家との民事訴訟 |
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