第1 国連憲章とは何か
国連憲章とは,国際連合を設立し,その目的,加盟国の基本原則,主要機関の権限及び活動の仕組みを定めた条約である。
国際の平和と安全の維持だけでなく,諸国間の友好関係,人権の尊重及び経済・社会分野の国際協力も対象とする。
前文と19章111条から成り,国際司法裁判所規程は憲章と不可分の一体をなす。
「国連が何を目指すか」は1条,「加盟国が守る基本原則」は2条,「武力行使と自衛権」は2条4項と51条から読むと,全体の位置付けを理解しやすい。
敵国条項は憲章の一部であり,憲章全体が敵国条項についての条約というわけではない。
参照:外務省・国連の概要,国連広報センター・国連憲章テキスト。
第2 いつ,誰が作ったのか―署名と発効の違い
国連憲章は,1945年6月26日にサンフランシスコで署名され,同年10月24日に発効した。
署名の日と,条約として効力を生じた日は異なる。
国連憲章は一人の人物が制定した国内法ではなく,各国の代表が国際会議で合意し,各国が批准する手続を経た条約である。
| 時点 | 意味 |
|---|---|
| 1945年6月26日 | サンフランシスコ会議で憲章に署名した日である。 |
| 1945年10月24日 | 憲章が発効した日であり,国際連合の成立の日である。 |
| 1956年12月18日 | 日本が国連に加盟した日である。日本は80番目の加盟国となった。 |
憲章110条は,各署名国が自国の憲法上の手続に従って批准することと,発効に必要な批准の条件を定める。
したがって,「署名した国」と「発効に必要な批准を済ませた国」を混同してはならない。
また,日本の加盟は国連成立から後の出来事であり,日本が憲章の原署名国だったという説明は正確ではない。
第3 目的と基本原則―1条と2条を読む
1 国連の4つの目的
1条は,①国際の平和と安全の維持,②人民の同権・自決を尊重した諸国間の友好関係の発展,③国際問題の解決と人権の尊重のための国際協力,④共通の目的のために諸国の行動を調和する中心となることを掲げる。
国連の活動は安全保障に限られず,人権,経済,社会,文化及び人道上の問題にも及ぶ。
2 加盟国が守る基本原則
2条は,主権平等,憲章上の義務の誠実な履行,紛争の平和的解決,武力による威嚇・武力行使の禁止などを定める。
国の規模が違うことと,主権平等の原則が認められることは両立する。
ただし,主権平等は,すべての機関で各国が同一の権限を持つという意味ではない。
安保理には常任理事国の特別な地位があり,総会とは議決の仕組みも異なる。
2条7項の国内管轄事項への不干渉には,第7章に基づく強制措置の適用を妨げないという但書がある。
「国内問題と呼べば国連は一切関与できない」という読み方も,条文全体を踏まえていない。
参照:外務省掲載の国際連合憲章・1条,2条,23条,27条。
第4 6つの主要機関―総会と安保理の違い
7条は,国連の主要機関として次の6機関を設ける。
| 機関 | 主な役割と参照条文 |
|---|---|
| 総会 | 全加盟国で構成され,憲章の範囲内の問題を討議し,勧告などを行う。9条,10条等。 |
| 安全保障理事会 | 国際の平和と安全の維持について主要な責任を負う。24条等。 |
| 経済社会理事会 | 経済,社会,文化,教育,保健,人権等について研究,報告,勧告などを行う。62条等。 |
| 信託統治理事会 | 国際信託統治制度の下で,施政に関する報告や請願などを扱う。87条等。 |
| 国際司法裁判所 | 国連の主要な司法機関であり,裁判所規程に従って活動する。92条。 |
| 事務局 | 事務総長と,国連が必要とする職員から構成される。97条等。 |
総会の勧告と安保理の決定は,法的な位置付けが同じではない。
25条は,加盟国が憲章に従って安保理の決定を受諾・履行することに同意すると定める。
もっとも,総会にも予算の承認などの権限があるため,総会の行為をすべて単なる意見として扱うことも正確ではない。
各機関について,対象となる事項,根拠条文及び行為の種類を確認する必要がある。
参照:国連憲章・7条,9条,10条,17条,24条,25条,62条,87条,92条,97条。
第5 武力行使禁止,自衛権及び安保理の措置
2条4項は,国際関係における武力による威嚇又は武力の行使を禁止する。
他方,51条は,国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合の個別的又は集団的自衛権を扱い,安保理への報告義務も定める。
第7章は,安保理が平和への脅威等を認定し,41条の非軍事的措置や42条の軍事的行動を扱う仕組みを定める。
したがって,「国連憲章は戦争を一切の例外なく禁止する」という説明では,自衛権や安保理の権限との関係が抜け落ちる。
反対に,「自衛権を主張すれば武力行使が許される」という説明でも足りない。
根拠となる規則と具体的な事実の両方を検討する必要がある。
詳しくは,国連憲章では戦争は禁止されるか―2条4項・51条と自衛権,安保理の措置を参照されたい。
参照:国連憲章・2条4項,39条,41条,42条,51条。
第6 敵国条項と憲章改正の仕組み
敵国条項として挙げられるのは,第二次世界大戦の敵国への言及を含む53条,77条及び107条である。
3条文は,地域的取極による強制行動,信託統治の対象,第二次世界大戦の結果としての行動という異なる事項を扱う。
憲章本文に文言が残ることと,現在それを援用できるかという問題は区別される。
日本政府は,1995年の死文化の認識を示す総会決議と2005年の削除の決意を示す成果文書を踏まえ,いかなる国も援用する余地はないとの立場を示している。
これは日本政府の見解として読む必要があり,本文からの正式な削除が済んだという意味ではない。
108条による改正には,総会構成国の3分の2による採択と,すべての安保理常任理事国を含む加盟国の3分の2による批准が必要である。
削除を目指す政治的合意だけで,この改正・発効の手続が完了するわけではない。
関連解説:敵国条項は今も使えるのか,敵国条項はなぜ削除されないのか。
参照:国連法務局・108条,外務大臣会見・令和8年9月29日「旧敵国条項」。
第7 国連憲章を読むときによくある疑問
1 日本語訳は正式な正文か
日本語訳は正文ではない。
111条は,中国語,フランス語,ロシア語,英語及びスペイン語の本文をひとしく正文とする。
日本語訳は条文の内容を理解するために有用であるが,文言の意味が問題となる場合には正文も確認する必要がある。
2 他の条約と義務が抵触したらどうなるか
103条は,加盟国の憲章上の義務と他の国際協定上の義務が抵触する場合,憲章上の義務が優先すると定める。
これは義務の抵触についての規定であり,憲章があらゆる他の条約を当然に無効にするという意味ではない。
3 拒否権があると憲章は無意味になるか
拒否権は安保理の議決に関する仕組みであり,憲章全体の効力とは別の問題である。
27条上,手続事項とその他の事項では議決要件が異なり,常任理事国の棄権は,実務上,その他の事項についても拒否権の行使として扱われない。
安保理で決定が成立しない場合でも,それだけで武力行使禁止や人権・国際協力に関する規定が消えるわけではない。
参照:国連憲章・27条,103条,111条,安保理公式サイト・Voting System。
第8 全文と関連解説の読み方
全文は,国連広報センターの日本語訳又は外務省掲載の国際連合憲章で確認できる。
重要条文だけを読む場合でも,各条が属する章と,前後の条件を併せて確認することが望ましい。
国際法の中での位置付けは,国際公法とは―国際法・国際私法との違い,条約・慣習国際法と主な分野を参照されたい。
敵国条項の全文は,敵国条項の条文・全文と意味―国連憲章53条・77条・107条を読むで,3条文を分けて説明している。