外国国家を被告とする民事訴訟では,日本の裁判所に国際裁判管轄があるかという問題に加えて,外国国家が裁判権免除を受けるか,どの方法で送達するか,欠席判決を言い渡せるか,勝訴判決をどの財産に執行できるかを別々に検討する必要がある。
第1 外国国家免除の基本
国家免除とは,一国の裁判所が外国国家に対して裁判権を行使することを一定の場合に差し控える国際法上・国内法上の制度である。現在の日本法は,外国国家のすべての行為を免除する絶対免除主義ではなく,主権的行為と私法的・商業的行為を区別する制限免除主義を採用する。
裁判権免除と執行免除は別である。訴えを審理できても,外国国家の財産に当然に仮差押え又は強制執行ができるわけではない。
第2 平成14年判決と平成18年判決
最高裁平成14年4月12日第二小法廷判決は,米国の主権的行為について,慣習国際法上,日本の民事裁判権から免除されるとした。この判決は,在日米軍の行為が問題となった事案で,日米地位協定18条自体が米国の裁判権免除を定めたものではないことも示した。
最高裁平成18年7月21日第二小法廷判決は,従来の絶対免除主義を採用しないことを明確にし,外国国家の私法的又は業務管理的行為について,裁判権を行使することが外国国家の主権を侵害するおそれがあるなどの特段の事情がない限り,免除を認めないとした。
同判決は,外国国家が書面を日本の裁判所に提出して裁判権に服する意思を明確に表明した場合の扱いも示す。訴訟行為の内容と権限を確認し,単なる抗議又は免除主張と,明示の同意を混同しないことが必要である。
第3 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律
平成21年法律第24号「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」は,平成22年4月1日に施行された。同法は,外国等が原則として日本の民事裁判権から免除されることを出発点としつつ,明示の同意,商業的取引,労働契約,人の死傷・有体物の滅失損傷,不動産,知的財産権等について免除されない場合を定める。
平成18年判決は制限免除主義への転換を示す重要判例であるが,同法施行後の事件では,同法の要件,定義及び経過措置を先に確認する。判例の文言だけで現行事件を処理してはならない。
第4 行為の目的より性質を見る
外国国家が公共目的のために契約したというだけで,直ちに主権的行為になるわけではない。売買,請負,賃貸借,資金調達その他の取引について,私人も行い得る性質の行為か,国家に固有の権限行使かを検討する。
契約書では,当事者表示,署名権限,準拠法,裁判管轄,仲裁,免除放棄及び執行対象財産に関する条項を確認する。ただし,裁判権免除への同意があることから,執行免除まで当然に放棄されたと推論してはならない。
第5 送達と欠席判決の特則
外国国家に対する訴状等の送達は,通常の国外送達と同じ感覚で進めることができない。条約,外交上の経路,外国国家が指定した方法及び同法の特則を確認し,受領権限のない機関又は国内事務所への交付だけで有効な送達と扱わない。
外国国家が期日に出頭しない場合も,直ちに通常の欠席判決を求めるのではなく,送達方法,送達完了の証明,法定の経過期間,裁判権免除がないこと及び請求原因の立証を確認する。手続の瑕疵は,判決承認・執行の段階でも問題となり得る。
第6 仮差押え・仮処分・強制執行
外国国家の財産に対する保全処分及び強制執行には,裁判権免除とは別の厳格な要件がある。外国国家が明示的に同意した財産又は請求の満足に充てるために指定・留保した財産か,商業的目的に使用され,又は使用されることが予定される財産かを具体的に確認する。
大使館等の外交目的の財産,軍事的性質の財産,中央銀行の財産その他の公的目的財産には特別の保護が問題となる。名義だけでなく,財産の所在,管理主体,実際の用途,資金の入出金及び目的を裏付ける資料が必要である。
第7 在日米軍関係の請求との接続
在日米軍関係の損害賠償では,日米地位協定18条の請求処理手続,日本国を被告とする国家賠償請求,米国を被告とする請求及び個人に対する請求を区別する。地位協定18条があることだけで,米国に対する民事訴訟の裁判権免除の結論が決まるわけではない。
米軍の作戦・警護・基地管理のような主権的行為と,契約・財産管理等の私法的行為では分析が異なる。最高裁平成18年判決の制限免除主義を,すべての基地関係行為について免除を否定した判例と読むことはできない。
第8 受任時の確認事項
- 被告とする主体が外国国家,その機関,地方政府,国有企業又は個人のいずれか。
- 問題となる行為の性質,契約締結地,履行地及び損害発生地。
- 裁判権免除に対する明示の同意又は免除放棄の有無と範囲。
- 国際裁判管轄,準拠法,仲裁合意及び専属管轄合意。
- 送達経路,翻訳,受領権限及び送達完了の証明。
- 判決取得後に想定する財産と,その用途・所在・名義。
- 保全・執行免除に関する別個の同意又は法定例外。
訴状提出前に,免除の例外と執行可能性の双方を見通す。判決を得られても執行対象がない場合があるため,費用,期間及び外交的影響も依頼者に説明する。
第9 資料の確認状態
最高裁平成14年4月12日判決及び平成18年7月21日判決は,裁判所公表の判決情報・本文を確認した。現行制度は,法務省の「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律の概要」及び現行法令を確認対象とした。
この平成18年度調査について,判例秘書は照会0件/ヒット不明/本文確認0件である。下級審の運用又は個別の送達・執行事例を扱う場合は,別途,判例データベース,外交文書及び対象国との条約を調査する必要がある。
第10 出典・関連記事
① 最高裁平成18年7月21日判決全文
② 最高裁平成14年4月12日判決
③ 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律
④ 法務省「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律の概要」
⑤ 宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情(1)~(4)・完―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号
⑥ 平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)
⑦ 在日米軍基地の法的根拠,施設数,日米地位協定及び主要裁判例(AIリライト)