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主権免除とは―国家免除の原則・例外と外国国家への民事訴訟(AI作成)

本記事は,国際公法のうち国家免除と日本の民事訴訟手続との接点を解説する。国際法全体の位置付けは,国際公法とは―国際法・国際私法との違いと基本事項を参照。外交官個人の免除との比較は,外交官の民事裁判権免除を参照。過去問を論点から探す場合は,司法試験の国際公法―過去問・答案と論点別ガイドにまとめている。

外国国家を被告とする民事訴訟では,日本の裁判所に国際裁判管轄があるかという問題に加えて,外国国家が裁判権免除を受けるか,どの方法で送達するか,欠席判決を言い渡せるか,勝訴判決をどの財産に執行できるかを別々に検討する必要がある。

第1 主権免除(国家免除)とは

主権免除(国家免除)とは,外国国家とその財産について,他国の裁判所の裁判権からの免除が認められる制度である。
日本の民事事件では,裁判手続の免除と,財産に対する保全・執行の免除を分けて確認する。
本稿は,日本の対外国民事裁判権法を中心に,外国国家を被告とする訴訟の原則・例外と手続を説明する。

絶対免除主義は外国国家の行為を広く免除する考え方であり,制限免除主義は主権的行為と私法的・商業的行為等を区別する考え方である。
現在の日本法では,外国等の免除を原則としつつ,同意,商業的取引,労働契約等について法律が定める免除されない場合を検討する。
外国国家による行為がすべて免除されるわけでも,私人が関係する取引なら常に免除されないわけでもない。

免除の有無は,債務や損害賠償責任の実体法上の存否とは別の問題である。
免除により訴えが却下されることと,請求の内容を審理した結果として請求が棄却されることを区別する必要がある。
国際裁判管轄,準拠法,請求原因及び立証も別に確認する。

裁判権免除と執行免除は別である。訴えを審理できても,外国国家の財産に当然に仮差押え又は強制執行ができるわけではない。

外国国家に対する請求と外交官個人に対する請求,さらに公館財産への強制措置は,次のように分けて確認する。
同じ「大使館に関係する紛争」でも,請求の相手方と財産の用途を特定しなければならない。

場面先に特定するもの主な根拠注意点
国家に対する訴訟被告の資格,行為・取引の性質外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律等同法3条が維持する条約等の特権・免除にも注意する。
外交官個人に対する訴訟身分,行為・提訴の時点,活動の実態外交関係条約31・32・38・39条等国家の商業的取引の基準をそのまま転用しない。
公館財産への捜索・差押え等公館該当性,対象財産・輸送手段外交関係条約22条3項等裁判権の有無と具体的な強制措置の可否は別である。

条約全体の制度は外交関係に関するウィーン条約の総合解説で,公館の不可侵と保護義務は同条約22条の解説で説明している。

第2 平成14年判決と平成18年判決

最高裁平成14年4月12日第二小法廷判決は,米国の主権的行為について,慣習国際法上,日本の民事裁判権から免除されるとした。この判決は,在日米軍の行為が問題となった事案で,日米地位協定18条自体が米国の裁判権免除を定めたものではないことも示した。

最高裁平成18年7月21日第二小法廷判決は,従来の絶対免除主義を採用しないことを明確にし,外国国家の私法的又は業務管理的行為について,裁判権を行使することが外国国家の主権を侵害するおそれがあるなどの特段の事情がない限り,免除を認めないとした。

同判決は,外国国家が私人との間の書面契約に含まれる明文の規定によって,当該契約から生じた紛争を日本の裁判所で裁判することを約し,裁判権に服する意思を明確に表明したときも,原則として免除されないとした。
通常は主権侵害のおそれがなく,免除を認めれば契約当事者間の公平を欠き信義則に反することを理由とする。

同事件では国家の代理人とされた会社の代理権及び契約成立が争われており,最高裁は原審の却下判断を破棄して差し戻した。
契約書に条項があるというだけで個別事件の有効な同意を確定せず,誰がどの権限で国家を拘束する合意をしたかを確認する必要がある。

第3 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律

平成21年法律第24号「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」は,平成22年4月1日に施行された。同法は,外国等が原則として日本の民事裁判権から免除されることを出発点としつつ,明示の同意,商業的取引,労働契約,人の死傷・有体物の滅失損傷,不動産,知的財産権等について免除されない場合を定める。

平成18年判決は制限免除主義への転換を示す重要判例であるが,同法施行後の事件では,同法の要件,定義及び経過措置を先に確認する。判例の文言だけで現行事件を処理してはならない。

ただし,同法3条は,条約又は確立された国際法規に基づき外国等が有する特権・免除に影響を及ぼさないと定める。4条の原則と10条の人の死傷・有体物の滅失損傷,11条の不動産等の例外を読む際にも,3条との関係を確認する。国内で損害が発生したことや基地に不動産があることだけから,外国軍隊の主権的活動を理由とする免除が当然に否定されるとはいえない。条文はe-Gov法令検索を参照。

裁判手続について免除されない場合は,次の条文を入口として確認する。
各欄は要件の要約であり,3条が維持する条約等の特権・免除と,各条のただし書・適用範囲を省略して結論を出すことはできない。

問題となる場面条文主な確認事項
同意・応訴・反訴5~7条同意の方法・範囲,訴訟行為の内容,反訴との関連を確認する。日本法の準拠法指定だけでは5条1項の同意とならない。
商業的取引8条取引の性質,取引相手,明示の別段の合意を確認する。労働契約は別に9条で扱う。
労働契約9条国内での労務提供に加え,職務,採用・再雇用,終了の効力,国籍・通常居住及び書面合意等を確認する。
人の死傷・有体物の滅失損傷10条原因となる行為の全部又は一部が国内で行われ,その行為者が当時国内に所在したかなどを確認する。
不動産等11条国内不動産の権利・占有・使用等か,承継による財産の権利等かを確認する。執行の可否は別である。
財産の管理・処分12条信託,倒産手続,相続財産等の裁判所による管理・処分との関係を確認する。
知的財産権13条日本法により保護される権利や,国内の侵害行為等の要件を確認する。
団体の構成員としての関係14条団体の構成・設立準拠法・所在と,定款等又は書面による別段の合意を確認する。
船舶・積荷15条船舶・積荷の用途,政府の非商業的目的との関係等を確認する。
仲裁合意に関する裁判手続16条仲裁合意,仲裁手続又は仲裁判断の効力に関する裁判かを確認する。実際の財産への執行は別に検討する。

労働契約の請求内容による違いは,大使館職員の未払賃金・解雇と主権免除で,条約の発効状況と国内法の関係は,国連国家免除条約の解説で説明する。

第4 行為の目的より性質を見る

外国国家が公共目的のために契約したというだけで,直ちに主権的行為になるわけではない。売買,請負,賃貸借,資金調達その他の取引について,私人も行い得る性質の行為か,国家に固有の権限行使かを検討する。

契約書では,当事者表示,署名権限,準拠法,裁判管轄,仲裁,免除放棄及び執行対象財産に関する条項を確認する。ただし,裁判権免除への同意があることから,執行免除まで当然に放棄されたと推論してはならない。

準拠法の指定と裁判権に服する同意は同じではない。
外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律5条2項は,日本法を適用することへの同意を,同条1項の同意と解してはならないと定める。
契約書では,次の条項を別々に確認する。

条項の例確認する意味なお残る問題
日本法を準拠法とする適用法の選択それだけで裁判権免除の同意にならない。
特定の日本の裁判所で解決する特定事項・事件への裁判権同意条項の範囲,署名権限,国際裁判管轄を確認する。
裁判権免除を放棄する同意の対象・範囲財産への保全・執行は別の要件である。
指定財産への保全・執行に同意する財産,措置,意思表示の特定同法17条以下と条約上の不可侵等を別途確認する。

受任時には,契約書と附属書,署名者の権限資料,相手方機関の法的地位,対象財産の所在・名義・用途を示す資料を確保する。
この表は確認事項の比較であり,特定の文言を入れれば必ず執行できるという条項例ではない。

第5 送達と欠席判決の特則

外国等に対する訴状等の送達は,同法20条1項の順序で確認する。
まず条約その他の国際約束で定める方法によるものとされ,その方法がない場合には,外交上の経路,又は当該外国等が受け入れるその他の方法による。
後者は,民事訴訟法に規定する方法であるものに限られる。
一般の国外送達と同じ感覚で,受領権限のない機関や国内事務所への交付を有効な送達と扱わない。

外交上の経路による場合には,外務省に相当する当該外国等の機関が訴状等を受領した時に送達があったものとみなされる(同条2項)。
期日の不出頭だけでなく,送達の方法,受領機関,受領日及びその証明を確認する。

同法21条1項は,外国等が口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない場合について,訴状等の送達又はみなし送達の日から4月を経過するまで,その外国等に対する請求を認容する判決を言い渡すことを禁止している。
これは請求認容判決の言渡しに関する特則であり,4月が経過すれば当然に請求が認められるという意味ではない。
裁判権免除がないこと,請求原因及び証拠を別に確認する必要がある。

同条2項・4項は,この判決に係る電子判決書等記録事項証明書の送達にも20条1項・2項を準用し,外国等がする上訴又は異議の申立てについて,送達又はみなし送達の日から4月の不変期間を定める。
改正法附則111条は,21条2項~4項について施行日以後に提起された訴えに係る判決と施行日前に提起された訴えに係る判決を分けているため,具体的事件では提訴日と適用される法令・最高裁判所規則を確認する。
送達上の瑕疵は,判決の効力や承認・執行の段階にも影響し得る。

第6 仮差押え・仮処分・強制執行

外国等の財産に対する保全処分と民事執行は,本案の裁判権免除とは分けて検討する。
同法17条1項は,所定の方法による保全処分又は民事執行への明示の同意を,同条2項は,その目的を達するために指定し,又は担保として提供した特定の財産を対象とする。
同法5条1項の本案に関する同意を,17条1項の同意と解することはできない(17条3項)。

これに対し,18条1項は,政府の非商業的目的以外にのみ使用され,又は使用されることが予定される財産への「民事執行」の免除の例外を定める。
この例外を,商業目的の財産であれば保全処分も同様に許されるという一般則へ広げてはならない。
財産ごとに使用目的とその証拠を特定する必要がある。

18条2項は,外交使節団等の任務に使用される財産,軍事的な財産,販売されず販売予定もない所定の文化遺産・公文書等を,同条1項の財産から除く。
ただし,17条1項・2項の適用は妨げられない(18条3項)。
名義だけで判断せず,管理主体,実際の用途及び資金の入出金を確認する。

外国中央銀行又はこれに準ずる金融当局の財産については,19条により4条並びに17条1項・2項が適用され,18条1項は適用されない。
中央銀行の財産を,商業的な使用目的だけから一般の外国国家財産と同じ条件で差し押さえられると説明することはできない。

第7 在日米軍関係の請求との接続

在日米軍関係の損害賠償では,日米地位協定18条の請求処理手続,日本国を被告とする国家賠償請求,米国を被告とする請求及び個人に対する請求を区別する。地位協定18条があることだけで,米国に対する民事訴訟の裁判権免除の結論が決まるわけではない。

米軍の作戦・警護・基地管理のような主権的行為と,契約・財産管理等の私法的行為では分析が異なる。最高裁平成18年判決の制限免除主義を,すべての基地関係行為について免除を否定した判例と読むことはできない。

日米地位協定に基づく請求先,公務中・公務外の事故の救済及び国家免除との関係は,「日米地位協定の内容をわかりやすく解説―刑事裁判権・損害賠償・問題点(AI作成)」で詳しく整理している。

嘉手納・普天間の騒音に関する日本国への賠償では,民事特別法2条,共通被害,居住期間及び減額等が問題となる。日本国への賠償,国への飛行差止め及び米国への直接提訴を分けた個別判決の比較は,嘉手納・普天間基地の騒音訴訟―判決の比較と損害賠償の立証(AI作成)を参照されたい。外国籍の住民が日本国に請求する場合の国家賠償法6条の相互保証は,米国を被告にする場合の外国国家免除とは別の問題である。

第8 受任時の確認事項

  1. 被告とする主体が外国国家,その機関,地方政府,国有企業又は個人のいずれか。
  2. 問題となる行為の性質,契約締結地,履行地及び損害発生地。
  3. 裁判権免除に対する明示の同意又は免除放棄の有無と範囲。
  4. 国際裁判管轄,準拠法,仲裁合意及び専属管轄合意。
  5. 送達経路,翻訳,受領権限及び送達完了の証明。
  6. 判決取得後に想定する財産と,その用途・所在・名義。
  7. 保全・執行免除に関する別個の同意又は法定例外。

訴状提出前に,免除の例外と執行可能性の双方を見通す。判決を得られても執行対象がない場合があるため,費用,期間及び外交的影響も依頼者に説明する。

第9 よくある質問と個別事件の確認事項

本稿は,最高裁平成14年4月12日判決及び平成18年7月21日判決などの主要最高裁判例と現行法を中心に,外国国家免除の基本的な枠組みを整理するものであり,下級審の個別事例を網羅するものではない。

個別の送達・保全・執行では,対象国との条約,外交上の送達経路,財産の用途・所在及び免除の例外に関する具体的資料を確認する必要がある。法務省の概要と法令だけで,特定の事件で送達又は執行が可能と判断することはできない。

1 主権免除の国際法とは

外国国家とその財産への裁判権行使等を一定範囲で制限する制度であり,国家の主権平等を背景とする。
日本の民事事件では,対外国民事裁判権法の原則・例外と,条約又は確立された国際法規に基づく特権・免除を確認する。
国家が責任を負うかという実体的な問題と,どの裁判所が審理・執行できるかという手続の問題は別である。

2 外国政府を日本で訴えることはできるか

外国等は原則として日本の裁判権から免除されるが,同意や商業的取引等について免除されない場合が法律に定められている。
被告が法律上の「外国等」に当たるか,3条による特別の保護があるか,各例外の要件を満たすかを確認する。
免除がないことだけで,日本の国際裁判管轄や請求の成立まで決まるわけではない。

3 公共目的の契約なら免除されるか

公共目的であるという理由だけでは決まらない。
問題となる行為・取引の性質と,商業的取引等の条文上の要件を確認する。
外交施設で使う物品の購入等でも,本案の裁判と,公館財産への執行は分けて考える。

4 日本法を準拠法にすれば免除はなくなるか

準拠法を日本法とする合意だけでは,裁判権に服する同意と解することができない〔5条2項〕。
本案への同意と,財産への保全・執行に対する同意も別である〔17条3項〕。
契約条項の文言,署名権限,同意の対象及び範囲を確認する。

5 勝訴すれば大使館の口座を差し押さえられるか

勝訴判決を得ただけで,公館の口座へ当然に執行できるわけではない。
17~19条の条件と,外交関係条約等の保護を確認し,名義だけでなく資金の用途を特定する必要がある。
商業的な入出金が一部にあるというだけで,外交任務にも使う口座全体を18条1項の財産と扱うことはできない。

6 主権免除と外交官の免除は同じか

国家そのものの免除と,外交官個人の身分・職務等に関する免除は,主体と根拠が異なる。
大使館に関係する紛争でも,契約相手が国家か外交官個人か,対象が公館財産かを先に特定する。
具体的な比較は第1の表と,外交官の民事裁判権免除を参照されたい。

第10 出典・関連記事

国家が私人との書面契約で裁判に同意した場合と,外交使節団の口座への執行を分けて検討する学習用の事例は,「令和2年司法試験国際公法第1問の模範解答と評価項目―22項目と5段階の重み付け(AI作成):https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/18/r2-shihoushiken-kokusai-kouhou1-mohan-kaitou-hyouka-koumoku/」を参照されたい。

制度趣旨と各条の解釈については,飛澤知行『逐条解説 対外国民事裁判権法―わが国の主権免除法制について』(商事法務,2009年)2~77頁及び78~105頁を参照した。
同書刊行後の法令改正と条約の現在の発効状況は,現行法及び公式の寄託情報で別に確認する。

① 最高裁平成18年7月21日判決全文
② 最高裁平成14年4月12日判決
③ 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律
④ 法務省「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律の概要」
⑤ 宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情(1)~(4)・完―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号
⑥ 平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)
⑦ 在日米軍基地の法的根拠,施設数,日米地位協定及び主要裁判例(AIリライト)