第1 この記事の対象と結論
本問は,農業施設工事の入札談合を素材に,基本合意の成立と競争制限,Bの離脱,外部業者Jの参加範囲及び違反行為がなくなった時点を問う問題である。
出題の趣旨と採点実感を本問に限って読み,18の評価項目へ整理した。
重みは学習用の独自の判断であり,法務省の採点基準・配点ではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和元年司法試験・経済法第1問。第2問は対象外。 |
| 公式問題文 | 法務省・選択科目問題(PDF実頁12~13) https://www.moj.go.jp/content/001293669.pdf |
| 資料状態 | 問題文・出題の趣旨・採点実感はいずれも実読済み。本問及び本問に適用する共通記載だけを使用した。対象頁は第7参照。 |
| 答案の基準時 | 令和元年司法試験実施時。独禁法は平成30年12月30日施行版を使用した。 |
| 主要事項 | 基本合意,相互拘束,一定の取引分野,競争の実質的制限,中途参加,離脱及び合意の消滅。 |
| 項目数と重み | N=18,重み5は7項目,重み合計W=73。条件付きの別構成を含む一覧値で,答案の満点を意味しない。 |
| 重み5 | 番号2・3・5・9・12・14・17。意思の連絡,事業活動の拘束,競争実質制限,離脱,Jの参加範囲・相互拘束・終期。 |
| 主要判例 | 最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決(多摩談合事件)。離脱等の2高裁判決は公式趣旨の紹介による。 |
| 答案分量 | 改行を除き2451字。見出しと「以上」を含み,枠外の解説を含まない。上限2500字。 |
| 試験後の法改正 | 現行条文は同定のため比較したが,試験後の課徴金制度等の改正を答案の根拠へ取り込んでいない。 |
| 記事内の案内 | 評価項目は第4,答案と別構成は第5,関連記事は第6,出典と確認範囲は第7。 |
| 確認日 | 令和8年10月19日。 |
答案は,Bの違反を基本合意成立時から認め,平成30年6月15日の明確な離脱表明により違反行為がなくなったとする。
Jについては,遅くとも第3回の応札協力の合意時に基本合意の一部へ参加したと解し,立入検査による合意消滅の前日である同年9月19日を違反期間の終日とする。
これらの結論は,理由を示す別の結論を排除する趣旨ではない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目を一つの判定対象として,答案のどの論述を評価するかが分かる形に整理した。
出題の趣旨と採点実感の欄には,PDF実頁と短い原文を示す。
「記載なし」は本問関連範囲を実読した結果であり,他の年度や設問に記載がないという意味ではない。
必須,高評価及び許容分岐は,重みとは別の区分である。
番号15は基本合意の相互拘束を否定する枝,番号16・17は基本合意への参加を肯定する枝,番号18は個別調整だけを違反対象にする枝に適用する。
相互に両立しない枝を一つの答案に累積して要求しない。
典型的な誤りの回避は,明示の意思連絡を黙示と誤解しない点を番号2,基本合意の市場を各入札に細分しない点を番号4,Eの申告だけで当然に合意消滅としない点を番号17,Jの拘束をBと同じと即断しない点を番号14に統合した。
内部検証用JSONではこの4点を独立の負例として保持するが,公開表の18項目に重複加算していない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | 採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。 |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項(高く評価した事項,多数の答案の不足を指摘した事項を含む)。 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け。 |
| 2 | 一方が軽い表現で触れる補強事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項。 |
| 1 | 一方が控えめに触れるだけの事項。 |
公式配点を推定したものではなく,5段階それぞれの件数も先に割り当てていない。
複数の段階に当たり得る項目は,答案の骨格又は評価の分かれ目となる役割を踏まえて整理した。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
事実の詳細は,第1の公式問題文を参照されたい。
特定農業施設工事の建設事業者は10社であり,そのうちAからGまでの7社は,受注予定者の決定と指定価格での応札を内容とする本件合意を形成した。
合意は,平成28年度から3年間の補助事業に伴う指名競争入札を対象とする。
Jは当初の会合に参加せず,受注を望むときは安値で競争し,望まないときには他分野での協力を期待して7社に協力する意図を持っていた。
| 時点 | 出来事 |
|---|---|
| 平成28年1月30日 | 7社が基本合意を形成。Jの協力意図は当初,内心にとどまった。 |
| 第1回・第2回入札 | 基本合意に沿ってA・Dが落札。落札率は97%・98%。 |
| 第3回入札(平成29年6月) | Jは指定価格で応札してGに協力。Gの落札率は95%。 |
| 第4回入札 | Iの協力を得たFの落札率は96%。 |
| 平成30年6月15日 | 受注予定者に選ばれなかったBが,今後話合いに参加せず会合にも戻らないと発言。 |
| 7月30日・第5回入札 | JはCへ協力するが,Bが予定価格の72%で独自に落札。BはJに協力を求めていない。 |
| 8月1日・8月10日 | 6社はBの除名を決定。Eは公正取引委員会へ報告。 |
| 9月20日 | 一斉立入検査。その後7社の会合は開かれていない。 |
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | B及びJの独禁法違反 | 問題文所与の基本合意,個別入札及び各社の行動を用いる。第2問は扱わない。 | 不当な取引制限の成否と,それぞれの違反行為がなくなった時点を示す。 |
Bの成立と離脱だけで終わらず,Jが何に,いつ,どの範囲で合意したかを区別して論じる必要がある。
終期は採用した合意単位と整合させる。
第4 評価項目と重み
1 Bの違反行為と離脱
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 【必須】建設事業者の受注調整に独禁法2条6項の定義と3条後段の禁止を接続する | 3 | PDF実頁27「不当な取引制限の定義規定」 | PDF実頁16「独占禁止法第2条第6項及び第3条」 |
| 2 | 【必須】Bの意思の連絡を定義し,本件合意形成への参加から明示の連絡を認定する | 5 | PDF実頁27「意思の連絡を意味する」 | PDF実頁17「明示の意思の連絡」 |
| 3 | 【必須】受注予定者・指定価格の取決めによる自主的事業活動の事実上の拘束を説明する | 5 | PDF実頁27「事業活動を拘束」 | PDF実頁17「相互拘束を内容とする本件合意」 |
| 4 | 【必須】市場を合意対象の平成28年度から3年間の特定農業施設工事の指名競争入札として画定する | 4 | PDF実頁27「平成28年度から3年間」 | PDF実頁17「各入札を別個の市場として画定する答案」 |
| 5 | 【必須】入札の競争実質制限を,落札者・落札価格をある程度自由に左右し得る状態と定義する | 5 | PDF実頁28「ある程度自由に左右」 | PDF実頁17「競争の実質的制限」 |
| 6 | 【高評価】参加者の構成・指名実態,外部業者の協力及び落札率を用いて基本合意の競争制限性を評価する | 4 | PDF実頁28「落札率」 | PDF実頁17「各入札における個別調整等を事後」 |
| 7 | 【高評価】基本合意成立時に違反が成立し,後発個別調整はその時点の要件該当を推認する事情と位置付ける | 4 | PDF実頁27「本件合意」 | PDF実頁17「基本合意の成立時点での各要件該当性を推認」 |
| 8 | 【必須】受注機会確保・価格維持の目的に競争制限を正当化する事情がないとして公共利益要件を処理する | 3 | PDF実頁27「公共の利益に反して」 | 記載なし(本問関連範囲) |
| 9 | 【必須】離脱の一般基準を,他参加者が明確に認識し得る意思表示・行動と拘束からの解放として示す | 5 | PDF実頁28「明確に認識される」 | PDF実頁18「的確に規範を定立」 |
| 10 | 【高評価】Bの発言・復帰可能性・独自低価格入札・除名を評価して,理由のある終期を特定する(適用:全答案。6月15日・7月30日・8月1日の各結論を理由次第で許容) | 4 | PDF実頁28「1か月半の期間」 | PDF実頁18「本件合意への復帰の可能性」 |
2 Jの参加範囲と違反行為の終期
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 11 | 【必須】Jの会合不参加と協力意図が内心にとどまる点から,当初の合意参加を否定する | 3 | PDF実頁28「内心にとどまる」 | PDF実頁17「本件合意の形成に参加していないJ」 |
| 12 | 【高評価】Jの意思連絡が認められる時期及び合意の範囲を具体的に特定する(適用:全答案。採用構成の合意単位で判定) | 5 | PDF実頁28「一部に中途で参加」 | PDF実頁21「合意の範囲や意思の連絡が認められる時期」 |
| 13 | 【高評価】単なる指名教示と積極的な応札協力の相違を,拘束を認め得る意思連絡の根拠へ結び付ける(適用:全答案。初回参加を採るならその時点の拘束の説得的根拠が必要) | 4 | PDF実頁28「積極的に協力」 | PDF実頁18「指名教示を超える「応札協力」」 |
| 14 | 【必須】相互拘束の意味を解釈し,Jの情報提供・指定価格応札による制約と採用規範を整合させる(適用:全答案。肯定・否定の結論自体を採点しない) | 5 | PDF実頁29「各要件をどのように解釈」 | PDF実頁18「定立した規範と一貫して論述」 |
| 15 | 【許容分岐】相互拘束を否定する構成では,拘束内容・目的の共通性を要求する解釈と本件の相違を示す(適用:基本合意の相互拘束を否定する構成を採る場合) | 3 | PDF実頁28「その内容や目的が共通」 | PDF実頁18「Jの目的が本件合意の他の参加事業者と異なる」 |
| 16 | 【必須】Jの基本合意参加を肯定するとき,同合意の市場における支配力の維持・強化への寄与を説明する(適用:基本合意参加肯定の枝) | 3 | PDF実頁28「市場支配力の維持,強化に寄与」 | 記載なし(本問関連範囲) |
| 17 | 【必須】Jの基本合意参加を肯定するとき,独自離脱の不存在と全体消滅を検討し立入日又はその前日を終期とする(適用:基本合意参加肯定の枝。個別合意だけを認める枝へ累積要求しない) | 5 | PDF実頁29「各事業者が相互拘束から解放」 | PDF実頁18「立入検査日ないしその前日」 |
| 18 | 【許容分岐】個別調整だけを違反対象にする別構成では,合意単位と要件・終期を一貫して論証する(適用:個別合意のみを採用する場合) | 3 | 記載なし(本問関連範囲) | PDF実頁18「個別調整についてのみ要件該当性を肯定」 |
3 重みの分布
重み5は7項目,重み4は5項目,重み3は6項目,重み2及び1は各0項目である。
合計18項目,重み合計は73となる。
重み5の番号2・3・5は基本合意の違反を支える骨格,番号9はBの離脱の規範,番号12・14はJの参加と相互拘束を区別する論述,番号17は基本合意参加肯定枝の終期の整合性を評価する。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施時の法令とそれ以前の判例を前提とする。
独禁法は平成30年12月30日施行版の2条6項及び3条後段を用い,答案の階層を1,次に(1)とする。
Bの成立・競争制限・離脱を先に論じ,Jの当初不参加・中途参加・相互拘束・終期を続ける。
答案は改行を除き2451字であり,枠外の前提・対応表・解説は字数に含めない。
判例の文言を引用する形式は採らず,採用規範を答案自身の文章として示した。
2 答案
1 Bの行為
(1)Bは,穀物貯蔵等施設工事の建設を請け負う事業者である。
Bの参加する本件合意は,不当な取引制限(独占禁止法2条6項)として3条後段に違反するか。
「共同して…相互に」とは,事業者が一定の行動を取ることを互いに認識・認容して歩調を合わせる意思の連絡をいう。
Bは6社と数次の会合を経て,平成28年1月30日に本件合意を形成したので,明示の意思の連絡がある。
「その事業活動を拘束」とは,本来自由に決定できる事業活動を事実上制約することである。
本件合意は,受注希望者をAへ知らせ,複数の場合には受注予定者を7社で決め,それ以外の指名業者は受注予定者の指定価格で入札するというものである。
受注者及び入札価格の自由な決定を制約し,この要件を満たす。
(2)一定の取引分野は,合意の対象と影響範囲に即して画定する。
本件では,平成28年度から3年間にわたり発注される特定農業施設工事の指名競争入札がこれに当たる。
競争の実質的制限とは,市場の競争機能を損ない,入札では落札者及び落札価格をある程度自由に左右できる状態をもたらすことをいう。
建設事業者は10社だけで,7社は一定の技術水準を満たし,複数が指名されることが多い。
他の3社は能力が相対的に低い。
3社以上の指名が必要でも,有力な7社のうち複数が指名されることが多い以上,その間の価格競争を止める本件合意は主要な競争圧力を失わせる。
さらに,外部業者についても,第3回のJ,第4回のIの応札協力が認められる。
第1回から第4回まで調整どおりに落札され,落札率も97%,98%,95%,96%と高い。
これら事後の実施状況も,本件合意が成立当初から市場の相当部分で有効に機能し,上記状態をもたらすことを推認させる。
受注機会の均等確保や価格低落防止は競争制限を正当化せず,公共の利益に反する。
したがって,Bは本件合意の成立時から3条後段に違反する。
(3)基本合意から離脱したといえるには,他の参加者が明確に認識できる意思表示又は行動により,相互拘束から解放される必要がある。
Bは平成30年6月15日の会合で,値下げ競争をしてでも受注し,今後一切話合いに参加せず会合にも戻らないと明言した。
確かに,入札まで1か月半あり,一時的反発の後に復帰する可能性は考慮を要する。
しかし,Bは将来の参加も全面的に拒み,その後Jに協力を求めず,予定価格の72%で独自に落札した。
同規模工事の第4回の落札率96%に比べた大幅な値下げは,受注調整から離れて競争する姿勢を客観的に示す。
これらは,当初の表明が一時的な駆引きではなかったことを裏付け,抽象的な復帰可能性だけで拘束の継続を認めることはできない。
他の6社が同席しており,離脱意思も明確に伝わったから,6月15日にBの違反行為はなくなったと解する。
7月30日の独自入札及び8月1日の除名は既に伝達された離脱意思を確認する事実であり,除名という形式的手続があるまで相互拘束が継続するとはいえない。
2 Jの行為
(1)Jも建設事業者であるが,本件合意形成の会合には出席していない。
受注を望まない工事では協力するという当初の意図は内心にとどまり,平成28年1月30日時点で意思の連絡は認められない。
他方,Jは,第1回等の入札時からAの照会に回答し,第3回には指名と受注意欲の有無を知らせ,指定価格で応札してGの落札に積極的に協力した。
照会への回答だけでは将来の拘束を認容したとは直ちにいえないが,応札協力に至った時点では,既に存在する受注調整の枠組みに従い7社の受注を妨げない行動を取ることを,Aを介して互いに認識・認容したといえる。
遅くとも第3回の応札協力を合意した時点で,その範囲の意思の連絡を認める。
(2)Jは,自ら受注を望む工事での競争を留保し,受注予定者の決定にも加わらず,別分野の工事で協力を得る目的で行動する。
そこで,7社と拘束内容・目的が同じでなければ相互拘束に当たらないとも考えられる。
しかし,相互拘束は自主的な競争行動を共同意思へ従わせる点に本質があり,全参加者の拘束内容・動機が同一である必要はない。
Jも,指名や受注意欲という競争上の情報を伝え,受注を希望しない場合には本来可能な低価格入札を控えて指定価格へ従い,他社の受注機会を確保する。
協力を求める7社もJが指定価格に従うことを前提に受注調整を実施し,Jはその期待を認容して競争を控える。
単独で受注を断念する場合と異なり,自主的な価格決定を共同の調整に委ねている。
したがって,限定された範囲であっても「その事業活動を拘束」すると解する。
第3回に続き第5回も同じ連絡経路と指定価格によってCへ協力しており,個別入札だけの便宜というより,受注を希望しない場合の継続的な調整の枠組みを受け入れたと評価できる。
よって,本件合意の一部への中途参加である。
取引分野も各入札だけに分断せず,本件合意が対象とする特定農業施設工事の指名競争入札である。
Jの協力は,外部からの競争圧力を弱め,7社の市場支配力の維持・強化に寄与するから,競争を実質的に制限する。
Bの独立競争によって第5回の落札率が下がっても,基本合意自体の競争制限性が当然に失われるものではない。
6社の受注調整とJの協力は続いており,一度の予定外落札と残存合意による市場全体の支配力とは区別すべきである。
公共の利益に反し,Jも3条後段に違反する。
(3)違反行為がなくなった時点は,相互拘束から解放され自由に事業活動を行うこととなった時点である。
Jは離脱行動を取らず,第5回でも協力している。
Eの8月10日の報告は公取委への申告であり,参加者相互の拘束を解除する意思の伝達や競争再開の行動とは異なるから,それだけで合意の実効性が消滅したとはいえない。
9月20日の一斉立入検査後は会合も開かれておらず,同日に談合全体が事実上消滅したと評価できる。
したがって,Jの違反期間の終日はその前日の平成30年9月19日とする。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
| 評価項目(【】は重み) | 答案・解説の場所 | 対応の内容 |
|---|---|---|
| 1~3・8 | B(1),(2)末尾 | 事業者,意思の連絡,受注者・価格の拘束と公共利益を順に処理する。 |
| 4【4】 | B(2)第1段落 | 3年間の指名競争入札を合意の対象に即して画定する。 |
| 5【5】 | B(2)第2段落 | 落札者及び落札価格をある程度自由に左右できる状態を規範にする。 |
| 6・7【各4】 | B(2)第3段落 | 10社中7社の能力・指名実態,外部3社,97~98%等の実施結果を成立時の推認へ結び付ける。 |
| 9【5】 | B(3)第1段落 | 他の参加者が明確に認識できる意思表示・行動と拘束からの解放を示す。 |
| 10【4】 | B(3)第2段落 | 1か月半の復帰可能性を反対事情として挙げ,低価格の独自入札による裏付けまで論じる。 |
| 11・13 | J(1) | 内心の協力意図,照会回答,積極的応札協力を区別する。 |
| 12【5】 | J(1)末尾 | 遅くとも第3回の応札協力を合意した時点という参加時期と,7社の受注を妨げない範囲を示す。 |
| 14【5】 | J(2)第1・第2段落 | 拘束内容・動機の同一性を不要とする解釈を示し,情報提供と低価格入札の抑制を当てはめる。 |
| 15【条件付き】 | J(2)第1段落/下記別構成 | 共通性を要求する反対説を紹介する。本答案は否定枝を採らないため,独立の達成項目に加算しない。 |
| 16【4・条件付き】 | J(2)第3段落 | 基本合意への中途参加という構成で市場支配力の維持・強化への寄与を示す。 |
| 17【5・条件付き】 | J(3) | 個別離脱と全体消滅を分け,Eの申告ではなく立入検査による消滅を採用する。 |
| 18【条件付き】 | 下記別構成 | 個別合意のみの枝は非採用。そちらを採る答案へ基本合意肯定枝の終期を累積要求しない。 |
(2) Bの基本合意と離脱
不当な取引制限の対象を個々の落札ではなく基本合意と捉えると,成立時に各要件が備わることを示す必要がある。
後の入札結果を使うこと自体が誤りなのではなく,その結果が成立時の合意の実効性を推認させるという位置付けが重要である。
独禁法2条6項の要件と,問題の10社の能力・指名実態・外部協力・落札率を橋渡しする点が番号3・5・6・7の論述となる。
Bの6月15日の発言は,将来の参加まで否定するものである。
一方で,入札まで1か月半あり,その間の復帰可能性も検討すべき反対事情である。
答案は,同規模工事の落札率が96%から72%へ下がった点と,BがJに協力を求めなかった点を結び付け,後の独自入札が当初の発言の真意を裏付けると評価した。
さらに,除名という形式的手続の有無と,既に他社へ伝わった離脱意思による相互拘束の解消を区別した。
公式資料は,6月15日,7月30日又は8月1日のいずれか一つを機械的な正解として固定せず,規範と事実評価による説得的な論証を重視する。
除名が常に不可欠である,発言があれば事情を問わず直ちに離脱する,という一律の処理は避けたい。
(3) Jの相互拘束と許容される別構成
Jについて,当初の内心の協力意図から直ちに意思の連絡を認めることはできない。
また,指名や受注意欲の照会への回答と,指定価格で受注予定者に協力する行為には,競争行動を制約する程度の違いがある。
参加を認める時点には,どのやり取りから何を認識・認容したのかを示す必要がある。
本答案は相互拘束に拘束内容・動機の同一性を必要とせず,Jの情報提供と指定価格応札を基本合意の実施に結び付ける。
単独で受注を断念する場合と,7社の期待を認容して自主的な価格決定を共同調整へ委ねる場合とを区別し,第3回・第5回で同じ枠組みに協力した反復性を,基本合意の一部への参加と評価する理由にした。
ただし,自己の受注希望を留保するJと7社との間で拘束内容・目的が異なることを理由に,基本合意の相互拘束を否定する構成も許容される。
その場合には,相互拘束の解釈を示し,その解釈の下で本件の相違がなぜ否定理由となるかを説明することが番号15の判定対象となる。
採点実感は,Jと7社との個別調整だけを違反対象とする構成にも,理由が示されれば一定の評価を認めている。
その構成では,個別合意ごとの合意内容,市場,競争実質制限及び終期を一貫して論じる必要がある。
第5回にはBが独立して競争した事情があるが,その事情だけで基本合意全体の違法性を当然に否定することはできない。
個別合意構成の競争実質制限の結論と,基本合意構成の結論を混同しないことが番号16・18の要点である。
(4) Jの終期と答案の弱点・扱わなかった事項
本答案のように基本合意への参加を認める場合,J自身の離脱を示す行為はなく,Eの申告によって当然に他社間の拘束が消えたとはいえない。
立入検査後に会合もなくなったことから,談合全体の事実上の消滅を認め,違反期間の終日をその前日とした。
公式資料に沿って立入検査日自体を違反行為がなくなった時点とする表現もあり,日付だけで採否を決めず,消滅時点と期間の終日を区別する。
本答案は,Jの中途参加の時期を「遅くとも第3回の応札協力を合意した時点」とし,具体的な年月日を問題文にないまま補わなかった。
それ以前の照会だけで参加を認める余地の検討や,個別合意だけを対象とする別答案の詳細は,2500字の枠外の本解説に委ねた。
離脱に関する2高裁判決の原文は独立に確認できていないため,その射程を本問以外へ広げる根拠にはしていない。
課徴金,刑事罰,損害賠償及び第2問の検討は答案に加えていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の記事
① 司法試験の過去問・参考答案一覧―令和元年~令和8年の年度別・科目別ガイド(AI作成) https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/11/shihoushiken-kakomon-touan-index/
令和元年の問題を探す入口として参照できる。
2 同じ科目の別の年度の記事
① 令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成) https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/09/r7-shihoushiken-keizaihou1-mohan-kaitou-hyouka-koumoku/
② 令和5年司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した36項目と5段階の重み付け(AI作成) https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/14/r5-shihoushiken-keizai1-mohan-kaitou-hyouka-koumoku/
③ 令和2年司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した30項目と5段階の重み付け(AI作成) https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/18/r2-shihoushiken-keizai1-mohan-kaitou-hyouka-koumoku/
3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事
① 農協による系統出荷・系統利用の強制と独占禁止法―融資・共同利用施設の条件付け,22条の適用除外及び公取委の事例(AI作成) https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/10/noukyou-keitou-riyou-kyousei-dokkinhou/
農協と独禁法という周辺テーマの解説であり,本問の入札談合の直接の根拠資料とは区別する。
総合索引は第6の1の過去問・参考答案一覧を参照されたい。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
① 法務省「令和元年司法試験論文式試験問題(選択科目)」 https://www.moj.go.jp/content/001293669.pdf
本問はPDF実頁12~13を実読し,価格表のある頁は画像でも確認した。
他科目及び経済法第2問は使用していない。
② 法務省「令和元年司法試験の採点実感等に関する意見等(出題の趣旨)」 https://www.moj.go.jp/content/001305186.pdf
PDF実頁27の経済法第1問開始から29の第2問直前までを実読した。
③ 法務省「令和元年司法試験の採点実感等に関する意見等(選択科目)」 https://www.moj.go.jp/content/001308864.pdf
PDF実頁16~18の経済法共通記載及び第1問部分,20~22の第1問評価と共通の法科大学院教育への意見を実読した。
同じ頁に第2問の記載があってもその部分は取り込んでいない。
3資料の状態はいずれも「実読済み」であり,取得したPDF全頁を精読したという意味ではない。
2 法令
e-Gov法令API・独占禁止法(平成30年12月30日施行版) https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/322AC0000000054_20181230_428AC0000000108
2条1項・4項・6項及び3条を確認した。
答案の直接の根拠は2条6項及び3条後段である。
現行法の取得は版の比較に用い,試験後の法改正を当時の答案へ混ぜていない。
3 裁判例
最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決・平成22年(行ヒ)第278号(多摩談合事件) https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-82009.pdf
判決原文の基本合意,意思の連絡,競争実質制限及び外部業者の協力に関する部分(PDF実頁13~16)を確認した。
岡崎管工事件・東京高裁平成15年3月7日判決と,モディファイヤー価格カルテル事件・東京高裁平成22年12月10日判決は,公式出題趣旨のPDF実頁28~29に示された規範の紹介に依拠する。
両判決の原文を独立に確認したとは扱わない。
4 確認状態
公式資料の要約と短い引用,記事独自の評価項目・重み,本答案が採る解釈,別構成として許容される枝を区別した。
基本合意へのJの参加を肯定する結論及びBの離脱日を6月15日とする結論は,本記事の理由付けを伴う一つの答案例である。
公式資料が特定の結論だけを唯一の正解としたとの趣旨ではない。
他人の公開答案・再現答案は参照していない。