第1 証拠書類の取調べ方式としての朗読と要旨の告知
本記事は,刑事裁判で証拠書類を取り調べる際の朗読と,朗読に代わる要旨の告知について,実施者,切替えの要件及び告げるべき内容を説明するものである。証拠書類に証拠能力があるかという問題と,証拠能力のある書類をどのような方法で取り調べるかという問題は別であり,本記事が扱うのは後者である。
書証の証拠能力については,刑事裁判の書証の証拠能力を参照されたい。また,判決理由の要旨の告知は刑事訴訟規則35条に基づく判決宣告の方式であり,本記事が扱う証拠書類の要旨の告知とは根拠及び対象が異なる。
第2 証拠書類は朗読するのが原則である
1 請求者,裁判長等が朗読する
刑事訴訟法305条1項は,検察官,被告人又は弁護人の請求により証拠書類を取り調べる場合,原則として取調べを請求した者に朗読させるものとする。ただし,裁判長が自ら朗読し,又は陪席裁判官若しくは裁判所書記官に朗読させることもできる。
裁判所が職権で証拠書類を取り調べる場合,裁判長が自ら朗読し,又は陪席裁判官若しくは裁判所書記官に朗読させる(同条2項)。朗読は,書類を事件記録へ編綴するだけの手続ではなく,その内容を公判廷へ顕出する証拠調べの方式である。
司法研修所刑事裁判教官室の『新プロシーディングス刑事裁判』61頁~62頁は,特に裁判員裁判では,裁判員が後に証拠書類を読み返したり,裁判官が証拠内容を説明したりすることが予定されていないため,公判廷で心証を形成できるよう必要な情報を公判期日に提供する必要があると説明している。
2 被害者特定事項等を明らかにしない朗読
被害者特定事項を明らかにしない旨の決定がある場合,証拠書類の朗読も被害者特定事項を明らかにしない方法で行う(刑事訴訟法305条3項)。証人等特定事項を明らかにしない旨の決定がある場合も同様である(同条4項)。朗読が原則であっても,公開の法廷で保護対象の情報を読み上げることまで求めるものではない。
第3 朗読を要旨の告知へ代えられる場合
1 訴訟関係人の意見聴取と裁判長の相当性判断が必要である
刑事訴訟規則203条の2は,裁判長が訴訟関係人の意見を聴き,相当と認めるとき,証拠書類等の朗読に代えて要旨を告げることを認めている。要旨の告知へ切り替えるためには,当事者の意見を聴くことと,裁判長が相当と判断することが必要であり,当事者の一方が希望するだけで自動的に切り替わるものではない。
請求された証拠については,請求者,陪席裁判官若しくは裁判所書記官に要旨を告げさせ,又は裁判長が自ら告げることができる。職権で取り調べる証拠についても,同じ要件の下で,裁判長,陪席裁判官又は裁判所書記官による要旨の告知へ代えることができる。
2 要旨の告知は朗読を合目的に簡易化したものである
最高裁昭和29年6月19日第二小法廷決定は,刑事訴訟規則203条の2について,刑事訴訟法305条が定める証拠書類の取調べ方式を合目的に簡易化した規定であると解している。規則が法律上の朗読原則を変更したのではなく,書類の内容を公判廷へ伝える機能を保ちながら,その実施方法を簡易化したという位置付けである。
第4 要旨として何を告げる必要があるか
1 要旨と立証趣旨は役割が異なる
立証趣旨は,その証拠によってどの事実を証明しようとするかを示すものである。これに対し,要旨は,証拠書類に記載された内容を公判廷へ伝えるものであるため,両者は役割が異なる。
刑事訴訟規則には,要旨の長さ又は告げるべき項目を一律に定めた規定はない。もっとも,要旨は,裁判体が証拠内容に基づいて心証を形成し,相手方が内容を理解して証明力を争えるものでなければならない。『新プロシーディングス刑事裁判』62頁も,公判廷で的確な心証を形成できるよう,過不足のない要旨であることを求めている。
2 立証趣旨だけを告げても通常は足りない
法曹会編『刑事訴訟規則逐条説明 第2編第3章(公判)』118頁~119頁は,通常は立証趣旨を告げるだけでは要旨の告知として足りないと説明している。例えば,「犯行状況を立証する」と告げるだけでは,書類に記載された具体的な場所,行為又は経過が公判廷へ伝わらないからである。
同書は,当事者が同意した場合でも,証拠書類の内容を全く告げず,形式的な取調べだけで済ませることはできないと説明している。当事者の同意は,書類内容を公判廷へ顕出する手続を全面的に省略する根拠にはならない。
3 適切な要旨は争点と書類の内容によって変わる
必要な要旨の範囲は,争点,立証趣旨,書類の内容及び他の証拠との関係によって異なる。書類の一部だけが争点に関係する場合と,作成経過を含む全体が証明力の評価に影響する場合とでは,告げるべき範囲も異なるため,原文を機械的に一定の長さへ短縮したものが常に適切な要旨になるわけではない。
要旨の告知により手続を簡易化できるとしても,省略によって証拠の意味が変わったり,相手方が重要部分を把握できなくなったりすれば,証拠書類を公判廷へ顕出する機能を果たさない。要旨の適否は,短さそのものではなく,その事件で必要な内容が正確に伝わるかによって判断される。
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①刑事裁判の書証の証拠能力は,供述調書その他の書証を証拠として採用できる要件を整理しており,本記事が扱う採用後の取調べ方式と役割を分担する記事である。
②刑事裁判修習の実際――配属庁で行われる指導の内容(AI作成)は,公判手続,事件記録及び判決起案を含む刑事裁判修習の内容を説明している。
③現職の司法研修所刑事裁判教官の名簿は,現在の司法研修所刑事裁判教官を司法修習期及び着任日とともに整理した資料記事である。
第6 出典・参考資料
1 法令・規則
①刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)305条(e-Gov法令検索)。
②刑事訴訟規則(昭和23年最高裁判所規則第32号)203条の2(最高裁判所,令和8年5月21日現在)。
2 裁判例
①最高裁昭和29年6月19日第二小法廷決定,昭和27年(あ)第4889号,集刑96号335頁(裁判所ウェブサイト)。
3 公的資料
①司法研修所刑事裁判教官室『新プロシーディングス刑事裁判』(令和8年2月)61頁~62頁(PDF73頁~74頁)。
4 文献
①法曹会編『刑事訴訟規則逐条説明 第2編第3章(公判)』(法曹会,1989年)116頁~119頁。