実況見分調書作成時の留意点


目次
1 総論
2 作成される実況見分調書の種類
3 再度の実況見分が実施される場合
4 実況見分調書に関する犯罪捜査規範の条文
5 関連記事その他

1 総論
(1)   加害者が不起訴になった場合,検察庁において供述調書が開示されることはない(刑事訴訟法47条本文参照)ものの,実況見分調書は開示されます。
   そして,過失割合が争いになった場合,実況見分調書は信用性の高い証拠として非常に重視されることとなります。
   そのため,警察の実況見分にはできる限り立ち会うようにするとともに,実況見分調書の作成に立ち会った場合,担当の警察官に対して事故当時の状況を正確に説明できるようにしてください。
(2) 事故直後に加害者が自分の非を認めていたという事実は,示談や訴訟においてあまり大きな意味を持たないのであって,実況見分調書の記載の方が遙かに大事です。
(3) 実況見分調書は,客観的に記載するように努め,被疑者,被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても,その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならないとされています(犯罪捜査規範105条1項)。
(4) 弁護士によるマンガ交通事故相談HP「警察との関係」には,「実況見分が実施される時期は、法律の定めはないものの、概ね事故発生から1週間から1か月前後で実施されるようです。」と書いてあります。

2 作成される実況見分調書の種類
(1)   加療期間が約3週間以下の場合
ア 警察に提出した診断書に書いてある加療期間が約3週間以下の交通事故の場合,
「過失運転致傷等事件に係る簡約特例書式について」(平成26年5月14日付の警察庁交通局長・刑事局長通達)に基づき,現場の見分状況書被疑者供述調書被害者供述調書等が作成されることが多いです(「交通事故事件の刑事記録」参照)。
イ 現場の見分状況書には,①最初に相手を発見した地点,②危険を感じた地点,③ブレーキをかけた地点及び④衝突をした地点が図示されています。
   例えば,②ないし④が同じ地点である場合,加害者がブレーキをかけずに被害者に衝突したこととなります。

(2) 加療期間が約3週間を超える場合
・ 警察に提出した診断書に書いてある加療期間が約3週間を超える交通事故の場合,
「過失運転致傷等事件に係る特例書式について」(平成26年5月14日付の警察庁交通局長・刑事局長通達)に基づき,実況見分調書及び交通事故現場見取図被疑者供述調書被害者供述調書等が作成されることが多いです。
・ 被害者が処罰を望む意思を明確に示していて,かつ,警察に提出した診断書記載の加療期間が約1週間を超える場合,原則として特例書式の刑事記録が作成されます。



(3) 実務上は,「現場の見分状況書」も含めて,「実況見分調書」と呼んでいます。

3 再度の実況見分が実施される場合
・ 「過失運転致傷等事件に係る特例書式の運用について」(平成26年5月14日付の警察庁交通局長・刑事局長通達) ,及び「過失運転致傷等事件に係る簡約特例書式の運用について」(平成26年5月14日付の警察庁交通局長・刑事局長通達)には下記の記載があります。
   そのため,交通事故現場における加害者の態度等にかんがみ,加害者が警察に対して嘘の説明をしている可能性がある場合(例えば,先行車の進路変更に伴う交通事故において,進路変更前に方向指示器を出していなかったのに出していたと言い張る可能性がある場合),交通事故の態様に関して後日問題となるおそれが大きいなどと主張して,被害者立ち会いの下での実況見分調書の作成を警察に対して依頼した方がいいです。

立会人
  原則として当事者を立ち会わせること。ただし、当事者のいずれかが病院等に収容されたような場合は、立会可能な当事者等を立ち会わせること。
   病院等に収容された当事者が立会可能となった場合は、その段階でその者を立ち会わせて改めて実況見分を行うこと。ただし、1回目の見分により真相が究明され、後日問題となるおそれがない場合で、その見分を被疑者の立会いの下で実施しているときは、この限りでない。

4 実況見分調書に関する犯罪捜査規範の条文
(実況見分)
第百四条 
犯罪の現場その他の場所、身体又は物について事実発見のため必要があるときは、実況見分を行わなければならない。
2 実況見分は、居住者、管理者その他関係者の立会を得て行い、その結果を実況見分調書に正確に記載しておかなければならない。
3 実況見分調書には、できる限り、図面及び写真を添付しなければならない。
4 前三項の規定により、実況見分調書を作成するに当たつては、写真をはり付けた部分にその説明を付記するなど、分かりやすい実況見分調書となるよう工夫しなければならない。
(実況見分調書記載上の注意)
第百五条 
実況見分調書は、客観的に記載するように努め、被疑者、被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても、その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならない。

2 被疑者、被害者その他の関係者の指示説明の範囲をこえて、特にその供述を実況見分調書に記載する必要がある場合には、刑訴法第百九十八条第三項から第五項までおよび同法第二百二十三条第二項の規定によらなければならない。この場合において、被疑者の供述に関しては、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げ、かつ、その点を調書に明らかにしておかなければならない。
(被疑者の供述に基づく実況見分)
第百六条 
被疑者の供述により凶器、盗品等その他の証拠資料を発見した場合において、証明力確保のため必要があるときは実況見分を行い、その発見の状況を実況見分調書に明確にしておかなければならない。



5 関連記事その他

(1)ア 警察の実況見分に立ち会う際,道路標識の意味(運転免許 学科試験模擬問題集HP「道路標識の種類と意味」参照)を復習しておいた方がいいです。
イ 道路に引かれている黄色及び白色の線の意味,バイクのすり抜けの過失割合等については,「センターライン,車線境界線及びバイクのすり抜け」を参照して下さい。
(2) 警察官が交通事故現場の実況見分を行った際,被疑者,被害者その他の関係者の指示説明の範囲をこえて,特にその供述を実況見分調書に記載する必要がある場合,関係者の署名押印を求めてきますものの,署名押印は拒絶することができます(犯罪捜査規範105条2項前段・刑事訴訟法198条5項ただし書)。
(3)ア 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには,同法321条3項所定の要件が満たされるほか,再現者の供述録取部分については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の要件が,再現者が被告人である場合には同法322条1項所定の要件が,写真部分については,署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要があります(最高裁平成17年9月27日判決)。
イ  最高裁平成27年2月2日決定は,被害者等が被害状況等を再現した結果を記録した捜査状況報告書を刑訴法321条1項3号所定の要件を満たさないのに同法321条3項のみにより採用した第1審の措置を是認した原判決に違法があるとされた事例です。
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 司法警察職員捜査書類基本書式例(平成12年3月30日付の次長検事依命通達。平成28年11月30日最終改正)
・ 人身交通事故事件捜査報告書等の書式の制定について(平成12年12月25日付の大阪府警察本部の例規)
・ 物件事故処理要領について(平成4年2月14日付の警察庁交通局交通指導課長等の通達)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 不起訴事件記録(例えば,実況見分調書及び物件事故報告書)の入手方法
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

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